ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 116

何やってんだろ・・   ぴかろん

僕・・何やってんだろ・・

香水を買った
自転車を店に戻して弟のマンションに帰り、スーツに着替えて、ラブへのプレゼントや、それからあの絵や、あの子の着ていた服をまとめて僕は出勤した

ブルガリ・ブラック

テジュンさんのあのホテルの部屋で嗅いだ匂い・・
きっとラブを抱いたときも、この香りで惑わせたんだ・・
きっとそうだ・・きっと・・

僕は買ったばかりのブルガリ・ブラックを纏い、BHCに向かった

この香りでラブは僕に振り向くさ・・
今夜も僕のところに帰って来るさ・・きっと・・


僕は店の近くでラブが来るのを待っていた
離れたところをイナがぼんやり歩いているのを見かけた
そういえばあいつと話していないな・・
うまく行ってるのかな・・元気なさそうだけど


そんな事思いながらラブを待っていた
やってきたラブは僕を見て・・

うんざりした顔をした

僕は悲しくなる
でも明るい笑顔を作り、ラブの肩を押して店の裏口から中に入った

スヒョンさんとイナが話をしていた
ラブの顔が強張り、ぎこちない会釈をした
その瞬間ヒラリとイナは外に出て行った

店に入ろうとしたとき、スヒョンさんがラブに一言何か言っていた

そして営業時間中のぽっかりと空いた時間・・
ラブと僕は控え室に向かった

ラブは僕の香りに気づいてない・・
抱きしめてやろうかな・・

そんな事を考えていたら・・ラブが怒った顔をして僕にキスをした

戸惑ってどう応えようかと思ってたら裏口のチャイムが鳴り、テジュンさんが戸口に立っていた

ラブが狂った・・
狂ったラブを押さえ込んだ
狂わせた男は平然とその場を去り
僕はラブを離さなかった

どうして香りに気づかないの?
どうして僕のところに戻ってきたってのに
どうしてあの人のところへ行くの?!

あの人と同じ香りで抱いてやる!
だから僕でいいだろ?
僕がいくらだってあの人の代わりをしてやる!
だから僕で夢を見てよ、ラブ


ラブは怖ろしい目をして僕に怒鳴りつけた

僕には何にもわからなかった
僕には何にも見えてなかった
お前の姿以外なんにも・・

こんなこと、前にもあったよ
あの時も、どうしていいのかわからずにいた

ギョンビンが僕から離れて行った時だ
あの頃の僕は、必死だった
ギョンビンが離れていかないように
僕なりに必死だった・・

そしてギョンビンは遠くへ行ったんだ・・

ああ・・
また僕は間違えてるのかな・・
どこをどう間違えてるの?
どこをどうすれば正しい答えが出るの?
どう言えば伝わるの?!
お前が大切だって・・
お前に側にいてほしいんだって・・


いつも僕はこうやって
好きな人に嫌われる・・

ギョンビン・・
どうしよう・・
なんで僕はこんなに馬鹿なんだろう・・
僕一体
何やってんだろ・・






俺、何やってんだろ・・
アイツのとこに帰ってきたってのに
俺、何やってんだろ・・

テジュンを苦しませて
イナさんを追い込んで

そしてアイツに当り散らして・・

みんな・・みんなのこと好きなのに・・
馬鹿な俺・・

どっかいこう、四人で行こう・・
話しよう、俺の気持ちを話そう

たとえ殺されたって、俺の気持ちを話すからさ・・

ごめんなテジュン
ごめん イナさん

ごめんね・・ギョンジン・・






何やってんだろ・・
俺は何でこんなにいじけてるんだろう・・

ラブの顔を見ても、テジュンの顔を見ても・・
嫉妬するし同情する

目の前から消えて欲しくなるし、ずっと一緒にいてほしいとも思う

別れたくないのに別れたほうがいいかもしれないと思う
一緒にいたいのに一緒にいたくないと思う

逃げ出したってどうにもならないのに
目の前にいてもいなくても辛くて苦しいのは変わらないのに・・

どうしよう・・この場所から動けない・・
情けない
情けないよ俺・・

何やってんだろ・・







僕は・・一体何やってんだろ・・

イナの許に戻ってきたのに・・
イナと一緒に生きていきたいのに・・

ラブの気配を感じるとこころが疼く・・

イナを傷つけてまで告げるべきことなのか?
僕自身をわかって欲しいと思うのは僕のエゴなのか?

わからない
イナに頼り切っている自分がいる
イナが笑って僕を抱きしめてくれると信じてる
でもイナは

すっかり弱ってるのに・・
僕のせいですっかり弱ってるのに・・


またラブにキスをした・・
ラブに好きだと言った・・

僕達の想いは、簡単には消せないね・・

けど消さなきゃ・・
消さなきゃイナを失う・・

ずるがしこくやればいいのか?
陰でラブを抱いて、何食わぬ顔でイナを抱けばいいのか?

あの、一途なイナをそうやって騙せば
もしかしたらイナはそのほうが楽なのか?

わからない
どうしていいのかわからない

僕は自分にウソをつきたくない
イナにもウソをつきたくない

でもイナにとっては、真実よりも柔らかなウソの方が幸せなのかもしれないね・・

どうしたらいい?どうすればいいんだよ・・

ああ

何やってんだろ・・



替え歌 「嘘はつけない」 by テジュン ロージーさん

言葉にすれば簡単な
愛することにとまどって
よろめくような毎日
今日もあしたも

ただ行きずりの人ならば
こんなに苦しまないよ
忘れる日など来ないさ
嘘はつけない

愛があれば同じだけの辛いこともあると
知りながら悲しみを背負うのが愛かな
知りながら苦しみに耐えるのが愛かな

たとえば心をいつわって
元の世界にもどっても
幸せなんて来ないさ
嘘はつけない

酷い仕打ちとわかってる
おまえをひどく傷つける
ナイフは僕をえぐって
息も出来ない

愛はすべて違う顔で人を試しにくる
うつむいて答えてはその先が見えない
強がってふざけては真実が聴けない

愛はすべて違う顔で人を試しにくる
うつむいて答えてはその先が見えない
強がってふざけては真実が聴けない


(高田みづえ『純愛さがし』)


替え歌 「苦しくて辛すぎる」 by ギョンジン ロージーさん

こわくなるよ 突然
恋のつよさには
自分の想いばかり 
おまえに押しつけて

その瞳に 浮かんだ
烈しい 憎しみ
はじめて気づいた 僕
迷惑だったのか

迷う心映し 遠い記憶
ふいに目の前を よぎってゆく

おまえをこんなに 愛して
なのに ひとりよがりなら
苦しくて 辛すぎる

つぶやく声が 低く
夜に震えてる
恋心は 叫びに
かわる程 熱くて

愛を自分からは もとめないと
あつい想いだけ 捧げてきた

それでも 嫌われたくない
それが ほんとの気持ちさ
見苦しく 愚かでも

おまえの全てを 愛して
なのに ひとりよがりなら
苦しくて 辛すぎる

想いだけ 舞うばかり


(来生たかお『白いラビリンス<迷い>』)



替え歌 「そんなスヒョクに焦らされて」 by ソク ロージーさん

アナタが好きだと 耳元で言った
そんなスヒョクに焦らされ 
今夜もオアズケ…

乙女なムードで ウブなふりをした
そんなスヒョクが得意な
テイコウするふり

甘やかしたら イケナイかもね
ボクはすっかり 飼いならされて
せめてヒトコトききたい
Xデーはいつですか…
今日もお前はスルリと
スリル愉しむ 小悪魔系

ウルんだ瞳で ボクを捉まえた
あんなオマエは 二度とは
還らないのかな…

ボクの「ハウス」は永遠かもね
長いジカンを待ち続けてる
だけどオマエが好きだよ
イツイツの日か イツの日か…
ボクのネガイを叶えて
サイケな夢の 熱帯夜


(高田みづえ『そんなヒロシに騙されて』)



遅刻の理由  オリーさん

僕らは店へ急いでいた、だって遅刻なんだもの。
「僕は遅くとも開店30分前には店に入ることにしている。」
彼の着替えが手間取ってしまったせいなのに、勝手な事をぺらぺらと。
「だったらネクタイを迷わずとっとと締める事だね。」
「店には半端な格好で出たくない。」
「じゃあ着替えを早く始める事だね。」
「そのつもりだ。」
「それはよかった。」
そんな事を言い合って店の前に着いたら、見てしまった。
ラブ君がトラックから降りて走り去るのを・・・
彼の顔が曇った。
「トラックに乗っているのはテジュンさんかな。」
「そうみたい。」
「ちょっと行ってくる。」
「わかった。」
彼はローバーを降りてトラックに近づいて行った。

僕は勝手にトラックの助手席に乗り込んだ。
ビクっとして振り向いた彼の顔には涙の跡があった。
「見られましたか・・」
「ちょっと車出してくれませんか。近くでいい。」
テジュンさんはため息をつくと黙って車のエンジンをかけた。
そして店からちょっと離れた路地裏に車を停めた。

僕は駐車場に車を入れて、店の裏口に向かった。
ラブ君が店の壁に背をつけて座り込んでいた。
僕の足音に気づいて顔を上げたその目に涙が溜まっていた。
「ちょっと話そうか。」
僕がそう言うと、彼は首を横に振った。
「誰とも話したくないよ。」

テジュンさんは唐突に口を開いた。
「とんでもないところを見られましたね。」
「どういう意味?」
「ラブ君とキスしてしまった・・」
「見てませんよ、ラブが車から降りてくるところだけ。」
「そうでしたか。」
「イナと修復できたんじゃ?」
「そのつもりです。でも正直にラブ君との事をイナに話したので、イナも相当揺れてる。
僕のせいです。」
「そうですか。人ごとじゃないな。僕も随分揺れましたから。」
「そうでしたね、でもあなた達はうまくいってるでしょう。」

「スヒョンも僕も戻る場所があったから。」
「ギョンビン君とあの可愛い彼、ですね。」
「そう。スヒョンにはドンジュンがいる。」
「ギョンビン君はどうでした?」
「きついお仕置きをされましたよ。」
「お仕置き?」
「ミンは口数が少ないから面と向かって僕を責めたりしない。
でも押さえてためこんだ感情をぶつけてくるんです。」
「意外だな。」
「激しくぶつかられて、僕もそれに応えて、前よりもお互いがひとつになれた気がします。」
「僕もイナとそうなりたかった。できると思ってたんです。」

ラブ君は話したくないと言って、膝を抱えたまま顔をそむけた。
僕は彼のとなりに腰をおろした。
「カッコいいスーツが汚れるよ。」
「気にしないよ。」
「例のパトロンの人から貰ったんでしょ。」
「知ってるの?」
「ギョンジンがはしゃいでた。時計やら車やら。」
「はしゃいでた?兄さん、よっぽどラブ君にイカれてるんだね。」
「え?」
「兄さんは昔からブランドは着こなしてた。バリーの靴にアルマーニできめてた人だからね。
きっと君の前じゃガチガチに緊張してるんだろうな・・」
「可笑しいくらい。でもさ、貰いすぎじゃん。」
「じゃあ、どのくらいだったらいい?時計だけ?車だけ?服だけ?」
「どれくらいって・・」
「物だから目に見える。多いとか少ないとかわかるよね。でも僕は物を貰ってるとは思ってない。」
「じゃあ何?」
「心かな。物が心を代弁してる。そう思ってるんだ。」
「綺麗事じゃん。」

「ラブと寝ましたか。」
「・・・」
「僕は・・スヒョンと寝ました。」
「え?」
「心で寝ました。二人だけの世界で。」
「それでも戻った?ギョンビン君は何と?」
「ミンは僕の目を見ただけで僕のことがわかります。でも受け入れてくれた。」
「一件落着ですか。」
「どうでしょう。ただ二人の愛は違うんです。」

「両方ないとだめってことですか?」
「欲張りですね。」
「欲張りか・・」
「僕はこの歳まで人に甘えたことがなかった。ずっと意地だけで生きてきましたから。」
「今は違う?」
「甘えたのは生まれて初めてです。それもほとんど同時に二人も・・」
「ギョンビン君とスヒョンさん・」
「だからどっちも大事です。」

「そうかもしれない。でも、人の心って態度や言葉や物でしか表せないでしょう。
それでも難しい時がある。心を伝えるって。」
「・・・」
「話したくないなら、僕の話だけ聞いて。」
「・・・」
「兄さんは本当はとても臆病なんだ。
僕がわざと離れていってから、結婚して家族ができて幸せに暮らしてた。
ある日おなかにベビーがいた奥さんは朝早く教会へ行く為に兄さんの車に1人で乗った。
兄さんは彼女を見送りベッドに戻った。その後すぐにベッドの中でかすかな振動を感じて全てを悟った。
自分の身代わりで愛する人を失ったことを。」
「車に爆弾?」
「そう。仕事がらみの逆恨み。すごく自分を責めたと思う。
だから大切な人を失うことにすごく敏感で臆病なんだ。僕も同じような経験があるからよくわかる。」
「知らなかった。そんな事があったなんて。」

「それは・・」
「ひどい言い訳です。ミンがそばにいないとだめだし、時々スヒョンと目で会話することもやめたくない。」
「うまくやれそうですか。」
「僕はミンを愛している、スヒョンにも愛されていたいと思っている。」
「能動と受動とギリギリのバランス?」
「そんな風に考えたこともなかった。スヒョンとは深い所で静かにひっそりとつながっている。
ミンはもう僕の一部で僕もミンの一部です。お互いの中で息をしている。
こんな二つの愛を共有することは罪でしょうか。」
「僕はどうだろう・・」

「兄さん、エロすぎるところもあるけど、カッコよかったからすごくもてた。
でも自分が主導じゃない関係って慣れてないと思う。だから今怯えてると思う。
もし兄さんのこと思ってくれてるんだったら、離れずに様子を見てあげて。
でもその気がないなら、すっぱり切ってよ。昔僕がしたみたいに。」
「俺だって、ギョンジンのこと嫌いじゃないよ。好きなんだよ。でも・・」
「テジュンさんも好き?」
「そんなつもりじゃなかったのに・・」
「もし兄さんがほんとに君のこと思ってたら、待ってると思う。だから焦らないで。」
「昔のこと、教えてくれてありがとう。」
「内緒にしといてね。叱られそうだから。」
「わかってるよ。」

「テジュンさんはテジュンさんです。ただ僕の話をちょっとしただけ。
でも僕自身の話とは別です。これだけは覚えておいてください。」
「何か?」
「イナは人のことばかり考えて、今まで貧乏くじばかり引いてきた。
あなたがイナと一緒に来ると言った時、やっと大当たりのクジをひいたと、
僕は自分のことのように嬉しかった。だから失望したくない。
イナに何かあったら、僕は何をするかわかりません。」
「脅しみたいだ。」
「脅しです。」
「まいったな。」

「僕がいつか君にナイフ貸してもらってテンパってた時があったでしょ?」
「ああ、祭の時。殺気だってて怖かったよ。」
「ちょうど僕も兄さんと同じ事で悩んでて、僕のせいで彼をなくしたらどうしようって・・」
「確かに危なかったよ。」
「ごめんね。僕は気が強いからああいう風に出ちゃうの。
兄さんは僕より優しいから、オロオロしちゃってるんだよ。」
「ギョンビンの方が気が強いの?」
「知らなかった?じゃなかったら、彼とやっていけないよ。」
「プッ、確かに二人とも強そうだね。」
「やっと笑った。ね、ここだけの話だけど。」
「何?」
「彼って強そうだけど、実は僕の方が強いんだ。」
「げっ!マジ?」
「マジ。」
「プっ!」

その時、ちょうど彼が向こうの路地から歩いてくるのが見えた。
僕らはラブ君をそっとそのままにして、裏口のドアに消えた。
「おかげで一時間も遅刻だ。」
彼が不機嫌そうに呟いたので、僕は彼を壁ぎわに押し付けて言ってやった。
「誰のせいだか、わかってるの。」
彼はちょっと左の眉をぴくんと上げて不服そうな顔をした。
「ネクタイをとっとと選べばいいんだろ。」
その通り。
僕は満足の微笑みを浮かべて、丁寧に彼にキスをした。


裏口のノラ  足バンさん

僕はオールインに飛び出て行ったイナが気になった。

暇を見つけてオールインの裏口を覗くと
イナは厨房につづく通路の木箱にぼんやりと座っていた。
僕はその横に座りイナを覗き込んだ。

「有り金全部すっちまったって顔だな」
「スヒョン…俺…」
「テジュンさんと会った?」
「うん…」
「ヨンナムさんを手伝うんだって?」
「俺…だめだ…自分で何をどう考えていいのかわかんねぇ」

イナは顔を歪めたけれど泣く様子はなかった。

「俺だよ…俺が悪いんだ…みんなみんな俺のせいなんだ…」
「違うよ」
「違わねぇよ…俺がしっかりしてればこんなことになんなかったんだ」
「イナ」
「俺が全部悪いんだ…俺さえ」
「イナっ!」

ちょっと荒げた声にイナはびくんとして僕を見た。
僕はイナの前に回りしゃがんでやつを真っすぐ見た。

「おまえは終ったゲームをとやかく言うやつじゃないだろう」
「スヒョン…」
「そうだよ、確かにおまえが風を起こしたのかもしれない」
「…」
「でもイナ、おまえに罪があるならテジュンさんもラブもギョンジンも同じだけある」
「そんな…」
「おまえが何をしたにせよ、それにどう反応したかは彼ら自身の責任だろう?」
「でも…」
「みんな大人なんだから…誰かのせいなんてバカな話はない」
「…」
「人と人の関わりで誰かひとりが悪いとかいいとかなんてあり得ないよ」

僕はイナの隣に座り直した。

「みんな、すべてのものは繋がってるんだ。
 原因と結果なんてどこにも存在しないし、いいも悪いもない。
 人間が自分たちの都合のいいように考えたそんな言葉に騙されるな」

また野良猫のような目で僕を見つめるイナの肩を抱き寄せた。

「テジュが…」
「ん?」
「テジュが4人で話そうって」
「そう…そんな風にできればすごいな」
「そう?」
「うん…僕たちでさえまだできずにいる」

イナは僕の顔をずいぶん見つめてぽつりと言った。

「どうしてそんな静かな目をしていられるの?」
「ん?」
「おまえたちも…苦しんだんだろ?」
「そうね…苦しんだ分、幸せのある場所がはっきり見える」
「…」

「俺も…そうなれる時が来るかな…」

僕は答えずにイナの頭をくしゃくしゃと撫でてやった。

コンコンという音にふたり顔を上げると、
開いていたドアの辺りにカップを持ったチュニルさんが微笑んで立っていた。

「イナ、珈琲はいかがかな?」
「え?」
「お茶派のチュニルさんが珍しいですね」
「今日仕入れた苦みが強い豆です…ちょっと飲むと落ち着きます」
「…ありがとう…」
「じゃ、イナ僕は戻るから」
「ああ」
「落ち着いたらちゃんとこっちにも来るんだよ」
「ああ」

僕はイナの肩をぽんと叩いて外に出た。
イナは少し不安げな、でも精一杯笑顔をつくって僕を見送った。


店内風景ホンピョとドンヒ  れいんさん

俺とドンヒは出勤時間ギリギリに店に滑り込んだ
ドンヒはしきりと俺のせいだと文句を垂れてる
ちょっとの昼寝のつもりが、ついあんな事やっちまった

・・んなもん、寝ぼけてたんだからしょーがねえだろっ
いつまでもうるせー奴だ
横でブツブツ言ってるドンヒの話は聞き流して、俺は昼間の事を思い出してた

今日、俺とドンヒはヨンナム兄貴の仕事を手伝った
出勤時間までまだ間があったしよ
ドンヒと二人で部屋に篭っていたってろくな事がねえしな
まあ、結果的にはヘンな事になっちまったけどよ

ヨンナム兄貴のトラックに男三人乗り込んだ
考えてみたらそれもなんかアブナイよな
嫌でもぴったり密着しちまう
おまけにヨンナム兄貴のトラックはエアコンがぶっ壊れていて暑くてかなわねえ

なのに兄貴は涼しい顔して
「もともと僕は自然の風が好きなんだ」
とか言っちゃってよ
「暑い、暑い」って言う俺に
ダッシュボックスに入っていたうちわを貸してくれた

だけどよ、ヨンナム兄貴ってすげえんだ
行く先々で
「メシ食ってけ」「一休みしていけ」「土産持って行け」って言われてよ
年下の奴らには慕われて、目上に人には優しくされる
信頼されてるっつーか、人望が厚いっつーか・・
さすが俺の見込んだ兄貴だぜ

んで、俺らも運ぶの手伝ったからよ、思ったより仕事が早く片付いたんだ
これから寄り道ひとつせず、真っすぐ家に帰るなんて、硬い事言うからさ、俺は兄貴を誘ってみた

「よお、兄貴。この後何もないんならよ、店に遊びに来てくんないか?」
「ば、馬鹿!ホンピョ、何言ってるんだ。あの店はヨンナムさんが来る様な所じゃないだろ?」
「うるせえな、ドンヒ。だってよ、俺達いつも誰かのヘルプばっかでさ。
兄貴に同伴出勤してもらったら、ヘルプにつかなくてすむだろ?」

「なるほど、そうだな。確かにいつもチーフの親指ハンカチ専用ガラスの端持たされたり
イヌ先生の黒板の出し入れさせられたり・・」
「そうだろ?俺なんかこの前、ジュンホさんのカールおじさんのつけ髭ゲームに付き合わされて
ひでえ目に合ったぜ。
イヌ先生が振り返る度に失神する客の介抱もうんざりだしよ」

だけど、ヨンナム兄貴はそういう場所は苦手だからとか言ってよ、
結局、爽やかな笑顔で丁重にお断りされたんだ

んな事をぼんやりと考えていたら、ウシクさんが呼びに来た

「ドンヒ君、君に指名入っているけど」
「え?僕にですか?・・誰だろ・・」

けっ!ドンヒの奴!なんでおめえに指名なんだよっ
俺はなんだか癪にさわってドンヒのヘルプにつく事にした
ドンヒの馬鹿は鼻の下伸ばして、ショートカットの女の客の肩に手を回しやがった
女の方もドンヒの太腿に手を置いたりして、随分親しげに話している
初めて会った感じじゃねえな・・

「よお、ドンヒ、そのお姉ちゃん、おまえの知り合いか?」
「お?・・ん、まあな。昔一緒に・・コホン・・走り合った仲だ」
「ふうん・・走り合っただけか?」
「あら、付け加えると、私達、ヒッチハイクで知り合ったその日に・・ねえ?うふふ」
「お?ん・・まあな・・」

なんでえ!二人でニヤニヤしやがってよお!

「ふうん・・でもおタク、ドンヒの好みのタイプじゃねえな」
「おいっ!ホンピョ!失礼な事言うなよ!」
「あら、言ってくれるじゃない?私とドンヒ君はたった数日の間だったけど、とっても濃い時間を過ごしたのよ」
「おい、ミラン。やめろよ」
「ふん、濃い時間ってどんな時間だよ」
「そうね、例えば、会っていきなりのコショコショもそうだけど
閉じ込められたエレベーターをハンドパワーで開けたり、水中で抱き合ってキスしたり・・
とってもスリリングでエキサイテイングな時間を共有したのよ」
「何っ?ドンヒ、おめえこんな洗濯板とンな事やったのかよ」
「失礼ね!あんたさっきから何なのよ!いったいドンヒ君の何?」
「俺か?俺とドンヒは一緒に寝る仲なんだよ」
「なんですって?ドンヒ君、本当なの?あなたいつからそんな趣味に?」
「ち、違うよっ!こら!ホンピョ!そんな誤解される様な言い方やめろよ」
「本当の事じゃんか。風呂も一緒に入ってるしよ、俺こいつに無理やりキスもされたんだぜ。
んでよ、こいついつも俺を抱きしめて眠るしよ」
「ホンピョ!」
「んまあドンヒ君がそんな人だとは思わなかったわ!今日お店が終わるまで待ってようと思ってたのに!」
「え?ほんと?」
「馬鹿野郎!おめえ、この女の顔、好みじゃないって言ってただろ?それにおめえ巨乳が好きだしな」
「ひどいわっ!ドンヒ君!もうあなたの顔なんて見たくもないわ!」

その女はそういい捨ててぷりぷりと怒って帰って行った
ドンヒの奴はがっくりと肩を落としてた
けっ!ざまーみろ!
おめえだけ美味しい目に合わせてたまるかよ
俺の背中トントン係がいなくなると困るしよ
ん?これってやきもち?
ふん!まさかな
とにかく・・
あーすっきりした・・


遅刻の後  オリーさん

僕は店に出て、ウシクを手招きで呼んだ。
「遅れてしゅまない。ちっと野暮用が重なっちって・・」
「チーフ、らりるれなりかけてますよ。」
「さっき、ミンにやられちったから・・」
「店では気をつけてください。冷たく見下す技ができなくなりますよ。」
「しゅまない・・」
「いんです、最近は僕もチーフの気持ちちょっとわかりますから。」
「しょお?」
「でも店ではシャンとしてください。」
「あい・・」
「で、ラブに指名が入っているんですけど。」
「ラブは遅れる。代わりにミンを入れて。ラブの代わりに何でもしますって。」
「わかりました。」
「イナは?」
「今日はオールインに行ってます。」
「わかった。で、ウシクはいつ旅行に行くの?」
「なるべく早く行きたいとは思ってるんですけど・・」
「店の事は心配しなくていいから。先生と相談していつでも行っておいで。」
「はい。」
「ウシク、義父さんは同じ言葉をしゃべるだろう?大丈夫だよ。」
「同じ言葉?」
「弟と奥さんは別の星の言葉をしゃべる。」
「ああ、そうですね。」
「だから心配しないで。きっとうまくいくよ。」
「ありがとうございます。」

「チーフ、おはようございます。」
「テス君おはよう。今日はこっち?」
「テソンさんの手伝いしてます。」
「そうか、あ、ちょっと・・」
「何か?」
「クンクン・・・」
「何ですか?ぼ、僕何か臭います?」
「クンクン・・・」
「臭いですか?」
「テス君、知っておいて貰いたい。」
「な、何でしょう?」
「僕はクリームパンが大好きだ。カスタードがむっちり詰まってるやつ。」
「あ・・」
「とっても大好きだ。一度に2個は食べられる。焼きたてはさぞ美味しいだろうね。」
「ちょっと試作しただけで。」
「僕の意見が必要なら、いつでも試食するから。」
「は、はい。」
「でね・・」
「はい?」
「試食する時はこっそり持ってきて。ミンに見つかるとうるさいから。」
「わかりました。でもこっそり食べて大丈夫ですか?」
「たぶん・・・」

「何?こっそりって?」
「うわっ!ミンっ!何してるっ!」
「何って、ラブ君の代わりに何でもしろって、ウシクさんが。」
「ああ、そうだったか。」
「テス君、おはようございます。」
「おはよう。」
「今日クリームパン作ったんだって。」
「試作したんだ。」
「ミンっ!何で知ってるっ!」
「今テソンさんに聞いたんだけど、何か?」
「あ、いや・・」
「僕も食べてみたいなあ。カスタードがみっちり詰まってるやつ。」
「今度持ってこようか?」
「ほんと!嬉しいなあ。あ、でも僕の分だけでいいです。この人はいらないから。」
「ミン・・やっぱり・・」
「え?」
「いや、早く席に入れ。」
「何怒ってるの?じゃ、テス君またね。クリームパン楽しみにしてるから。」
「わかった、今度ね。」
「テス君、君は察しがいいからわかったと思う。」
「はあ・・」
「とにかく・・頼む。」
「はあ・・」
「ばれないように。」
「はあ・・」

テス君が短い首をひねりながら離れていくと、スヒョンが現れた。
「どこ行ってた?」
「オールインだ。」
「イナ?」
「ああ。」
「どうしてた?」
「ううん、ちょっと弱ってるな。」
「あいつ、一本気だからな。」
「そうだな。」
「おまけに変なとこ意固地だし。」
「そうだな。」
「不器用なくせに突っ張るから。」
「そうだな。」
「でも捨てられた子犬状態で見てられない。」
「お前、言ってて何か感じない?」
「何だ?」
「感じないのか、ふふっ。」
「何だよ、その笑いは。」
「いや、別にいいんだ。ふふっ。」
「笑い事じゃないだろう。」
「確かに。とにかく、もうしばらく見守るしかない。」
「しかたないな。」
「じゃ、僕は店に出るから。あっと、お前こそ、何かトラぶった?」
「いや、ちょっと弟がね。」
「今度は弟か。色々大変だな。」
「大した事じゃない。大丈夫だよ。」
「そっか。」
スヒョンは片手をヒラヒラ振って店の奥に消えた。

そして僕は携帯テーブル水切りのリクエストが入った。
ミンがラブの代わりに上半身ストリップするのをわき目で見ながら
テーブルに向かってほぼ水平に携帯を投げ、上手に蓋を飛ばした。




(リレー?)替え歌 「みんな夢の中」  ロージーさん

恋はみじかい 夢のようなものだけど
人は誰でも 夢をみるのが好きなの
夢のくちづけ 夢の涙
喜びも悲しみも みんな夢の中

やさしい言葉で 恋ははじまるものね
いとしい人を 夢でつかまえたのね
身も心も あげてしまったけど
なんで惜しかろ どうせ夢だもの


悲しい言葉で 暗くなった夢の中
届かない過去に 囚われてゆく心
泣かないで なげかないで
喜びも苦しみも みんな夢の中


(高田恭子『みんな夢の中』)





カジノ 1 ぴかろん

『今夜お前のうちに行くから待ってて。一度四人で話そう・・。その事も相談したいから・・待ってて・・』


テジュンからメールが入ったすぐ後に、スヒョンが来た

また世話になった


すべてのものは繋がっている。原因と結果なんてどこにも存在しないし、いいも悪いもない。人間が自分たちの都合のいいように考えたそんな言葉に騙されるな


スヒョンの言葉を聞くと、俺は自分で立ち上がれそうな気がする

あいつだって苦しんだ
そんな事、俺は気づかなかったけど・・

「苦しんだ分、幸せのある場所がはっきり見える」

そう静かに言ったスヒョンの、深くて優しいまなざしが俺を包み込む

ほんとうにそうなれる?
逃げ出さなければきっと何か掴めるの?

俺の起こした風が、めぐり巡って俺に吹きつけている
ああ
繋がってるね・・こんな事さえも・・

なぁ・・
負けるとわかってる勝負は、しないんだぜ、ギャンブラーはさ・・
勝てる確率が高けりゃ高いほど、強気の勝負に出られる・・

これ
勝負なのかな・・
どういう勝負なのかな・・

誰に勝つのさ
誰に負けるのさ


スヒョン

この勝負に勝つ確率は・・俺にかかってるってことか?

そうだろ?
俺次第で勝つか負けるかが決まる

四人でテーブルを囲んでさ、俺達みんなが勝ちってこともあるよな?

俺達みんながそれぞれの勝つ確率を
それを自分達で決めて・・

全てをつぎ込む


オールイン・・



俺、勝てるかな・・
俺、弱いからな・・
一番びりっけつかもしれない

それでも
俺、勝てるかな・・
テジュンの用意してくれたテーブルに着く事で
俺達みんな、このぬかるみから這い出せるかもしれないな・・

このまま、こんな風に泣いてばかりいたってどうしようもない・・


「おまえは終ったゲームをとやかく言うやつじゃないだろう」


うん

スヒョン

だってさ、言ったってしょうがねぇじゃん・・終わっちまった事なんだからさ・・そうだよ・・終わっちまってるんだもん・・取り戻せねぇ・・
だから・・


何がどういけなかったのか、今度はどうすればいいのか・・
それだけを抜き取ったらもう・・さよならしていいんだよな・・

それができるのかできないのか・・
それも俺次第ってわけか?スヒョン

やるのかやらないのか・・
どっちかなんだよな・・


うん

わかったよスヒョン

ありがと

テーブルに着くよ、俺


cucina_4  妄想省家政婦mayoさん

闇夜が無言の行に入って僕の隣を離れるとテスが僕の側に来た...

「すぐなくなっちゃったね...」
「早く来た連中が食べちゃったからな...」
「みんな美味しいって食べてくれた?」
「ぅん...食べてた...」
「よかった^o^...でも開店したら請求書回さなきゃ...」
「ぉい~みんなから集めるのか?」
「違うよ...オーナーに回すの...」
「たはは...しっかりしてるわ...テス...」
「あたりまえじゃん...店潰すわけいかないもん#...」
「さすが..営業担当だ....」
「まぁね~^o^...」

「ミンミンご両人もくりーむぱん好きなんだって..」
「そう..でもチーフは食べたらマシンで運動させられるだろうな...」
「ぅん...『食べた分は消化してもらわなくちゃ..』ってね...ぁ...それにさ....」
「何...」
「『僕はミンと激しい”運動”してるじゃないか』
 『何言ってるの..僕だけでしょ..』
 『それは....ミンが...』
 『そうだね...でもマシンとこれとは別#.』って言いそうじゃん....彼..凄そうだし....」
「テスぅ^^;;.....」
「えっへっへぇ~ちょっとヤラしいこと言っちゃった..^o^...」

「ったく....さっき電話してただろ?何してるって?」
「ぅん..朝食用のパン焼いてるって...ハーブ入りだって...」
「そっか..じゃぁ明日の朝は絞りたてのオレンジジュースと具だくさんのサラダだな....」
「やった#...明日早起きしよぉっと...」
「起きれんのか?寝坊すけが...」
「ん~...今晩のちぇみ次第...」
「あのなぁ....」
「へっへぇ...^o^...」


「ねぇ...mayoシどうかした?」
「ん?...ぅん...ちょっと....」
「何よ....」
「明日からちょっと留守にするんだ..調査で...」
「そう...寂しい~とかゴネたの?テソンさん....」
「ち...違うよ...」
「....わかった....誰かと一緒?とかって...すんごく#ヤな言い方したんだ..そうでしょ...」
「テス...」

「テソンさん...」
「何...」
「僕等が旅行から帰ってきてからさぁ...ちゃんとひとつになってる?」
「ちょ...ちょっとぉ..店で話す事じゃないだろ...」
「今誰もいないから聞いてんじゃんか#...」

厨房の僕とテスの側には確かに誰もいなかった..
ちょっと離れた作業台にいる闇夜はミンギとソヌと監督に囲まれて何やら話している...

「どうなの?テソンさん....」
「じゃ...じゃれてはいる....けど......そ..それに...飲んだくれの日があったし...」
「飲んだくれたってさぁ...朝があるじゃんかぁ..」
「ぅ..ぅん...」

「ねぇ...やっぱ気になるの?ちぇみのこと...」
「どっかで気にしてるのかな.....」
「そう..僕等と一緒にいるとき普通にしてるのわかってるよ...2人の時違うの?」
「闇夜は変わらないよ...僕だけの問題かもしれない....」
「....mayoシはちゃんとテソンさん見てるよ....2人の時はテソンさんしか見てないはずでしょ」
「ぅん....」

「ちぇみを想うmayoシが気になっちゃうの?まだ...」
「かな....互いの想いが強いからね...じゃなきゃ深く閉じこめられない...あんな風に..」
「それができるからねぇ...あの2人は....」
「ぅん...」
「憎たらしいよねぇ~....」
「テスぅ...」


テスがぽちゃぽちゃの手を僕の頬にスリスリしたときウシクがオーダーを告げに来た
耳に入った闇夜は食材を用意して僕とテスの隣に来てテキパキとの準備を始め...
僕が調理をしやすいように食材を並べた...いつものように...
そして闇夜はまた僕の側を離れ黙々と洗い物を始めた

闇夜を目線で追っていたテスは僕の隣で口端をちょっと上げて笑った....
そしてテスは僕に爆弾を落とした...

「ふふん#いいこと教えてあげよっか...」
「何.....」
「2人はね...メールで話してる...」
「えっ#....」

僕の包丁を握っている手が止まった...














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