ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 184

僕の別宅1  妄想省mayoさん

僕は試験期間中..明日で試験の日程を終える..
明日は朝が早いから先輩の処にお泊まりと決めてちょっと遅れて店に出た

先輩は「お泊まり?..ミンギ...ぃぃょ..」と言ったけど..
閉店ちょっと前に先輩に電話が来た..
パタン..と電話を切った先輩は

「ごめん..ミンギぃ..」

っと言った..
ぁぃ~ん...今日は駄目..つーことっスね..はぃはぃ..
開店後ちゃっちゃと着替えた先輩は僕に申し訳なさそうーにしながらも

「んじゃ#..」

っとこれまた..ちゃっちゃ#と帰った..薄情..

僕は友達も試験中の奴らばっかだし..
明日提出のレポートもまとめたかったから..
遊び仲間の処にお邪魔するわけにもいかないし..
らぶちゃんも襟巻きされて帰っちゃったし..

どうしようかなぁ..

携帯のストラップを弄びながら..僕の口は7分開きになってたみたい..
僕の口をむにゅ..っと閉じる指…

「うち来る?」..っとテソンさん..

いくいく~~っと言いたいとこだけど..
一応遠慮した..

「ぁ..ひ..でも..」
「おいでよ..おいでよ..ミンギく~ん」..っと腕に絡まるテスさん..
「ぁ..ぉ..」
「ぉ#..アタシと寝るか..ミンギ..ん?」..ヌナが迫った..

「ひーん..そりは..どうか勘弁してくらはい..死にたくないっス..」

..っと懇願した僕はテソンさんに小突かれた..
結局僕はヌナ達のcasaへお邪魔することにした..

「ちぇみぃ~(^o^)」
「ぅ~~ん#..(^_^)」

エプロンをしているちゃみさんはテスさんをぎゅぅ~っとHUGって迎える..
いつものことらしい..
テスさんの背中をすりすり〃とんとん#してちぇみさんはキッチンに戻り..
テソンさんはキッチンでちぇみさんの隣に立った..

リビングの椅子に乗っていたはるみちゃんはヌナが抱き上げた..
僕がほっぺをつんつんすると..んみゃ^o^//..っと嬉しそうに笑った..

廊下には3,4個の段ボールが置いてある..

「ヌナ..何スか?...この段ボール..」
「ん?..2つはシチュンさんの店で使うカップ&ソーサーとプレート..新しくするんだ..」
「どこのっスか?」
「伊のジノリ..」
「高いんじゃないんスかぁ?」
「業務用のアイテムにネームを入れするだけ..高くはないよ..あちこちのレストランでもやってる.」
「へぇ..」
「[Cafe tango]ってプレートやカップとかにロゴがあったほうがいいじゃん?」
「ぅん..」
「業務用のムラットホワイト..別名ボンジョルノだけど..ぽったりして..ジノリでは人気のデザインなんだ..
 お客さんで欲しい~..っていう人もいるかもしれないじゃん?」
「シチュンさんの店で気に入った人が買う..つーことっスか..」
「オリジナルでしかもジノリ...なのに何処にも売ってない..カフェでしか買えない..
 人気のカフェではよくやる販売戦略だよ..商品価値もあると思うんだ...どうよ..」
「はひ..そぉっスね..」

「ついでだからさ..別アイテムでパン屋のカフェ用のも作ったんだよ..ミンギ君」
「へ?..パン屋の名前あったスか?テスさん..」
「へへ..開店してからのお楽しみ..ね..mayoシ..」
「ぅん..^^..」

テスさんとヌナは顔を見合わせてふふふ..と笑った..
3つ目の段ボールがパン屋のカフェ用で..4つ目の段ボールは伊のワインだって..
ヌナの話では..知り合いに仏のジャーナリストがいて..今トリノに取材に行ってる..
トリノのあるピエモンテ州はバローロとバルバレスコが美味いから速攻で送ってもらった..
っということらしい..はひ..

「今日はトリノだ...ん#..」っと両腰に手を当てたちぇみさん..
テーブルにはフォンデュ鍋ともう一つ..バーニャカウダポットが並んだ

*バーニャカウダ(野菜添え)
*フォンティーナのチーズフォンデュ(バケットと野菜添え)
*牛肉のバローロ煮込み

テソンさんの解説によると..
どれもピエモンテの料理..っということらしい..
バーニャカウダの大蒜は田子産(青森)で臭いが少なくまろやか..なんだって..
確かにぴりっとしないし..甘みさえ感じる..はぁーしても臭くないんだ..凄いや..

スイスや仏料理のチーズフォンデュだけどフォンティーナチーズを使うのがピエモンテ流..
ピエモンテ州は仏と隣接してるから..家庭料理も料理の影響を随分受けてるよ..
方言も仏語と酷似...っということだそうです..
僕は料理を食べながらテソンさんの講釈を聞いていた..

「僕等いつもわいわい言いながら食事してるんだ..」
っとテソンさんは優しい笑顔を僕に向ける..

「美味しいもの食べると笑顔になるでしょ?..へへ..ね?」
っとテスさんはタレた目をまた下げ..ちぇみさんに向いた..
ちぇみさんの目じり..だっれ~~~ん…8:20状態..

僕は
「美味しいね..ミンギぃ…」
料理や甘い物に満足した時の..先輩にしては精一杯の楽しげな笑顔が浮かんだ..


「ミンギはお勉強があるからワインは抜きだな..」
食事が終わる頃には殆どちぇみさんとヌナの2人で飲んでるバローロは1/3まで減っていた..
またテソンさんによると..
「栓を開けたら駄目よ..空にしないと嫌みたいね..あの2人...」
そうスか..底なしの2人スね..はふ..

食事の後にテソンさんはキッチンで仕込みを始めた
ヌナとテスさんはリビング側で並んで床に座り..こっちに背中を向けている..
別の段ボールを前に2人であはは..えへへ..と談笑しながら作業している..

ちぇみさんは
「俺と闇夜のPCは最重要機密事項だらけだからな..」
っと..テソンさんのノートPCをダイニングテーブルに持ってきて椅子に座る僕の前に置いた
「ちぇみさん..ヌナ達..何してんスか?」
「ん?...ぁぁ..あれはパン屋でちとな..」

ぁ~っと..あれも開店までのお楽しみっスね..はぃはぃ...
ずりり&だらりんこ..と僕の隣で椅子に座ったちぇみさんは
顎をくいっ#っとしゃくりながら..

「後でレポート..チェックしてやる..」
「は..はひ..」
「一時間で仕上げろ」
「む..無理っスよぉ~」
「集中力を養うにはいい方法だろ?..ん..」
「ぁ…っつぅ~~」
「時間オーバー..若しくは出来が悪けりゃお仕置きだ..」
「ぉぉぉしおき?」
「ん..正座両手上げ..2時間..」
「そぉりゃないっスよぉ..」
「文句言うな..ほれ..やれ#…ハナ..トゥル..セッ!!..」

ちぇみさんは腕時計のストップウォッチを押した..
(>▽<)”ふぁいてぃーん”(っという意味だろう..)..とはるみちゃんは僕に前足を上げた..
僕は必死こいてPCのキーを打った....

「ティン!!..出来たか..」
「ぁふぁふ..へろへろ..はふはふ..はひ..」
「ん..どれどれ..ちゃぁ~んと出っ来たかなぁ~~」
「(-_-)…」

ちぇみさんはPCを自分の方へ引き寄せ..チェックを始めた
はるみちゃんは前足をPCの端に揃えて一緒に覗いている

『猫に解るんスかっ#..』

はるみちゃんがディスプレイを指した..
「ん..誤字見っけか?はるみ..」
「みゃ#..」

『な..なん..何スかっ#..この猫っ!』

ちぇみさんはその後..速い動作で画面をスクロールさせ..
僕が何日もかけて書いたレポートを読んだ
僕はちぇみさんが赤文字に変換したところをちょっと直した

「ここ..先輩にもちょっとアドバイスもらったとこかもしんないス..」
「ふっ..そうか..」
「先輩のアドバイス..あちこち脱線するっス..まとまりないんス..」
「くはは..解るような気はするな..ん..」

ちぇみさんはくはは..と笑った

「ちぇみさん..」
「何だ..」
「ぁのさ..(こそこそ..)ヌナとテソンさんって..ベットで一緒におねんね..スよね..」
「当たり前だろ..何故んなことを聞く..」
「あ..あひ..なぁ~んか..そうぞー出来なくてさぁ..いしし..」
「ミンギ..そういうことを言うとだな?..」
「はぁ..」
「..飛んでくるぞ..」
「...??」

横目で僕を見てにやりと口端を上げたちぇみさんの声色が裏返った..

「♪とびます↑#..♪とびます↑#..」

合わせるはるみちゃんは左右の前足先を交互に自分の口に当てた..

『さかがみじろーじゃんょ..」

ひゅるるるぅぅぅ~~~ぱしっ★#

僕の後頭部に当たってぽとりと床に落ちたのは大根だった
大根の皮は厚みがあって..痛かった..<(_ _)>…

はるみちゃんは..右前足で僕を指し..ンケッケッケ(>▽<)っと笑った..
ちぇみさんは「だろ?..」っいう顔をした..
僕が振り返るとテソンさんは済ました顔でかつらむきをしていた..

はるみちゃんは大根の皮を銜えてキッチンへタッタッタ...っと走って行き..
ちぇみさんは戻ってきたはるみちゃんを抱き上げた..

「ミンギ...はるみはな..」
「はぁ..」
「俺等の"なにのあれ"もあいつ等の"なにのあれ"も観てる..だろ?..はるみ」
「(e▽e)//..」

ぁ~~はるみちゃんも覗きは得意#..つーことスね...
秘密結社っス!!..この家#...


「印刷する間風呂に入ってこい」と言われてちぇみテスさんの部屋の風呂に入った
@@//..でっけーバスタブだった..
ぁ~~ちぇみテスさん..バスタブでも###..つーことっスね..

風呂から上がってくるとレポートは印刷が終わってディスクにもレポートの内容は落とされていた
僕がまたちぇみさんの隣の椅子に座った

だらりんこ座りのちぇみさんはグラスのワインで喉を潤した
そしてビビン#..と腹にちぇみさんの低音が響いた

「ミンギ..」
「ぁ..はぃ..」
「お前はソヌと連んで何年だ..」
「ぁ..っと3年くらいかなぁ..何でスか?..」
「ん..お前..ソヌにはどんな仕事が向いていると思う?..」
「ホ○ト以外スか?」
「ぷっ...あいつはホ○トでプロになれると思うかぁ?」
「はひ..無ぅ理っスね..僕..先輩がカン社長のとこに来る前の事解らないっスけど..」
「ん..」
「やっぱ..あれかなぁ..」

ちぇみさんは続けた僕の話耳を傾け「やっぱりそうか..ん..」と頷いた

ハーブティーを淹れたカップを僕の前に置いたテソンさんは
僕の頭をくしゃ..っとするとテーブル上のワインボトルを持ち上げた

「ちぇみも闇夜も明日は休肝日だよ#..」
「ふぉ?..明日は宴会だろうにぃ?テソン..」

んがっ#...そうだった...っとテソンさんはブツブツと呟いていた..

その後
「なんだ...アタシと寝るんじゃないのか?..ミンギ..可愛がってやるぞぉ~」とヌナに言われ..
「ミンギは俺に任せろ..」っとちぇみさんに脅され..
「ソファで寝るっス...」と言った僕をちぇみテスさんが放っておく筈もなく..

僕はちぇみテスさんの部屋へずるずる…引っ張られていった..わ~~~ん..;ToT;..


千の想い  ぴかろん

今日はイヌ先生とウシクの引越し第一弾だった
俺は約束どおり10時に俺のマンションに行った
ウシク達は既に中に入っていて、掃除を始めていた
最も掃除をしていたのはウシクだけで
イヌ先生は箱詰めされた荷物を片っ端から開けちらしウシクに怒られていた
イヌ先生は可愛い人だ
ウシクに怒られて口を尖らせ、自分のものにする予定の部屋で本を本棚に並べていた
僕だってやるときはやるんだからっ!とブツブツ言いながら…
俺がクスッと笑うとびっくりした顔で俺を見た
そして顔を赤らめてイナさんいたの?と呟いた
先生ってクールなイメージだったのになぁ、なんだかすっごく可愛いよと言うと
また口を尖らせて大人をからかわないでくださいっ!とむくれた
ますます可愛いですよと言ってやると尖らせていた唇をムンっと口の中に仕舞った
先生の部屋になる予定の空間には俺の冬物が残っていたので
ずんずん中に入っていくと先生はビクリとした

…襲わないよ先生~
…え…あ…
…え?襲ってほしかったぁ?
…そんな…イナさんに襲われるはずないですから…
…なんでよ…俺だっていざとなったら…
…イナさんは僕と同じぐらい…いや、もう少し細いから…
…は?
…ウシクは…でぶだから…時々負けちゃうけど…
…は…
…このごろ…負けてばっかりで…悔しい…
…先生?
…負けないようにこの部屋に篭って守ります…
…あの…なんの話を…
…あっげほっ何でもないですっ!

きょときょとしている先生の横を通って箪笥から冬を出した
空いたダンボールを貰って服を畳んで詰めているといつの間にか先生が箱を覗き込んでいる

…どうかしました?
…きれいに畳むんですね…
…そう?ムショ仕込みだから…
…え…刑務所ではそんな事も教えてくれるんですか?
…ん…。きちんと畳まないとシバかれるから…
…ほんとに?
…ヤな看守だとね
…じゃ…ウシクは…ヤな看守だ…
…は?
…あ…いえ…僕…服を畳むの…下手だから怒られる…
…ぷっ…先生~、話聞いてるとウシクに怒られてばかりじゃないの?
…うん…
…ついこないだまでウシクが先生にえへんえへん甘えてたのにぃ~
…そうなんです。なんか…最近ぶくぶく生意気になっちゃって…
…ぶくぶく生意気?
…太いんだもんあいつ
……。そうかなぁ…。ミンチョルのが…太いと思うけど…
…だって腕とか胸板とか!脱いだらスゴイ…あ…
…先生は真っ赤になって俯いた
…また…怒られるね、先生…
…内緒にしてください…
…ぷっ…はいはい
…それはそうと…イナさんこの頃甘えてないですね
…え…
…テジュンさんに…
…え…あ…。今…出張中だから…
…昨日からでしたっけ?
…え…あ…うん…。でもおととい…店に来たし…あの時俺、思いっきり甘えちゃった
…そうでしたっけ?
…え?
…甘えてるように思えなかった…
…え…
…むしろテジュンさんがイナさんに甘えてるように思いましたよ
……。
…だから…あの…イナさんたちも…あの…逆転したのかなーって
……。
…違いました?
…え?なにが?
…逆転…
…え?逆転?逆転って?
……。いえ…。聞き流してください…

先生はまた赤くなって俯いた
俺は唾を呑み込んで冬服を畳み、箱に入れた

『甘えてるように思えなかった』
先生は突拍子もない理由でそう思ったらしいけど
病巣にメスを入れられたような気がした
そこんとこ切り取ってよ…
切り取って…どっかに捨ててよ!
心の中で俺が叫んでいた…
箱詰めが終わって、俺は先生に笑い顔を作ってキッチンの方に行った
俺の何が変わったのだろう
俺はどうしてこんなになっちゃったんだろう
隠し切れないものなのだろうか…
フリはフリでしかないのだろうか…
それでも俺はこんな方法しか思いつかない
だから…会わなければいいんだ…ヨンナムさんに…
そしたら俺は…夢を見ていたんだって思える…
心の中で唱えればいい
テジュン、早く帰って来てよ…テジュン

…ベッド貰ってもいいんですか?
…うん…
…うれしいな。ダブルだぁ

…そこでテジュンと寝た…
ここでもテジュンと寝た…
ここでテジュンが朝ごはんを食べさせてくれた
あの時の俺、ぐちゃぐちゃだった
テジュンを取り戻したくてテジュンが離れていくのが怖くて…
あの頃は…俺の心はテジュンで一杯だったのに…
あの時の俺の…あんな思い…テジュンにさせたくない…

俺はぼんやりとウシクの働きっぷりを見ていた

…この棚もいいんですか?このテーブルも?ほんとに?
…ああ…RRHには持っていけないもん…どうせオーナーからの貰い物だし…
…ああそういやぁイヌ先生の部屋もオーナーからの貰い物だらけだったなぁ…
じゃああれ全部置いてきちゃったらまた誰かあそこに住めるかな…
…そうだな…俺どうせこの部屋の事オーナーに報告に行くから、イヌ先生の部屋の事も言っとくよ

そういうわけで俺はイヌ先生の部屋の鍵を預かった

…なんだか取替えっこみたいですねぇフフフ

ウシクは笑いながら棚の上に写真たてを飾った

…なにこれ…イヌ先生?
…うん…それと…これがイヌ先生と飛んだ子…
…飛んだ…あ…ああ…
…これを探してたみたい…先生…。だから詰めた荷物解いて確認してたらしい…
散らかしっぱなしだったけどね…

ウシクは昨日見つかったというその写真と、その男の子の話をしてくれた

…その子の後ろにいるテヒさんを見つめてたんだ、先生は…その子じゃなくてやっぱりテヒさんを愛した…
だから先生はその子の命を奪った事、とても悔やんでる…
その子に関してはどうしていいのかわかんないみたいだった…その写真、燃やそうとしてたしね…
…燃やす?
…燃やしても仕方ないのに…ちゃんと受け止めないと…
もしヒョンビンが…ああその子の名前なんだけどさ…ヒョンビンが生きていたら
もしかしたら先生はヒョンビンを愛するようになってたかもしれないでしょ?
…うん…
…でもまずテヒさんへの思いをなんとかしなきゃなんない…かなり強固な思いだからね…
ヒョンビンも苦しかっただろうな…
…苦しい?
…ヒョンビンは先生を好きになってたと思うんだ
先生は自分を見つめてる、まるで恋する人を見るように…
けど…その視線が自分でなくて自分の中の何かを見つめてるって気付いたんじゃないのかな、彼は…
だから離れようとしたし、先生と出会う前の自分に戻りたいと思っただろうし…
彼ももがき苦しんでたと思う…
…ん…
…苦しんだすえに自分の中に宿ったらしいテヒさんの魂も受け入れた
つまり…先生の心に付き合っちゃったんだよね…
…乗っ取られて?
…そうじゃないと思う…テヒさんの魂が宿ったかどうかわかんないけど…
テヒさんとヒョンビンは似たところがあったんだろうなきっと…僕はそう思う…
…だから先生は彼に惹かれた?
…じゃないかな…。先生のテヒさんへの想いがあまりにも強すぎるから…
ヒョンビンはそれを受け入れた上で解放したかったんだろう…そう思うんだ…僕…
…それって…。その子…。すごいな…
…イナさんもそう思う?
…参るな…俺…できないよ…
…僕もできない…
…そういうのを『愛』っていうのかな…
…僕も…そう感じた…だから彼の想いを大事にしなきゃって思う

自分ではなくてその後ろに見える人に語りかける先生…
自分ではなくてその後ろに見える人を愛する先生…
ヒョンビン…辛かったろうな…
少しだけ俺、解るよ…
でも君はすごいな…受け入れて解き放って助けて生かした…
君は…すごいな…

…ウシク…もしかしたらヒョンビンって子は本当にテヒさんの生まれ変わりだったかもしれないね
……。
…先生が囚われちゃったその恋から解放するために生まれてきた…
でも…だとしたらやっぱりヒョンビンはテヒさんに乗っ取られてたって事か?
…そう考えるとなんだか哀しいでしょ?テヒさんの魂がヒョンビンの体を利用しただけみたいで酷すぎるじゃん
だからテヒさんの想いとヒョンビン自身が協力して頑固な先生を助けたんだって
僕は…そう思いたいんだけどな…
……お前…優しいな…ウシク…
…そう?
…うん…優しいよ、ウシク…

俺はウシクをそっと抱きしめた
ウシクは照れてやだなと言った

…俺もお前の言う事信じるよ…

ヒョンビンという青年を心に刻み付けた
そんなヤツもいるんだ…そんな愛もあるんだ…
ヨンナムさんの顔が浮び、テジュンの顔が浮んだ
ラブの顔もギョンジンの顔も浮かんできた
それからBHCのみんなの顔が次々と浮んで俺の心は一杯になった…

俺…頑張らなきゃ…
漠然とそう思った…


大方の荷物が片付き、あとは先生の部屋を残すのみとなった
ウシクは遅い昼食を作ると言って張り切っている
台所も広いし、冷蔵庫の中はキレイだし(ほとんど使ってないからなぁ…)イナさんオーナーに贔屓されてんじゃないのぉ?というウシクの皮肉?を聞きながら
俺はイヌ先生の手伝いに行った
相変わらずぐちゃぐちゃの部屋で先生は先生なりに努力しているらしい

「先生…ほんとにチーフ代理?」
「…ぶ…はい…」
「『ぶ』?今『ぶ』って言わなかった?」
「気のせいです」
「…手伝おうか…何すればいい?」
「えっと…じゃ、この本の塊を二段目に並べてってください…」
「なんか順番とかあるの?」

随分と時間がかかっているからきっと先生なりのならべ方の法則などがあるのだと思った

「ないです。適当でいいです」

…。適当にやっててなんでこんな遅いんだろう!はぁ…

「先生…ほんとに…チーフ代理やってけるの?ミンチョルに変わってもらったほうがいいんじゃないのぉ?」
「ぶ…。ミンチョルさんも忙しくなるんです!二人とも映画に出るから…」
「…映画?映画はスヒョンでしょ?んでミンチョルはその映画の音楽とかって言ってなかった?」
「…え…ああ…音楽もですけど出演も…。言っていいのかな…でもいずれみんなにって言ってたし…」
「…出演?あのキツネが何やるのよ。なに?映画大変そうな感じだったけど、コメディなの?」
「いえ、シリアスな人間ドラマで…」
「ミンチョル一体どんな役よ…くふふ…あいつ音楽の宣伝のためにワンポイント出演するとかってゴネたんじゃねぇの?キヒヒ」
「いえ…スヒョンさんの相手役で…ああ…言っていいのかな…」
「…相手役?何、じゃ恋人を奪い合うとか?」
「いえ…その…恋人…」
「…恋人の元カレ?」
「だから…スヒョンさんの恋人役です」
「…は?」
「ミンチョルさんとスヒョンさん…」
「…」
「らしいです。詳しい事はその…よく知らないけど…その…」
「…。またぁ…。スヒョンの冗談だよきっと…」
「…」
「嘘だよ…そんなの…」
「…」


僕たちの物語 4 れいんさん

悪戯っ子な少年が駆けていく後姿を目で追った
噴水の傍でボールを蹴る少年達
きらめく水しぶき、聞こえるはずのない笑い声
それはセピア色の写真の様に僕の目に映った
僕はそっと瞳を閉じた
その時瞼に浮かんだのはあいつ
あいつの目、あいつの声、あいつの仕草…
今僕が感じている事、マリアにちゃんと伝えよう…
心のままに…ありのままに…

「ふふ、あんな小さい子から見たら、ドンヒもおじさんなのね」
「…」
「私の事、綺麗なお姉さん、だって。可愛いとこあるじゃない?」
「…」
「…どうかした?ドンヒ」
「…うん…マリア…君に話しておきたい事がある」
「…?」
「僕も…その、君が好きだ。これは本当だ
君はとても優しくて素敵な子だ。こんな風にデートするのも凄く楽しい」
「…」
「なのに、馬鹿だよな…こんな時でさえ…僕は…あいつを思い出してる」
「ドンヒ…」
「どうして思うようにいかないのかな。まっすぐに君の事、見れたらいいのに」
「…」
「ゴメン。君とは、その…あんな事になっておいて…ホントごめん。僕は酷い男だね」
「そんな風に言わないで。あの時そう望んだのは私なんだから」
「いや、僕は自分が許せない。軽率で無責任で…」
「あの時があったから今の私達がある。ね?そうでしょ?だから…私達の物語、これから始めたって遅くはないでしょ?」

僕とマリアの物語…
迷った…とても
だってそうだろ?
こんな風に言われたらきっと誰でも迷うだろう
どうして僕はこうなんだろう
でも…いい加減な事はしたくない。マリアに対しても失礼だ

ちょっと待て、早まるな、そんなに結論を急がなくても…
つきあっている内にだんだん相手を好きになるって事はよくある話だ
とりあえずこの場はいい返事をしておいて、後でゆっくり考えよう、な?
おまえ、こんないい子を突っぱねるなんてしないよな
若くて可愛いくて、おまけにお前が好きらしい
そんな奇特な子滅多にいないだろ?な?馬鹿な考えおこすなよ

僕の中で誰だか知らない奴が好き勝手な事を言っている
正直言うと僕としても、ここでがばっとマリアを抱きしめて、ぶちゅっと熱いキスで決めたいところだ
映画のラストシーンみたいにハッピーエンドな結末を
でも…

僕は目を瞑りすぅっと息を吸った
「ごめん、マリア。僕には…まだ書き終えてない物語がある。だから、それが書き終わるまで新しい物語を書く事はできない」
「ドンヒ…」

ああもう、バカバカ!
ドンヒの大馬鹿野郎!
いいのかおまえ?
それでいいのか?
ホントに後悔しないか?
落ち着いてよく考えろ
もうこんなチャンスないん…
うるさいっ!
誰だ、お前!さっきから!
もう黙ってろ!
僕は僕の中の誰だか知らない奴を怒鳴りつけ、黙らせた

「ホントにごめん。君との物語、いい加減な気持ちでは書きたくない
あのさ、今書いている物語、実を言うと、ちっともうまく書けてない
壁にぶつかってばかりなんだ。でも…途中でやめたくない
物語の結末をこの目でちゃんと確かめるまで。あいつにとってこの僕が必要でなくなるまで」

これが、僕の出した答えだった

「…わかった」
「マリア…だから、あの」
「わかったってば」
「…」
「ずっと前からわかってた」
「マリア」
「それでも、もしかしたらってさ…」
「…ゴメン」
「いいの」
「よくないよ、君にあんな…」
「…ドンヒってホント要領悪いんだから」
「…」
「この場は適当に言っておいて、うまい事付き合っていこうなんて思わないの?」
「…実はちょっとだけそんな事も頭をよぎった…」
「ほらね、正直すぎるでしょ?バカがつくくらい」
「あう…」
「他の誰かを思ってたってよかったのに」
「え…」
「気づかない振りしてあげた」
「あ…」
「でも、そんなドンヒが好きなのかな。下半身はちょっとだけ意思が弱いけど」
「う…」
「…ところでその誰かさん、ドンヒの気持ち、知ってるの?」
「さぁ、どうかな。わからない。今、ぐちゃぐちゃで最悪の状態さ」
「そう…」
「でも…途中で投げ出さないよ。見守るのが僕の使命って気がしてさ」
「使命?ふふ…ヘンなの」
「…ゴメンな」
「もう謝らないでったら」
「う…ん」
「愛を知って、愛を失った人は、愛を知らない人より美しい…」
「…マリア」
「どこかで聞いたな、こんなセリフ。…ねぇ、ドンヒ、もう少しだけこうしててもいい?」

マリアは目を閉じ、ゆっくりと僕の肩に頭を乗せかけた
マリアの香りが僕を感傷的にさせた
もう君に触れる事はできないんだね…
甘い後悔がなかったと言えば嘘になる
だけどこれが僕
どうしようもないくらい馬鹿野郎な僕…

「いつか、その物語りの結末…私にも教えてね」
耳元でマリアの声が聞こえたような気がした


千の想い 2 ぴかろん

夜、店に出た
スヒョンが映画に出るという事は薄々知っていたのだが
その映画にミンチョルも出るらしい
ミンチョルは映画の音楽をやるんじゃなかったのか?
スヒョンとミンチョルが映画で共演なんて
双子たちは大騒ぎだろう
そう思って注意深く双子を見ていた
やけに神妙な顔をしている
落ち着いているようにも見えるし達観したって顔にも見える…

何度か声をかけようとしたけど双子達は二人ずっとくっついていて入り込む余地がない
店が終わって外に出たとき、数m先にスヒョンの背中が見えた
とにかくスヒョンに話を聞こうと思った

「スヒョ…」
「イナ!」

俺がスヒョンに声をかけると同時に俺を呼ぶ声がした…
配達の時間も避けてた
電話の電源も切ってある
電話なんかかけてくるはずないけど、俺の心が揺れないようにそうしていた
なのになんで貴方は…

「…ヨンナムさん…。…どうしたの?」

避けたいのに避けられない
声を聞いたらどうしても振り向いてしまう
なんて意志の弱い男なんだ俺は…

「飲みに行こう」
「…え?」
「テジュンには許可貰った!いこっ」
「…。なに?何よ急に…」
「お前と二人で飲みに行きたいのっ」

ヨンナムさんは明るい笑顔で俺の腕を掴んだ
ヨンナムさんの触れた場所が一瞬にして熱くなる
俺の心臓はどくんどくんと脈を打つ

「…ふ…二人でって…。なにそれ…どういう…ことよ…テジュンに許可って…」
「だから…テジュンの許可があれば僕達二人で会っても構わないってお前も言ったじゃん♪行こう!お前と飲みたい♪」

俺はどうしていいか解らずその場から動けなかった

「何してんのぉ?」
「ああんもうラブったら、『油断禁物』に近づいちゃだめっ」
「うるさいなぁ…ねぇイナさん、どうしたの?困った顔しちゃってぇ」
「ラブ…あの…」

言葉さえも出てこない
俺の代わりにヨンナムさんが答える
二人で飲みに行くのだと…
ラブは俺の顔を覗き込みながら「いいなぁ~俺も行きたいなぁ~」と言った
俺は縋るようにラブを見た
ラブは小さく頷く

「ね、俺たちも一緒に行っちゃだめ?」
「…え…ラブ君とギョンジン君も?」
「何よぉぉ迷惑そうな顔ぉ…いいじゃん。ヨンナムさんと飲む機会なんて滅多にないしぃ」
「…でも」
「ラ…ラブも一緒だったら…テジュン、きっと安心する…」
「…イナ…」

ヨンナムさんが少ししゅんとなった…
そんなに俺と二人で飲みたかったの?
…それ…どういう意味よ…

「ちぇぇぇ…親友と二人で飲み明かすの…楽しみだったのになぁ…。でも…まっいいか。第一回目から二人っきりじゃなんだしな…」
「…ヨンナムさん…」
「…どうしたんだよ…なんか元気ないなぁ…。僕と飲みに行くの…イヤ?」
「…イヤじゃないけど…その…ほら…緊張しちゃう…」
「あは…。じゃ、やっぱし…残念だけど彼等も一緒で…それならいいか?」
「…あ…うん…」
「酷いなぁ、俺たちまるっきしお邪魔虫みたいじゃんっ」
「らぶぅぅ今日は早く帰ってさぁ…」どすっ☆「ううう…」

そんなわけで俺達四人は急遽飲みに行くことになった
スヒョンはとっくにどこかへ消えた

ヨンナムさんは最初屋台に行こうとしていたのだけど、ラブとギョンジンの提案で居酒屋に行く事になった
静かでもなくうるさすぎもしないその店は、仕事帰りのサラリーマンで賑わっていた
カウンター席しか空いておらず、俺たちはそこに一列に並んだ

ヨンナムさんの横になりたくなかった…
俺は席に座る前にトイレに行くと言ってラブに目配せをした

「ヨンナムさん、奥に行ってよ」
「え?僕が?」
「そ。その隣が俺でぇんでギョンジンでイナさん」
「…え…イナと離れちゃう…」
「いいじゃん!俺達とあんまり喋った事ないでしょ?」
「…まぁそうだけど…」

俺が席に戻った頃にはヨンナムさんはすっかりラブのペースに巻き込まれていて、ギョンジンはそんなラブの様子をじっと見つめていた
ふん…いつもならぎゃーぎゃー騒いで取り乱すのにな…何よ…カウンターの下で手でも握ってるのかな?
俺は少しかがんでそれをチェックした
でも二人の手は別の場所にあった…

「何してんのイナ」
「あ…ああ…お前らお手々繋いでるかと思って…ハハ」
「…座って…」
「あ…うん…」

やけに落ち着いているギョンジンの横に座る
なんだか久しぶりにこんなギョンジンを見るような気がする
それぞれが注文し、飲み始めた
ヨンナムさんを見ないようにしていた
ラブの笑い声が聞こえる
ラブがヨンナムさんにしな垂れかかっている
関係ない…気にするな…

「だからね…聞いてるの?イナ…」
「あ?え?」
「んもう…上の空なんだからぁ…お前とこんな風に話すの久しぶりなんだからさぁ」

ギョンジンが視界を遮るように俺の顔を覗き込む
閉ざされかかった隙間から、ヨンナムさんの視線を浴びたような気がした…

「気になるの?」
「あ…え?…なにが?」
「後ろの二人」

ギョンジンはラブたちに背中を向けている…
後ろの二人…つまりラブとヨンナムさんってわけだ…

「お前こそ…ダーリンがテジュンそっくりの男と仲良さそうにじゃれあってるのに取り乱さないの?」
「…んふ…僕はTPOをわきまえてるもん」
「は…」
「…このラブは…いいの…これで…」
「へ?」
「お前は…気になってるんだろ?二人が何話してるか…。教えてやろうか?」

そう言ってクイクイと人差し指を曲げるギョンジン
俺はヤツの口元に耳を近づけた
ギョンジンの手が俺の肩にかかる
グイッと引き寄せられて頬にキスされた

「んばかっ何やってんだよ!」
「ひーひーひっかかったぁひひー」
「アンタ…調子こいてたら後から酷いからねっ」
「何だよラブゥホッペにチューぐらいいいじゃないよぉ」

頬をお絞りでごしごし拭き、笑いながら俺は言った

「ったくぅ…お前のTPOって基準がわかんねぇよっ」

目の端に微笑むヨンナムさんの顔が見えた


「ねぇラブ君…そろそろ席替えしない?」
「やだ!まだ話したりないもん!」
「僕、イナと話したいんだけど」
「もう少しいいじゃん…イナさんまだ飲み足りないよぉ。それにさ、ギョンジンもイナさんと久しぶりにじゃれたいみたいだし…」
「じゃれる?」
「あいつ昔イナさんに惚れてたからね」
「…。そう言えば…テジュンがこっちに来た時、君が一緒に…だったよなぁ…」
「うん…」
「…どうなってんの?君たちの関係は…」
「あれ。詳しく聞いてない?」
「薄々は解るけど…詳しくは…」

俺はヨンナムさんに事の次第を話して聞かせた
話しながらヨンナムさんのグラスにどんどん焼酎を注いだ
この人結構強いな…どうしようなぁ…
酔い潰して三人で家まで送って行こうと思ってたのにな…

イナさんはどうなんだろ…
ギョンジン頓珍漢な事してないかな…

俺は三人に気を配りながら俺達四人の関係を説明し続けた


「なんでこのラブには取り乱さないの?」
「ぅふ…解るから…」
「何が?」
「ラブの考えてること…ぅふ…可愛いんだからぁもうっ」
「…さっぱり解んねぇなぁ…」
「で?お前としてはどうしたいの?」
「え?」
「…ヨンナムさんとお話しなくていいの?あの人お前と飲みたがってたでしょ?」
「…ぁ…ぅん…」
「…変に避けてるねぇ…」
「…そんな事…」

ギョンジンの言葉に答えられなくて俯いていると、ラブの声が聞こえた

キスしよぉよぉ

ギョンジンが振り向く
ヨンナムさんの首に腕を巻きつけて唇を尖らせている可愛いラブの顔が見える
頭に血が昇った
…いやだと…思った…

ちょっとトイレ行ってくる…
ああんヨンナムさん逃げちゃやだぁ…

席を立ったヨンナムさんは、後ろを通る時に
俺の背中をポンと叩いてトイレに向かった
俺の体は音を立てて崩れそうだった…

「ラブぅやりすぎ」
「えっへっへ…だぁってあの人ちっとも酔わないぃ」
「…お前…随分飲んだ?」
「ひくっ…なんか…飲ませるつもりが…ドンドン注がれちゃってあはっ…ふぅぅ…暑ぅい」
「…ここで脱いじゃだめだよ…」
「ああんギョンジ~ン…キスしよぉぉ」
「したいけど後でね」

酔っ払ったラブを優しく嗜めているギョンジンは、いつものくねくねギョンジンとは全然違う…

「随分かっこいいじゃんギョンジン…」
「そう?」
「惚れちゃいそう…」
「いつでも受け入れるよ」
「…ばーか…」
「何がばか?」

俺の両肩にポンと手を置いたヨンナムさんが、後ろから俺の顔を覗き込んだ
息が止まるかと思った
笑いながら俺の横に座るヨンナムさん…

「やっと隣に来れたぁ…。カレほんとに突っつくねぇ」
「…え?あ…ああラブだろ?…」

口がからからに渇いて、俺は一気にグラスの酒を飲み干した


千の想い 3  ぴかろん

「ラブ…もう帰ろうか」
「だぁめ…二人にしちゃだぁめ…。ヨンナムさんをぉさんにんでぇ送って行くのぉ」
「…どうして?」
「どうしてもっ!」

ずだだん…

ラブが椅子から転げ落ちそうになり、ギョンジンがすっと支えた
かっこよかった…

「ああもう…お前店でも結構飲んでたんだから…もうダメだよ…ほら、掴まって」
「あん…ギョンジンのぶぁか…」


「ラブ君出来上がっちゃったかな?」
「…珍しいな…あんなに酔っちゃうなんて…」
「僕に随分気を遣ってたみたいだよ」
「…」

立ち上がったラブとギョンジンを見上げて俺は言った

「帰る?」
「うん、僕達はね。イナはヨンナムさんとゆっくりしておいで」
「え…そんな。お前ら帰るなら俺も」
「全然話してないじゃんお前…」

冷静なギョンジン、その腕の中で暴れているラブ

「だぁめっギョンジンっおれもまだのむぅぅヨンナムさんとのむぅぅきすするうう」
「ギョンジン、俺」
「イナ、まだいいだろ?」

縋るように発した言葉をヨンナムさんが掻き消す…

「あ…でも…」
「じゃあな、イナ」
「だぁめぇギョンジンのぶぁかぁ」
「あ…ちょ…ちょっと…」

店から出ようとするギョンジン達
それを追おうとした俺の腕を強く掴むヨンナムさん

「帰らないでよ…寂しいじゃない」
「…。あ…。あの…。ちょっと…心配だから…見てくる…」
「戻ってきてよね、これ預かるから」

ヨンナムさんは背もたれに架かっていた俺の上着を掴んだ
俺は返事をせずに二人の後を追った


「お前、ヨンナムさんといなさいよ」
「だって…」
「ギョンジンのぶぁかっなんで帰るんだよぉっ」
「ラブがぐちゃぐちゃになってるから。これ以上飲んじゃだめ」
「ぃぃんおせっかいじじいぃぃ」
「ギョンジン…俺も帰る…」
「お前は」
「なに」
「ちゃんと自分の気持ちと向き合いなさい」
「…」
「お前一体どうしたいのか解んないよ」
「…え…」
「友達でいたいのか、踏み込みたいのか。中途半端だよお前」
「…」
「だからちゃんと彼に付き合いなさいよ最後まで」
「…ギョンジン…」
「じゃあね」

ギョンジンはぐでぐでのラブをつれて歩き出した

「ああんタクシーに乗んないノォ?」
「こんな状態で車に乗ったら悲惨な事になる!」
「いやぁぁんおんぶぅぅ」
「もうちょっと正気になってから!」
「ああん意地悪ぅきらいだぁじじいぃぃ」

二人の後姿を見送って俺はまたヨンナムさんのところへと戻った
自分の気持ちと…向き合うって…
俺…してるよちゃんと…
この人とは…友達って…
そうだ…友達なんだって…俺…決めたんじゃないか…

唾を飲み込んで笑顔を作り、ヨンナムさんの隣に腰掛けた
ヨンナムさんは俺の顔を見て安心したように笑った

「よかったぁ戻ってきてくれて…」

突き刺さる
自分の棘が
でも俺は
泣いちゃいけないんだ…
泣いちゃいけないんだった…
そう決めたのは
俺だったんだ…


「ぶぁか…ギョンジンのぶぁかぁぁ」

泣きじゃくるラブを抱きしめ、バス停のベンチに腰を降ろした

「イナさんが…イナさんがぁぁ…」
「よしよし…」
「よしよしじゃねぇよっほっといちゃだめなんだよぉイナさんが…」
「ほっときなさい」
「ぶぁかっぶぁかっひっくひっく…イナさんがっひっく…」
「イナ、ヨンナムさんのこと…好きなんだろ?」
「うぇっ…ひっくひっく…」
「なんで隠してるのかな?祭りの時はエンジン全開だったのに…」
「えっえっ…」
「ま…なんか理由があるんだろうけどさ…あれじゃあまりにも挙動不審だよ…」
「ええんええん…」
「お前も全く…挙動不審…」
「ぶぁかっぶぁかっ…」
「…よしよし…いい子だね…ラブ…」
「おっおれ…なんのやくにもたたない?おれ…いなさんのために…なんにもできない?」
「できたじゃないか…飲みについてきた」
「…でもっでもっ…」
「いいんだよ…なるようにしかなんないんだから…」
「…でも…」
「いいんだよ…イナに任せておけば…イナにしか解決できないんだからさ…」
「…ええっええっ…ギョンジン…ギョンジン…」
「ん?」
「ぎぼぢわるい…」
「げっ…」

近くの植え込みに走りこみ、えづくラブの背中を擦る僕…
はぁ…またやっかいな事に首突っ込んであの馬鹿…
…ほんとに…馬鹿…
なんでまたあんな『油断大敵』に油断するかなぁ…イナ…


レイニーブルー by イナ れいんさん

琥珀色のグラス 揺れる瞳
涙濡らして 心震えて 
かけ慣れたナンバー
見つめながら
ふと指を止める

哀しい夜に 抱かれがなら
哀しい物語 想い出した
あなたとの秘密の場所
つのる想い 心隠して

※rainy blue
もう終わったはずなのに
rainy blue
なぜ探してしまう
あなたの面影 消せなくて
今宵もあなた 想ってしまう※

かわした口づけの あのときめき
俺の肩を 抱きしめて
物憂げな 声とまなざし
目を閉じれば 浮かぶ

rainy blue
もう終わったはずなのに
rainy blue
ただの友達でいたいのに
今宵もあなた 想ってしまう

※くりかえし

 長い指 触れたこの頬
 忘れられない この想い
 俺の心 満たしてく

it's a rainy blue
it's a rainy blue
揺れる心
濡らす涙
it's a rainy blue
loneliness

(レイニーブルー / 徳永 英明 )


千の想い 4 ぴかろん

俺は『友達』と飲んでいるのだ
時々突き刺さる棘は、自分の棘だから痛くても我慢できる…
ヨンナムさんは嬉しそうに話をした

僕ね、夢があるんだ…
あのね…困った人を助ける仕事、やりたいんだ…
あのねあのね…例えばさ…カギをなくしちゃった人の家のカギを開けるだとか、水回りで困ってる人を助けるだとか…それからパソコンのトラブルでしょ?自動車やバイクの故障を直すことでしょ?庭の手入れ、エアコンの掃除などなど…
そういうのでさ、困った事が起きたときにさ、電話して貰ってね、そしたら24時間365日いつでも駆けつけるって商売…
水の配達やってるときもいろいろ頼まれる事が多くてね、ほんのちょっとした事で困ってる人って多いんだ
そういう人を助ける会社やりたいの…どう思う?

ヨンナムさんはキラキラした瞳で俺に語りかけた
その煌きを見ることができただけで俺に刺さってた棘は消えてなくなる…
俺は友達…だからこんな事も話して貰える…
辛くなんかない…側にいられる…
辛くなんかない…

「鍵かぁ…。そういやぁホンピョさぁ…金庫破りできるんだぜ。鍵なんかチョロいんじゃない?」
「ほんとかぁ?!じゃ、第一号採用決定」
「あは…あはは。パソコンだったらドンヒだ。なんつーの?ゲームのプログラマー?そういう事やってたからさ…」
「おおっ僕いい人脈つかんだなぁ第二号採用決定だ」
「自動車ならドンジュンだろ?バイクに詳しいのは…シチュンにチェミさんにmayoさん…、庭の手入れは…」
「それは僕が得意」
「ん…そうだね。でもスハ先生やテジンも得意だよ。テジンなら家具の修理とかもオッケーだしスハ先生も家庭教師とかできるよな
…エアコンの掃除…掃除って言ったらウシクだな!」
「うわっ…僕BHC買収しようかなぁ…」
「あは…」
「そういえばソクさん、ウチの引き戸直してくれたなぁ…。探し物とか得意そうだし…科学的な捜査なんかしてくれそう…」
「スヒョクはぁ…やっぱ護衛かなぁ…あと、喧嘩の仲裁とか任せてみてもいいかも
んでテソンは出張料理とか弁当とか…ひひ…また料理人かよって怒りそう…
テスとジュンホ君はほら、あれだ…アニマルセラピーみたいな…くふ…ああ怒られるよなぁその喩えだと…
でもあの二人は絶対人の心を癒してくれる存在だからな…」
「テプンさんはちょっとしたストレッチなんか教えてくれそうだし、野球チームの臨時助っ人とかね
ジホさんなら記録映像お任せできるなぁ…結婚式とか記念式典とかの…
ソヌさんはぁ…」
「くふふ…ぼーりょ○団対策におひとつどーぞってか?あはは」
「あはは。そりゃ適任だぁ」
「報酬はチョコレートでOKだしなっくはは」
「いいなぁ安くつく!…ギョンジン君は?」
「あいつはぁ…元スパイだけどなぁ…うーん、それよりご婦人のデートの相手、もしくは浮気調査員、もしくは浮気の囮捜査員とかのが向いてそう…ひーひー」
「じゃ、スヒョンさんは?」
「スヒョンも人を癒すセラピストかな…でもご婦人専門…くひゃひゃひゃ」
「ジュンホ君とテス君は老若男女問わずなのに?!ひーひー」
「そーそー、んでチョンマンはぁ宴会盛り上げ係…あ…テプンもそれできる!」
「楽しそう!」
「でぇギョンビンはぁ…ギョンビンはぁ…ぷぷっ」
「なになに?」
「ひーひーきっきっ…キツネの調教師…ひーひー」
「ぶはっ」
「それとっ…我儘で高慢ちきな子を手なずける家庭教師ひーひーひー」
「怖そうっ」
「イヌ先生はそうだなぁ…大人のための文学講座なんかの講師どうよ…」
「うんうん…。ラブ君は?」
「ラブなぁ…。…あいつさぁ…結構一発芸持ってるんだよ…ナイフ投げとかナイフタンタンとかタバコに火をつけたまま口の中に仕舞い込むとか…
あと散髪もうまいな…」
「散髪?」
「うん…免許なくちゃだめかな?あとそうそう、新人にさ、設計士がいる!ソグってんだけど臨時現場監督とかできるぞ。構造計算書の確認なんかどうよ…今話題だろ?耐震強度とかナグリ振り回して調べるぞアイツ…ククク
それと医者の新人もいるぞ。ビョンウってお喋りだけど若くてかわいいの…。胃が専門とか言ってる
それと小説家のジョンドゥってのもいるな…作文の指導なんていいじゃんひひっ。それにこいつ薬屋もやってるから薬の調達ならオッケーだ…」
「ミンチョルさんは?」
「ミンチョルは…。ミンチョル…。うーん…。あいつは…。人を困らせる事は得意だけど、困った人を助けるのは不得意そうな気が…」
「ひっどぉい」
「…うーん…。しいていえば…うううーん…。じっと見つめてくれって人を見つめてあげる…かなぁ…」
「ほかにもあるでしょう?」
「ないない」

ああ…こんな楽しい会話ができる
俺は『友達』という壁を心に塗り固める

「じゃイナは?」
「…俺は…俺はぁ…」
「前に言ってたじゃない、左官業ならお任せだって…」
「あーん…でも…随分やってないから…。俺は…採用されないだろ?へへ…」
「だめだよ。イナは無条件で採用だ」
「…」
「僕の片腕になってもらおーっと…ははは」
「…」
「ん?」

友達…だから?
優しい微笑みが乾きかけた『友達』の壁に亀裂を走らせる
急いでひび割れを直す俺

「は…はは。すごい夢だね…」
「うーん、何よりもBHCを買収するのが難しそうだなぁ…」
「BHCでその事業始めないかってオーナーに言ってみようかなぁ…」
「じゃあ僕社長に就任するよ」
「だめだよ…そんなのオーナーが許さないさ」
「ゴマすりにいくよぉ」
「だめだって」
「じゃ、イナが社長でさ。僕が影の社長。で、僕がイナを操るの…フフフ」
「…ふ…ふふ…」

俺の名前がその唇から飛び出すたびに、俺の心臓は止まりそうになる
ニトロを飲むように俺は唱える
『友達だ…友達だ』
意識しなければいい…こんな楽しい会話ができるのだから…

ヨンナムさんの夢…
ヨンナムさんらしい夢…
俺は…無条件で採用…それは
…友達だからだ…

遅くまで飲んだ
ヨンナムさんは上機嫌でかなり酔っている
俺達はタクシーに乗り、あまり酔っていない俺がヨンナムさんを先に送ることにした

タクシーの中でヨンナムさんは眠ってしまった
ヨンナムさんの家に着いても起きない
仕方なく俺も一緒に降りてヨンナムさんから鍵をもぎ取り、戸を開けて部屋へ運んだ

「ちょっと待ってね、布団敷くから…」

壁際にヨンナムさんを座らせて布団を敷く
布団に転がしたら任務完了…
友達の時間も完了できる…
テジュンは…出張だ
泊まりなのかな…それとも日帰り?
それも知らないなんて俺…

二階に声をかけたけど誰もいないようだ
物音一つしない…

「ヨンナムさん…布団敷いたよ、ほら、布団に寝なよ。ねぇ…誰もいないの?」
「んぁ…いなぁ…ひひーん…もっと飲むかぁ?」
「飲まないよ…ほら…布団に寝なさいってあっ…」

グデングデンのヨンナムさんを引きずって布団に寝かせた拍子に、俺はつんのめって一緒にひっくり返った

「ふへん…イナぁ…一緒にねよぉ…むにゃむにゃ…」
「…ふ…」

ずきずきする心を奮い立たせてヨンナムさんに布団をかけてやる
こけた時に落っことした携帯電話を拾いあげ、立ち上がって帰ろうとすると、強い力で腕を掴まれた

「…帰らないでよ…」
「…ヨンナムさん…」
「寂しいんだ…」
「…ヨンナムさん…」
「…ここにいて…どこへも…行かないで…いかないで…」

寂しそうな瞳に涙が光っている…
俺のからだの熱で、乾いた壁がパラパラと崩れそうになる

「…ヨンナムさん…帰らなきゃ俺…」
「いやだ…そばにいて…眠るまででいいから…」

俺はヨンナムさんに掴まれた腕を振りほどく事ができなかった
ヨンナムさんの横に座り込み、ヨンナムさんを見つめる
そんな俺を見て安心したように微笑み、ヨンナムさんはすうっと目を閉じた
やがて規則正しい寝息を立て始めてヨンナムさんは眠った
…帰らなくてはと思いながらその場から動けなかった
もう少し…もう少しだけ見つめていたい…
ヨンナムさんの寝顔がぼやける
掴まれたままの腕が痺れる

ごめんテジュン…
少しだけ…少しだけ…いいだろ?

俺はヨンナムさんの側に身を横たえてその顔を見つめていた
気持ちが安らいだ
視界が暗くなった…








© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: