普通ってすばらしい!!

普通ってすばらしい!!

始まりの日


本当はあの人に会いたくて来たんだけど、
合わせる顔がなくて、今日を迎える。

そしてあの人の手を離してしまったあのときから
6年が経った。
「和矢と幸せにおなり」
そう言ってあの人は去って行った。


でも。今日は・・・今日こそは会わなくてはいけない。
あの人とあたしが、出会った日。







あたしはシャンボール城に来た。深い思い出のあるお城。


あのときからあの人があたしの心に住み着いていたのに
ちっとも気がつかなかったんだわ。

ちっとも優しくなくて、あたしを珍獣と思っていたのよ。
何かするたびに罵ってくるから、あたしも怒ってばっかり。
でも、時々見せる笑顔がたまらなく素敵でよく見とれて
いたっけ。

フランスに来て思い出すのはこんなことばかり。
実はこの思い出に浸りにシャンボール城にももう何度か
足を運んできている。








「シャ・・ル・・・ル・・・」
6年前、和矢と結ばれるその瞬間に不意に出た名前。
二人ともが固まった。
「俺、知っていたよ」
行為を止め、和矢は静かに言った。
「か・・ずや?何のこと??」
あたしは自分の口から出たその名前と、和矢の言葉に
驚いた。

あたし、本当はシャルルのことが好き・・・だったの?
「好き」なら和矢のことだって大好きよ。でもそれとは
何かが違う。

その後、和矢と別れその『何か』に気がついた。
初恋に恋していた自分。なんていったらいいのかな。
和矢に恋していた自分に酔っていたのよ。

そしてさすがのあたしも少し大人になった。






感慨に耽っていたら周囲がざわついてきた。
珍しいわね。ここがこんなにも騒がしいなんて。

そしてざわつきの先に目をやると、そこには
夢でしか会えなかった想い人・・・シャルルが立っていた。
取り巻く人々のくだらない質問に、不機嫌な表情を隠すことなく
睨みつける。こんなときは冷ややかに光る青灰の瞳も健在だ。

ああ、そんなところは変わっていないのね。
でも。もう少年じゃないし、美しさは増しているけど、
どう見ても女性には見えなくなった。

あんたってばどこまで素敵なの!

あたしの視界がぼやける。熱い想いがこみ上げてきて
感情が昂ぶるのがわかる。でも・・・あたしここで
あの人に会ってもいいの?


突然そんな不安に襲われ、あたしは彼に背を向けた。

「マリナちゃん?」
ふいに後ろから懐かしい声が響いた。
「!」
あたしの全身が硬直する。会いたくて仕方がなかったはずなのに
突然の再開にどうしていいのかわからなくなってしまった。
「和矢と一緒にきたのかい?」
感情のないトーンで問いかけてくる。
「ううん、あたし一人できているのよ。どうしても今日、
ここに来たかったから」
引きつった笑顔で何とかあたしは振り向いた。

潤んだ瞳で引きつった笑顔を見せたあたしに何かを感じたのか
「こっちにおいで」
シャルルはあたしの腕を掴んで近くの係員に早口の
フランス語で何かを言うと、その係員の案内にしたがって
救護室のようなところに来た。

「一人って、どういうことだ?」
やはり感情のないトーンでシャルルは言う。
「あたし、和矢と別れたの」
あたしもそのトーンで返す。
「いつ?」
「あんたがフランスに戻って半年ぐらいあとだったわ」
「どうして!オレがあの時、どんな思いで君の手を離したか!!
運命がすれ違い、気持ちが離れたあの瞬間、オレは和矢に君の
すべてを任せたんだ。笑顔や幸せ・・・」
真剣なブルーグレーの瞳。吸い込まれそうだった。
「でも。あたしと和矢は運命が違ったの。あんたはあたしの手を
離したけど、あたしの心はあんたの手を離さなかった。あたしの
心の中はあんたへの想いがこれでもかって溢れていったのよ」
あたしはシャルルの言葉を遮って言った。
「あたしは和矢が初恋の相手だから好きだったの。いろいろな
事件に巻き込まれながら、運命と信じていたの。でも。一緒に
いながら、楽しくても感じずにはいられない違和感でいっぱい
だったのよ。幸せでも、満たされない何かがずっと心の中に
引っかかっていたの」
シャルルは驚きの表情であたしを見ている。

「そしてあの時、あんたの名前があたしの口から出たの」
あたしは遠くを・・・6年前を見るように遠くへ視線を送った。


「マリナ・・・」
少しの沈黙の後、シャルルはあたしの名前を呟いた。
「今日が何の日か知ってる?」
あたしはシャルルに向かって聞いた。
「君はオレのことを侮っているようだな。オレが『忘れる』など
ありえない」
「あえて聞いているの。そんなことは百も承知よ」
あたしはシャルルの表情を確認して目を閉じた。
「君とオレが出会った日だ」
「そうよ。だから今日あたしはここに来たの」
「オレに会えると思っていたのか?」
「会えると思っていたわ。きっとあんたは毎年この日に
ここに来ていると思っていた。あたしは貧乏だからここに
来るお金をためるのに5年近くかかっちゃったけど、
今日絶対会える、そう確信していたの」

あたしは。あたしにしては冷静に言えたと思う。
シャルルは驚いた顔であたしを見ている。




少しの沈黙の後
「マリナちゃん・・・」
シャルルはあたしの名前を呼びあたしに向かって
その腕を伸ばした。
「6年前のあの日にもどってもいいかい? 」
「うん・・・」
あたしはシャルルの手のひらに、自分の手のひらを
重ねた。そしてシャルルはあたしの手を持ち替え、
そのバラの花のような唇で指先に優しくキスをした。

これは夢?

あいているもうひとつの手であたしは自分の
頬を抓ってみた。
「痛っ!」
「マリナちゃん、これは現実だよ」
クスッと笑うシャルルにつられてあたしも笑う。

シャルルとあたし。
今日が・・・始まりの日。












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いやいや、久しぶりに創作しましたよ・・・。
高校2年生のときに文芸部の友人の勧めで
部誌に寄稿して以来かな。20年前???
よく考えたらなんて恥ずかしいことしてるんだろう。

でも書いていて楽しかった。
素敵な現実逃避になりました♪




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