ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 154

Deception  オリーさん

一体これはどういう事なんだろう
朝方ミンから届いたメールを何度も読み返した

昨日は一日がのろのろと、そしてあっという間に過ぎた
お兄さんからミンのことを聞いて
僕は雲の上を歩いているような感じだった
スヒョンに会いに行った
お兄さんを説得してもらい、チケットを手配してもらった
店も何とか出た

戻ってからはみんなを巻き込んで荷造りをしてもらった
お兄さんにパジャマはだめ、シャツはだめ、と言われ混乱した
じゃあ何を持っていけばいいのだろう

突然テジュンさんが現れ
「必要最低限の物を持って行きなさい。身軽に動くことが大事です」
というアドバイスをくれた
お兄さんとテジュンさんの意見が合わないらしくしばらくやり取りがあった
「足りなかったら現地で調達すればいいんです、いいですね?」
テジュンさんが念を押した
ちょっとミンの事を考えていた僕はつい、あい、と返事をしてしまった
テジュンさんはそれを聞いてちょっと赤くなり
それを見たイナが口を半開きして涙ぐみ
イナの隣にいたお兄さんが眉毛を上げてちっと言い
お兄さんの隣にいたラブがお兄さんをつねった
みんなどうしたんだろう・・

テジュンさんはケホンと咳払いをしてから
てきぱきと不必要な物を取り出して
見る間にコンパクトな荷造りをしてくれた
僕は今度はありがとう、と言った
テジュンさんがまた赤くなり
3人がまた同じ反応をした
みんなどうしたんだろう・・

荷造りも終わったので僕は部屋に引き取ることにした
これ以上みんなに心配をかけてはいけない
もう寝ましゅ、みんな、ろうもありがとう・・
ちっとらりるれが入ってしまったが
目を吊り上げるミンがいないので大丈夫らろう
お兄さんとテジュンさんがまたぽっと赤くなり
イナとラブが二人をつねった
どうしてだろう・・

部屋に戻りベッドに横になっても
ざわついた心が言うことを聞かず眠ることができなかった
ミンの笑った顔、泣いた顔、傷ついた顔
色んな顔が思い浮かんだ
眠ったのか起きているのか、現実か夢かわからないうちに
もう朝方だった
そんな時メールが届いた
ミンからのメッセージ

「万事順調です。順調すぎて帰りがまた少し伸びそうです。そっちも順調?」

何度読んでも「怪我」の一言もない
どういうことだろう
ミンが嘘をついている
僕に嘘を・・
でも僕はもう知っている
ミンが怪我をしたことを

考えてみたらあまりに少ないメール
ミンらしい無駄のない簡潔なメッセージだと思っていた
違うのか
思えば簡潔すぎる
想像力が入り込む余地のないほど短くて・・
ミン、何があった?
僕に言えないことなのか
言えないことがあるのか
パソコンのふたを乱暴に閉め、またベッドに横になった
ざわついた心に一点の染みがつき、それがゆっくりと広がってゆく
なぜ嘘をつく・・
そんなことでまたしばらく悶々とし
それでもいつの間にか眠っていた
目を覚ますともう遅い朝だった

飛行機は午後の早い便なのであまり余裕がない
軽めのシャワーを浴びて支度をした
4人の部屋には動きがない
テジュンさんが久しぶりに帰ってきたのでイナ達はきっと遅かったのだろう
お兄さんとラブもたぶんまだ・・
僕はお兄さんの部屋の前まで行ったが引き返そうとした
その時静かにドアが開いた
少ししどけない様子のラブがいた

「もう行くの?」
「ああ、お兄さんによろしく伝えて」
「わかった、気をつけてね」
「ありがとう」
「ねえ・・」
「ん・・」
「あの人すごく心配してるよ」
「ミンのこと?」
「うん・・」
「様子がわかったらすぐ知らせる」
ラブは唇を噛んで下を向いた
僕はラブの肩に手を置いた
「後のこと頼んだよ」
「うん・・」
「いってらっしゃい」
ラブは顔を上げて僕の頬に軽いキスをした

「ミンチョル」
気がつくとイナが出てきていた
「行くのか」
「ああ」
「気をつけてな」
「わかってる」
「ミソチョルと留守番しててやるから心配するな」
「あの子を汚すなよ」
「うるさいなあ」
「酒をかけるのはやめてくれよ」
「かけてるんじゃない、飲ませてるんだ」
「どうでもいいから汚さないでくれ」
「わからず屋のトンチキっ」
「そっちこそ、お子様のくせに」
「うるさい」
「どっちが」
いつもの言い争いになりそうだった
でも違った

突然イナが僕を抱きしめた
「後のことは心配ないから、いいな」
「ん・・」
「向こうで迷子になったりするなよ」
「ん・・」
「ちゃんと帰ってこいよ」
「ん・・」
イナがきつく抱きしめるので僕は息苦しくてまともな返事ができなかった
息苦しくて・・・

ラブとイナがエレベーターの所まで見送りに来てくれた
イナの袖にからみついたラブが手を振った
「いってらっしゃい」
イナは鼻をこすりながらじゃあな、と言った
僕は平気な顔で行ってくるから、と言った
エレベーターの扉が閉まるまで平気な顔で

トンプソンさんにイギリスへ行くと挨拶をした
「もう寒いでしょうから、そのコートがお役に立つでしょう」
トンプソンさんは何も聞かず一言だけ
ボストンバッグにかけてある僕の新調したばかりのショートコートを見つめ微笑んだ
駐車場に降りて、ちょっと考えてから僕はローバーに乗り空港へ向かった

空港でチェックインを済ませスヒョンに電話をした
「今空港にいる」
「そうか」
「色々ありがとう。行ってくる」
「気をつけてな」
「わかってる」
短い会話で携帯を切った
僕はロビーの椅子に腰掛け目を閉じた
イナやスヒョンやお兄さんやラブ・・
心配してくれた仲間の顔を思い浮かべた
そう言えばドンジュンは昨日帰ってきたはずだ
ミンとロンドンで会ったのだろうか・・

誰かが肩を掴んだ
目を開けるとスヒョンがいた
「スヒョン・・」
「こんなとこで居眠りか、乗り遅れるぞ」
「どうして?」
「見送りに来ちゃ悪いか」
「だってさっき電話・・」
「ちょうど空港に着いたとこだった」
「・・・」
「一言だけ言いたくて」
「何?」
スヒョンは僕の隣に座るとゆっくりと僕を抱きしめた
「お前がしっかりしてれば大丈夫、何も心配いらない」
「スヒョン・・」
「いいね?」
「ああ」
「よおし、じゃ行っておいで」
スヒョンは僕の腕を掴んで立たせた

「僕への土産は高いものでなくていいから」
ゲートの前でスヒョンは両手をジーパンのポケットに突っ込んで笑った
「土産は・・僕とミンの笑顔でいいだろ」
スヒョンは肩をすくめた
「何の役にも立たない土産だ」
「そう言えばドンジュンは元気?」
「元気で帰ってきたよ。まだ寝てる」
「そうか・・」
「お前も元気で行って帰って来い」
僕は笑ってスヒョンに手を振った

機内に入り席に腰をおろした
何日か前にミンを送りだした僕が今飛び立とうとしている
まさかこんな事になるなんて
あの時は思ってもいなかった

万事順調だよ、そっちも順調?

ミン、どうして嘘をつく・・
僕はまたあのメールを思い出していた


ふわふわふわ…  ぴかろん

今日ミンチョルさんが旅立った

昨日の夜はみんなバタバタしていた
イナさんなんか、大事なテジュンの事忘れてるし、あいつも俺の事忘れてるし…
だからちょっと拗ねてたんだ…
そんな時にテジュンったらどうして電話なんかかけてくるのさ…
ホントに…二人でどっか行っちゃおうと思ったんだ…
でもアイツが気づいてくれたから…

よかった…

テジュンを連れてきたイナさんはずっと涙目で、アイツと俺を見て『変だろ?』アイツとミンチョルさんを見て『みんなおかしいだろ?』なんて説明してた
テジュンは面食らってたけど、いつの間にか的確なアドバイスをしていて、アイツとまた睨み合ってた
ミンチョルさんの天然のお色気にぽーっとなったテジュンとアイツを、イナさんと俺はそれぞれ思いっきり抓ってやった…

ミンチョルさんが部屋に引き上げてからも、イナさんとアイツはなんだか慌てふためいていて、ミンチョルさんが散らかした荷物の片付けを二人で一生懸命やっていた

俺はまた寂しくなってリビングのソファに座ってた
するとテジュンがやって来て俺の隣に座った

「なんだかなぁ…まいったなぁ…」
「…。おかえり…」
「…。ただいま…」

俺達は暫くそうしていた
そのうちイナさんもギョンジンもこっちに来るだろうと思って…

「イナ!そういうたたみ方をするんじゃない」
「え?なんで?いいじゃん別に」
「だめだ!こうだ」

壁の向こうから聞こえてくる二人の会話を聞きながら俺とテジュンは黙っていた
今日は…話してくれるかな…
それとも明日?
俺、必要?ほんとに必要?
イナさんに話聞いてもらえばいいんじゃないの?

隣にテジュンがいるのに、俺の意識はアイツに向いてる
テジュンだってきっとそうだろう…

「は…。イナったら『おかえり』も言ってくれない…」
「…」
「お前…どうしたの?」
「…え…」
「ヤキモチか?」
「…」
「違うな…。アイツが何にも話してくれない…」
「…え…」
「そういう顔に見えるけど…」
「…くふ…」

まいったな…なんで解るの?そんなに俺って解りやすい?

答えようとしたけど込み上げてくる涙に言葉は掻き消される
テジュンに涙を見せたくなくて、俺は窓の方に顔を向けた
テジュンはまた押し黙った

焦ったってしょうがない…
きっとちゃんと話してくれる
それまで待てばいいんじゃないか…
簡単な事だ
俺が我慢すればいい…

頭の中で冷静な俺が泣きじゃくってる俺に諭す
そう言われれば言われるほど、我儘な俺は反抗する
涙を流すなと指令が下ると反対に涙を流し、待てと言われると外へ飛び出したくなる
ソファの上に置いていた右手に暖かいものが触れた
テジュンの指だとすぐに解った

その肩に凭れたくなる
抱きしめて欲しくなる
キスの一つや二つ…したって構わないだろ?
俺達あいつらにほったらかしにされてるんだもん…

でも…できない…

手の甲がてのひらで覆われ、包まれる
俺は我慢できなくなり、小さく嗚咽を漏らしてしゃくり上げた
また泣く…
なんで泣く?
テジュンは押し黙ったまま俺の手を優しく握っていた

その手に集中する…
心が落ち着く…
テジュンが俺を心配してくれている…
俺は目を瞑り心の中で呟く

…やっぱり好きだよ…テジュン…

俺の瞼の裏には幸せな風景が映し出される
海辺を歩くテジュンと俺
何か囁きながら腕を組んで微笑み合い、立ち止まってくちづけをする
テジュンの唇が俺の肌に降りてきて俺達はひとつになる…

「…あ…」

馬鹿な俺は声を漏らしてしまった
途端にきつく握られる手
長く吐かれた息の音
馬鹿な俺…

「ギョンジンだろ?…欲しいのは…」
「…」

閉じていた目を開いて壁を見つめる
二人はまだがさごそと片付けをしている

「イナさんが…欲しい?」
「…ん…」

チラリとテジュンを見ると、テジュンもまた壁を見つめていた
長い睫毛が待ちくたびれて揺れている
俺の睫毛も待ちくたびれてるのかな…
ふいにテジュンが俺を見た
心臓がきゅんと痛んだ
目が離せなかった

「キスでもする?」
「…いいよ…」
「…」
「…」

唇を近づける
お互いに躊躇う
躊躇いすぎて笑い出す
そしてまた離れる

「できないね…」
「できない…」
「ここじゃ見つかるからなぁ」
「うん…ややこしくなる…」
「じゃ、もっと本格的にケンカしたときは是非」
「そうですね、ホントに忘れ去られた場合は是非俺と…」
「ふふ…」
「うふふ…」
「やっぱちょっとだけしとく?」
「軽くならいいかな…」
「そうだよ、あいつら僕等をないがしろにしすぎだもん!」
「そうだよね…やっちゃお!」
「よっしゃ!」

そしてもう一度唇を近づける
触れそうになったところでお互いに吹き出してしまいやっぱりできない
あはははと笑いあって顔を上げるとイナさんとアイツが呆然と俺達を見ている

「「あ…」」
「「…」」

蒼ざめている二人を見て、テジュンと俺は顔を見合わせて笑った

『しなくてよかったな…』
『…でも…した…』
『え?』
『心の中で…』
『…』
『…俺だけ?…』

テジュンは眉毛を少し上げて俺に微笑み、手の甲をトントンと叩いて立ち上がった
その背中を見送る
背中の向こうにアイツがいた

まったくずるいヤツ…
そんな切ない顔で俺を見るなんて…
俺がどんなに切ない思いでアンタを見てたか解ってるの?

テジュンは涙目のイナさんを抱きしめて、おやすみと告げて部屋へ行く
アイツは俺の足元に座り込んで俺の膝を抱きしめる
心がまたきゅんと痛む

愛しい人…
俺が思う半分でいいから
俺の事、思ってほしい…

「部屋にいく?」
「…くそじじいとあんな事するな…」
「え?」
「いやだ!」
「…」
「僕の方を見てて…お願い…」
「ギョンジン…」

見てるじゃん…ばか…

俺はアイツの頭を抱きしめて髪にキスした
部屋に戻ってシャワーを浴び、ベッドに寝っ転がる
ふざけてさっきの想像えっちの話をする
アイツは真剣な目をして俺の顔を覗き込む
俺の体を押さえ込んでキスを落とし、その唇を体に這わせていく
俺はアイツの肩を押し、無理しなくていいよと言う
アイツの目に涙が溢れ悲しげに顔が歪む

それからアイツは俺に話してくれた
不安な気持ちを全て…
俺はアイツの額にくちづけて言った

「辛い時は言って…。役に立たないかもしれないけど俺に分けて…。一人で苦しまないで…」
「ラブ」
「アンタが一人で苦しんでると、俺、馬鹿な事して余計アンタを苦しめちゃうよ…」
「…」
「ね…」

アイツとくっついて眠った
やっと心まで温かくなった…


待つ者  足バンさん

今日は店に出ている人間が少なかった上
ミンチョルのこともあって少し早目に営業を終らせた

ドンジュン、ソクさんとスヒョク、テジンとスハは明日から出られる
しかしミンチョルもギョンビンもいない
長く全員が揃っていないような気がして少し寂しさを感じる

ギョンビンが帰って来たらまた一席もとうかな
ギョンビンが帰って来たら…
元気のない笑顔で帰って行ったミンチョルが気になった

家に戻ってドアを開けると
すかさずドンジュンが首に飛びついて情熱的なキスで出迎えた
午後空港から直接やつをここに落として店に出ていた

「ああ寂しかった~!こんなんなら店に行けばよかった!」
「仕事はすんだの?」
「うん何とかまとめた!スヒョンにも聞いてほしいんだ!」
「ドンジュンあのね」
「けっこうイケル企画なんだよ!」
「あのね」
「ね!夕食まだでしょ?どっか食べに行く?」
「ドンジュン」
「それとも僕作ろうか!パリで培った味覚を是非スヒョンに…」
「ドンジュン!」
「…」

笑って騒いでいたドンジュンはいきなり僕を睨みつけて
ぷいと後ろを向くとソファにドカリと腰を下ろした
仕方なく僕はその前に回って下から顔を覗き込む

「ドンジュン…ギョンビンがね…」
「わかってるよ!何かあったんでしょ」
「読んだの?」
「そんなんじゃない…あいつ…ロンドンで辛そうだったもん」
「そうなの?」
「連絡ないし、帰国してないし…スヒョンの心は渦巻いてるし…時差ボケの頭にだってわかる」

ドンジュンは膝を抱え込んで顔を埋めるようにして目を閉じた

「仕事がうまくいったら帰れないって…別れ際消え入りそうだったし…
 きっとむちゃな仕事引き受けたんだあいつ」
「撃たれたんだ」
「…」
「テロリストの襲撃をうけた」
「…」
「致命傷じゃない…元気だそうだ…明日ミンチョルが向こうに行く」
「…」
「他に何があったかは…今はわからない」

ドンジュンはまたいきなり立ち上がると
部屋の隅に散らかしていた土産物をスーツケースの中に詰め始めた

「何してるの、帰るの?」
「違う!違う!これギョンビンが帰って来るまでみんなにあげない!」
「ドンジュン」
「スヒョンにだってお預けだからね!」

ドンジュンの目から涙がぽろぽろこぼれ落ちる

「一緒に買ったんだから!スヒョンのだって一緒に買いに行ったんだから!
 みんなの何がいいかって一緒に考えたり担当決めたり…変なもん見つけて笑って…」
「ドンジュン…」

僕は動かし続けるやつの手を掴んで止め抱きしめてやった
ドンジュンは声を殺して泣いた
ロンドンで何も力になれなかったと
もっとちゃんと聞いてやればよかったといって泣いた
でも無事でよかったといって泣いた

帰って来るまで僕の土産の中身も内緒だからねといって
それまではこのセーター絶対見せてやんないって泣いた

おまえ…全然内緒じゃないじゃない…

「わかったよ…ふたりが帰るまで我慢する」

その夜
時差ボケで中々眠れないドンジュンのパリの思い出につき合い
時々思い出したように涙をこぼすやつを抱きしめて眠った
懐かしい香りを感じながら

次の日僕はミンチョルに何も言わず空港に向かった
僕が行っても何の足しにもならないだろうが
ひとこと言って送りたかった

すっかり時間の調子が狂ってまだベッドの中にいるドンジュンは
僕が仕度をしている頃に目を覚ました

「ミンチョルさんを送りに行くの?」
「うん、やっぱり行ってくる」
「キスとかしちゃダメだからね」
「ふふ…気を付けます」

僕はベッドの中のドンジュンに長いキスをして家を出た

ロビーにぽつんと座っているミンチョルを見つけた時
僕の携帯が鳴った
当のミンチョルからだ
こんなすぐ側にいるのにあいつは気づかず通話を終える

まったく
またそんな顔を僕に見せて…
帰って来る時は
またいつものおまえに戻っててくれる?

ひとり無機質な椅子に腰掛け目を閉じるミンチョルの肩を掴む

僕は隣に座って肩を抱き
「おまえがしっかりしてれば大丈夫、何も心配いらない」と言った
それだけをもう一度言って送りたかった

ゲートに入って行くミンチョルは
「土産は…僕とミンの笑顔でいいだろ」と言い
「何の役にも立たない土産だ」と僕は返してやった

それ以外は何もいらないよ

笑って帰っておいで
ギョンビンのために
ドンジュンのために
…僕のために


mio tempo riservato4 妄想省家政婦mayoさん

僕はミンギを大学に送った後.
RRHのマーケットで此処でしか買えないガレットを買った..
仏産の芳醇な発酵バターをふんだんに使ったそれは
口に入れるとほろほろと崩れ..バターの香りが鼻から抜ける
一度手土産にしてからこのガレットは”彼女”のお気に入りになっている

江北の鐘路区(チョンノ)三清洞(サムチョンドン)に位置する朝鮮王朝の正宮..景福宮(キョンボックン)の周りは
都心の混雑が感じられない物静かな雰囲気が漂う..
フクロウ博物館..韓服展示館..アジアエロス博物館等ユニークな博物館が並び
10余のギャラリーも点在しているこの界隈は伝統美術と近代美術を同時に鑑賞できる..

三清洞の何ヶ所かの路地の角を曲がり..細い路地の突き当たりにその店はある..
通い慣れたその店のドアを開けた..店内は珈琲の香りが漂う..
カフェと呼ぶよりも[珈琲館]..と呼ぶに相応しい趣だ..
分厚い一枚板のカウンター6席とカウンターの後ろに大きなテーブルが1つに椅子が8脚..
14席の小さな店を"彼女"ひとりで回している..
僕はいつものカウンターの端に座った..テーブルの客に珈琲を運んだ終えた"彼女"がカウンターに入った

「これ..いつものガレット..」
「ぁら..ありがとう..今日は何..エスプレッソ?」
「ストレートでいいょ」
「そ..」

カウンターの"彼女"は豆を挽き..珈琲を抽出し始めた..
"彼女"がポットの細い口からネルドリップに湯を注ぐと芳醇な珈琲の香りが鼻腔を擽る
2つのカップに珈琲を注いだ"彼女"は1つのカップを僕の前に置いた
僕が一口飲むのを確かめてから"彼女"が聞いた

「どう?」
「焙煎がほんのちょっと足りないかな..酸味が出てるょ」
「もぉ..厳しいわね..」
「ごめん..」

僕が口端で笑うと..やれやれ..と小さく首を振って笑った

"彼女"は....僕を生んだ母だ..

「相変わらず..”あちらさん”には顔出してないの?」
「必要ないょ..二度と敷居は踏まない..」
「...」
「そう決めてる..何度も聞かないでくれる?」
「ソヌ..」

母が”あちらさん”と呼ぶのは僕が育った家..もしくは僕を育てた義母のことを指す
7年前のゴタゴタで..僕はその家を出た..

家を出る前に僕は唯一母の最新の居所を知っていた父の秘書を締め上げ..吐かせた..
僕は蔚山(ウルサン)で小さな珈琲館を営んでいた母をソウルに連れ戻した  
  *蔚山=慶尚南道の釜山から海岸線に沿って北へ1時間程の工業都市..現代自動車のお膝元でもある

母は父と恋愛中..僕を授かって結婚すると決めた矢先..
当時のキムグループの創始者が父の手腕が欲しくて自分の娘=義母と結婚させた
義祖父は父に理事の椅子を用意し母が僕を生むと僕をキム家に引き取った..
キムグループは母から父と僕を奪ったことになる..

僕は幼い頃一度母に会ったことがある父が僕を連れて母に会わせた..
雪の舞い散るその日..母は僕の手を包んだ後..僕の顔を愛しそうに両手で包み

「ちゃんとご飯食べて..大きくなるのよ..」

っとひとことだけ僕に言った..
その時は単なる父の知り合いのおばさんと思っていたが..頬から染み入る暖かさが違っていた
僕は帰りの車の中で父から母の写真を渡された..僕は今でもそれを持っている..
それきり僕は母に会わせてもらえなかった..母も行方をくらましてたからだ
後から知ったことだが父が居所を突き止めると母はその場所からまた姿を消す..を繰り返していた

「ミスクさんは?..」
「たまに部屋に遊びに来る..この間も来たょ」
「そ..」
「ミスクは一応..片血は繋がってるから..」
「ふっ..そぅね..」

ミスクは腹違いの僕の妹..すらりと背が高く思春期は雑誌のモデルをしていた
奥二重でちょっと上がり気味の大きな目は意志の強さを表している
早くに結婚して妹と共に旦那もキムグループの一員だ..
妹は子供がいないので年齢より若く見える..
頻繁ではないが..妹は時たまふらりと顔を見せに僕の部屋にやってくる..
妹は義母寄りと言うよりは僕に同情的な感じで今は接してくる

「”あちらさん”は知ってるの?..」
「どうだろ..気づかない振りしてるかもね..どうでもいいけど..」
「ソヌ..」

「何か足りないものある?..持ってくる..」
「そぅねぇ..ドラジャピーベリーの生豆がほしいわ..有機栽培のね..」
「わかった..焙煎に手抜かないでょ..」

母は僕に眼鏡の中から上目遣いに冗談っぽくきっ#っと睨んだ..
店を出るとき店のドアの前で僕は母に時々尋ねる..

「一緒に住まない?..」と..

母の答えはいつもは同じだ..

「好きな人と住みなさいな..いつまで一人でいるつもりなの..」

今の僕には無理な注文だょ..
母は僕が路地の角を曲がるまでいつものように店の外に立ち僕を見送っていた...


Tomorrow  足バンさん

ソクさんとひとつになることができた

そうなるっていうことはどういうことなのかずっと考えてきた
いつも側にいて楽しく過ごしてきたけれど
この人が自分の心のどの辺りにいるのかわからずにいた
でももういい
そんなこと考えなくてもいいっていうことがわかった

信じるとか信じないとかそんなものじゃなくて
俺はこの人が必要だしこの人に必要なのも俺だと
これが今の自分の自然な形だと思えたから

俺の中のソクさんは熱くてまるで切り裂かれるようだ
気持ちいいなんてとても思えない
でもソクさんの恍惚の表情を見ていると嬉しかった
涙が出るほど嬉しかった
俺の腕を強く掴みながらこぼした最後のうめき声を聞いた時
我慢できないくらいの愛しさを胸一杯に感じた

ソクさんはそのまま俺を抱きしめて
ありがとうと言いながら汗の滲んだ額にキスをくれた

暫くしてゆっくり身体をずらして
まだどうにもなれずにいた俺を丹念に愛撫する
俺は身体を開いてすべてを投げ出して
ただそこだけが生きているような快感に時を忘れる

足を引きずって俯いて生きてきた俺が
この場所でこの人に出会った
初めはこの傷に触れるこの人を憎いとさえ思った
今まで誰も触れようとしなかった
触れてくれなかった傷

傷を持つことは恥ずかしいことじゃないと
そう教えてくれたのはあなただソクさん

俺は今までにない快感に身体をよじる
名前を呼びたかったけれど声にならなかった
頭の中で何度も叫んだ

すきだよ…堪らなくすきだ

俺はシーツの渦の中で背中を大きく反らして痙攣した

一緒にシャワーを浴びてそのまままたベッドに戻り
ぴたりと身体を合わせて横になる
痛みの残る俺を心配してソクさんはただ肩を抱きしめてくれた

「俺朝までこうしていたい」
「いいよ…ずっとこうしてるよ」

俺たちは本当に朝までそのまま眠った
静寂ですべてが安らかに感じられるその夜
俺は初めて心から安心して眠ったのかもしれない


朝、僕たちはホテルの庭をゆっくり散歩して
初めてふたりで食事をしたレストランで朝食をとった
あの時はほとんどスヒョクのことを知らなかった
ただ”兄貴”と呼ばれることに少しだけ抵抗があったのを憶えている

「何ですか?何がおかしいんですか?」
「ん?…いや」
「思い出し笑いは反則ですよ」
「うん…いや、うん…」

窓から射し込む柔らかい陽射しの中でスヒョクが照れくさそうに微笑む
薄桃色のテーブルクロスが反射して僕のスヒョクを優しくつつむ

「今日の午後行ってみませんか?」
「今日?」
「そう今日がいい…ね?」

展望台の帰り
ジュン君に渡したいものがあるんだとスヒョクに話した
あの古びたトランクに入っていた本
息子がいつも読んでくれとせがんだ思い出の本

まだ伝えたいことは沢山あった
成長したら教えてやりたいことが沢山あった
でもおまえはもういない
これから未来を生きていくジュン君に
譲ってもいいだろう?

それはおまえを忘れるっていうことじゃないからね、決して

俺たちはあの本を取りに戻った後
ジュンホ君に連絡しジュン君に会わせてもらうことになった

彼の家の近くの公園
遠くから俺たちを見つけて走ってくるジュン君をソクさんは眩しそうに見る

ふたりは公園の小さな石の象と小さな石のライオンに座って向かい合った
俺は少し離れたベンチで
その何の違和感もない親子の風景を見守る

あの人にその日学校であったことを嬉しそうに喋るジュン君

「へぇ…ジュン君けっこう足早いんだ」
「まぁね」
「なぁこの宇宙で一番早いものは何だと思う?」
「うーん…飛行機!ロケット!」
「乗り物に限らず」
「あ、音…じゃない光だ!」
「うん…そうなんだけどね」
「でしょ?学校で習ったもん」
「でももっと早いものがあるんだな」
「嘘だぁ!習ったもん」
「知りたい?」
「知りたい!」
「それはジュン君の”想像力”」
「へ?」

ソクさんはジュン君を覗き込んで「目をつむってごらん」と言った

「ジュン君はどこに行ってみたい?」
「火星!」
「じゃあ行ってみよう」
「えっ?」
「ホラ目を閉じて、出発するよ…3、2、1、GO!」
「えっ!もう飛び立ったの?」
「そう、ずぅーっと空に登って月を通り越して飛んで行ってごらん」
「へへーっ!うん通り越した!」
「振り向くと地球が見えるだろ?」
「うーん、見える!」
「前を見てごらん!ほら、赤い星が見えてきただろう?」
「うんうん!」
「着陸準備OK?」
「わおっ!OK!」
「着陸ー!」
「着陸ー!」
「ね?火星までは光で3分もかかるのにね」
「あはは!早っ!凄いかもソクさん!」

ソクさんは一瞬ためらってからジュン君の頬にそっと触れた

「君にできないことはないって…教えてあげたかった…いつか…」

泣き出すんじゃないかと思ったソクさんの目がふっと優しく笑った
そしてあの本を差し出す

「実はね…これの受け売り」
「絵本?」
「ロバート・フローマンの”もっとはやいものは”」
「読んでいいの?」
「古いけど…これプレゼントしようと思って今日来たんだ」
「わおっ!ホントっ?いいのっ?ソクさんの本なの?」
「…うん…今はね」
「くれちゃっていいの?」
「うん…ジュン君に読んでほしくて」
「わおっ!ありがとう!パパと読もう!」

ふたりのシルエットを秋の空気が優しく取り囲む
そこだけに暖かい時間がゆっくりと流れる

そこにはソクさんとお子さんがいた
長い時間離ればなれだった父と子がいた

ねえソクさん
ありがとうパパっていう声…聞こえますか?

彼は本を抱えて帰っていくジュン君が見えなくなるまで手を振っていた

赤い目をしているソクさんの手をそっと握る
ソクさんは強く握り返してくれた

ねえソクさん…あなたのこともっと聞かせて下さい
ん…どこから話そうか…

そこから下宿までの長い距離を俺たちはゆっくりと歩いて帰った


だいすき  ぴかろん

ラブとキスしそうなテジュンを見た
心にひびが入った
ギョンジンが俺の肘をぎゅっと掴んだ
二人はあははと笑って俺達に気づき、こそこそと内緒話をしていた
それからテジュンがニコニコしながら俺を抱きしめて部屋へと押して行った

後ろから抱きしめられた
俺の心にはまだひびが入ったまんまで、身動きができない
首筋にテジュンの唇を感じる

「風呂…入れよ…」

俺の声は震えている

「なんで…後でいいよ…」

首筋に唇をつけたまま、掠れた愛しい声が言う
俺が忘れてたから?
ミンチョルの事に夢中になってたから?
だから…ラブ?
嫉妬するのはやめよう…
やっと会えたんだから…

テジュンの腕を振りほどいてバスルームに向かう
追いかけてくるテジュン

「なぁんだよぉイナぁ…」
「バブルバスにしてやっから待ってて」

入浴剤を入れ、勢いよくお湯を出し、泡風呂を作る
お湯を入れている間にバスローブやバスタオルを用意する
後ろからまたテジュンが抱きしめる

「きしゅしよ?なっ」

甘えた声を出すテジュンの方を向き、上着やシャツを脱がせてやる

「うぉほっ…何よ…。サービスいいじゃん…」
「ばか…」
「…ぱ○つは自分でやるからっ…」

急に赤くなって後ろを向くテジュン
その背中を見つめる俺

なぁ…
ラブの方がいいの?

心の中で問いかけた時、テジュンが振り向いて俺を引っ張った

「なに…」

テジュンの指が俺のシャツのボタンにかかり、一つ一つ外していく

「なに!なんだよ!」
「お前も一緒に入るの」
「いいよ俺は後で…。お前疲れてるだろ?ゆっくり入れよ」

俺の言葉など無視してテジュンはどんどん俺の服を脱がせていく…
そしてバスルームに引っ張り込む
先にバスタブに入って嬉しそうに自分の前の方を指さすテジュン
躊躇っているとまた腕を引かれた
仕方なく入る
抱きしめられる

「んー…気持ちいいれすね…ね?」
「…」
「…どうしたの?黙っちゃって…」
「…や…」
「キスしてないぞ、ラブとは…」
「…ん…」
「冗談だぞあれは…」
「…解ってる…」
「なら…なんでそんなローテンション」
「…お前…疲れてるだろ?」
「全然!」
「…ちょっと…場所変わろうよ…」
「何よ…」

俺はテジュンの背中に回った
縋りつきたくなっちゃうよ…

「なんかしてくれんのぉ?くふふん…」
「…なんかしてほしいの?」
「ん…思いっきりすっごいサービスして。僕の事、ほったらかしてた罰ね」
「…」

罰…
ラブといちゃついてたのも罰?
俺はそっとテジュンの背中に手を置いて滑らせ、その肌を優しくなぞった

「…ぁ…。ちょっと…イナ…。まずい…だめ…あ…。そこ…」
「…なんでこんな…硬いの?」
「ばか…」
「…どう?」
「あ…くふん…あ…。すごい…うまい…あはん…」
「…」
「くぁ…あああ…はぁぁん…」
「変な声出すなよ…」
「だぁって気持ちいい…はあぁん…」
「すっげー凝ってるな…」
「くぅん…必死で安全運転してきたからぁぁん」

肩をマッサージしてやった
テジュンは違うとこも気持ちよくしてなどとジジイな発言をしていた
俺はテジュンの頭を叩いてバスタブから出た

「洗ってやる」
「なによぉ…なんでそんなにサービスしてくれんのぉ?くひっ…ああんまさか体を使って洗ってく…」ばきっ☆
「ぶぁかっ!」

膨れっ面でテジュンの体を『普通に』洗った
ぶぁか!変なことばっかり!
変な声出すしもうっ!
顔にシャワーをぶっかけてやった!

風呂から出てバスローブを着、ベッドに座っていると、髪を拭きながらテジュンが来た
いきなり太腿に頭を乗せて俺の腰を抱く

「なななんだよっ」
「くぅん…イナ…。イナイナイナぁ…」
「なにやってんの?」

テジュンはムスッとした顔で起き上がって言った

「甘えてんの!」
「…」
「ちゅっ…」
「あ」
「そんな半開きの口で僕を見つめるな!」
「…」
「くぅぅぅん…」

テジュンはまた俺の肩に顔を擦り付けて…甘えた
…甘えてるんだろうこの仕種は…
俺はどうしていいのか解らず、ただテジュンの頭を撫で続けた

「…せっかく僕から甘えてるのに…たまにはリードしろよ…」
「…」
「んもう!お前やっぱり変だ…。なんで僕に遠慮してる?」
「…え…」
「いつもなら擦り寄ってくるくせに」
「そんな事…ないもん…」
「…僕の事、嫌いになったの?」
「…なってないもん…」

大好きだもん…

テジュンは俺をベッドに押し倒し、唇を塞いだ
俺は必死でテジュンを押し戻すけど、上に乗っかられてるからどうにもなんない…
それでも腕に力を込めてテジュンをどけようとした

「…。なんで?いや?どうしてイナ…」
「…」
「…。言ってごらんよ…なんで?」
「…」
「…僕と寝たくない?」
「…」
「…イナ?」
「…」

何も言えなかった
イヤじゃない
けどイヤなんだ…

「…解ったよ…。もういい…」

テジュンは俺に背中を向けて寝っ転がった
何がイヤ?
ラブとキスしようとしてた事?
俺が自分を許せないから?
それもある…あるけど…

「なんでだよ…僕はお前が抱きたくて仕方ないのに…」
「…」
「何考えてるんだよ。言わなきゃ解んないだろ?!」
「…」

拗ねたように俺を責めるテジュン
言わなきゃ…解んない…
そうだよ…言わなきゃ解んない…

「ラブもギョンジンが何も言ってくれないって不安がってたよ…僕だって同じだ!不安になる!」
「俺だってそうだもん!」

俺の中で何かがプチンと弾けた

「…」
「俺なんかずっとそうだもん!テジュンなんにも言ってくれないじゃん…仕事の事もなんにも話してくれないじゃん!」
「それは」
「俺には関係ないから話さなくていいって事?」
「イナ…」
「どんな仕事なのかもちっとも教えてくんない…この一週間どんな様子だったかも教えてくんない…」
「…」
「俺がどんなに寂しかったか…どうしてここに来たか聞きもしない」

止まらなかった
ずっと胸に溜めていた言葉が止まらなくなってしまった
言うつもりじゃなかったのに…
黙ってテジュンを迎えようと思ってたのに
優しく包み込んであげたかったのに…

「…ごめん…」
「ごめんじゃねぇよ!」
「ちゃんと話すつもりだったよ…明日ゆっくりと。でも真っ先にお前を感じたかったから…」
「ラブが不安がってるって言ってたよね!俺が同じ気持ちだって思いもしなかった?!抱けば俺が安心すると思った?!俺のからだだけが欲しかった?なぁ!なあって!」
「イナ…」
「…うっとおしいなら…もう…俺なんか捨ててどっかいってくれ…。俺は…俺はどうしても寂しい…。頑張ったけど…寂しくてたまんなかった…。俺もう一人じゃいられない…。俺は情けない奴なんだ!一人ぼっちはイヤなんだ!でもお前は一緒に住んでくれない…だからここに来たんだ!ミンチョルやギョンジンが居るから…」
「…僕と一緒にいたい?」
「いたいよ…いたいけど…お前のやりたい事の邪魔はしたくない…」
「…じゃ…BHC辞めて僕と一緒に来る?」
「…え?」

テジュンはぽつぽつと仕事の話をしはじめた
俺が取り乱して騒いだから…

この仕事に誘われた話、先輩という人の話、俺を先輩に会わせる約束をした話、研修でぶった演説の話…
長い事かかってやっと話してくれた
俺はずうっとテジュンを見つめていた
心のひびが消えていく…

「お前ってすごいヤツなんだ。だから…僕お前に甘えすぎた…ごめんな…」
「…」

テジュンの言葉の意味が解らなかった

「お前な…、すごいヤツなんだよ…。ちゃんと受け止めるだろ?怖がってても」
「…」
「負けそうになっても傷だらけになってもちゃんと乗り越えるだろ?」
「…何の事言ってんの?…お前とラブとのあの事?」
「それも乗り越えてくれただろう?」
「…あれは…みんなに助けてもらって…」
「それでもちゃんと乗り越えた。あれからお前、強くなった」
「…」
「僕はお前が自分に嘘をつかないところが大好きなんだ…」
「…」
「寂しい時は寂しいって言えるところが大好きなんだ…。捨て身でぶつかってくとこが大好きなんだ。何だって受け止めて理解しようと頑張るとこが大好きなんだよイナ…」
「…何…解んないよ俺…」
「僕は自分勝手な男だから、知らないうちにお前に悲しい思いをさせてると思う…そんな時はちゃんと言って。お前のいう事がおかしいと思ったら僕だってちゃんと言うから」
「…」
「もっとケンカしよう…もっと言い争いしようイナ」
「なに…」
「もっと解り合おうイナ…」
「…」
「つまり…。イナ…大好きだ…」
「俺…俺だって…だいしゅきら…」

軽くキスをして微笑んだテジュンは、鼻と鼻をくっつけていたずらっぽく言った

「だからさ…。まずは体から解り合おう!」
「ばっやめっあっ…あっやっ…」

テジュンは異常に元気だった
俺は明け方まで寝かせてもらえなかった
もうこんな事はないかもしれないってくらい…しゅごかった…
こんなにしゅごくなくていい…
俺はただ…てじゅに抱きしめてもらうらけでまんじょくなのに…ああ…
れも…
きもちよかった…
ああ…


闇夜のドン_3   妄想省家政婦mayoさん

昨日3人で店から帰ると釜山から大きな荷物が届いていた
荷物を抱えて部屋に入る闇夜の後頭部にちぇみがコツン#と拳固を落とした
闇夜は部屋でごそごそと生地を出し..リビングで夜遅くまではるみの服を縫っていた

朝食を終えた後..僕ははるみのピンクのリボンを解き..韓服を着せた
昨晩闇夜が仕上げた裾に刺繍のある赤い上衣と燻銀のチマの上下だ

「わぁ..はるみぃ..いいね..」「はるみちゃん..イップジイ~~(可愛い)」「どれどれ..」
「みゃぁ^^..みゃみゃ*^o^*~~ンッケッケ(>▽<)..パコ#」

男3人ではるみを順繰りに撫で回し..捏ねくり回した
ちぇみはまたはるみのチマ(スカート)を捲って頭をパコッ#っと叩かれた

闇夜がはるみと同じデザインの韓服を着て出て来た
いつも黒服の”カラス闇夜”ばかり見ている僕等には赤の上衣の韓服は新鮮に映った
上衣の赤色が闇夜の白い顔に反射している
あぁでもないこぅでもないとまた皆で写真を撮った
闇夜ははるみを抱いてオルシン邸に行った


オルシン邸に着くといつもの書生に部屋に通される
若い書生の申(シン)君はオルシンの元へ来た頃はあどけない可愛い顔をしていた
すっ..っと私が横目で見るといつも俯いてもぞもぞとしていたが..
2年も経つ最近は顔に締まりが出て..横目で返すように成長して来ている

「ね..申君..オルシンに何かされた?」
「どういう意味ですか?..オルシンに失礼です..」
「そっ..それは申し訳ない..」
「ぁの.テックヒョンさんと同じ事をお聞きになるんですね..」
「おっとぉ..一本取られちゃった..」
「それも同じ台詞ですね..テックヒョンさんと..」
「ぁらら..そぅ..」
「はぃ..」

っと申君は私に此処まで言えるくらいになった

いつもの挨拶をはるみと済ませるとオルシンの膝にはるみが乗った
今日は座卓の前ではなく..六角形の脚の付いたお盆=ソバンの前に座っていた
お茶をソバンに乗せた申君にオルシンが目で合図をすると申君は白い封筒をオルシンに渡した

「約束のものじゃ..」
「中を改めさせて頂いても?」

オルシンははるみを撫でながら頷いた..
デカイ物件の入札は結局オルシンに落ちた..封筒の中身は調査の謝礼だ

「ぉ?..ちょっと多いですが..追加の調査がある..ということでしょうか」
「くっ..察しがええのぉ..」
「ひょっとして..元(ウォン)×金(キム)ですか?」
「ぅむ..詳しくは夜にテックヒョンに伝える..あやつから聞け」
「解りました」

「ぁ..オルシン..この間の紹興酒..堪能させて頂きました..美味しかったです..」
「ンッカッ...カッ..そうじゃろう..そうじゃろう..今日は黒龍を持たせるでの..」
「ぉ..青ボトルの長期低温熟成..[黒龍..石田屋]ですか?」
「んにゃ..[黒龍..ニ左衛門..斗瓶囲い]の方じゃ..ンカカ..」
「オモ..珍しいものを..よろしいので?」
「ぅむ..チビチビ味わって飲むのじゃぞぇ??」
「はっ..はぃ~~*^^*//」

すっかり顔の緩んだ私にオルインは閉じた扇子で頭をすりすり〃した
その後また広い敷地の散歩だ..

「葉が少しづつ色づいてますね」
「ぅむ..ぉ..4人で紅葉見物にでも来たらどうじゃ」
「はひ?」
「お前さんのナニは料理人じゃろ..大層旨いそうじゃな」
「^^;;..はひ..」
「弁当持って来いな..わしにも食わせろ..」
「はひ..いづれ..」

「ところで..ちょいとお前さんに相談があるんじゃ..」
「ぁふ..黒龍はエサですか」
「うぬぬ..そういう訳ではないわい..」
「^^;;..何でしょうか..相談事とは..」
「ぅぬ..」

いつも歯切れのいいオルシンがぼそぼそと語った..
オルシンはある仕事を提案した..どちらかというと..個人的な頼みか

「お前さんは出来んかのぉ..」
「私には無理ですね..」
「ぅ...わしに即答かっ!!..」
「出来ないものは出来ませんっ#」

「ん..んのぉ#..」
..オルシンの扇子が思いっきり上がった

「みゃぉみゃぉん〃>o<〃」
..胸に抱いてるはるみが私の頭を庇った

「私は出来ませんが..当てがないわけでは」
「ん..んぐぐ..」
「考えてみます..それでご勘弁を..」
「んぐ..」
..オルシンの扇子を持った腕が下がった

「まぁったく..生意気になりおって..」
「すいません..仕込みがいいもので..」

オルシンは「ンカッカッカ」っと満足そうに高らかに笑い..はるみの頭を撫でた
[黒龍..ニ左衛門..斗瓶囲い]を手にオルシン邸を後にした


昼前に帰った闇夜はテスに白い封筒を渡し..テスはそれを持って出掛けた
闇夜がはるみと一緒に着替えを済ませた..僕はまたはるみにピンクのリボンを結ぶ
銀行で1階の工事やら何やらの支払いを済ませたテスが帰って来た

昼食を済ませ僕等男3人は1階でオープン前の色々な準備をした
闇夜はちぇみが一度チェックをした資料を仕上げていた
夕方に闇夜はその資料を持って..ちぇみ顔のシン・リュルに会いに行く..










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