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ぴかろんの日常
リレー企画 176
穏やかに… ぴかろん
ガラガラガタン
どうしても静かに入ってこれないらしい男が帰ってきた
「お帰りテジュン。楽しかった…」
その男は睨み付けながら僕の胸倉を掴んだ
「…何…するんだよ…」
「イナに何の用があるって言うんだ!」
「…は…」
「イナは僕のモノだ!手だしするな!」
「…く…苦しい…」
テジュンはバサリと僕を振り解いた
「何なんだいきなり…。僕がイナを何だって?」
「軽々しくイナの名前を口にするな!」
「…何言ってんの…じゃあ何て呼ぶのさ、あの子は僕より年下だろ?」
「今まで通りイナさんって呼べよ!」
「イナが『イナでいい』って言ったんだぞ!」
「…なに…いつの間に…」
「馬鹿かこのヤキモチやき!お前とこないだここに来た時にそう言ってたんだ!」
「…イナに近づくな」
「…。お前…何心配してるの?僕とイナがどうにかなるとでも思ってるのか?」
「…イナを…どう思う…」
「どうって…いい子だと思うけど」
「僕の恋人だ!」
「解ってるよそんな事」
「…」
「…。お前…」
「…。イナだけは…取らないで…」
俯いているテジュンを見つめた
何を言い出すんだ
イナをお前から…取る?
「そんな事僕がするわけ…」
『キスして…テジュンの代わりに俺にキスして…』
キス…したんだった…
まさかイナ…テジュンに言った?
「するわけ…ないじゃない…。イナは男だろ」
「…お前は僕そっくりだもん…。イナがお前に僕を求めるかもしれない…」
彼女のようにか?
…彼女のように…
『いるんだ!彼女が俺の中に…』
イナ…
「…ばかだな…。考えすぎだよ…」
ちらつく顔を追いやってテジュンの肩をぽんぽんと叩いた
台所に戻ってそっと唇を触ってみる
僕から離れようとしなかったあの濡れた唇
僕の中にテジュンを求めて必死で縋り付いてきた可愛い男
「なぁテジュン…」
「…」
「入れ替わりごっこ…もうやめような…」
「…ああ…」
僕はテジュンを促して居間に座った
お茶を淹れてテジュンの前に出す
テジュンはそれを啜ってため息をつく
「楽しくなかったのか?」
「お前がイナと電話を代われって言うまでは楽しかった…」
「…何を気にしてるんだよ全く…」
「ううん…。違う…。僕…」
またやっちゃったとテジュンは顔に両手を当てて擦りながら言った
また…自分勝手しちまった
イナのためにと囁きながら、結局全部、自分のためだったと
イナは…あいつはそれを解っていながら随分頑張ってくれていたと
涙まで浮かべて僕に報告する
「馬鹿だなぁ…何度も同じ失敗しやがって…
昔っからお前はそうやってうまく相手を口車に乗せて、自分の思うとおりやってきたよな…
そのたんびに後悔してさ…」
「うるさいな…
うるさいよお前…
うるさい…」
テジュンはますます俯いてすすり泣き始めた
「どうしたんだよ…」
「お前に…彼女の事伝えた勢いでイナにも…イナにも話した…
思い出の場所に連れてった」
「あのホテルに泊まったのか?!
まさか日の出見たのか?!」
「うん…東海にも行った
行く前にカムジャタン食った…
相変わらず…うまかったぞ…
今度三人で行こうな…」
「…まさか…まさかお前…あのホテルで彼女と初めてとかカムジャタン僕達三人でよく行ったとかイナに…」
「話した…」
「馬鹿か!なんでお前はそういう事を…」
「受け止めて欲しかったんだ…イナに…」
「…イナは?…受け止めてくれたのか?」
「…ん…」
「…。そう…」
「イヤだって言ったのに。聞きたくないって言ってたのに…。僕、今日じゃなかったら一生話さないって…僕…」
「お前は…」
僕はイナを思った
辛かっただろうな…
受け止められたのか?
あんな泣き虫に僕達三人の過去を…
「テジュン…あれは僕達三人の思い出だろ?イナには関係ない事だ…」
「知って欲しかった。僕の事を全部…
もっともっと僕を知って欲しい…もっと僕を全部…全部あいつに流し込みたい…」
「テジュン…」
「店も勝手に休ませた
イナはきっと怒ってたんだ
だけど僕が『お前のためにしたんだ』って言ったら何も言わなかった…」
「はあっ…」
「僕はどうしてこうなんだろ…」
ひっくひっくと泣き出したテジュンにも驚いたが、それよりもこんな我儘男をよくも黙って受け止めたものだと、あの泣き虫の寂しがり屋が…
あの…子供のような男がこんな我儘な男を…その事の方が驚きだった
「馬鹿だな…お前らって…馬鹿みたいに好き合ってるんだな…
解ったよ…イナがどんなに素晴らしい恋人か…
それで?僕がイナをどうするって?!」
「取らないで…」
「ほんっと馬鹿!僕とイナは友達だよ…」
「それもイヤだ…」
「…お前…
大丈夫だよ心配するな…」
キス…しちゃったけど…あれはお前が…
ううん…あの時は僕もイナも変だったんだ…
大丈夫だよ…心配するな…
「…ごめん…。馬鹿な事言ってるって解ってる…」
「それよりさ…テジュン」
「…ん?」
「…僕たちやっと…彼女の事…話せるな…」
「…ん…」
「…彼女の…明るい笑顔、キレイな声、楽しかった事、おかしかった事…最高に美しかった時…そういう事、やっとお前と…話ができる…」
「…うん…」
「時々、付き合ってくれよな…」
「…」
「勘違いするなよ。留まるつもりはない。でも時々は思い出してあげたいんだ…彼女が僕達の前で活き活きと輝いていた時の事…」
「…彼女が…確かに生きていたって事…な…」
「うん…」
「いつでも相手するよ…」
「ありがとうテジュン。ありがとう…話してくれて」
「…言うなよ礼なんか…」
「なあ」
「ん?」
「あの小鳥さ」
「うん…名なしか?」
「ちょっとお前帰ってきた時ぐらいあいつの世話しろよ」
「なにさいきなり」
「そうだ!今からしろ!」
「は?」
僕は立ち上がって台所から菜っ葉を持ってきた
「はい。これ。食べさせてやれ」
「命令口調かよ!」
「言う事聞かないとイナを取っちゃうぞ」
「なんだよそれ!」
テジュンは笑いながら涙を拭いて菜っ葉を持って立ち上がった
鳥かごの戸を上げて菜っ葉を持った手を突っ込む
突くかな?
僕はちょっと意地悪く思いながらテジュンの様子を見ていた
「おい、この文鳥手乗りか?」
「え?」
「乗ったぞ、僕の手に…」
「突かない?」
「うん…」
「おかしいな…突く予定だったのにな…ふふ…あ…そうか…ふふ。やっぱり決定だな…」
「何が!」
「コイツの名前さ」
「名前…つけたの?なに?」
「教えない」
「なんでだよ!」
「当ててみなよ」
「はあ?」
「解るはずだ」
「はあ?何言ってるのお前は!わけわかんない!」
「解るはずだよフフ」
「文ちゃん」
「センスねぇっ!」
「ピチクリ」
「馬鹿っ!」
「…なんかヒントくれよ!」
「可愛い…名前だ…」
「可愛い名前ええ?…ピーちゃんか?」
「ぷは…」
「んと…てじゅ…」
「絶対違う」
「むうっ…じゃぁ…んと…。らぶ」
「…お前…」
「わかんねぇよ!なんだよ!教えろよ!」
ピピ?
「あっこいつ可愛い!首傾げてる!」
「んふふ…解るだろ?」
「何が!わかんないよ名前…
何なのさ!教えろよ馬鹿!」
「わかんないほうが馬鹿だよ」
「なんでだよ!名前なんて何百万もあるってのになんなんだよっ!…ツツツ…そうかぁ美味しいかぁ…かわいいな、お前…フフ」
イナ…
小鳥のイナもテジュンがお気に入りみたいだぞ…
僕の事は突くくせにどうしてテジュンは突かれないんだろ…
「すけべだからだな」
「は?」
「お前は根っからのすけべだから突かれないんだきっと」
「は?お前頭おかしいんじゃないの?!」
「くははは」
「…イナも言ってた…あ…くふん…でへっ…」
「…は…。なにニヤケてんの?」
「あはん…。イナ…。色っぽくて…くはっ」
「…。ほんっと馬鹿!」
僕は馬鹿らしくなってテジュンをほっぽらかして台所に行った
「まてよぉこいつの名前なんなんだよぉ僕はいつまでこうしてりゃいいんだよぉぉ」
元気になったテジュンの声が家中に響く
ねぇ…君の話…いっぱいするからね…
絶対に忘れない…
ずっと愛してるよ…
心配しないで
僕だってあの馬鹿に負けないくらい愛せる人を見つけるから…
ただし僕は女性の方がいいな…フフ…
ね…君もそう思うだろ?
やっぱりそらに話しかけてしまうよイナ…
でも僕の足はちゃんと地に着いてるだろ?
…あの馬鹿を…よろしく頼むよ…
そしてこれからも僕の友達でいてくれるかな…イナ…
僕は刻んでいた玉葱のせいにしてそっと涙を拭いた
わかるわからない 足バンさん
ドアを開けたドンジュンは思いきり不審そうな顔で僕を見た
「どしたのよこんな朝早く」
「ちょっと出たもんだから…」
「早く入んなよ…うう寒っ」
「サンドイッチ買ってきたんだけど…食べない?」
「こんな早くに開いてる店あるんだ…珈琲いれようか?」
朝の陽が射し込む部屋の床にはスケッチや書類やカラーマーカーが散乱して
棚の本はあらかた出されて乱雑に積み重ねられている
ドンジュンは散らばったものを無造作にぎゅうぎゅうとどけて
テーブルにカップだの皿だのを並べた
「朝まで仕事してたの?」
「うんっちょっと閃いちゃてさ」
「順調?」
「うん、ギスの石頭がまだごちゃごちゃぬかしてるけどね…あいつの頭は合金製だな
最近企画部長と技術部長の目が変わってきたんだ…あいつらから攻略する」
「ヨーロッパ側の人たちとは?」
「会議の時期はほぼ決まってる」
「何とかって人も来るの?」
「パチフラ?来るよ」
「じゃそれまでに株主と勝負?」
「そうそうっもう腕が鳴っちゃう!…うまいねこのサンドイッチ」
僕はテーブルの反射光に明るく照らされるその笑顔を見ていた
そのくすぐったいような笑顔はどれほど長く見ていても飽きることがない
「で?」
「え?」
「ミンチョルさんの方は?」
「えっ?」
「企画通ったの?ミューズの件」
「あ…ああ…うん…何とか通りそうだって話だ」
「そぉかぁ…じゃ僕もマジで巻き込まれるってわけか」
「…」
「ドンジュンの歌声はアジアのフェラーリ!なんちって…うはは超ダサイ」
変なテンションのドンジュンに僕もつられて笑っていると
やつはいきなり真剣な目で僕を見据えた
「で?」
「え?」
「何か言いに来たんでしょ?」
「…」
「僕を甘く見ないでよね…めちゃくちゃ挙動不審だよ」
スヒョンは初めから申し訳ございませんって顔で入ってきた
ひとのことはよくわかるのに自分のことはからっきしダメだって自覚がない
朝から勝手に来てひとの顔しんみり見る男のどこが普通よっ
ハムサンドにかぶりつきながら睨みつけてると深呼吸なんかしてる
「そんなに言いにくいことなの?」
「いや…」
「映画の話だよね?」
「ああ」
「で?」
「監督が…ミンチョルに目をつけた」
「…」
「…」
「は…?」
「監督が相手役にミンチョルを抜擢した」
「相手って…」
「ヒョンジュ役」
「ばかスヒョンってばわざわざ冗談言いにきたの?」
「冗談に聞こえる?」
「…」
「候補の役者では納得できてなかったらしい」
「マジ?」
「ああ…これから直接交渉すると言ってた」
「…」
「つまり…そういうことなんだ」
「ふぅん…」
想定外の展開だった
頭の中がこんがらがる
何でミンチョルさんが出てくるんだ?
僕は目の前のサンドイッチにガブガブかぶりついて口に詰め込んだ
「ちょっと…おまえ窒息するよ」
これぐらいで窒息するかっばかスヒョン
「ぶほっぐへっげひげひっ」
「ほら…珈琲」
上目づかいで睨みつけるドンジュンの目はかなりキツい
涙目になってむせてるこの顔は祭の時も見た憶えがある
「たぶん…ミンチョルは断ると思う…」
「えも…」
「ちゃんと飲み込んで喋りなさいよ」
ドンジュンは僕を睨んだまま珈琲で口の中のものを流し込んだ
「けほっ…でも音楽のことがあるのに断れないんじゃないの?」
「取引をするような監督じゃない」
「じゃぁ…」
「純粋に…作品のために食らいつくと思う」
「そう」
「ドンジュンこれは…」
「決まらないかもしれないこと…わざわざ教えに来ないでよ」
「ドンジュン」
「このことはギョンビンにも黙ってるから」
ドンジュンがふぐにならない
恐そうな顔をしてはいるけれど…
僕が想像していたよりもキツかったんだろうか
やつは視線を落として小さなため息をついた
「で?」
「え?」
「スヒョンはどうなの?」
「…」
「あの人と出るってことどう思ったのよ」
「僕は…ねぇドンジュン今から僕が言うことちゃんと聞いてよ?」
「聞くってば」
「僕は…ミンチョルにやってほしいと思った…あの役を彼がやれば作品の印象が変わる
監督たちの求めてるものに限りなく近づけるような気がする」
「…」
「やる以上は成功させたい」
「わかった」
そうあっさり言ってドンジュンはまたハムサンドに手を伸ばした
僕はテーブルのこちらからその右手首を掴む
「ドンジュン…わかったって…何がわかったの?」
「うん」
「うんじゃなくて」
「だからわかったって言ってるの!」
手首を掴まれたまま僕を見つめるドンジュンの顔が逆光で見えにくい
「僕だってプロってものがどういうものだか知ってる」
「ドンジュン…」
「スヒョンの言いたいことだってわかる…子供扱いしないでよ」
「…」
「今はちっと動揺してるだけだから大丈夫だって」
僕は掴んだ手に力を入れた
「こっちおいで」
「やだ」
「ドンジュン」
「頼むから今は抱かないで」
「ドンジュン…」
「僕の中今すごいことになってるから読まないで」
「…」
「わかってる…わかってるけどちょっと今うまく…」
うまく処理できないでいる
そんなの冗談じゃないなんて騒げるほど…
「スヒョンこそ…そんな顔しないでよ」
「なに?」
「あの人のことでは堂々としてろって、カッコよくしてろって言ったでしょ」
「…」
「わはは参っちゃうよなドンジュンとか笑ってなよ」
何言ってるんだろう僕
だめだ…何だかよくわかんない
「悪いけど帰ってくれる?午前中打合せだからまとめたいんだ」
「…」
「大丈夫だって!終ったら電話するからさ」
「本当に?」
「ホント…」
「わかった」
立ち上がったスヒョンの目はいつもみたいに優しい
「ちゃんと電話よこすんだよ」
「うん」
「あまり口にもの詰め込まないでね」
「うん」
「今夜はうちにおいで」
「ん…」
スヒョンが出て行った部屋はやけに静かに感じた
僕はずるりと座って陽を浴びながら
スヒョンが使った珈琲カップを
長いことぼんやりと見つめていた
smoke in the eyes ぴかろん
夕方までテジュンとだらだら過ごして俺は店に送ってもらった
帰り際のテジュンときたら、とても情けない顔をしていた
ばいばいと手を振り、店に入った
急に休んだ事と、そして土産を買い忘れた事ををみんなに詫びた
テプンがブーブー言うのをシチュンが諌めている
やっぱりみんなの中にいるのがいい…
ミンチョルとスヒョンはなんだかピリピリしているように見える
そう言えばスヒョンの映画に絡んだミンチョルの仕事はどうなったんだろう…
営業が始まり、俺は仕事をこなした
余計な事は一切考えず、昨日の分まで取り返そうと頑張った
客が途切れたとき、裏に行った
戸口を無意識に見つめてしまい、はっとして首を振った
控え室に入って小銭とライターと携帯灰皿を出し、外に出てタバコを買う
テジュンといるときはタバコを忘れていたのに
どうしてだろう…一人の時はタバコを手放せなくなっている…
裏の戸の横で壁に凭れていつものようにタバコをふかす
今朝見た朝日を思い出す
焼き尽くした要らない物のかわりに
新たな要らない物が滲んでくる
もういなくなったはずの彼女がいつまでも漂っているような気がする
『俺の中の彼女』が感じていた事ってひょっとして…『俺』が…
ずきん
ううん…彼女はあの時確かに俺の中にいたんだ
だから…
ガタン
『オールイン』の裏の戸が開いてヨンナムさんが空のボトルを担いで出てきた
びくりとした俺にヨンナムさんが気付いた
「イナ。お帰り」
「…ただいま…」
柔らかな微笑みを湛えて俺の方に近づいてくるヨンナムさん
「楽しかった?」
「…楽し…」
最後まで答えられなくて、俺はタバコを口に咥えた
「テジュンがプリプリしながら帰ってきたよ」
「え?」
「いきなり胸倉掴んでさ…『イナに手出しするな!イナは僕のものだ!』って…」
ふふっと笑って俯くと、ヨンナムさんはポケットからタバコを取り出して口に咥えた
そして俺の方に顔を寄せた
「…なに?」
「火。分けてよ」
「…あ…ああ…」
タバコの先から火を渡す
一瞬繋がった俺達
俺の鼻先を柔らかな髪が擽る
どきんどきん…
「あいつ…ほんっとに君の事が好きなんだな…僕と君がどうこうならないかってヤケに心配してる…フフ。一生懸命君が好きなんだな…」
「…」
「一生懸命すぎて…たまに空回りするからね、あいつは」
俺ははっとしてヨンナムさんの顔を見つめた
「…さっきまであいつと色々話してたんだ…。旅行の話も聞いたし…彼女の話もした。ようやく…彼女を思い出にできそうだ…」
「…俺の中から…彼女…消えちゃったよ…」
だからもう貴方と関わらなくていいんだよね…
ヨンナムさんは優しく微笑んでタバコの煙をふぅっと吐いた
「辛かったんじゃないか…」
「え?」
「…テジュンの馬鹿さ…口が達者だからさ…人をうまく操るんだ。あいつ接客業のプロだからさ」
「俺だって…プロだもん…」
口を尖らせた俺の頭をぱさっと叩くように撫でたヨンナムさんは、くふっと笑って続けた
「お前は人を操ったりしないでしょ?」
「…」
「…お前…随分無理したでしょ?随分…我慢したんでしょ…旅行中…。彼女との思い出の場所なんて、知りたくないよね、普通」
「…ヨンナムさんにそんな事話したんだ、テジュン…」
「あいつね…落ち込んでたよ、また自分勝手しちゃったって…。あんな我儘男をお前、よく受け止められたね」
「…」
受け止め…た?
「それから…お前がとっても色っぽかったって」
「え…」
「くふんくふん言ってくねくねニヤニヤしてた。気持ち悪かったぁ…」
恥ずかしくてたまらなかった
なんでそんな事をテジュンはヨンナムさんにまで言うんだろう…
なんとか話題を変えたかった…
俺は今朝の電話を思い出した
「…あ…小鳥の名前…」
「うん。気に入ってくれた?」
「え…?…俺…電話のとき聞き取れなかったんだ…。何て名前?…もしかして…彼女の名前つけたの?」
「聞こえなかったの?」
「うん…」
「…。イナって名前にしたんだ…」
心臓が大きく音を立てた
そのままドクンドクンと脈打ち続けている
口をきこうとしているのに声が出ない
俺は震えている指でタバコを口に持っていき、それを吸った
「嫌か?」
「…ぁ…なん…で…俺の…」
どくんどくん
どうしてこんなにどきどきするんだろう…
「似てるんだ…お前に…」
「…お…おれに?」
「うん」
「…じゃ…。じゃ…可愛いんだ…。よく鳴くんだ。そいで…エサよく食って…暴れ回ってて…」
「うん。そうなんだ」
「へぇ…」
どきんどきん
「それによく突かれる」
「…そ…」
「痛いんだ」
「…」
「首、傾げてね。それがまたそっくりなんだ君に…」
「…俺…突く?…」
顔を背けてまたタバコを吸った
「突くじゃないか…。でも可愛いよ…。寂しがりなんだろうな…」
どきん…どきんどきん…どきん…
可愛いのは…小鳥…だよね…
「テジュンが今日初めて世話したんだけどさ」
「…。つ…突いてた?」
「突かないんだ…」
「…」
「偶然かもしれないけど…テジュンを突かないんだ。手にまで乗ってた…。そっくりだろ?君と」
ああ…そっくりだね…
そのセリフを乾ききった口が絞り出した
血の気が引いていくような気がした
「今度見においでよ。きっと君も突かれないよ」
俺は立ち上がってタバコを咥え、店に戻らなくちゃと言ってその場から逃げた
ヨンナムさんが俺の名前を何度か呼んだけど、俺は振り返る事ができなかった…
店に入ってドアを閉めた途端、涙が噴き出した
どきんどきん
どくんどくん
要らない物が焼き尽くされた
残ったのは俺
俺は…俺
彼女なんかじゃない…
彼女じゃない…
俺が…
「イナさんどこにいたの?指名入ったよ」
ウシクの声に驚いて涙を拭った
すぐから行くからと返事をした
慌てて顔を洗い、気持ちを切り替えた
頭を強く振って今の出来事を飛ばした
客席に向かうとそこにはテジュンが…いた…
なんで?
夕方までずっと一緒にいたじゃん…
明日は仕事があるんだろ?
なんで?なんでいるの?
なんでヨンナムさんと会ったばかりなのにまた同じ顔してここにいるの?
気持ちを笑顔で包んで俺はテジュンのいる席についた
「いらっしゃいませ」
「…」
「どうしたの?さっきまで一緒にいたのに…」
「会いたくなったから来た…」
「…」
「言い忘れたことがあるんだ…イナ…」
「…なに?」
「…ごめん…僕…勝手に店、休ませてごめん」
「…」
「お前のためって言いながら本とは僕のためにお前をつき合わせた…」
「てじゅ…」
「ごめ…」
俯いて泣き出したテジュンの背中を擦ってやる
「車で来た?」
「あ…うん…」
「じゃ、コーヒーかなんかにする?」
「…え…」
「注文してよ、商売あがったりだ…」
「…あ…じゃコーヒー…」
「食べ物は?」
「…適当に何か…」
「フルーツでいい?」
「…うん…」
冷たい俺…
可哀想なテジュン…
操られてた俺…
ずるいテジュン…
ここは俺の仕事場だから…こんな風に客席で泣いて絡むような…そんな性質の悪い客は…
テジュンに待っててと言って厨房に注文を告げに行く
テジュンの気持ちが俺に向かっている
嬉しいじゃん…
望んでたことじゃんか…
正直に感情を伝えてくれている…
フルーツが用意されるまで、席に戻りたくなかった…
テジュンがボックス席で項垂れているのが見える
堪らなくなってまたタバコが欲しくなった
接客中なのに…
裏の戸口の呼び鈴が鳴る
震える手で扉を開ける
「こんばんわ…あれ?イナ…」
「…」
「なんだよお前…店に出てるんじゃ」
「テジュンが来てる…」
「…」
「…よ…ヨンナムさんも…どう?」
「…お前…泣いた?」
心に染み入るその声にびくりとする…
「客席に…戻るね…」
揺れている
床が歪んで見える
席の近くに来て顔を上げると
テジュンの横にラブが座っていた
別段、何も感じなかった…
ストンと席に座ると、ラブがペロっと舌を出してお邪魔しましたと立ち上がった
「いればいいのに…」
「…」
「ん?暇ならここにいなよ、ラブ」
ラブはおかしな顔をした
「邪魔じゃないの?」
「どうして?ラブが居てくれたら嬉しいよなぁテジュン?」
テジュンは俯いたまんまで首を縦に振った
「イナさん…横に座ってやんなよぉ、なんか落ち込んでるじゃんこの人…。まさか、イナさんが苛めたの?」
「ばか…お前じゃあるまいし…」
「ふーん…へーんなの。俺、ギョンジンがうるさいからあっちに帰る。じゃね」
ラブは立ち上がって行ってしまった
また二人になった
ウシクがフルーツとコーヒーを届けてくれた
振り向いてサンキューと礼を言った時、目の端にこちらを見ているあの人が映った
どきん…
どくん…
急いで視線を戻すとテジュンと目が合った
「はい、コーヒーとフルーツ」
「ヨンナム…」
「あ…ああ…配達だって…。テジュンが来てるって言っといたから覗いてるんだろ。ほら、飲ませてやろうか?」
「こんばんわ」
頭上で声がしたので振り返ってみた
ほんとのきもち… ぴかろん
ソクが…ヨンナムさんを引っ張ってきてニコニコと立っている
「お邪魔いたしまーす」
「ソク…」
「ヨンナムさん、どーぞどーぞ座ってください」
ソクが愛想よく言った
「…ヨンナムさん、配達途中じゃなかったの…」
テジュンを意識して俺はヨンナムさんに言った
「なんだよ、ヨンナムさんもどうぞってキミ言ったでしょ?」
「…」
「僕も地獄耳で聞いてたぞ!だから来てもらったのに」
ソクの合いの手が入る
「あ…そうだったっけ…」
「テジュン、邪魔か?」
ヨンナムさんは硬い表情のテジュンを見て微笑んで言った
「いや…。配達はいいのか?」
「うん。BHCで終わり。楽しそうだからちょっとだけ…」
「…お…お金払ってよね…」
ふざけて言ったつもりのセリフがガチガチに緊張していた
「僕が払うよ」
「ほんとかテジュン。じゃあなんか高級なもの、たのもっと」
「おいヨンナム!」
「へへっ。でも車だからなぁ…お酒はやめとこ…お前も車?コーヒー?」
「ああ!」
「怒るなよなんだよ…うーんなんか美味しい高級なもの食べたいなぁ…」
ヨンナムさんが明るくてほっとする
「…待ってて…高級チョコレート持ってくる」
体の中がバラバラになるのではないかと思うぐらい鼓動が早くなっていた
息苦しくて話をするのもやっとだった
立ち上がってまた厨房に逃げ出した…
テソンに、こないだみたいな高級チョコの盛り合わせを頼むと告げた
テソンとmayoさんが俺の顔を見て目を丸くしている
苦しくて外に出た
またタバコを吸った
#####
「なんだよイナのヤツ、愛想ないなぁ。ねぇヨンナムさん」
「高級チョコってどんなの?お前食ったことある?テジュン」
「…何しに来た…」
「だから配達だって」
「…イナと…喋ったのか?」
「だって戸口開けたら居たんだもの。…お前…何、気にしてるのさ。ほんっとヤキモチ焼き。男の嫉妬深いのはみっともないぞ!」
「…」
「テジュンったらヨンナムさんとイナが心配なのぉ?ひーっひっひっ」
「うるさいな!ソク」
「大丈夫だよ。この清廉潔白・品行方正・坊主が屏風に上手に坊主の絵を書くようなヨンナムさんがイナときひーんなんて有り得ない!」
「…。そうだよテジュン」
「それにしてもイナったら、こないだは僕達のスリーショット見たい見たいって言ってたのに…。いざとなったら迫力で逃げ出したか?」
「迫力?」
「テジュンと同じ顔が三つ並んでたら戸惑っちゃうぅってねひひっ」
「お前にだけは間違われないよ、ソク」
「祭んときはがっつり間違ってたよ、あいつ」
「…」
「あー…久しぶりにイナとチューしよっかなぁ…」
「…」「…」
「なによ、なんで二人とも僕を睨むのよ」
「なんでお前まで睨むのさ、ヨンナム」
「淫らな行為に厳しいの!僕は!」
「あはんチューなんて淫らな行為じゃないよぉ」
「…。そ…だよね…キスぐらい…」
「ん?ヨンナムさんの口から『キスぐらい』なんて言葉が聞けるとはっ」
「…」
「ほんとだ…ガチガチのお前が随分と柔らかくなったなぁ…なんでだ?」
「テジュン、なんかヤなカンジだな…お前の聞き方…」
「…。なによ、同じ顔のいとこ同士でケンカしないでよっ!」
べちん☆
「いてっ。す…スヒョク…。一番向こうのボックスにいたのになぜ…」
「久しぶりに誰とちゅーしたいだって?!」
「…じょ…冗談だよスヒョク…。聞こえたの?」
「ソクさんの地獄耳が伝染しちゃったんです!ヨンナムさんこんばんわ。テジュンさんもいらっしゃい…。わあ…ほんと、すごいナァ三人並べると面白い」
「スヒョク君…君たちの方が凄いんだけど…みんな同じ顔のホストが…二十…」
「24人かな?ふふ」
「わぁんすごぉいほんとすごぉい」
「すっごくなんだか僕は不愉快だぞラブ!」
「ラブ…ギョンジン」
「やぁラブ君、久しぶり。あれ以来顔見せてくんないね」
「ラブ!あれ以来って何!」
「ん?テジュンと逃げて帰ってきた時以来って事。ねっヨンナムさん」
「ぎゃあああっこのクソジジイに陵辱された事をそんな風にさらっと…ぎゃあああ僕耐えられないええんええん」
「うるさいなぁ…陵辱なんかされてないもん!ばか!…それにしても三人並べるとほんと、壮観だなぁ」
#####
タバコを吸い終わって厨房でチョコを受け取る
テソンが、前に食べたチョコ、もう一度食べてみる?と言った
俺は笑って断った
きっと味がわからない…
きっと…前よりもっと味がわからなくなってるだろう…
テソンの口が小さいアヒル口になり、その後ろでmayoさんがポンポンとテソンの肩を叩いた
席に戻ってみると、いつの間にかそこに人が溢れていた
みんな三つ子に構いたかったらしい
そういや俺…この三人を並べてみたかったんだ…
チョコをテーブルに置いてテジュンの座っているソファの後ろに立った
正面にいるラブが、またおかしな顔をした
俺はテジュンに後ろから巻きついて耳にキスをした
テジュンがちょっと振り返って俺を見る
微笑みかける俺
赤い目のままくふっと笑うテジュン
可愛い男…
俺のテジュン…
ずきん…
ヨンナムさんがチョコに手を伸ばして包み紙を開ける
チョコを口の中で転がしている
どきん…どきんどきんどきん…
テジュンもチョコを摘んで口の中に入れる
耳元に美味しい?という質問をする
…うん…甘くて…ほろ苦くて…また甘い…
テジュンが答える
それは前にテソンが選んでくれた俺のためのチョコ…
ふうん…そんな味がするの?
ヨンナムさんがもう一つチョコに手を伸ばした
あーんと口に入れる
舌の上にコロンとチョコがのっかる
口の中でチョコが転がって溶けていく
チョコになって
溶けてしまいたい…
テジュンの首筋に鼻先をくっつけてくふふと笑う
テジュンももう一個チョコを取って食べた
あいつに負けたくないからな…
…なにが…
お金払うの僕だぞ!チョコ食うの、負けたくない…
それ、テソンのスペシャルセレクトなチョコなんだからな。ちゃんと味わえよな
味わってるよ…美味しい…とても…
そ?
俺の方を振り返って微笑みながらテジュンが話す
俺はその唇を見つめながら相槌を打つ
目の端にヨンナムさんの気配を感じる
俺はテジュンの唇にキスをした
面食らっていたテジュンはやがて体を少しずらして
俺の頬を支え、口の中のチョコを俺に渡した
おさけのあじがする…
ちょことおさけがまじってる…
僕も混じってるだろ?
…ん…
二人だけの唇の上での会話をして、また舌を絡ませる
周りでみんながひゅーひゅーはやし立てる
薄目を開けて視線を飛ばす
ヨンナムさんの顔が見える
口元は微笑んでいるけど目は驚いている
『随分無理したんだろ?随分我慢したんだろ?』
ぅふ…ぅふふ…
ずきんどきん…
んふふふ…
なに笑ってるんだよ…
こんなトコでキスしちゃって…祭のときみたい…
ん…ほんとだ…
キスしながらふうっと目を開ける
飛び込んできたのはラブの射抜くような視線
とっさに目を逸らしてテジュンから唇を離し、テジュンの首筋に頭をこすりつけた
テジュンたちが帰って閉店になった
すぐに店を出る気になれず、ぐずぐずしていた
一服吸ってから帰ることにしようと店の奥のテーブルに座った
煙を吐き出しているとラブがやってきた
「なに?」
「座っていい?」
「どうぞ」
返事をするとラブは俺の隣にどかっと腰を降ろした
「なによ…向かいっ側に座れよ」
ラブは返事をせずに俺の顔を見つめた
「…なんだよ…」
そしていきなり俺の肩に頭をコトンと乗せた
「…」
「イナさん…変だ」
「…」
「甘え方…忘れたの?」
「え?」
「テジュンに甘える方法忘れたのかって聞いてるんだよ」
「…。なんで…。さっきお前怖い顔して俺達のキス、見てただろ?」
「…」
「おい…」
ラブはまた俺をまっすぐ見て言った
「…恋してる?」
脳天に何かを落とされたような気がした
「…は…」
テーブルにタバコの灰が散らばった
「イナさん…テジュンを好きでしょ?」
大きく揺れていた心を必死で押さえつけた
「ああ…好きだよ」
「愛してるでしょ?」
「ああ…愛してる」
「でも…恋もしてる」
どくんどくん
押さえつけたものを跳ね飛ばすように、また心が揺れだした
「…こ…い…。なに…」
「なんで…押さえてるの」
「…え…」
「…。イナさんらしくない…」
「…」
「認めてやりなよ」
「…。なに…を…」
「好きだっていう気持ち」
ぐわんぐわんと鈍い音が響く
覆われていた壁がつき崩れていく
チップが散り散りに飛び
鎧が砕け散る
涙が一滴頬を伝った
「ら…ぶ…」
「押しやったって無駄だよ。消えない」
「…え…」
「認めてやんなよ…それ…自分にしかできない作業だよ…」
「…え…え…」
「見てらんない…。塗り固めて嘘ついてこのまま進んでいくつもりだったの?消えないのに」
「…なに…言ってるの…」
「イナさんらしくないって言ってるんだよ…自分を誤魔化すだなんて…」
「…え…」
「解ってるんでしょ?誰の事が好きなのか…」
「…」
「俺が言うのはね、好きだから行動を起こせって事じゃないよ。好きだってこと、自覚しなって事…」
「…」
「それからどうするかは…イナさんが決める事だよ…。覚悟もなしにいい加減な事しないでよ」
「いいかげ…」
「そんなあやふやな気持ちでテジュンにあんなキス、しないでよ」
「…」
「自覚した上で、隠すのなら隠し通してちょうだい」
「…」
「でないと可哀想だ…テジュンが…」
「…」
「テジュンの事、捨てられないんでしょ?あなた、テジュンが必要なんでしょ?」
「…あ…ああ…」
「じゃあなおさら…覚悟しなきゃね…」
「…」
「それだけ」
ラブは立ち上がって帰っていった
取り残された俺は…タバコを消して項垂れた
『認めてやんなよ』
なにを…
『自分にしかできない作業だよ』
自分の…気持ちを?
それは…
それは俺が…
彼女じゃなくて俺が…
最初っから…俺の中に
彼女なんかいなくって…
ただ俺があの人を…
どくんどくんどくん…
す…きだ…
すきだ…
すきだ…
すきだすきだすきだ…
「あ…ああ…あああ…」
俺は…ヨンナムさんが…すきだ…
俺はヨンナムさんがすきだ…
俺がヨンナムさんをすきなんだ!
さっき喉元まで出ていた言葉だ
口に出してはいけないと俺は無意識に腹の中に押し戻した
認めろって…ラブ
これを…言葉にして…ラブ
どうしようもない事を認めてしまった
どうすればいいのか解らなかった
だけど…
俺の心は喜んでいる…
あの人が好きだと言葉に出来た事を震え喜んでいる
痞えていたものが流れていく
これは…これは俺だけの…大切な秘密…
どうにもならないのに…
どうしようもないのに…
俺の心は嬉しくて泣いている
テジュン…好きだよ…
俺、変わらずにお前の事…好きだよ、でも
テジュン、俺、ヨンナムさんの事…好きになっちゃった…
ごめんテジュン…止められない…
だからせめてお前には、絶対知られないように俺…
「おあいこだからな…テジュン…。お前…ラブの事、好きになったじゃないか…。おあいこ…なんだから…」
どこにも行けなくなって俺は店で一晩中泣いていた
呼び出し 2 オリーさん
おい、今の聞いたか、と監督の目は言っていた
聞きましたよ、彼って全然わかってない?
監督が引きつった顔のまま言った
「3人の候補者に比べるとね、スヒョン君が一番和んでるのが君とのショットなんだよ」
「それは当然です」
そうでしょ、それは認めるのね
「僕とスヒョンは長いつきあいです。しかもとても親しい。
だからあなた達からも、一緒にいて和んだとういう風に見えて当然でしょう」
あちゃー、やっぱりわかってない、この人っ
一番がたぶんモデルだろうなんて事はわかるみたいなのに
自分の事はまるで頓着してないんだわ
「悪いけどもう一度、ヒョンジュのイメージは誰か、見てくれない?」
彼はパソコンを操作してまた顎を指で触りながら画面を見つめる
見終わると、顔を上げて言った
「1番の容姿も捨てがたいですけど、やっぱり3番でしょうか。」
監督がふーっとため息をつく
「プロの目で見てよ。君はどう?全然候補にあがらない?」
彼は意外そうな顔で監督を見つめると言った
「プロの目で見てます」
「だったら・・」
「候補者はある意味みんなプロです。役を獲りに来てる。僕はただスヒョンの隣に座ってる、
言ってみれば素人です。比べようもありません。プロと素人ですからね」
「あっ・・そう」
監督が間抜けな相槌を打った
私は思わず口を開いた
「私達にはあなたの笑顔がすごく魅力的に映ったんですけど、いつもそんな笑顔を?」
彼は少しとまどった表情になった
「笑う時にいちいち魅力的にとか意識します?おかしければ笑う、それだけじゃないですか。
それともユンさんは笑う前にいちいち考えるんですか?」
彼の目を見た
真剣な眼差し
やっぱりこれって天然ぼけ?
監督を振り返ると再び引きつっている
引きつった顔のまま監督が言った
「ユン君、トイレだ」
「トイレ?」
「一緒に来てくれ」
「は?」
「初めての場所じゃ一人で行けないって知ってるだろっ」
「はあ・・ああ、はいはい」
「ちょっと失礼、トイレに。さあ早く、間に合わないよっ」
「監督っ」
もうちょっと別の口実思いつかないのかしら、この狸っ!
「トイレ一緒って無理がありますよ」
「前まで一緒にって言えばよかったな」
「そういう問題じゃないです」
「とにかくだ、どうする?」
「どうするって?」
「スヒョン君と同じ手じゃだめだ」
「みたいですねえ」
「あの画見せて納得してくれたら、プロ同士で話が早いと思ったんだが」
「自分には興味ないみたいです」
「あいつ阿呆か?鈍感か?」
「鈍感と言うか、珍しいタイプですね」
「自己顕示欲旺盛な奴らばかり見てるからなあ」
「でも昨日のプレゼンはぐいぐいだったでしょ?」
「そりゃもう、ぐいぐいぶいぶい」
「ふうん・・」
「ふうんじゃなくて、何か手を考えろ」
「監督こそ何とかしなさいよ、情けない」
「やっぱ音楽やらせないって脅すか」
「思いっきり浅知恵」
「ふん・・」
「スヒョンさんと彼はどういう関係です?」
「職場の同僚だろ」
「それだけ?」
「それだけって?」
「祭りのビデオ、ムードありましたよね」
「まあな。でもお互い別の相手がいるんだぞ」
「お互い相手がいるけど、ふふんな関係?」
「ええ?」
「だって昨日のスヒョンさん、ただの同僚に向ける視線じゃなかったでしょ」
「だから何だよ」
「もうっ、鈍いんだから。ふたりがふふんだったら、お互いかばうでしょうが」
「ふんふん」
「スヒョンさんはOKしてるんだから、彼にスヒョンさんが困るって訴えたらどうですか」
「そんなんで大丈夫か?」
「そんなんで心配なら自分で考えなさいよ」
「ふん・・」
「ほら、戻りましょ。鈍感な彼が逃げちゃいますよ」
「ふん・・」
「いやあ、失礼。こういうシャレた場所は苦手でね、トイレ一人で行けないのよ」
「監督っ」
「彼女はトイレの前までだから、中には入りませんよ」
「当然です」
彼はただ静かに笑っている
「でね、それ見てスヒョン君は君にやってもらいたいって思ったわけなの」
「はあ」
「どう、スヒョン君を助けると思って出てみない?」
もうっ芸無し狸!
直球投げてどうするのよ。もうちょっとひねれっ
「僕が一番気になっているのはそこなんです」
『『え!』』
「スヒョンがそう思っているなら応えてやりたい」
「ほんとに?」
私はテーブルの下で監督の足を思い切り蹴った
まともに反応してどうするっ
「スヒョンは僕にとって大事な存在です・・ある意味父親のように頼りになり、
兄のように色々相談でき、そしてかけがえのない友人でもあります。
だから、僕にできる事があれば何でもしたい・・・」
彼はそう言うとふうっとため息をついて俯いた
やだ、直球がど真ん中に入っちゃったみたい・・
それにしても美味しすぎるショット
狸はすかさず攻撃を始めた
「やっぱりヒョンジュは君しかいません」
「え・・」
彼は驚いて監督を見つめる
「君しか考えられない。いいですね?」
「いや、やはり困ります。僕は演技の経験がありませんし、あの役ヒョンジュは言葉が・・」
「そう、しゃべれない」
「台詞がないって事はその分演技力が必要じゃないでしょうか」
「そういう面もあります」
「やはり無理かと・・」
「君は目の演技がとても上手い」
「目の演技?」
「気づいてないでしょう・・そうだなあ・・あなた恋人いるでしょ。ジホ君から聞いてます」
「ジホさんから?そんなプライベートな事まで・・」
「恋人から目について何か言われたことありませんか?」
「ミンが僕の目について・・」
彼は当惑しながらも、素直に遠くを見つめて思い出そうとしている
その横顔はまさにヒョンジュ・・
「そう言えば」
「そう言えば?」
「よく言われるのは・・そんな目で見ないでって」
私はのけぞり、監督は手を打って喜んだ
「それそれ!」
「でもミンはちょっと敏感なところがあって、それで・・」
「いや、あなたの恋人は正常です。僕なら10分おきに言ってますよ。
そんな目で見ないで、そんな顔しないでって」
「ちょっと待ってください、おっしゃる意味がよくわかりません・・」
あわてた彼が思わず身を乗り出した
それに呼応するように監督も身を乗り出し、そして先手を打った
「わからなくていい。とにかく君が必要です」
「・・・」
「演技は必要ない、むしろしなくていい。そのボケっぷりさえあれば・・いや、その、つまり・・」
「・・・」
「し、自然体で結構。後は我々に任せて。スタッフが認めてる。スヒョン君も頼んでる。どうです?」
しばらく二人は見詰め合っていた
彼が先に口を開いた
「スヒョンには今朝会いました」
「ほお。で何て?」
「考えてみてほしいと」
「でしょ」
監督がにっと笑った
「お聞きしたいんですけど」
「何でもどうぞ」
「映画音楽の方は?もし僕がどうしても役を断りたいと言った場合、どうなります?」
「音楽は音楽監督に任せました。話は別です。でもね・・」
「でも・・」
「君以外のヒョンジュで撮るとしたらストレス感じちゃうなあ」
「・・・」
「君で撮りたかったのに、別のヒョンジュで撮ったりしたら・・意味わかりますよね、君も作り手なら。
この歌はあの歌手でやりたかったのに、ちくしょうっ、何でこの歌手が歌ってるっ、なんてねえ」
「・・・」
「しかも音楽担当だから、君は時々スタジオなんかに出入りするんでしょ・・ああ気が散るっ!」
やれやれ、狸が猿芝居を始めたわ
あと映画の中で、その・・きわどいシーンがありますよね」
「ああ、ベッドシーンのこと心配してるわけ?」
監督がわざとらしくあけっぴろげな態度を取る
「素人ですからそういう場面は・・・」
「わかる、うん心配でしょう。でも全然平気。あれは作業ですから。ほんとにやるわけでもないし・・」
「監督っ」
「えっ?何?」
「露骨な表現っ」
「端的だろ」
「もうっ!」
「でね、つまりは全然心配ない。あれこれつなぎ合わせたり方法はいくらでもある。問題ありませんて」
「本当に?」
「信じてください」
この大嘘つきの狸っ
彼はなお決めかねている
揺れる眼差しがそれをよく表している
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫です」
「本当に・・監督は本当に僕にヒョンジュをとお考えですか」
「お考えです」
馬鹿っ、言葉づかいが変っ
でもそれを聞いた彼は静かに目を閉じた
しなやかな指を額にあてて考え込んでいる
ああ、失敗した
やっぱりカメラを持ってくるんだったわ
思わず携帯を握りしめた私を見て監督がにやにやした
わかってますよ、撮りませんよ、写メなんかっ
随分長いこと目を閉じていた彼がふっと睫を動かした
そして監督を見つめた
「わかりました・・やってみます」
「ほんとに?」
「はい」
「よかったっ、ね、ユン女史っ!」
監督は笑顔満面で私に目配せした
そして無理やり彼の手を握りしめて、今にも舐めそうな勢い
「気が変わったってのは、なしだよ」
「わかってます。ただ・・」
「ただ?」
「僕自身、まだ納得できてません。それでも結論を出したのは・・・スヒョンのためです。
とてもちゃんとした動機とは言えません」
「いいのいいの、OKさえくれれば。後はこっちに任せて、うんうん」
監督は上機嫌で言った
正式な契約は後ほどという事で、彼との会談は終わった
じゃあこれで失礼します、と物腰柔らかく彼は去って行った
その後姿を見つめながら監督は呟いた
「まいったなあ・・」
「OK取れたじゃないですか」
「そうじゃなくてあのボケっぷりだよ。君も驚いたろ?」
「正直びっくりです」
「やり手だって噂しか知らなかったからなあ」
「自分の事はわからないみたいですね」
「ありゃ、そばにいる人間はいい迷惑だわな。」
「恋人にしたら気が気じゃないですね」
「君はそんな心配いらない」
「どういう意味ですかっ!」
「いやいや、でもさ君も久々に腕が鳴るだろ」
「スヒョンさんといい彼といい、もうやる気バッチリです」
「あんなのがゴロゴロいるらしいぞ、彼らの店には」
「本当ですか?!!」
「ジホ君の話だとそうらしい」
「監督、連れてってくださいよ」
「いいよ。ただし仕事が終わってからね」
「たまには前払いしたらどうです」
「あっと、もう行かなくちゃ」
「またごまかすっ」
「帰ろう」
「監督っ!」
承諾してよかったのだろうか
マンションへ戻りながら、僕はまだ迷っていた
スヒョンの気持ちを優先してみた、それだけしか理由がない
あの難しい役を・・僕が・・
萎える気持ちを振り払うために、僕はスヒョンの言葉を思い出した
『おまえとヒョンジュが重なった』
『おまえとなら求めるものに近づけるんじゃないかと思った』
ほんとうにそうなのか
スヒョン・・
頭の中のスヒョンはいつものように微笑んでいた
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