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ラインの黄金仮面 Weekly
ルーナ伯爵:『トロヴァトーレ』
ルーナ伯爵。キャラクター的にはそんなに面白い役どころでもありません。高度な芝居も要求されるリゴレットやヤーゴ(『オテロ』)等といった役柄ではなく、敵役ながら、若者であり、一人の女性を愛しながら決して大願成就できぬもどかしさのあまり、横暴とも思える行動に走ってしまう、若さのあまり突っ走ってしまうような役柄です。ですから、行動には計画性がなく、感情と情熱だけで動く若者です。
しかしながら、彼にはまた複雑な事情を小さいときから背負わされているフシがあります。子供の頃、まだ生まれたばかりの弟をジプシー女に焼き殺された。それだけでもショックなのに、父伯はなぜか、弟はまだどこかに生きているといい、死に際にも弟を探せ、と命ぜられた・・。深読み(うがって読めば)すると、父の愛情は、少なくとも弟が無残な殺され方をされた以降は兄ルーナではなく、死んでいるはずの弟にすべて注がれたのではないか?と思えます。
「何故なの?!なんで死んでしまった弟をそこまで愛するの!?なんで、その愛情を僕に注いでくれないの!?」ずっと心にそう思って生きてきたのではないか、そう感じるのです。しかも父伯が死んで以降も、生きているはずもない弟を、父の遺言だからと、まじめに探す兄。その気持ちは如何に辛かったかしれません。
それから、伯の後継者として確実な兄ルーナですから、甘やかされて育ってきたボンボンでもあるのでしょう。
なに不自由なく生活できながら、一番欲していた愛情が欠けていた・・。
だから、目の前にレオノーラが現れ自分の恋の炎を燃え上がらせたとき、自分の精一杯の愛を彼女にぶつけようとする。愛に貪欲になった。でも、彼女の愛を得ることができない。それでもうなりふりかまわずなってしまう・・。
すごく不器用で、可愛そうな男だと思いませんか?
私がはじめて『トロヴァトーレ』を見聞きして感じたルーナ像は、ただ“カッコイイ”っていう感じでした。でも、自分がこの役をもらい、歌っているうちに、いろいろ考えを醸成させることができました。その一部が前述のルーナという男の哀しさです。
私はひとつの役をやるときに固定観念を持って臨まないようにしています。いろいろな事ができるよう、間口を広げておく。それから、私の役はこう思うとか、こう演じているとかいった事は稽古中は言わないようにしています。それを聞いた時点で、聞かされた方も固定観念をもって私の芝居を見るようになるからです。(まぁ、飲み会の時なんかには話したりもしますけど、大抵、酒の上での事なのでみんな忘れるからネ)
自分の中でとりあえず核になる考え方を決めて歌い演じてみる。それが自分の思うとおり相手に伝わっていればベストですが、それがうまくいかなかったり、しっくりこなければ、演出家や指揮者がキチンと指導してくれるし、その指導、助言でもっと役柄を膨らませることができ、とても楽しいですからね。
本題からそれてしまいました・・。(あっ、ソ~レソ~レ!めんそ~れ!) さぶい・・・。(「私はひとつの~」あたりから逸れてます・・)
私の中でルーナ伯爵像の核を、不器用で可愛そうな男と思いながら歌い演じているうち、この役の深さを堪能することができました。また、スコアに書かれた音楽も、恋に焦がれる男ごころを複雑に織り込んでいるように見え、読み、音にする作業がなんとも楽しくなりました。
ルーナ伯爵の歌は絶えず“怒っている”感じ。感情の爆発的なところが多いんですね。だから、と勘違いしてしまいがちなんですが、(←一般的にではなくって、私が、です)ついつい、歌まで怒鳴ってしまうんですね・・。実は、それがオペラにおいてはあまり効果的ではない、というのは30代になってから分かったかなぁ・・という感じです。
それまでの私は感情の思うがままに、その勢いを歌にぶつけていました。でも、歌にぶつけるだけでは、その思いが歌唱表現としては、聞き手に伝わらない・・。これがオペラの難しくも深いところのひとつなんでしょうね・・。特にこう、朗々と歌わせるような役柄の時は、芝居でがんがん怒ってても、決してその怒りを歌にぶつけてはいけなくって、息に、歌に、その怒りをのせてもっていかなくてはならないんですね。実体験的には、がなったり、勢いで出した声は響きにのっていないから、音楽として客席にまで届かなかったり、今歌っている歌や、その後に歌う歌にも、息の送り方やのどの調子などが乱れて影響が出たりとかがあるようです。
だから、ルーナ伯爵を演じたとき、歌、息の流れというものにとっても注意を払って歌った気がします。すると不思議と体も開けて、息も自然と体の中に入るし、伸ばしきるところもきっちり支えられて、歌っていて、気持ちのよい体の状態が保てることができたような気がします。
ルーナ伯爵のアリア「君の微笑み」は常に怒っているルーナ伯爵の中で、唯一、明るく、希望に満ちた歌です。愛するレオノーラを修道院から奪うという陰謀を起こす前とは思えない、悪の緊張感の無さ、いや、その緊張感以上に彼の心を覆う恋の情熱が、この短い小曲に詰め込まれています。
結構長いフレーズの要求される歌ですし、比較的高音を保っていなければならない歌なので、難しいのですが、公演当日は自分なりにある程度表現することができたと思います。もちろん、いくらでも追求できるものではありますが、一定の満足感は得ることができました。
自分の中で一定の満足感がでると、またその歌を好きになり、役を好きになり、より一層深めたい、足りないところをもっともっと勉強したい!と思うようになります。ルーナ伯爵はまさにそんな役柄となりました。
ルーナ伯爵の歌唱と寄り添う、オーケストラの音というのも堪能することができました。得に、1幕フィナーレの三重唱、4幕のレオノーラとの二重唱に、伯爵のパートに寄り添うトランペットの音には哀愁を感じました。こと、二重唱は、恋人の命乞いに現れるレオノーラの、恋敵への思いを切々と聴かされ、「何故おれではなく、あいつなんだ・・・」という、ルーナの悲しい思を語るメロディが伯爵の歌とともにトランペットが寄り添ってくるんですね。私、歌いながら、心で涙しました・・。
ルーナ伯爵にはいつも「なんで、僕ではなく、弟なの?」という思い、そう思わせる運命が付きまとっていたんですね・・。
【プロの歌うルーナ伯爵】
今聞けるCDで歌っているルーナ伯爵は結構みなさん上手ですので、どれを聞いてもあまりはずれはないでしょうが、さしずめナンバー1のルーナ伯爵はE・バスティアニーニでしょう。彼のバスの響きにも似たノーブルな音色のバリトンは若々しく力強く、それでいて甘く、どこか哀愁めいたものがあります。大変舞台栄えのする人でもあり、NHKイタリアオペラの同演目、同役を演じたときはオッカケができたとの事です。音だけでも十分に聞かせてくれるルーナ伯爵です。バスティアニーニ系でノーブルで哀愁のこもった歌唱はほかにR・ワーレンや、W・ホヴォロストフスキーで聞くことができます。また、哀愁という味はあまり出ませんが、若さ、明るさ、美声という点ではP・カップチッリ、R・メリルというところが、非常に聞き心地のよいものとなっています。
★偉大なバリトン歌手、E・バスティアニーニの伝記です。なかなか読み応えあり!タイトルは『トロヴァトーレ』のアリアと同名です。(オペラファン必読!)
★バスティアニーニの魅力を込めたアリア集です。
★名匠セラフィン、バスティアニーニベルゴンツィ、コソットらの名唱が聞ける『トロヴァトーレ』の代表盤です。
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