映像四郎の百人斬り

「Ｄｒ．Ｃ」

　「自由」という名前の駅に降り立ち、

　「９つの仏」方向の線路沿いに歩くと、

　目指すビルが、現れた。

　繁華街を抜ける、むき出しの線路は、

　「Ｄｒ.Ｃ」の事務所の窓に、隣接している。

　だが、室内には、心地よい静けさが、漂っている。

　テーマが「色」の映像制作に、関わるのだ。

　「アート作品」の展示に、付随した、

　「アートビデオ」なる「ジャンル」らしい。

　「ナムジュンパイク」「ビルビオラ」など、

　若干、勉強として視聴したものの、

　その抽象度の高さは、意識に対して、

　意味として対話するものではなく、

　五感や身体性に、対して、

　揺さぶりとしての共鳴を、

　感じさせるものだった。

　「意味不明なのがいいのよ」

　ただ、デジタル加工やエフェクトのオンパレードで、

　クオリティの高い「色」を表現するのは、

　作業的に、ＤＥＥＰな面が、発生してしまうとの、

　私の申し出に対して、

　すでに「アナログ」な「色表現」の準備は、

　整えられていた。

　動画にせよ、静止画にせよ、共通するのは、

　四角いフレームだ。

　対象に向けての距離や角度によって、

　対象の意味は規定されてゆく。

　「具象の前に、抽象が存在する」

　確かに、そういわれてみると、

　子供の認識の発達過程は、

　抽象から、具象、そして、

　具象から、抽象のループを延々と辿って、

　育まれている。

　風邪をひいて、熱があるとき、

　酒を飲んで倒れているとき、

　そこには、焦点を結ばない、

　身体感覚が、なんともいえない「色」として、

　起動し始める。

　「Ｄｒ.Ｃ」が、目の前に用意した、

　絵の具、シャボン、レース、ビン、

　などに、対象の輪郭が、ぼやける地点まで、

　ひたすら、フレームを近づけてゆくと、

　意味がほどけた、無意味という意味、

　すなわち、色の世界が、広がってきた。

　その世界は、色が語りかけ、

　無言語という言語で、

　規定を逃れた、無規定の世界だ。

　以上のような線的なコトバで、

　表現できるようなことを、

　目的としていなことが、

　「あーと」なるものに、

　携わっている人たちの、

　共通性なので、私の記述は、

　何もナゾレてはいないのだが、

　あくまでも、私の網膜に、映写されたものを、

　スケッチしてみると、

　こんな感じだ、ということに過ぎない。

　最終的に、「アナログ」な「色」世界は、

　私の、予測を、遥かに、上回り、

　「アナログ＝最高」という結論が、

　導き出された。

　その後、「カラーセラピー」を初めて、受けた。

　百数十種類に、及ぶ、ボトルたちに、

　２層にわかれた、色とりどりの「アロマ」が、

　液体として、詰まっている。

　右脳に直結する「左手」を使って、

　感覚として、自分の好きな色を、

　４種類、順番に、選んでいくというものだ。

　私が、選んだのは、

　すべて、下層に、「オレンジ」が、

　詰まったもの。

　「Ｄｒ．Ｃ」によると、

　「オレンジ」ではなく、

　「カラーセラピー」的には、

　「ゴールド」と呼ばれるものらしかった。

　私の目の前には、

　私の選んだボトルが、右から、左に、４本並んでいて、

　右端から、「本質」「過去」「現在」「未来」という風に、

　意味づけされているようだ。

　もともと、「色」に、

　意味の限定ではなく、

　方向性が、与えられていて、

　「色」の方向性を媒介とした、

　２者の「あやとり」により、

　「セラピー＝物語＝占い」が、

　紡がれていくようだ。

　「安定を求めつつ安定をきらい、

　　ひとりが好きなのに、

　　ひととの共同作業を求め、

　　また、ひととのかかわりの中で、

　　物事を進めたほうがよいらしく、

　　経済的回収をも、視野に入れた、

　　自分の集団および、仲間を、

　　探すのに、よい時期」ということらしかった。

　おお、なんか、おもしろい。

　易とか、タロットみたいに、色のブロックの組み合わせによって、

　人の「線的≒リニア≒トータル」な部分と対話する

　コミュニケーションツールのひとつなのだろう。

　その後、制作のために、わけてもらった

　レンズの前につける、色つきのレースを持って、

　夕方の街に出た。

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