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ぴかろんの日常
リレー企画 197
千の想い 48 ぴかろん
どうしたんだ僕は
今になってどうしてこんなに混乱しているんだ
僕はきみに話しかけてはいけないの?
きみはもういないのだから
答えてはくれないのだから
歩き出さなくてはいけないのだから
解っているのに
どうして足が動かない?
この子はきみじゃない
きみはもういない…
寂しくてたまらない
どうしてあの時、僕はきみを追いかけて抱きしめなかったのだろう
今更何を言ってるんだ
もうどうしようもない事なのに
僕は可哀想なこの子を助けてあげたいのに
この子の事を考えていたのに
どうして僕は
僕がまだ
ふわふわと漂い続けている事に
気付いてしまったのだろう
僕は一体どうしてしまったのだろう
僕は一体どうすればいいのだろう
貴方は俺の胸に顔を埋め、声を殺して泣いている
『俺を見て』だなんて過ぎた望みだ
こんなに揺れている貴方に
『俺を見て』だなんて酷な注文だ
貴方のためにと言いながら
俺はやっぱり俺のために動いていたんだ
貴方もテジュンも欲しかったから…
ねぇ
両方の望みを
叶えようか
貴方と俺と両方の…
「…いいよ…」
縋りついた胸が言った
穏やかな声だった
僕は顔を上げて彼を見た
深い色をした瞳が宙を見つめていた
「…イナ?」
「…いいよ…最後だ…」
「…なに?」
「…最後のごっこ遊びだよ…」
「…ごっこ遊びって…」
「貴方はテジュン…俺は『彼女』…」
「…イ…」
「お互いに…そう思えばいい…」
「な…」
「貴方が彼女にしてあげたかった事をして…」
なにを…
お前は彼女じゃないのに
どういう意味だ
何をしろと?!
混乱する僕の首に腕を巻きつけ、彼は深くくちづけする
待って
僕はテジュンじゃない
僕達は友達で…
そっと唇を離し、僕の目を覗き込むイナ
その深い慈悲の色
どこかで見た慈しみの瞳
『あなたはすごいひとだよ…ヨンナムさん…』
僕の鎧を壊したときの彼の瞳
そして…
あの時の彼女の瞳
僕の胸で泣いたあの時
抱きしめつづけた僕に
唇を寄せてきた
僕ときみは友達だから
テジュンを裏切るわけにはいかないから…
ごめんね、きみの唇には
触れたいけど触れちゃいけない
どうしても受けることができなかった僕
『あなたは素晴らしいひとよ…』
僕は…なぜ…きみの想いに…気付かなかったのだろう…
いつもきみばかり見ていたのに
なぜ勇気を出せなかったのだろう
ああ…
あああ…
深い色の瞳に吸い込まれるように
僕はその人にくちづけをする
僕は過去へと飛んで行く
今を生きて行くために
僕はあの日に戻って行く
きみに
僕を求めたきみに
接吻するために
あの日を悔いた自分と
訣別するために…
貴方が歩き出せるように
俺が前に進めるように
俺達二人の
望みを叶える
それは許されない事かもしれない
でも
俺はここから踏み出したい
貴方を置いたまま行けないから
貴方も道連れにするよ
貴方にとって俺は『彼女』でも
俺にとって貴方は『貴方』だ
最後まで嘘ついてごめんね
俺は欲張りだから
きっとバチがあたるよね
貴方の接吻が
熱くて
貴方への想いが
苦しくて
これ以上耐えられそうにないから
俺は俺を壊すよ
そしてもう一度生まれ変わる
そうしなきゃ…そう…しなきゃ…
その唇に何度も接吻した
深く繋がりたくてきみの舌を捉えた
絡みつく僕達の唇
ああ…
こうしたかった…
唇を離して見詰め合う
彼は潤んだ瞳で僕を見る
僕は少し躊躇う
お前は…イナじゃないか…
この子は…イナじゃないか…
彼の頬に唇を落とし滑らせる
僕は彼の耳朶を噛み舌を這わせる
彼は吐息を漏らし僕の下で震える
ああ…
こうしたかった…
唇がきみの首筋を這い、僕の指はきみのシャツのボタンを外す
きみは僕の髪に指を入れ、僕をそっと抱きしめる
僕の髪に接吻し、小さな声を漏らす
僕の唇はきみの、シャツに包まれた肌に触れることが怖くなり
きみの喉を這い登って
もう一度きみの唇を捉える
僕の接吻に応えるきみ
「…ヨンナム…」
きみの声が唇から漏れた
熱い吐息とともに
僕の名を呼んだ
堪らなくなって
僕と僕の唇はきみの肌に触れた
きみが小さく喘ぐ
きみの肌に夢中でくちづける
きみの指が
僕の服をはだけさせ
僕達は初めて
からだを触れ合わせた
温かい
僕はきみを抱きしめた
ああ…
あああ…
こうしたかったんだ…
お前は僕の下で震えている
僕の背中に腕を回し
短く息を吐きながら
僕にしがみついている
僕達は震えていた
ただこうして触れ合うだけのことに
怖れと喜びとを感じている
お前は
「…イナ…」
ヨンナムさんが俺の名を呼ぶ
俺達ははだかの胸を触れ合わせ
ぬくもりを感じあっていた
ヨンナムさんが俺の名を呼んだとき
俺は終わった事を感じた
ゆっくりと離れて行くヨンナムさんの胸
目を開けるのが怖かった
貴方はどんな顔で俺を見る?
蔑むだろうか
憐れむだろうか…
堅く閉じていた瞼を
俺の好きな長い指で撫でる
柔らかくなった瞼に
俺の好きな唇で触れる
その唇で俺の瞼を開けようとしている
俺は少し笑って
ゆっくりと目を開けた
優しい顔が俺を見つめていた
瞳が涙で濡れていた
「…ありがとう…イナ…」
「…いいの?これだけでいいの?」
「…ありがとう…十分だ」
「…ほんとうに?」
「うん…やっと…終わりにできそうだ…」
俺の胸に彼の涙が落ちる
そうだ
これで終わりだ
貴方の恋も
俺の恋も
もうこれで
ざざざざざざ…
俺達は微笑み合った
ひとしきり笑って、ヨンナムさんは俺を抱きしめた
大好きだよ…ありがとうイナ…
そう言ってまた泣いていた
俺はもう
切なさも悲しさも感じなかった
だけど涙は流れていた
そうやってくっついているうちに
俺達はそのまま眠ってしまった
きみを今でも愛している
きみがいなくなってから
空から降ってくる雪は
ぼくの悲しみなのだと思った
きみがいなくなったことを信じられなくて
ぼくはずっとさまよっていた
きみを抱きしめて、離さなければよかったと
何度も何度も思った
『もしも何年か経って…
君の気持ちが落ち着いたら…
会いに行ってもいい?
それまで…君を想っていてもいい?』
ありがとうと言ってくれたきみ
約束は叶わなかったね
きみの想い出は眩しくて
色褪せることなんてなかった
もっと傍にいたかった
もっと一緒にいたかった
忘れない
ずっとぼくの心の中で
きみは咲いていて
忘れない
きみのぬくもりを
他の誰かを愛したとしても
きみの
最後の笑顔は
誰にも消せない…
きみを今でも愛している…
ふと目を覚ました
すぐ傍にイナがいた
今見た夢を思い出した
何度か見た夢だった
最後はいつも
想い出を抱きしめたまま消えてしまいたいと
そんな風に終わっていたのに
『きみをもう一度、強く抱きしめたい』
その願いを叶えてくれた人が隣にいる
彼もまた
何かから抜け出たような顔で
眠っている
「…ありがとう…イナ…」
その寝顔に囁いた
千の想い 49 ぴかろん
ガイドブックを何度も見直した
明日行く場所はもう決めた
そこへ行ってホテルに戻って
それからどうするのか…
ソウルに帰る?
イナのところへ?
イナと…ヨンナムのところへ?
その気があるのなら奪えばいいと、僕はヨンナムに言った
その気がないのなら手を出すな
お前はイナの中に彼女を見ているのだから
でもイナは…
きっとイナは…
ヨンナムに自分の想いを知られたくないのだろう
ヨンナムと僕と彼女の関係を知っているから
イナまでが彼女と同じように
僕からヨンナムへ想いを移したと
それをヨンナムが知ったら
ヨンナムが傷つく
そして僕も傷つく
イナは知っている
そうなる事を知っている
だから自分の気持ちを押し隠したままでいる
気の毒にな…
お前何度もヨンナムから離れようとしていたのに
僕達二人は
お前を縛り付けて
まるで罰を与えるように
ヨンナムの前に差し出した
ああどうしてヨンナムなんだ…
どうしてヨンナムなんだイナ…
お前までが僕よりも
ヨンナムを求めるなんて…
取り戻せない時間を
どうすればいいのだろう…
明日行く場所は決まっている
そこへ行って僕は何かを見つけられるだろうか…
朝目を覚ますとすぐ傍にイナが座っていた
呆けたようにシャツの前をはだけて
ペタンと床に座っていた
僕は起き上がって自分の衣服を整え
それからイナの前にかがんでイナのシャツのボタンを留めてあげた
イナはぼんやりと僕の顔を見つめ
それから意識を取り戻したように目に光を宿らせた
イナは口をぎゅっと結んで微笑んだ
その微笑がやはり彼女に似ていると思った
「ありがと」
静かにそう言ってまた微笑んだ
今度はイナの微笑みだった
僕もまたイナに笑いかけた
「ヨンナムさん、朝飯…食いに行かない?」
微笑んだイナが口を開いた
どこへと問う前に彼は立ち上がって僕に手を差し伸べた
僕はイナを見上げた
何かが変わった
僕の中の何かと
イナの中の何かが
僕はイナの手を握り、イナは僕を引き上げた
そして僕はイナと並んで街中を歩いた
BHCに程近いその場所に
イナは僕を連れて行った
イナに言われて水のサンプルを持参した
「これが賄賂なんだからさ」
そう言って笑うイナが眩しかった
腰高窓から中を覗き込む彼は
昨日までのイナのようでもあり
そうでもないような気がした
中にいるらしい人に何か言われ、僕を振り返ると手招きした
裏口からガレージのようなところに入ると「みゃぁぁぁあ」という猫の鳴き声がした
イナは慣れた様子で猫の相手をしている
野良猫と飼い猫がじゃれあっているように思えた
それからその飼い猫に案内されて階段を上がった
「おはよーなんか食わせてよぉ」
「なんだよ、また来たのかよ!」
「お前こそなんだよ…ここんとこ入りびたりじゃないの?」
「だぁってぇん…可愛いし美味しいんだもん、ココ」
ラブ君がいて、ご飯を食べていた
ここはBHCの連中の溜り場なのだろうか…
「お前一人なの?」
「うん」
「ギョンジン連れてきてやれよ」
「やだ!」
「かわいそうじゃんか」
「あいつの日記読んだら…腹が立って腹が立って」
「お前…人の日記盗み読みするなよ!」
「盗み読み?!は!知らないの?あいつブログに日記公開してんだよ」
「…ぶろぐってなんだよ…」
「…イナさん、ここのブログのBBSにカキコしてたじゃん」
「は?なに?」
ラブ君が連発したヨコモジに、イナから「?」がポコポコと飛び出した
僕にはその「?」がイナの頭の上にふわふわと浮いているのが見える…
クスクス笑っているとテスさんがにっこり笑って近づいてきた
「ようこそ『あやかしの館』へ」
「…あやかしくないけどなぁ…健全そう…」
「一応ね。でも住んでる人がみんなあやかしい…」
「そうなの?」
「うん。この猫、はるみっていうんだけど…一番あやかしいんだ」
「んみゃぁん…」
猫のはるみちゃんは僕をうるうるした瞳で見つめ、身をくねらせて顔を背けた
「あれ…僕、嫌われたかな」
「ううん反対。照れてるみたいよ」
「そう?」
「『正統派』の流れを汲む人だからかなぁ…」
「は?」
「座って待っててくださーい。チェミ作のパンをご馳走しまーす」
僕とテス君が話している間に、イナはラブ君となにやらヒソヒソ話し込んでいる
そしてラブ君は突然イナの唇にチュッとキスをした
まるで小鳥のようなキスだった
あの小鳥…『ラブ』って名前の方がいいのかな
でもアイツは僕を突くんだもん…やっぱし『イナ』だよね…
ラブが来てるとは思わなかった
ヨンナムさんを見てどう思ったろう
案の定突っ込んできた
「テジュンは?」
「昨日帰らなかった。まだ済州島だ」
「…。で、なんでヨンナムさんとここへ?」
「昨日泊まったから」
「…どーなっちゃったの?やっちゃったの?」
茶化して聞いてきたけど目は真剣だ
もしそうなってたら許さないとでも言うような…
「やりかけ…」
「やりかけぇ?!P-phoneでもかかってきたの?!」
「は?」
「やりかけってことはどの辺まで…」
「…やってねぇよ!ばか」
「でも何かしたんだよねっねっ」
「ばか!」
「どうするの?テジュンは」
「今日は帰って来るはずだ」
「…」
「心配いらないよ」
「…」
「なによ」
「なんか…変だな…イナさん」
こいつは時々鋭いから嫌なんだ
絶対あの小鳥の名前は『ラブ』だ!
「じいいいいぃ」
「なんだよ」
「…イナさん…」
昨日の夜、ヨンナムさんとの間に何かがあったんだ
本当に友達になったのかな…妙にすっきりした顔をしている
五歳児だったイナさんが、あのバカの言うように十歳になり、今朝は十五歳ぐらいになってるみたいだ
何だろう…
落ち着き払って堂々としているイナさんだけど、チョンと突いたら塵になって消えそうにも思える
何か決めたのかな?
そういう時のイナさんは
どっしりしているのに脆いんだ…
ずっと苦しんでいた事を乗り越えようとしている?
そう?
落っこちたらどうなるか解んないような断崖に突っ立ってるイナさん
落っこちないで
踏ん張って
乗り越えてよね
お願い…
貴方のためにもヨンナムさんのためにも
そしてテジュンのためにも…
俺はじっとイナさんを見つめ、それから唇に軽くチュッとキスをした
イナさんは可愛い丸い目をして俺を見た
だから何回もチュッチュしちゃった…
可愛いんだもん
朝飯を食った後、和んでいるヨンナムさんを二階に残して
俺はチェミさんのところに行った
チェミさんは俺の顔を見るなりニヤリと笑い顎で調理台を指した
俺は手を洗って粉を捏ねる
「ふっ切れたか」
「え?」
「…んー…まだか…」
「…」
「かなりふっ切れたように感じるがな、無理はするなよ。涙が混じるぞ」
鋭いんだから…もう…
俺はかまわず粉を捏ね続けた
実際半分はふっ切った
無理矢理だけどね
あとの半分は…テジュンが帰って来てからだ…
俺は決めていた
テジュンに全て話そうと
全てを聞いてテジュンがどうするか
それはテジュンに任せようと思う
俺の気持ちは
俺の気持ちは…
少なくとも宙に浮いたままじゃない
浮んでいた一つの気持ちを
引っつかんで抱きかかえた
俺の中にそいつは納まってくれたと思う
「手が止まってるぞ」
「あ…はい…」
「んで?昨日のパンはどうだった?」
「…ん…」
「ヨンナムさんと食べたのか?」
鋭いんだからな…もう…
「そういうのまで覗き見すんのかよ!」
「ああ、そこかしこにスパイがいるんだ」
「…怖ぇよ…」
「くはは…。お前が大胆な事するからだ」
「なにが…」
「解ってるだろう!」
「…うん…」
「この野郎…。詳しく話せよ!詳細までは解らんのだから!」
「…。ふん。なんにもないよ」
「嘘つきめ!まあいい」
捏ね終えて発酵を待つ間、昨日ヨンナムさんが出してくれた『こどもぱん』のアイディアをチェミさんに話した
チェミさんはひーひー笑いながらその案に花丸をくれた
「そりゃ面白いひーひー。あの男中々やるな」
「だろ…」
「お前が惚れるだけある」
「しいっ!」
「…あーこほん…すまん」
「ったく!口軽いよチェミさんは!」
「すまん…」
「で?」
「でって?」
「面白い情報は無いの?」
「あー…けほ…あれか?お狐様関係か?」
「…ん…」
「…ラブ様に聞かなかったのか?」
「え?」
「ギョンジンの醜態だ」
「なにやらかしたの?」
「あいつの日記を読めば解る」
「ラブにも言ってやったんだけどさぁ、人の日記盗み読みするのってよくないんじゃねぇの?」
「…あーだから…それは…」
「だめだよ。覗き見だの盗み読みだの…道徳的にマズいぞ」
「だから…今度説明してやるからもう…」
俺は困り顔のチェミさんを睨んでやった
それから発酵の出来た生地をヨンナムさんの案を元に色々と弄繰り回した
二次発酵を待つ間、そのパンの出来に俺とチェミさんは腹を抱えて笑い転げた
昨日の夜もmayoさんとテスが『こどもぱん』の売り出し方についてえらく盛り上がっていたと聞いた
「鳴り物入りで売り出すんだからお前、本腰入れて粉を捏ねろ。雑念を払え。ん」
「ん」
「くぉら!真似するな!」
「だって狐情報教えてくんないんだもん!」
「あー…じゃあ…。けほん…聞け」
「やった!」
チェミさんは咳払いをすると目尻に人差し指を持って行った
俺は「待ってました」と声をかけ、盛大に拍手した
「『そういうもの食べちゃダメでしょ!』『だってあれは僕の親友が』『また作ってもらえばいいじゃない!映画撮る間の辛抱だよ!そんな短い間も我慢できないの?情けないね!』『…』『なにその目』『…おにいさん…ぜんぶたべたのかな…』『2つ僕が頂きました!貴方の代わりにね』『しょんな酷いっ』『…いいよぉ。食べてもぉ…。3倍のトレーニング量こなすならねっふんっ』『ぐぅ…』…以上!」
チェミさんは目尻を吊り上げたり前髪を垂らしたり涙目になったりしょぼぼぼーんとしたりと大忙しだった
「最優秀技術男優賞あげるよひーひー」
「おうっ!」
俺は涙を流して笑い転げた
ここに来るとどうしてこんなに楽しいのだろう
ひーひー笑っていたとき、工房の隅のドアの隙間から『恨みがましいタレ目』と『興味津々のタレ目』が覗いているのをみつけた
「チェミいい酷いよぉイナさんといちゃつくなんてぇぇ」
「なな…なにもいちゃついてなんか…」
「ひどぉいひどぉい」ぱこぱこぱこ
テスがヤキモチを妬いてチェミさんの厚い胸板にくりーむぱんちしていた
興味津々のタレ目の主は、「楽しそうだな」と言いながら俺に微笑んだ
…ごめん…
簡単に『友達レベル』には落とせない
その優しい顔がやっぱり好きだよ
だけど
もういい
「ヨンナムさん、チェミさんにサンプル渡して」
「あ…うん」
水のボトルを渡すヨンナムさんをチェミさんは目尻を下げて見つめた
ヨンナムさんはちょっと戸惑ったような顔をして「よろしくお願い致します」なんて深々と頭を下げた
千の想い 50 ぴかろん
朝になって僕は朝食も取らずに出かけた
向かった場所はソプチコジ
イナが住んでいた場所だ
小高い丘を歩いて登った
こんな風の強い場所に家を?
確かに眺めはいいけれど
僕は海を見下ろしながらイナの顔を思い浮かべた
ばかだな
ロマンティストだよなお前も…
それで…家が飛んじゃったって?
くふ…
ふふふ…
笑いがこみあげてきた
僕はその笑いを止められず
ついに腹を抱えて笑い出してしまった
笑いながら涙を流した
「ハン・テジュンシ~」
遠くから僕を呼ぶ声がした
驚いて周りを見渡してみると
岬の端に危うげに立っている修道院の方から走ってきた誰かが手を振っていた
よく見てみると、あの、ユンヒに似た彼女だった
「はぁはぁはぁ…どうしたんですか?」
「どうしたって…貴方こそこんなところで…」
「はぁはぁ…私…あの修道院に住んでるの」
「…え?」
「はぁはぁ…」
息を整え、深呼吸をし、僕を見てにっこり笑う彼女
僕が眺めていた丘を指差して
「ここにも住んでいたのよ」
と彼女は言った
それで僕はやっと、彼女がイナの別れた奥さんだったのだと解った
会議の時に名前を聞いていたのに、僕は余程余裕がなかったのだろう
まるで気付きもしなかった
「イナさんは元気?」
「え…」
「フフ…チニさんから聞いてるわ。貴方との事も」
「…」
僕達はいろいろな事を話した
彼女に誘われて修道院にも行った
ミルクを振舞われ、彼女とイナの話を聞いた
イナと別れた後の事も…
僕は不躾だと思いながら、彼女に質問をした
「今でもイナを愛しているなん思いませんか?」
彼女はクスッと笑って一呼吸置いた後、こう言った
「『愛している』というのなら…今の方が『愛している』と言えるかもしれないわ」
それは意外な答えでもあり、理解できる答えでもあった
離れているから客観的に考えられると彼女は付け足した
「一緒に暮らしていた時は勿論お互いの事を考えてました。特にイナさんは私が幸せでいるようにと、そればかり考えていたように思うわ。そういうところあるでしょ?自分の事は後回しにしてしまう」
「うん…」
「それが段々苦痛になってきちゃったの。私にも甘えてほしいのにイナさん頑張りすぎちゃって」
「…うん…」
「なんだかんだと一人で抱え込んじゃうし…。一緒に頑張りたいのに『お前に苦労はさせたくない』って」
「…」
「幸せではあるけれどつまらない…」
「つまらない…か…」
「それで私はまた仕事を始めて、そしたらそっちが楽しくなっちゃって…。そんな矢先に家が…ホラ…」
「…ふふ…こんな場所に建てるからだよ…」
「修道院は無事なのにね」
「ふふ…」
「もしかしたら…テジュンさんと私って…似ているのかしら」
「仕事大好きなところとかね」
「違うところは…テジュンさん一人が頑張っちゃうところかしら」
「僕が?」
「うん」
「僕は…頑張ってないよ。今もイナ一人が頑張ったり抱え込んだりしてる。でもあいつの職場の仲間が随分助けてるけどね」
「ああ…BHCの方々ね」
「知ってる?同じ顔がずらり二十…何人だっけなぁ…」
「そんなに増えたの?私が参加したイベントの時にはそんなにはいなかったわ」
「…ああ…イナがまだスヨンさんの事を引きずってた頃だね」
「…そうねぇ…」
「イナがね、愚痴ってたよ。『スヨンはまだ若いからシレっとしてて平気なんだもん』って口とんがらせて」
僕は拗ねたイナの顔を思い出した
喉の奥が熱くなった
会いたくて堪らなくなった
「女はバッサリ行くものです」
「…ははは…怖いな…」
「うふふ」
「結婚は?しないの?」
「まだ相手がいません」
「イナといればよかったのに」
「うふふ…」
「無理?」
「私といるとあの人は甘えられないもの。本当は甘えっこなのに…。テジュンさんには甘えるでしょ?」
「…どうかな…」
「また…頑張りすぎっちゃってるのかしら…」
「うん…頑張りすぎっちゃってていじらしい」
「…ご馳走様です」
「…僕も…つい甘えちゃうんだ…あいつに…」
「へぇ…」
そうなんだ…あいつはあんなに脆いのに…
なのに受け止めようとするんだ
だからついつい全身を預けてしまうんだ
「『えむ』だわね…」
「え?!」
「『えむ体質』ね、イナさん」
「…」
彼女の茶目っ気のある言葉に僕は一瞬絶句した
そして二人で大笑いした
それから岬を散歩し、僕はホテルに戻った
帰りのタクシーの中で『愛する』とはどういうことなのか考えた
『愛は許すこと』なんてよく聞くけれど
僕はその本当の意味が解らない
僕だって人を許した事がある
でもその後に湧き起こる感情は
正直あまりいいものではない
仕方なく許すというものがほとんどだ
許さなければ関係が終わってしまうと妥協している
そういう高飛車な自分も嫌だし
許した後に卑屈になる相手も嫌だ
たまに堂々としている相手もいるが
それはそれでまた嫌になる
そういう『許し方』は『愛』ではないと思う
だから『愛は許すこと』の真意がよく解らない
『許すということ』が解っていないのかもしれないが…
『愛するということ』『愛しているということ』
僕は今まで「愛している」と安易に言い過ぎただろうか…
好きで好きで堪らなくて、『好きだ』と言うだけでは足りなくて
そんな時『愛している』と表現する
でもそれは『愛すること』ではない
イナを愛おしいと思う
僕は彼に何度も「愛している」と囁いた
本当に愛するということを僕はまだ知らない
僕は小さすぎて知らない事が多すぎる
イナを本当の意味で『愛する』ことが出来るのだろうか
夕方の飛行機でソウルに向かう
イナに会いたい
どんな事になっていても
僕はイナが好きだ
イナには、彼の思う通りに生きてほしいと思う
彼の行く手を遮りたくない
僕を押し付けてはいけない
スヨンさんと話していてそんな風に思った
それがちゃんとできるかどうか
自信はまったくないけれど
『夜、お前に会いたい』
一言だけメールを打った
どんなイナになっていようと
僕はお前がしてくれたように
受け止めようと思う
会いたい
お前に会いたい
ただそれだけだ…イナ…
「 I Feel You 」 足バンさん
スヒョンさんリラックスしてますね
現場に入るなりそう言われたが実際はそうでもない
今日はCMの撮影初日
「ソファ編」と「窓辺編」を同時に撮ることになっていた
CMでのテーマは「愛するもの感じる時間」だと
監督とは何度も確認を済ませている
「I Feel You」ヒョンジュとの思い出は哀しみでもあるが
懐かしく愛おしくその空想の中に沈むことは心地よささえ感じる…
そんな空気を表情だけで表現する
夕べドンジュンが気をつかって寮に帰ってくれた後も
何度も台本に目を通し物語の世界に入ってはみたが
蓋を開けてみるまでは何ともわからない
撮影は今回映画用に借りている建物の一室をそのまま使う
”ジンのリビング”には沢山の機材が持ち込まれ
既に大勢のスタッフが慌ただしく動き回り
今はダミーの人物を立たせて照度の調整が行われていた
監督に呼ばれて奥の控え室に顔を出すと
お供を従えた恰幅のいい60代の外国人がにこにこと握手を求めてきた
ウィーバーの社長だということはすぐにわかった
社長は人なつこい目で挨拶をした
元々一族は織工(Weaver)で社名はそこから由来しおり
Brianは曾祖父の名であり”高貴な”という意味でもあるということ
代々技術と品質に絶対の自信をもってきた老舗だと話す社長の目は
英国紳士らしい威厳に満ちていた
しかし”ジン”はアジアのWeaverのイメージそのものだと
繊細でしなやかでかつ強い男を演じてほしいと熱く語る表情は
どこか監督の雰囲気にも似ていると思った
社長の息子が監督の親友と同じ事故で亡くなり
それがふたりを結びつけたという話が僕の耳に入るのは
撮影後しばらく経ってからのこととなる
衣装となるウィーバーの蒼いボートネックセーターとジーンズに着替え
メイクをほどこされた後ひとりにされた
集中してヒョンジュへの想いを高めろという監督の指示だった
ジンのリビングは30平米ほどの広さで奥にキッチン
そのすぐ前にはふたり掛け用のダイニングテーブル
脇の木製ドアは書斎兼ベッドルームにつながる
ほんのりとクリームがかった漆喰の壁と濃茶の柱や窓枠
アンティークな電燈らが保守的な印象を感じさせるが
モダンな調度品や壁に飾られた現代アートのビビッドな色が空間を引き締めている
キッチンに置かれたミネラルウォーターの銘柄に至るまで
ジンの人生を想定しながら監督と美術スタッフが集めたものだ
部屋の中程にコルビジェの黒いソファがぽつんと置かれていて
確かにジンの選びそうな家具だと思った
置いてある物はもちろん、床についたシミの仮想の歴史までを説明されれば
確かに僕の中にもジンという人物の輪郭がはっきりしてくる
今さらながらひとりの人物を作り上げようとする執念に驚いたが
そこまでこだわるシン監督はかなりの”美術泣かせ”なのだとスタッフは笑っていた
撮影の準備が整い
まずは「ソファ編」のカメラテストが行われた
黒革のソファの肘に腰掛けて本を読みながらふとヒョンジュを思い出し
顔を上げ目を彷徨わせるシチュエーション
CM撮影の場合イメージされる曲を流すこともあるそうだが今回は使われない
本撮りに入って何度目かで落ち着いてはきたが中々自然にはいかず
モニターを覗く監督たちの表情はまるで満足していない
ヒョンジュが好きだったという詩の本をめくり
彼への想いに彷徨いゆっくりと空中に視線を投げる…
と…カメラの向こうには大勢のギャラリー
何ともしっとりした感情にはほど遠いと思った瞬間
監督の「頭じゃなくて身体で思い出すんだよジンは」という声が飛び込んだ
僕はぼんやりと自分の手を見ていたが
ヒョンジュに触れた感触をほんの少し感じたような気になった
ヒョンジュの目…頬…髪…指…?
ミンチョルの顔がヒョンジュの幻影にふわりと重なる
そしてその時、唐突にミンチョルの肌の感触が生々しく蘇った
初めて気持ちを口にしたあの夜
ヴィラのほの灯りに浮かぶ頬と睫毛
もう触れることはないと思っていた唇
堪らず抱きしめ交わしたくちづけ
背中を強く掴む指
幻のようにかすかに漏れる声
静寂の中に響く舌の音
もう考えることを全てやめそのまま奪ってやりたいと思った
腹の底のうずきに屈しそうになった瞬間
いきなり洪水のように押し寄せたあの夜に思わず目を閉じる
身体の中でミンチョルとヒョンジュが交錯する
ヒョンジュが好きだった詩の本
音のないふたりだけの時間
もう二度と会えないヒョンジュ
二度と見ることのないあのヴィラの灯り
愛しいヒョンジュ
再びこの腕に抱くことのない甘い時間
唇の感触を確かめたくて指で触れようとしてやめた
目を開けた時不思議と周りの情景に不自然さはなかった
壁にかかる小さな古ぼけた写真を見つめ
それは確かジンの祖父だったということを思い出し
視線はそのまま窓の外に流れた
過ぎたことだ…
そんなことを感じた瞬間にカット!の声が響き
僕は我に返ったように息を吸った
監督は少々興奮した声で「いい!いい!ジンだ!まさにジンだ!」を連呼し
CMなんか中断して次のシーンを撮りたいと叫び、みんなの笑いを誘った
ユン女史がカメラの向こうから親指を立ててウィンクをし
何かの約束の時間が迫っているという社長も満足げに現場を跡にした
進行役であるCMプロデューサーは冷静に2台のカメラの映像を見て
ページをめくる手元のアップだけは撮り直そうと言ったがあとはOKを出した
撮影開始から3時間が過ぎようとしている頃だった
僕はしばらくぼうっとしていた
うまくジンに入り込めたのはいいが
やはりそれは”ジン”としてだけの感情じゃない
何となく不安に感じてきたことだがやはりそうなった
ミンチョルとヒョンジュを全く分けて考えることなど無理な話だ
まだ余韻が残る…
心臓が音を立てていた
「窓辺編」は奥の書斎兼寝室に場所が移された
いい天気であるその日のガラス窓に雨がつたっている
今回の映画のためにビルのその窓の外にはカメラ用の足場が組まれているが
今日はその足場にスタッフが潜んで雨を仕込む
監督の注文の全てはスタッフのトランシーバーによって外に伝わり
思い通りの雨の”感じ”が演出される
今度は同じく素肌にVネックのジンブルー
雨つたう窓の外を眺めながらやはりヒョンジュの幻影に浸るジン
ちょっとした彼との微笑ましいやりとりを思い出し
小さく愛想を崩して俯く
監督の「明度の高いフェルメールでいこう」という指示は
僕だけでなくスタッフにおおいに役立った
今回のシーンでは比較的すんなりとジンに入り込めた
ヒョンジュとの幸せなひとときは台本からも読みとれる
透明な雨の筋を見つめながら気持ちを高め
愛してやまなかったヒョンジュの影を追い
からかわれた時のミンチョルのあの不器用そうな笑顔を思い出して
夢に彷徨うようなジンの表情が出せたような気がした
スチール撮影も終わり全ての撮影が終了したのは夕方近くだった
「よかった!よかった」とキスせんばかりの監督や
既に編集の段取りに気をとられているCMプロデューサーに礼を言い
夕飯に誘ってくれたチョプロデューサーに詫びて現場を出る
とにかくひとりになりたかった
すっかり気温の下がった夕方の空気にあたっても
僕の中のジンは中々消えない
疲れ切った身体の中にはヒョンジュが渦巻く
いやそうじゃない
スヒョンの中のミンチョルが消えない
混乱する
「どうしたの…撮影終ったの?店に直行じゃなかったの?」
きょとんとした目で出迎えたドンジュンを玄関先で抱きしめた
「どうしたのさ…あ、大失敗した?クビになった?」
ちゃかしていたドンジュンも僕の様子に黙り込んで顔を覗く
現場から真っ直ぐ寮に向かったのはどうしたわけだったろう
「頑張り過ぎて…心があの人にイッチャった?」
「…」
「あっ図星でやんのっそうでしょ!」
「…」
「ばーか!そんで懺悔にきたの?」
「ドンジュン…」
「今からそんなんじゃ映画に入ったらどうなんのよ…撮影の度に抱きつかれてたら身が保たないじゃん」
「…」
「何とか言えエセ天使」
「…」
「ばかスヒョン…そんな顔しないでよ」
「ごめん…」
「もうっばかじゃないのっ!」
ドンジュンにいきなり突き放されて驚いた
「何甘いこと言ってんのさ!懺悔するくらいうまくいったってことでしょっ?」
「ドンジュン…」
「頭の中がぐちゃぐちゃになるのは覚悟の上だったんじゃないの?
それくらいじゃなきゃウナっちの相手なんか務まるわけないじゃないっ」
「…」
「言ったでしょっ僕を納得させろって!中途半端は許さないって!」
「ああ…」
「全身誰かさんにどっぷり浸かろうが悶えようがのたうち回ろうが
利用できるものは全部利用して完璧にやり通してよね!」
「…」
「もう二度とそんな顔で来ないでよ」
「うん…」
「おまえ…すごく無理してる?」
「当たり前じゃん…もうこめかみブチ切れそう」
「そうか…」
「何がそうかだよ」
「ありがと…」
僕はもう一度
ドンジュンを抱きしめた
「 I Feel You 」2 足バンさん
覚悟はしてたけど
そりゃかなりきついものがある
スヒョンのCM撮影前日
店を出る時メンバーがスヒョンに声をかけてた
みんなそれぞれ撮影のことを励ましてくれてたようだけど
テプンさんはやっぱり無駄に騒がしくて
今度現場にテジ君を連れてくから子役で使えとかなんとか大騒ぎしてた
新人君たちも巻き込まれて”おまえらからも頼め”なんて言われて
わけわからずスヒョンに”お願いしまぁす”だとか頭下げてた
まぁミンチョルさんはどうかっていうとまるで反応なし
お互い”お疲れ”と言っただけ
ギョンビンと”どうよあれ”と目配せしてとにかく帰った
僕はダイニングテーブルで仕事してたんだけど
ソファの向こうで台本に没頭してるスヒョンを見てたら
だんだんテンション下がってきちゃって
ああ今ジンになってるんだな…
あの頭にはヒョンジュだのソニだのが渦巻いて
ついでにイモズルであの人までイメージが及んで
もう心臓バクバクして妄想破裂寸前で
ああっ愛しい君よ!とか叫びたいのを我慢してるくせに
何ごともない顔してるんだろな…なんて思ってしまうわけだふんっ
そんで僕は「今日は寮に帰るわ」と言ってみたんだけど
3回声かけるまで気づかなかった
「どうして?別にいいよ僕は」
「だって…」
「朝早く出て行くけど寝ててくれればいいから」
「…」
「どうしたの?」
「集中欠くでしょ?」
「え?」
「スヒョンが困るの嫌だし」
「何で僕が困るの」
「だってジンになってる時に僕の魅力に負けてつい欲情したらまずいじゃない」
「両立させて何とか努力する」
「ばーか!マジメにやれっ」
散々帰ることないって言われたけど結局帰った
僕がそうしたかった
帰り際に抱きしめられたスヒョンからは不安が流れ込む
こんな危ういくせに平気そうな顔しちゃって
この人はどうしてこうなんだろう
次の日自分の仕事をしながら時折気持ちがスヒョンに飛んだ
あんな不安そうだったのに
きっと顔に出さないで他人にわかってもらえないんじゃないの?
そんなことばかり考えてて何となく時間が過ぎた
どんな顔して店に出てくるかと思えばついため息が出た
だから夕方寮にいきなりスヒョンが現れたのには驚いた
おまけに何も言わずに玄関で僕をハグ
ああドラマティック…などと言ってる場合じゃない
「どうしたのさ…あ、大失敗した?クビになった?」
なんて言ってみたけど全然ウケないし
何となく伝わってくる想いを感じてカマかけたら
「頑張り過ぎて…心があの人にイッチャった?」
ピンポーン…そんなことくらいわかってるってば
それなのに”ごめん”なんて言うもんだからブチッときた
「もうっばかじゃないのっ!」
ー自分のことになるとどうしてこうなのさ!
「頭の中がぐちゃぐちゃになるのは覚悟の上だったんじゃないの?」
ー余裕かましてる場合じゃなかったでしょっ
「全身誰かさんにどっぷり浸かろうが悶えようがのたうち回ろうが
利用できるものは全部利用して完璧にやり通してよね!」
ーヤケで言ってるんじゃないから…
「もう二度とそんな顔で来ないでよ」
ーばかスヒョン…
「ありがと…」
スヒョンに抱きしめられて涙が出そうになった
ありがとうなんて言わないでよ…
スヒョンの長いキスは僕を混乱させる
僕を求める気持ちが流れ込んできて
コマシのジジイのくせして
周りには完璧そうに見えるくせしてこんなにバカ野郎で
そんなやつが好きで好きで堪らない自分がここにいる
翌日僕は店を休んで釜山の国際モーターショーに行った
ジジイが気になったけどあいつにあんなこと言った僕だから
自分の仕事にも手を抜くわけにはいかない
その次の日の朝一番の飛行機でソウルに戻り
聞いていたCM撮影の公園に空港から直行した
広い国立公園で迷子になるかと思いきや
でかいアヤシい車がずらずら並んでるからすぐにわかってしまった
人がごちゃごちゃいて近づけそうにないから
ちょっと離れたベンチの上に立って覗いてみた
真ん中あたりに立ってる蒼いセーターと白いスラックスがスヒョンだ
でかいレフ板に囲まれてそこだけ別世界みたいに光ってる
隣にいるのは例の監督かな
長いレールみたいなのに乗っかったカメラのとこで偉そうにしてるのがユン女史って人
腕組みしてる超業界っぽいのがCMディレクターだろうか
何度も何度も右から左にゆっくり歩くスヒョン
それと一緒にレールの上を動くカメラ
でかい扇風機みたいなやつの音だけが響く
監督だか誰だかの声がかかると周りの動きが一斉に止まる
カットの声でまた一斉に動き出す
何だかおもちゃみたいでそれ見てる方が面白い
なんて…気をそらしてみても結局はあいつが気になる
ポケットに手を入れて風に吹かれて
俯いたり空見上げたりしながらゆっくり歩くスヒョン
けっこうサマになってて…嬉しいけど寂しかったりする
ぼうっとしてたらベンチの下からどっかのおっちゃんが
「何かの撮影ですか?」って声かけてきた
そうらしいと答えると「有名な人ですか?」と言う
「さぁ…その辺の無名タレントじゃないですか」って言ったんだけど
「でもちょっとかっこいいですよ」と添えた自分に思わず赤面
おっちゃんは「いい天気だものねぇ」とワケわかんない反応で行ってしまった
そのかっこいい人は僕の存在もつゆ知らず
爽やかな風の中一生懸命右から左に歩いている
きっと今あいつの身体の中は僕の知らない空気が支配しているのだろう
愛する人のことを想って満たされて
うまくいってれば今スヒョンは何も見えてないのかもしれない
僕が車のラインを思いついてスケッチブックに齧りつく時
周りのものが一切見えなくなるあの感じ
雑音が全部聞こえなくなる
時間も何もかもが関係なくなるあの感じ…
ー誰かさんにどっぷり浸かろうが悶えようがのたうち回ろうが
利用できるものは全部利用して完璧にやり通して
あれは本心だ
やるんならそれくらいやらないとって本当に思う
だから迷ってほしくないし甘いことも言ってほしくない
それはわかってよね
でも僕は…動揺する自分も隠せない
完璧ににっこり笑って送り出せたらスヒョンもどんなに楽だろうと思う
もっと大人になって大きく構えて
あいつのスケベ心なんてどうってことないって
ふふんって笑って済ませてられたらどんなにいいかって
何だかおかしいことがあったらしくて現場が和んだ
スタッフと一緒にスヒョンが笑った
レフ板のきらきらした光の中で…片手で顔を覆って楽しそうに笑ってる
僕の知らない僕のスヒョン…
ちょっと目の奥が熱くなる
なぜだか自分でもよくわかんないけど
僕はベンチから飛び降りて公園の出口に向かう
夕べこの辺は少し雨が降ったんだろうか
新緑が小さくきらきら輝いていてとても綺麗だった
僕は立ち止まり
思いきり深呼吸をして身体の中の空気を入れ替える
遠くで「オーケー!」という声が
こだまのように聞こえた
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