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ぴかろんの日常
リレー企画 121
闇夜のお仕事_1 妄想省家政婦mayoさん
「テソンさん..mayoシ..何処回るの?」
「東の江原道と...南の忠清北道の長項(チャンハン)と...あとはソウル市内かな...」
「長項って...随分距離あるよね.....」
「忠清北道と忠清南道の境だからね...3時間はかかるかな...」
「闇夜は東と南..どっちから行くんだ?」
「気分で決めるってさ...」
「あいつらしいな..」
「ぅん...」
僕はちぇみとテソンさんと屋上で洗濯物を干しながら3人で軽く踊った...
でも僕は途中で踊るのを止めた..
「....つまんない....mayoシと踊った方がリズムに乗れる....」
「「^^;..テス...^^;;」」
ちぇみとテソンさんは困った顔で俯いた僕の頭を交互にくしゃくしゃした....
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おいしい仕事の調査を1件済ませてからソウル駅に向かったときには昼をとうに過ぎていた...
ちょっと迷って南の長項(チャンハン)行きの切符を買った
席に座った途端に携帯が震えた...ミンギだ...
デッキに移って..♪ipot♪のイヤホンを耳から外して携帯を開いた...
「ヌぅぅ~~ナぁぁ~~~」
「何....」
「へっへぇ~...昨日..先輩とデートスかぁ?」
「ォモ...ソヌさん喋ったの?」
「喋ったつーか...先輩が..工房にオーダーしたって..ぺろっ#と口に出したんス...」
「ぁぃゃ...隙だらけ...」
「だよねぇ~...」
「ん?...一緒に行ったときはオーダーしてなかったけどな...」
「先輩さぁー...後でコソコソ..ひとりで行ったんじゃないスかぁ?」
「ぷっ#そっか...」
「でさ....監督...むくれてさぁ..今日のゴム技先輩#...だって#けっけ...」
「たはは..ミンギ#ちゃんと撮っててよ#」
「うぃーっス...」
「監督にフカヒレ追加注文しましたって言っておいて..」
「監督もう食べたんスかぁ?...」
「そうみたい...アトリエに直接届くよう手配したから...」
「了解ッス...」
「っと..ぁ..ミンギ...調べて欲しいことあるんだ...」
「今度も..ねーちゃん系スか?」
「ぅん...スパイ小屋にメールで送っておいた...」
「OK...今回の褒美何スか?」
「何がいい...」
「シャツ#..面白いプリントあってさぁー...」
「ぷっ#もう頼んであるんでしょ...」
「ぁ..ぁはは....そぅ......ス」
「わかった#..ちゃんと調べてよ...」
「了解...いつ帰るんスか?」
「帰らないかも.....」
「ヌナぁぁ~~~」
電話を切ると...また震えた...シチュン?...ぷっ...メイのことか...
「mayoシ~~~ToT...メイがよぉぉ...昨日の夜..帰ってこねぇんだぁ...」
「たはっ^^;;...喧嘩ですね...例のドラマの件?」
「ぉぅ!そうよそうよ!知ってたか?」
メイは警備の途中...ドラマ制作会社の関係者にスカウトされていた...
新しいドラマの主役級のキャスティングにメイは心が動いた..
メイがシノプシスを読んでみてくれとメールで送って寄こし..
読んだところ内容的にかなり面白い...ドラマに出たら人気も出るだろう
(MBC:私の名前はキム・サンスン...最高視聴率を獲得し韓国で先日放送終了)
「メイ~...共演者もいいじゃんか....ヒョンビンに...♪ダニエル・ハニーじゃない~」
「そうなのよ#...まよ#...2人ともシチュンより顔小さいしさ#」
「たはは^^;;...ぅん...ダニエル・ハニー素敵よねぇ....」
「そうそう#.....」
「内容も面白いと思うし....」
「ぅん....でもさぁー...条件がねぇ.....」
その役は6~7kgの体重増加をすることが条件だった...
で...シチュンに相談して...喧嘩になった....昨日の夜遅くにメイは電話をくれた...
「俺よぉ...どっちでもいいって言っちまった...メイの好きにしろってよぉ...」
「その言い方が気にいらないって..怒った.....」
「ぉぅ!プリプリよぉ#『アンタはアタシが他の男とち◎うしても平気か#』ってよ...」
「ぷっ...ホントは嫌なんでしょ?シチュンさん...」
「当ったりめーじゃんか...それに..メイはよ...今の仕事好きだろ?」
「ぅん...そういうことちゃんと言ったの?メイに...」
「言う前に出ていっちまったんだよぉ...なぁ...何処にいるかわかるか?携帯にも出ねぇ..」
「仕事仲間んとこだよ...シチュンさんとこから近い...場所は...これこれ...」
「ぉ!ぉ!サンキュ#....行ってみるよ#」
「ぅん....メイは断るって言ってた..従兄弟が出るんじゃないかな..」
「ぉ..そっか...じゃぁ...メイと..部屋に戻って来てぇ..てへへ....店に出れっかな......」
「シチュンさん##」
「あへへほぉー#サンキュ~mayoシ.....」
「ん~」
ふぅ....デッキから戻り座席に座った....ほどなくまた携帯が震えた...
テソンだ.......またデッキに移って電話に出た
「今何処?」
「天安過ぎたとこ.....」
「ん....お昼食べた?」
「ぁ...ぉ...」
「やっぱり....食べてないんだね...」
「ぉん...忘れてた....」
「駄目だなぁ...」
「ぅぅん...」
「夜は食べなきゃ駄目だよ...」
「ぅん...」
「また電話する...」
「ぅん....」
デッキから戻ってやっと..座席にゆったり座った.....
波打ち際 ぴかろん
ベッドの中で目が覚めた
けだるい
うつ伏せで寝ていた俺は頭を上げて片目をうっすらとあける
なんかいつもと違うカンジ…
なんでかな…
ぼんやりした頭を、目をこすりながら覚醒させていく
ベッドの端に座り、周りを見回す
ん?
はだか?
え?
…あ…
そか…昨日…
俺の意識は突然ハッキリした
昨日の夜テジュンが来て、アレやコレやして…
床に落ちていた自分のシャツを羽織り、テジュンの姿を探した
もう帰っちゃった?
何にも言わずに?
キョロキョロしていたら寝室のドアが開いた
「起きた?」
爽やかな笑顔のテジュンがいた
俺は急に恥ずかしくなって俯いた
まだズボンを穿いてなかった
「ご飯できてるよ。一緒に食べよ♪」
「え…」
俺はテジュンに腕をひっぱられ、シャツを羽織った姿でキッチンまで連れて行かれた
テーブルには朝食が準備されている
「作ったの?材料あったの?」
「さっき買いに行った」
「…。わざわざ?」
「ん」
テーブルを見つめながら俺はのろのろと椅子に座った
「食べよう。いただきまぁっす」
テジュンは元気よくそう言ってトーストに噛り付いた
俺はコップに入った野菜ジュースに手を伸ばした
飲みながら笑いがこみ上げてくるのを抑えられなかった
サラダを口に頬張ったテジュンが俺を見て言った
「なによ。変?」
「…。どんな立派な朝メシかと思ったら…」
トーストと目玉焼き、ウインナーソテーにケチャップがかかったもの、野菜ジュースにミルクに野菜サラダ…トマトとレタスときゅうりだけ…
「王様の朝飯だな…」
「なんだよ…」
「サンキュ…」
俺はにっこり笑ってジュースを置き、フォークで目玉焼きを切り始めた
くふふ…目玉焼きか…俺でもできるぞ…
とろりとした半熟の黄身が、固まった白身に絡む
一切れを口に入れ、味わった
胸の奥に痛みを感じ、涙が零れ落ちた
テジュンに見られないように、俯いて口を動かした
トーストを手にとり、噛み付く
一噛みするたびにずきんずきんと心が痛む
なんで泣く?
こんなに優しくしてくれてるのに…
サラダを口に押し込んで、俯いたまま口をモゴモゴしていた
「美味いか?」
くったくのないテジュンの声
顔があげられない
口の中の物を慌てて飲み込もうとしたら、喉につまりかけた
胸をトントンし、ミルクを流し込み、ようやくつかえが降りた
ちょうどいい
涙目になってても不審に思われない…
俺はテジュンを見て答えた
「…美味いよ…」
「何泣いてるんだよ」
間髪を入れずにテジュンが言った
「の…喉に詰まっちゃって…」
「その前から泣いてたじゃないか…」
何も言えなかった
何故涙が出るのか…
説明したくなかった…
テジュンは俺の顔に手を伸ばして涙を拭いた
ごめん…テジュン…
お前はこんなに優しいのに
こんなに優しくしてくれるのに
その優しさの中に
俺は
ラブの
影を見る…
拭われた頬に、後から後から涙が溢れる
テジュンは立ち上がって俺を見下ろした
どこにも行かないで!
叫びそうだった
こんな俺を…
どうしても嫉妬が抜けない俺を…
見捨てないで…テジュン…
テジュンはゆっくりと体を動かした
そして俺の隣の椅子に座り、俺の肩を抱き寄せた
泣いてばかりだ…情けない…
「言っとくけど、誰かのために朝食の準備をしたのは、これが初めてだぞ」
落ち着いたテジュンの声が胸に響く
「お前が初めてだ…」
俺の頭を抱きしめるテジュン
けど…
ラブと一緒に朝ご飯食べたんだろ?
ああ
いつまでもいじけている俺は、なんてみっともない男だろう…
テジュンはまた俺の涙を拭い、フォークを取って目玉焼きを一切れ俺の口元に持ってきた
「あ~ん」
涙でくしゃくしゃの顔のまま、俺は頑張って口をあけた
テジュンが目玉焼きを放り込む
頑張って噛む
味がしない…
頑張って飲み込む
喉にへばりつくようだ
テジュンはそのあとも、トマトやウインナーを俺の口に運ぶ
頑張って口をあけ、頑張って噛み、頑張って飲み込んだ
ラブの顔が浮んでは消え、その想いから離れられない俺は苦しくて堪らなかった
テジュンの親指が、俺の口元を拭う
ケチャップやトマトの汁がついていたからだ
拭った指を舐めながら俺を見つめるテジュン…
情けない俺は、そんな色っぽいテジュンの顔を見て、その向こうにまたラブの顔を思い浮かべる
しゃくり上げそうになったとき、テジュンが俺に顔を寄せた
唇を丁寧に啄ばむ
体の芯が熱を帯びる
俺の唇をこじ開けようとするテジュンの舌
俺は拒んだ…
控え室にて 足バンさん
「スヒョンさん…ドンジュン君どうかしたんですか?」
僕のお客様が途切れた時間、
控え室で自分の書類に目を通しているとソクさんが声を掛けてきた。
白い壁に囲まれたその小さな部屋にはテーブルと
比較的座り心地のいい椅子が何脚もおいてある。
天井には四角い天窓があって店内で唯一都会の空が覗ける場所だ。
「今日あいつボーっとしてるでしょ」
「そう…いつものノリじゃないってスヒョクが心配してました」
「まぁ…ん…いろいろ…あるんでしょう…」
「若いやつらとつき合うのは大変ですね」
「ふふ…相変わらずスヒョクにやられてますか」
「やられっぱなしです」
「まだオアズケですか?」
「やぁ…うはは…まぁそういうわけです」
照れくさそうに頭をかいて笑うソクさんは本当に明るくなった。
祭の時に彼から感じたあの絶望的な心の闇に
スヒョクとの出会いで大きな明かりがさしているのだろう。
「ソクさん変わりましたね」
「ええ…まぁ…」
「あなたの想いを読んでしまった時は一時僕まで参っちゃって」
「ご迷惑をおかけしました」
「いい出会いがあってよかった」
「あなたも…でしょ?」
「うん…ふふ」
「ふふふ」
部屋の隅にある珈琲メーカーのちょっと濃くなってしまった珈琲を飲みながら
少し店のことなどの話をした。
ソクさんの立場がまだはっきりしていないのは僕も気になっていた。
「でも最近スヒョクとの二人羽織りみたいな接客に人気が出てきたようですよ」
「ホントですか?スヒョクには叱られるんだけど」
「もうちょっとその線で詰めてみましょうか」
「ははぁ!嬉しいな!」
「ミンチョルとも話してみます」
「よろしくお願いします!」
ソクさんは僕の手の中にある書類に目を留めた。
「最近そのマークの封筒よく見かけますね」
「ああ…これ映画のプロダクションからのものです」
「映画の話って本当なんですね」
「再三お断りしてるんですが…是非会いたいとまで言ってきて」
「何で断るんです?」
「ダメですよ…できない」
「どうして?」
「難しいテーマの話なんです」
「難しい?」
「ええ…心を病んだ男ですよ…とてもじゃないけど無理ですよ」
「へぇ…どんな話です?」
「いや…まだ台本はできてないんですが」
「ハッピーエンドですか?」
「え?」
「いや…ハッピーエンドがいいですよね」
「ああ…たぶん…大筋ではそんな感じでした」
ソクさんはもう冷めてしまった珈琲のカップを見つめてぽつりと言った。
「嫌なことばかりが目立つ世の中だから…希望の持てる愛に満ちた映画がいいな」
「…」
「今は物には満たされてるけれど…心の乾いてる人って多いから…」
「…」
「あ、いや、プッシュしてるわけじゃないですよ」
「わかってますよ」
「でも…台本だけでも読まれたらいかがです?」
「ん…」
「断るのはそれからでも遅くないし。ただで一冊本を読んだと思えばいいじゃないですか」
「ふふ…なるほどね」
バッタン!
「あああ!ソクさん!こんなところにいた!」
「スヒョク…な、なにごと?」
「俺とセットで指名です!ああカップなんていいから、ほらほら早く来て下さい!」
「え、あ、はいはい!」
飛び上がったソクさんに素早くウィンクすると
彼も(たぶんウィンクしたつもりで)両目をバチンと閉じて嬉しそうに出て行った。
ひとりになった部屋で、僕は何となくドンジュンの顔を想い描きながら
プロダクションからの書類をぱらぱらとめくった。
愛に満ちた映画か…。
企画書には
「愛する者(男性)の死が受け入れられず心を閉じている元医者、ある女性との出会い、再生」
とさらりと書かれていた。
波打ち際 2 ぴかろん
唇を離して俺を見つめるテジュン
俺はテジュンの皿に手を伸ばして、フォークを掴み、目玉焼きを一切れ刺そうとした
刺さらない
上手くできない
なぁ…ラブとこうやって『食べさせあいこ』してたんだろ?!なぁっ…
俺はフォークを放り出し、指でその一切れを掴み、テジュンの口元に押し付けた
テジュンは俺を見つめながらそれを食べた
また一瞬、テジュンの思考が流れ込む
ああ…こんな…
思い浮かんだ映像を掻き消して、テジュンの口にトマトを押し付け、それからウインナーを押し付けた
俺の指にはケチャップやマヨネーズが絡まっていた
テジュンを見ながらまた涙を流す
どうしてこう…俺は…弱いんだろう…
俺の、調味料だらけの手を掴み、テジュンは口に入れた
指を1本1本丁寧に舐める
いやらしい…
テジュンの唇が俺の指を包み込むたびに、体の芯が火に炙られる
電流が流れる
テジュンの唇は俺のてのひらを愛撫し、そして手首に優しい接吻を落とす
火が…つきそうになる…
手を引っ込めようとすると強い力でひっぱられ、抱きしめられた
「なんで泣く?なんで泣くんだよ、イナ!僕はそばにいるじゃないか!」
黙って泣きじゃくる俺の髪にくちづけして呟くテジュン
「何をやっても…ラブの姿が見えるの?…僕は…どうすればいいの?」
「…」
テジュンの胸の中で呼吸した
苦しくて辛くて気が遠くなりそうだった
テジュンの中にあるラブとの記憶に俺は狂いそうなほど嫉妬している
抜け出したい
抜け出せるはずなんだ
留まっているのは
俺が…俺が…拘るから…
「今夜…。店が終わったら…出発しよう」
「…え?」
「四人で旅行しよう」
「…え…今日?!こんなに早く?!」
心の準備が…
「早いほうがいい…もうこんな想いをさせたくない!僕だってこんな気持ちのままでいたくない!」
「でも…ミンチョルに…」
「全部任せてくれ。お前は旅行の準備をしろ。一泊か二泊…」
「…」
今夜、店に迎えに行くと、テジュンは強い調子で言った
そしてまた俺に残りの朝食を食べさせた
テジュンは、仕事があるからと言って帰って行った
皿もグラスも洗ってくれた
俺はまたのろのろと着替えをカバンに詰め込む
テジュンに…ついていけば…何かが見えてくる?
携帯を取り出して、ミンチョルの番号を押した
ワンコールしたところで思い直してそれを切り、俺はスヒョンに電話した
『イナ?』
「…今夜、店が終わったら…四人で旅行に行くんだって…」
『…そう…。早いほうがいいよ。すっきりさせておいで』
「スヒョン。俺ってこんなにうじうじした性格だったっけ…」
『…イナ…』
「何しててもテジュンの後ろにラブを見つけてしまう」
『…』
「スヒョンにもミンチョルにも…みんなに心配かけてるのにさ…。早くいつもの俺に戻りたいのにさ…。俺…」
『焦るな』
「…だってさ…」
『じっくり考えればいい』
「うざいだろ?こんな俺」
『たまにはいいさ』
「…抜け出せるかな…」
『お前がその気になりゃすぐにでも』
「…その気になってもすぐ逆戻りしちまう…」
『それは本気で前向こうとしてないからだよ』
「…」
『ゆっくりでいいから。甘えないでしっかり現実を理解しろ』
「…してるつもりだ…」
『ラブやギョンジンともちゃんと話して、あいつらの現実も理解しろ。そうすればきっと道は拓けるよ』
「…」
『行っておいで。きっといい結果になる』
「…そうかな…」
『大丈夫』
「…ありがと…」
『土産はいいから』
「…ふっ…」
電話を切った
ミンチョルでなくスヒョンを選んだのは
きっと、明確な前向きの言葉が欲しかったからだろう…
ミンチョルだってきっと…そんな言葉をくれるだろうけどな…
すぐ怒るしな…
すぐ威張るし…
余計な事言うし…
で、喧嘩になるし…
俺はもう一度ミンチョルの番号をプッシュした
すぐに出た
『イナ!どうした!』
「…ミンチョル…」
心配してくれてる…
ごめんなミンチョル…ごめん
「今日さ…」
『旅行か?』
「んああ…」
『テジュンさんから電話貰ったよ。大丈夫か?』
「…いいの?」
『ウシクたちも今日から店に出るって連絡あったし、大丈夫だ。それより、ちゃんとカタをつけてこいよ』
「…ん…」
『大丈夫なのか?僕も行こうか?』
「何言ってんだよ…」
『心配だ。お前、すぐ泣くからな』
「…」
『子供だし』
「…」
『感情で行動する』
「…」
『…おい!反論しろよ!』
「…さんきゅ…」
『…イナ…』
「…愛してるよ、ミンチョル」
『…イ…』
一方的に電話を切った
スヒョンの言葉もミンチョルの言葉も、どちらも有難くてまた俺は泣いた
すぐ泣くし子供だし感情で行動する俺は、一人でめそめそと泣いた
泣き止んでから、俺は荷造りに没頭した…
煙草 足バンさん
水の配達を終えて帰るとBHCの連中はもう仕事に出たあとだ。
祭が成功したとかでみんな忙しそう。
ソクさんも何だか僕の手伝いより店に顔を出す時間が増えてるし。
ソクさんといえばスヒョク君も頻繁にここに来るようになったな。
あのかわいい変なふたり組もほとんど寮に帰らずにうちに来る。
つい最近まで配達の連中くらいしか来なかったここも、ずいぶん賑やかになった。
何度も整理して叔父貴のところへ行こうと思ったけど
こんな生活も悪くないな。
古い顧客回りに出てもらったテジュンはまだ帰っていない。
庭の井戸水をタライに汲み顔を洗い汗を拭き
ついでにその辺りの植木にその水を掛けてやる。
庭の片隅に芽を出したいくつかの朝顔には少し余分に水をやる。
そして大きな石のくぼみにも水を入れてやる。
ここはすずめ達の水場。
四角い縁台に腰を下ろして煙草をふかす。
煙草…やめようと思ってもやめられないな。
火をつける度に昔さんざん減らせと言われ続けたことを思い出す。
そして夕闇迫るこんな時間にこうして空を見上げるのが
あの人とのささやかな思い出の日課になっている。
「ただいま」
「ああテジュン…ご苦労さま…慣れないと疲れるだろ?」
「ちょっと腰にきたかな」
「まぁぼちぼちやれよ…先が見えるまで」
「ああ」
テジュンは縁台の側に来るとため息をついて端に座った。
「ヨンナム…今晩から泊まりで出掛けたいんだ」
「ははぁー忙しいやつだな…僕の方は一向にかまわないけど」
「悪いな…急な話で…カタつけたいことがあってさ」
「あのイナ君と?それともラブ君と?」
「うん…2人と…プラス1人…」
「…」
僕は手元で赤くひかる煙草の火を見つめながら聞いた。
「なぁ…今度はおまえ…ちゃんと自分に正直になってるんだろうな」
「ああ…そのつもりだ」
「もう2度と…僕に殴らせるなよ」
「ああ…わかってる」
「…吸うか?」
「うん」
テジュンは僕が差し出した1本に僕の煙草から火を移すと
ちょっと横を向いてふぅっと煙を吐いた。
僕ら煙草の吸い方まで似てるって…彼女にそう言われたんだっけな。
「その辺に吸い殻捨てるなよ」
「わかってるよ」
「おまえホテルマンのくせにそれだけは癖が悪かったからな」
「もうしてませんって!」
「辞めて…後悔してないの?ホテル」
「してない」
「そっか…本気なんだな」
「本気だよ」
「変わったなおまえ」
「ああ…自分でもそう思う」
「メシ食って行く?」
「いや仕度して店に迎えに行くから」
「帰りの予定が決まったら連絡入れろよ」
「了解」
テジュンは縁台の上の陶器の灰皿で嫌味なくらい丁寧に火を消して
そして家に入ろうとしてイタズラっぽく振り向いた。
「ひと雨きそうなのに水まいたの?」
「ひと言余計!早く仕度してさっさと行け色男!」
空を見上げると暗い雲がかかっている。
ホント…ひと雨きそう。
僕は玄関先の鳥かごを部屋に入れ
腹を空かせて帰って来るやつらのためのメシ作りに取りかかった。
旅立つ前 1 ぴかろん
夕方、荷物を詰めたカバンを持ってBHC…いや、『オールイン』に出かけた
今日も『オールイン』に出勤だ…
旅行から帰ってきたら、またもとのようにBHCと『オールイン』とのかけもちができるだろうか
はぁ~
ため息をつきながら店に向かっていた
「イナさん!」
「ん?…ウシク…」
「あ、先生、僕ここで降りる」
「そう?じゃあ僕は車を置いてくるね」
「うん…」
ウシクは車から降り、イヌ先生に手を振って、俺と一緒に歩き出した
「ご迷惑おかけしました。今日から店に出ます」
「…。うまくいったみたいだな。明るい顔してる…」
「うん…。ほんとに…」
ウシクの嬉しそうな顔と、でもどこか寂しげな瞳が、苦しかったに違いないウシクと先生の旅を物語っていた
「店はどう?かわりない?」
「一泊しかしてねぇのにそんなに変わるかよ!」
「あは…そりゃそうだね」
「…俺、昨日から『オールイン』に出てるから…わかんねぇんだ…実をいうと…」
「え?なんで?」
「…ん…ちっとさ…」
「…」
「んで俺も今夜から…旅行だ…」
「旅行?テジュンさんとかい?」
「…ん。それと…ギョンジンとラブ…」
「…」
「ふっ…」
「きっと…うまくいくよ」
「…そうかな…」
「あなたのそばには、テジュンさんがいる。だからきっと…うまくいく」
「…ウシク…」
「僕だってうまくいったんだもの…大丈夫だよ、イナさん」
「…そか…」
「信じてないでしょ。ふん。帰ってきたときが楽しみだな」
「…ウシク…」
あんなに不安定だったウシクが、元に戻ってる
ううん
戻っているというより、もっと…輝いている…
「ウシク…愛されてるぅってカンジがするな、お前」
「あは…えへへ」
照れて笑うウシクが眩しい
駐車場から歩いてきたイヌ先生が俺たちを見て微笑む
「うわぁ…かっくいーな、ウシク…。お前あの人と…うっわぁ~」
ふざけてからかうと、ウシクは先生の方を振り向いて、そして怒鳴った
「んもうっ!眼鏡取って!取って取って取って早くっ!」
「ウシク…」
「イナさんに見られちゃったじゃんか!もうっ」
相変わらずヤキモチやきなんだなぁ…
先生はそっと眼鏡を外して柔らかく微笑む
「もう…。さっさと歩いてきてよ!」
「だって…腰が痛い…」
「あ…ごめん…」
「…くふっ…」
先生に絡みつくウシク
ウシクに色っぽくキスする先生…
腰が痛いのは…そういう事をいっぱいしたからって事かよ…
「あんのぉぉ…見せつけないでくれる?」
「「あっ…ごめぇぇん」」
「幸せそうで何よりだ」
「イナさんも…」
「ん?」
「そうなるよ。きっと」
「…。さんきゅ」
先生とウシクはくっつきまくってじゃれあいながらBHCに、俺はカバンを抱いて『オールイン』に入っていった
今日も順調な客の入り
イナ目当ての客は『オールイン』に流れているが、それでも新人人気やウシクと先生の新しいパフォーマンスなんかもあり、満員御礼である
ドンヒとホンピョは、相変わらずドンヒの『走り出したらブレーキがきかない』パフォーマンスで客に受けている
その分毎日ホンピョが泣いている…。そして必ずドンヒが裏でホンピョに謝り、タバコだの飴だのを与えている…。
ギョンジンは…ラブに、ソクさんは(仮採用だけど)スヒョクに、それぞれくっついてうっとおしがられている。それもウリだ…。
特にギョンジンの技「襟巻き」はお客様には好評である。なんでも色々なバージョンがあるとかで、向上心(?)のあるギョンジンは、リストを作っており、ラブに知られないようにお客様にそれを見せてリクエストを受けているらしい…。巻きついてラブに怒られるまでがセットだそうだ…。
そのリストをちらっと見せてもらった
「後ろから襟巻き」「後ろからストール」「後ろから腰巻き」「子泣きジジイ」「前から腰巻き」「前からひざ掛け」「前から毛布」「ハニーキッス(濃厚)」
確かに…。どれもこれもお客様が喜び、ラブが激怒する技ばかりだろう…ケホン。
こんな人がミンの兄だなんて…。ケホン
ウシクと先生の新しいパフォーマンスだが、お客様が注文したビビンバを先生が混ぜ混ぜする、お客様に来たメールを消去する(^^;;)、ウシクがお客様の相手をしているのを、すこし離れたところから先生が涙目で見つめる…という、先生ネタが多い
「まだあるんだよ。傘をへし折るとか僕の後を隠れながらつけるとか…。でもちょっと今先生、腰が痛いから…」
…。幸せそうで何よりだ…
「チーフ…。夕方イナさんに会った」
「ん?ああ」
「旅行いくんだってね…。すごく不安そうな顔してた…」
「うん…」
「イナさんがこんなに沈んでるの…僕、初めてだ…」
「僕だって…」
「うまく…いくといいね…。だってさ。ラブもギョンジンも…もう…ほら…すっげぇ元気じゃん?」
「うん…あいつらは免疫があるからな…」
「イナさんは…ない?」
「ありそうで…ないんだな…」
「そっか…。一応励ましたんだけど…大丈夫かな…」
「…ん…僕も気になってはいるんだけどな…」
ウシクとそんな会話を交わした
客足が途切れたので、僕は裏に行ってコーヒーを飲んだ
「僕にも一杯くれないか?」
スヒョンが顔を出した
テソンが黙ってスヒョンにコーヒーを渡す
カップを軽く上げて微笑むスヒョン
その仕種をぼんやりと見ていたら、スヒョンの視線が僕の視線と絡まった
どきっ
「ちょっと…いかない?」
「…え…」
旅立つ前 2 ぴかろん
「お前も気になってるんでしょ?」
「…」
「元気にやってるかどうか…覗きにいかないか?」
イナの事だとピンときた
スヒョンはコーヒーを置き、後で飲むからこのままにしておいてとテソンに声をかけて裏口のドアに向かった
僕はテソンにコーヒーの礼を言ってスヒョンの後を追った
スヒョンはドアを開けると、僕の背中に手を添えて僕を先に外に出した
後頭部にチリリと何かを感じたが、別に浮気をしにいくわけでもないので気にせず進んだ
外に出て『オールイン』の裏口の前で、スヒョンはふぅっとため息をついた
「見ても仕方ないとは思うんだけどね…」
心配そうな目をして笑うスヒョンを見つめて、僕も同じ気持ちだよと呟いた
「ほっとけなくて…」
スヒョンは僕の方を見て微笑んだ
僕達は『オールイン』の扉を開けて中に入った
「ドンジュンさん!今…二人が出ていきましたっ!」
「え?二人って?」
「ミンチョルさんとスヒョンさん!」
「…どこへ?」
「向かいへ入っていきましたっ!」
「…ああ、『オールイン』か…。じゃ、イナさんの様子見にいったんだよ…。今朝もイナさんから電話があったみたいだし…。心配してたからな、スヒョン」
「どうして二人で行くんですかっ!一人ずつで見に行けばいいじゃないですかっきいっ!」
「…ああ…そうだよねぇ…」
「ドンジュンさん…どしたんです?膨れ方に勢いがないですよ?ほっぺたに穴でも開いてるんですか?」
「何言ってんの…膨れてるよ…ほら…。ふぅっ…」
「膨れたうちに入らないですよぉ…つまんないな…僕一人で目ぇ吊り上げてても楽しくないですもん。もっと膨れてくださいよ!」
「あ~はいはい…。はぁ~っ…」
「…。なんだよっ!すごくつまんないっ!」
『オールイン』はイナの連日の出勤で盛り上がっていた
やっぱりアイツは人気者だな…
裏手からこっそり店を覗こうとしてたらチュニルさんに見つかった
「店に出ますか?」
「いや…それは(^^;;)」
「イナの様子を見に?」
「「ええ」」
チュニルさんは少し涙目になって微笑み、カーテンで仕切られた通路に案内してくれた
スヒョンがカーテンと壁の間から少し顔を覗かせて様子を窺う
「笑顔だよ…元気といえば元気かな…」
店から声が聞こえる
イナの笑い声がする
いつもBHCで聞いているはずなのにな…
その声、はやくBHCで聞きたいな…
「イナさ~ん、『がっつり抱き合い耳にカプ』ご指名でぇぇす」
「はいよっ…ったく今日はこれが多いなぁ」
「スヒョン、なんだって?!」
「『がっつり抱き合い耳にカプ』だって…」
「なにそれ!スヒョン知ってる?」
「いや、知らない…」
「どうしてそんな技をBHCでは出さないんだ!」
「見るか?」
「見たい!」
「じゃこっちにおいで」
スヒョンが少しカーテンを持ち上げ、僕の場所を作ってくれた
僕はその場所からイナの様子を窺った
カーテンを押えるスヒョンの手が、僕の肩に触れそうで触れない
左肩が熱を帯びたような気がした
少し離れた席で、イナは立ち上がり、チョングさんとがっつりと抱き合っている
そして嬉しそうな顔をして、チョングさんの耳にがぶっと噛み付いた…
僕はイナがチョングさんの耳に噛み付いた瞬間、思わず口に手を当てた
「あんな技…隠してたのかアイツ…」
驚いていると、隣でスヒョンがくすくす笑う
「なんだ。なにが可笑しい」
「だって…あの技は…チョングさん相手でないと無理だろ?」
「どうして!やろうと思えば僕とだってできるだろう?」
「…くくっ…やりたいの?」
「…やりたくはないけど…」
「チョングさんの耳、とがっててかぶりつきやすそうじゃないか…」
「…ああ…そうか…」
「イナさ~ん、こっち『がっつり抱き合う三連発』お願いします」
「イナ~。そのあとこっちの『旧友とがっつり抱き合ってわかれを惜しむ』だ!」
「そのあとは『取り乱すのをチョングに抱きかかえられる』」
「『冷凍車で暖めあう』もよろしくぅ~」
「チョングさん絡みが多いな…」
「そりゃそうだよ、親友っていうか…兄弟みたいなもんだろ?」
「…BHCではあんなに密着しない…」
「…ミンチョル?妬いてるの?」
「違うよ…。なんだか…チョングさんに抱きかかえられてるイナみてたら…弱々しく見えて…」
「…」
スヒョンは無言でポンポンと僕の肩を叩き、そのままそこに手を置いた
どきんとした
横目でスヒョンを見た
スヒョンはイナの方を見てくすくす笑ったり、心配そうな顔をしたりして、そのまま僕にいろいろと解説していた
「あいつの辛さって…もしかしたら僕達には解らないのかもしれないね…」
スヒョンはイナを見つめたまま呟いた
そうかもしれない
僕達より、むしろドンジュンやミンの方がイナの気持ちをわかってやれるのかもしれない
「僕達は…あれでよかったんだよね…」
僕が呟くとスヒョンは腕に力を込めて僕を少しだけ引き寄せた
シュルッ
僕はスヒョンの肩にほんの少し頭を傾けた
今何か音がしたような気がしたが…気のせいだろう…
イナは健気にやっている…
本当に…僕が何かを言うよりも、ドンジュンと話をさせてやった方がよかったのかもしれないな…
「うまく行ってほしいね…」
そう言いながらミンチョルの方に目を向けてみた
どきん
柔らかなメッシュの髪が、僕の唇のすぐそばにある
そんなに凭れ掛かられてないのに…
あれ?
「お前、背、低くなった?」
ミンチョルは慌てて顔を上げて、そんなはじゅないだろう!と怒った顔で言った
でも…いつもと角度が違う…いつもはまっすぐ絡む視線が、今は下に向く…
僕はミンチョルの足元や姿勢を見てみた
いつものように胸に板が入っている
足元も僕と同じ高さだ
僕の靴のヒールが高かった?
いや、普通のヒールの靴だ…
おかしいな
なんでだろう…
「スヒョン…イナ、涙目になってゆ…」
ミンチョルが呟いた
イナの方を見ると、チョングさんとがっつり抱き合いながらうっすら目に涙を浮かべている
「心配だな…僕やっぱりちゅいていこうかな…」
「お前がついていったってどうにもならないでしょ?」
「そうらけど…。でも…何かあったらテジュンさんをぶん殴れるもの…」
そんな可愛らしいことを言うミンチョルの肩を、僕はもう一度抱き寄せた
シュル
ん?
「ミンチョル…何か音がしなかった?」
ミンチョルの方を見て僕は違和感を感じた
「お前、姿勢悪くない?」
「え?」
なんだかさっきよりもっと…僕の視線が下を向く…
なんでだろう
まじゅい!
スヒョンのフェロモンと優ししゃに、ちっとしゅるってなっちった…まじゅいっ!
「ちっとトイレにいってくゆ」
「ん?」
「トイレ!」
僕は慌ててスヒョンから離れ、トイレに向かった
おっと☆
危ない!こけるところだった…
スラックスの裾にひっかかりそうらった…
顔を洗って元通りになんなくちゃ…
ミンにこっぴどく怒らえゆ…
しょんなことになったら僕は…腰が痛くて動けなくなゆ…まじゅいっ!
慌ててずっこけそうになったミンチョルの後姿を見送りながら、なんだかいつもよりもっと可愛らしいのは何故なんだろうと僕は思った
「なんだよ!なんの用?」
声の方を見ると、見事に涙目になったイナが立っていた
ため息の理由 足バンさん
はぁ…
今日何度目のため息だろう…
頭の中はハリョンの持ってきた話でいっぱいで…仕事に集中できない。
ギョンビンが「2人が今出ていきましたっ!」「向かいへ入っていきましたっ!」
って言いに来てくれた。
あいつらってばっ!
って思ったんだけど…ふくれる元気がなくってさ。
さっき
控え室でメンバーが休憩してるのにまぎれて
隅っこでハリョンから渡された新規開発の企画書を読んでいた。
たたみかけるような彼女の話を思い出してた。
ーヒュンダイ社、キア社以外の3社の争いに切り込みを入れたい。
ーますます世界の先進メーカーとの格差縮小を急がなくてはいけなくなっている。
ーハイブリッド、インテリジェント化に向けて我が国も手をこまねいていられない。
ーヨーロッパのメーカーとの共同開発の話はもう水面下で進んでいる。
ーもしあなたが引き受けてくれたら仕事の中心はパリになる。
ーあなたの経験と技術を活かしてほしい。
ーあなたが望む報酬とスタッフを揃える用意がある。
ーその気があるなら連絡がほしい。ギスと直接話してほしい。
そして…最後が痛かった…
ーあなたのお父様だって本当はそんなあなたを望んでいるはず。
はぁ…
スヒョンに何て切り出そう…
いや、切り出すのはできるんだろうけど…
僕がこんな風に揺れてることをどう話そう…
自分でもどうしていいのかよくわかってないのに。
「ひぇーっドンジュンさん!何ですこれ」
「ドンヒ覗くな!いいから向こう行けって」
「これ全部英語じゃないっすか…おいホンピョ見てみろ」
「おお!ホントだ!呪文だ!」
「こら返せって!」
「何です?もしかしてこの店の極秘文書だったりして」
「おめぇ…ここはミンギ企画じゃねぇんだぞ」
「僕だって前の仕事がら読める!…えーと現在の我が国のえー車産業?課題と…国内シェアについて」
「なんっすか?車のセールスでもするんっすか?」
「いい加減に返せってば!」
「こらドンヒ!先輩を怒らせちゃいけないじゃないか!」
「何でおまえだけイイ子ぶるんだよ!」
「結局読めないくせにイキがるのはよしたまえ」
「こいつ!もうトントンしてやんないからなっ!」
「「 うあっ 」」
ふたりの首根っこを後ろから掴んだのはイヌ先生だった。
「おまえたちうるさいから外に出てなさい」
「「 しゅん… 」」
やれやれ…やつらが先生に連れて行かれて視界が開き…どきんとした。
テプンさんたちが喋ってるその向こう
部屋の一番向こう隅のテーブルで
スヒョンが腕を組んで真っすぐ僕を見ていた。
…聞かれてた…
そう思った矢先にスヒョンは静かに席を立って出て行った。
「ちょと…ドンジュンさん…大丈夫?」
「え?あ?ああギョンビン…だからこんなにふくれてるって」
「いや…あの…何か心配事でもあるんですか?ちょっと変ですよ」
「ん…?」
「何かあったら…言って下さいね」
「ん…ありがと」
「あれ…もう目つり上がってないじゃん」
「だってあれドンジュンさんとセットなんです」
「そうなの?」
「うん…ドンジュンさんが5%ふくらむと1度つり上がることになってます」
「なによそれ」
「そのうちにそういうリクエストきたりして」
「ええ~?ジジイと4人セットで?」
「…」
「「 やだぁ~! 」」
その日、ギョンビンが何気なく気をつかってくれたのが嬉しかった。
闇夜のお仕事&お留守番_2 妄想省家政婦mayoさん
「ぁぁ~ん.....また僕だぁ..ちぇみぃ~...>o<....」
「ぐはっは...ざまあみろ...昨日俺を笑ったバツだな#..」
「ぷっ#テス...何回目だよ...」
「だってぇ....わかんないんだもん....」
テスの頭~顔からダラダラと割れた卵が垂れている...
冷蔵庫にはいつも1パック分のゆで卵が入っている...
4人は小腹がすくと頭で卵をコツン#と割って食べる...
でもって1パックの中には生卵が1~2個必ず混ざっている....
『アタリ☆』を割っちまった奴が代わりの生卵をセットするが...
4人が冷蔵庫を空けるたびに卵の位置をぐるぐる動かす...
当然『アタリ☆』が何処にあるかわからなくなる...
一度手に取った卵を戻すのはルールー違反#...つーことで...今日のアタリ☆はテスだった....
『アタリ☆』のない日もあるし..闇夜とテスが同時に卵をかぶったこともある...
「く..く....くそぉ---#....」
その時俺とテソンは
ぶぅーっ@と膨れた闇夜の顔を見て腹を抱えて大笑いした...
「テス...洗って来い#」
「ぅん...」
ベーカリーの内装と外装工事が始まり..工事が工房の方にも影響があるため
今日と明日は試作を休むことにした...
テスが卵だらけの頭と顔を洗い流してから3人でリビングのソファで映画を見ていた..
テソンは途中キッチンで闇夜に電話をかけ...ハーブティーを淹れてきた....
「闇夜はどっちに行った?」
「南の長項に向かったみたい...」
「そっか...心配か?」
「ぅん...ひとりだとさ...」
「飯を忘れるんだろ...あいつは....」
「わかる?...」
「ん......」
「テソンさん..何回も電話しなきゃ駄目だよ...はーくしゅん#」
「ぅん...」
テソンは胸に抱いたはるみの背を撫でながら頷いた..
闇夜が出掛けてからテソンの側を離れずにいたはるみは夕方テソンとテスが店に行った後
デスクの椅子に座った俺の膝に乗った...
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
座席に座ってイヤホンを耳にセットしようとした時..
向かいのオヤジがにこにこと..卵を差し出した...
「・・・?」
「モゴぉ~」
よく見ると向かいのオヤジはイナ叔父貴=チスに髪の毛増やしたみたいだし...
連れの少年は..ミンギにうりふたつだ...ミンギというか...ミニイナか....
「盗んだもんじゃねぇから食べなよ...あんた...顔色悪いぜ...」
ミンギに酷似の少年はぶっきらぼうにそう言うと自分の手にある卵を隣のオヤジの頭で割った...
チス叔父貴に酷似のオヤジはニヒヒと笑いながら話しかけてきた...
「ね....オタク..何してる人?」
「何だと思います?」
「ニヒヒ...何だろう....」
「叔父貴...スパイじゃねぇの?隙がねぇもん....こん人....」
「ニヒヒ..まさかぁ...ねぇ~アガッシ#...」
「ぷっ....お二人は......タッチャ?....」 *タッチャ(イカサマ師)
「「うっぷ....げほっ...んぐっ#」」
向かいの2人はゆで卵を喉に詰まらせ...目を白黒させた...
『今日のアタリ☆は誰かな...』
手にある卵を頭でコツン#っと割った...
長項で降りると向かいの2人は窓から手を振った...
駅から海岸沿いの滞在型ホテルへ向かった...
昨日此処にソニとジンソクがいることを突き止めたからだった...
がっつりサンド ぴかろん
涙目のイナは、僕の顔を見つめてますます涙を溜めていった
僕は無意識にイナの腕を掴んで戸口までひっぱり、戸を開けた
「なんだよっ!どこ行くんだよっ!」
「ちょっと外行こう」
「いやだ!」
「イナ…」
「いやだ…」
僕はイナの背を押して外に連れ出した
イナは僕に背を向けて泣いている
「お前…ほんとに泣き虫だな…」
「るさいっ!お前らが顔出すから…」
あ…しまった…ミンチョルを置いてきちゃった…
戸口の方を見たら、ちょうど戸が開いて、メッシュの髪の毛が見えた
僕はそちらの方に笑顔を向けた
「スヒョン…俺…俺っ…」
「イナ…」
おっといけない
今度はイナを忘れるところだった…
イナの肩に手を置いて顔を覗きこむ
「俺…どうしたらいいんだろう…テジュン見ただけでラブとテジュンの事想像しちまう…」
「だから…。ラブと話してごらん」
「いやだっ!」
「イナ…」
だだをこねるイナを抱きしめてやった
「テジュンさんが求めてるのはお前なんだ。お前のところに戻ってきたんだ。お前が別れようって言ったら、あの人、取り乱したんだろ?」
「…読んだ?」
「…うん…ごめん…」
「ならテジュンの事も抱きしめて!ラブの事も!あいつらの心、全部俺に教えてよ!できるだろ?お前ならできるだろ?!」
「イナ…」
「…」
「本当に全部知りたいの?」
「…」
「知りたいなら自分で聞けよ」
「スヒョン…」
「お前、今聞かなくてもいいって思ったんだろう?今のお前にはあいつらの事受け止める力なんかないぞ!全然ない!自分の事さえこんなにままならないのに、
あいつらの事情まで全て一遍にどうやって受け止めるんだよ」
「…」
「だから…ゆっくり、時間をかけて理解しろ。いい機会なんだ…な?少しずつでいいから…な?」
「…スヒョン…俺…怖くてたまんねぇんだ…」
「泣き虫で怖がりか…子供だな、いつまでたっても…」
「俺…、俺さ…『ああこれで幸せになれる』って思ったところで、いっつも…躓くんだよ…」
「…イナ…」
「幸せが逃げてっちゃうんだ…」
「…」
「そんなんなら俺の方から『幸せなんかいらねぇ』って蹴っ飛ばしてやろうかと思うんだ、だから…俺…」
「それで祭の時もあんなにフラフラしてたの?馬鹿だね、お前は…」
「バカバカ言うな!」
「ほんっと…馬鹿だよ…」
「だって逃げてっちゃうんだもん…」
「…イナ…」
「…テジュンがいなくなったら…どうしよう…」
「…」
「お前…考えた事ある?…もし…ドンジュンがいなくなったらって…」
ずきんと心が痛んだ
それは…絶対にないとは言えない事だから
『オールイン』の戸口で突っ立っていたミンチョルも、今のイナの言葉を聞いたみたいだ
ミンチョルはイナに駆け寄って、イナを背中から抱きしめた
そんなミンチョルを見るのは初めてだった…
僕達はイナをサンドイッチにしている
傍から見たらきっとおかしな奴等か愉快な奴等に見えるんだろうな…
「なっ…なんだよっ!」
「自分からそんな事するな!」
「…ミンチョル…」
「どんなに辛い事か解ってるのか?!どんなに相手を傷つけるか、お前解ってるの?!」
「…」
「僕はミンを手放そうとした…。それがミンのためだと信じてたから…。でも違ってた。僕が決める事じゃなかった…。ふたりで決めなきゃいけない事だった…」
「…ミンチョル…」
「辛い目に合わせたし、その後も…僕はミンやドンジュンを辛い目に合わせた…。僕の立場はテジュンさんの立場と似ていると思う…。だからテジュンさんの気持ちが少しは解る」
「けどお前は…お前らは寝てないじゃねぇか…」
「僕とスヒョンは…」
「イナ、僕とミンチョルはね…、心で寝たんだ」
「ああ…テジュンから聞いた…」
「もしかすると…ミンやドンジュンにとっては…一番辛いことなのかもしれない…ただ、僕達は帰らなきゃいけないと思ってた。大切な人のところへ…。テジュンさんもきっとそうだったはずだよ、イナ」
「…」
「そしてラブもね」
「…」
「ね、ラブたちはうまくいってるだろ?どうしてだと思う?」
「しらねぇ…。ギョンジンの心が広いからなんじゃねぇの?!」
「ギョンジンって…最初っから心が広い男だったっけ?」
「…」
「その辺の話も聞いてみなよ、イナ…」
「そうだな、それだけでも行く価値はある…。一度に解決できなくても、必ず進歩はある…」
「どうせ俺の心は狭いよ…」
「ぶぁかっ!なんでお前はそう子供っぽいことぶぁっかし言うんだ!ぶぁか!」
「どうせぶぁかだよ!威張るな、狐!」
「…イナ…」
「なんでもいいからお前ら、ちっと離れろよ…」
イナは照れている
別に照れなくてもいいじゃないか…
「…さんきゅな…ちっと元気が出た…どうなるかわかんねぇけど…俺…勝負しなきゃなんないんだよな…」
そうだよ
お前自身とな…
僕は心の中でそう言って、まだ涙で濡れているイナの頬に…それは限りなく唇に近い場所だったんだけど…キスをした
ミンチョルの視線が突き刺さった…
ごめん…つい…
「何してるんですかっ!怪しい三人組はっ!」
ギョンビンの声がした
目は釣りあがっていない…
きっとクッションのイナを見て、嫉妬心がどっかにいったのだろう
ちょっといたずら心を起こして、イナを抱きしめるついでにミンチョルの背中まで手を伸ばした
シュルッ
ん?
また変な音が…
だだだだだだっ
「こっち!はやくっ!」
ギョンビンの目が釣りあがった
そしてミンチョルをひっぱると、ずんずんとBHCのドアに向かった
「あっごめんミン。こりはしょのっ」
「しいっ!だまって!もうっ!」
「ごみんっおねがいっお仕置きは軽めにっヒィン」
フグは…
いないか…
「ふぅっ…」
「…スヒョン…サンキュー。もうドンジュンんとこ行ってやってよ」
「いないもん、あいつ」
「え?いるだろ?ギョンビンがいたんだからその辺に…」
「ふぅ~。いないよ…。気配がしないもん…。なぁ…キスでもする?」
「はあ?どしたの?何言ってるのさ、スヒョン…ス…」
僕はフグの苦悩に満ちた顔を思い出しながら、イナにちょっとキスしてやった…
つい…出来心で…
はあ~
『お前…考えた事ある?…もし…ドンジュンがいなくなったらって…』
イナの言葉が頭の中で響いていた…
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