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ぴかろんの日常
リレー企画 272
Distance 10 オリーさん
彼の言葉に僕は思わず足を止めた
そして彼の姿をじっと見つめた
そうだね、
僕はここで何してるんだろうね・・
彼はすぐに窓の外に視線を向けてしまった
膝に肘をついて指を絡ませ、顔を背けている彼
ほんとに
僕はここで何をしているんだろうね
それは・・
あの人から電話があったから
あの人に呼ばれたから
唐突に始まった会話は一方的に終わり
僕はただ呆然としていた
ただ、ざわざわと嫌な予感がして
もう一度フリップを開いた
事故でもあったのか、
怪我でもしたのか
撮影現場で・・
あわてて着信の番号にかけ直そうとした
だが待て・・
何て言っていた
あの人は何て・・
『今、ミンチョルの撮影が全て終わった』
『迎えに来てやって』
『迎えにきてやってくれと言ってるんだ』
初めてだ
あの人には似合わない強い口調
『いいから、来い!』
『必ずだ、いいな』
今、ミンチョルの撮影が全て終わった
いいから、来い!
撮影が全て終わった・・
今日はあの場面の撮影だったんだ
気にはなっていたけれど
今朝の彼はいつもと変わらず淡々としていた
そして、僕がシャワーを浴びているうちに
彼の姿は消えていた
行ってらっしゃいの言葉すらかけずに
出してしまった・・
あの人はなぜ僕を呼んでくれたのだろう
あなたなら
何でもわかっているじゃないですか
彼の心の奥底まで
僕がわからない彼の苦悩まで
あなたなら何でも・・
それなのに
なぜ僕を・・
『迎えに来てやってくれと言っているんだ』
僕はまた彼の姿を見つめた
なぜ僕はここにいるの
なぜあなたはそこにいるの
昼でもなく夜でもない
変わり行く日のはざまに
僕たちはなぜここに・・
それは・・
時が過ぎる音が
部屋のどこかから聞こえるようだった
さらさらと砂がこぼれ落ちるように・・
部屋に差し込む夕日がどんどんと薄くなり
それとは逆に白い床の影が濃くなる
そして
僕に背を向けたシルエットは
まるでその部屋の一部分のよう
動きも音も存在しない黄昏の部屋の中
その時、僕の中に光が射した
一筋の光が僕の心の隅を照らし出し
それは僕に思い出させてくれた
僕がここにいる理由を
僕はまた歩き始め、彼に近づいた
彼は動かない
わかってる
彼が僕を見ないことは
それでも僕は歩を進め彼の隣に立ち、
そして、彼の隣に静かに腰をおろした
それから軽く息を吐いて言った
「スヒョンさんが電話をくれた」
彼が僕を振り仰ぐのを感じた
僕は視線を合わせず前を見たまま言った
「迎えに来てやってくれって言われた」
彼が息を飲む様子もわかった
「愛されてるね」
僕はそこで彼を振り返った
「あの人は本当に愛してるんだね」
彼の瞳にわずかなとまどいが見える
その瞳には消え入る直前の夕日が映り
水晶のようにきらきらと輝いている
綺麗だ
病んでいても、傷ついていても
どんな時もあなたは綺麗だ
ねえ、わかってる?
僕は膝の上の彼の手を握った
「でも覚えておいて。僕も愛してるよ」
「ミン・・」
彼が何かを言いかけたので
僕はそれを制止するように強く手を握りしめた
いいよ
何も言わなくていい
言葉は時として無力だ
ひとたび口元を離れると
ひとつの生を受け独り歩きする
どんなに尽くしても
正しく伝わることは難しい
独り立ちした言葉は
そうしたいと思う時ほど
取り返しがつかず
違った形で相手に届く
僕達の間に言葉はいらない
僕はただ
あなたの手を握りしめればいい
そして
僕の体温を伝えればいい
僕はここにいる
ずっとそばにいる
それが
僕にできることだから
僕のしたいことだから
握りしめた彼の手の甲がほんのりと体温を上げる
温めてあげる
寒いなら
温めてあげる
彼が突然僕の手を払いのけ背を向けた
その肩はすぐに小さく揺れて
声を殺して泣いているのがわかった
僕は後ろから彼の肩を抱きしめた
いいよ
悲しい時には涙を流した方がいい
思い切り泣いた方がいいんだって
何かで読んだことがある
あなたがヒョンジュから何を連想したかは、
大体想像できる
自分の過去にまた囚われそうなんだね
忘れたい過去
忘れられない過去
変えたい過去
変えられない過去
過去の忌まわしいすべてが
あなたを取りまいているのだろう
僕はあなたの
その思いのすべてを理解することはできない
あの人のように・・
渦のようにとぐろを巻いた
その怨念を解きほぐすことはできない
あの人のように・・
でも
ここにいることはできる
彼の肩が激しく揺れ
嗚咽が聞こえた
ぽっかりと大きな口をあけて横たわる
過去という暗い淵に立ち
そこに飲み込まれそうなあなたを
後ろから抱きしめることはできる
あなたがその淵に囚われて落ちていくのを
僕は止められない
だからせめて一緒に落ちてあげる
こんな風に抱きしめたまま
一緒に落ちよう
ひとりでは行かせない
僕は気の利いた言葉は何も言えない
でも、
ここにいることはできる
あなたの涙の元を断つことは僕にはできない
でも、
僕の体温を伝えることはできる
思い切り泣いて
気の済むまで泣いたらいい
僕は揺れている彼の肩に顔をつけて
しっかりと抱きしめた
ねえ、僕の心臓の音が聞こえる?
その時
彼の手が僕の腕を掴んだ
掴まれた腕に彼を感じる
心で僕を呼んでくれている
ありがとう・・
しばらくして
少しづつ彼の肩の奮えが小さくなり
やがてとまった
それでも僕は彼を抱きしめたまま
じっとしていた
夕日が最後の光を控えめにしまいこみ
昼と夜の境い目で僕達はひとつの影になった
ねえ、今わかったよ
僕はずっとこうしていたい
僕達の間に嵐が起こっても
僕達の間にどれだけの時が流れても
僕はずっとこうしていたい
嫉妬も羨望も焦燥も
すべて包み込んで
ずっとこうしていたいんだ
ねえ、いいよね?
機械音が静寂を破った
ジーパンのポケットに突っ込んでいた携帯
今はだめ
ノーアンサー
僕は彼を抱きしめたままでいた
「ミン・・」
「ん?」
「電話だ」
「知ってる」
「出ないのか」
「今忙しいんだ」
「嘘つきめ」
「嘘じゃない、今とても忙しい」
僕は彼の肩に顔をつけたまま笑った
彼の肩も揺れた
笑ったね
よかった・・
しばらく鳴っていた携帯の着信音がやんだ時
彼が言った
「そろそろ・・行こうか」
「・・そうだね」
僕は彼の肩から手を離した
彼はゆっくりと僕を振り返り、上目遣いで僕を見て言った
「遅刻だ」
何言ってるの
「僕のせいじゃないよ」
「僕のせいだと?」
「違うの?」
「違う」
「へえ、そうなの」
「迎えに来たんだろうが」
「そうだよ」
「なら、責任を果たせ」
「偉そうに」
「何だって?」
「迎えに来てくれた人間に言う言葉かな」
「頼んだ覚えはない」
「よく言うよ・・あっと、ちょっと待って、まずいよ」
「どうした?」
「イヌ先生からだ、電話」
「だから出ろと言ったろう」
「出ろとは言わなかったよ」
「とにかく急ごう」
「わかってるよ、忘れ物ない?」
「ない」
「じゃ、行くよ」
僕と彼は競うように出口へ向かった
彼は扉を閉める瞬間
もう一度、その部屋を見渡した
窓の外は青みがかったグレーの色が広がり
部屋の中には夜が腰をおろそうとしている
小さくため息をついた後で
彼は静かに扉を閉めた
「さあ、行こう」
彼が僕の肩をたたいて先に歩き出し、
僕はイヌ先生に電話して謝りながら歩いた
電話を切って、少し先に歩いている彼に追いつき
彼の腕に腕をからめた
「やめないか、こんなところで」
「やめない」
「誰かに見られたらどうする」
「こうやって歩きたいんだ」
「しょうのない奴・・」
「はあん、どっちが」
撮影のことは何も聞かず
撮影のことは何も話さず
僕達はひとつになって歩いた
「指名ガンガン入れといてくれって言ったからね」
「こんな日までこき使う気か」
「チーフの分も指名引き受けますって」
「スヒョンの分も?ムリだ・・」
「遅刻した罰だよ。そのくらい恩返ししたら」
「余計な事を・・」
「人間、使ってもらえるうちが花でしょ」
「半人前に言われたくないな」
「ひどいな、僕の指名増えてるんだからね」
「最近物好きな客が増えてるのか」
「何だって、え?」
涙の意味は聞かず
涙の意味は話さず
僕らは軽口をたたきながら歩いた
これでいい
僕には何もできないのだから
それでも
僕はずっと腕を組んで歩きたい
たとえ
あなたの瞳が他の誰かを追い
あなたの心が他の誰かを求めても
僕は
あなたを愛することをやめられないだろう
それが僕の望みだから・・
僕はただ
あなたを愛したい
愛が呼ぶほうへ ロージーさん
強がる人の背に降りしきる雨
寒いね・・抱いてあげよう 濡れるまま
彷徨う人の目に吹きつける風
見えぬなら閉じればいい 手をとってあげよう
僕を知っているだろうかいつも傍にいるのだけど
My name is love ほら何度でも僕たちは出逢っているでしょう?
そう遠くから近くからあなただけを見ている
若さを恨む日も 弱さに迷う日も
悲しみも淋しさも痛みさえ
僕をあなたから奪えはしない
かけがえのない時間を受けとめていく
あなたは知っているだろうか 苦しみも喜びも
My name is love 僕が持つたくさんのなまえのひとつだから
そう永遠で一瞬で生きる意味のすべてだ
花が空に伸びゆくように 海を越える旅人のように
いつも導かれているのでしょう
愛が呼ぶほうへ
僕を知っているだろうかいつも傍にいるのだけど
My name is love ほら何度でも僕たちは出逢っているでしょう?
そう永遠で一瞬で生きる意味のすべてだ
遠くから近くからあなただけを見ている
(ポルノグラフィティ『
愛が呼ぶほうへ
』)
Distance 11 Love means・・ オリーさん
遅刻して入った店内はちょっとざわついていた
メインフロアの中央にあるはずのテーブル席が取っ払われ
ステージに向かって垂直に長いテーブルが置かれている
その下には大きなビニールシートが敷かれ
椅子がまばらに置かれていた
お客さんはわいわい言いながらそれを遠巻きに見ている
「何これ・・」
ミンが小さく呟いた時、後ろから声がした
「やっと現れたね、遅刻のお二人さん」
「ウシク・・これは?まかさあれをやるのか?」
「そう、まさかのあれですよぉ」
「めったにやらないのに・・」
「まあね、でも欠勤ちこーくが多いいんで一発があんと派手に」
「すまない・・」
「あんまり先生をヤキモキさせないでよねえ。神経細いんだから」
「すみません」
「そしたら、ソヌさんが急遽あれやってくれるって」
「随分久しぶりだな」
「でしょ?ソヌさんもいいとこあるよね」
「確かに」
その時後ろからバリトンボイスが聞こえた
「で、面子は誰が入る?」
「ソヌさん、準備OK?」
「常に準備できてる、それよりミンギの代わりは?」
「ジュノ君入れます」
「彼はだめだ」
「ええ?だってえ・・」
さらに複数の声が増えた
「オレやる!オレが指立ててカウントするから」
「だめですよ、テプンさん。ビール瓶で殴られる一番大事な役なんだから」
「あれ痛いんだよお。シチュンやれ!」
「僕?いやあ、僕はまだまだ役不足だから」
「じゃ、ホンピョだ」
「俺だって痛いのはやだぜ」
「指立ててカウントするだけだからジュノ君でも・・」
「いや、脇で敵役をボコボコやっててもらわないと臨場感が出ないんだ」
「じゃ、どうする?」
「僕がやりますよ、ビール瓶の役」
「え?ほんとに?」
「ナイフ持ってテーブルの上でやりあう役でしょ」
「ちょっと待て、ギョンビン、お前がやるとどっちが敵役かわからなくなる」
「それ、どういう意味だよお。俺ならいいのかよお」
「他意はない」
「大丈夫ですよ、悪役に徹すればいいんでしょ」
「まあド素人よりはいいかもしれないな」
「じゃ決まりだ」
「ギョンビン、うまくかわすな、僕より目立つな、わかるな?」
「わかってます」
「じゃ、そういうことで、本番前に一度控えで甘人のDVD見ましょ」
「そうそう、ちょっと台詞もあるしね」
「おわったら片付けは迅速に」
「ソヌさんってばわかってますよ」
「ビール瓶のかけらひとつも残すな」
「大丈夫ですって。ほら行きましょ」
「ふむ」
「んで、ミンチョルさんはあそこで先生手伝って」
「あ、ああ、わかった」
「大丈夫だよ、ソヌさん上手いから。僕も一度やってみたかったし」
ミンはそう言って笑いながらソヌさん達と裏へ行った
僕はウシクに言われたとおり、
テーブルセッティングをしているイヌ先生の手伝いに向かった
「遅れてしまって申しわけない」
「ミンチョルさん、よかったあ」
先生は僕の顔を見て柔らかな笑みを浮かべた
それから急に真顔になった
「僕は以前の職業柄、遅刻には厳しいんです」
「すみません」
「なので、あなたには罰として・・」
「何を?」
「鞭でパシンパシンと」
「え・・」
「うふふ、冗談ですよ、ちょっとはびびりました?」
「まいったな」
「かわりに閉店時に帰られるお客様全員に親指ハンカチをしてください」
「それで遅刻は許してもらえます?」
「今回はね」
「わかりました。ところで先生・・」
「まだ何か?」
「チーフらしくなりましたね」
「けほけほけほっ!お世辞はやめてくださいっ!」
「お世辞じゃありません」
「ほんとに?」
「ええ」
「ウシクがよく手伝ってくれますし」
「ウシクは以前からよく気がつきます。有能なアシスタントだ」
「ここだけの話ですが・・」
「何です?」
「僕はチーフ代理に向いてないって言うんですよ」
「そんなことはありません、適任ですよ」
「そうでしょうか」
「元チーフの言葉が信用できませんか?」
「わかりました、信用しときましょう」
先生はまた柔らかい笑顔を浮かべた
この人はウシクの話をする時、
大人からほんの少しだけ子供の顔になる
自分では気づいているだろうか
僕は・・・どうなのだろう
舞台の準備が終わって、しばらくして照明が落ちた
それまでざわついていた店内は静まりかえった
中央のテーブルにライトが当たり、
ちんぴらに扮したミンが中央に座り
その左右にシチュンとホンピョが陣取っている
いよいよソヌさんの舞台の始まりだ
ミンギ役のテプンを伴ったソヌさんが登場する
店内の空気がパリパリと音をたてて凍りつきそうな緊張感に包まれる
ちんぴらと二言三言言葉を交わしたのち、
ソヌさんが数を数え、
それに合わせてななめ後ろに立っているテプンが指を立てる
ゆっくり3つ数え終わると同時に
彼はいきなり床を蹴って風のようにテーブルに駆け上がった
見る間にやくざを蹴り倒す
以前彼から聞いたことがある
手は使わず足だけ使うのは、
相手を下に見る、侮蔑する意味があるのだと
イナが守るために蹴るのだとしたら
ソヌさんは倒すために蹴るのかもしれない
ふとそんなことが頭をよぎった・・
彼の無駄な動きのない速い回し蹴りで、ミンの手からナイフが飛び落ち
流れるような動作でビール瓶を手にすると
一瞬の後にはミンの後頭部にそれが振り下ろされた
その瞬間だけ、僕は目を閉じた
これはソヌさんの売りの芸ではあるが
その仕掛けと片付けに手間どるのと
彼が気分が乗らないとやらないと宣言しているため
めったに見れる代物ではない
その日のゲストたちは思いがけないショーに大きな拍手を送った
後でシチュンはテプンが必要以上に本気で殴ったと文句を言い
テプンはショーなのだから仕方ないと言い張った、
ミンは思いのほかやくざな役がうまかったので
次からも君に頼もうとソヌさんに言われ、目を泳がせていた
強がっているが痛かったのだろう
閉店時には僕は先生に言われたとおり、
一人一人に親指ハンカチをしてお客さまを送り出した
イヌ先生だけでなくほかのメンバーにも許してもらうため
閉店の時間に合わせてピザを注文しておいた
各自手土産にと思ったのだが、
中には匂いにつられて箱を開ける者もいた
「どうしちゃったの?気が利くじゃない」
ミンが僕に囁いた
「遅刻の事を随分責められたからな」
「そんなこと気にするタイプだった?」
ミンはくっくっと笑った
そんなこんなでいつもより少し遅い時間まで店に残った
不思議と疲れを感じないのは緊張しているせいだろうか
それとも皆と一緒にいるせいだろうか
そしてやっと長い一日が終わろうとしていた
僕らはRRHへ辿り着いた
エレベーターから足を踏み出した時
今まで気づかなかった何かを感じた
そう言えば、
店で皆と話をした時も同じような事を感じた
廊下に降り立った後、なぜか足が動かなかった
何だろう・・この感じは
懐かしいこの気持ちは・・
「どうかした?」
ミンが僕の顔をのぞきこんだ
「いや、別に・・」
ミンは首をちょっとかしげながら笑った
「ぼんやりして、やっぱり疲れた?」
「ああ・・そうだな」
「じゃあ早く休もう」
ミンはそう言って先に歩き出した
ミンに続いて部屋に入った時
また感じた
部屋の空気が僕を包んでくれる
何だろう・・この気持ちは
「シャワーにする?バスにお湯はろうか?」
「そうだな・・」
「またぼんやりして・・大丈夫?」
ミンが上着を脱ぎながら僕を振り返った
その顔を僕は見つめた
そうなのか
わかった・・この気持ちの意味が
ここが・・僕の家だ
僕とミンの・・
「Home・・・Sweet home」
「え?何か言った?」
「ここは僕とミンの家だ」
ミンがはっとした様子で僕を見つめた
ちょっととまどったその表情を
僕はずっと覚えておかなくてはいけない
何があっても忘れてはいけない
「そうだろ?」
僕は確認するようにミンに言った
ミンはそっぽを向いてネクタイに手をかけた
そしてネクタイを首から引き抜いて言った
「そんなこと・・今頃気がついた?」
わかっていた
ミンがそう答えるのは
お前も十分意地っ張りだから・・
僕は微笑んだ
「何笑ってるの?」
わずかに振り返ったミンは
襟元のボタンに手をかけながら口をとがらせた
「いや、別に・・」
「疲れすぎてちょっと変になった?」
「そうかな・・」
「やっぱりバスにお湯はってくるよ」
ミンは僕の脇をすり抜けようとした
僕はそのミンの腕を掴んだ
「ミン・・」
「何?」
「ありがとう」
「え・・」
「迎えに来てくれて」
ミンは唇を噛んだ
「僕は・・ただスヒョンさんに言われたとおりに・・」
「ありがとう」
ミンはちょっとの間下を向いていたが
すぐに顔を上げた
「そんなこと言わなくていい。僕も謝りたいことがあるから」
「聞きたくない」
「でも・・」
「いい台詞がある」
「いい台詞?」
「Love means・・」
「・・・・」
「Love means never having to say you are sorry」
「・・・・」
「古い映画だから知らないか、この名台詞」
「知ってる」
「ならいい」
「カッコつけちゃって・・よりによって、Love storyだなんて・・」
ミンはぶつぶつ言いながら部屋を出て行った
僕はそれを見送りながらくすくす笑った
と、すぐまた扉が開きミンが顔を出した
「別バージョンを思いついた」
「何が?」
「Love means never having to say thank you」
ミンは得意そうににっこり笑った
ありがとうもごめんなさいも言わなくていい
その気持ちがあれば
その気持ちを汲むことができれば
相手の心を感じることができれば
そんな関係がここにある
僕たちの家に
僕たちの店に
僕のまわりに
ありがとう・・
僕は懐かしい香りのする部屋で大きく深呼吸した
そしてやっと疲れていることに気づき
ミンが呼びにくるまで
ベッドの上で目を閉じていた
居ない夜 あしばんさん
僕がね…
いつも突っ走ってるみたいな僕が言うのっておかしいかもしんないけど
疲れた人は、ちょっと休めばいいと思う
休むって言ったって
休暇とって海辺に行けってわけじゃない
ちょっとのことでいいんだ
ほんのちょっとのことで
今日は昼からずっとギスのとこで打ち合わせだった
NYのデザイン事務所との打ち合わせに向けて
決めなきゃいけないことが山のようだ
「聞いてますか?ドンジュンさん」
「え…あ?うん」
「大丈夫かなぁ…疲れた顔しちゃってますよ」
「一晩中部屋の大掃除してたら、くたびれちゃったんですよね?」
「なんでこの時期に大掃除ですかぁ?」
「そんなヒマあったら寝て下さいよぉ」
7、8人の若い連中が、僕をサカナに楽しそうにしてる
このプロジェクトを立ち上げる前はドンヨリしてたのに
みんな元気になったように見えるのは、錯覚じゃないよな
上の連中がこいつらを信頼し始めてるのも、最近よくわかる
「僕のことはいいけどさ、ハリョン大丈夫だって?」
「ええ、ちょっと疲れが出たからって、午後出ていらっしゃるようです」
「ギスの野郎はまだ釜山でしょ?ったくアイツは!」
「社長とハリョンさん、もう直ぐご結婚だって噂、本当ですか?」
「ヒミツ」
「ええ~っいいじゃないですかぁ!」
「ダメ、本人からお聞き」
「じゃ、ドンジュンさんはっ?」
「へ?」
「ドンジュンさんも彼女いるんでしょ?いないワケないっすよねぇ?」
「でも、こんだけ忙しいと会えないでしょ?」
はい…会えません
「でも、男が仕事に集中してる時は待っててもらうべきですよ!」
「あら、女が待ってるって決めないでほしいわ」
「お互い忙しい場合はどうすんですか」
「我慢比べ?」
「そりゃ想いの強い方が、より我慢するってことでしょう」
「そうっすか?ドンジュン先輩」
「…ふぅ…」
「「「「 … 」」」」
「あ…え?」
「「「「ドンジュンさん!やっぱ彼女の悩みなんですかっっ?」」」」
だから…カノジョじゃないっての
「よし!僕らが彼女を説得します!」
「そうそう、こんないい男を見捨てちゃいけないって!」
「ムリだよ」
「無理じゃありませんって!」
「反対にコマされるだけ」
「「「えええ~!そんなすごい人なんですかっっ」」」
「今度、店で会わせてやるよ」
「「「わお~!楽しみ~!よっし仕事だ仕事!」」」
その日の店はいつもと違った
久々にソヌっちのテーブルパフォーマンスがあった
相手はギョンビン
店にふたりして…その…ミンチョルさんと遅刻してきた
昨日はめちゃくちゃ堅い背中を見せてたから
まさか一緒に出勤してくるとは思わなかった
何だかさっぱりと…ううん…そういうわけじゃないけど…
何となく悪い感じじゃないってのはわかる
ミンチョルさんも…そう…悪くない…
ギョンビンのパフォーマンスを眺めてる
いつものように背筋を伸ばして
痛そうな瞬間だけ、ちょっと目を閉じて…
大事なものを見つめるその…
パフォーマンスで沸く賑やかな店内
不意に腹の底に、寂しさみたいなものが湧き上がった
何だか…何だろう…この気持ち
今…スヒョンは、ひとりジンをやってるんだろう…
ばかスヒョン
その時ついてるテーブルが一番奥でよかった
お客さんもみんな向こう向いててよかった
今のこんな顔、誰にも見せらんない
絶対に…目…笑えてないもん
洗面所で出くわしたのはスハ先生だった
綺麗に折り畳まれたハンカチで手を拭いてる先生と
鏡の中で目が合って、先生はニコリと笑う
「忙しそうだね、ドンジュン」
「うん、センセーの方はどう?」
その「どう?」を、どう受けとったのか、彼はちょっと下を向いて
ハンカチを折り直しながら、少し照れたような表情になった
「平穏…って言っていいのかな…たぶん、そんな状況だと思う」
「ふぅん」
「あの…ドンジュン」
「ん?」
「チーフ、心配してたかな…僕の休みのこと」
「あれ?すみませんでしたって言ってたじゃない」
「うん…そうなんだけど、形ばかりだったし…ちゃんと話せなかったから」
「知らない」
「え?」
「自分で聞いてよ、今クソ忙しいけど、2,3日したら出てくるから」
「そうか…そうだね」
「そうだよ、他人の言葉で繋ぐとややこしくなるだけでしょ」
何だか…ちょっと意地悪な言い方じゃないだろうか
「うん…そうする」
「でもいいじゃん、もう終わった話なんて」
「うん?」
「スヒョンも、今センセーがここにいればそれでいいんだと思うよ」
「…うん…」
「大事なのはちゃんと帰ってくるかどうかってことでしょ
起こったことはもう戻らないけど、その後どう変われるかでしょ」
「そう…うん…そうだね…」
先生に言ってるんだか、自分に言ってるんだかわかんない
これじゃただの八つ当たりだ
「…」
「ドンジュン?」
「…ごめんなさい…余計なこと言った」
「ううん、ありがとう、よくわかるよ」
いつの間にか洗面台のふちをギュッと握りしめてる僕の手を
スハ先生はぽんぽんと叩いて、またニコリと笑った
「ありがとう」
「ああ~いたいた!ドンジュン!探した」
飛び入ってきた声はチョンマンのものだった
「じゃ、ドンジュン、お疲れさま」
「うん」
「あ、先生、お疲れさま~」
振り向きざまに、チョンマンが手渡したのは、キィだった
銀色の小さなキィホルダーとキィは僕のと揃い
「何、コレ」
「チーフ、お泊りの仕度忘れて行っちゃったんだって」
「だから?」
「届けてやれよ、ホテルに」
「僕に届けさせろって言ったの?言ってないでしょ」
「…」
僕は、そのキィをチョンマンの手に押しつけた
「悪いけど、僕忙しいから」
「忙しかないだろ!さっきもう帰るって言ってただろうが!」
チョンマンは、もう1回僕に押しつけて、怒ったような目で言った
「いい加減にしろよな、意地張んのよせっ!バカ!」
「何の意地だよ」
「うるせぇ、撮影終わったら帰ってくんだぞ、チーフ」
「…」
「どんな大変な仕事かわかってないんだよ、おまえは!」
「わかってるよ」
わかってるから、自分のグチャグチャと折り合いをつけるのが難しいんだよ
「わかってんなら、持ってけ」
「やだ」
「じゃあいい!チーフの荷物なんて知らないからな!
ドンジュンに頼んだって言うからな!そのキィも知らないからな!勝手にしろ!」
チョンマンはサルみたいに怒って出て行こうとして
また直ぐに戻ってきて言った
「今、みんなにピザ配ってるからな!持って帰れよ!」
「は?」
「ミンチョルさんの奢りだからな!ちゃんと食えよ!」
スヒョンの家に着いたのは11 時を回った頃だ
真ん中に鎮座してる硝子テーブルにひとり座って
あの人のピザを食いながら
部屋を、何度もぐるぐると見回してる
広い…ほとんど仕切りのない空間
みんな明け透けで…どこにいても相手が見える
見えるはずなんだけど
その時、僕は思った
今…このまま…あいつがいなくなったらどうするんだろ
例えば…ヒョンジュみたいに突然会えなくなったら
ジンみたいに生きるんだろうか
ゆらゆらとそこに漂って…
それとも案外しゃんとしていたりするんだろうか
そのうちに痛みも薄れて…
薄れる…?…何で薄れんの…?
ホテルのフロントで声をかけると、総支配人って人が出てきた
部屋には取り次げないって聞いてたから、手荷物を預ける
ー今、お部屋にいらっしゃらないようなので後ほどお届けいたします
そつのない笑顔
ー中にキィも入ってるから、必ず手渡しでお願いします
僕は頭を下げてフロントに背を向けた
そのままホールを横切り帰れば済む
でも、僕がそのままエレベータに乗って
最上階のボタンを押したのは
ホテル内ではバーにだけは行っていいんだって、ジホのおっさんが言ってたから
「何で、そんなややこしいこと決めたの?」
「ジンの役づくりのためよぉ~」
「へぇ…酒に溺れさせんの?」
「さぁ…それはチーフ次第ねぇ」
「変な仕事」
「普通じゃないのは確かだわ~さて、監禁監禁♪」
勿論、声をかける気なんてないけど
ちょっとだけ見たかった
ガキみたいだけど…ちょっとでよかった
あいつをちょっとでも見れば
今日の寂しい想いが、少しは薄れるって思った
でも…
そのバーの入口まで来た僕は
そこから覗くことさえできずにいる
店の外の、ぼんやりと照らされる飴色の空間
僅かに聴こえるアニタ・オデイの歌声
壁に寄りかかったまま、長い間そこにいた
ーそりゃ想いの強い方が、より我慢するってことでしょう
「お客様…?どうかされましたか?」
「えっ…あ?」
「ご気分でもお悪いのでは?」
「ああ、いえ、ごめんなさい、違います」
「では…」
「待ち合わせの時間、間違えたみたい」
「では、どうぞ店内で…」
「いえ、いいです、ホント…いいです」
エレベータホールの方から、人の声がしたのをきっかけに
僕はそのホテルマンに会釈をして踵を返した
結局
店の中をチラと見ることもなく
そのホテルを出た
そして
ホテルを振り返ることもなく歩いた
覗いたって
振り返ったって
僕のスヒョンは…そこにいやしない
ちょっと休もう
どんなでもいいから
ちょっとのことでいいんだ
ほんのちょっとのことで…
なりゆき 1 ぴかろん
朝、ルームサービスで食事を終えた後、テジュンはイナをcasaまで送った
ジョギングしていく、会社が目の前にあるんだからお前はここでゆっくりしてろよと言うイナの腕を引き、自分の車に押し込んでテジュンは笑いながらエンジンをかけた
「いいだろ?送っちゃいけないの?」
「だって…」
「いいの。そうしたいんだから」
テジュンは優しく微笑んだ。イナは視線を下に向け、小さな声で礼を言った
Casaの駐車場で車から降りたイナに、テジュンは声をかけた
昼になったらアイツが来るだろうけど、揺れるんなら揺れなさい、僕はいつもここにいるからね
言いながらイナの心臓を指さした
ふっと笑ったイナは、ほんとかよ…と呟いて手を振った
「夜、迎えに来るからね」
「うん」
そうしてテジュンは来た道を戻って行く
イナは工房に入り、casaの連中に挨拶をする
しかし連中は、朝っぱらから喧々と、話し合いなのか怒鳴り合いなのか解らない議論をしていた
もうすぐパン屋を開店するらしい
それは何度も聞いているが、今度こそ本当に開店するらしい
チェミがイナに、お前も何か新作パンを考案しろ!と命じる
そしてテスと議論を続ける
ケーキは一日一種類のほうがいい
いや二、三種類は用意した方がいいだろう
無理だよ、パンが主体なんだから!
でも…
特別な場合を除いて一日一種類にした方がいい!その方がウチの特色が出るでしょ?!
…
結局テスの意見が通ったようで、チェミは口を尖がらせながら粉を篩っている
「あれ?今日は篩いにかけてるの?」
イナが口を挟むと、チェミは、これはケーキなんだと答える
白い小麦粉にココアを篩い混ぜている
ココアがダマにならんようにな、篩ってるんだとチェミは答える
ココアのケーキか、イナはチェミの手元を見つめた
なるほど、少々のココアがダマになって篩いの目から落ちない
まるで俺の気持ちみたいだな…
ふとそう思った
まるで…『友情』だけを通す『ヨンナムの心の篩』にかけられた俺の気持ち…
ダマになった『恋』
どうしたって通じない『恋心』
「それ、捨てちゃうの?」
「ん?ダマか?」
「うん」
「…。ま、こうすれば捨てずに済むが…」
チェミはダマを指で軽く潰して篩の目を通す
「あ…」
「家庭ではよくやることだ。がなぁ…ココでは避けるかな、商品だし…」
「…ふぅん…」
「なんだ?何か思いついたのか?」
「え?…いや…。あ…。うん…」
実際思いついたわけではなかったのだが、チェミにそう言われて、ココア生地のパンはいけるかもしれないとイナは思った
そうして、自分が今から練る粉にココアを混ぜてみたいと言った
「中にチョコクリームでも入れるのか?」
「え?」
「入れないと苦いぞ。これは純ココアだからな」
「そうなの?いい香りしてるから甘いのかと思った」
「ふふん。混ぜて作ってみ」
「あい」
イナはチェミが言う分量のココアを粉に混ぜてみた
それから粉を練り、いつものように発酵を待った
「苦いパンって売れないよね」
「そうだなぁ普通売れん」
「中にチョコ入れたほうがいいかな」
「だな」
「ねね。チョコ入れたココアこどもぱんとぉ、チョコ入れないココアこどもぱん、同じ形で作ってさ、同じトレイに乗せて売るのどう?」
「「え?」」
「ギャンブルぱんっての。甘いの取るか苦いの取るか、お客さん次第なの。どう?」
「「…」」
「目玉商品になるよぉ(^o^)どう?イナさん」
「…面白そうだけど、ネーミングがなぁ…」
「じゃ、なんて名前にする?」
「んー、『ラブラブぱん』とぉ」
「…ラブラブぱん?!」
「なんだそりゃ」
チェミとテスは素っ頓狂な声をあげた
イナは不服そうな表情を浮かべて、じゃ、もういい!『ギャンブルぱん』でも『博打ぱん』でもいい!ふんっと拗ねた
「あん。拗ねないでよ。びっくりしただけだよ、『ラブラブぱん』ともう一つは何パンなの?」
「…いいよもう…」
「あーんもう、機嫌直してよぉ…」
黙って顎を擦っていたチェミが口を開いた
「甘いほうが『ラブラブぱん』で、苦いほうが『失恋ぱん』か?」
「う…」
「ほほう…。そういうコンセプトでこれを思いついたか。まるでお前の心のようだな」
「…」
何がイナさんの心のようなのさ、と喚くテスにチェミは説明した
つまりだ、同じ顔の二人の人がいて、一方とはラブラブの関係だがもう一方とは恋心が通じないと…
イナは驚いた
流石は師匠だ。見抜かれている
「ははぁん…それでココアを入れたか…」
「え?どゆことどゆこと?チェミだけが解っててずるいっ!」
「だからな…」
チェミはパタパタと腕を上下させるテスに微笑みながら話す
―篩にかけてもダマになったココアは小麦と混じれないってわけだ
―ふむふむ
―小麦がヨンナムシだ
―ふむふむ
―ココアはこの五歳児だ
―ふむ
―五歳児のほとんどは受け入れられるがダマは受け入れられない
―…
―つまり、こいつの恋心…
「わかった…もういいよ、ちぇみ…」
テスはいきなりシュンとして下を向いた
そんなテスの肩を、イナは笑いながら軽く叩いた
「なんでお前が俯くのさ…チェミさんの言うとおりだよ、流石はチェミさんだな、参ったなぁ」
強がるでもなくイナはそう言った
そうだ。受け入れてはもらえないんだ、俺のその想いは…
いや、受け入れてもらっちゃいけないんだ、だって俺には…
テジュン…
本当にそこにいてくれるのか?
俺がこのダマを処分するまで、本当に待っていてくれるのか?
昨日のテジュンは優しかった
全てを包み込んで抱きしめてくれた
幸せを感じた
こんな俺なのに…
「じゃあ前向きに考えよう!『告白ぱん』ってのはどう?」
テスはキリリとした顔で提案した
「は?」
「だってさぁ、告白して受け入れてもらえれば『甘い思い』できるけど、断わられたら『苦い思い』するじゃんさぁ」
「しかし『告白ぱん』ってのは…ピンとこんなぁ…」
「じゃ、『恋の醍醐味』」
「…『こどもぱん』らしからぬネーミングじゃないか?」
「いっそのこと『人生ぱん』ってのはどう?」
「甘いか苦いか…か?!」
「そんなに意味持たせなくていいよ」
イナは慌てて口を挟んだ
大げさすぎるように思えて…
「うーん…結構難しいな…」
「単純に『甘ぱん・苦ぱん』ってのでいいよ」
「おもしろくない!」
「…」
「やっぱ『ラブラブぱん』と『失恋ぱん』にしよう!二つ併せて『恋ぱん』ね」
「「…」」
テスの決定は『絶対』である。チェミもイナもふうっと溜息をついた後、アイアイサーとテスに向かって敬礼した
成型中、実験的にそこらにあった板チョコを割り、何個かに入れてみた
二次発酵を終えたパンを焼く。焼きあがったその『恋ぱん』を3人で試食する
3人同時にニヤニヤ笑いながら噛み付く
「やった!当たりぃぃ!…うん…美味しい!」
「俺も当たりだぞ。チョコをもう少し工夫した方がいいか?」
「板チョコのまんまでもいいんじゃない?焼きたては溶けてるけど冷めたら固まって、これまた美味しいと思うよ」
「そうだなぁ、中々面白いかもしれんな」
「…にが…」
「「お…」」
イナのパンにはチョコが入っていなかった
甘さを予想させるココアの香りなのに、少々ココアを入れすぎたのか、苦味がきつい
だが美味しくないわけではない
チェミとテスに少しちぎり分け、3人はうんうんと頷いた
「いいんじゃないか?ココアの配合はもう少し減らそう」
同じ形で違う味か…
テジュンとヨンナムさん…
どっちがチョコ入りなんだろう…
そりゃ当然テジュンがチョコ入りで…
…そうだろうか…
テジュンは俺のせいで辛い思いをしているはずだ…
チョコなんて入ってない…
じゃ、ヨンナムさんがチョコ入りなのか?
…それは…
それは…
「そろそろ昼だな。お迎えがくるのか?『失恋ぱん』か?」
「あ…わかんないけど…、俺、もういいかな?」
「いいぞ。お疲れ」
「じゃ、チェミは引き続き、ケーキの試作ね。オープニング用の…」
「…うむむむ…。クォータードンクとか三色ゼリーでいいじゃないか…。ちぇみぷりんもあるし…」
「確かに味はいいけどオープニングに相応しい華やかさが足りないでしょ?!僕みたいに可愛らしいケーキ、作ってよ!」
「…お前のような?」
「うん」
「じゃ、『くりいむぱん』でいいじゃないか!」
「それは『ぱん』でしょ?!ケーキを作るの!」
「…ふぅぅ…」
「…あの…じゃ、俺、失礼します」
「「あ、お疲れ様~(^o^)(^o^)」」
言い争い?を続ける二人を残して、イナは工房から外に出た
いつもならそろそろヨンナムさんが来る時間だ…
来ないのかな…
貴方はどっちのパンが自分だと思う?
イナは『恋ぱん』を数個ずつ、二つの紙袋に分けて入れた
一つはヨンナムに、一つはテジュンに渡そうと思っていた
しかしヨンナムの姿は無い
待っていてもいいのだろうか…
イナは通りに面した歩道の木の下でぼんやりとヨンナムを待った
何時だろうと思い、携帯電話を出す
メールが来ている
ヨンナムからだ…
『急なお客さんで今日昼行けないごめん』
慌てて打ったのだろう、読み難い文章だ
そうか、ご新規さんとやらが入ったのかな?
別段約束していたわけではない
ただ…習慣になっていたから…
だからついあの人を待ってしまう…
昨日思い知ったのに
どうしようもないとわかったのに…
諦めるしか道はない
もうそっちに向かっていいだろう?
そう思いながらイナはとぼとぼと歩き出した
途中で見つけた小さな公園で、イナは『恋ぱん』を一つ選んで頬張った
また『失恋ぱん』だ…
ふ…
わかったよ、完璧に失恋してるんだから俺は…
残りのパンをどうしよう…
ヨンナムさんはご新規さん回りに忙しいらしいし…
それに俺、暇だからな…
イナは歩いてヨンナムの家に行くことにした
今なら配達中でヨンナムと鉢合わせはしないだろう
その隙にコイツを置いてきてやろう…
またとぼとぼと、イナは歩き出した…
*****
ヨンナムはこの二、三日のうちに起こったことに頭がついていけずにいた
確か三日前に済州島から戻ってきたはずだ
次の日は普通だった…うん…普通の日だった…
朝、イナがちょっとばかり寂しそうだったぐらいで、後はいつも通りだった
…
昨日だ!
昨日あの『先輩さん』がやって来て、唐突にスヨンさんの話をしだしてから、僕の調子は狂いっぱなしなんだ!
テジュンに相談したけど、いいんじゃない?と笑うだけだし…
イナに話を聞いて欲しかったのにテジュンが怖ろしい顔で立ちはだかるし…
案の定、夜、二人は帰ってこなかった…
だよな、済州島でも僕、邪魔してたもんな…はふ…
それにしても、なんだってこうなるんだろう…
朝の配達を終えたヨンナムは、掃除が行き届いているはずの自宅をもう一度点検し、それからトラックに乗り込んだ
途中、イナに今日はお昼を一緒に食べられないとメールを打った
大切な…
重要な…
うっとおしい?
驚異の?
なんと形容すればしっくり来るのか解らない客を迎えるために、ヨンナムはトラックを走らせた
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