ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

リレー企画 222

千の想い 123   ぴかろん

「よう出てきたな。んじゃ俺、帰るぞテジュン」
「…ありがとうございました…」
「…ジャンスさん、帰っちゃうの?」
「そ。ワイフと子供たちの待つ家にぃぃひひーん」

ジャンスさんはニコニコ笑って飛び跳ねた

「ほんとは屋台で一杯とか思ってたんだけど、テソン君にこぉんなお土産貰っちゃったし♪それに意地悪垂れ目が帰れって言うし(;_;)
だから…近いうちにまた来るわ。んじゃな♪」

手を振りながら飛び跳ねて、ジャンスさんは大通りに向かっていった

「イナ…」

見送る俺の視界を、テジュンが遮った

「行こう…」
「…どこへ…」

低い、小さな声しか出せなかった

「飲みに行く?それともまっすぐ帰る?」
「…どこへ…」
「…」

テジュンが俺の顔を覗き込んだ

「少し歩くか…」
「…」
「家で話すのがイヤなら、散歩しながら話そうか…ね?」
「…ああ…」

やっとの事でそう答えた
これ以上何か言うと泣き喚きそうだ

テジュンは俺の肘をそっと掴んでゆっくり歩き出した
俺は引っ張られるようにテジュンについていった
一体どこへ行くつもりだろう
うちも、テジュンのうちもイヤだった
飲みに行くのもイヤだった
歩きながら話すのはいい選択だ。気が紛れる…
でも『話』なんてできるのだろうか…

テジュンと俺は暫く無言で並んで歩いた
コンビニエンス・ストアの前で立ち止まったテジュンは、ちょっと待っててと言い残して店の中に入って行った
袋を提げて出てくると、お待たせ、行こうと言ってまた俺の肘を掴んだ
結構長い距離を歩いた
俺は歩きながら今朝からの出来事を思い起こしていた
ホッとできたのは…ヨンナムさんといた時だけだったように思う

「あそこ、行こう」

テジュンの指さす方向を見ると、あの公園があった

「…テジュン…ここ…ヨンナムさんの…」
「ここならゆっくり話ができる」
「…やだ…なんでこんなとこ…」
「行こう」

俺の腕を引っ張るテジュン
夜の公園は怖い
ここには『彼女』がいる
そんな理由を思い浮かべ、俺は足を踏ん張って抵抗した
テジュンは訝しげに俺を見て、もう一度腕を引っ張った
イヤだと言えばいいのに俺は歯を食いしばって動こうとしなかった

「ヨンナムの…聖地だからか?ただの公園だぞ?」
「…」
「なんで黙り込んじゃうの?何考えてるのかわかんないじゃない…」
「…」
「イナ…行こう。話がしたい」

腕を引くテジュン、抵抗する俺
意地の張り合いをしているみたいだ

「ぃやだ!」

声を発した途端、テジュンの手が離れた
喚いてもがいた俺からパッと手を離したヨンナムさんを思いだした

「…わかったよ…もういい…僕と話す気なんかないんだ」

テジュンの顔は強張っていた

「僕に愛想がつきたんだろ?そうだろ?!」

テジュンが怒鳴り、俺に背を向けて来た道を引き返し始めた
また靄の中に放り出されたような感覚に陥り、俺はぼーっと突っ立っていた
俺、何やってんだ…どうしたいんだ?これからどうなりたいんだ?
ちゃんと話をしたいと、そう思ってついてきたんじゃないのか?
家がイヤで飲みに行くのもイヤで、ここもイヤで…
ずっと押し黙ったままここまで来た
ただ拗ねてだだを捏ねているだけじゃないか!
ちゃんと…自分の気持ちを…伝えたい…そう思ってついてきたんじゃないのか?
ちゃんとテジュンの気持ちを聞きたいとそう思って俺は…

両拳を握り締め、俺は声を絞り出した

「テジュン…、テジュン!テジュン!」

カツカツと早足で去っていくテジュンの足音が響く

「テジュン!テジュンっ!テジュン」

涙がぽろぽろと溢れ出した

「てじゅ…てじゅんっ」

いつの間にか泣き叫んでいた

「…イナ…」
「てじゅ…てじゅん…いやだ…」

俺の声に驚き、テジュンが走って戻ってきた

「…イナ…。イヤなんだろ?話なんかしたくないんだろ?こんな情けない男とは…」
「ちが…はなし…したい…」
「じゃ…どうして口きいてくれないのさ!どうして黙り込んじゃうのさイナ!」
「おれ…ないてしまう…。こんな風に泣いて喚いて…。話したいのに…できないっ!」


イナの顔が大きく歪んだ
うまく言葉にできずにもどかしがっている子供

「くち…くちきいたら…こんなになっちゃうっ…めちゃくちゃになっちゃうから…俺…俺…」
「…イナ…」
「はなし…したい…ちゃんと…俺の気持ち…言いたい…お前に…」
「僕もだ、イナ…」

泣きじゃくるイナを抱きしめた
今まで何度こんな事をしただろう
僕はイナの背中を撫で、少し落ち着かせてから公園に入った
イナは抗わずについてきた

こないだの酔っ払いのジイさん、いるかな…
僕はcasaからの帰りを思い出し、あの時と同じ木の下にイナを座らせた

「夜の公園もいいもんだろ?」

辺りを見回すイナの横に腰を降ろしながら僕は言った
イナは答えずに少し身震いした
知らない土地に放り出された子犬

「あ…しまった…」

声をあげた僕に向かって、イナは黙ったまま『どうしたの?』という顔をした

「スクリューキャップじゃない焼酎にしちゃった…しまった、ジイさんに言われてたのに…バカだな、僕…栓抜きないのにな…」

齧ってこじ開けようと試みたがうまくいかない。かっちりと嵌っている王冠と格闘していると、イナの手がそっと伸びてきて、僕から焼酎のビンを奪って行った
コキン
丈夫そうな歯が、固く閉じられた栓を開ける

…僕の心もそうやって遠慮なくこじ開けていいんだよ、イナ…

王冠をフイッと吹き飛ばし、イナは涙だらけの笑顔で僕にそのビンを渡してくれた
受け取ると同時に僕は上目でイナを見つめながら、もう1本の焼酎のビンを差し出した
イナは呆れたようにそのビンを見、ひったくってまた歯で栓を抜いた

「ひっく…二本も…飲むの?」

開けたビンを僕の方に突き出しながらイナが言った

「それ…お前の分」

そう答えながらイナのビンに僕のビンをコツンとぶつける

「乾杯」

イナはフンと息を吐いて腕を下ろした
僕は焼酎を一流し、体に入れた
イナも少しだけそれを飲んだ
口の端から焼酎が滴っている

はぁ…

ため息を吐いたままの形で、イナの唇は暫く動かなかった
僕の想いがその滴を啜りに行き、そのままイナに纏わりついている
軽く頭を振って幻を払う
もう一口飲んで僕は切り出した

「どう話したらいいのか、歩きながら考えてた。済州島から帰って来て、僕がお前に言った事、僕、何一つまともにできてない…」
「…え…」
「ヨンナムごとお前を包み込みたいとか、お前が誰を好きでも構わないんだとか…ちっともできてない…」
「…」
「でも、本当にそうしたいと思ってるんだ。そうなりたいんだ僕…」
「…うん…」
「けど…挫けてばかりいる…ごめんな…」
「…俺…」

なにか言いかけて、イナは一口焼酎を飲み、目を閉じた

「イナ…」
「…なに…」
「本音、言い合おう…」
「え?」
「自分の思ってる事、一言ずつ、ぶちまけないか?」
「…」
「いい事だけじゃなくて、嫌な事も全部。僕はお前がどんな事考えてるか全部知りたい」
「…傷…つけるような事も?」
「…うん。イヤか?」

イナは俯いて考え込んだ

本音
僕の本当の気持ち
それは僕自身が探り出したい事だ
一体どこに『真実』があるのか…
本当に求めるものは何か…
僕達の前を横切る誘惑に惑わされない僕自身の純粋な気持ち
ひとつずつ絞り出して、言葉にして並べていけば
見つかるかもしれないとそう思った

「…。わかった…。俺もぶちまけたいもの…。でも、ただぶちまけたんじゃ感情的なだけだと思ってた。一つずつ…いいよ…」

そう言ってイナはまたクイッと焼酎をあおった
僕ももう一口飲んだ
それから僕達は『心の分解』をし始めた


千の想い 124   ぴかろん

「僕は、キム・イナが好きだ」
「俺は、ハン・テジュンが好きだ」
「僕は、イナにイキイキとしていてほしい」
「俺はテジュンに思いっきり仕事してほしい」
「僕はイナと一緒に生きていきたい」
「俺は…テジュンとずっと一緒にいたい…」

「僕は、イナを自由に遊ばせてやりたい」
「俺はテジュンを縛り付けたくない」
「僕はイナを幸せにしたい」
「俺はテジュンを幸せにしたい…」
「僕は…イナの全てを包み込みたい」
「俺は…テジュンを…受け止めたい」

「僕はイナに笑っていてほしい」
「…俺は…テジュンが穏やかでいてほしい」
「僕は…イナを…独り占めしたい…」
「…。俺は…。テジュンに包まって…眠りたい…」
「僕はイナを思いっきり甘えさせてあげたい」
「俺は…テジュンに…甘えたい…」
「僕はイナに甘えたい…思いっきり甘えたい…」
「俺もテジュンを包み込みたい…」

僕達はお互いにしてあげたい、してほしいと思っている事を心の倉庫から出してきた
甘く切ない想い達は、ほんの少しの衝撃で歪んだり傷ついたりする
刺激を受けた場所から棘のついた蔓が伸び、想いの本質を覆い隠してしまったりもする
イナも僕も
お互いの事が好きで
お互いに必要だと感じている
それは間違いなくそうなんだ…
僕は改めてそう思った

僕は…棘のついた蔓を引き千切り、その隣に並べてみた

「…僕は…嫉妬している…」

ヨンナムに…

イナがチラリと僕を見た

「…俺…俺は…。ラブに嫉妬し続けてる…」
「僕は…イナと一緒に過ごすヨンナムが嫌いだ!」
「俺は!…テジュンに纏わりつくラブが…憎ったらしい…」
「僕は…ヨンナムと過ごすイナに腹が立つ」
「…俺…ラブに優しいテジュン…嫌だ…」
「僕はヨンナムに微笑むイナが…嫌だ…」
「…俺…テジュンがラブと何を話しているのか知りたい…」
「…僕は…イナがヨンナムをどう思っているのか…知りたい…」
「テジュンはラブと俺と、どっちが好きなんだろう…知りたい…」
「僕は…ヨンナムがイナをどう思っているのか知りたい…」
「俺は…ラブが俺をどう思ってるのか知りたい」

イナが俯いた
僕は更に蔓を千切る
出来た掻き傷に棘が触れると途方もなく沁み痛む
痛みを堪えて蔓を並べ続ける
掻き傷を舐めると体が甘く疼く

甘い疼きの正体は何だろう…

「僕は…イナを…誰にも渡したくない」
「…俺は…テジュンを…これ以上盗まれたくない…」
「イナを縛り付けておきたい」
「テジュンの背中にくっついていたい…」
「二人だけで生きていけたらいいのに…」
「…。テジュンに…いつも…傍にいてほしい…」

甘い…矛盾…

「イナには僕だけを見ていてほしい…」
「…テジュンに嫌われたくない…」
「僕も…イナに…うっとおしがられたくない…」
「俺…俺…。…。テジュンのイイコでいたい…」
「僕だって…。イナにいい男だと思われたい」

並べられた蔓の元にある『切ない想い』の塊を見る
それを包んでいるのは、透明で弾力のある、傷つきやすい皮だ
そこに僕達は、知らず知らず滴り落ちる血で、点々と模様を描き続けていたのだ
僕達の血は透明な皮に、細く、深く、浸透している
ずっと昔に染み込んでいた血が、その中心近くで秘かに『想い』を操作している
変わらないと思い込んでいたその中心は、徐々に濁らされている
時が満ちればこの表皮が破れ、中身が爛れて溢れ出す

そんな仕組みか…
そんな風になっていたのか…
言葉にせずに堪えていたあれらの想いは
こんな風に僕達の心に
知らぬ間に浸透して増殖していたのか…

僕はそこに戻って、この上なく純粋で美しく見えるその塊に触れる
ふるる…ふるると可愛らしく揺れている
まだ伸びている棘のある蔓を、僕はぐるぐると腕に巻き、その棘で表皮に傷をつける
僕の腕も胸もまた、甘い疼きを感じる
とろとろと表皮から涙が溢れ出す
誤魔化された傷に僕は指を入れる 僕は両手を入れる 僕は表皮を掴み、両側に引き裂く
晒された心は様々な色をしている
美しい色
輝く色
可愛らしい色
そして変色したどす黒い部分…

これを切り離して捨てたら本当に美しく純粋なものに戻れる?
取り出して大急ぎで縫い合わせたら、もう棘の蔓は生えてこない?

爪を立てて取り除こうとした
そうすればするほど、驚くべき速さでどす黒い部分が拡がっていった

これは…なんだ…
どうすればいいのだ…

僕はそれを取り除く事をやめた

「ラブと…お前が寝た事…頭から離れない…」
「僕だって…お前とヨンナムが『寝た』事…ひっかかってる…」
「俺とヨンナムさんは…」
「『寝た』んだ、お前達は」
「ちが…ちがうもん!『俺達』じゃないもん!ヨンナムさんはあの時『彼女』と…」
「ヨンナムの気持ちなんかどうでもいい!お前だよ!お前は『ヨンナムと寝た』んだ!」
「…」
「…。だろ?…」

取り除くことをやめたのに、傷口は深くなる
僕が割いたからだ
僕が抉っているからだ
『僕の事実』を指摘されて僕が逆上したからだ
指摘したキム・イナを容赦なく暴き立てている
今更穿り返したところで取り返しはつかない事を
それをつついたキム・イナに
逆上した僕は逆襲している

あいつに
イナの体は貫かれていなくても
イナの心はとうに貫かれている

「…いつからあいつを好きになった…」
「…お前こそ…いつからラブを…」
「僕が聞いてるんだ!答えろよ!」
「…」

驚いた
僕がほとばしっている
傷つけたくない
傷つけたい
愛している
憎んでいる
どちらも僕だ
片面しか見せていなかったのに
今僕はキム・イナの前に、僕の前に『僕の全て』を曝け出そうとしている
僕に突きつけられた僕
仮面をむしりとられた僕
驚いた…そう言いたかったのか…
済州島から帰ってきた時の僕は
そんな想いを封じ込めていたのか

『でもそんな事よりも何よりも、お前が好きだって感情が勝っちゃった』

僅かの差で負けた想いが今頃になって噴き出している
なんて男だ僕って奴は…こんな風に自分を守っていたのか…

「…てじゅ…怖い…」

怯えている子供
怯えさせて喜んでいる僕
僕がお前に囁く『愛してる』は
僕の心を守るための呪文か?
怖れさせてどこへも行けないように追い込んでいる
これが僕の正体か?
きれいごとで飾り立てた表皮の裏に
こんなにも『僕』が詰まっていたのか…

「…ほ…ほんね…ひとことずつ」
「いつからなんだよ!いつからあいつを好きになったんだよ!どこが好き?顔が同じだから?同じ顔で優しくしてくれるから?あいつはお前を見ないと思ってたのに、どうやってあいつに取り入ったんだよ!え?」
「…てじゅ…」

イナを自由に…イナを幸せに…イナに笑っていてほしい…

僕の持っている明るい気持ち
それは全部、僕自身が平穏でいられるように紡いだ言葉?
イナに夢を見させて、その額に刻印を押し、逃がさないように…逃がさないように…

「…もう…前に…話したはずだ…。ヨンナムさんから彼女の話を聞いた時から俺…」
「僕に抱かれながらヨンナムを思い浮かべてた?ん?どう?…正東津のあのホテルで、お前は僕じゃなくてヨンナムに抱かれてた?どう?」
「…」

怯えた瞳に涙が滲んでいる

泣いた
たまんない
僕はお前の泣き顔が好きだ
僕がお前を泣かせる
僕だけがお前をそんな顔にさせる
お前を誰にも触らせない!

「…やめなよ…テジュン…」

ふいにイナの指が僕の頬に触れた
横に引いたイナの指が濡れていた
涙だと気付いた途端、僕の中からどろどろした想いが言葉に変わって出て行った

酷い言葉を…醜い言葉を…僕の執着心を『声』として発する
葬り去りたかった心を
僕は伝えている
どうしてもお前を放したくないと
毎日もがき苦しんでいるお前への執着を
僕は全て『声』に乗せている

イナは静かだった
時折涙を流していた
僕をじっと見つめながら僕の『声』を聞いていた

僕は古い傷をも穿り出した
それが全ての根源だと主張した
だから僕はあの子を抱いたのだと
僕の傷を癒してくれたあの子を愛したのだと
そして今もあの子を大切に思うと
そう言いながらイナの顔が歪むのを愉しみにしていた

けれどイナは静かだった
もう穿るものがなくなると、僕はこれからの事を口にした

「ヨンナムと会ってほしくない…」

イナは静かに返した

「…俺はテジュンに、ラブと会ってほしくない…」
「ヨンナムと会わないのなら僕もラブと会わない」

まるで子供だ

二人ともため息をついた
静かな時間が過ぎた


ビョンウの近況   足バンさん

こんにちは、ビョンウです
名前だけでは「え?建築家のほう?医者の卵のほう?」
などと言われることもしょっちゅうですが
医大生で真面目で優しげなメガネ君が僕、ビョンウです

なぜか小説家志望ジョンドゥ君と「メガネズ」と呼ばれ
色気がないと言われて最近少し悩んでるんです

先輩方のご指導のもとBHCにも少しずつ慣れてきました
勉強も忙しいのですが何とかやってます

BHCは実に多彩な魅力を持った場所です
先輩たちの個性は驚くほど豊かで
同じ顔をしているにも拘わらず千差万別
きっと同じ衣装で並んでも絶対に誰だかわかるってぐらいでしょう

特に気になるのはイヌ先生で
同じメガネズなのにこれほど印象が違うのはどういうわけか!
先日テーブルに置きっ放しになっていた先生のメガネをかけてみようとしたら
いきなりウシクさんが店に入って来て肝を冷やしました

BHCでは…僕としてはまだ把握できずにいるんですが
その…動物生殖学上極めて少数派である状況が
かなりの確率で展開されており
今度の僕の研究テーマにしてみようかななどと考えている今日この頃

タイトルは「或る倶楽部における生体としてのケヒヒン」
あ、ケヒヒンというのはギョンジンさんに教えてもらった隠語です
またジホ監督はいつでも資料提供すると言ってくれてまして
何の資料なのかはよくわかってないんですが
本当に頼りになり、ありがたい先輩たちです

そういえば先日はケヒヒンな事態(こういう使い方でいいのかな)に遭遇し
というか巻き込まれてしまい
極度に狼狽したことがありました

ことの発端はテプンさんやシチュンさんですよ

「最近ノーマル率が一気に高くなったなぁ」
「ジョンドゥおまえも早く結婚しちまえよ」

なんて始まったのはいつものことなんですがその日は

「チーフだって婚約してたしよぉ」

これが僕の悲劇の始まりです

「チーフって式の当日ドタキャンされちゃったんだよな?」
「ふふ…そう、1度はね」
「1度って…何回もあるんですかっ?」
「うん他に2回…かな」
「3回ですかっ?婚約3回っ?」
「そ」
「「「「えーーーっっっ!」」」」
「そりゃ俺らも初耳だぞおいっ!」
「全部相手が断ってきたから問題ないの」

まぁチーフはああいう方だし何の不思議もないように思えて
僕もいろいろためになる話も聞けたのでそれはよかったんですが

お開きになってロッカールームに入って行くと
ドンジュンさんが椅子に座って自分のお仕事かなんかの書類に目を通してました
ひと言ふた言声をかけてから僕は愚かにも
「チーフって3回も婚約してたんですってね」と言ってしまいました

「は?」
「先ほどみんなと聞いたんですが…さすがってか…どんなワケがあるんでしょうね」
「…」
「僕はチーフを振ったっていう女性の気が知れませんよまったく!」

僕はチーフのケヒヒンである(こういう使い方でいいんだろうか)ドンジュンさんに
チーフは魅力的だということを力説したかったんですが
ドンジュンさんの表情が険しいものになったのに気付きませんでした

「そう言ったの?スヒョンが?」
「はい?」
「3度婚約してたって言ったの?」
「え…はい…全部相手が断ったって…あの…」

その時僕は遂に「ふぐ」を「さし」で見ました
最近はお客様のリクエストも増えた芸術的なまでのふくらみ…
って感動してる場合ではなかったのです
そういうタイミングで当のチーフが部屋に入ってきたものですから

「ドンジュン今夜は…あれ?…何ふくれてるの?」
「今聞いたんだけど!婚約3回って何さ」
「何って…そのままだけど」
「1回は知ってたけど!あと2回って何さ!聞いてない!」
「そう?今度話してあげるね」
「けっこう!」

ドンジュンさんはさっと僕の後に回って荷物をまとめ始め
スヒョンさんはすっとこちらに近づいて…
つまり僕を挟んでおふたりは対峙したわけで

「コマシだってのは知ってるけど隠し事はしないでよね」
「隠してなんかいないでしょ…忘れてただけ」
「はっ!忘れてたって仮にも結婚しようとした相手でしょ」
「過去のことだもの」

いや…その時の僕の心境と言ったら…
大学の授業でレントゲン写真を見せられ
腸内の「便」を「腫瘍」だと自信を持って言い切り教室中に笑われた時よりも
遥かに緊張し逃げ出したい気持ちでした

「あの…僕はそろそろ帰…」
「そういうことをちゃんと言ってくれるのが愛情でしょ」
「知らなきゃ同じでしょ」
「じゃ最後までしら切ってよ」
「しら切るつもりないもの」
「あああっっもう!ビョンウどう思うこういうの!」

ど…どうって…その…

僕がおどおどしているとドンジュンさんはロッカーを閉め
荷物を持って「もういい帰る」と言いながら僕の横をドスドス通りました

そしてチーフの前をすり抜けようとした時
チーフは横目でドンジュンさんを見ながらさっと腕を掴んだわけです
その瞬間の鮮やかなこと…
僕はそのスヒョンさんが緩急巧みに相手をこちらに向かせ
抱きしめるような形で顔を覗き込む、流れるような動作を口を開けて見ていました

「おまえ…いつもはそんなに角立てないのに」
「ふん」
「映画のことと他のことは分けてね?」
「…」
「ちゃんとわかってるから…ね?」
「どうだか」
「昔の話聞きたかったらちゃんと話すから」

その…帰ろうにもドアの前でおふたりはそんな状況で
僕としては、めめめ目をどこにどうしていたらいいものやら…
どどど動物生殖学的なそのあれではなく
鼻の先をちょんと合わせているおふたりは美しくもあり…

「ごめん…ちっと…いろいろ過敏になってるかも」
「わかってるって」
「…ごめん」
「もう謝らないで」

あああああ…そこでそういうことされてもっっ
テプンさんに僕は男女の話には10年早いって言われてて
ということは男男の話は12年くらい早いわけで
そんな僕が…あう…こんな場面を…

あぁ…でっでも…こういのも…いいのかも
なんて思ったのも正直な気持ちです
僕だって真剣に人を愛したことあるんですから…

と、しっとりしていたらば!
ドドドンジュンさんの背中を支えてせっ接吻しているチーフが
ドンジュンさんの肩越しに僕をチラッと見てパチッとウウウインクをっ
なっナマだ!ナマで見てしまったっっ

「すごい…今日はすごい収穫だ…」

軽い目眩とピンク色の虚脱感をおぼえつつ
その日の出来事は「チーフナマとふぐさし」というタイトルで
僕の海馬に深く刻み込まれました

…ケヒヒンの研究(本当にこの使い方でいいのかな)と
色気なるものを追求し続ける毎日です


千の想い 125   ぴかろん

僕達は暫くの間、黙りこくって焼酎を飲んだ
曝け出した僕を、イナはどう思ったろう…

「イナ…。お前の気持ちを聞いてない」

当たり前だ。口を差し挟む暇など与えなかった
『僕』は何様なんだ?
今度はイナの言い分を聞いてやろうっていうのか?

いつからそこにいるんだお前
僕の頭の後ろで、えらく冷静に僕を見つめる僕
お前も『僕』なんだろ?お前もあの『執着心に満ちた僕』と同じ男なんだろ?

「俺…」

イナの澄み切った声に驚いた
これ以上ないくらい痛めつけてやったと思ったのに
なぜそんな清々しい声をしているんだ?

「…今日…ボロボロだった…。違う、今日だけじゃねぇや…。お前と同じ。多分お前がラブと寝たあの日からずっと、お前を疑ってるんだ俺…」

…おんなじ?原因はお前にあるのに『おんなじ』だって?

揚げ足を取り、責め返す準備を整える僕

「ラブに腹が立った。なんでテジュンを気にするのかって…。なんでも自分のものにしたいんだなって思った…。お前は今日、俺以外の人には優しくて、俺を見ようともしなかった。めちゃくちゃ悲しかった…でも…お前が言うように、俺がヨンナムさんと会い続けているからなんだって…お前も苦しんでいるんだって…俺は自分に言い聞かせてた。だから余計にラブが憎らしく思えた。…違うな…。にくったらしかったのはお前でラブじゃない…。すり寄ってくるラブに、俺の目の前で優しくするお前がとてもイヤだった…。俺こそお前に執着してるのかもしれないね…」

きれいに認めるな。ボロを出せよ

「俺…今日…唯一ホッとできたのは…」

ほら…出るぞ、ホンネが…
僕の知りたかった事が…

「ヨンナムさんに包まれた時だけだったな…」


ほら
知りたかった事が…

「昼間、公園でヨンナムさんにふわっと抱き寄せられた。夕方RRHに送ってもらった。BHCに出勤する時、配達帰りのヨンナムさんに偶然出くわして、BHCまで送ってもらった。ヨンナムさんに『運命の糸で繋がってたりして…』って言われてドキドキした…。そしてさっき…俺がボロボロだった時、ヨンナムさんが裏にいた…。ヨンナムさんの笑顔に…包み込まれて慰められた…。俺はお前もヨンナムさんも好きだ。…これからも…ヨンナムさんに会いたい…。けどお前がラブと会うのは…いやだ。勝手だな…。でもそう思ってる…」
「裏で…何したの?」
「…え?…」
「ガラス片付けに行った後、ヨンナムと一緒に戻ってきたろ?…裏でヨンナムにどうやって慰めて貰ってたの?」
「…」
「抱きしめてもらった?」
「…うん…」
「…キスは?」
「…」
「それで?昂ぶってた気持ちが治まった?」
「…。そう…だね…とても安らいだ…」

責め返すチャンスなのにそれ以上は何も言えなかった
あいつが来たのはお前が仕向けたのかだとか、僕に対する嫌がらせかとか…
イナの顔つきがあまりにも穏やかで、そんな愚かな言葉は吐き出せなかった…

イナは遠くを見つめていた
そして言葉を止めなかった

「すうっと…柔らかな直線が引けたんだ、心に…。気持ちよかった…すごく…」

僕達はまた黙り込んだ
残っていた酒を流し込み黙って座っていた
僕の頭は混乱していた
夢ならばいいと思った

「…どうしたらいい?」

イナが言った

「これから俺達、どうしたらいい?」

どうしたらって…

「…。俺、帰って寝るよ…」

イナがふらりと立ち上がった
僕はイナの足に取り付いた

「テジュン…」
「もう一つだけ聞きたい!」
「…なに?…」
「…座って…」
「…」

僕の願いを聞きいれ、イナが腰を降ろした
同時に僕はイナを芝生に押し付けた

「テジュン!」

僕のものだ
僕だけのものだ
封じ込めてしまいたい
僕の中に

イナの唇を唇でこじ開け、舌を這わせた
イナは抵抗しなかった
また腹立たしさが生まれ
同時に『ほら、僕のキスが好きなくせに』と驕る
でもそれ以上の事はしなかった
できなかった…

「…こんなにもお前が苦しんでたなんて…。俺と居る事がそんなに苦痛だったなんて…」

唇を外した僕にイナは言った
慈しむような瞳が胸に突き刺さった
僕は声を絞り出した

「…本音聞けてよかったと思う?同じ事ヨンナムとやってもいいと思う?」

イナは僕を見つめたまま頷いた

「…僕を…見放す?」
「…テジュン…」
「…僕を…捨てる?」
「…」
「答えろよ!」
「お前が…もう…答え出してるんじゃない…。俺にはそう思える…」

どういう意味だ…僕が?

イナは僕の体を押し戻してまた立ち上がった

「帰って考える…どうすればいいか、俺なりに…」
「…答え…」
「ヨンナムさんともぶつかり合えばいい…。きっといい結果が出るよ…」
「…答え…」

僕の呟きを無視してイナは公園の出口に向かった
追いかけて抱きしめて謝れば間に合う?
僕が出している答えって何?

去っていくイナの背中に、残っていたどす黒い塊が飛び掛る

「捨てていくのか?!愛想がつきたから放っていくのか?」

イナは震えもせず、泣きもせず静かに歩いて行った
答えてくれよ
僕は捨てられたのか?イナ!

小さくなっていく背中に胸が締め付けられた
もう取り返しがつかない…全てを曝け出してしまった…


薄い闇の中をふらふらと歩いた
テジュンの苦痛を感じた
そんなに苦しいのにお前…
そんなに俺を好きでいてくれたの?

テジュンは俺を罵った
テジュンは俺を痛めつけた
テジュンは俺を抉り、刻み、捻り
あらゆる言葉であらゆる記憶で
俺を檻に閉じ込めようとした
それはみんな事実で
俺は何を言われても仕方ないと思っていた
俺を傷つけて弱らせようとして
お前が一番傷ついている

何をしてもお前…俺と一緒にいるとそんな風に傷ついてしまうんだね
それが解ったのが辛かった
それを見ているのが辛かった…
どこでどう間違えたのだろう
確かに幸せだったのに
とても好きなのに

テジュン
俺、今ようやくお前を受け止められた
お前の全て
俺、ちゃんと見たから…

お前がどうしたいか、お前の出した結論に
俺は従うから…

捨てたりしない
愛想だってつかしてない
逃げないよ、俺、テジュン…
俺が考える事は
どうすればお前が幸せになれるかだ

触れ合う事で誤魔化したくない
俺は大丈夫だ…お前が心配だ…
少し時間が必要だね
一人になって考えよう…

テジュン、あの人とこうやって想いをぶちまけ合えばいい
あの人こそがお前を解放してくれる鍵なのかもしれない
壊れないで、俺、逃げないから…俺はここにいるから、テジュン

妙に静かな気持ちで、俺はRRHに向かった


千の想い 126   ぴかろん

店が終わった後、俺はギョンジンに纏わりついていた
離れたくなかった
ギョンジンは明るい顔でいつものようにくふふんくふふんと鼻をならしていた

もう大丈夫?
ううん…大丈夫でなくてもいい…
今夜はアンタにくっついていたいんだもん…

「ラブったらぁ、逆襟巻きじゃぁんくふふん…」
「うぅんいいじゃん…」
「なんかくすぐったぁいくふん」
「兄さん」
「は…ギョンビン…」
「よかった。元気になったんだ」
「は…ほ…う…ん…」
「ラブ君、兄さんの事、頼むね」
「あ…うん…」

俺はバカそっくりの賢いギョンビンに微笑んだ
ギョンビンの方がずっと大人に見えるなぁ…

店の片付けをして帰り支度を整える
イナさんを見かけた
堅い表情で表に出て行った

バカは何も考えずにイナさんの後に続こうとした
俺はバカを引き止めた

「なによう、帰ろうよ、早く」
「…今イナさんが出てったばっかりだよ…もうちょっと待って…」
「…。いいじゃん…」
「よくない」
「あー、またなんか心配してる?」
「…違うよ…気まずいだけだもん…」
「どーせあのクソジジイと部屋に行くんだろ?いいじゃん、行く方向一緒で目的も一緒…」
「…目的…」
「…目…。一緒だけど…僕…ラブ…あの…」
「自信ない?」
「くふん…」
「わかった。任せといて」
「は?」
「頑張ろうね」ニコ
「…。が…がんば…がんばる!」
「何を?」
「せ(ピー)フガフガ」

バカが言いかけた言葉を掌で防いだ

「大声で言うなよ恥ずかしい!」
「らって、何をって聞くから…」
「…キスしよ」
「は?!」

キスして時間を稼ごう…
でないとほんとにイナさん達と出くわしちゃう
そうなるとまたこのバカ、色んな事考えちゃうかもしんないし…

ちゅ…ちゅちゅちゅううう…

俺はバカの唇に吸い付いた
んー大好き…この柔らかい唇大好き…

「んぐあ…ラブ…あ…ぐはっ」
「濃厚だなぁ」
「は…ぐぐら…らぶ…」
「なによ、ラブが積極的なんて珍しいじゃん」
「ぐ…が…」
「…(;_;)…チニさん…」

俺達のキスをテプンさんとシチュンさん、チョンマンさんが取り囲んで観察している
バカは珍しくどぎまぎしている
…まだ本調子じゃないってことか…よし!

「んまっ」

唇をばちゅっと離して俺はバカに言った

「よっしゃ!俺が、頑張る!」

「頑張るって何を?」
「ラブちゃんが頑張るって事は…いつもより濃厚な…」
「何?シチュン、何が濃厚なのさ」
「テプンさんには説明しにくいなぁ」
「…チニさんに会いたい…」
「ああんおおん俺もメイとのーこーなはひふひほへへんしたぁぁぃ!」
「何?何するんだよ?教えろよ。俺だけ仲間はずれにすんなよぉ」
「テプンさんもシチュンさんもいいですよ!しようと思えばいつだってできるじゃないすか!僕なんかまだ『した』事もないのにっ!(;_;)」
「何のこと?何のことだよぉ」
「テプンさんはわかんなくていいよ」
「このやろー教えろっ!」ばがぼがどす☆
「おや?チョンマン君、何泣いてるの?寂しいの?よかったら僕が慰めてあげるよ。ドライブする?湖畔のホテルでも行く?2時間で2回、いや、3回ぐらいしようか?ん?」
「監督ぅぅ…」

チョンマンさんは通りかかったジホさんに取り付いた

「それより僕のチケットォォォ」
「2時間で3回したら返す」
「何を!」
「やぁん僕の口からは言えないわぁ、はしたなくてぇ」
「…」

ぼかどす☆あうう…年長者に何て事を、もう絶対返さないからっ!…あっ監督ぅそれは酷いですぅ…じゃ湖畔のホテ…イヤです!何言ってるんですかっ!元々悪いことしてるのは監督の方じゃないすか!…あうう…どすばき☆

俺とギョンジンは、その騒ぎからこっそり外に逃れ出た
イナさん達はとっくに消えていた

俺はもう一度ギョンジンにキスをした

「は…ラブ…」
「んーんっ」
「…お前…そんなに…ぐしゅ」がばあぁぁ

ギョンジンは俺を抱きしめた

「しょんなに物欲しげにちゅうちゅうしゅるなんて…ごめんよごめんよ…僕の調子がイマイチだからっ(;_;)よぉっし、僕、頑張る!さぁ帰ろうそしてセ(ピー)に励もう!おー!」
「…」
「ん?」

…だから…叫ぶなよ…恥ずかしい…

「どしたの?ラブ」
「…バカじゃない?…」
「…。あ…。れもラブ…。したいんれしょ?…ね…ねねね…。あ、先に行かないでよ、ねね…ねねねね」

プイと顔を背けて俺は奴より先に歩き出した
奴は、じきに追いついて俺の腕に巻きついた

いつもなら襟巻きなんだけどな…

車に乗ってRRHを目指す
もしアンタが中々乗れなくても、俺が…俺が!

「頑張るから!ねっ!」
「…は?」
「けほ…」

俺は恥ずかしくなって俯いた


「んあ…待って…シャ…ワ…」
「いいよそんなの」
「だめだよ…あ…エチケット…」
「いらない。夕方浴びたじゃん」
「そ…れはお前だけ…じゃ…僕浴びてな…あ…やだ待って…」
「待てない…」
「待ってお願いシャワー浴びたいきいっ!」バタバタバタ

バカは両腕をバタバタと子供のようにはためかせた
んもう…

「こここんなのいつもと逆じゃないっやだっきいっ!」
「だってアンタ、いつも通りだとヤバいんだろ?」
「しょ…しょれは…」
「それにいつも通りは昼間ヤったじゃん…」コショッ

横っ腹を擽ってやった

「きゃいっ」

へぇぇ…意外と可愛い反応するんじゃん…コショコショ

「きゃいいいっ…やめてお願い…お願いだからっ…(;_;)」
「んふ…。からだにへんかが起きてきたかな?確かめてやろっと」サワッ「…ん?…」
「…」
「…」
「…」
「だからやめてって…(;_;)」

反応してない!やっぱまだダメか…(_ _ ;)

「だから…順番に…シャワー浴びて…」
「いいじゃんかぁ…アンタの香り…好きなんだからさぁ…」
「はぁぁん…だめっ!僕はシャワーを浴びないとダメっ!そうやって…順番にしていけばもしかすると…げへん(;_;)」
「…わかった…じゃ、いこう」
「あっちょ…ちょっとラブ…」


ダーリンは僕をグイグイとバスルームに引っ張って行く
どうしよう…あんな風に色っぽく迫られているのに、反応が鈍い
くすぐったいとかちっと心地よいとかいう感覚はあるのに、いつものように『即オッケー』状態になんないっ(;_;)
ああどうしよう…ちゃんと用意できなかったら…
僕は脱衣場でダーリンの唇を体のそこら中に受けながら、『よくぼう』という文字を叩き起こそうとしていた
ダーリンはあらゆる舌技を使いこなしながら僕の服を脱がせていく
唇でボタンを外したり、少しはだけたシャツをクイッと咥えて上目遣いしたり、そそ…そりからそのシャツを口で脱がせながらサワサワァっとお手々を動かしたりっきいっ!
ああん…いつもならこんなサービスはしてくれないのにっ!いつもならこんな事されたらもう、その場でがつんがつん…あはぁん…なのにぃぃ…なんでぇぇ(;_;)
時折『僕』の状態を確かめては、ムンとした口になって更に技をかけてくる
し…しかしダーリンったら…

「ラブ…どこでこんな技仕込んだのよ…」
「ん?…まぁ…」
「まぁ?」
「知りたい?」チュ
「くはん…知りたい」
「んと…祭の直後のリゾートホテルのスゥイートルームでぇ…仕込まれたの」チュウウウ
「ぐは!それってあのクソジジむぐ」ちゅうううう

都合の悪いことになるとダーリンは僕の唇を吸い上げる
ああ…気持ちは高まっているのにサワっとされる『僕』はまだ『睡眠状態』だぁぁん…

「は…。こ…こんな事…したの?あのジジイ…」
「ん」ちゅうう…
「じゃ…イナは毎日こんなむぐ」ちゅうちゅうちゅう
「その名前口にしないで…ますます反応悪くなるじゃんか…」ちゅうう
「…んぐ…は…い…」
「…はい。今度はアンタの番。脱がせて…」
「けひっ?!」

ぬぬ…脱がせる…はい…僕はそれは得意ですとも!とと得意技ですとも!
僕はダーリンの着衣を脱がせた。ひん…
ああ…肩の入れ墨が色っぽい…

「色気なーい」
「へ」
「色気ない脱がせ方…。ま、いいや…行こっ」
「…(;_;)」

それから僕はバスルームでダーリンにされるがまま
体をキレイに洗って貰ったしバスタブではダーリンが僕をらっこ抱っこしてくれた

なのに!

ちっといい気分になると、決まって僕の頭の中に、僕自身の暗い顔が浮んでくる
そしてやはり『僕』は『睡眠状態』のまま
なんとかしなくちゃ…心は焦るばかりである

ふと、僕は『いいアイディア』を思いついた
確か…確かクローゼットに…


千の想い 127   ぴかろん

バカの反応はとっても鈍い
いつもが異常すぎるんだろうか、その反動がコレなんだろうか…
うーん手強いな…。でも焦らない焦らない
俺はバカの体をバスタオルで丁寧に拭いてベッドに導いた
バカをベッドに押し倒そうとしたら、バカはスイッと体をかわしてクローゼットに向かった

「どこ行くのさ!」
「ん。この問題を解決できそうなグッズが…」
「…。へんたいぐっずじゃないだろうね…」
「…。もしかしたらそうかもしれない。でも…公共の場でも使える…」
「…。なによ…」
「待ってて。探すから」

バカはクローゼットに頭をつっ込み、ガサゴソと何かを探し始めた
まさかジャンスさんにあげたようなあの『黒いもの』を俺に着せようってんじゃねぇだろうな!

俺はその『黒いもの』を身につけた自分を想像してみた



「ギョンジン!それは女の人が身につけるからこそセクシーなんであって、俺がそんなの穿いても…ほんっとにヘンタ…」
「あった!」
「…」
「あったぁん、らぶぅ…これこれ…思い出のこの…」

バカが俺に向けて拡げたもの、それは…祭りの時に俺が着た…というか着せられたあの…メッシュのスケスケシャツだった

「…。アンタ…こんなもの…持って帰ってきたの?」
「うん」
「…。俺とあんなそんな事になって、あん時アンタ酷く落ち込んでたんじゃねぇの?」
「うんっ」
「…。なのに…これは持って帰ろうっていう頭は働いたの?」
「…うん…」

ったくぅぅ!どすけべ!

しかしだ…
こんなにもどすけべなコイツが今こんな状態なんだから…
うーん…手強いな…ほんとに…

僕はそのメッシュの超セクシーなシャツをダーリンに被せた
離れて見てみる
腰のバスタオルが邪魔だわ…くふん…
ああん超せっくしぃぃ…かわいい…くふふんけひひん
僕の頭の中はバクハツ寸前だ
ダーリンはすくっと立ち上がって僕の首に両腕を回し、ぴったりと体をくっつけてから邪魔だったバスタオルをハランと落とした

「どぉすんの?これ着せて…どうしてほしいの?」
「あ…の…あうっ」

ダーリンは僕をベッドに押し倒し、僕の額から僕のつま先まで、一部分を除いて唇を這わせた。はぁぁん…


ああ…
づがれだ…
なんじがんごうやっでいるのだろう…
どーじでごいづは『眠ったまま』なんだろう…
こうなったら最後の手段だ…
直接…

夜明け間近のギョンジンの部屋で、俺はメッシュのシャツだけを身につけたまま、汗だくでバカの体と格闘していた
きわどい場所への口づけで、バカの『バカ』は少し反応を見せたりもした
でも…すぐ『眠って』しまう…

冬眠かよ!
それでも俺は根気よく作業を続けた
バカが俺の『俺』に触れようとするのをきつく禁じて俺は『バカ』を起こすことに専念した
でも
ほんとに『冬眠』かよ…
俺は奥の手として取っておいた『最後の手段』を決行することにした


「はああうう!」
だだだーりんのおくちが僕の『僕』をっ!はああうう!
あうう…気持ちいいんですよ!確かにっ!気持ちいいんです!あうう…
あひっ…
だーりんはまたあらゆる技で『僕』を刺激していますっひいい…
こんなに一生懸命僕をなんとかしようとしてくれているのだから、僕は…僕は…集中しなくては…

「かんじない?」
「かかか…かんじてるんらけど…」
「なんか気になる?」
「…これも…あのクソジジイに仕込まれたの?」
「これはやんなかった」
「へ?」
「『ギョンジンにしてやれ』って…」

はうううう!くそじじい…憎いけどニクイ野郎だくそっ…

ダーリンの波状攻撃が続く
僕は顔を上げてダーリンを見つめる
ダーリンのメッシュのシャツは肩の部分がビローンとはだけててきゃあああ…僕の愛しい『LOVE』の入れ墨が汗で光っている
ダーリンは上目で僕を見つめながら…はあああん!きいいん!どんどんお口の動きを速める
『僕』は…『僕』は…ついに…起きあがったっ!やった!はぁぁん
でもダーリンは攻撃の手を緩めない

「あ…ららら…ラブ…あ…起きた…起きたからっああ」
「んぐ…んんちっと(もうちっと)…」
「なに…なに言ったのああん…口はなして…あおおん」
「いいんんじ(いいかんじ)」
「へっ?なに…あ…だめっすぐはなしてっ…それいじょ…あっあああああー…お…」
「…」
「お…ん…」
「…」
「…ごめん…」

ダーリンは呆然としていた…
僕も呆然としていた…

何分か経った後、ダーリンは洗面所に行って帰ってきた
そして僕の横に滑り込み、僕の胸に頭を乗せた
…申し訳なくて情けなくて涙が流れた…

「なぁに泣いてるんだよ」
「らって」
「すぐだったね…」
「ごめん…」
「でも一瞬『起きた』じゃん?」
「…」
「超短い目覚めだったけどさ」
「ごめん…ごめ…」
「泣かないでよ…俺、嬉しい…」
「…」
「くふ…俺がイかせた…」ちゅうううう…

ダーリンはこの上なく優しい笑顔で僕にそう言って、僕の唇を吸い上げた

バカの『バカ』に反応が起きた
そしてあっという間にそれは終わった…
ちょっと残念だけど、でも、俺が『バカ』を起こして、イかせたんだと思うととっても満足だ
バカは物凄く気にしてる
俺は気にしてない
こんなバカも可愛くていいもんだと思う
けど…一生こうだったらどうしよう…
バカの胸に埋めていた顔を上げて、俺は少し意地悪く聞いてみた

「んね」
「…はい…」

すっかり恐縮しているバカ
可愛いな

「俺さ、こんなアンタでも全然構わないんだけどさ」
「…へい…」
「俺の『からだ』がさ、『我慢できない』とか言い出したらさ」
「…は…」
「浮気してもいい?」
「…らめっ!いやっ!やめて!」
「くはは」
「ラブ、イヤだ!僕頑張って回復するから!そんなのやめて!お願いだから!」

バカは真剣な顔で俺に懇願した

「でもぉ…『からだ』が勝手に動いていっちゃうかもぉ…」
「いやだ!ラブ!お願いだから…」

その後に続いたバカの言葉を、俺は一生忘れないと思う

お願いだから体だけの浮気なんてやめて…
するんなら『本気』でやって…
やるんなら『心』を忘れないで!ちゃんと『愛して!』
欲望の処理だけなんてお前が傷つく事になるから!
そんな事にならないように僕、僕、頑張るからっ!お願いだから自分を傷つけないで…

整った顔がくしゃくしゃになっている
バカの気持ちが沁みてくる
俺を…大切に想ってくれている…
俺はひっくひっく泣いている唇にキスをする

「俺が…一番?」
「ん…ん…」

ちゅ…
ごめんね
俺、すぐに嫉妬しちゃうし…
多分これからも…

「ラブ…もし今後あのクソジジイとあんなそんな事になるんだったら、その時は本気で向かって行って!でなきゃ僕…」
「くふ…わかった…『本気でヤる』よ、テジュンと」
「あの…なるべくなら、やめてほしいんだけど…」
「うんうん…わかってる…」

俺も『イナさんに優しくするな』って言いたいけど、無理だろうな…
アンタ、イナさんやギョンビンの事、随分心配してるもん…
ついつい優しくしちゃうんだろうな…
でもさ

「俺が…一番なんだよね?」
「…う…うん…」
「ん?今、返事ためらったね?!」
「…同じぐらい…一番の人がいるんだもん…」
「ん?!」

バカは遠い目をした
そか…そうだった…

「チフン君だ…」
「…。ん…」

俺はバカを抱きしめた
優しい…あったかい…

「俺、アンタが大好きだよ…」
「ぼ…僕だって…愛してる…ラブ…」
「ん。じゃ、ちっと寝ようね。疲れちゃった」
「うん…ぐしゅ…。あの…ラブ…」
「ん?」
「しゅごくきもちよかった…」
「くふ。じゃ、またしてあげる」
「げひっ…」

バカに纏わりついて目を閉じた
幸せな気持ちになった











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