普通ってすばらしい!!

普通ってすばらしい!!

遠い記憶の彼方に 第3話

第3話「現在(今)への扉」





シャルルはICU治療の必要のなくなったマリナを客室に移した。

寝室の中央にあったベッドを窓辺に移動させ、庭が一望できるようにした。
しばらくは安静を必要とするマリナが少しでも気分転換ができるように
配慮する。
そしてスケッチブックや画材など、をオーバーテーブルに置いた。
「スケッチブック?」
マリナは右手でそれに触れ、懐かしむように眺めた。

「君は絵を描くことが大好きだった」
シャルルは切なそうに言う。
「そう。ふふふ。おかしいわね。あたしよりもあたしのことを知っているなんて」
マリナは儚く微笑んだ。

その笑みを見てシャルルはあの頃よりもマリナが大人になったことを
思い知らされた。自分の知らないところでの和矢とマリナの生活を
想像するとたまらなくなる。

「足りないものがあったら言ってくれ」
シャルルはそう言って部屋を出た。


「よ、天才センセ」
廊下には薫がいた。
「予定より早いな」
冷たく声をかける。
「親友の一大事だ、来て当然だろう?」
ニヤッと薫は笑う。
「まぁせいぜいつくしてやってくれ」
シャルルはマリナに記憶がないことを薫に告げずに執務室に行った。




「どういうことだ、天才センセイ」
薫が皮肉をこめて言う。
「記憶がない」
「そんなこた分かってるよ!どうして話してくれなかったんだ。
おかげであたしの心臓が止まりかけた」
薫は思いつめたような三白眼でシャルルを睨む。
「人工心臓シャルル型はそんなことでは止まらない」
シャルルはいたって冷静だった。
「それが止まりかけるほど驚いた。どうすることもできないのか?
このあたしを見て『どなた?あなたも素敵な人ね。あたしってばどんな
人生を送っていたのかしら。こんなハンサムな人ばかりに囲まれて』
なんて笑うんだ。マリナの一大事に黒須はなにやってんだ!」
薫は苛立たしげに吐き捨てた。
「シャルル、黒須には連絡したのか?」
「・・・」
「どうした?」
「したよ。カズヤは事故のことを知っていた。死傷者情報にマリナの名前が
出ていなかったから生きているだろう、と言っていた。カズヤはマリナに
関わろうとしなかった・・・」
シャルルは眉間にしわを寄せ、目を閉じてため息混じりに言った。
「二人は別れたんだろう。これはオレの直感だが」
薫とシャルルにとって衝撃の事実だった。






流れてくる音色に気づき、マリナは音の方向へ目をやった。
薫が見事に咲き誇るバラの中でバイオリンを奏でていた。

『キャッツ』の『メモリー』。
何か大切なものを置き忘れたような感覚にマリナの目から涙が溢れる。



『メモリー』・・・記憶。
バイオリンを弾いているあの人は誰?あたしの・・・何?
ううん、それだけじゃない。
あたしの治療をしてくれている人は誰?あたしの・・・何?
そのとたん、胸に痛みが走った。

あたしは忘れてはいけない何かを忘れてしまっている。


マリナは目を閉じて過去へ向かって記憶をたどる。
そのとたん瞳の奥に閃光が走り、経験したことの頭痛に襲われた。

「!」
両手で頭を抱え込み、声にならない悲鳴を上げる。

「マリナ!」
モニターに映るマリナの様子がおかしくて、部屋にシャルルが
飛び込んできた。
「シャ・・る・・?」
その声に驚いたマリナはシャルルの名前を呼びながら意識を
失った。


「シャルル?どうかしましたか?」
ジルが後を追ってきた。
「今、一瞬だったけれど、マリナは何かを思い出したようだった」

シャルルはマリナの額に手のひらをのせ、様子を見る。
呼吸は正常、特に治療は必要なさそうだ。

「記憶を掴み損ねたショックだろう・・・」
シャルルはマリナの髪を優しく撫でた。








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なんだか最近の生活に潤いがなくて、
したいことはたくさんあるのに制約の方が
多くてしたいことをひとつもできないもどかしさがあります。

このもどかしさがネックですよね。
本当に。やれる時間のあるときはしたいことがわからない。
やりたいと思ったときには時間がない。

今回のマリナは大事なことはおろか自分のことを
忘れてしまっています。怖くて怖くて仕方がないだろうなぁ・・・

後悔しない様に時間を上手に使いたいと思います。


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