普通ってすばらしい!!

普通ってすばらしい!!

Triangle  後編


考えに考えていたらお腹がすいたわ。よーし。
たらふく食べてやる!!

と二皿目に手を伸ばしたところで
「これはオレのだろう? オレのにまで手を出すんじゃない、
食いしん坊のマリナちゃん」
と後ろから冷ややかに声をかけられた。

「シャ、シャルル!!」

あたしは驚いて椅子から転げ落ちた。 

「あいたたたた・・・」
床にぶつけたお尻を座ったまま撫でた。
その様子を見ながらシャルルは肩を震わせ笑っている。
「やいシャルル、レディが困ってるときにその態度は
ないでしょう? 手を貸してくれてもいいんじゃない?」
シャルルを睨んであたしは手を伸ばした。

「これは失礼、マドモワゼル」
シャルルは天使の笑顔であたしの手を取り、ナイトのごとく
言葉を発し、立ち上がらせてくれた。



触れた指先が心臓のようにドキドキする。
このままこの胸に飛び込みたい。そして・・・
抱きしめて欲しい。


そうこれがあたしの答え。


「ねぇシャルル、和矢は初恋の人だったから、こんな風に
急に出会っちゃったりすると心が乱れるわ」

あたしは今言えることだけを言った。

「マリナ・・・」
頭のいいシャルルはこれだけであたしが何を言いたかったか
わかったみたいで、あたしはシャルルに抱きしめられそうになった。
「待って。明日まで待って。あたしが和矢と話すまでは、
フェアじゃないわよ。だから・・・」
「オーケー。そういうことなら明日の夜は特別ディナーだ。
ドレスを用意させておこう。君の傷を癒してあげるよ」

シャルルはあたしの視線に自分の熱い視線をからめ、手に取っていた
指先にキスをした。

あたしは真っ赤になって
「よろしくね!」
と言って逃げるようにアルディのダイニングを後にした。

シャルルの唇が触れた指先が甘く痺れている。
こんなにドキドキしている自分。和矢しか知らなかった
あたしが見たら本当にびっくりするだろう。和矢以外の男の人に
惹かれている自分・・・。1年前には考えられなかった。

マリナは部屋に入りベッドにもぐりこむ。
「シャルル・・・」
さっきシャルルが口付けた指先にマリナも唇を寄せる。
「和矢・・・ごめん」
マリナの瞳からは大粒の涙が溢れる。

さよならだわ。あたしの初恋・・・
本当に好きだったのよ。和矢。

あたしはそんなことを考えながら眠った。




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「さぁマリナ、聞かせてくれないか?」
アルディの応接室で、あたしとシャルルと和矢が対峙することに
なった。

和矢が口火を切った。
「わかったわ。でもシャルルは席を外して頂戴」
あたしの声は冷たく震えていた。
「オーケー。執務室にいる」
シャルルもやや緊張した口調で言う。




「和矢・・・何から話そうかしら。昨日一晩考えたの」
その先は沈黙だった。
どちらも言葉を発することなく時間だけが過ぎていった。




「ごめん・・・和矢。
あたし、あんたのところに戻れない」
「・・・」
和矢は何も言わずあたしの答えを聞いていた。
「あんたしか目に入らなかったあたしはもういないの。
中学校のときから大好きで、離れていても、やっぱり好きで・・・
でも、それは和矢に憧れていた恋だったのよ。
だから本当の恋を知ってしまった今、前には戻れないの・・・」
あたしは一気に言った。

しばらくの沈黙のあと和矢は言った。

「知ってたよ」

「え?」

あたしが驚く番だった。

「シャルルと俺を選べなかったあの日、もう運命は決まっていた。
君たちはいくつもの夜を一緒に過ごし、命のギリギリのところで
絆を深めた・・・。それが『友情』を超えて『愛情』になったんだ。
ここに来て、君たちを見て俺はここにいるべきじゃない、と思ったよ。
でも俺もあきらめ切れなかった。どうせならちゃんと失恋しておかないと
次の恋ができないだろう?ごめんな、マリナ。辛い選択をさせて。
シャルルと幸せになるんだぜ」

和矢はどこまでも優しかった。
そしてあたしを攻めることは全くせずにそれだけ言うと
漆黒の瞳を儚げに揺らし、微かに微笑んだ。
そんな和矢に何もいうことができず、自分の身勝手さが
恥ずかしく、そして和矢への罪悪感に涙が溢れた。
「シャルル・・・」
和矢の声に後ろを振り返ると、シャルルの姿があった。



「マリナを頼む」
和矢はシャルルに歩みより、肩をポン、と叩く。
そしてシャルルに微かな笑みを浮かべ、言った。
「もちろんだ」
シャルルも真剣な瞳で応えた。
「じゃ、本当は殴りあった方がいいのかもしれないけど、
ここで俺は退散するよ。二人ともお幸せに!」

あたし達にそう告げた顔を見せずに和矢はあたし達の前から
去って行った。


あたしは和矢の背中を追いながら泣くことしかできなかった。



「シャルル・・・」
あたしはシャルルに抱きつき、その胸にすがって泣いた。


「あたしの初恋だったのよ。和矢のこと、大好きだったわ!」
泣くだけ泣いて落ち着いてきたあたしは、ずっと抱きしめてくれていた
シャルルに顔を上げた。
「知ってる・・・」
シャルルは遠くを見ながら言った。
「幸せにするよ、カズヤよりも」
シャルルはあたしの額に唇を寄せる。
「ううん。だからと言って和矢と比べることなんてないわ。
シャルル、あたし達は二人であたし達の幸せを作り出すのよ」
「オレはもう十分に幸せだよ、マリナちゃん。
君がいるだけでオレは満たされる。好きだマリナ。
・・・愛してる」
「あ・・あたしも・・・愛してるわ、シャルル」


シャルルの青灰色の瞳は情熱をおび冴えて輝いていた。
あたしはその光に吸い込まれるように目を閉じ、シャルルの
口付けを受けたのだった。







***********************************


また和矢にイイヒトになってもらっちゃいました。
やっぱり和矢には自分で運命を切り開いていく
マリナを留めるキャパを感じません・・・。
一緒にいるとマリナの奔放さに辟易して、いっつも
ケンカしていそうな予感。

その点シャルルは、うまくマリナの手綱を操りそうで、
シャルルの手のひらの上でものすごく自由に過ごすこと
でしょう。


シャルマリ幸せ向上委員会、今回もハッピーエンドでした♪



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