3. 分娩室

2人目出産顛末記


3.分娩室

 入院前から私の子宮口は5cm開いており、痛みさえつけばお産の進行は早いだろうというのが医師の以前からの診断だった。
 早々に分娩室に移動した理由の一つは、ついに陣痛が始まったらしいということ。
 そしてもう一つは、胎児の心拍が一時的に下がったためだ。
 胎児の心拍は通常120~150くらいで、100以下になると赤ちゃんが」苦しい状態らしい。分娩監視装置に表示されている心音の数値が下がってきたら意識して腹式呼吸をし、おなかに酸素を送るよう言われた。

 11時ごろには子宮口は7cmまで開き、陣痛は2、3分間隔になっていた。しかし陣痛と言っても、下腹部が鈍く痛むのみ。腰やおしりは一向に痛くならず、痛みが強まりもしない。「赤ちゃんの位置が悪いのかも」。看護師さんがポツリとつぶやいた。そういえば、妊婦健診の時にもそう言われたことがあったっけ。

 とにかく強い陣痛がまだ来ないので、2錠目の薬を服用。
 その後、陣痛は1分間隔になったと思ったら、4、5分間隔に延びたりをくり返し、痛むのは相変わらず下腹部のみ。おしりや腰が痛くならないと「いきみ」も来ないことが一人目の経験でわかっていたので、「これじゃお産まではまだ遠い」と自分でも感じていた。

 大体、自分自身に余裕がありすぎる。看護師さんに様子をたずねられるたび、笑顔で普通に言葉を返すことができるのだ。その表情を見て、看護師さんも「そんなに余裕があるんじゃ、まだあまり痛くないのねえ」と悟るという具合。看護師さんに世間話をふられるとなごやかに会話がはずみ、会話している間は陣痛のことを忘れてしまって、間隔も延びてしまうのである。なるべく早くお産を終わらせたい私としては、「陣痛を忘れちゃうから話しかけないで~」と内心思っていたのだが、話しかけられるとつい愛想よく答えてしまう。11時ごろまでの進行が早かったので、「薬をそれほど飲まないうちにお産にたどりつけるかも」と期待していたのに、結局は何事もないまま12時、13時を迎え、3錠目、4錠目と薬が追加されることとなった。

 13時過ぎ、4錠目の薬を飲み終えた後、奥の分娩台に移動することになった。
 この産院の分娩室には分娩台が2つ並んでいる。手前はベッドタイプでクッションがやわらかく、長時間横になっていても比較的楽なのだが、奥にあるのはいわゆる普通の分娩台。いざ出産というときには奥の台を使うことにしているそうだ。ただし私が奥の台に移されたのはお産が近いからではなく、帝王切開の手術を受ける人の処置を行なうために手前の台を空けなければならないからだった。

 移ってみると、とにかく台がカタイ! 腰が痛くなってしまう。憂鬱な気分で横たわっていたら、かなりふくよかな助産師さんがやって来て、内診。にっこりと微笑んで、
 「大丈夫、ちゃんといい感じでお産が進んでいますよ。だからゆっくりと様子を見ていきましょうね」
 と言葉をかけてくれた。これには安心させられた。さらに助産師さんは、改めていま飲んでいる薬の説明をしてくれた。
 「いま飲んでいるのは、陣痛促進剤そのものではないんです。陣痛を起こすオキシトシンというホルモンが分泌されるよう、脳下垂体を少し刺激するためのお薬なんですよ」。
 薬が追加されるたびにブルーになっていた気持ちが、それで少し楽になった。相変わらず緩やかな陣痛が続いていたが、痛みの波が来るたびにスー(鼻で吸って)、フーーーー(口からゆっくり吐く)と深呼吸をくり返し、強い陣痛が来るのを待ち続けたのだった。


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