ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 164

Before Sunrise 2 れいんさん

マリアの話は続く

「どこまで話したかしら。えっと・・そうそう、ママはね、パパの愛人の事は見て見ぬ振りをして
自分はゴルフクラブのレッスンプロに夢中なの。
それ以外は毎日違うお稽古事とショッピングで暇を潰している退屈な女
そんな二人は表向きとっても仲のいい夫婦を演じているわ。選挙対策かしらね」

金持ちには金持ちの悩みがあるらしい

「兄弟は?」
「兄はお堅い大学教授。でもね、変態趣味があるんじゃないかと私は睨んでいるの
姉はお約束通り医者の妻。こちらもぜいたく三昧でママの複製みたいな人
そして私は家族の頭痛のタネ、恥さらしの不良娘ってわけ」

ここにも寂しがり屋がもう一人・・
あいつみたいな・・

僕の心臓が急にトクンと音をたて、胸の奥がチクリと痛んだ
胸が痛むそのわけを考えまいと、僕は腕にはめてる時計をみた
午前二時か・・

「ねえ、その時計、ちょっと見せて」
彼女がまっすぐに手を伸ばした
彼女が開いた掌に、はずした腕時計をのせた

「これ、私の時計と交換しない?」
彼女は細い腕から外したばかりの時計を僕に手渡した
「これ・・CARTIER?」
「うん。 タンクフランセーズ 。ママからの誕生日プレゼント。これにカードが添えられて送ってきたの」
「こんな高価な物と交換なんかできないよ。僕のはどこにでもある普通の時計だ」
「だって気に入ったんだもん。このフツーっぽい感じ」

彼女はさっさと僕の時計を身に付けた
やれやれ・・
つくづく僕って言い出したら聞かないわがままな奴に縁があるらしい
僕は軽く首を振り、タンクフランセーズとやらを巻きつけた
女物だってどこから見てもわかるじゃないか・・

「あれ?この時計・・止まってる?」
「わざとそうしてるの。時間に縛られるの嫌なんだもん」
「そんな・・これじゃ、時間がわからない」
「だから交換したの。だってさっきから時計ばっかり気にしちゃって・・」
「え・・」
「時間なんて忘れてほしいな」
「あ?」

「だからさ・・今夜泊まって行かない?」
「えっ?」
「・・鈍いわね・・抱いてもいいよって言ってるの!」
「えっ?えええっ??・・そ、そんな・・僕はそんなつもりじゃ・・」
「・・朝までアンタと一緒にいたいの」

「だけど。無断外泊なんて・・その・・」
「アンタ、いったい幾つなの?親と同居?」
「そうじゃないけど・・」
「恋人と住んでるとか?」
「こ・・恋人じゃ・・ない・・」
う、嘘は言ってないよな・・

「もしかして、女に興味がないとか?」
「興味は・・ある・・」

興味はあるんだ・・そう、それは本当だよな
あいつに特別な感情を持ったのは・・僕にとっても青天の霹靂だし
その事だって、まだきちんと自分でも整理できずにいる・・

「今夜は一人でいたくないの。」

心の準備は何ひとつできていないというのに
マリアは僕の腿に腰掛け首に腕を巻きつけた
これから何が起こるのか予想はついていた
この僕とした事が間抜けな事に、まるでウブな少年みたいに身動きひとつできなかった
彼女は顔を近づけ、柔らかなその唇を僕の唇にそっと重ねた

その夜、僕はマリアと寝た

喉の渇きを潤すみたいに、本能のままに求め合った
互いの傷を舐め合ったとでも言うのだろうか
行き場のない僕の想いを満たすのに、彼女の身体は十分過ぎる程、魅力的だった

ベッドの中で僕の肩に顔を埋める彼女
湿った肌が滑らかに僕に吸い付く

「凄く・・よかった・・」
そう、直接的に言われても返事に困る
「ドンヒは?」
「うん・・」

こういうのは照れくさくて曖昧に返事をした
だけど・・そう・・確かによかった

僕の身体に絡み付く彼女の長い脚
敏感に反応し、仰け反らせるしなやかな肢体
背中に食い込む彼女の爪先
扇状に広がる黒い髪
彼女はとても素晴らしかった

僕は甘い余韻とほろ苦い後悔と、どう折り合いをつけていいのか分からなかった

「ねえ・・私を抱きながら・・誰の事を想っていたの?」

ふいの彼女の問いかけに、心臓が止まりそうになった
やがて思い出した様に、激しく打ち始める胸の鼓動
きっと僕はうろたえていたに違いない

「ドンヒの瞳・・私じゃない誰かを見てるって感じたの」
「・・」
「ゴメン。変な事言っちゃった。・・なんだか疲れたみたい。少し眠りましょ」
「ああ、そうだね・・」

乾いた唇からようやくその言葉を絞り出した
彼女の鋭い問いかけに、目が冴えて眠れやしない
なのに彼女は次第にまどろんで
僕の腕の中で眠りについた

朝日が昇る頃、小鳥のさえずりで目が覚めた
いつの間にか、うとうとと僕も眠っていたらしい

この状況を理解するのに、少しだけ時間を要した
軽い頭痛のせいだったのかもしれない
身体を起こした反動でマリアの身体も揺れた

「あ・・おはよ」
「ああ・・」
「よく眠れた?」
「うん」

何か気恥ずかしさもあり、まともに顔を見られなかった

「朝、目が覚めた時、誰かがいるって悪くないわね」
彼女が呟いた

あいつが目を覚ました時、僕がいなくて寂しいなんて思うのだろうか・・

「ねえ、ドンヒの今日の予定は?」
「うん・・もう、帰らなきゃ」
「そう。じゃ、コーヒー淹れるね」

マリアは裸のままベッドを抜け出した
慌てて目を伏せたけど、残像が目に焼きついていた

二人ともガウンを着たまま、コーヒーとフルーツの軽い朝食
二日酔いにはこれくらいが丁度いい

「家まで車で送ってあげる」
マグカップを両手で包み込んだまま彼女が言った
「いいよ、そんなの。ゆっくりしてろよ」
「いいの。どうせ大学に行くつもりだし」
「え?君、大学生?」
「あら、意外?」
「そうじゃないけど・・バーでのイメージだと・・」

「ふん、何よ。ま、いいけど。本当はやりたい事があったんだ。
だけど親の望み通りの大学に妥協しちゃった。ほとんどさぼってばっかり」
「へえ・・そうかぁ・・大学生ね・・君、モテルだろ?綺麗だから」
「そんな事ない。大学じゃ、変人扱いされてる宇宙人みたいな存在」

なんだか想像つきすぎる
その気になればモテルだろうに
きっと君の方が誰の事も寄せ付けないんだね

「退屈な奴らの顔、たまに見るのも悪くないわ。だからついでに送ってあげる」


発熱 2 オリーさん

ではお大事に、と言って医師が帰っていった
お世話になりましたと頭を下げた僕に向かって
エレベーターに乗りかけた彼が一言付け加えた
「弟さん、あまり甘やかさない方がいいですよ」
「はあ」
僕は苦笑した
「怪我をしてるのでちょっと神経質になっていまして」
「ならいいんですけど。とにかくお大事に」
彼はそう言ってエレベーターの中へ消えていった

それを見届けてから僕は寝室へ戻り、ミンの顔を覗いた
「何だってあんな大騒ぎしたんだ」
「だって注射は嫌いだもん」
ミンはそっぽを向いた
僕がわざと大きくため息をつくとミンは熱っぽい目で振り返った
「あの約束守ってよね」
「約束?」
「注射する時したでしょ」
「ああ」
僕はまたため息をついた

トンプソンさんの紹介してくれた医師がやってきてミンを診てくれた
解熱剤を打ちましょうと言ったとたん、ミンは駄々をこねた
「注射は嫌い」「絶対嫌だ」「熱なんか平気だもん」
ベッドの上で暴れ出した
呆れてる医師を目の前にして、僕は仕方なくミンの耳にそっと囁いた
「注射をしたら、ミンの言うこと何でも聞いてやる」
ミンの目がきらっと光った
「ほんと?」
「ほんとだ」
ミンはにっこり笑うとおとなしく注射を打ってもらったのだった
熱が出てからのミンはいつもとちょっと違う
まるで子供みたいだ

「水が飲みたい」
「わかった」
「冷たい水」
「わかってる」
僕はミネラルウォーターを持っていった
「飲ませて」
「ほら」
「違うっ」
「ん?」
「口移しで飲ませて」
「冷たくなくなるぞ」
「約束したでしょ」
駄々っ子はシーツを顔まで引き上げて僕に命令している

僕は水を口にふくむと、ミンの唇をそっと開き水を飲ませた
ミンが喉を鳴らしてその水を飲み終わると、
熱を持った頬に手を当て、そのままミンに深いキスをした
「これはサービスだよ」
「もう一回飲みたい・・」
もう一度ミンに水を飲ませた
そしてまたキスをした
コップの水がなくなるまで繰り返した
「どう、満足した?」
ミンはまたシーツを顔まで引き上げてふふっと笑った

お兄さんとラブが帰ってきた
イナもいた
お兄さんは僕の顔を見るなり、弟は?と聞いた
「今休んでます」
「熱は?」
「さっき注射をしてもらったのでたぶん大丈夫だと」
「注射?あいつ、注射させました?」
「え、ええ」
「そうか・・」
「会います?」
「もちろん」

お兄さんが寝室へ入り、その後にラブ君が続いた
戸口のところでイナが僕をつついた
「よお、お疲れ」
「ただいま」
「ミソチョルと留守番しててやったからな」
「ありがとう」
「お、素直じゃん」
「まあな」
「お前は大丈夫か」
「うん、まあ」
その時ベッドの方から声がした

「だから、ちゃんと病院へ行けっ」
「嫌だ」
「こんなとこで寝てたら迷惑だろう」
「いんだもん」
「お前はそうやって病気になると甘える」
「彼はいいって言ったもん」
「ミンチョルさんだって疲れてるんだぞ」
「いいんだもんっ!」

「お兄さん、どうしたんですか」
「ミンチョルさん、甘やかしてはいけない。弟を入院させましょう」
「今晩はここで様子を見ますから」
「ほらねっ」
「お前は黙れ。怪我もしてるんだぞ」
「怪我のせいじゃないもん」
「わかるもんか。ミンチョルさんに熱がうつったらどうする」
「うつさないもん」
「嘘つけ、お前・・」
「もしかしてあの事まだ根に持ってる?」

「「「あの事?」」」
僕とイナとラブ君がハモった

「あの事って何?」
ラブ君が代表で聞いた
「僕が子供のころ兄さんに・・・」
「おたふく風邪をうつしたんだっ!」
「「「おたふく風邪・・」」」

「寝てろって言うのに、お前が痛いだの苦しいだの言って僕にまとわりついて・・」

「母さんはおたふくは子供のうちにやっちゃった方がいいって言ったじゃないか」
「おかげで僕の顔は・・ふくれた」
「おたふくなんだから当然だろ」
「おかげで僕はデートできなくなって・・」
「僕の彼女だったじゃないかっ」
「ふられた・・」
「中学生が小学生の彼女作るなよっ。しかも僕の彼女だったのにっ」
「おたふくは痛かった」
「だからっ、子供のうちにすませてよかったって母さんも」
「母さんはいつもお前の味方だ」
「知るかっ」
「お前はいっつも病気になると甘える」
「いいじゃん」

「病気の時はそりゃ甘えたくなるよね」
「まあな」
ラブ君とイナが口をはさんだ
「子供ならなおさらだよね」
「だよな」

「怪我してるくせに無理して飛行機なんか乗るから」
「怪我は平気だもん」
「撃たれたり切られたりするのは平気なくせに熱くらいでひーひー言うな」
「僕の勝手だろ」
「大騒ぎして飛行機に乗ったそうじゃないか」
「あれはカーネルとイケメンが親切でやってくれたんだよ」
「ポールがクビになったらお前のせいだぞ」
「飛行機間に合ったもん」
「へらず口っ!」
「被害妄想っ!」

「ふたりとも落ち着いてください」
「ミンチョルさん、こいつ甘やかしたらいけません。うつされますよ、熱」
「大丈夫ですよ、きっとミンが看病してくれる」
「いや、こいつは人におたふくうつして、一人で勝手に遊びに行った!」
「直ったら学校行くの当然だろ」
「ほらね、こういう奴です。僕が辛い思いしてたのに・・」

「ギョンジンはさあ、結局ギョンビンの心配してるの、してないの?」
ラブ君が割って入った
「そりゃ、してるに決まってる、でもこいつは・・」
「おたふくうつしたんだよね」
「そうだ」
「いいかげんで痴話げんかはやめて、素直に心配してるって言いなよ」
「う・・」
「素直じゃないなあ」
「う・・」
「僕、優しい人が好きだなあ」
「ラブ・・様」
「どうよ?」
「けほんっ」

ラブに叱られたお兄さんはミンのそばに行って一言つぶやいた
「おかえり・・あんまり心配させるなよ」
「ん、ただいま。ねえ兄さんの顔ピカソの絵になってる」
「え?!」
「ミン?」
「天井がまたぐわーんって」
「わかった、もう休め」
「ん」

寝室から出たラブがお兄さんをこづいた
「もうっ、心配してるのに喧嘩売ってどうすんのよ」
「ラブ・・」
「あんな風に突っかかるなんて」
「あいつが生意気だから」
「でも僕にはあんな風に言ったことないよね・・」
「え?」
「仲よくないとあんな風にできないよね」
「ラブ?」
「あーあ、何だか面白くないなあ」
「ラブ・・様?」
「イナさん、どこか飲みにでも行く?」
「ラブ様っ!!」
「ね、イナさん、あれ?どしたの?」
「イナ、どうした?」
「イナ?涙目だぞ」
「なあ・・」
「「「何?」」」
「おたふくってしょんなに痛いの?」
「イナさん、まさか・・」
「イナ、もしかして・・」
「イナ、やってないの?」
「なあ、しょんなに痛い?」

寝室に戻った僕はミンのそばに腰かけた
「ミン?」
ミンは寝息をたてていた
僕はその寝顔を見ながら思い返した
シーツを引き上げて駄々をこねる顔
氷を口に含む顔
注射を嫌だと言って騒いだ顔
どれも僕が初めてみる顔
駄々っ子のミンもなかなかいいよ
ずっとじゃ困るけどね・・
ミンがうっすらと微笑んだ気がした

僕はその夜、ずっとミンの手を握っていた


スピードクッキング  ぴかろん

てじゅが何を言ったか知らないが、俺が本当の事を言う
あいちゅはミソチョルを抱っこした俺を部屋にちゅれてきて、しょれからいろいろなんだかんだしたとか言ってなかったか?
ぶぁか!
ミソチョルはなんでも知ってるしなんでも見てるんだ!
らからミソチョルの前でヘンな事はできねぇんだ!
あとからバラされる…

俺は必死でてじゅの攻撃をかわした
ミソチョルに目隠ししてた時、てじゅはバスローブの裾をめくって変なものを押し付けてきたけど俺は後ろ蹴りで阻止!
その他にも俺の脇腹を擽ったり大事なトコを触ろうとしたり…

俺は…
俺は本当に情けなくなった…
ヨンナムさんがあの場所にテジュンを持ち込むなときつく言った意味が解る(;_;)
ただのヘンタイオヤジじゃねぇかっ!

てじゅをギロっと睨んでも全然効き目がない
楽しそうに俺にちょっかいをかける…
へろへろと指を太腿に這わせたり、首筋に唇寄せたり…
そのたんびに俺はミソチョルを後ろ向かせて頑張った…
ようやくお喋りミソチョルが眠ったとき、てじゅは目の色を変えて俺に迫ってきたけど
俺は頭に来てたのでげんげん蹴り倒して阻止!

え?何度もトライしたとか言ってた?
けっ!
トライはしてたけどキーパーが優秀でゴールできてねぇんだよっ!
…まぁ…
可哀想だから…
一回だけシュートさせてやったけど…
素早かったぜ…
すごいスピードだった…
ちっと古いけんど、カール・ルイスにも負けないぐらいのスピードだったぜひっひっ…

俺は万全を期して、ゴールはバスルームで決めさせてやった…
そのままシャワー浴びれるし、ミソチョルに見られないもんっひんっ

かなり引き伸ばしたからあんな超特急だったんだな…ふふん…
これからこの作戦でいこう…
言っておくけど俺はそんなに…その…あれこれがその…好きなわけじゃないからな…
ただてじゅといっしょに眠りたいだけなんだからな…
それを言うとコドモコドモっててじゅはぶーぶー言うけどさ…
いいじゃねぇか…別に…
でも…あんまり拒否すると…ラブんとこ行ってしまうかもしれないからしゃ…
うう…ああ…

たまには…まぁな…
我慢する…
修行だと思って…うう…

とにかく!
てじゅは何て言ったか知らないけど、これが真実だっきいっ!


mio tempo riservat_5  妄想省mayoさん

ミンギとブランチを済ませ午後から講義のあるミンギを大学に送り..
またRRHのマーケットに寄った..
ケースに並ぶショコラのマカロンを見て母の顔が浮かんだ..
僕の口許がちょっと緩んだ

『今日はマカロンにしようかな..』

僕はラ・メゾン・ド・ショコラのマカロンを買い求め三清洞へ向かった


三清洞の母の珈琲店に入り..カウンターに向かう
大きなテーブルに座る一人の客がいた..その客にさして気にも留めずに
僕はいつものにカウンターの端に座り..中にいる母に手土産と珈琲の生豆を渡した

「今日はマカロンにしたょ」
「ぁら..自分も食べたいんでしょ?..ソヌ..」
「そっ..」

俯き加減でくすくす笑いながら母はマカロンと生豆を受け取った

「今日は何?」
「エスプレッソ..ダブルにして..」
「...??...」

今日は濃いエスプレッソが飲みたい気分だった
カウンターの向こうに立つ母が僕の顔を覗く..

「何かあったわね..」
「...夜ちょっとね..」
「夜どうかしたの?..ソヌ..」
「ぅん..ちょっと怒らせた..」
「??..誰?..またおんなのひと?..ぁ..違うわね..おんなの人だったらそんな顔しないわね..」
「..っぅ..どんな顔してるのょ..」
「ん?..ちょっと哀しい顔かな..今日のソヌ..」
「...」

母がマカロンを並べたソーサーを僕の前に置いた..僕はマカロンに視線を落とした
RRHで厨房の彼女が僕の掌に乗せたショコラのマカロンをミンギはパクンと口に銜えた
僕はムキになってミンギの口からマカロンを半分取り返したっけ..

母は背を向けてエスプレッソマシンに向かい..粉をダブルにをセットをし..抽出し始めた

~~~~~~~~
昨日の夜僕に掛かってきた電話..声を抑えたつもりだった
けど..どうやらミンギの耳はかなり立っていたらしい..
人差し指でバチン★と電話閉じると後ろからミンギの声がした

「先輩..」
「何..」
「なんか..何か..ヤバイ事なんスか?..」
「...ミンギ..」
「ぅ..ぅん..」
「それ以上聞かないこと..」
「せ..先輩..」

僕は立ったままグラスに残ったワインを飲み干し..廊下を歩きながらシャツとTシャツ脱いだ..
電話でイラついていた僕はいつもより強く床に叩きつけ..右手でバスルームのドアノブを掴んだ..
その時僕の背中にミンギがぴしゃりと浴びせた

「心配なんスっ#..先輩がっ##」

初めて聞いた..ミンギの怒声だった..

ドアノブを掴んだ僕の手が止まり..
背中の肩胛骨と一緒に斜めに入った背中の傷がピクン..と波打った..

「そうやってさぁ#」
「...」
「また一人きりで最後まで行くんスかっ#..」
「...」
「今だって..今だってさっ#..」
「...」
「左の指..力入らないじゃないっスかっ##..庇ってたって解るっスっ!!」
「...」
「また同じことやるんスかっ#ひとりでっ#..」

僕のだらりと下がった左腕の拳がきゅっと握られた  

「また先輩に何か起こったらって..心配だから聞いてるんスっ##」
「解ってるって..」
「解ってないっスっ!!..全っ然っ解ってないス#..何も言ってくんないじゃないスかっ#」
「僕の問題なんだ..ミンギ..」
「...っ..つ..」
「今はまだ言えない..」

背を向けたまま少し振り返った..
床に胡座で座っているミンギは泣きべその顔を手のひらや手の甲..指の腹で拭っている..
僕の左目端に見えるミンギが..ちょっとぼやけてきた

『ごめん..ミンギ..』

僕はドアノブを回し..バスルームへ入った..

シャワーを浴びて出て来るとミンギは服を着たままベットで頭から毛布を被って横たわっている

「シャワー浴びなょ..ミンギぃ..」

毛布の上から身体を揺するとミンギは毛布の中でますます身体を縮めた
僕はクローゼットからもう一枚毛布を出し..ころんと丸く盛り上がった毛布の上にかけた

朝起きるとミンギはもう起きていて洗濯をしていた
ブランチに出掛ける前にミンギの掌に時計..sole..を置いた

「取り替えっこすんじゃないんスか?..」
「意地悪だな..ミンギは..」

ミンギは俯いてふふっとちょっと笑った

「ミンギに似合うょ..この色..」
「ぅん..」
「高い安いの問題じゃないょ...ミンギの為に選んでくれた時計だからね...」

ミンギは時計の皮バンドを止めた..

「でもさ..」
「なんスか?」
「やっぱ..たまにさ..取りかえっこしょっか..」
「先輩..」
「何?」
「しつこい..」
「ミンギぃ~↓~↑~~↓~~↑~↓↑」

僕は昨日のミンギの真似をして肩を揺すった..
イ~シッシ...といつものように笑ってくれたミンギと部屋を出た..
車の中でミンギが僕に言った..

「先輩..」
「何?..ミンギ..」
「いつかちゃんと話してくれるんスよね..」
「ぅん..」
「なら待ってるっス..僕..先輩の頑固には慣れてるっスから..」
「^^;;..」

ひひ..っとミンギが笑った..

~~~~~~
母がエスプレッソを僕の前に置いた..事の成り行きを母は聞かない..

「で?..誰なの?..怒らせちゃったの..」
「ミンギ..」
「仲直りしたの?」
「ぅん..」
「連れてきなさいょ..話ばっかりじゃなぃ..いつも..」
「だって..」
「だって何ょ..」
「説明しなくちゃいけないでしょ?..ぃろぃろ..」
「ぃぃじゃないの..そのミンギ君にお礼を言いたいわ..」
「何でょ..」
「ソヌを慕ってくれてる..嬉しいじゃない..」
「...」

母はそう言って..2つに割ったショコラのマカロンの片方を僕によこした..
マカロンとエスプレッソも今日の僕には苦かった..


後ろの大テーブルに座っていた青年が椅子から立ち上がった
僕はカウンターの向こう端で会計をする青年の姿を値踏みした
身長は僕と同じくらいか..少々色白なソフトな横顔..
二の腕に過分な筋肉が付いていない..腿も張り出しがなく..真っ直ぐに伸びた脚だ

肩のちょっと張り出したコンケーブドショルダー(背広の肩線の一種..袖山を少し盛り上げたもの)
幅が少し広めで..かつ開きの深めのラペル(テーラードカラーの下衿のこと)..
ブラウンのヘリンボーン風の柄..

This is YSL!!..
といった70年代風の雰囲気のある細身のスーツはクラシック..かつノーブルな印象だ..

ピタッとタイトフィットでオヤジにはナカナカ着こなせない..
そして全体に細身の彼の体躯にとても似合っていた
スーツに合わせたのだろう..ブラウンのセルフレの眼鏡をかけていた

「キューバスリスタル..美味しかったですよ..」
「あら..ありがとう..またどうぞいらしてくださいね」

ニコリとした青年がドアを開けて店を出て行った..

「良く来るの?..あの青年..」
「そうねぇ..最近来るようになったかしら..」
「そぅ..」
「爽やかで聡明な感じよねぇ..」
「ぷっ...」

僕はちょっと乙女の目になった母を見ていた..
~~~~~~~~
店を出た青年は左手に持ったコートを羽織った..
携帯を取り出し発信ボタンを押した

『どうした..』
「店に来ました..この後..尾けますか?」
『ん..頼む..誰かと接触するかもしれん..』
「わかりました..」

電話を切った青年は眼鏡を外す..
コートのポケットからコートと同じ色のハンチングを取り出して深めに被り..路地裏にへばりついた..
電話の相手は..ちぇみ..青年は申一国(シン・イルグク)...オルシンの書生である..


mio tempo riservat_6   妄想省mayoさん

僕はまた建築中のビルに来た..
自分の中にある憤怒を確認するにはいい場所だ..

見下ろすCROWN HOTELがカンの手から離れるのはもう時間の問題だ..
でも僕にはまだやらねばならない事残っている..
[彼女]はその事に何て言うだろうか
またそんなこと考えてるの?..と言うかもしれない..
そしてまた僕の前から姿を消すのか..
7年前と同じように..

  「今回の[彼女]の韓国滞在は1ヶ月程とか..調べるの手間取りました」
  「そぅ..」
  「今回逃すと..また捕まえるのは大変ですょ..」

僕に仏の雑誌を渡した帰り際..
厨房の彼女は僕にそう言って数字の並んだメモを僕によこした..

『実に.おせっかいだな..厨房の彼女は』

でも..捨てられないそのメモは..僕の財布の隅にある
僕はその数字を携帯に敢えて登録していない
携帯を開いて一喜一憂するのは嫌だから..
メモを見ながら電話を掛けたいと思ってるから..
僕の計画の実行が彼女の滞在に間に合えばいいけど..


「ここで何してるんですかっ!!!..」

僕の思考が寸断された..

『何よっ..誰よっ#..ちょっと思い出に浸ってるのに..邪魔しないでょ』

@@...僕がゆっくり振り返ると..
ヘルメットを被った人物が僕にむかってずんずんと歩いてきた

「またあなたですかっ!!」
「??..僕は君に会うのは初めてだけど??」
「いつもこの現場に不法侵入しているでしょっ#」
「ふっ..警備が手薄なのょ..」
「ぁ..ぉ..」

僕は真っ直ぐに見据える目の前の人物をよぉっく見た..

...ぉゃ..僕と同じ顔??..

「ね..君...ちょっとそのヘルメット取ってみて..」
「な..何故..ぼ..ぼくが命令されなくてはいけないのですかっ」
「別に..命令してる訳じゃないょ..お願いしてるのょ..」
「不法侵入者のお願いは訊けませんっ..」
「ぁ..そっ..つまんないな..」
「早くここから撤収してください#..」
「どうして君に言われなくちゃいけないのかな?」
「ど..どうしてって..これが見えないんですかっ!!」
「えっ?..何?」

この僕に似た"ぼく"とやらはヘルメットに書いてある文字を指した

「ぼくがこの建築現場の責任者だからですっ#」
「そっ..責任者ね..」
「そ..そっ..って..」
「このビル..着工して何ヶ月にもなるのにまだ完成しないね..問題でもあるの?」
「ぁぅ..失礼な#」
「鉄筋の量誤魔化ちゃって..工事差し止め?」
「そんなことはしていないっ#..工期も遅れてないっ#」
「ぉゃ..それは失礼..」

ふふん....
僕が口端を上げて笑った仕草がまた気に入らなかったのか..向かっ腹を立てたのか
”ぼく”は自らヘルメットを取り..艶のある黒髪を髪を手櫛で整えた
立ち上がって横に流された前髪で額が出てBH顔がハッキリ見えた

ふ~~ん..なかなか恰好ぃぃね..まぁ..BH顔だからね..

「君..」
「何ですかっ?」
「若いね..髪艶々..」
「そうですね..”不法侵入者”より若いですからっ」
「@@」

別に強く睨んだわけじゃないんだけど..僕の眦に”ぼく”がちょっとたじろいだ

”ぼく”は作業着のジャンパーの中はワイン色のポロセーターにボトムはチャコールグレーの2タック..
胸元に..白×ワイン系のエルメスのスカーフ...ち~~ん♪..柄が流行遅れ....惜しいなぁ..
でも..いい物着てるじゃないの?..”ぼく”..
時計は金..メッキじゃないね..金無垢だ..あ~~らら..凄いなぁ..

「君..このビルの建築会社の御曹司?」
「ぁ..ぁ..」
「当たりかな?」
「それがどうかしましたかっ!!」

業を煮やした”ぼく”が僕の腕を取り..ぐいっと引っ張る
僕は”ぼく”に現場用のEVに乗せられた..

~~~~~
書生の申は高性能オペラクラスでビルを見上げながら電話をかけている

「今..例のビルの下にいます」
『あいつぅ..また行ったのかぁ?』
「はい..」
『ったぐ..』
「どうします?..上に昇りますか?」
『ぃゃ..ぃぃ..様子を見よう』
「..ぁ..誰か来ました..身長は同じくらい..」
『顔は見えるか?』
「ちょっと待ってください...BH顔のようですね..」
『BH顔?..』
「はぃ..」
『BH顔..BH顔....!!..ぷっ..申..』
「はい?」
『それはBHCの新人だ..』
「ぁ..そうですか..」
『降りてきたら尾行解除してぃぃぞ...時間的にソヌが店に行く頃合いだ』
「わかりました..」
『で..ビルに来る前に接触した人物の資料持ってこい』
「えっ?何処にですか?..家にですか?..」
『ぉ..そうだが?..』
「今の時間..テックヒョンさん一人ですよね..それはちょっと..」
『何だぁ?..襲って欲しいか?..申..』
「ぁふぁふ..」
『なら俺はシャワー浴びて待ってるぞ?..申..』
「テックヒョンさんっ##」
『だはは..冗談だっ#..安心しろ#..はるみがいる..』
「ぁ..そっか..じゃ..寄ります」

電話を切った申は..まったくもぉー..っと小さくため息を吐いた
程なく2人のBH顔が現場から降りてきたのを見届け..申はLa mia casaに向かった..


デートしましょう  ぴかろん

「どこへ行きたい?」

長い睫毛が俺に聞いた
俺は少し考えた
特別に行きたいところなんてない
この長い睫毛と長い指がいるとこならどこだってよかったから…
俺が答えないでいると長い睫毛の持ち主はくふふふんとよからぬ笑い方をして
色っぽい眼差しを俺に向けた

「あそこ行こうあそこ!」

あそこってどこだよ…どうせろくでもないとこだ…いやらしいとこに決まってる
俺はふんとそっぽを向いた
窓の外には沢山の車が静かに眠っている
俺達はテジュンの休みの最終日を、『デート』で締めくくるために、テジュンの車に乗り込んだところだった

「らぶほ行こうらぶほほへへん」

僕はにやつく顔をどうにもできないままイナに言ってみた
イナはうんざりした顔で僕を見つめてから、窓の外を見やった

「あ」

イナが小さな声をあげた
どこか行きたいところが見つかったのかな?

「こうえん…」
「公園?どこの?」
「わかんねぇ…昨日…偶然見つけただけだから…」
「昨日?」

イナはヨンナムの家を出てからの昨日の冒険話をかいつまんで説明してくれた

「んでヨンナムさんに拾ってもらって帰ってきた」

それで昨夜のあの抱擁?
ヨンナムの野郎、夕食の時にはイナと会ったなんて一言も言わなかったぞ…
僕はムッとしてエンジンをかけた
イナは僕を見つめてどこ行くのさと聞いたが、僕は答えずに車を発進した

街中を走り出すとイナは外の景色を眺めてふんふん鼻歌を歌いだした
ようやく機嫌が治ったようだ
昨夜の攻防戦の真実は、まぁその…イナの言うとおりで間違いないのだが…でも僕の供述だって真実だっ!
ただはっきりとゴールが何回だとか、ミソチョル君の相手をしていたイナに僕が何をしていたのかを述べなかっただけだ!
その昨夜の攻防戦がイナのお気に召さなかったらしい…
まったくもう…

「なぁイナ…」
「ん?」

ああ可愛らしい

「お前さぁ…祭んときは色っぽかったのに、なんでこの頃ダメなんだ?」
「だめ?」
「…なぁんかさぁ…騙された気がする。祭の時はあんなにお前から来たのに…」
「そんなに行ってないもん!きしゅしにいっただけらもん!」
「そう、それ!祭のときは見境なくキスしてたろ?」
「…」
「なんで急に大人しくなったの?」
「…じぶんのむねにきいてみろ…」
「は?」
「…にげた…」
「…」

ラブのこと?ラブとムフフンな日々を過ごした事でお前は頑なになったと?!

「僕が悪いってこと?」
「…」
「そもそもの原因はお前の」
「らからっ!…。らから、みしゃかいないきしゅはしないっちきめたんらっ…」
「…ああ…」
「お前らけでいいもん…」

がわいらじいっきいっ

僕はイナの頭をふぁさふぁさと撫で、それから僕の太腿を叩いた

「何?」
「ここに寝転んでいいよっくふっ」
「…へんなことかんがえてない?」
「考えてないよ、僕運転してるのにアレをしろだなんて言わないよ」
「…」
「…寝っ転がりたくない?」
「たい…」

僕は笑ってイナの頭をくいっと引っ張った
イナはシートベルトを外して僕の太腿に頭を乗せた

「てじゅ…変な顔に見える…」
「見るな!」
「ふはは…てじゅ運転できるのか?」
「ああ、慣れてる」
「…慣れてる?!」
「あ…ふ…いや…昔…はははっははははははっ」
「…」
「泣くな!」
「泣いてないよ」
「…」
「…」
「ごめん…」
「あやまるなぶぁか…」

イナは小さく呟いて僕の腹にしがみついた
…ヤバいって…くふん…その体勢はくふん…
けどイナは僕にしがみついたまま、くーくーと寝息を立て始めた
眠かったのか?
ほんとに子供だな…
僕は込み上げてくる笑いを我慢して、運転を続けた

「着きましたよ」

テジュンの声で俺は目を覚ました
ん?どこ?
目を擦って起き上がろうとしたらおでこを何かにぶっつけた

「たぁぁぁ…」

コシコシデコを擦っているとくはははっという笑い声が聞こえた
ん?あ…てっ…せなか痛い…
なんだここ…
車だ…
車で寝ちゃったんだ…
どうやって眠っていたのかを思い出した俺は、今度は慎重にハンドルを避けて起き上がった
外の光りが眩しくて、俺はもう一度目を擦った

「どこ?」
「公園」
「え゛?」

まさか昨日の?…
まずい…ヨンナムさんに怒られる…
でもよく見てみると、その公園は、昨日とは別のところだった
俺はほっとして車から降りた
テジュンはトランクからフリスビーを取り出してきた
ふふふフリスビー?!
ててテジュンがフリスビー?
…できるのか?!じじいなのに…こしは大丈夫か?!
俺はテジュンに何度も問いただした

「失礼な!僕は野球で体を鍛えてるんだぞ!」

ムッとしたテジュンは俺の頭を円盤で小突いた
芝生の広場でテジュンは俺に向かって円盤を投げる
丁度俺のところに飛んできたそのUFOを俺は捉まえる
今度は俺が投げる
ところがうまく投げられない

「へたくそ!スナップをきかせるんだよ!そしてフォロースルー…」

テジュンは俺の方に向けてすぅっと長い指のついた腕を伸ばした

「飛ばしたい方に腕を流すかんじね」

ほんとかよ…
やってみる…
さっきよりうまくいった

「な?」

テジュンがかっこよく見える…
くふん…
俯いてたら頭に円盤が飛んできた…

「たっ!」
「ボケボケするんじゃねぇ!さっさと投げろ!」

テジュン…人が変わってる…
俺はそんなテジュンがおかしくて、頑張って円盤を投げ続けた

「よし!なかなかうまくなったな。んじゃ、僕が投げるコレを蹴り落としてみろ!」

は?!
なんの特訓?!
戸惑っている間に飛んできた円盤を、俺は反射的に前蹴りで蹴り落としたフフン

「かっこいい!」

褒められたふふん…

「ちゅぎは回し蹴りしゅる」

ちっと気分がよくなったので、調子にのって回し蹴り宣言をした
前回し蹴りが決まるふふん

「かっこいい!」


かっこいいじゃないかイナ!
褒めると嬉しそうに薄く笑い、眉毛を上げ下げしている
くふふふ…可愛い…

「ちゅぎは後ろ回し蹴りらっ!」

得意になって構えるイナ
はは…たまんないなこの子供…
僕はイナの後ろ頭めがけて、行くぞと声をかけて円盤を投げた
イナはくるりんと体を回転させ、その反動を使って右足を後ろに蹴り上げ、弧を描く

カツゥゥウン

「たっ!」

円盤はイナのデコを直撃し、イナは後ろにひっくり返った

「うぷっ…大丈夫か?うぷぷぷ…」
「てぇっ…笑ったな!くそっ…もういっかいやる!」
「…大丈夫?くふふ…無理なんじゃないの?」
「やりゅっ!」

イナは立ち上がって僕を睨みつけ、構える
僕は円盤を拾い上げ、行くぞと声をかけてイナに向かって投げる
イナの右足はさっきと同じように弧を描き、こんどは飛んできた円盤をスパンと払い落とした

…かっこいい…
すっごくかっこいい…

イナは息を整えて満足そうに口をきゅっと一文字に結んだ


橋  足バンさん

大通りに面した歩道の植え込みの煉瓦にちょっと腰をかけて待つ
行き来するたくさんの人たちを眺めながら

俺、今大好きなひとを待ってるんです
大きな声でそう言いたい気分を我慢して冬の空を見上げる
最近空気が澄んでいるように見えるのは気のせい?

目の前をヨンナムさんのトラックが通り過ぎて
ずいぶん行った所で停まった

停まった車からソクさんが下りる
そのまま発車する車を見送ってこちらを振り向く

俺はわざと座ったままじっとしている

わかりますか?
俺ここにいます

ソクさんは微笑みながら真っすぐこちらに向かって歩く
きょろきょろなんかしていない
行き交う人をすり抜けて真っすぐ真っすぐ俺を目指して歩いて
そして俺の前で立ち止まる

「待った?」
「うん…少しだけ…うまくできましたか?」

俺を見下ろすソクさんは返事の代わりに俺の大好きな笑顔を見せてくれた

昨夜ずっと黙っていたソクさんは
振り返っていきなり「あのシャツにさよならを言わなくちゃ」と言った
哀しいシーンが絡みつく息子さんの小さなシャツ
俺はそうした方がいいって思ってはいたけれど言い出さなかった
ソクさん自身に言ってほしかったから

俺は何も答えずに彼の背中からそっと抱きしめた

ジュン君に絵本を渡した日以来ソクさんはいろいろな自分を話してくれる

幸せだった頃の思い出も
息子さんを亡くした気の遠くなるような痛みも
それから流れた奥さんとの冷たい時間の辛さも
自分の身体への不安も
中途半端に自棄になりかけていた自分も

「どこかで燃やしてあげたいな」
「うん」
「スヒョク…一緒にいてくれる?」
「ううん…それはソクさんがひとりでやってあげて…」

ソクさんは「そうだね」と言って背中から回した俺の腕をそっと包んだ

ホテルから帰って2日間
俺たちはふたりだけで過ごしたくて寮に泊まった

あの日の俺の苦痛を知ったソクさんは決して無理に求めない
ただ同じ布団の中で暖かさを分け合いながら眠る
その心地よさにすべてを預けて寄り添う

でも我慢ができなくなるのは決まって俺の方
触れている肩先から全身が熱くなって
半身を起こして
うとうとしかけている彼の唇に軽くキスするつもりが止まらなくなる

以前はまるきり反対だったのに
あの日心を通わせて抱き合うってことの快感を知って
安心して身を委ねることの快感を知って
もう一度あの感覚になりたくて仕方なくなる

執拗にまとわりついていると
ソクさんは何も言わずに応じて俺を満足させてくれる
丁寧に何度も俺の気の済むまで

俺ばかりじゃ悪いって思いながらも
でもやがて力尽きて眠たくなる
そんな自分勝手な俺をソクさんはゆったりと抱きしめて暖めてくれる

抱きしめてくれるその懐があんまり暖かくて
幸せで
これは夢なんじゃないかと思う

あの閃光飛び交う橋の上でなくした意識のそのつづき
目覚めるとそこはまた病院なんじゃないのかと
消毒薬の匂いと重たい靴音の響くあそこなんじゃないのかと

でも違う

目覚めても暖かいそのひとはいてくれる

それもまた夢じゃないかともう一度目を閉じてまた開ける

でもそのひとはいてくれる

もうひとりじゃない

そのひとがいてくれる


mio tempo riservat_7  妄想省mayoさん

現場用EVの中でも”ぼく”は僕の腕を掴んだままだ..
”ぼく”曰く”不法侵入者”=僕はおとなしく掴まれているフリをしていた

「君..名前は?」
「人に名前を聞くときは自分から名乗るべきです」
「僕.."不法侵入者"だからね..無礼なのょ..それにね?」
「何ですかっ?」
「僕の方が年上..君から名乗ってょ..」
「無礼な不法侵入者に年上も年下もありません」
「君..ちょっと頑な?」
「あなたはしつこいです」
「..よく言われるのょ..」

僕..@_@ VS @_@..ぼく

"ぼく"は僕から目を逸らした..
__悪いねぇ...睨みじゃ君の負けょ..

この御曹司”ぼく”は結構現場で力仕事してるかもしれないかな
顔色も浅黒いし..僕の腕を掴む力は多少の引きの強さを感じる
__ちょっと手こずるかな

1Fに着き..ハコの扉が開き2人でハコを出た時..”ぼく”の手を捻り上げた..

「ぃ..痛いっ...な..何するんですかっ#..」
「名前..」
「そ..そ..そっ..」
「”そっ”って名前?」
「ソグ..ヒョン・ソグ..」
「ぷっ..」
「何が可笑しいんですか」
「だって.."兄"ソグ..」
「そ..そういうあなたはっ」
「僕?..ソヌ」
「おんなみたいな名前ですね..」
「@_@##」

僕はムッっとして睨み付けた##..捻った腕に少し...力を込めた...”ぼく”の腕の力が抜けた..
__悪いねぇ..場数が違うのょ..君とは..

涙目になっちゃったから”ぼく”の腕を解放してあげた..

「ソグ君..ぃぃ処に連れて行ってあげる..」

僕はおとなしくなった”ぼく”=ソグ君を拉致しタクシーで一緒に店へ向かった..
大通りでタクシーを降りて路地へ入った..ソグ君はおとなしく僕の隣を歩く..

「ぁの..何処に行くんですか?」
「BH顔のお店..」
「ぁの..BHCとか何とかですか?」
「@@..何ょ..知ってるの?..」
「はぁ..」

話を聞くとスカウト隊の厨房の彼女は江原道の春川(チュンチョン)の現場まで来たらしい
まぁ..ロシアだの..シベリアまでいった人だからね..

店のすぐ近くまで来ると..正面ドアの前でうろうろしている輩がいる
上半身が折れたり伸びたり..首は前後左右に動くし..かなり落ち着きがない..挙動不審の何者でもない

「この店に何か用なのかっ#」

僕が吐いた地を這うような低音に”挙動不審”は...ビビ..ビックン..っと振り返った

..ぉゃ..またBH顔じゃないの..
しかも..また若いBH顔なのょ..ふっ(-_-)

僕の瞬時の値踏み..go!..
”青島コート”にデザイン酷似の砂色のコート..
肩から掛けたバックは腿まで..ちーん♪..ショルダーは短くしないと..身長との釣り合い考えなきゃ..
ブラックデニムのボトム..黒のタートルのトップス..まぁまぁ..中のJKは..あづき色...ちょいちーん♪
で..何と言っても○様風..クリアセルフルの眼鏡..ん--...ん--..これ..コメ出来ないのょ..

僕が口を開く前に”挙動不審”は眼鏡に触れた..

「ぁ..ボクと同じ顔!!..じゃここがBHCですね!!」
「そぅだけど?」
「ぁぁ..よかったぁー!!.."ボク"さっき路地1つ間違っちゃったみたいなんですよー..
 向こうの路地入った角地にガラスのウィンドゥのお店あってですね!!..
 "ボク"ここかな~~ここかな~~と思って覗いたんですよーでも様子が違っててですね!!..
 でも店の周りもうろうろしたんですよー..
 あれーやっぱ違うなぁーおかしいな~~おかしいな~~"どうしよう..どうしよう..と思って..
 それでこっちの路地に来てみたんですよ!!..やっぱりここだったんですね..ぁ--よかった..」

この”ボク”一気に喋った..

ぁ--よかったじゃなぃの..”ボク”..無事に着けて..
隣のソグ君は同じ顔の”ボク”をポカン@o@と見ていた..

路地1つ向こうの..角地のガラスのウィンドゥ..
ちぇみテスさんのパン屋のことかな..ミンギが言ってたし..
”ボク”こっちの路地に来てよかったじゃなぃ..
パン屋の前でちぇみさんに捕まってたら大変ょ...”ボク”のその口にガムテープ貼られたかもね..

多少小生意気に人に迫る様に話すこの”ボク”..眼鏡に触れるのはクセかな..
僕が名前を聞こうと口を開く前にまた眼鏡に触れた”ボク”が手を差し出した..

「ボク..ソン・ビョンウです」

キム・ソヌと名乗りボク=ビョンウ君と握手をした
ビョンウ君の名前に僕の隣にいたぼく=ソグ君が反応した..

「君がビョンウ君?」
「そうです!!..」
「ぼく..ソグ..」
「ぁ..あなたが..ソグさんですか!!」
「ぅん..ヒョン・ソグ..」

ソグ君がビョンウ君にはすんなり自分を語り..握手のために手を伸ばした..
__何ょ..頑なな"ぼく"じゃないわけね..

「知り合い?..君たち..」
「「名前だけは知ってました」」

名前だけ知りあいの2人が握手をしてハモった..

そっ...何か曰くアリそうね..この2人..
まっ..ぃぃケド..人のコト言えないし..

僕はドアを開け..2人の片腕を掴み店内に入った..








© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: