普通ってすばらしい!!

普通ってすばらしい!!

遠い記憶の彼方に 第2話

第2話「君への希望」




マリナがアルディ家のICUに入り、すぐに検査が始まった。
レントゲンや脳波にMRIから血液検査まで精密に、的確に行われる。

ジルはシャルルから指示のあった検査を終え、データをまとめる。
彼好みにまとまった頃、シャルルが館に戻ってきた。
『お帰りなさいませ』と声をかける執事に、手を上げるだけの返答を
しながら、苛立たしげにジルにデータを催促する。
ジルはシャルルにデータを渡した。



空港でマリナを見つけ、処置を行い、そのままアルディに向かう予定だった。
が。傷病人の多さがそれをさせなかった。シャルルは人嫌いで厭世家、毒舌で
冷淡と言う言葉がよく似合う。そんな彼しか知らない人間だったら言葉を忘れる
程驚くような対応をした。

つまり手当ての必要のあった乗員・乗客すべての処置を終えるまで、
空港にいたのだった。



「遅くなってしまったな」
「いえ。結果は今そろったところでしたから」
「いや、検査も私がしたかった、ということだよ」
「そうですね・・・」

検査結果は命に別状はなかった。シャルルの所見通り、骨折が数箇所ある
ものの、命に別状のある状態ではない。シャルルは安心のため息をついて
肩をなでおろした。

ジルはシャルルを眩しげに見る。
シャルルの瞳にはしばらく宿っていなかった光が射している。マリナを前に、
心配しながら生き生きとしている彼を見るのが嬉しかった。

空港でやった処置は簡単なものだったが、牽引やギプスなど、現在
必要な処置を行い、シャルルはマリナのベッドの傍らに座る。
優しく髪を撫で、おでこにそのバラの花びらのような唇を落とした。
「マリナ・・・」
早く目覚めて欲しいような、そうでないような気持ちで彼女を見つめる。
そんな様子に躊躇しながら、ジルはシャルルに声をかけた。

「シャルル、ヒビキヤさんからお電話です。あと執事からダンジョウさん
からもお電話があったと聞きました」
「代わろう」
「よ、天才センセイ。お前のところにマリナがいるんだろう?どうだい
容態は」
薫はいつもの口調で話をする。
「ああ。怪我はたいしたことないが、まだ意識が戻らない」
「かけつけてやりたいけど、今はドイツだ。明後日にはフランスに戻る。
直行するぜ」
「君の心臓が壊れてからでいい。邪魔だ」
シャルルもいつもの口ぶりで答えた。
「報道を聞いて止まりかけた。健診に行くならいいだろう?マリナに
会わせてくれ」
「・・・明後日ならいいだろう」
「メルシ」
短い会話で電話を切る。

薫からも美女丸からも電話があった。
なのになぜあいつからは連絡がない?乗客名簿にも名前がなかった。
一緒に来ているんじゃないのか?

シャルルがふと疑問を感じたときマリナの小さな声が聞こえた。

「ここは・・・どこ?」
ぼんやりと目をあけ、微かに頭を動かし辺りを見回す。
「気がついたのか?」
シャルルは短く声をかける。
マリナはシャルルの声のほうに視線を向ける。
「大丈夫かい?マリナちゃん」
シャルルはこの4年、忘れていた奇跡の笑顔でマリナに微笑みかけた。
「マリナ?それは誰?あなたは・・・誰?」
マリナはベッドに横になったまま答えた。
「!」


マリナは事故の大きさにしては命に別状のあるような怪我ではなかったが
頭部の打撲と事故のショックで記憶を無くしてしまっていた。
簡単な検査の結果、日常使う物の名前や使い方は覚えていた。
・・・自分を中心にした人間関係のみ、症状が出ている。

「マリナ・・・」
頭部の打撲が見られたときから多少の記憶の混乱は予測していたが、
自分のことをすっかり忘れてしまったマリナの状態は、小菅で味わった痛みと
同様の剣で再びシャルルを刺した。
「ジル、電話してくる。マリナを頼む」
記憶を無くし、不安そうなマリナよりももっと辛そうな顔でシャルルは
その部屋をあとにした。






「どういうことだ?」
シャルルは言った。
5年ぶりの会話がこんなものだとは思ってもいなかった。
「そういうことだ。俺は来月結婚する。そういうことだ、じゃ」
和矢はシャルルも驚くほど冷たい声で言い、電話を切った。
「カズヤ!」
珍しく大きな声を出したシャルルだったが、持っている受話器からは
和矢の応答は聞こえてこなかった。




シャルルはマリナが一人でフランスに来たのには訳がある、
くらいのことは気がついていた。

が。

和矢の変貌には正直驚いた。和矢の性格も変わるくらいの壮絶な
別れ方をしたのか?
マリナ、君たちにはいったい何があった?いったいいつ別れたんだ?

この二人の間には割り込めない、とマリナを愛するあまり、笑顔で「アデュー」を
告げたあの時。
心から幸せになってほしいと、願ったあの時。


忘れたくても忘れない、人生の悪夢。
そのときの気持ちが渦を巻くようにシャルルを飲み込んでいった。






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いろいろな二次創作サイトをロムっています。
本当に素敵なお話ばっかりで、うっとりしちゃいます。
原作では叶わなかった妄想・・・。

シャルルの幸せを願ってやみません・・・。



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