おかあちゃん2


ただナースステーションのすぐ横の観察室で24時間ずっと
心電図モニターやいろんなチューブが体中についている。
でもうれしかった。
これでいつでもおかあちゃんの顔が見れる。
そう喜んだのもつかの間、ドクターから病理検査の結果を告げられる。
「予想通り悪性でした」
「腫瘍の段階ステージでは1番悪い第6ステージです」
「腫瘍が血管&神経を巻き込んでいるので、いつ急変が起こっても
おかしくない状態です」
「腫瘍の位置、今回メスを入れた位置等から、右麻痺と言語障害が
後遺症として残ります」
いくら最悪の状態を考えていたとはいえ、ここまでとは・・・。
そこから2ヶ月が過ぎた。
麻痺や言語障害があるけども、車椅子になんとか乗れるようにまで回復した
おかあちゃん。
私が面会に行くと吃驚したような顔をして、笑顔で出迎えてくれる
おかあちゃん。
しゃべれないけど、自分の思いを一生懸命伝えようと
ひらがなボードを使って、一生懸命はなそうとしてる。
「は・や・く・い・え・に・か・え・り・た・い」
うんうん、もうちょっとリハビリがんばろうね。
そう話していた。本当に早く連れて帰ってあげたい。
そしておかあちゃんの行きたい所、どこでも連れていったあげる。
しかし、また主治医から呼び出しを受けた。
そこでドクターから骨に転移が見つかったことが告げられた。
癌細胞、どこまでおかあちゃんを苦しめたら気が済むのか???
結局このまま退院というわけにはいかず、抗癌剤、コバルト治療の
どちらかの選択を迫られることとなった。
選んだのはコバルト治療だった。
副作用ができるだけ少なく、少しでも早く退院させてあげたい!
それしか考えてなかった。
そして翌日からコバルト照射が始まった。
副作用で何も食べれなくなり、吐き続ける日々。
でもこれが終われば帰れる!とがんばるおかあちゃん。
そんなおかあちゃんの姿を見るのが辛くなってきている自分がいた。
おかあちゃんはこんなに前向きに生きている。
このまま病名を隠し通せるのか?
自分ではほとんどしゃべれないおかあちゃんの目が恐かった。
ほんとは全て分かっている。私が本当のことを話すのを待っている目が。
そうして私はどんどん病院へ行く回数が減ってしまった。
そう、現実から逃げたのだ。

コバルトも1クール終わり、外泊許可が出た。
いざ帰ろう!という日、発熱。
コバルトの副作用で白血球が急激に減り、少しのことでも感染しやすい状態になってしまっていたのだ。
外泊は延期、次のコバルトも白血球が増えるまで延期となってしまった。
白血球が増えるのを待って、コバルト治療の2クールが始まった。
今回も副作用がひどかった。
でもがんばるおかあちゃん。
おかあちゃんを苦しめる癌細胞は1クールが終わった段階では、
依然とほとんど変わりがなかった。
しかし、2クール目が終わったころには小さくなってきていた。
ここでもう1クールがんばれば、勝てる可能性が出てくるかも知れない!と思った矢先、転移していた右腕の骨に異変が見つかった。
骨が腐り始めてきたのだ。
麻痺側なので自分で動かすことはできない。
何もしなければただだらんとたれる腕。
三角巾で固定していたのだが、自分で支えられないためどうしても、ずれてしまう。
それが元で腐りはじめていた所がずれてしまった。
幸いなことに痛みはない。
しかし、このままコバルトを続けることは体力を消耗させる。
これ以上体力を消耗すると、退院のメドが立たない。
悩んでも答えが見つからない。
おかあちゃんにとって1番いい方法は・・・・。
姉妹で相談の結果、家に連れて帰ることにした。
もうこれ以上おかあちゃんにしんどい思いはさせたくない。
それが結論だった。
病院に入って3ヶ月半たった、お天気のいい初冬。
退院の日を迎えた。
でもこの日がゴールではない。
この日が第2戦の始まりだった。


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