お空のあいちゃん

お空のあいちゃん

最後のひととき



先生がわたしにあいちゃんを抱かせてくれました。 いつもはしきりがないベットのあいだに、カーテンをかけて周りからは見えないようにしてくれました。 私はロッキングチェアーにすわって、あいちゃんを抱いていました。 あいちゃんは何事もないかのように、すやすや眠っていました。 あいちゃんを抱くのはあいちゃんが産まれた時いらいでした。白い手編みのブランケットにあいちゃんを包んで、ゆっくりゆっくりいすをゆすってあげました。 カウンセラーの方が、私達の写真を何枚か撮ってくれました。

先生は“機械を少しはずしましょうか?”と聞きました。私は答える事ができませんでした。 主人がいない間になにかあっては困ると思ったのと、機械を外すということは、あいちゃんが死んでいくと言う事だったからです。 そんな私の姿をみて、先生は“大丈夫、赤ちゃんはお母さんに抱かれていると、とてもおちつているんです。 なぜかはわかりませんが、お母さんの腕のなかで様態が急変するところを見たことはありません。機械を外してあげた方が、抱っこしてあげやすいでしょう?” そう、先生に言われて、私は機械を外す事を了解しました。そして、先生はあいちゃんから半分の機械を外してくれました。

主人は30分ほどで帰ってきました。 涙は流れていませんでしたが、目は真っ赤でした。先生に手伝ってもらって、はじめて洋服を着せてあげました。 一番小さなサイズのはずの、ピンクのうさぎがついたお洋服は、あいちゃんにはまだ大きすぎて、ぶかぶかでした。 もっとちいさい服が、病院で用意してあったので、そっちに着せ直そうかと私が聞くと、主人は“これでいい。”と答えました。

隣の女の子のお母さんが“どうしたんですか?”と看護師さんに聞いている声が聞こえました。時計をみると4時29分をさしていました。あいちゃんが産まれた時間でした。1週間がたっていました。



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