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| 著者・編者 | 春暮康一=著 |
|---|---|
| 出版情報 | 早川書房 |
| 出版年月 | 2024年8月発行 |
著者は、山梨大学大学院物質・生命工学専攻修士課程を修了し、メーカー勤務のエンジニアをしながら、2019年8月に「オーラリメイカー」が第7回ハヤカワSFコンテストで〈優秀賞〉を受賞し、作家デビューした 春暮康一
さん。本作は、2024年の第45回日本SF大賞の最終候補作となった。
遠未来の知的存在たちが「大始祖」と呼ばれる人物の謎を追い、その正体と宇宙規模のコミュニティ成立の起源に迫っていく長編SFである。物語は、銀河規模に広がった高度文明社会の視点と、遠い過去の人類側の視点とが交互に描かれる構成をとり、時間と因果が巨大な円環として収束していく過程を描く。
遠未来の世界では、多種族が結びついた巨大な共同体が存在し、その礎を築いた伝説的人物「大始祖」の最期――ブラックホールへの飛び込み――が語り継がれている。しかし、その真偽は不明であり、合理精神を重んじる後世の知性体たちは、神話と歴史の境界に疑問を抱いている。彼らは過去の観測記録や理論的推測を積み重ね、大始祖の行動の意味を解き明かそうとする。
鮎沢 望
は、高校天文部の友人の千塚 新
、大学の研究者仲間の八代 縁
と、太陽系規模の電波望遠鏡による掃天観測計画を夢想してサークル活動を始める。それは、後に人類が銀河文明の繁栄に貢献する道へと繋がる第一歩だった。超長期的な観測装置「テレスコープ」計画は、1億年単位で未来へ情報を送り、宇宙規模の知的連鎖を成立させる壮大な試みである。
3人は、死後、肉体を捨て、アップローディとなった。やがて、サークル活動には百万人の人類が加わり、太陽系を基線とするVLBIが、地球外文明の痕跡をとらえ、「C-1」と名付ける。新が土星の衛星エンケラドゥスで建造していた恒星間宇宙船〈ディヴィンヌ〉に乗り込み、70光年先のC-1へ旅立つ。C-1では、すべての機能を植物体から発生学的に誘導するブラニアン文明に出会う。
縁はブラニアンとの交渉を通じ、時計を一致させ、梯子を繋ぎ、70光年の大きさのVLBIが完成する。そして、500光年先に次の目的地「C-2」が見つかる。
だが、〈ディヴィンヌ〉、〈トスカ〉、〈レジェンド〉の3隻が次の目的地「C-3」へ向かい途中で、C-3は気配を消してしまった。文明は滅んでいたが、知性の痕跡を未来へ伝えるためのストレージが残っていた。
多くの種族が出会い、船団を組み、気配のある惑星を訊ねていった。だが、平均すれば3つにひとつ以上の割合で、文明は消滅していた。
惑星〈@希望@ホープ@rubyh@〉に文明を拓いたのは、1億年前の狼に似た四足歩行生物だった。彼らは、忽然として消えた恒星“ 亡霊星
”を記録していた。
物語が進むにつれ、遠未来の伝説と遠過去の人類の選択が密接に結びついていくことが明らかになる。大始祖の行動は単なる奇矯な自己犠牲ではなく、時間を超えてコミュニティを成立させるための合理的計画の一部であった可能性が浮上する。ブラックホールへの突入もまた、情報伝達と観測の極限を追求した結果として再解釈される。
《コンステレーション》第一系統を構成する32隻の船は、ついに“ 亡霊星
”をとらえる。それは、自転するブラックホールをエネルギーや計算機として利用する直径10億キロの漆黒の星系だった。その中を漂う惑星には、1億年前の〈@希望@ホープ@rubyh@〉文明をはじめとして、滅亡されたと考えられていた全ての文明が漏れなく救い出されていた。
望
は、“ 亡霊星
”を動かし始めたという〈客人〉と会話する。〈客人〉の挑発的な物言いに怒り出しそうになる。〈客人〉の言葉は的外れな嫌みではなく、望の心に刺さるものがあった。その理由は、望がブラックホールへ向かう最後の旅で明らかになる――。
本書の主人公3人が、いつまでも学生気分が抜けないのはジュブナイル的であり、肉体を捨ててアップローディになるのはサイバーパンク的であり、人類と全く異なる進化を遂げた知的生命体に出会うシーンはスペースオペラのノリであり、ブラックホールをめぐる〈客人〉のテクノロジーはハードSFである。1冊で、さまざまなジャンルのSFを楽しめる作品である。
VLBI(超長基線電波干渉計)の存在を知ったのは、天文少年を卒業しようとしていたときに完成した 野辺山宇宙電波観測所
だった。本書の序盤に登場する32メートルの電波望遠鏡は、2001年にKDDIの衛星通信用アンテナを天文向けに転用した 山口32メートル電波望遠鏡
だろう。国内外の電波望遠鏡と共同で行うVLBI観測に参加しているからだ。
本書の舞台は地球から太陽系、太陽系から銀河系へと広がっていく。そのなかで、異星文明と時計を合わせ、VLBIのハシゴを築いていくのは、銀河帝国でも企業リムでもない。鮎沢望、千塚新、八代縁の3人の少年・少女が立ち上げた〈 同好会
〉という点が、とてもリアルに感じられた。クラウドファウンディングを募って、こんなサークル活動がはじまったら面白いだろう。
登場人物のセリフを中心に進んでいくという点でラノベ的な側面もあるのだが、「外挿ってあんまり当てにならない」「早まった一般化」「ハンロンの剃刀」など、技術屋ならニヤリとするセリフが並ぶ。
最後は、円環が閉じるという、SFの定番で締めくくられる――鮎沢 望
の好奇心と不安とは裏腹に、安心して読み進められる作品だ。
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