ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 209

La mia casa_43  妄想省mayoさん

「ねぇその若じゅの君って..どんな感じ?..」
「ぱっと見ね..テソンさんに似てるとこあるかも..へへ..(^o^)..」
「今のテソンさん?..それとも..むにゃむにゃ前の怪しいテソンさん?」
「ぉ~~ぃ..ドぉンジュぅぅン~~~..」
「ごめん..テソンさん..^^;;..」

「ぷっ..じゅのはな..ドンジュン..」
「なに?..くまさん..」
「テソンより..『かわいこちゃん』..だよな?..闇夜..」
「ぁ…ぅん..ふふふ..」
「@=@..」
闇夜はくすくす笑いながら..
アヒルになったテソンの唇を軽くちゅん#..と2本の指で摘んだ..

「ぁ..僕も摘んでみよぉ~っ…きゃはは(^0^)..伸びる伸びるぅぅ~~」
「(>=<)..ん~~..ん~~」

トン#..ッタッタッタ..するするする…ぱこっ☆

はるみが闇夜の腿から降り..素早い動作でくるまやの背後に回り後頭部を軽く叩いた..
くるまやはテソンの口から手を離し..己の頭を撫でた..

「ぁぅ..はるみちゃぁん..もぉ..」
「んぎゃみゃぅ..みゃみゃみゃみゃっ#..」
「猫語は理解不能って言ったじゃんかぁ」
「みゃぅみゃみょ?..みゃぅー@@」
「何て言ってんのさ..」
「テソンにおイタしにゃいでくだしゃい..ぬぅぁんだと?..ぶぅー..ってなとこだろう..な?..はるみ..」
「ぅんみゃ#@@..」
「はぃはぃ..わかりました..ぶぅー@8@」

くるまやははるみに向かって<河豚顔>で応戦した..が..くるまやが吹き出して..負け..
テソンは闇夜の腿に戻ったはるみの頭を撫で..続けた..

「その"かわいいちゃん"のじゅの君..さ..既婚者なんだ..」
「うっひょ..学生で..しかも苦学生で..けっ...こん..してんの?..ふ..へ..ほ..ホントに?」

……〃@@〃……
ぅんぅんぅんぅん..ぅんみゃ..と俺等4人+一匹がリズムカルに首を縦に振る様に釣られ..
くるまやは俺等と一緒にぅんぅん…と5回頷き..納得した..

「じゃぁ..ハリョン酷似は..おくさん..」
「そういうこと..で..じゅの君は..パパになるんだ..」
「は..はぃな?..んパパ?..」

…ひらひらひらり~ん...てろてろてろろ..
くるまやは掌を上から下へひらひらさせた後..平ったい"のしいか"状態で椅子から滑り落ちそうになった..

「「ぉっとっとっと..」」
俺とテソンが椅子に座ったまま..左右からがしっ#..っとくるまやの腕を掴み..
うんしょ..と"のしいか"を引き上げると..すとん..と椅子に座り直し..
たぶりえくるまやは無事..”のしいか”から復元した..

「苦学生でぇ..ハリョン似と結婚しててぇ..
 パパになるぅ..テソンさんより可愛いじゅの君にぃ関する頼みを僕に..ってこと?..」
「ぅん..彼さ..K大の機械科に在籍してるんだ..」
「…!!..K大..」

呟いたくるまやのこめかみがくいっ..っと伸び..テソンと俺を真っ直ぐに見据えた..

「で?..」
「ぅん..アマだけど..レースもやってたしね..彼のチューニングとナビは評判がいいらしい..」
「そ?..今もやってるの?」
「ぃや..今はレース自体には出てない..レースって¥掛かるじゃない?..スポンサー見つけないとさ..」
「スポンサーもシビアなもんだよ..結果重視だしね..」
「ぅん..だから..今は偶にコース走るだけみたいだ..それと..車両のテスト走行のバイトでしてるんだ..」
「テスト走行..」
「整備済車両をさ..夜中の高速でテスト走行して..エンジンの具合を確かめる..ってやつ..」
「それ..どの位の割でやってるわけ?..」
「今は週に4~5日..台数にすると..週に5~10台くらいかな..」
「あわわ..夜中にそれじゃ..キツイね..」
「台数こなさないと..¥にならないからさ..」
「ねぇ..一台幾らよ..」
「1台あたり5万ウォン..」
「ぁぅ..パパ..大変じゃんか..(;_;)..」
「ぅん..そうなんだ..」

「そこで..だ..じゅのはお前さんのように華々しい経歴があるわけじゃない」
「華々しいってわけじゃないけど..それなりに..だよ」
「くっ..謙遜するな」

俺が手を伸ばすと..テスはテーブルの端にある一冊の大学ノートを俺によこした..
R病院でのヨンジン確保の次の日..
闇夜がじゅのの大学へ出向き..じゅのから預かったノートだ..

「…??..何..これ..」
「ん..じゅのがバイトで試乗した全車種のデータだ..
 俺が事前に読んで排気量別に付箋を付けておいた..読んでみてくれ..」
「ぅん..」

くるまやはノートの付箋に指を挟み..頁を開いてデータを読み始め..
何件かのデータを読んだ後..くるまやが俺に聞いた

「これ..ちぇみさんに意見仰いでさ..じゅの君が纏めたもの?..ちぇみさん助けたとかさぁ..」
「俺は余計なことは言わんぞ..手も口も出しておらん..」
「そぅ..テソンさんも?」
「僕がこんな専門用語の羅列..小難しい構造やら何やら..解ると思う?」
「僕も..へへ(^o^)..」
「ぁ..ぅん..だよね...じゃぁ..mayoさん..」
「アタシ..単車のメカはそれなりだけど..車のコトは解らないよ..運転しないから」
「ぇっ..車運転しないっけ?..」
「ぅん..アタシは単車の方が好きだから..小回りが効くでしょ?」
「調査にはもってこい..ってやつ?」
「そういうこと」

「ドンジュン..そのじゅのデータはな」
「何..くまさん」
「総てじゅのがひとりで..こつこつと書き溜めてきた代物だ」
「そぅ..コツコツ..ってさ..なかなか続けられるもんじゃないよ」
「ん..どうだ?..それ」
「じゅの君..結構いいとこ突いてるかもしんない」
「お前さんもそう思うか?」
「ぅん..たとえば..んっと..
 この車種の..ここ..この箇所さ..エンジンの構造についての疑問..書いてるじゃん..」
「ん..」
「ちょっとした疑問に此処まで深く掘り下げないなぁ..って思うよ..」
「だろ?..」
「ぅん..」

「まぁ..お前さん達が目指してるのは..カーデザイン中心の企業..だろ?..…ぉっと..これは極秘か..」
「ぃぃよ..此処だけの話なら..ここのヒト達は口固いから..信頼してる..」
「ふぉ?..随分と持ち上げるじゃないか..ぉ?..」
「だってさー..僕が前に頼んだ調査さ..あれ..僕には凄く参考になったしさ..」
「お前さんも車に関してはプロだ..」
「まっね#..」
「んなお前さんにありきたりのお粗末な情報なんぞ..俺と闇夜が..はいどうぞ..っと用意するわけいかんだろうに..」
「情報のプロとして?..」
「だな..んまぁ..闇夜の摘んだ情報の裏を摂るのにちょいと手間かかったがな..」

俺と闇夜の視線がさっ#..と交錯した..
ほんの一瞬..伏目がちに交わされたそれは..互いに微かに口端を上げ..互いに散らす..

「確かに..自動車関連企業として世界で生き残るためにさ..
 ギスの会社...一台売ってなんぼのカーデザイン中心の企業に転身させようとしている..」
「世界に通用する<CARROZZERIA(カロッツェリア)>を目指すのは大変だがな..」
「ぅん..そう..技術力の集結が大事ってわけよ..」
「ボディを勘で仕上げる..職人の知識集結でもあるぞ?..」
「そうだよね..」
「昔と違って..CARROZZERIAはエンジニアリングの方にも技術範囲を拡大してるだろ..」
「ぅん..ここ20年くらいね..ボディのデザインだけよくても駄目..」
「だな..」

「ドンジュンさん..物言いは上品じゃないけどね..顧客をも"とってとる"..くらいじゃないと..」
「"とってとる"..?..」
「ぅん..顧客情報って侮れない..顧客情報採って..ニーズを分析して..顧客を"盗る"..その顧客が別の顧客を呼ぶ..」
「採って盗る..かぁ..」
「ぅん..」

「何かまだまだやることあるなぁ..あぉ#..ぐぁんばるぞぃ#..」
くるまやはひとり..己に気合いを入れる..

「ね..くまさん..」
「ぉ..何だ..」
「じゅの君..PC持ってんの?..ノートのデータ..全部手書きじゃん?
 もしこれからもっと仕事するとしたら..PC無しじゃ仕事になんないよ?..」
「PCは手配済..メルアドも取得してある..」
「準備万端..ってわけね..」
「当たり前だろうにぃ..俺等が依頼するんだ..」
「抜かりはないわけね..」
「そういうこった..」

「"…することにしたら"..ってことはさ..ドンジュンの仕事..少しは手伝える?..」
「テソンさん..僕はじゅの君に..ちょっと仕事させてみたいな..」
「「「ほんと?」」」

「ぅん..僕はそう思う..構造関係のこの資料..よく書けてるもん..
 それにさ..今んとこは僕等..デザイン開発に重き置いてるけど..」
「「「「ぅん..ぅん..」」」」

「既存車のデータもギスのテストコースで..って手もあるわけだし..」
「「「「「ぉー#..いいねぇ..」」」」

「でもさ..」
「「「「でも??..」」」」

「僕だけのプロジェクトじゃないから..軽々しく安請け合い出来ないからさ..」
「「「「ぅんぅん..だね...」」」」」

「ちょっとギス達と..相談してみるよ..今日は即答出来ない..いい?..」
「ぅん..わかった..でも頼むね..ドンジュン..じゅの君の生活かかってるから..」
「なぁんか断ったらさぁ..大変な事になりそうじゃぁん..」
「ん..だな..お前さんに金輪際..情報はやれんかもしれんなぁ...どうだ?..闇夜..」
「ふふふ..そうね..考え直さないと..新たな顧客情報..どうしよっかなぁ..」
「ちょっとぉー..」

「それに..Cream d'Ange..もう食べられないね..ちぇみぃ~(^o^)..」
「さっきのが最初で最後のcasa-Cream d'Angeになるかぁ..惜しいなぁ..くふっ..」
「んな..な..何よ..casa出入り禁止ぃ?」
「「「「そこまでは言ってない..つもり...」」」」」

「ぁ..ぁぅ..やっぱ..すっかり脅しじゃんかぁー..もぉー..」

「「「「ぷっ..へへ..くふっ..ふふふ..みゃみゃ..」」」」」

俺等casaの連中がくすくす笑う様を一緒に楽しむかの様に..
くるまやは唇を閉じたまま笑っていた..

出勤する時間になり..皆で椅子から立ち上がった..

「ドンジュンさん..」
「何..mayoさん..」
「そのままBHCに行くの?..」
「駄目ぇ?..」
「もしかして..それ..気に入っちゃた?..ふふ..」
「ちょっとね..汚れなくていいもん..これ..」
「レース..白だから..ドンジュンさんの白ソックスに合うカモね..」
「あのねっ#..僕はもう白ソックスはいてないのっ#..もぉ..ほらっ#..」
くるまやは片足を上げ..ボトムの裾を捲った..

「ふふ..ごめんごめん..白ソックスは今はジョンドゥさんか..」
「そうだよ..まったくぅー」

「ぁ..写真撮っとくね..へへ..(^o^)」
くるまやはテスがレンズを向けると..タブリエの両肩をピンと摘んだ..

「みゃみゃ#..みゃぁ-@8@」
「きゃっはは..ぶぅー@8@」
《猫河豚》&《本家河豚顔》..仲良くポーズをとった..

幾枚かの撮影が終わり..くるまやは名残惜しそうに..タブリエを脱いだ..
くるまやが椅子の背からJKを採って羽織ると..
闇夜は毛足の長いブラシでくるまやのJKに前..後ろ..と丁寧にブラシをかける..

「何か..いいな..こういうの..」
「そぉ?..」
「ぅん..ねぇ..いつもこうしてもらってんの?..みんな..」
「スーツやJKの時はそうだね..くふっ..」
「ふ~~ん..」

ブラシをかけ終えた闇夜がくるまやに親指を立てた..
くるまやはニッコリ笑い..親指を立て..闇夜に返した..
男3人はくるまやに『じゅのの仕事..頼むぞ..』の願い(半分脅し..)を込め..

俺がくるまやの後頭部にぴったん#..すりすり〃
テソンが背中をトントン#..
テスがくるまやの両手を取ってぽちゃぽちゃ握った..

「「(^0^)..いっ..てきまぁーすっ..(^o^)」」
くるまやとテスはゲンキいっぱーい#..俺とはるみに手を振り..テソンと闇夜と共に店に行った..

今日の夜食はテソンが大方準備を済ませている..

部屋のPCでblogの原稿を打ち込んでいると..
俺の腿にちょこん..と座っていたはるみが「みゃおん..」と啼き..客が来たことを伝えた...


千の想い 84 ぴかろん

済州島から戻ってからの事を聞かれ、大筋を話した

『それでなんとかやっていけそう…なんですね?』
『はい』
『じゃあ今度済州島に来るときは、ぜひ二人でね。イナさんに会いたいわ』
『そう?やだな、焼けぼっくいに火がついたら…』
『あら、つかないように貴方がくっついてるんでしょ?』
『…』

そんなたわいもない事を話しながら、僕はつい『不安が取れない』と漏らしてしまった
彼女は巧く僕の話を引き出す
『カウンセラーの素質があるんじゃないか?』と言うと『じゃ、今度はその資格に挑戦してみます』と返ってきた
僕は…彼女に、僕の不安の原点を話した
なぜか彼女には相談しやすかった

『テジュンさんのように温かく包んでくれる人を、イナさんが手放すとは思えないわ。大丈夫よ』
『…でも…僕の従兄弟の方が温かくて大きい人間だったら?』
『自信ないの?』
『今まであったけど、今日は全然ダメ…』
『そんな時はイナさんに頼ればいいじゃない?』
『僕が?…そんな事したらイナが揺れない?』
『大丈夫よ。頼られると嬉しいものだわ』
『…そうか…僕もそうだもんね。でもイナはどうだろう…』
『とにかく、今夜、今から会うんでしょ?電話した時のイナさんの様子は?どうだった?』
『…いつもと変わりなかったな…』
『じゃあ大丈夫。イナさんの気持ちは揺れてない』
『隠してるんじゃないかな…』
『あの人が隠し事できる?』
『…でも…かなり頑張って隠してたけどな、今回は』
『それは貴方がちゃんとイナさんを見てなかったからでしょ?』
『…君、キツくない?』
『だってホントでしょ?』
『はい…』
『自信持って。イナさんを幸せにしてあげてね』
『…そうしたいんだけどな…』
『頑張って』
『はーい…』
『結果、教えてくださいね。絶対二人で済州島に来てよね。待ってるから』
『頑張ります、シスターアンジェラ』
『シスターじゃないわ!』
『貴方にもいい人が見つかりますように…』
『余計なお世話です!』
『あはは…ありがと。元気が出たよ』
『じゃ、頑張って』
『ありがと…』

チャットを閉じてため息をついた
少し気持ちが丸くなった
このまま…このままイナのところへ行こう
僕は帰り支度をした

閉店時間までまだ1時間程あったのだが、僕は車の中でイナを待つ事にした
車を止めてライトを消し、タバコに火をつけようとしたとき、BHCの路地からヨンナムが出てくるのを見た
配達の帰りらしかったがなんだかニコニコしている

イナと会ったんだな…

イナは…きっと…ヨンナムにいい返事をしたに違いない
どんな?
僕と別れてお前とくっつくって?
それでお前、そんな嬉しそうなのか?!

ああせっかく落ち着いていたのに…心がまた揺れだした

トラックの運転席に乗って、チラリと路地の奥を見つめ、そちらに手を振るヨンナム

…イナがいる?!

僕は思わず首を竦めてダッシュボードの陰に隠れようとした
誰から身を隠すんだ
ヨンナムは全く僕に気付かなかったというのに…
路地の奥からイナが出てくるとでも思ったか?
バカだな、誰もいないじゃないか…
体を伸ばして自分を嗤い、やっとタバコに火をつける

ヨンナムのあの笑顔…
柔らかな笑み…

イナ…何を聞いた?どんな話だった?
それでお前、どんな結論出したの?
今から僕に会うのは、僕じゃなくてアイツを選んだって言いたいから?
違う、きっとそうじゃない…
イナは僕にしか甘えられないんだから
僕が必要なんだから…

じゃあなんでヨンナムはあんなに穏やかな顔をしていたんだろう…

一口しか吸わなかったタバコが
既に短くなっている
僕はタバコを消して外に出た

時計を眺めるとまだ九時半だった


千の想い 85 ぴかろん

僕はイナに我儘を言っている
甘え放題甘えている
泣いたり笑ったり怒ったり
扱いにくいとイナが言った
僕自身もそう思う
けど
あれもやりたい、これもやってみたいと
次々と『我儘な要求』が体の底から湧いてきて
躊躇う間もなく口をついて出ている
イナは何度も呆気にとられた顔をしていた
でもすぐに笑ってそれを許してくれた
僕は安心して僕の要求をイナに渡し
それを受け入れてもらったり拒否されたりしている

拒否されるのが怖くて、口に出すことさえしなかった僕が
思いついたことをイナに向けて発している
信じられない
僕、どうしちゃったんだろう

運転しながら今日一日を振り返ってみた

僕は、一緒に配達をしてと頼み、一緒に昼ご飯を食べてと頼み
あの公園に行ってと頼み、そしてキスまでおねだりした

突然顔が熱くなった

そうだよ、さっきなんかわざわざ駆け戻ってあんな…

自分の唇に触れてみた
イナの唇と舌の感触を思い出した
僕はイナを好き?
好きだよ…好き…
けど、どういう好き?
朝から…ううん…ここ何日かずっと自分に問いかけている
僕は…今日急にイナに甘えだしたわけじゃない
今日から甘え方が酷くなっただけだ
イナの気持ちを聞いたからかな…

イナは僕を好きだと言った
でもイナの一番はテジュンなんだ…
もし僕がもう少し早くに
イナの気持ちに気付いていれば…
僕はイナの『一番』になっていただろうか

『お前にはイナを受け止められない』

…テジュン…
そうだね。自分がどういう奴なのかも解っていなかった僕が
イナという人を受け止められるはずがないよね
イナに限らず…彼女だって…昔好きだった人達のことだって…

イナはテジュンに全部報告するって言ってた
お前は凄いな…
僕のことも一緒に受け止めようとしてるんだね

…できるの?お前…昔から見栄張って無理するとこあったから…

僕、今度はお前に遠慮しないよ
イナが色んな事、教えてくれるんだ
思いを口にすることの大切さとか、それにどう答えるかとか…
僕を気遣いながらイナも自分の気持ちを僕に伝えてくれている
そのイナの『やり方』も、僕には大いに勉強になるんだ

イナはね、お前が好きなんだって…
お前がいるから『キム・イナ』なんだって…
めちゃくちゃ悔しいけど、僕なんかがどう足掻いたってそれは変わらないだろうな…
少しずつ人の気持ちが『本当に』見えてきたよ
僕が見せなきゃ相手も見せてくれないんだね…
ただ優しいだけじゃダメなんだよね…
テジュン、ごめんな…
もう少しだけ…イナと居させて…

『それで本当に好きになったら…どうするんだ、お前…』

そうなったら…
その時は…
僕、どうするんだろう…
イナを…本当に…好きに…なるだろうか…


閉店時間になり、僕は車から降りてタバコを咥えた
この間と同じ状況を作り、この間と同じ気持ちへと自分を追いやる
ドアが開き、一番にイナが飛び出してきた
僕が待っていると知っていたからだ

僕を見つけて弾けるような笑顔を見せた
僕はその笑顔に応えて笑った
でも
この間のような気持ちは湧いてこなかった
ヨンナムの笑顔が焼きついていて…

イナが僕に駆け寄る
とても嬉しそうにしている
そう?嬉しいの?
僕はフッと笑い、助手席のドアを開ける…イナから顔を背けて…
運転席に乗り込むと、イナが微笑みながら僕に話しかける
僕はイナの顔を見ずに、すぐにエンジンをかけた

「ありがとうテジュン」
「いや、どういたしまして。どこへ行く?」
「えっと…どこでもいいよ。テジュンの部屋でも俺の部屋でも…別の場所でもいいよ」
「…」
「テジュン、明日も仕事だろ?テジュンの都合のいい場所で」
「じゃあお前のマンションだ」

車をRRHに向けて走らせる
イナは僕の方を見つめている
どんな顔をしているのだろう、イナは…そして僕は…

「あの…あのね…テジュン…。今朝、お前が会社に行ってから、ヨンナムさんとはなし…」
「イナ」

思いがけずとても低い声が出た
イナがビクリとしたのが解った

「運転中だから…。その話はキチンと聞きたいから…。部屋に着いてからにして…」
「あ…そうだな…うん…ごめん…」

イナは口を閉じた
車内は静かになり、僕は沈黙に押し殺されそうになる
イナが再び口を開いた

「じゃ、仕事。仕事どうだったか話してよ…」

少しほっとした

「しごと…仕事ねぇ…普通だよ…」

馬鹿な僕
話が終わってしまう…
慌てて言葉を捜した

「今月少し暇になるらしい。研修も講演会もあまりないらしいんだ。それで先輩が…そうそう、先輩が明日、BHCに行きたいってさ」

うってつけの話題だ

「ジャンスさんが?明日?ほんと?」
「ああ。連れて行けってうるさかった」
「解った。何人で来るの?」
「僕と二人」
「ふぅん…。誰か指名は?」
「イナだろ?それからぁ…うーん…」
「…ラブ?」
「はは…ラブな、いいなぁ」
「…」
「ふはは。いや、お前が居れば、ほかは別に…。でも先輩に全員の顔は見せたいなぁ…」
「ん。じゃ、メンバー全員がジャンスさんに一芸ずつ見せるってことにする」
「そりゃ先輩喜ぶぞ」
「でしょ?」
「あっでもソクはいらない」
「なんでさ」
「あいつはいい!不愉快だから」
「そんな事言ったって、スヒョクが来たら絶対ついてくるよ」
「ヤだな」
「面白いからいいじゃん、ジャンスさんのびっくり顔が見たい」
「ああ…それは見たいなぁ…」
「そこにヨンナムさんが配達にきたら、三人並べて見せてやりたいなぁ」
「…」

ヨンナムの名前を聞いた途端、僕は喋れなくなった

閉店時間になって、店を飛び出した
思った通り、テジュンが待っていてくれた
俺は嬉しくて堪らなかった
でも
テジュンは口の端を上げただけで
瞳が鋼のようだった…
俺は気づかないふりをして
笑顔でテジュンに抱きつこうとした
テジュンはスッと助手席のドアを開け、中に入るように俺を促した
流れのまま俺は、車内に滑り込む

運転席に座ったテジュンを見つめ、微笑む
テジュンの顔は強張っている
無理に口角を上げているが
笑顔には見えない

それだけ揺れたってことだ…
テジュン
お前をもっと揺らすかもしれない…

そう思いながら俺はテジュンに礼を言った

RRHへと向かう車の中で、俺は口を開いた
ヨンナムさんとの事を話そうと思った
テジュンは低い声で俺の名前を呼んだ
俺の体は予想外にビクついた

跳ね返すようなその声に
ここでは話せないと悟り
話題をテジュンの仕事へと変えた
テジュンはぶっきらぼうに答えたあと、動揺して取り繕った

もうこんなに乱れていると感じた

それからジャンスさんの話をし、何気なくヨンナムさんの名前を口にした
テジュンの体に罅が入ったように見えた…
それで俺はまた、話題を変えた

「今日は早く終わったの?」
「…あ…ああ…うん…。あ…。そ…そうだ…、スヨンさんと…」
「スヨン?」
「仕事のことでメールのやり取りをしてるんだ」
「ふぅん」
「今日もメールを送ったらすぐに返事がきてね」
「スヨンも…仕事してたの?」
「ああ。二人で済州島に来いって…。またそのうち済州島でテスト研修があるんだ。こないだの研修の仕上げ。お前、休み取れる?」
「…前もって言ってくれたら取れると思う…」
「…行くか?」
「…邪魔じゃない?」
「仕事中は相手してやれないけど」
「いいよ。済州島なら一人で動けるし…。懐かしいな…行きたい」
「行こうか」
「…うん…」

テジュンに笑顔が戻った
スヨンと『チャット』をしたと言っていた
随分気持ちが和んだらしい
いい人が見つかりますようにと送ると、余計なお世話だと叱られた…と笑った
懐かしいスヨンの話で場が持ち直した
俺は心の中でスヨンに礼を言った


イナが話を切り替えた
それで僕はスヨンさんとのやり取りがあると話した
チャットの内容は伏せ、最後の言葉だけを伝えた
イナはフフフと笑っていた
ユンヒに似たスヨンさんに救われた気がした

やがてRRHに着き、車を駐車場に止めて僕達はエレベーターに乗った
部屋に入ったら…イナの話が始まるのだ
聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちが順番に押し寄せる
ふとイナの手が僕の手に触れ、そして柔らかく包み込んだ
僕はイナの方に顔を向けた
きっと情けない顔をしているのだ僕は…
イナは微笑んでいた
僕の好きな笑顔で
温かく微笑んでいた

お前
どうしてそんな顔してるの?
何かいい事があった?
ねえ
僕はどんな顔になってる?
偉そうな事言ってるくせに
こんなにぐらついている

やがて40階につき、箱の中から出る
まだミンチョルさんやギョンジンたちは戻って来ていない
僕達二人だけがこの広いフロアにいるのだ

正面のリビングの窓から
遠くの夜景が見える
いつだったか僕は
この場所でイナを…

僕はイナの腕を引っ張り壁に押し付けた
イナは驚いた顔で僕を見ている
イナの顔の横に両手をついて逃がさないようにする

僕はお前が好きだよ

顔を近づけてイナに接吻する
イナは
僕の首に
ゆっくりと両腕を回し
うっとりと僕の舌に応える

僕は引きちぎる様に唇を離し
イナの部屋の方に進む
一瞬のちにイナが僕の後ろに続く
僕は
長い廊下に
僕の体のパーツを
ぽとん ぽとんと
落っことしている


ふぐブルー   足バンさん

ギスは本当にニガムシを噛み潰した顔がよく似合う
…と言ったら余計にヘソを曲げた

「だめだ!」
「いーじゃんひとりくらいバイト雇ってよぉ」
「ふん…最近はおまえの紹介のデザイナーだとか技師だとかで会社の名簿は一杯だ
 これ以上カン・ドンジュン族を増やしてたまるか」
「ひどぉーい…半分以上ギスの昔の部下だしぃ…みんなすごぉーく才能あるんだよぉ」

ギスはオフィスの椅子にふんぞり返ってデスクに足を乗せ
憎たらしい顔でソファの僕を睨んでる

このポーズとってる時のヤツはワケもなく意固地になってるって知ってるから
僕は仕方なくふざけるのを止めて立ち上がり
ギスのデスクによっこいしょと尻を乗せて一冊のファイルを放った

「何だよこれは」
「夕べ人事部長に送ってもらったリストをもう一度チェックした」
「人事部長まで取り込んだのか!」
「人聞き悪いこと言わないでよ、ハリョンが通してくれたんだから」
「まったく…」
「んでね、もうほとんど人員は絞り込まれてきてて人件費は10%近く落とせてる」
「わかってる!」
「IMD発表の我が国の国際競争力は去年より10位も下がったでしょ?
 中でも労働市場の柔軟性不足で”企業経営の効率性”って部門がめちゃくちゃ下がったんだよ」
「知ってる!」
「んで”健全経営”の基礎は人材の善し悪しだって重役たちも先日認めたでしょ?」
「ああ!」

「ヒュンダイ会長逮捕なんかでもいろいろ取り沙汰されてるけど
 年間何十億ウォンも労組に裏金渡してるような企業の悪癖は一掃しなきゃだめだ」
「わかってる!」
「わかってたらこの名簿見てみてよ、これ以上でも以下でもないでしょ
 過去に中味のない運動に奔走した人なんてひとりもいないはずだ」
「まぁ…ごほっ…それは人事部長も認めてたよ」
「ホント?なんだ…あいつ顔は蝋人形みたいで恐いけど物わかりいいじゃん」

「で?そのアルバイトと何の関係がある」
「僕は雇用には慎重だとわかってもらった上で…これよ」

僕は昨日ちょっくら預かったジュノ君のノートと
今朝送ってもらった彼の履歴を取り出して広げた

「ちっと今のままじゃメカニックが弱いかなと思ってたんだけど後回しにしてたんだ
 彼なら既存のメカも数こなしてるから話しが早いと思って」
「K大在籍か?」
「これからは今まで以上に機密性が重要になるでしょ
 だからメカニックも信用できるやつを揃えておかなけりゃなんないと考えたわけ」
「ふん」
「使えそうなら将来は正社員でもいい…僕は同族で散々痛い目にあってるから
 知り合いだからって引き受けないけど、戦力になりそうなら別」
「保証できるか?」
「彼を紹介した人間はここの重役連中より信頼できるよ」
「他に下心はないんだな?」
「あるわけないじゃん」

casa出入り禁止がイタイ…って件についての言及は必要ナシ
彼の奥さんがハリョン酷似だってことも…言及必要ナシ…にしとこ

デスクの電話が鳴りギスが出る
何やらペコペコしながら英語で喋ってる間に採用決定書を差し出し
デスクから尻を下ろして今度は顎を乗せてニコニコしてたら
彼は口をヘの字にしながらサインした

「ヨッシャー!再度デザートゲット!」

…って僕の名誉のために言えば決しておやつのための交渉じゃありません

ジュノ君についてはマジで使えそうだと思った
デザインってったってかっこいいコンセプトカーの絵を描けばいいってもんじゃない
技術力っていう高付加価値があってこその”形”だし
こんな地道なノートとれるやつはきっと勘だけじゃない何かを持ってる
…なんちって偉そうなことを考えたわけだけど

ギスが僕を呼び止め電話に出ろと言う
相手はあのアルパチーノフランス風だっていうから驚いた

「ボンジュール!って…いったい朝何時から仕事してるの?あなた」
「あ?今?上海なの?じゃニーハオ!」
「うん…憶えてますよ」
「ふふ…それは無理だって言ったじゃないですか」
「うん…順調です…え?うははは」
「そうですか…はい了解しました」
「え?ほんと?…うーん…じゃぁ…タブリエ!黒いの!…うんっそういうやつ!」
「はーい…それではまた!」

「おまえ…どうしてあの人とそういう話し方ができるんだ?」
「さぁ…普通だけど」
「だって相手は天下の…まぁいい…で?何が無理なんだ?」
「え?ああ…彼パリで僕を引き抜きたいって言ってたから」
「なにいいいっっっ!」
「だから無理だって断ってんの」
「そういうことは真っ先に俺の耳に入れてもらわんと困る!」
「だって断ったんだから同じでしょ」
「まったく!…で?タブリって何だ?」
「タ・ブ・リ・エ!こっち来る時のお土産は何がいいかっていうから」
「だから何だそれは!」
「無修正写真集」
「ぬぁにいいいいいいいっっっ!俺にも…」
「うそ!エプロンのことだよ」
「…」

なぜか力尽きた感じのギスが椅子に沈むとノックとともにハリョンが入ってきた

「あら…また喧嘩したの?飽きないわね」
「ギスが無修正写」
「ぐああああ!いいから!何だ!おまえ病院じゃなかったのか」
「行ったわよ…何でもないって」
「う…そうか…」

「じゃ僕はまた資料室借りるよ」
「おうっ今週中に頼むぞっ役員会だからな」

ギスの部屋を出て社員用のラウンジでひと息入れてると
いつの間にか近づいていたハリョンが冷えた缶珈琲を差し出し僕はそれを受けとった

「病院って何?どっか調子でも悪いの?」
「うふふん」
「え?まさか…」
「じゃなかった…ってこと」
「そっか…驚いた…」

缶珈琲を握ったままのハリョンは窓から外を眺めてる
それほど高層でもないけれど道路の向こうのビルはどれも低く
思ったより視界の開ける場所だった

「式もまだだし仕事もこれからだっていうのに…ちゃんと管理できなくてダメな私」
「ハリョンひとりの問題じゃないじゃない」
「うん…でも正直言うと…私が…ちょっと迷ってたの」
「ん?」
「会社の方向も見えてきたし…子供ができたらもう辞めてもいいのかなって…仕事」
「やなことでもあるの?」
「ううん…ここまで突っ走ってきたけど…そんな人生もいいかもってね」
「ふぅん…」
「ギスをずっと支えてきたけど…あの人が親になった姿も見たいかななんて…」

ハリョンの横顔はほわりと優しい窓からの明かりに包まれている
そんな彼女を見るのは初めてのような気もした

「ギスは何て言ってるの?」
「その話になると照れてばかりで…てんでだめなの」
「よぉーし僕がちっと言ってきてやる!」
「大丈夫よ!ちゃんと話はしてるから」
「くふふ…冗談だよーん…でもそりゃきっと肯定してるんだな」
「うん…そうみたい」

僕はあの不器用なニガムシ男が急にかわいらしく思えて仕方がなかった

「自然に任せなよ…もし受け入れられる気持ちも体勢もあるなら」
「そうね…」
「僕もビジネスシーンじゃないハリョンも見てみたいし」
「そう?じゃ頑張っちゃおうかな」
「ちょっと…仮にも元カレの前でそういうこと言う?」
「あら…あなたカレだったの?」

相変わらずのハリョンの攻撃は楽しかった
そして何はともあれ幸せそうな人たちの空気を感じるのは心地よかった

「あなたって変わったわね…昔より優しいもんね」
「そう?」
「やっぱりあの人のお陰かなぁ」
「さぁね」
「映画の方はもう進んでるの?」
「んにゃ…来週あたりかららしいけど…よく知らない」

嘘ばっかり…
スヒョンのスケジュールは全部頭に入ってる

今日のパチフラの電話ではっきりした会議の予定も
スヒョンの日本ロケの辺りだってことまでわかってしまった
僕の頭の中のどこがそんな作業をするんだか…
瞬時にそんなことまで考えてしまう自分が悔しいような気さえする

ハリョンはほんのちょっとだけ伏せた僕の表情を読んだのか
いきなり勢いよくベンチから立ち上がって伸びをした

「さぁて仕事に戻ろう!ドンジュンもホレ!お仕事お仕事!」
「はいはい」
「自然に任せましょう、お互いに」
「あ?」
「ね!」
「あ…うん…」
「じゃ、昨日頼まれた書類は今日中に仕上げます」

ハリョンは笑いながら敬礼すると
自分の未開封の缶を僕にトスしてラウンジの外に消えた
その缶が思いがけずホットだったことになぜか驚いた

もうひと肌になったその缶を頬に当てて目を閉じる
その暖かさに誰かを思い出さずにはいられないバカな自分

ハリョンは違った自分のもあるかもしれないって…未来を見てる
僕はいったいどんな風にしたいんだろう
スヒョンのこと…自分のこと…
自然に任せたら…どこに行きつくって?

「あああっもう!いかん!ジジイめ!チクショー!」
と叫んで立ち上がったらラウンジの隅にいた気の弱そうな社員がビクっとした

その勢いでcasaに「ジュノ君OK」の電話を入れ
冷たい缶と暖かい缶を両手に持って仕事に向かった

とりあえず今の僕にはそれしかできないし


千の想い 86   ぴかろん

エレベーターを降りた途端テジュンが俺を掴まえてキスをした

テジュンの体中に罅が入っている

俺はまたそう感じた
揺れているテジュンにそっと手を伸ばし包み込む

俺はテジュンが好きだよ…

テジュンの遠慮の無い舌をゆっくりと味わい
テジュンが落ち着くことを願う
薄く開けた目に
街の灯りがぼんやり映る
その瞬間テジュンは俺の唇を離し
一人で俺の部屋へ向かった
俺は唾を飲み込んで
すぐにその背中を追った

部屋に入ったら
俺はお前をもっと揺さぶる
けどテジュン俺は…


部屋に入りイナがドアを閉めた途端
もう一度イナの唇を塞いだ

聞きたい
聞きたくない
聞きたい
聞きたくない

順番に叫んでいた僕の中の善人と悪人が
徐々に同時に声を上げ始め、僕は混乱した


部屋に入ったと同時に
テジュンの唇が俺の唇に重なった
まるで昨日の俺のように
テジュンの動きは性急だった

俺はひとしきりテジュンのくちづけに応えてから
そっと顔をずらした


イナが俯いて言った

「話…聞いてくれる?」
「…ああ…」

聞きたい
聞きたくない

イナはベッドの淵に座り、僕はその向かいにある椅子に腰掛けた
イナの顔を見ることができずに床に視線を落とした

「今朝…ヨンナムさんにいきなり言われた。『僕の事、好きだろ?』って…。ヨンナムさん、お前と話していて気付いたって
お前…俺の気持ちをあの人に伝えたの?」
「…。さぁ…」
「…。暫くシラをきってたんだけど…本当の事を言った」
「…そう…」

イナは、最初感じていたヨンナムへの気持ちと、僕が済州島から帰って来てからの気持ちを、あいつに伝えたと言った

「お前が俺の気持ち全部聞いてくれたから…俺…ほんとに楽になった。それからヨンナムさんに対する気持ちも変わった
『恋じゃない』って言い切れないけど、でも俺にはお前じゃなきゃダメだって解ったし…。その事も伝えた…」

どうして僕じゃなきゃダメ?
僕が済州島から帰って来てから?
ああ…そうだ
お前あれから随分感じるようになったもの…
そうか…
僕の『からだ』に満足したのか…それで?僕じゃなきゃダメ?

何言ってるんだ
イナはそんな男じゃない!
僕の全てを必要としてるんじゃないか!
僕の胸で泣けと、僕に全部吐き出せと
僕はイナに言ったじゃないか
そして僕はイナの言葉を受け止めたんじゃないか
僕にしか出来ない
ヨンナムなんかには出来ない事だ!
イナが僕に安心して甘えていたのを思い出せ
僕はイナにとって、必要な男なんだ!

「俺、ホントに楽になれたから…ありがと、テジュン」
「…。あ…うん…」

かろうじて返事をし、話の続きを聞いた
ヨンナムがイナに甘えさせてほしいと頼んだ事…それは僕もあいつから聞いていた事だ
暫くでいいから傍にいて欲しいと言った事…それも僕は聞いていた…

「それで俺…俺達…少し『付き合う』事にしたんだ…」

『付き合う』
…?…
 どういう意味だろう

僕の頭の中身が加速度をつけて回転しだした


『付き合う事にした』と告げた時、俺はテジュンのからだに亀裂が入ったのを見たような気がした
揺らすどころか俺はテジュンを切り崩している
それでも俺は止めなかった

「話を聞いたり、時々デートしたり、甘えさせてあげたり…それから今日…キス…したん」

突然テジュンが覆いかぶさってきた
俺は勢いでベッドに押し倒され、また唇をふさがれた
テジュンの手が俺のシャツとベルトにかかる
俺はテジュンの頬を挟んで必死で押し戻した
離れた唇が言った

「先に抱かせろ」

昨日俺は『先に欲しい』とお前をねだった
今日のお前は『痛み』を散らすために俺をねだっている?

そんなに…痛いの?


僕は今『どの時空』にいるのだろう
これは僕の『済州島出張前』か?
あの時僕はラブをこんな風に…
いや、そんな夢を見ただけか?
僕はイナとヨンナムの抱擁を見て
頭の中がぐちゃぐちゃになって
それでイナをこうして…
いや…違う
今は…今は僕は…

イナの唇を塞いで
イナの腕に押し戻されて
腹が立って『抱かせろ』ときつく言った

イナは息を詰まらせて僕を見た

泣けよ
いつもみたいにグスグス泣けよ!
喜ばせてやる
お気に入りだろ?僕の体が!
何か言えよ!僕の好きなその唇で
ヨンナムとキスしたっていうその唇で僕に何か言えよ!

僕はイナのズボンを乱暴に剥ぎ取った


テジュンの体がはらはらと崩れていく
俺が杭を打った…
亀裂が走る
それでも俺は杭を打ち続ける

俺を受け止めると言った
俺が誰を好きでも構わないと言った
ほんの数日前だ
昨日だって優しく俺を包んでくれた

そんなに
ヨンナムさんが
こわい?

俺は
お前に
酷い事をしてるね

『抱かせろ』と言ってからテジュンは俺の顔を見つめた
テジュンの瞳の色が憎悪と慈愛とで交互に染められ
終いには憎悪が競り勝った

俺の首筋に唇を這わせ、手は俺の体を弄った
俺はテジュンが消えてしまわないように
そっと背中に手を回し、心の中で唱え続けた

俺はここに居るから
俺はここに居るから…

テジュンが闘っている
テジュンが苦しんでいる
俺には手出しできないところで

俺は泣かない
お前が苦しいなら
俺が傍にいてそれを半分にする
お前がそうしてくれたように
俺もそうする
きっとお前は勝つ
心の中で唱え続けた


泣きもしない
喚きもしない
抵抗もしない

腹が立つ

何か言えよ
何か叫べよ
助けを求めろよ!

何故そんな風に僕に触れる
何故落ち着いている

お前がそんな顔すればするほど
僕はどんどんお前を抉る

乱暴なくちづけと愛撫の後に
僕はイナの足首を取り
頭の方に押しつけて
イナと交わった

イナの押し殺した悲鳴が聞こえる
僕は頭上を見上げた

なぜここには
澱んだ空気を緩やかに押し流してくれる
あのモビールが無いのだろう…


テジュンが
俺を
貫き刻む
激痛を散らそうと息を吐いた
頭がおかしくなりそうだ


泣けよ
痛いと言えよ
止めてくれと叫べよ

許してくださいと
お願いだからと
何故言わない!


テジュンを切り刻んだから
俺も切り刻まれるのか
そうかもしれない

俺が声をあげれば
俺の上にいるテジュンは満足するのだろう
でも
そうすれば今度は
奥に隠れてしまっているテジュンがバラバラになる
こんな事ぐらいなんでもない

『あんな事なんでもない』
ラブ…
なんでもない
ほんとだ…こんな事…なんでもない…

俺は痛みに堪えながら
テジュンの動きに沿った


合わせるな!
僕に合わせるな!
お前を貫き通してやる!
合わせるな!
僕が散ってしまう…ああ…


テジュンの目が彷徨い始め
体を震わせて俺に落ちてくる
俺はテジュンの体を抱いて
テジュンの背中を撫でながら
震えている俺の心も撫でた
肩で息をしていたテジュンは
突然立ち上がってバスルームに消えた
俺はそっと体を動かしてみた
痛みが走った
なんとかベッドの端に座って
テジュンが出てくるのを待つ

まだ伝えていない
俺はお前が好きなんだと
お前がいてくれるからあの人を支えようと思ったと
お前とあの人がお互いの気付かない部分に
触れ合って欲しいのだと
あの人に幸せになって欲しいのだと
俺は言いたいことを何も伝えていない
伝えなければ…

こんなにもお前が
バラバラになってしまうなんて


今はいつ?
僕は今何をした?
イナを抱いた?
抱いたのか?
犯したんじゃないのか?
それとも夢かな…
イナを愛しているのに
僕がそんな酷い事するわけないじゃない…
じゃ、僕の体…なんでこんなに震えてるの?

帰ろう…
帰らなくちゃ…
僕は明日仕事をしなくちゃ…


テジュンがバスルームから出てきた
俺は笑顔を作ってテジュンを迎えた
テジュンは散らばっていた服を順に着て
俺を見ようともせずに部屋の扉を開けた

「どこ行くの?…テジュン?テジュン!」
「帰る」
「待ってよ、まだ何も話してない!」
「帰る…」

パタン…

閉じられたドアを見て、俺は床に落ちているズボンを身に付け、テジュンを追った
体が痛くて思うように動けない
テジュンが帰ってしまう
必死でエレベーターホールにたどり着いた

「テジュン!待ってよ!俺、まだ何も言ってない!」
「聞きたくない」
「テジュン!」

エレベーターの扉が開き、中からギョンジンとラブが出てきた
ラブはテジュンの顔を見て泣きそうになった
テジュンは入れ替わりに箱に乗り、ラブに向かって一言吐いた

「ラブはいいな…ギョンジンが助けにきてくれて…」

声をかけようとしたラブの唇をギョンジンの掌が塞いだ
ギョンジンは何も言わず、テジュンを睨むように見つめていた
箱の扉が閉まった

「て…」

閉めただけだ…
きっと開く…

けれど箱は階下へ行ってしまった

ううん…もう一度、ここへ戻ってくる
今に箱が上がって来る

俺は歯を食いしばって移動を示すランプを見つめていた
階数ランプは1のままで、俺は長いことそこに突っ立っていた
ギョンジンはラブを引き摺って部屋に行った
テジュンは戻って来てくれる
テジュンは必ず勝つんだから
何度も唾を飲み込んでランプを見続けた

突然、ランプが動いた
ああ…
ああ…
あふれそうになる涙を必死で堪えた
テジュン
テジュン…

俺の目の前の扉の向こうに
テジュンがいるのだ
深く傷ついてもがいたテジュンが
勝って帰って来てくれたんだ
扉が開く間がもどかしかった

「…イナ…」
「…」

箱から出てきたのは…ミンチョルとギョンビンだった

「…ど…したんだお前…」
「…テジュンは?テジュンは?!」
「テジュンさん?…ああ…車とすれ違った…けど…」
「…くるま…」
「RRHの駐車場から出て行った…」

腹の底に衝撃を感じた
俺はからだを引き摺って部屋に戻った
後ろでミンチョルの声がしたようだが何を言っているのかわからない

部屋に入ってバスルームに直行した
俺は泣かなかった
声が出そうだったけど
泣かなかった

すぐには無理だ
すぐには…
そんなに傷ついてしまったなんて
話も聞けないほど?
俺が抗わなかったから?
なんで?
俺は
こんな事
なんとも思ってない!
テジュン!


Journey in the Universe   オリーさん

宇宙の扉をそっと開き
僕は静かに進入する
彼が目を醒まさないように
彼が目を醒ましてくれるように
相反する思いを胸に、静かに動き出す

宇宙の無限に包まれて
僕は思わず目を閉じる
体中の神経を集中して宇宙を探索する
飲み込まれそうになるのを
懸命にこらえて旅を始める

まだ眠っているのだろうか
閉じられたまぶたが
いっそう僕を駆り立てる

ねえ、目を醒まして
ううん、醒まさないで
僕は一人で旅に出る

静かにゆっくりと旅を続ける
想いのありったけをこめて

彼の口元にかすかな微笑みが浮かぶ
すべてを受けとめるかのような
慈愛のこもった
そして誘うような微笑み
それを見て僕は勇気が湧く

いいの?
こうしていていいの?
僕は心の中で囁く

微笑みが大きくなったような気がする
それを見た僕の内から
押さえ切れない激情が沸きあがり
僕の中心をつらぬく

かろうじて震える体を封じ込め
静かにゆっくりと旅を続ける
そのまま旅はつづき
僕は宇宙を手の中に入れたような
錯覚に陥る

ねえ、いいの?
やっぱり聞きたい
ねえ、目が醒めてる?

僕はシーツの上に投げ出された彼の手に
自分の手を重ね握りしめる
彼の口元がほころび
小さな吐息が漏れる

それを聞いた僕の内から
再び止めようもない激情が押し寄せ
今度はその波に抗えない

ねえ、もういい?
そう囁きながら
彼の胸に頭の先をつける

返事はない
そのかわりに
彼の唇からまた吐息がもれる
僕は静かな旅に終わりを告げる

果てしない宇宙に飲み込まれながら
少しづつ昇っていく
彼は目を閉じたまま
密やかな微笑みを浮かべている

綺麗だよ
どうしようもないくらい綺麗だ

昇りつめた僕は最後に彼と一緒になる
ふたりでひとつになって
ただ宇宙の果てをさまよう

最後の瞬間
僕の下で彼はわずかに首をのけぞらせ
そしてさらに微笑む
彼のまわりに花びらが散った

綺麗だよ

僕は思う
ふたりなら
宇宙の果てで
塵になってもかまわない

旅の終わりに彼の胸に倒れこんだ僕は
彼の腕に包まれる
そのまま僕は眠りにつく

眠りに落ちる手前に僕は聞く
ねえ、いつから起きてた?
彼は答えず
僕をただ抱きしめる

おやすみ
ミスター・ユニバース







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