ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 122

がっつりサンドの果て  オリーさん

ドンジュンさんの様子がちょっと変。
僕がせっかく目を吊り上げようとしてたのに、
やっぱり一緒に膨れてくれないと気合が入らない。
さっき、控え室の隅っこで書類を見ていたことと関係があるらしい。
車のシェアがどうしたって?
昔の彼女に会ったんですね、きっと。
でもって何か仕事の誘いを受けた。
そんなとこでしょう。
僕も今日は先輩に会ってきたから、何となくわかる。

先輩は相変わらず、課長にセクハラされてるらしい。
僕と兄さんが抜けたので、ますます触られてるようだ。
課内では、北にすべての関心が集まっているようだ。
以前に比べロシア関係は手薄らしい。
だから、僕にこんな内職が回ってきた。
難しいことではないけれど、一応彼に相談しないと。

ウシクさんは明るくなって帰ってきた。
そしてイヌ先生がとてもセクシーになっている。
先生がメガネをすると、ウシクさんが嫌がる。
その様子がとてもいい。
何だかちょっと自分の姿を見ているみたい。
僕はみんなの前であんな風に率直に態度に出せないけど。

それに、彼の方はどうなったのだろう。
ミューズに行って話はついたのだろうか。
店では話を聞く時間がまだない。
イナさんのこともあって、彼も何だか落ち着かない。

そんなこんなで僕はちょっと息苦しくなって店の外へ出た。
あのふたりはオールインに様子を見に行ったきり帰ってこない。
僕は壁にもたれて、ぼんやりとオールインの方を振り向いた。
え??
あの塊は何?
こっち向いてるあの後頭部はスヒョンさん・・
でもってあの後姿は彼・・
何やってんのっ!!!

あれ・・でもちょっと立ち位置がおかしい。
僕は嫉妬深いけれども、観察能力も高い。
足元をチェック。
足が6本・・
ということは、がっつりの間に5歳児のイナさん・・
ふぅー、やれやれだ。
「何してるんですかっ!怪しい三人組はっ!」
でも一応言っておかないとね。

と思ったら、どさくさにまぎれて、何で背中なんか抱かれてるのっ!
しかもちょっと縮んでないか?
僕は考えるより先に走り出した。

とにかくがっつり塊の中から、彼を引っぺがした。
目の端がピクピクして、とうとう釣り上がってしまったじゃないか!
「あっごめんミン。こりはしょのっ」
「しいっ!だまって!もうっ!」
「ごみんっおねがいっお仕置きは軽めにっヒィン」
ヒンヒン言ってる彼を階段の踊り場までずりずり引いていった。

「ミン、ありはしょのね・・」
「はい、おなかに力入れて。」
「え?」
「下っ腹に力入れて。」
「お、ん・・こう?」
「もっと。」
「ん!」
「OK.。そのままを維持して。」
僕は彼の唇をゆっくり塞いだ。

「はひ・・ん・」
「だめっ!力抜いちゃ。」
「らって・・」
「らってじゃなくて、踏ん張る。」
「あい。」
そして今度は舌を入れた。

「ふひ・・ん・」
「だめっ!力抜いちゃ。」
「らって・・」
「らってじゃなくて、頑張る。」
「あい。」
また続きをした。

・・xx・・xxx・・xx・・xxx・・

「わかった?この感じ。」
「この感じ?」
「おなかに力入れて集中してれば縮まないから。いいね?」
「う・・あい。」
「コンセントレーションっ!」
「あい。」
「今日は相棒がちょっと元気ないから、大目に見てあげる。」
「あい。」
「イナさんのこともあるしね。」
「あい。」
「じゃ、おなかに力入れて、集中して、店に戻るよ。」
「あい。」

躾は楽しい。
特に躾がいのある人が相手だと。


闇夜のお仕事&お留守番_3  妄想省家政婦mayoさん

ソグとビョンウの2人はスニという同じ女性と互いに時期をずらして関わりがある...

女手ひとつで育てられた女子大生のスニは建設会社の御曹司ソグと将来を約束する仲だった..
ソグの両親はスニとの結婚をまだ早い..時期が来たらと言いなかなか認めない...
ソグの父親は仕事に専念させるためにソグを江原道の山奥の現場へ出す...
両親に反抗したソグはスニと2人だけの結婚式をあげ...江原道で質素だが新婚生活を始めた
(婚姻届けは出していない)

ソグは仕事で成果を上げ両親から結婚の許可が下り..スニの元へ帰る途中交通事故に遭う..
ソグが死んだと知らされた傷心のスニはその後再婚した...
だが再婚した相手の異常なまでの嫉妬心と猜疑心とで口論..和解を繰り返し..結局離婚した....
スニの不運は留まらなかった..病気が見つかり医者から宣告を受ける...
絶望感に苛まれたスニは長項行きの電車に乗った...

医大生のビョンウには4年付き合ったヘジュという彼女がいたが
現代医学で解明できない難病で手術中に☆になってしまった....
医学を志すビョンウは無力な自分と空虚感に苛まれ大学を中退し長項行きの電車に乗った...

ビョンウとスニは長項行きの電車で出会う....スニがビョンウと出会ったときは28歳だ...
スニはソグにうりふたつのビョンウに戸惑うがビョンウも恋人を亡くしたと聞き
少しずつ心を開くようになり穏やかな時間を過ごす...
2人はソウルと長項のこの海岸に立つホテルを行き来した...

ジンソクはソグとスニが暮らした江原道の診療所の医者だ...
田舎生活を嫌う妻とは別居し一人で赴任しており...当初から若い2人を見守っていた...
ひとりなり...再婚~離婚~病気と繰り返す度..傷心のスニをもずっーと見守ってきた...
2人で来たということは...ジンソクは離婚成立したか...

滞在型のこのホテルにはフロントというより管理人がいる...
この管理人のオヤジ..おんなひとりの客には用心する...スニも最初警戒されたようだ...
先手をうってスニとジンソクがいつから泊まっているか聞いた...
口の堅い管理人は黙っていたが..バッチをちらつかせるとベラベラしゃべった....

「これは役に立つぞ..闇夜...お前も持ってろ...」
「ぁ...ぁひ...本物?...」
「ちょっと手に入れた...ぷはは...ん...」
「^^;;......」

何日か前にちぇみから渡されたのは警察のバッチだ....やっぱり役にたった...^^;;...
ジンソクとスニは同じ部屋で明日まで滞在する....ビョンウは来るのか?....

海岸をぶらついて部屋に入ったときはもう夜になっていた...


~~~~~~

mayoシの代わりに厨房に入った僕にテソンさんが口を開いた...

「テス...お前さ...」
「何....」
「・・・」
「何よ...いいよ..はっきり言って...ちぇみのことでしょ...」
「っていうか....お前は闇夜からちぇみへの奥深い想い..感じる?」
「そりゃぁ....少しは...感じる時あるよ...僕はmayoシと触れてる時間..ちぇみよりあるもん#」
「ぁはは...そうね^^;;...」
「それに...僕だってホントは嫉妬深いし負けん気は強いよ...元チンピラだし...」
「ふっ...ぅん...」

「でもさ....僕のそんなヤなキモチよりも..僕とちぇみの幸せを願うmayoシの想いの方が強いと思う...」
「テス...」
「僕がメソメソしたりすれば...ちぇみも...mayoシも哀しいんだ...」
「ぅん....」
「ちぇみがテソンさん達の幸せ願ってるのはわかるよね...」
「ぅん...わかってるんだ..わかってる...でもさ...」
「何...」
「あの穏やかだけど奥深い瞳でじっとみられるとさぁ...何も言えなくなるんだ....」
「あはは...僕だって負けちゃうよ...あの目には....」
「だよな....」
「ダラけた/_\←こ~んな顔とは大違いだよねぇ~.」
「ぷっ#ぅん...」

『あの瞳に負けないのは闇夜だけだろうな....』

僕はふっ#っと笑って闇夜に電話をかけた...

~~~~~~~

『へぇ~くっしょん#...てくひょん#....じゅる...くそっ..俺の噂をしてるは誰だ#...』

はるみは俺のくしゃみで目をパチパチさせた...

「すまん..すまん...はるみ...飛んだか...ん?..」

はるみは前足で自分の顔をしきりに撫でる...

「はるみぃ~....そんなに嫌がることないだろうぉ../_\....」
「みゃお~ん(^o^)...みゃ#みゃ#....」

はるみは俺の顔面運動に身体を揺らして喜んだ...


出発  ぴかろん

本日の営業が終わった
終わってしまった

俺は荷物をまとめて外に出る
でもあいつらと一緒にテジュンを待つのはいやだった
俺は店の表のドアに凭れ掛かってテジュンが来るのを待っていた


営業が終わった
僕はラブの荷物を持って廊下でラブが出てくるのを待っていた
今から四人で旅行だ
突っ立って待っていたら、目が三度釣りあがったギョンビンが出てきて僕を睨んだ

「何嬉しそうな顔してんの!イナさんがあんなに悩んでるってのに」
「え?イナが悩んでる?」

弟はもう一度目の角度をあげて、息を吸い込み、そして息を吐きながら、一気に僕に叱責を浴びせた
曰く
ラブ君とうまく行ったからって、いちゃいちゃしてばっかりで周りがちっとも見えていない、ついこないだまでイナさんの事好きだったくせに今イナさんがどういう心境でいるのかちっとも気にかけていない、その前はラブ君とうまく行かないからってぐっちゃぐちゃのドロドロだったくせに…、部屋のリネン類はラブが泊まった次の日には必ず洗濯しろ、ゴミをちゃんと出せ、そして…襟巻きはいいけど腰巻きはやめてくれる?みっともない!…
最後に
「今から行く旅行の目的、わかってんの?!」
ときつく言われた
「目的って…。四人の友好を深める…」
と答えると
「兄さん、思う存分ラブ君とアレコレって思ってるんじゃないだろうね!いい?四人の中で、一番ダメージ受けてる人のケアに行くんだよ!わかってる?」
「え…だって僕、イナにダメージ与えてないもん…」
「ばかっ!ダメージ与えてなくてもアドバイスできる事あるでしょうが!」

弟に言われる「ばか」って言葉、かなりグサッとくる…

「いい?帰ってきた時イナさんが元気じゃなかったら、兄さん、しばらく部屋から出させないよ!」
「ええっ何よそれっ!」

プリプリしたヒステリーギョンビンが向こうへ行ったと同時に、僕の可愛いラブが出てきた

「お待たせ…」

ああん…かわいい…

「顔!緩みすぎ!ったくもう…。もうちょっとピシっとしてよ!今から誰と旅行するか、アンタわかってんの?!テジュンも一緒なんだよ!」

え…。まさかラブ…。この旅行でテジュンさんと「旧交を温める」とか…

「また比べさせないでよね!かっこいいとこ見せてよねっ!」
「…」
「俺を…」

僕の耳に唇をくっつけて囁くラブ…

「夢中にさせてよね…」
「あはぁ~ん…」

抱きすくめようとしたら怖い顔で睨まれた

「あのね、俺の心を夢中にさせてよねって意味だからねっ!わかった?」
「…あ、はい…」

れも、どうやって?
僕は情けないぐらいラブに夢中だ…
いつもくっついていたい…
そしてうっとおしがられる…
じゃあ少し離れてたほうがいいのか?

我慢できないっ…

ちょっと悩んでいたらラブが戸口から僕を呼んだ
そろそろ外で待っていようって…
僕達は外に出た





ちょうどみんなが帰る時間と重なった
俺はポツンと店の前に立っていた

『オールイン』とBHCの間の路地から、色々な声が聞こえてくる

イナは?まさか逃げたの?
イナを頼むぞ…
ちゃんと話してやってくれよ…
あいつ泣き虫で怖がりで子供だから、優しく解りやすくいろんな話してやってね

くそ狐!
くそ天使!
みんな…

ほんとに…ありがと…
お前らのためにも俺、なんとかしなきゃな…ふぅっ…

俯いていると目の前に車が止まった
どきっ

助手席側の窓が開いて中から「お待たせ」とテジュンの声がした

俺はのろのろとカバンを後ろのトランクに投げ込んだ

「ラブとギョンジンは?」
「ん…ああ、路地…」

テジュンの口から『ラブ』と発せられるだけで、俺の胸はずきんと痛む
俺、どうなっちまうんだろう…

「じゃ、迎えに行こう」
「すぐそこだよ…」
「一緒に行こう」

手を差し伸べられ、俺はこわごわその手に掴まった

路地に行くとみんながいた

「おお…出発だな…」
「うまくやれよ…」
「テジュンさん、イナをお願いします」
「イナさん、きっとうまくいきますから」

口々に俺たちを励ますみんな
余計に辛くなるよ…

俺は俯いたままウンウンと頷いた

ラブとギョンジンがテジュンの側にきたらしい
テジュンは俺の手をしっかり握って車に向かう
俺の後から二人分の足音がついてくる
その後から大勢の足音がついてくる…

「なんか…大げさだな…見送りか?」

テジュンに声をかけると、テジュンは俺の手をまた強く握った
胸がきゅんと痛む

「あ…これ…」

車に乗り込もうとした俺たちの頭を素通りして、ドンジュンの声がした

「この車…」

そう言ったきり、ドンジュンは何も言わなくなった…
俺はドンジュンに目をやった
息を呑んでテジュンの車を見つめている

俺達は車に乗り込んだ

テジュンはドンジュンの方に行ってどうしかした?と聞いている

「テジュンさんの車?」
「そうだよ。もうオンボロだけど、僕こいつが大好きでさ…」
「調子…悪いとこ…ないですか?」
「ん…。ときどきエアコンがヤバイけど、ほかは大丈夫。とても具合よくてさ。可愛いヤツなんだ」

ドンジュンは突然顔を覆って肩を震わせた

「どうしたの?!」
「これ…これ…」
「ん?なに?」
「僕が作った車です…」
「…え?」
「仲間と一緒に開発した…アクターです…」
「…そうなんだ…」
「こんな身近に…乗っててくれた人がいたなんて…。もう古い型になっちゃったのに…」
「…僕、この初代アクターが好きなんだ…。型も性能も…」
「…ありがとう…嬉しい…」
「僕こそ…愛車作った人がこんなところにいたなんて…。知らなくてごめんね」

ポロポロと涙をこぼしているドンジュンの側に、スヒョンが立っていた
ドンジュンの肩を引き寄せ、頭をそっと包み込んでいた

…スヒョン…
お前はこいつが、揺れながらもどっしり構えてたから、だから…戻ってこれたんだな…
…ドンジュン…
どうしたらそんな風に強くなれる?
この旅で俺は…少しでも強くなれる?

後ろの方にミンチョルとギョンビンがいた
どうしたらお前達みたいになれる?

ウシクとイヌ先生がいる
…不安定だったウシクが輝いているのはなぜ?

運転席にテジュンが乗り込み、みんなにいってきますと言って、車が走り出した…

俺は緊張して、まっすぐ前を見ていた…


空気  ぴかろん

俺は、助手席の真後ろに座った
イナさんの緊張が伝わってくる
何か喋んなくちゃいけないかな…例えば…ギョンジンとさりげなく会話するとか…
黙ってると気まずいもんな…

ギョンジンを見ると…
熱い…暑苦しい瞳で…俺をじっとり見つめてる

ったく…この人は…

俺が視線を向けたのがそんなに嬉しいの?
へにゃへにゃと顔を崩して目をキラキラ輝かせている

どうしてこの人はこんなにもかっこ悪く…

かっこ悪く俺のことを体全体で『好き』と表せるんだろう…
前はこんなじゃなかったのに…
何がこの人をこんな風に変えたんだろう…

俺はこの、かっこ悪いぐらい俺を好きでいてくれる、暑くるしい『襟巻き』が…大好きだ…
テジュンがそばにいるのに、俺の意識はずうっと…隣にいる無防備な男に向いている

わざと窓の外に顔を向けると、明らかにがっかりしている空気が漂うし、少し膝と膝が触れ合ったりすると、空気がピンク色に変わる

こんな…わかりやすい人って…いない…
かわいい…
こんなじゃなかったのにな…

時々テジュンがルームミラーで俺の顔を覗く
それはいやらしい意味じゃなくて、『うまくやってるか?』という意味の視線だ
俺はにっこりと微笑み返す
テジュンの瞳がミラーの中で笑う
なんでこんなに穏やかに
テジュンと微笑みを交わせるようになったんだろう…
ほんの一日前じゃなかったっけ?
俺がテジュンを求めてたの…

微笑み合う…
そのやりとりがあるたびに、助手席のイナさんが石のようになる
イナさん…貴方の心が柔らかくなるように俺達…
何でもするから…

「ふぅ~。なんで黙りこくってるのさ」

沈黙を破ったのは、能天気なギョンジンだ
俺はチラッとギョンジンを睨んだ

「なんで睨むのさ!せっかく四人で旅行に行くのに、楽しまなきゃ!なっイナ!」

いきなり地雷踏むのかよ!
そんな考えなしなおっさんだったかよ!

突然名指しされたイナさんを、俺もテジュンもビクビクしながら見守った

「…ん…たのしまなきゃね…」

ひらがな喋りで答えたイナさんに、追い討ちをかけるようにギョンジンは言った

「なあなあ、後で席かえしようよ。僕、久しぶりにイナと喋りたい」

せっ…せきかえ?!
じゃ俺…テジュンのとなりなんだぞ!

俺は思わずギョンジンを引き寄せて耳元で囁いた

「あぅん、こんなとこでラブったらぁ」

余計な事をいうので頭を叩いてやった

「痛いじゃんっ!」
「ばか!俺がテジュンの隣に座ってもいいわけ?!」
「…え…別に…」
「ばかじゃない?イナさんが『いい』って言うわけないだろ?」


「いいよ…」

「「ひえええっ」」
「なんだよ、ギョンジンが言い出したんだろ?何驚いてるのさ…席かえしような…あとでな…」

しらないぞ…しらない…
俺は…
俺は大丈夫だけど…

「アンタの側にいたかったのに!ばか!」
「…え…」

ばか!俺だってイナさんの前でテジュンと話するの…、すっげぇ気ィ遣うんだ!
イナさんを傷つけやしないかって、怖いんだ…
だからアンタにずっと側にいてほしかったのに…
いつもみたいに俺にくっつきまくって、俺の気を紛らわしてほしかったのに…

「ラブ!おまえ、それって…テジュンさんに傾くからっていうこと?!」
「しいいいっ!」

いいにくいことをどうしてこうはっきり喋るんだこのおっさん!
いつからそういう「遠慮のない性格」に?!

イナさんがビクッとしたのを俺もテジュンも感じ取った

「それはないよ…ばか」
「なんでないって言えるの?」
「そんな事になって欲しくないんじゃないの?!あんた!」
「なって欲しくない!」
「…じゃ、なんで席かえるとか傾くとか…そういう馬鹿なことばっかし言うの?!」
「え。…。牽制球」

「ブッ」

助手席のイナさんが吹き出した
はぁっ…
何はともあれ、この色ぼけのおっさんの天然ボケツッコミ?に、イナさんはちょっとだけ和んだみたい…

「絶対イヤだからねっ!テジュンさんに傾いたりしたら僕、お前から絶対離れなくなるからねっ」
「…今だってくっついてるじゃん」
「ちがーう。絶対…『抜かない』からなっ」
「なっ!」

ばっちいいいん☆
「「ぶわっはっはっはっ」」

俺がオッサンを殴るのと、前の二人が馬鹿笑いするのとが同時だった

「いってぇぇっひどいよぉらぶぅ~」
「エロみん!ばかっ!あっちいけっ!」
「なぁあんでぇぇぇっ?」
「『抜かない』まんまでどうやって生活すんのさっ!ばかっ!」
「え?『手を』抜かないっていう意味だけど」
「嘘つけ!へんな意味だろっ!」
「えへっ…ばれてた?いひっ…」

前の二人が肩をゆらして笑っている

何はともあれ、このエロオヤジのお陰で、空気が和んだ…

「そう言えばテジュン、ドンジュンが出がけに涙ぐんでたの…何?」

少し和んだようなイナさんが言った

「ん…この車さ…ドンジュン君が仲間と開発した車だったんだって…」

え…

「ほんと?!」

思わず大きな声で聞き返してしまった…

「何?興味あったの?僕の車に…」

あ…まずかったかな…。イナさんがまた緊張しちゃった…

「ん…、その…」
「なにさ」
「いや…。いいよ…」
「…言えよ!」

イナさんが鋭く言った

「…乗り心地…いいなと…思ってたんだ…」

俺は気まずさでいっぱいになりながら答えた

「ふうん…」

イナさんは必死で平静を装っている
ごめん…

「そう?乗り心地いい?嬉しいな。ギョンジン君もそう思う?」
「はい!すっごく!」

…明るく答えるな…。おっさん、相変わらず空気読んでねぇ…
ま、この場合はその能天気さがいい影響を与えてるって気もするけど…

「ありがと。イナは?どう?」
「ん?ああ…そうだな…まだわかんねぇ…」
「ドンジュン君が作ったんだぞ。それに僕の車だ。乗り心地いいはずだ」
「そうですよねっドンジュン君とテジュンさんの両方に『乗ってる』っつーことにイヒヒ」

ばこっ☆

「アンタが言うとほんっとエロ話になっちゃうよな!」
「ってぇよぉラブゥ」

また…イナさんの周りの空気が少しだけ柔らかくなった…
よかった…空気の読めないエロミンだけど…よかった…

エロミンはその後、俺の肩に顎をのせ、じいっと俺を見つめた

「ばか…何さ…」

エロミンはこれ以上ないくらい色っぽい瞳で俺を見つめる

「なんだよ…」

さっきまでふざけた事言ってたのに…
俺の唇を指で軽く押さえてそぉっと唇を近づける

「ミラーに…うつる…」

小さな声で囁くとエロミンはニヤリと笑い俺の唇を吸った

あん…ヤバイ…
スリルが…
ゾクゾクする…くそう…

こんなとこまで俺はこのおっさんが好き…

「ところでまだ休憩はいいかな?」
「もうちょっと大丈夫ですよ」

キスしながら平然と答えてる…
音を立てない濃厚なキスなんて…初めて…
俺も声を漏らさないように気をつけながら…ギョンジンのキスに集中する…
あ…やだ…すげぇ好き…
俺、この人がすっげぇ好きだ…

知ってる?
俺の方がアンタに夢中だってこと…知ってるの?
アンタに出会ったあの時からずっと…アンタに夢中だってこと…
今も…きっとアンタより俺のほうがずっと…
ああ…

前の二人に気づかれてないか気になって、ふっとテジュンの手元を見た

イナさんの手をしっかりと握っていた…
心から『よかった』と思った…
ギョンジンのキスが、また深くなった…

ああ…病み付きになりそうで…怖い…ばか…

俺は…ギョンジンを好きになって…よかった…
テジュン…俺、ホントにそう思うよ
だからきっと…イナさんの心を…取り戻してみせるよ…俺とギョンジンでさ…


僕のスハ  れいんさん

通路の壁によりかかり、ぼんやりと遠くを見ているスヒョンを見かけた
スヒョンのそんな姿は珍しい
何か心配事でもあるのだろうか
声をかけるのを躊躇いながら、僕はスヒョンに一言謝っておきたかった

「スヒョン・・今いいか?」
「ん?あ・・テジン・・」
「その・・店が忙しい時に迷惑かけて悪かったな。ちょっと色々あって・・」
「いや、気にする程の事じゃない。・・ジュニアの誕生・・おめでとう」
「うん・・ありがとう・・」
「これから先、色々あるだろうが、焦らずゆっくりと前に進む事だ。君らならできるだろ?」
「なんとかやってみるよ」

スヒョンはそれ以上何も聞かないでいてくれた
スヒョンのそんな気遣いに僕はいつも感謝している
そんなやりとりの後、スヒョンと別れ、僕は一人控え室に入った
そこには身支度を整えているスハがいた

「こんなところにいたのか」
「テジンさん」
「この前のリハーサルのおかげでひどい筋肉痛だよ。ははは」
「え?ホントに?」
「うん。スハがあんなに拘るタイプだとは思わなかったな」
「ご、ごめんなさい。つい一生懸命になっちゃって・・」
「ふふ・・そんなところがいいんだけどね。・・スハ・・こっちにおいで・・」

ソファに腰掛けた僕は、スハを手招きし、膝に乗せ、両手で包み込んだ

「テジンさん・・あの・・僕・・指名が入ったので、もう行かないと・・」

スハはフロアの方を気にしている様子だったが、僕は抱きしめていた手をまだ解かなかった

「こんな時間にもう指名だって?」
「はい、以前、僕の前髪を切ってくれたお客様が、そろそろ伸びた頃だろうから、また切らせてくれって・・」
「ふぅん・・いいの?気に入らないって言ってたろ?」

「もう平気です。見慣れちゃったから。それにこのヘアスタイルになってから、指名も増えたみたいで・・」
「そう・・ちょっと妬けちゃうな」
「でも、相変わらずの話下手です、僕」
「お客様は話し上手なスハを望んではいないと思うけど」
「そうでしょうか・・。別のお客様からメッシュを入れさせて欲しいというリクエストもありました。
刈り上げは伸ばせとか・・他にもヘンなリクエストが」
「例えばどんな?」
「えっと・・LPレコードをふきふきしながら、オンリーユーを声裏返しながら歌って、だとか・・」
「ぷっ」
「井戸のポンプを猛ダッシュで汲み出して、こそこそ下着を洗っている僕とその下着を奪い合いたいだとか・・」
「くくく」
「片方の靴の中に手を突っ込んで、その靴底でトイレの落書きを消して・・とか・・それもケンケンしながらですよ」
「くすくす・・面白いリクエストだね」
「僕って、ほら・・チーフやスヒョンさんみたいに、瞬時にお客様を悩殺するって事できないし・・」
「それは人それぞれだから。スハと話した人はまたもう一度話したくなると思うよ」
「そんなものでしょうか。・・僕ってあんまり魅力的じゃないでしょう?」
「僕としてはスハの魅力をあまり他の人に知られたくはないけど」
「でも僕だって少しはお店の役に立ちたいんです・・」
「スハはね、後でじわじわと思い出して余韻に浸って・・
そして思い出しているうちになんとなく顔が綻んでくる・・そんなタイプだと思うよ」
「テジンさんにそう言ってもらえると・・なんだか頑張れそうな気がしてきました」
「そう?・・じゃあ、行っておいで」

まわしていた手を解くと、するりとスハは立ち上がり、フロアの方に行きかけた
が、すぐに僕のところに駆け戻り、そっとキスをした

スハは少し唇を離し、上目づかいで僕に言った

「テジンさん、お客様と相合傘をする時は、あまりくっつかないで下さいね」
「ぷっ。・・わかった」
「それから、意識不明から目覚めた時のフラフラ歩き・・あれ、倒れる時にアザできちゃうから気をつけて下さい」
「心配するな」
「それと、『お客様とお買い物』のリクエストで、カートに次々と仲良さ気に商品を入れるのも、ちょっと妬けちゃいます」
「うんうん」
「駐車場で激しくキスするのも・・」
「キスはしないから・・大丈夫」
「接客中も・・僕の事、絶対忘れちゃダメですよ」
「わかってるよ」

僕はくすくす笑いながら、まだ言い足りなさ気なその唇を塞いだ
そして、心配顔のスハの背中を押し、可愛い僕の恋人を見送った


隊長と僕  オリーさん

僕達はBHCのメンバーと兄さん達を見送った
その後、僕と彼は自分の車で来ていたので別々に帰ることになっていた
駐車場に向かう途中ソクさんに会った
「これから帰りですか?」
僕は声をかけてみた
彼とは祭のとき格闘をして以来、挨拶程度しか口をきいていない
「スヒョクを待ってるんです。今夜も家に来るって」
満面の笑顔だ
「嬉しそうですね。」
「まあ、その・・」

僕はちょっと半歩足を出してかまえてみた
彼は半歩引いて防御の姿勢になった
「カンは鈍ってないようですね。」
「君とはやりたくないよ。」
「僕だってごめんです。ちょっと試しただけ。」
「人が悪いなあ。」
「すみません、あんまり呆けた顔してたから。」

彼ははっとして自分の顔をなぞった
「そんなに呆けてる?」
僕は思わず吹いた
「呆けてます。スヒョクラブって顔に書いてあります。」
「いやあ、まいったなあ。」
僕らは顔を見合わせて笑った

「君も感じが変わったね。」
ソクさんは僕をすくいとるように覗き込んだ
「そうですか?」
「印象が柔らかくなった。」
「そうかな。」
「チーフとはうまくいってるみたいだね。」
「どうかな。」
「またまた、とぼけちゃって。」
「あまり顔には出ないと思うんだけど。」
「だめだめ。わかるよ。顔に書いてある、チーフ命って。」
「え・・」
僕は思わずさっきの彼のように自分の顔をなぞってしまった
「ははっ、やっぱりね。」
ソクさんはしてやったり、という顔で大笑いした
僕もつられて笑った

ひとしきり笑った後で僕は彼に言った
「そのうち家へ遊びに来ませんか。」
「あの豪邸?」
「今、どちらにお住まいですか?」
「テジュンのいとこの家に居候してる。」
「じゃぜひ泊りに来てください。スヒョクさんと一緒に。」
「でも邪魔だろ。」
「大丈夫です。兄さんが居候してるだけだし、それに各部屋防音になってるから気になりません。
広すぎて僕ら二人だと寂しいくらいだから。」
「防音・・」
彼の顔がゆるやかに呆けた
僕はそれを見てまた笑った

「あ、今いる下宿がすごいレトロだからそんな設備を聞いただけで呆けるの。」
「はいはい、わかりました。」
「スヒョクと相談して行かせてもらうよ。」
「待ってますよ。何なら今夜からでもいいですよ。」
「ほんと?」
また呆けてる。
隊長、大丈夫ですか?

「何してる。」「何してるんです。」
後ろから彼とスヒョクさんの声がして、二人でぎょっとして振り向いた

「ちょっと立ち話してただけ。」
「そうです、ちょっと立ち話。」
「ソクさん、ちょうどよかった。ちょっと話が。」
彼がソクさんの方を向いた

「何か?僕の処遇の件?」
「あなた銀行口座こっちに持ってます?」
「いえ、まだ。」
「じゃあ、急いで口座開いてください。」
「なぜ?」
「今日、オーナーから祭の賞与と今月分の日割りの給与明細が届いたんですけど、
あなたとテジュンさんの分もあるんです。だからあなたの口座が必要です。」
「ということは、僕はもしかして・・」
「それは微妙なんですが、とにかくオーナーは給料を払う気があるらしい。
テジュンさんは祭の時の賞与しかないのに、あなたにはここ数日の日割り給与が入っている。」
「はあ。」
「なので、このままとぼけて貰っておきましょう。」
「はあ。」
「給料を出すという事はスタッフと認めていいのか、などと聞くとやぶへびです。
あらいけない、祭のノリでつい間違えた、撤回!なんて言いそうですから。」
「はあ。」
「何ヶ月かこのまま給料を貰っておいて、しばらくしてから確認するんです。
給料を何ヶ月も支払っているのでスタッフと認めていいですね、と。」
「はあ。」
「その辺のごまかし、いえ交渉は得意ですから。実績さえあればねじ込みます。
さっきスヒョンとも話してその方法がベストだろうという事になりました。」
「スヒョンさんと話してくれたんですか。」
「ちょっと不安定で心配でしょうが、当分黙って給料だけ貰っておいてください。」
「わかりました。お宅に泊めてもらうだけでなく、こんないい話も聞けたなんて。」
「家に泊る?」

「僕が誘ったの。兄さんいないし、そうでなくても広いでしょ。」
「そうか。それならいつでもどうぞ。ミンの家ですから。」
「あ、今ひがんだ。」
「ひがんでないよ。」
「ミンの家とか言って差別化したじゃない。」
「区別だ、差別じゃない。」
「屁理屈言わないでよ。」
「そっちこそ、絡むな。」

「あの・・痴話喧嘩はそのくらいで。」
「「痴話喧嘩?!」」
「すみません、ついそんな感じで。」
「ソクさん、失礼だよ!」

「ごめんよ、スヒョク。でもチーフの所に泊めてもらえたらいいよね。」
「そうだね。お風呂も大きかったし。」
「それに防音設備が整ってるらしい。」
「ソクさんっ!そこに反応する?」
「スヒョク、違うんだ。ほら、チーフとギョンビン君の邪魔しちゃ悪いだろ。」
「嘘つき!ほんとは別のこと考えてるでしょ。」
「違うったら違うよ。ああ、スヒョク、そんな顔しないで。」
「もう知らないっ!」

「あの・・痴話喧嘩はそのくらいで。」
「「痴話喧嘩?!」」
「すみません、ついそんな感じで。」
「ミン、失礼だぞ。」

僕ら4人はその後お互いに顔を見合わせて笑った

僕は別れしなにソクさんに近づいて囁いた
「隊長、しっかり相棒を説得工作してください。」
「ミン中尉、任務遂行に全力を尽くします。」
「幸運を祈る。」
「ラジャー。」
隊長は丁寧に敬礼してくれた
僕もしっかり敬礼で答えた

彼とスヒョクさんは呆れ顔でそんな僕らを遠巻きに見ていた


雨の匂い  足バンさん

店を出たのは10時半を回った頃だった。
イナさん達を送り出した時はそうじゃなかったのに
雨が降ったようで暗い地面がしっとりと濡れていた。

スヒョンに一緒にメシでも食うかって聞かれたけど
断って寮まで送ってもらうことにした。

車の中で僕たちは何も喋らなかった。
スヒョンはとっくに僕のおかしな態度に気づいてるし
このスヒョンが企画書の一件で何か感づいていないはずはない。

今日1日ハリョンとの話を何となく切り出せずにいた自分。
後ろめたいような変な気分…
なんでこんな気分になるのか…
自分でもわからなかった。

寮の駐車場に着くとスヒョンは僕の顔を見ておやすみと言った。
のろのろと重い足を動かし車を降りてドアを閉める。

そっと目を向けると…
フロントガラスの中のスヒョンが
ハンドルに両腕を掛け顎を乗せて僕をじっと見てる。

駐車場のオレンジのライトが雨上がりのそこここに反射していて
僕はそのだいだいの陰影の中の寂し気な視線から目をそらせずにいた。

スヒョンはゆっくり車を降りてそこに立った。
じゃりっという靴底の音がやけに大きく聞こえる。
ドアに肘を掛けしばらく自分の足元を見てそして顔をあげた。

「ドンジュン…」
「ん…」
「話せるなら話してみない?」
「…」
「抱きしめておやすみのキスもできないでしょ」
「え?」
「おまえが話してくれる前に気持ちを読むのは嫌だから」

僕はたっぷり数分間は俯いていたように思う。
その間スヒョンは黙っていた。
このまま話さずに帰っていい、そんな雰囲気じゃなかった。

僕は大きく深呼吸をし、そしてその場に立ったまま話した。
一気に話してしまおうと思った。

ハリョンに誘われた新規開発の話。
もし受けたらパリに行かなくちゃいけないこと。
父の話が出た時心が痛んだことも。
驚いたけれど…正直言って心動かされたことも。

スヒョンは最後まで何も言わずに聞いて
話が終るとゆっくりとドアを閉め、車の前を回って僕の横に立った。

「もうみんな話し終った?」
「ん…」
「じゃ抱きしめていいね」

スヒョンはふわりと僕に腕を回すと真綿みたいに優しく抱きしめた。

「よかった。話してくれて」

スヒョンの肩に頬を乗せて僕はようやく息をした。
雨上がりの匂いとスヒョンの柔らかい香りが僕の中にひろがる。
つっかえてたものが取れたようだった。
目の奥が熱くなった。

「返事は急ぐの?」
「ううん…まだ…でもギスに会うことになるかも」
「そう」
「どうしたら…いい?」

スヒョンはしばらく僕の顔を覗き込んで微笑んだ。

「自分で決めなさい」
「ス…」
「っていつもなら言うところだけど…今回は僕にも考えさせてもらおうかな」
「…」
「僕にとってもかなりの大事だからね」
「ごめん…」
「なんで?」
「すぐ…断れなかった…」

スヒョンは片手で僕の前髪をかきあげ額にキスをした。

「おまえって正直だからね」
「自分で…自分がわからないんだ」
「僕にはよくわかるよ」
「え?」
「さっきテジュンさんのアクター見たときね」
「え?」
「おまえったらまず”調子悪いとこないですか”って聞いたでしょ」
「あ…うん…」
「あのひと言で今日のおまえが全部説明できる」
「…」
「慌てずに考えよう」
「スヒョン…」
「一緒に、ね?」

スヒョンは急にくりっとした目をして意味ありげな表情になった。

「僕も申告しなくちゃいけないことがある」
「ん?」
「台本だけでも読んでみようと思うんだ」
「え…でも…」
「まず踏み出してみる…おまえに教えてもらったことでしょ?」
「ぅ…ぅ…」
「ね?」
「ぶー」

スヒョンはやっとおまえらしくなったって笑いながら僕を抱きしめた。

そして車に僕の背を押しつけ
僕の顔を長い間見つめて
いつもよりずっと優しい包み込むようなくちづけをしてくれた。

暖かい海のようなスヒョン。
僕は…この人を…おいて行くんだろうか…


コテージ   ぴかろん

店を出たのが10時過ぎ
そして2時間ほどでテジュンの手配した宿に着いた
テジュンは俺たちに車で待っていろと言い、フロントに行った
エントランスのガラス越しにテジュンの姿を追った
後ろの二人は頭をくっつけあって眠っている
フロントの様子を見ていると、夜中だと言うのにホテルマンの対応は抜群で、
ついこないだまでテジュンがあの人たちのようにお客様をに接していたんだなぁと、俺はぼんやり思っていた

テジュンが車に戻ってきた

「テジュン、荷物運ぶ?」
「いや、泊まるのはコテージだから」

そう言って車を動かすテジュン
コテージ…
俺達の勝負の場所
とうとう来てしまった…
こんな弱気な俺が…勝負?

ホテルのプールやテニスコートの横手に、コテージがいくつか建っている
車は一番ホテル側に近いコテージに止まった
テジュンは先にコテージの鍵を開け、それからトランクを開けた

「いつまで寝てんの?ついたぞ!荷物出してくれよ!」

テジュンが後ろの二人に声をかける
目を擦りながらラブが身を起こそうとするのを、寝ぼけたギョンジンがぐいっと引き寄せてキスしている…
まったく…寝ぼけながらでもするのか…キス…

そんなにラブって…魅力があるんだ…

俺は車から降りて荷物を運んだ
やがてラブに怒られたらしいギョンジンががさがさと荷物を持って俺の後に続いた
ラブは残りの荷物…なんだか軽そうな紙袋一つ…を下げて、その後からとぼとぼと歩いてくる

俺達はコテージの中に入った

広いリビング部分と、こじんまりしたキッチンがある
リビングの向こうに大きなガラス戸があり、テラスと、芝生の庭につながっているらしい…
暗くてよく見えないけど、庭の周りには木立があるとかで、プライベートな芝生…とでも言うのだろうか…まるで郊外の一戸建てみたいだ…

「ふわぁ…のんびりできそうですね、テジュンさん」
「ホテリアホテルの系列なんだ…。プールもテニスコートもあるし、海岸にもすぐに出られる」
「え?海?」
「そう。この庭の向こうに海が見えるんだ…」
「へえええっじゃ、明日は海水浴?」

ギョンジンは本当に旅行を楽しもうとしているようだ…

「その前に…、食事なんだけど、ホテルで食べてもいいし、自炊してもかまわない。で、明日の朝食の分の材料は買ってきたから…」
「じゃ、みんなで作って食べようよ」

ギョンジンはハイテンションでそう言った
ラブもテジュンも笑顔で頷いている
俺だけが笑えないでいる

『目玉焼きは固めにしてくれよ』とか『ミルクよりコーヒーがいい』とか『トーストよりロールパンが食べたい』とか…
会話に参加する術はいくらでもあるのに…
俺はやっぱりぼんやりしていた…

「あと、部屋なんだけど、リビングの両側にベッドルームがあるんだ。両方ともツインなんだけどさ、部屋割り、どうする?」
「え?じゃ、今日はぁ僕とラブが寝て、明日はぁ僕とイナとラブが寝るってのどう?!」
「ツインでしょ?」
「だってイナとも夜を徹して語り合いたいじゃん?でもお前とテジュンさんと二人きりにするわけには行かないからさぁ…」
「俺とイナさんって組み合わせはなんで出てこないの?」
「ええっ…そんなのいやだよ!つまんないじゃんテジュンさんと二人だなんて!」

ギョンジンはすき放題言い散らかしている

「イナと僕、ギョンジン君とラブの組み合わせでいいだろ?部屋をどっちにするか…だよ」

そんなのどっちでもいいじゃんかと俺が呟くと、それもそうだなとテジュンは俺達の荷物を左側の部屋に持っていった
必然的に右側の部屋はギョンジンとラブの部屋になる

「そうそう、それぞれバスルームとトイレがついてるから…。今夜はもう寝よう…。おやすみ」
「テジュンさん、明日何時に起きればいい?」
「そうだなぁ…8時ごろでいいんじゃないの?それからみんなで朝ごはん作って、プールにいくもよし、海水浴するもよし…」

話し合いは?いつするのさ…

「いいですねぇ。じゃ、明日の朝までに考えましょうか(^o^)じゃっおやすみなさぁぁぁぃっ!ラブぅ、一緒にシャワー浴びようよぉ~」
「…」

「ギョンジン君、変わったね…」
「ああ…」
「誰があんな風に変えたんだろうね」
「…」

俺達はそれぞれの部屋に入り、荷物を解いて横になった
テジュンに風呂に入ろうと誘われたが、後から一人で入ると断った



部屋のドアを閉めた途端、ギョンジンは俺の腕を引き、抱きしめてキスをした
そして俺のシャツのボタンを器用に外していく

ちょっと待てよ!本気で一緒にシャワー浴びる気?!

シャツを脱がせながら俺の入墨を強く吸うギョンジン

「止めろよ!見境ないのかよ!」
「ないっ!ついでに我慢もできないっ!」
「やめっあっ…いや…あ…」

ベッドに押し倒され、俺はえろみん技の餌食になる

なんでいきなりこう?!
それも…ああ…もう…あああああ…


意識がなくなって、回復してからシャワーを浴びた
また意識がなくなって、回復したらベッドの中にいた
それからまた意識を飛ばされて、回復させられて、それからまた…ああ…
木っ端微塵に散らされてる…
我慢できたの…一日だけ?!
ああん…

「まだ…やるき?」
「くふん…できるけど…」
「やめて…もうしんじゃう…」
「じゃ、あと一回でやめとくね」
「え?え?あと一回ってえ?ちょっと…」
「だって僕、まだ」

イってないだって?!…

俺は眠いのと筋肉痛と気持いいのとでヘロヘロになって、ギョンジンの頭にしがみついて…そのまま爆睡してしまった…




「イナ。こっちに来る?」
「…いい…」
「じゃ、そっちに行くね」
「いいよ!運転疲れただろ?ゆっくり休めよ!」
「疲れたから…お前の側で眠りたい…」
「…」

僕はイナの隣に滑り込み、イナの体に抱きついた
イナは緊張していた…

「どうしたの?」
「ん…別に…」

イナは目を閉じたまま答えた
きっと不安で一杯なんだろう…
僕だって…不安だよ、イナ…

イナの頭を抱き寄せて僕も目を閉じた…
明日は…何が待っているのだろう…



替え歌 「夢より遠くへ」 by ギョンジン ロージーさん

突然に心吹く風つらぬいて
少し危険でもいいさ

おまえ連れてく この夜に 誘われるまま
哀しい 想い出は 時の隙間に消して

夢より遠く 愛を連れて
思う様-sama-溺れて あしたが来る
ありのままの 二人になる
失くした季節も忘れて

ままならぬ想いはいつもシルエット
ただ一緒にいたいんだ

たくさんの夜 会えない日 取り戻したい
このまま 知りすぎた 恋のゲームは忘れて

夢より遠く おまえ運び
抱きしめたい だから もっと far away
愛なら近く 寄り添うもの
言葉も消して くちづける



おまえ連れてく この夜に 誘われるまま
やさしい 風の中 素直なラブがいるよ

夢より遠く 愛を連れて
思う様 溺れて あしたが来る
ありのままの 二人になる
失くした季節も忘れて


(来生たかお『夢より遠くへ』)














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