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ぴかろんの日常
リレー企画 248
So What? 3 ぴかろん
*****
肩を震わせて泣いているラブに声をかけた
「わっがままぁ~」
「…う…ひっく…」
「お前自分が何やったか解ってる?好き勝手な事してるくせに、ギョンジンのキスぐらい許してやれよな!」
ちょっときつめの口調で言った
「っくひっくひっくおっ…俺っ俺っ俺はっひっくひっく…ほっ本気だったもんっ!っくひっく」
「…テジュンにか…」
「っくひっく本気だったもんっ!」
「…。お前なぁ…ムカつく…。よくも俺にそんな事言えるよなぁ!」
「っくホントに好きだったもんっ!」
「…」
「けどあのバカったらひっく…ソグと遊ぼうとしてひっく…」
「…本気ならいいのかよ…」
「あそ…あそ…遊びなんか…ひど…ひどい…」
「あいつ本気じゃねぇのぉ?ソグの事気に入ってるみたいだぞぉ~」
「ぐっ…ひっくひっく」
「あいつの性格知ってるでしょ?『常に愛する』ってモットーも!」
「ひっくひっくうっうっ」
「素直に『妬いてる』って言えば?」
「えっえっ…」
「本気でも遊びでも『ヤ』なんだろ?あいつが他の野郎にちょっかいだすの」
「ええんええん」
あーあ、本気で泣き出した…
「ふー。なぁんでお前みたいな気ままたれがいいんだろ。なぁぁんでお前みたいな浮気男を許すんだろ、あいつは」
「うわっうわっ」
「あーはいはい。浮気じゃないもん本気だもんだな?」
「…うう…うっく…」
ラブが泣き止むまで待った
スンスン鼻をすすってはいたが、ラブは俺の方を振り向いて小さな声でごめんねと言った
「なーにがー?」
「…。テジュン…。…欲しかったんだもん…」
「…ふ…」
この野郎!
「…イナさん…。テジュン、貴方にぞっこんだよ」
「…」
「…貴方でないと『イケ』ないって」
「ぶ」
「…。ごめんね…」
「…何を今更…」
「俺…解った…」
「は?」
「こんな気持ちにさせてたんだ…」
「…は…」
「イナさんにも…あいつにも…ぐすっこんな…苦しい…辛い気持ち…」
「はあ?…ギョンジンがソグにキスしたってだけで、泣くほど苦しくて辛いのか?…んな大げさな…」
でも
スヒョンとミンチョルは
キスをしたんだ…
それは『仕事』で
『演技』で
そこにあるのはかりそめの感情で…
ううん
きっと本気だ…
キスだからよくて
それ以上だからよくないなんて
そんな事じゃない
気持ちが
二人の気持ちが繋がりあうことが辛いんだ
誰にも止められない
自分自身にも止められない
だから過ぎるのを待つしかないのか…
ドンジュン
ギョンビン
ヨンナムさん…テジュン…
「…イナさん?」
「…う…あ…うん…。辛いよな…」
「…」
「…辛いの、解ったかよ!」
「…イナさん…」
「…怒ってねぇよ、お前のこと…。俺だってテジュンを辛い目に遭わせた…」
ラブが唇を噛みしめる
「…お前…ギョンジンを大事にしろよな…」
席に帰ろうとした俺の背中にラブが抱きついた
「イナさんっごめんね…ごめん」
「もう…いいよ…」
両方を好きだって気持ち、俺も解るから…でも…
「待っててくれる奴、すげえよな…。お前もたまには待っててやれよな」
「やだ!」
「…この…」
わがまま野郎、とラブを振り返って怒鳴りつけようとした時、俺の唇にラブが吸い付いた
突然の出来事に、俺は何もできず、ただされるがままになっていた
*****
「ちょ…ソグくんっだからっ離して!僕にはラブというグレイトゴージャスラブリーダーリンがっ」
「僕はどーーしても知りたいっ」
「だから僕が愛してるのはグレイトゴージャスヴィーナスダーリンなラブでっ」
「あの時の挿入角度は何度ですかっ?!」
「…は…」
「どぉぉぉしてもっ!知りたいんですっ!」
「…。あの…時って…それはその…ナニのアレ?」
「あの時はあの時です!何度にすればうまくこじ入れられるウグっ」
僕は、恥ずかしい言葉を発するソグ君の、弾力に富んだまだまだ開発余地のある唇を掌で塞いで深呼吸をした
ふうっ…とにかく落ち着こう…
ええっと…
挿入角度だって?
んなもの…んなものっ!
「わかるか!」
「…うぐ…うえっ…」
あ…しまった、つい『悪ギョンジンモード』の目つきで怒鳴っちゃった…
僕は掌を外して涙目のソグ君を軽くハグした
「えっえぇっえぇっ」
「な…泣かなくてもいいじゃん…」
「ぼぐはあまりひどがらどなりづけられだごどがないんでずぅぅぇぇえんえん」
「…ああ…おんぞーしだからか…ごめんごめん」きゅ
「…はん…」
はん?
あ…つい『かんじるように抱きしめて』しまった(^^;;)
「ひっくひっく…」
ちっと可愛いなぁ。僕に随分懐いてるし…
それにしても挿入角度だなんて…そんな…
「あのねぇソグ君、そういうものは正確な度数とかじゃなくて、雰囲気でするすると行くもんなんだよ」
「…えっえっ…でも…固く閉じているのに…えっえっ…」
ざわっ
その時急に悪寒がした
僕はダーリンが気になり、ふっと店の隅っこの隅っこを見た
ら
がーーーん!
マイ・スウィーートゴージャスラブリーダーリンがっ!
マイ・キューティー・ナンバーツーとっ
がっつりキスしているではないかっ!
「ぎゃあああああっ」
「ひっ」
「ちょちょちょっと離してよソグ君!大変なことになってるじゃないかっ!」
「え?」
「イナイナイナとラララブラブがラブラブでっ」
ソグ君はイナとラブのキスシーンを、僕に取り縋ったままじいいっと見つめた
「すごい入り具合ですね」
「そう。ラブの舌は深く入り込んでコネコネと動き…って、そんな観察してるんじゃなーい!」
「ぅえっ(;_;)」
「泣くな!離せ!助けに行かなきゃっ」
「僕も行きますっ」
「へ?」
何が何だか解らないわ、もう!(@_@;)
僕にとりついたソグ君を引き連れて、僕はダーリンとイナのがっつりちゅうの現場に走った
「やめてぇぇぇぇ!」
「んちゅばっ…はぁはぁはぁ」
「はぁはぁはぁ…すんげぇ…おめぇ…いつの間にこんなに腕あげたんだ…」
「へへ…はぁはぁはぁ…テジュン直伝だもん」
「…このっ!ムカつくぅぅぅぅう!」
「あん、やん」
「やんじゃねえ!可愛い子ぶりやがって!」
「あの…イナ?」
「なんだよばか!」
「…今のは何のキス?」
「知るかよ!てめぇのインランに恋人に聞いてくれ!」
「…え…と…」
「今のキスの吸引力はどれぐらいなんですか?ぽーっとなりましたか?やっぱり唇も吸われましたか?それともいきなり歯をこじ開けて舌に行きましたか?その場合、舌は歯に対して何度ぐらいの角度で挿入すればいいのですか?教えてください!」
*****
ギョンジンに取り付いていたソグ君が矢継ぎ早に質問を浴びせる
「…。知るか!」
「そうだよソグ君、さっき僕が言ったろ?そういうことはその場の雰囲気に合わせて臨機応変に…」
「こっちにおいでよ」
「「え」」
ラブがソグの手を引いた
ギョンジンの顔色が無くなる
イヤな予感がするぜ…
「ラブさん、僕は知りたいんです。どうしたら人をシビレさせるようなキスができ…んぐぐ…」
あーあ…
やった…
ラブは、くっ喋るソグの頬を両手で包み込み、うるうるとした瞳でじぃっと見つめた後、おもむろにカプっと唇に噛み付いた
「らぶ…ぅ…ぅ…(;_;)」
ギョンジンは真っ青になり、涙を流して呆けている
俺はギョンジンを引っ張ってその場から逃れた
ラブは長いことソグに『キスのやり方』の手ほどきをしていた
それはそれは懇切丁寧に…
席に戻るとソクが俺を見てゴクリと生唾を飲み込んだ
「なんだよ!」
「ソクさん!」
「あ…ごめんスヒョク…ゴクリ…」
「あうえうえう…なんでラブはソグ君にキスをぉぉ」
「知るか!お前がソグにキスなんかするからだ!」
「ぼぐがぞぐぐんにぎずずるのど、らぶがぞぐぐんにぎずずるのば、いみがぢがうんじゃ」
「知るかよ!あいつの頭ん中はどーなってんのかわかんねえ!」
そう言いながら、俺は唇を拭った
「ゴクッ」
「ソクさんっ!」
「ん?」
「ギラギラしないでよ!俺とイナさんとどっちが好きなのさ!」
なんだかこっちも穏やかじゃねぇな…
でもって何で俺の名前が出てくるんだよ…
「ああん、好きなのはスヒョクに決まってるだろぉ~」
「じゃ、なんでイナさんを必要以上に気にするわけ?貴方も隙あらばイナさんとキスしようとしてるんでしょう!」
「ゴクッ…そそ…そういうんじゃなくて…ただ…会則で…」
会則?
ああ…そう言えば
「ヨンナムさんがなんか言ってたけど、なんかヘンテコな会作ったって?」
「そーそー。そーなんだよスヒョクぅ…。ヨンナムさんを励ますためにさぁくふふ」
「…俺がしょんぼりしてたら抱きしめてキスしてもいいとか」
「そーそー。そんで僕達の気持ちがこう、下向いてる時も、イナを抱きしめてキスしていいって」
「なんでそんな規則にしたんですかっ!」
「怒るなよスヒョク、これは全てヨンナムさんのためなんだから。ねっギョンジン」
「…ぐすん…それだけじゃない。僕達のためでもあるんだぁぁぁっ」がばっ
「「あっ」」「ぎゃああああ…」
俺はギョンジンに抱きつかれた
なんでっ?なんでこうなる?!
ソクが必死でギョンジンを引き剥がし、イナ、大丈夫か?と俺を抱きしめ、そのソクをスヒョクが必死で引き剥がしそして
「イナさんっ!」
「あ…ひゃい…」
「しっかりしてください!」
「…ひぇい…」
スヒョクに体を揺らされぞじで…
「イナさぁぁんっ」がばっぶちゅううう…
「んぐっ…」
「やめてぇぇスヒョクぅぅぅ」
「スヒョク君、キミは会員じゃないだろぉぉぉ」
俺はスヒョクに吸い付かれ、意識が遠のきそうになった
「いかん!失神した」
「では人工呼吸を」
「ボクが」
「いや僕が!」
「俺がしてるんです!」
「ボクはイナの人工呼吸が得意です!」
「僕は今日、まだ一度もイナにキスしてない!だから僕が」
「ボクだってあと一歩及ばず…」
「俺だって人工呼吸ぐらいできますっ!」
「スヒョクはイナ同好会じゃないだろ!」
「でもイナさんにキスしたいもんっ!」
「…なんで…」
「隙ありっ」がばぁぁっ…
ギョンジンが後ろから俺の首を羽交い絞めにする
頭がくらくらした
「「あっ!ギョンジンっ卑怯者ぉぉっ」」
遠のいていく意識の中で、スヒョクとソクの叫び声と、ドドドドっという地響きを聞いた
スパコォォォン☆
「てえっ…」
ギョンジンの腕が離れ、俺は息を吹き返した
頭を押さえるギョンジン
仁王様のようなラブ
その手に『金色のスリッパ』が…
「ぶぁかっ!」
「…ら…ぶ…。それ…チンさんの?」
「そうだよイナさん。大丈夫?」
大丈夫もなにも…おめぇがソグにキスなんかするから俺はこんな目に
「ソグ君、いい練習台があるから、実践してみて」
ラブの瞳が冷たく光り、俺に向けてクイッと顎をしゃくった
「はい」
な…なんだって?
「ぶ」
俺はソグ君に吸いつかれた
まるで三角定規にキスされているみたいだった
唇がぴったりと合わされ、パカッと口を開けて上唇をはむ
それから唇全部をはむ
そして、舌を鋭く尖らせて俺の歯をこじ開けするりと中へ
しっかりと舌を固定したのち、唇をもう一度はむ
そして、舌を右にニ回転、左にニ回転、吸引の後もう一度唇をはむ
俺の頭は段々クリアになり、吸引されている舌がとても痛いと感じた
それで俺は、ソグ君の肩をポポンと叩き、ギブアップを告げた
「んばっ…。どうでしたか?僕のキス、しびれましたか?」
真面目な顔で聞くソグ君
「痛かった…」
「…。痛い?それはどういう…」
「痛くてたまらなかった」
「…。ラブさん、何が足りないんでしょう」
「経験」
「イナ、大丈夫か?ボクがアフターケアを」スパコォォン☆「でぇっ」
「イナは僕に任せて…。おいでイナ、僕が電撃ちゅうを…」スパコォォォン☆「たっ」
「「このっ。スケベジジイズっ!」」
「あっラブぅぅ」「スヒョクぅぅ」
「「イナ同好会会員のキスを阻止せよっ!おー!」」
「「会員の権利を全うさせてくださいいぃぃ」」
俺はソファに投げ出されたまま、騒いでいるバカ二組を醒めた目で見た
「あの、僕、才能ありますか?経験を積めば皆さんのようなビリビリキスを習得できるでしょうか?」
爽やかなソグ君が爽やかに聞く
俺はジロリとソグ君を睨んで呟いた
「まず心を磨け、ぶぁか!」
ソグ君は、「はいっ(^o^)」と、にこやかに笑った…
…すっげぇ疲れる…
俺はおもちゃかよ…
と油断しているとバカップル二組がまた俺に襲い掛かってきた
「うぎゃあああ」
So What?4 ぴかろん
*****
戻ってきたウシク君とイヌ先生は、チャプチェを食べあいっこさせている
が、どう見てもウシク君の方が多く摂取している
ビョンウ君が素早く電卓を叩き、計算結果をジョンドゥ君がメモする
「どうですか?ジョンドゥさん」
「先生が120kcalに対してウシクさんは600kcal摂取してますね」
「そんなに?」
「うん。ウシクさん、うまく『肉』を誘導してますよ」
「さっきのバターピーは?」
「一人分約20gでしたから120kcal×4で480kcal」
「あと、お酒が」
「焼酎一合ぐらいいってますねぇ、ウシクさんは…」
「とすると…350kcalか?」
「そんなに?」
「この表で見るとそうなってるよ。ジャンスさん、ウシクさんにはもう注がないでください」
「らじゃ。先生は?」
「先生も一合ぐらいいってるけど大丈夫だろ?つまみが少ないもん」
ジョンドゥ君とビョンウ君は、段々真剣に計算しだした
「で、ウシクさん、店でキムパプを何本か食ってたから」
「つまみもバクバクだったし」
「ダンスレッスン後にドーナツとバームクーヘン食べてたし」
「それだけで1500kcalぐらいいってない?」
「いってる…」
「朝と昼はどうだったんだろう…」
「普通に食ったって聞いた」
「じゃ、朝と昼で1500kcalとすると…合計…」
「えーっと…4330kcalですね。で、ウシクさんの生活強度は中ぐらいでしょ?」
「うん。年齢は20~29の…この表で見て…えっと身長が177センチだから…エネルギー所要量は…2700kcalってとこですよね…」
「ヤバくない?」
「…標準所要量の1,5倍ってとこか?」
「えっと…君たちは何を計算してるの?」
「だから…ウシクさんの健康管理のために…でも…はぁぁ…」
俯くメガネズ
「つまりウシク君は明らかに食いすぎ?」
「「はい」」
バッ
先生とイチャイチャしていたウシク君が怖い顔をして立ち上がった
どうしたんだ!メガネズの会話が聞こえたのか
「う…うしく?」
「我慢できないっ!」
「え?」
「先生、ごめんっ」
だだだどどど
ウシク君は大きな足音を立てながら、さっきからギャアギャアうるさい隣のボックス席に飛び込んだ
そしてイナに群がる奴等を上手投げだの下手投げだので蹴散らし、『おもちゃ』になっていたイナをサバ折り…じゃねえ…抱きしめたかと思うと唇をまん丸にしてぶちゅううう
「ウシクっ!やっやめっ」
真っ青のイヌ先生
「んぐぐぐ…」くたっ
「あっイナがホントに気絶したっ」
「ウシクさん!イナさんの鼻まで食べないでっ!」
「イナぁ~」
「僕が人工呼吸をっ」スパコォォン☆「でっ」
「ソクさん!」
「いや!ボクがっ」スパコォォォン☆「げっ」
「ぶぁかっ!」
「僕のくちづけはどうなんですかイナさんっ!」
「ソグ!うるさい!」
「離れろ、ウシク!」
押してもダメだし引いてもな…だ…
彼はとうとう『横綱』になってしまったようだ
気の毒にイナの意識はとうに無くなっている
あむあむあむ
ちゅばっ
「てへっ」
顔を上げたウシク君はとっても満足そうに微笑んだ
「…ウシク…」
「やったよセンセ。イナさん、ボクのどーなつチュウで気を失ったよ♪」
「「「「「「…」」」」」」
哀れなイナ…
俺はギラギラした瞳でイナの唇を狙っているアホウどもを睨みつけ、イナの頬を軽く叩いて起こした
「あ…ひ…どーなつで真空パックに…ひ…」
「しっかりしろ!キム・イナ!」
「…。ジャンスさん…」
「おめぇは隙だらけだなぁ、ほんとに『ほっとけねぇ男』だ」
「…あう…」
「とにかく、皆、落ち着け。これ以上この場でキム・イナにキスすることを禁止する」
「「「「「「えー」」」」」」
「これ以上は精神的にも肉体的にもキム・イナがもたん!だろう!お?」
「「「「「…はぁい…」」」」」
「僕は今日一度もイナとキスしてないのに…」
「ソクさん!俺があなたのかわりにたっぷりしましたからっ!」
「ひん…スヒョクぅ…」
「ボクだって一度も…」
「あんたはいいの!」
「ひん…らぶぅ…」
「とにかくだ。キム・イナ、ちっとカウンターに行こう」
「ジャンスさん!イナさんにキスしないでくださいよ」
「ぶぁかもの!俺は部下の恋人に手出しするような卑劣なマネは、せんっ!」
「「「「「「…」」」」」」
そうしてようやく、俺は当初の目的である、イナとコテコテジュンの話をすることになったのである
撮影ー薄紅の底 足バンさん
指で押し広げたブラインドの向こうに
ようやく白い陽が横切りはじめた頃
まだ眠っているドンジュンの頬にキスをしてそっと家を出た
夕べの食事の後
冷えた夜気の中を歩いてから帰ると言っていたドンジュンを
半ば強制的に僕の家に連れて帰った
そのまま手放すことができなくて
抱いてよ
あれはあいつの迸るような想いだったのだろう
でも本人は、そんな言葉などまるで憶えていないかのように
「もうちょっと向こうにズレてよっ」と言いながらベッドに潜り込んで
子供のような大あくびを幾度もして…
そして僕の肩に鼻先を付けたまま丸くなって寝てしまった
僕はサイドテーブルから取り上げかけていた台本を元に戻して
暫くその寝顔を眺めていた
そして散らかった額の髪を直してやりながら
ごめんと言いかけて、思い直した
おまえにはね…本当に感謝してるんだよ
ジンの部屋のために借りたビルは
シン監督の事務所のすぐ近くにある
ミンチョルは今朝監督のオフィスで会った時から穏やかな顔で
ここのところの忙しさの割にはこざっぱりとしている
ジホ君が「あの人、案外合ってるのかしら~この仕事」と言って妙に真面目に考察をしていた
午前中の休憩時間にスタッフの向こうに見慣れた顔
イナとテジュンさんだった
「ようこそ」
「早速で悪いな、てじゅの都合もあってさ」
「何しに来た」
「親友サマの仕事ぶりのチェックだよっ!」
「時間は大丈夫なの?」
「うん、昼くらいまでなら」
「邪魔はするな」
「するかよっ!」
「なぜ僕とスヒョンへの喋り方が違う」
「自分に聞け!」
「くふ」
「笑うなよスヒョン」
イナとミンチョルには
それこそ僕などが入ることのできない深い繋がりがあるのだと、僕はずっと思っている
ここ暫く俯いてばかりの印象だったイナの目が真っ直ぐ上げられている
やっぱり後のその人が側にいるからなんだろうね
僕は意識して微笑みながら腕を伸ばし
イナの頭を少しだけ乱暴にくしゃりと撫でた
愛想を崩して「おう」と言うイナにも
そっと後に立って照れたよう目をしばつかせているテジュンさんにも安堵する
それで充分
それ以上のことには触れず、彼らをシン監督に紹介した
もっとも監督はそのふたりの祭での濃厚なショットをよく憶えていて
お会いできて感激だなぁ、やはり一度の人生、どっぷり濃く濃く行きたいですなぁなどと
アーティストにありがちな無遠慮な感心を示し
接客業で鍛えたさすがのテジュンさんも耳まで赤くしていた
「適当に見て行って」
「ああ、隅でこっそり見てるからよ」
「あと、これ一冊やるよ」
僕は監督に頼んで貰ってあった台本をイナに手渡した
「いいのか?」
「おまえに忠告された言葉は忘れてないよ」
「あ…うん」
「でもやっぱりこの話を演ってみたかった」
「…うん」
「考えても答えが出ないこともあって…でもそれにも意味がある…そんなとこかな…」
イナはちょっと口を尖らせて頷き「うん」と小さく言った
最近何かに答えを出そうとして足掻いてきた(と思われる)あいつには
その曖昧な言葉も案外ストンと落ちてくれるかもしれない…と思った
「正直、僕にもよくわからないんだけどね…困った役者だね」
まだ何か言いたそうなイナの尖った唇をちょいとつまんでから
手を振って撮影用の部屋に向かった
ジンとヒョンジュの束の間の穏やかな日々
キッチンに立つふたり
寝室の窓に肩を寄せて立つふたり
古いデスクに椅子を並べパソコンを覗くふたり
そのひとつひとつのシーンは
おもちゃのように区切られていてシチュエーションは掴みやすいが
ついぞお互いとそんな時間を持ったことのない僕とミンチョルは
どこかぎこちない
「いいのいいの!そのぎこちなさがいいんだから~無理に意識しないで」
君たちは恋をしてる
ジンは彼が愛しくて愛しくて仕方ない
ヒョンジュはジンに甘えられる自分が嬉しくて仕方ない
ああこう…溢れるってか…籠るってか…ああっ
…などと身悶えしながら演説したかと思えば
子供じゃないんだからわかるでしょ、もう好きに睦んでよ!
…とピラピラと手を振る監督
それがおかしいと言って素直に笑うミンチョル
監督の周到な策だとはわかっていても
僕も思わず和んでしまう
小ぶりなキッチンで一緒にサンドイッチを作る
指から転がってしまったオリーブを
ヒョンジュの口に入れてやる
実を噛みながら俯く彼にほんの軽くキスをすれば
その表情が薄紅のようにほころぶ
窓に肩を寄せてさらさらと降る細い雨を見上げる
間近に香る髪に口元を埋め目を閉じれば
ヒョンジュが少し力を抜いた身体を僕に預け
僕はその腰に手を回す
ふと気付けば
パソコンを覗く僕の横顔を穴が空くほど見つめるヒョンジュ
ん?何?…そう目で聞くと
にっこり笑って僕の肩に顔を埋める彼
僕の反応もミンチョルの反応も、本に添ってはいてもほとんどがアドリブだ
小さな幸せと呼べそうな場面を繰り返していれば
そこにいるはもうミンチョルでなく
ひとり僕だけを頼ってくれるヒョンジュで
僕の中は次第にただひたすらの愛しさで満たされる
同時に…それまでは感じなかった息苦しさを自覚し始めながら
ソファに座り
僕に寄りかかるヒョンジュに本を読んで聴かせる
あの「Le Petit Prince」の一節
僕ね、日暮れの頃が大好きなんだ、ねぇ陽が沈むところを見に行こうよ
でも待たなくちゃいけませんね
待つって何を?
陽が沈むまで待つんですよ
私がこう言うと君はとても驚きましたね、でもやがておかしそうにこう言いました
僕いつも自分の星にいる気がしてる
ー
君の小さな星なら、座っている椅子をちょいと動かすだけで、思う度に夕焼けが見られるわけですね
僕ね、いつだったか日没を44度も見たよ
そして少しして君はこうも言いましたね
だって、哀しい時って日没が好きになるものでしょう
1日に44度も日没を眺めるなんて、君はずいぶん哀しかったんですね
でも、王子様は何も答えませんでした
ヒョンジュは僕の肘の辺りにあった指に力を入れた
僕は小さな本から目を離し
右の肩に顔を埋めている彼を見下ろす
ヒョンジュ…?
何か暗いものに繋がってしまったのだろうかと不安を覚える
僕は今更ヒョンジュの過去を引きずり出して何かを変えたいとは思わない
無能なカウンセラーと言われようとも
エゴイスティックだと言われようとも
しかし僕の声に真っ直ぐ上げた彼の目は
決して哀しそうでも辛そうでもない
見知らぬ過去への微かな憧憬だろうか
それは蜘蛛の巣の糸のように美しくただひとつの場所に向かっている
僕はそっと左手を伸ばしてその顎を支え
唇のすぐ側にいくつものキスを落とす
戸惑うように幾度か瞬くその睫毛に耐えられず
僕は片腕を回し抱き寄せて深くくちづける
愛しくて愛しくて
恋人同士が触れあう
きっと根底には充分に肉欲を意識しているはずのジン
それでもその壊れそうな相手に自分をさらけ出せずにいるジン
そんな演技を心がけていたわけじゃないし
自分にそれほどの余裕があったとも思えない
後から思えば僕とミンチョルの
僕たちにしか知り得ない複雑な想いが自然にそうさせたのだと思う
僕は何も考えずに
ヒョンジュのその目に誘われ
ヒョンジュを求める
横抱きにしたヒョンジュの身体から次第に力が抜け
僕は本を取り落としたまま強く抱き寄せる
背中のセーターを僅かに掴む指に、記憶が色づく
ーそしてまた
突然時を切る監督の低い声
深く絡まっていた舌をほどくと
唇は濡れた音を立てて離れていった
途端に胸で息をするミンチョル
「ごめん…苦しかった?」
「いや…」
俯いたミンチョルが紅く染まった唇を指で触る
それが無意識なのだとわかっていても
僕にその甘い余韻を自覚させる
監督たちの「ちょっとモニター見てみて」という声に助けられ
ソファから腰を上げた
モニターにはくちづけを交わすジンとヒョンジュ
「いやぁ…どうよ」
「監督、ちょっと扇情的過ぎ?」
「ジホ君らしからぬ言葉だなぁ…いや、ジンがのめり込んでいく感じが出てる」
「なるほど、本が床に落ちるショットも入れますか」
「あとヒョンジュの指アップもね」
「ユンさん、下から行ける?」
「床から手持ちで行きます」
「じゃ細かいの終わったら午後は予定通り珈琲屋ね」
「はい、もう先発行ってます」
全くの別の世界のような会話を聞きながら
僕もミンチョルも、その恋人たちを眺めていた
結ばれることのないふたりの…
アシスタントの声が休憩を告げ
少しぼんやりしているミンチョルに何か言いながらスタッフが近づいた時
僕はその場を離れた
入口に近い広い部屋、予備照明や道具類が積まれ
ひっきりなしにスタッフが出入りしているその部屋のバルコニーに出た
人のざわめく場所、でもミンチョルもヒョンジュもいない場所
そんな所に行きたかった
女の子が手渡してくれたミネラルウォーターを口にし
手すりに寄りかかって、ようやく空気を吸う
息ができないんだ
ヒョンジュを抱きしめていると息ができない
アドリブは魔物のように僕を煽り
そこで自制しなくちゃいけない自分に驚かされる
ミンチョルとヒョンジュの境目などとうに無く
熱くてただ息苦しくて
胸の中に手を突っ込まれて引っかき回されるような気さえする
これはきっと仕事として成功しているんだろう
自分の中からジンが引きずり出されているんだろう
何度も頭に刷り込んだ架空の人生にうまい具合に浸蝕されて
おそらく「上出来」というやつなのに
それがわかっていて尚
沸き立つ何かを押さえることが苦しい
この苛つきが何なのかも判然としない
イナ…こんな体たらくだ
黒い鉄の手すりを力任せに握って目を閉じる
地上5階の風は少し冷たくて
決して弱くはないはずのその日の陽射しを遮る
呼ぶスタッフの声に
僕は大きな息をひとつ吐き顔を上げると
蹴るようにそこをあとにし
メイクさんに髪を整えてくれるよう言った
So What? 5 ぴかろん
*****
ジャンスさんに助けられた俺は、カウンターに突っ伏した
「お前はほんっとに…」
「…。はふ…。重鎮、水くだしゃい」
「大儀でしたのぅ、イナ殿」
「ひ…。なんでこんな目に…」
「お前がしゃびしそーな顔してるからだ!」
「ほぉ?テジュン殿と揉め事でもございましたかな?」
「…いや…」
「重鎮、確かに揉め事はあったんだが、今や前にもましてラブラブでなぁ、フン。イナよ、テジュンの馬鹿野郎は、『体が二つ欲しい』とほざいておったわ」
「ふたつ?」
「おお。一つはお前担当でな、ずーっと一緒にくっついていたいらしい。そしてもう一つは…」
「仕事する体か…」
「ノンノン。色気小僧担当」
「え゛」
「…も増やすと体が三つ要るらしい」
「は?」
「ハッハッハァ。ジョークジョーク。ふたぁちゅだ、ふたぁちゅ。もう一つは、仕事だのヨンナム君だのその他色気小僧だのの担当で」
「…最後のが余計だ」
「ハッハッハ。まぁいいじゃないか。ハッハッハ」
「…よくねぇよ…」
「テジュンは今日、どぉぉぉしてもヨンナム君と話をしなきゃいかんと言ってた。しかしお前のお迎えにも行きたそうだった、フフン。苦しんでいる部下は放っておけないイージャンスーは、そういうわけでテジュンの代わりにお前をお迎えに来たのだー」
「…。うん…」
「それと、俺自身が来たかったってのも大きい」
「そっちが本当だろ?」
「ま、そうとも言える」
「…」
「お前さんと別れた時のテジュンは、それはそれはしょぼくれていた。が、どうだ、ここ最近のあの馬鹿野郎は!仕事中にニヤニヤニヤニヤ…。ったく…。ニヤけ顔はキモチワルイが仕事の効率も上がった。なんだあいつは!」
「…そか…よかった」
「そう!よかったんだ。なのになんでお前はそんな顔してるんだ?」
「うん…」
「ヨンナム君の事が気になるんだな?それでテジュンがヨンナム君と今日絶対にどぉぉぉしてもお話をしたいの!ってわけだな?」
ジャンスさんとの会話は、わかりやすいけど疲れる
「…。聞いたんだろ?てじゅに…」
「ふむ。ジャンスは何でもお見通しっ♪…なんちゃって…んふふ。そーなの、実は聞いたの。てじゅに。けひっ」
「…」
…。ウザ…
しかめっ面をした俺を、ジャンスさんはニヤリと笑って見た
そして、フフフフンと鼻を鳴らして続けた
「お前はどうなんだ。ヨンナム君に対して」
「…。俺、テジュンが好きだけど、ヨンナムさんもほっとけない…」
「うむむ」
「ヨンナムさんに、どんな風に接すればいいかわかんない」
「ふむむ」
「ヨンナムさんは俺を『友達だ』って言い張るんだけどさ、俺は『友達以上』だと思うしさ…」
「つまり!ナニのアレの手前までの仲…ですなっ?!」
「ほほう。真に複雑な絵巻でございますなぁ」
「そうなんだよ重鎮。こいつらの店はホント、複雑なんだわ。なぁイナよ」
「…」
「睨むな!…で?そういう仲のヨンナム君と、今後どのように付き合えばいいのか?っつーことを俺に相談したいんだな?」
「…。別に俺、この事をジャンスさんに相談しようと思ってないし…」
「いやん!気になるんだもんジャンスゥ」
「ワシも気になりますゆえ…」
「…なるようにしかなんないもんでしょ?」
「おお」
「左様ですなぁ」
「テジュンがさ、ヨンナムさんの事は任せとけって言ってくれたからさ」
「おおっ!」
「男気を感じますぞっ!」
「…てへ…。だから…くふ…。てじゅに任せようと思ってぇ…」
「いやん!恋人自慢聞かされちゃったわン」
「これはむず痒うございますなぁふははは。いやいや、テジュン殿、天晴れじゃ!」
「しかしキム・イナよ!だったらお前、そんなしゃびしそうな顔しなくてもいいじゃねぇか!ん?」
「…」
「じいいい。うむ!…『絢爛豪華総天然色男複雑絵巻』の方々に関わりがござろう!」
「なるほど!そこか!」
重鎮の鋭い視線とツッコミに、俺は何も言えなかった
「ふぅむ」
「でもなんで? 『絢爛豪華総天然色男複雑絵巻』はスヒョン君とミンチョル君とドンジュン君とギョンビン君の4人だよね?それがどうしてお前の『ションボラー』の原因なの?」
「ジャンス殿。ミンチョル殿とイナ殿は、『とまんぜりんたる親友』ですぞ!」
「じ…重鎮。俺、その言葉、聞いたことありませんなぁ。どういう意味ですか?『とまんぜりんたる』って…」
「そうですな…例はいくらでもあげられますな。例えばそう、そこにおいでのサル殿とジホ殿などもそうかもしれませんな。それとあちらのドンヒ殿とホンピョ殿、ビョンウ殿とジョンドゥ殿もそうと言えましょう」
「は?…サッパリ解りませんぞ、重鎮…どういう字を書くのですか?」
「これじゃこれじゃ。こう書くのじゃ」
「『友安全倫理』…何語です?!」
「いやいや、これがな。実に不思議。話せば長くなりますが、よろしいかな?ん?」
「はい!お聞かせください重鎮!キム・イナいいな…なんちって…」
「うん。聞きたい」
重鎮の話を聞く機会なんて滅多にない事だ
俺はジャンスさんと一緒に背筋を伸ばしてその言葉についての話を聞いた
*****
それは二週間ほど前の出来事じゃ。ワシは弓の腕を上げんがため、はるばるニホンへと遠征修行に赴いたのじゃ
ニホン各地の弓道場を回り、心落ち着けて弓を射る
それはそれは素晴らしい修行じゃった
ある道場で出会った若者が、書を嗜んでおってのぅ
その時この文字を練習しておったのじゃ
なんと読むのかと聞くと
「とまんぜりん」
と一言
「はて。その意は?」
ワシは問うた
若者は黙想した後に答えた
『友とは…心許す存在。真の友とは…、仮令争い合うても心通ずる存在。友を信じ、己を信ぜよ…という意味でございます』
しゃきりと伸ばされた背筋が美しい若者じゃった…
ワシは彼に言うた。もしも貴殿が我が国に住まいし、そこで困り事などあったれば、我が店を訪ねられよ。お気に召さば、そのまま居着いて働くもよし!ワハハとな
*****
重鎮の話は、言葉遣いがややこしいと言うだけで、さして長くはなかった
「いい事言うねぇ重鎮は」
ジャンスさんは誉める
俺は首を捻った
いい事を言ったのはその若者で、重鎮はただ…
「修行のふりしてスカウトしに行ったってこと?」
「ほほ。我が店、ホ○ト不足であろう?それで修行ついでに良き男子をばチョイと…。残念ながら断られたわい。じゃがの、かの若者が我が国を訪れし折には、必ずや我が店を訪ねられよと固く約束してまいったのじゃ」
「ふぅん…」
「そして昨日、かの若者がご来店なすったのじゃ。のう、ジャンス殿」
「え?あ…ああそうだっけ?」
「なんじゃ!覚えておらぬのか?」
「だあってぇ…ジャンス飲み過ぎちゃったんだもぉん…」
「ふぬ!たわけ者め!」
「それより重鎮、その言葉の意味はさ、『友達はいいもんだ』っつーことなのか?」
「喝!『友であるならば、仮令争いあう立場にあっても、友を信じ、そして己も信じ、互いに信頼できる存在であれ』と…斯様に申しておるのじゃ!喝!」
「そおだよ、わかんねぇのかよ、ジャンスさん…。簡単に言えば『喧嘩してても親友』という意味でござるよなぁ重鎮」
「その通りじゃイナ殿!」
「喧嘩してても…親友か…」
「サイザンス、トマンゼリン」
「「え?」」
突然、俺の後ろからヌッと首を突き出す端整な顔立ちの金髪グラサン男
「ティッ…T-1000…」
ジャンスさんよると、その男はターミネーター2のT-1000の扮装をしているらしい
「ハローMr.チン、キョウモキマシタデス」
「…。ジャンスさん…誰…これ誰…」
俺の顔は引きつっていたに違いない
いつの間にこの店に入ってきたのか!
それとも初めからこんな目立つ男がいたのか…
俺はカウンターで微笑む重鎮を見つめた
「いらっしゃいませ。お待ちしておりましたぞ。何処より現れた?」
「チューボー裏口デス。アーナタガー、チューボーデ『よこづな』サンノエサヲ作ッテイル時ニ、コソリ店ニ潜リコンダーネー」
「流石ですなぁ気づきませなんだ。駆けつけ一杯、何にいたしますかな?」
「ボクモカレラト同ジモノデスヲ~ オゥ願イシマゥスキャットドッグゥルーフ」
「重鎮…。誰…これ誰…」
「アゥ、申シ遅レマシタ。ボクハァ…ン…。キミ、可愛イネィ…」
T-1000は、俺の耳元に息を吹きかけながら囁いた
俺は首を竦めた
「ボォクゥハァァァン…ナマェヲゥ…」
「ぴーちゃんっ!」
「オゥ?オゥッラブチャンッ」
ドドドドがっつりはぐそしてちゅうううう…
「ぎゃああああやめてぇぇラブぅぅやめてぇぇ」ドドドド
男とラブはドドドと駆け寄りいきなり『濃厚なご挨拶』をかまし、それを見たギョンジンが泣きながら突進してきた
そして
がばぁぁ
「ぎょええっなんで俺っ…」
ギョンジンは俺に抱きつき、唇を尖がらせた
「こらっギョンジン!卑怯者ぉぉ」
離れたところからソクの叫び声が聞こえる
「へへん、隙アリだもぉん」
「あんたっ!」
「ふんっ!ラブのバカ!なんでポールにキスなんか…。あれ?」
「ハァイ、ミン・ギョンジン。おーげんきですかぁぼーくはげぇんきでぇす」
「…そう言えば、なんでポールがここに?」
「ぎぇぇえええ」
T-1000とラブとギョンジンが揉めている隙を見て、忍び寄ってきたソクが俺を抱きすくめた
「ふふん、イナ、今のうちに僕とキスしよう」
「ひええんひええんジャンスさぁぁん」
「喝っ!コラコラコラコラ、お前らっ!いい加減にしろ!」
ジャンスさんの一喝で、ソクとギョンジンは俺から離れた
「ラブちゃん、この人が噂の『ごさいじ?』」んちゅ
「クリスマスパーティーで会っただろ?」ちゅん
「そうだっけ?僕はキミに夢中で他の事は目に入らなかったからねぇ」ちゅ
「あん…。一度ギンちゃんの映画の撮影の時にも…」ちゅ
「あの時はキミとのらぶしーん撮ってすぐにニホンに帰ったから」ちゅ
「あん…。くふ…そうだっけ…。じゃ、紹介するね。『ごさいじ』」ちゅ
「ふぅん。よろしく」ちゅ
その男は、ラブとちゅっちゅしながら、俺を見ようともせずに『よろしく』と言った
何なんだコイツ!
Distance2 オリーさん
台本を開いて文字を追っているうちに
ふいにあの声が聞こえ、
昼間の出来事がよみがえった
ダディ!
高く澄んだ少年の声は、
喧騒とした撮影現場で、ひときわ目立つ音声だった
監督の厳しい顔が一瞬でくずれ
少年に向かって走り出し両手を広げた
今までに見たことのない和やかな表情で
大きなハグのあと、少年を抱きかかえるように戻ってきた監督は
僕たちに少年とその母親を紹介してくれた
ニューヨークから着いたばかりだという
監督の親友ユウジさんの奥さんと息子さん
監督はすぐにまた少年と楽しそうに話を始め
母親の方は、そんな二人の間柄を僕たちに説明してくれる
親友を亡くした男と父を亡くした少年の交わり
交わりという言葉では語りつくせない絆が見て取れる
まるで親子のようだ・・
そんなことを思った時だった
突然僕の耳にある言葉が飛び込んできた
クリスマスプレゼント・・
胸の奥でごうとつむじ風が巻き起こった
大きな包み
派手なリボン
高価な物だとわかっていた
毎年繰り返される茶番
ある年ささいな事からその茶番をやめ
包みを開けることを拒否した
妹の手を引き、庭に立ち尽くし
その男に背中を見せる
幼い僕ができたことはそれだけだった
父さん、これが僕の答だ
気がつくとスヒョンがその女性ジェヨンさんと握手していた
母親が持つおおらかな落ち着きの中に
凛とした太い芯が見えたような気がした
愛する人を亡くしはしたけれど、
愛する人との結晶を愛しみ、前を向いて生きていく
強い意志を、その瞳が語っていた
僕も手を差し出しながら
なぜかその眼差しに気後れを感じ、息がつまった
なぜだろう・・
口実を作って控え室に戻った
鏡台の前に座り、大きな鏡の中の自分に語りかける
どうした?
いや、何でもない
そう、何でもないんだ
何度も自問自答してから台本を取り出し、今日のシーンをなぞる
ヒョンジュが昔住んでいた家には大きな桜の樹があった
ヒョンジュの記憶はジンの話からその風景に繋がる
小さな自分が見上げる美しい桜
そして君を抱き上げる大きな手
束の間の父親との暖かいひととき・・
また動悸が激しくなり台本をテーブルに投げた
台本はテーブルの端に触れ、そして椅子の上にすべり落ちた
ヒョンジュは父親との暖かいひとときを懐かしめるのか
あんな目に遭ったのに
あんな仕打ちを受けたのに
なぜ・・
また胸の底が渦巻いた
父さん
あなたが何も与えてくれなかったのか
僕が何も求めなかったのか
どっち?
たぶん両方だ
けれど父さん、あなたには想像もできないだろう
子供がジャケット一枚で幸せになれることを
愛されていることを実感できることを
派手な包装の大きな包みは必要ない
ただそれを選んでくれる気持ちが欲しいのだ
それなのに
あなたは最後まで僕たちを・・
過ぎたことだ
すべて終わったこと
今頃なぜこんなことを思い出すのか
ヒョンジュの世界に入ろうとすると、時折胸が苦しい
わかっていたはずだ
ヒョンジュの境遇と僕の生い立ち
まったく違うようでいながら、
父親の話になると僕の思考は空回りする
灰色の空から落ちてくる雪
震える妹の小さい手
我慢するんだ、と叱咤する僕
後ろから聞こえる罵声
ミンチョル・・お前という奴は
扉の開く音がしてそちらを振り返った
スヒョンが立っていた
あの笑顔で
いつも僕を包んでくれるあの笑顔で・・
僕もぎこちない笑顔を作った
本番でのシーン
スヒョンの声が、桜の木の思い出を語る
「…僕は嫌で嫌で…家を飛び出してね…大きな桜の樹に登ってやったんだ」
僕の耳はただスヒョンの声音だけを捉えている
桜の木の話は聞こえない
ただスヒョンの唇からこぼれるその音声に僕は耳を澄ませた
控え室でそっと抱いてくれたスヒョンのぬくもりを思い出す
大丈夫…もう遠く過ぎたことだから…
もうおまえを傷つける者はいないから…
そう言って背中をさすってくれたスヒョンの手と胸の中の温もり
すべてを包んでもらうことはこんなにも心地よい
子供はみなそうやって親に抱いてもらうのか
子供はみな・・
落とした視線の先に小さな床の傷を見つけた
誰も気にしない、誰も気づかない小さな傷・・
「・・本当に・・・とても美しかった」
その場面のスヒョンの最後の台詞が聞こえた
ゆっくりと顔を上げると
スヒョンの瞳につかまった
もうお前を傷つける者はいないから・・
頭の中でスヒョンの声がした
目の前にいるのはジン・・
その指先が僕の頬をさぐる
涙を拭うために
僕は泣いていたのか
ジンの唇が僕の唇にゆっくりと重なり
やがて口づけは深いものになっていく
僕は暖かい海に漂うような錯覚にとらわれ
それから
その海に沈んだ
ミンチョル・・お前という奴は・・
大丈夫…もう遠く過ぎたことだから…
「今日の撮影、うまく行ったんだってね」
ふいにミンの声がして、今に戻る
僕は、ああと台本から目を上げず指先で鼻をこすった
ミンに何も話していない
ミンが聞かないのをいい事にして
撮影のスケジュールも大まかにしか話していない
「気になるか?」
僕はまだ鼻をこすったまま聞いた
「何?」
「いや、その・・スヒョンと・・」
「キスシーンのこと?だって撮影でしょ」
ミンの声があまりに邪気がなかったので顔を上げた
振り向いたミンと視線が絡まった
それとも別の意味でもあるの?
いや、何も
でもちょっといつもと違うよ
何が?
何だか穏やかだね
そうかな
何となくね
ミンがそんな風に聞いている気がして
思わず心の中で返事をしていた
ミンの視線はいつも真っ直ぐに飛んでくる
泣いても笑っても怒っても愛しても・・
その視線が平静を装いながら少し揺れている
気のせいだろうか
ミン?
何?
何かあったのか
別に
ならいい・・
ゲストルームで寝ると言うミンを
何も言えずに見送った
いいんだ、台本ならもう覚えてる、一緒に休もう
なぜその一言が言えないのか
明日もジンとの絡みのシーンの連続
スヒョンに導かれ、僕はヒョンジュのふりをする
心の底でまだ理解できないヒョンジュのふりを
それでも監督はOKを出し
撮影は進んでゆく
そんなものなのか・・
寝そべったベッドの上で何度も寝返りを打った
広いスペースにひとり
ミンの香りもスヒョンの温もりなく
僕はひとりだ
ダディ・・ダディ・・
ミンチョル・・お前という奴は・・
またどこかでごうという音がしそうで
思わず僕は起き上がった
ゲストルームのベッドの上に黒い影が横たわっている
フットランプを頼りにその淵へ腰かけ
肩越しにその寝顔を見つめた
時に僕をなじり、僕を責め、それでも僕を愛していると
いくつもの言葉を生み出す唇は静かな寝息をたてている
ミン
白状しようか
もし今回のことが逆だったら
もしミンに映画の話が来て
その映画にラブシーンがあったら
僕はどうすると思う?
僕はね・・
絶対に許さないよ
僕はこんな勝手な人間だ
こんな我儘な男だ
スヒョンのように与えることはできず
ただ奪っているだけなのかもしれない
幼い頃プレゼントをもらいそこねた子供が
大人になって素敵な贈り物を二つももらった
ひとつはすぐに開いてそばに置いて
もうひとつは大事にとっておいて楽しみに見ている
本当は、そんな事をしてはいけないのだろう
すまない・・
翌朝、目が覚めるとミンが怒っていた
どうしてわざわざ狭いベッドに入りこむかなあ、
おかげで体中が変な風にこっちゃったよ、と
僕は言い返した
こっちだって変な風に抱かれて肩がこった、と
ミンはすっと目を吊り上げて向こうに行ってしまった
僕はその後姿を見て微笑んだ
こんなことが嬉しい
ミン
僕は今朝こんなことがとても嬉しい
その日はジンと過ごす場面の撮影だった
イナが見学に来るとスヒョンが言っていた
あいつ・・もう大丈夫だろうか
出かけるとき、
いつものようにミンがエレベーターの所まで見送りにきた
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
僕は振り返って大きく息を吐いてから言った
「ジンの恋人になってくる」
ミンは首を振りながら下を向いた
「どうした?」
覗き込むと、ミンは唇の端で笑った
「やっと言ったね」
「何だって?」
「撮影3日目にしてやっと言ったね、自分が何してるか」
ミンは僕の目を見て笑っていた
「ミン・・」
「ジンと言っただけ、それだけでよしとしてあげる。でも・・」
「でも?」
ふいにミンが僕の腕を引いた
そして強く抱きしめられ、唇をふさがれた
ミンのキス
スヒョンでもジンでもなく
それはミンのキス
唇を離すとき、ミンが小さく呟いた
「エレベーターに乗るまでは・・僕のテリトリーだ」
そして僕をエレベーターに押しこめ笑顔で言った
「僕の事は気にしないで。大丈夫だから」
僕はミンの目を見てもう一度言った
「行ってくる」
ミンが小さく頷いた時、扉が閉まった
僕はミンのテリトリーの外、撮影所に向かった
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