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ぴかろんの日常
リレー企画 279
甘えられるのは… 2 ぴかろん
俺はテジュンとラブの間に体を挟み、二人がくっつかないようにしっかりとテジュンに抱きついた
その時、ギョンビンが厨房前の仕切りに姿を見せた
深刻な顔に見えた
ギョンビンは仕切りの向こうを振り返り、そっと笑って店に戻った
その後ろから心配そうな顔でギョンビンを見送るギョンジンがやって来た
何かあった?
俺の視線に気づいてギョンジンは口元に微笑みを置いた
数秒遅れて目元にも…
だが
瞳の奥は不安が澱んでいる
手を振りながらギョンジンは俺達のテーブルに近づいてきた
「じゅの君、僕もここ、いい?」
「えっあっギョンジンさんっ」
「…ここは満員です!」
プリプリしたラブがギョンジンに背を向けたまま低い声で言い放ち、テジュンはクスクスと笑った
俺は、ギョンジンをじっと見つめた
「ああんラブの意地悪ぅ。こんなジジイと五歳児にくっついて何してるのよぉ」
いつもの口調
瞳にスクリーンが降ろされて、おちゃらけたギョンジンが映し出される
「…あっち行って…」
「いやぁん、ラブったら怒らないでよぉ。聞いて聞いて。人間の機能として色々と処理しなくちゃいけない事柄ってあるじゃない?それをぉ僕はぁ全うしてきただけでぇ、少ぉし時間がかかりすぎちゃってラブを待たせちゃったコトはぁ、謝る」
「…そんなわけのわかんない話聞きたくない…」
「ああん、ラブぅ。怒らないで。許してぇラブに解りやすいように簡潔明瞭に言い直すから許してぇ」
「…。ばか!アンタのそーゆートコ、嫌いっ!」
「あああああんらぶぅぅぅぅ」
ソファの後ろから、お決まりの『襟巻き』を決めるギョンジン
他の客席から幾つもの小さな叫び声が上がる
いつものようだけどいつもと違う
「俺、今夜、テジュンと飲みに行く」
ラブはギョンジンの腕を振りほどきながら冷たく告げた
「ええっこんなジジイと?!どゆことどゆこと?!」
「二人でぇ~しっとりとぉ~飲みに行く!」
ムカつく!何かと言うとテジュンテジュンって!
俺は口を差し挟む
「何言ってるんだ!テジュンは俺と飲みに行くんだ!」
「俺も行くんだもん!ねぇテジュン、俺を『行かせて』くれるんだよね?」
「変なコト言うな!バカ!」
「俺はバカじゃないもん!変なコトなんか言ってないもん!それにテジュンはいつだって俺を『イかせて』くれるもんっ!」
「(@_@;)」
「ふんっ」
「…くぉの…我儘色気小僧めっ!(@_@;)」べちっ
「いやんっ痛ぁいぃぃっきいっ」がりっ
「でっ!痛ぇじゃねぇかクソガキ」
べちっがりっべちっがりっ
「こら!まったく。僕の耳元で喧嘩するなよ…。ギョンジン、君も行く?」
「…」
「…ギョンジン?」
「…。え…。あ…。は…はい。行きます」
「…どうしたの?変だぞ、ギョンジン」
「…え…」
反応が鈍い。ラブは知らん顔をしている
「えと…あの…ギョンジンさん、こちらに座ってください…」
「…あ…ああ、じゅの君、ありがとう…」
ぎくしゃくと立ち上がったギョンジンは、じゅの君の前を通ってラブの隣に腰を降ろした
でもいつもと違って二人の間には少しばかり隙間があった
ラブはますますぶんむくれた
一瞬の沈黙の後、ギョンジンはまた、ああんラブぅ、膨れるとウシになっちゃうよぉと騒いだ
「(^^;;)あの…イナさん…」
「んぁ?ああ、じゅの君ごめんよ、騒いじゃって…」
「いえ。それはいいんですけど…あの…やはりお客様に求められればそのようにお膝に座らないといけないのでしょうか…」
じゅの君の問いに、テジュンは噴き出した
「あはは。これは特別だと思うけど。な?イナ」
「そうだ。普通はこんな事しちゃいけないんだぞ、じゅの君」
「よかった…安心しました…。僕、とてもそんな事できそうにないから…」
「俺はするけどな~」
ラブがひょいと顔を突っ込んで言った
「ばか!」
「俺はバカじゃないもんっ!」
「だから喧嘩するんじゃないっつーの。ギョンジン、なんとかしてよ」
「…」
「…。ギョンジン?」
「あ…いえ…あの…僕が悪いんです」
やっぱり反応がおかしい
「アンタ、何言ってるの?」
「え?いや、お前がこんなに我儘なのは全て僕が悪いってことで…」
「そりゃ言えてる」
「なんだよ!イナさんの方が我儘だろ?!」
「お前に言われたくない!」
「きいっ!」
「ぶいっ!」
「ラブ、ごめんね。全て僕が悪いんだ…」
ギョンジンはラブの手をとって詫びていた
いつものギョンジンを装うふわふわとしたギョンジンを、俺は横目で見ていた
*****
バカに何かあった
おかしい
いつもおかしいけど、さっき急にもっとおかしくなった
いつもは明るいバカだけど、今、このバカは、真面目に変だ
あんまり『いかせて』って言い過ぎたろうか…
いや、そんなんじゃない
まぁそれもちっとは気にしてるだろうけど
そんなんじゃない…
イナさんもテジュンも気づいてる
バカがいつものバカじゃないってこと
心配かけまいとして、不自然なバカになってるって解んないのかな…ばか!
バカがこんな風になるってのは大抵、ギョンビンに関係している
俺はギョンビンの様子を窺ってみた
…
普通だ…
笑ってるし…
いや…
もしかしたらギョンビンも、普通を装っているだけなのかもしれないけど…
バレバレなのにな…ばか!
俺にはちっとも甘えてくれない
俺にはちっとも話してくれない…
もし、またアンタがイナさんを頼ったら…
俺はどうしよう…どうしてあげればいいんだろう…
やっぱりいつものようにヤキモチ妬いて意地悪するのがいいのかな…
甘えてもいいの?って聞いたじゃないか
なんで甘えてくれないのさ
アンタほんとにばかなんだから…
どうしたら、アンタは俺に甘えてくれるのかな…
*****
店が終わり、片付けをするイナを裏口で待っていた
通りの方が騒がしくなったのでそちらを見た
テス君の頬にキスしているチョンエさん、チョングさんと握手しているスヨンさん、スヨンさんにただただ平身低頭しているスングクさん、スヨンシスヨンシ、この男はどうだ?とスヨンさんに次々と写真を見せているスンドン会長とトファンさん、次回はきっと美味しいお茶を淹れますと声をかけているチュニルさん
『オールイン』のホ○ト連中が、チョンエさんとスヨンさんに群がっている
端のほうでジャンス先輩とヨンナムが、何やら話しこんでいる
僕はまっすぐヨンナム達のところに向かった
「先輩、これからどうすんの?」
「ヨンナム君ちに泊まるジャンス~。ヨンナム君、怯えてるけど心配ないジャンス~。ヨンナム君に手出ししたらチョンエさんにコロされるからっくふっ残念!」
「…(^^;;)」
「先輩、予定通り具体的な事、相談するの?」
「そージャンス」
「具体的な…こと?」
「そ。今後のお前のスケジュール調整」
「あ…」
ヨンナムは少し宙を見つめてからニヤニヤしだした
「くぉの!お前が何考えてるか手に取るようにわかるぞ!」
「あえっ?え…えへっ」
チョンエさんで頭がいっぱいってか…
「で?」
「え?」
「どうなの?キメたの?」
「あ…は…。ちょっとこっちへ…」
ヨンナムはジャンス先輩に聞こえない場所まで僕を引っ張っていき、照れくさそうに言った
「付き合うことになった」
「そうか。よかったな」
「うん…ありがと…」
「ちゃんと好きだって言ったのか?」
「言った。でも言ってくれなかった…」
「ん?」
「あっちは…その…好きって言ってくれないんだ…」
「…付き合うんだろ?」
「…うん…それは即答でオッケーだったんだけど…僕のこと好きかどうか聞いてみたら…『うーん』って…」
「ぶはっ…」
「笑うなよ…ちょっとショックだったんだから…」
「くはは。好きだって言ったら、お前、付け上がるからなぁ」
「なんで!なんで知ってるの?!チョンエの言ったこと!」
「ぐははは。お前僕を誰だと思ってるんだ?テジュンだぞ、ハン・テジュン。お前のお従兄弟様のハン・テジュンだ。知りたくも解りたくもないのにお前の事は僕が一番良く知ってる」
「…。僕って…付け上がるタイプ?」
「そうだ!すぐその気になる!」
「…」
だろ?イナに好きだって言われて僕からアイツを奪おうとしたじゃないか…
「チョンエさんはすごいな。すぐに見抜いたんだな」
「…」
「朝っぱらから道端であんな濃厚なキスするし、好きだなんて言ったらすぐに押し倒されるって警戒したんだよ!」
「…そんなこと…しないよ…」
「はぁん、どうだかなぁ、ずーーーっとキンヨク生活続けてたんだからな、お前って」
「…」
「あははは。そう焦るなよ。ゆっくり楽しく付き合えよ。急いてはコトを仕損じる、だ」
「…仕損じないよぉ…僕はお前の従兄弟だぞ」
「…」
「…。あは」
「ばかか!」
「だってぇぇ、チョンエは済州島に帰っちゃうんだぜ!なかなか会えないのにさぁ…。ずーっと我慢しろっていうの?」
「我慢しろ!生々しい奴め!」
イナが聞いたら膝抱えて呆けるな…
「…今夜だって本とはさぁ…二人でどっかに…ああ…なのに…ああ…」
ヨンナムは先輩をチラリと見て唸った
「焦るなよ。講義の日程詰めるってことは、チョンエさんに会える日が決まるってことだぞ」
「…うん…」
「なんだかんだ言いながら、お前、幸せそうだぞ」
「…えへ…うんっ」
元気よく頷くヨンナムは幼い頃と同じ笑顔をしていて、とても幸せそうに見えた
…イナは…また辛さを感じるのだろう…僕が傍にいてもこればかりは埋められないのかもしれない…
気持ちはどうにもできない
「テジュン」
「んぁ?」
「イナに…言っといてよ…」
「…。何を?」
「僕とチョンエのコト」
「…」
「付き合うことにしたって」
「…。そんなの、お前から言えよ」
「でも…イナの気持ちを思うと…」
お前は、イナがまだお前を思ってるって知ってるんだな?
それを僕からイナに伝えろって?
「そういうところが無神経だっての!」
「…」
「僕が伝えてどうするんだよ!お前とイナの問題だろ?」
僕の感情を逆撫でする気か?
お前がチョンエさんと恋仲になった事をアイツに伝えるなんて
いずれ僕はアイツを慰めることになる
僕を通り越してお前を見ていたアイツを…
お前に完璧にふられたアイツを…
「お前の口から伝えろ。でなきゃイナが納得しない」
「…でも…」
「辛そうな顔を見るのがいやか?!」僕だったら耐えられると思ってるのか?!
「…」
「お前が引導を渡してやってくれ。それが一番…」効果がある
効果?
「解った…。そうだな。逃げちゃいけないな…」
「…」
「だろ?」
逃げちゃいけない…
「そうだな…そうだ」
「ヨンナムくぅん、タクシー来たのよぅ、いきましょうよぉ~」
「呼んでるぞ、巨体のオネェ様が」
「…コワいなぁ…大丈夫かなぁ」
「大丈夫だ。あの人はあれでも硬派だ」
「…」
「ふはは」
「テジュン」
「ん?」
「ありがとう」
「…。行けよ」
「うん」
逃げちゃいけない…お前は立派だ…
僕はどう?
いつも何もかもうまく誤魔化してやり過ごしているだけじゃないのか?
タクシーに乗り込むチョンエさんとスヨンさんに会釈し、先輩とヨンナムに手を振っていると、僕の名を呼ぶ声が聞こえた
甘えられるのは… 3 ぴかろん
*****
店が終わり、裏口から飛び出すと表通りにわやわやと人がいた
テジュンがタクシーに手を振っている
車窓にテジュンと同じ顔があって、俺は路地の真ん中でぼうっとその顔を見た
「テジュン~」
後ろから来たラブがテジュンに声をかけて横を通り過ぎて行く
俺はハッとしてラブを追い越しテジュンに抱きつくと、待たせてごめんと謝った
ラブとギョンジンが追いつき、どこに行くの?とテジュンに尋ねた
「うーん、どこに行こうなぁ…」
「決めてないんなら、クラブにいこう」
ラブが言った
「え?」
「踊れるトコ」
「…踊り?」
「ああんラブったら、色っぽい踊りで変な奴らに絡まれたりアレコレされたりしたらどぉすんのよぉっ!」
ギョンジンが、いつもより一拍遅れて叫んだ
「たまにはいいじゃん、踊ろうよ、テジュン」
「…僕、あんまり煩い場所は苦手だなぁ」
「大丈夫。オッサンもいっぱい来てる」
「ラブったらなんでそんなトコ知ってるのよぉ」
ギョンジンは必死で流れに乗ろうとしている
「ギンちゃんとピーちゃんと三人で行った」
「…ポールと?」
「行きたくないなら、アンタだけ帰れば?」
「…い…行くよ…行く…」
奴の瞳にはスクリーンが降ろされているけれど、奴が動揺しているのは皆感じ取っている
俺達4人は、ラブの言う『クラブ』に向かった
ラブとギョンジンが前を歩き、テジュンと俺は後につく
ギョンジンのテンションがおかしい
ラブの口からピーちゃんの名前が出る度に、ギョンジンの背中に緊張が走った
なにがあったんだろう…
声に出したつもりはなかったのに、テジュンが、詮索するなと俺を諭した
店に入るとその音量に驚いた
煩いじゃないかとテジュンは文句を言ったが、どんどん中に入っていくラブの耳には届かなかった
カウンターに陣取ったラブは、俺達がそこに辿り着くと、テキーラ頼んどいてと言い残して早速フロアに出て行った
色っぽくしなやかに、音に乗って動いている
残された俺達はそれぞれの飲み物を注文したあとラブのダンスをぼんやりと見つめていたが、俺もテジュンに誘われてフロアに出た
ギョンジンは…意識をどこかに飛ばしているように見えた
踊るというより体を揺らすと言った方が正しい
できるだけ音に乗って揺れてみた
ラブのようにはいかない
テジュンは俺に優しく微笑み、ラブは一人踊り狂っている
カウンターでぼんやりしていたギョンジンがラブに近づき、二人は向かい合って踊りだした
ちらちらと横目でギョンジンを見ていた俺の腰を、テジュンの手が掴んだ
「お前、ちょっと痩せたんじゃないか?」
「え?そう?」
「こんな細いジーンズ…」
昨日の夜、RRHに帰らなかったので、俺は衣裳部屋から適当に服を借りて着替えてきた
ピンク色のシャツと仕立てのいいジーンズは、若い奴ら向けにと闇夜がどこからか調達してきたものだった
厨房で闇夜がテソンにそれらをあてながら、テソンにはちょっと細身すぎるかな、若い子たちもちょっとパンパンかも…なんて笑っていたのを思い出す
俺が、ミンチョルには絶対ムリだろうと言うと、二人は顔を見合わせて噴き出した
調子に乗って、あいつが無理矢理穿いたとしても脇腹がデロンだよなと大声で話していたら、誰の脇腹がなんだって?とスダレ髪に肩を掴まれた
衣装を見たミンチョルは、僕には似合わない色目だ、でもミンなら大丈夫だ、それからイナ、お前にも無理だ、と言った
俺だって若いんだぞ!と言い返すと、じゃあ着てみろと言われ、闇夜から衣装をひったくって控え室で着替えてみた
確かに…かなり細い仕立てになっていて、腰周りがきつめだった
ふん…テプンもウシクもドンジュンもじゅのもビョンウもソグもスハもイヌセンセも絶対ムリだ!あいつら俺よりパーンとしてるもの
こんなの、んとんと…チョンマンとドンヒとジョンドゥとスヒョンとスヒョクとジュンホとえとえとテジンぐらいしか穿けない
似合うか似合わないかは別だ!俺は似合うけどちっとばかりキツめだってだけだ!
騒ぎながら脱いだジーンズをジホさんがするすると穿いた
あら、穿けた…と俺を見てニヤリとし、脱いだあと、そのジーンズをソヌさんに渡した
ソヌさんは少ししかめっ面をしてそれをどこかに持っていき、数分後に戻ってきた
どうょ(@_@)
ソヌさんも、ばっちりとそのジーンズを穿いていた
とても似合っていた…
そんな細身のジーンズを、何の気なしに穿いてみた
前に試した時よりスムースに穿けたので勝手に借りることにしたのだが…そうか…俺、痩せたのか…
「だから穿けたのかな…」
「セクシーだ…」
テジュンは俺の腰を引き寄せ、耳元で囁いた
グラグラする音の中の甘い声に、俺はどきんとした
抱きしめられるという予想は簡単に裏切られ、テジュンは微笑みながら俺から離れた
突き放されたような気持ちで、俺はテジュンを見た
テジュンは近くにいるラブとギョンジンに何か話しかけていた
踊り疲れたと言うより、音に疲れた俺は、フロアの壁に寄りかかって目を閉じた
浮んでくるのはヨンナムさんの幸せそうな笑顔だ
今日、あの二人は何をして過ごしたのだろう
チョンエの周りの柔らかな空気には、ヨンナムさんの色が着いているように思えた
もう…手が届かないと解っている
この思いがどこかへ飛んでいけばいいのに…
ふいに唇を奪われ、驚いて目を開けると、長い睫毛の持ち主が、長い指で俺の肩を壁に押し付けていた
身を任せようとして、ここがどこなのか気づき、テジュンの体を押し戻した
「なんだよ…」
「人がいっぱい…」
「やってるよ、同じ事」
「え?」
唇を塞がれながら周りを見てみた
壁の隅っこやテーブルのあちこちにくっついている輩が何組もいた
いつの間にかカウンターに戻っていたラブとギョンジンも、キスこそしていないが密着していた
元に戻ったのかなと安心した俺は、仄暗くて煩い空間の端っこで、『愛している男』のくちづけを受け止めた
*****
「ね、イナさん、甘えてる」
「…ん?…ああ…」
「イナさんさ、まだ諦めてないみたいだね」
「…ん…」
「…可哀想だな、テジュン」
「…ぅん…」
何が「ぅん」だよ
いつもならアンタ、テジュンの話をやっきになって遮るくせに…
俺は、いつも通りに振舞いながら、どんどん自分の中に潜り込んでいるバカの肩に頬を擦り付けた
「…んぁ…。んふ。ラブも僕に甘えたくなった?」
優しく微笑んで俺を包み込む『ふり』をするバカ
『ココ』がキリキリ言ってるくせに…
奴の心臓を鷲掴みするようにバカのシャツをぎゅっと掴んでやった
「んふ。可愛~い」
そうしていつものように俺の髪に優しいくちづけを落とす
器用だよな、アンタ…
でも本当は不器用なんだぜ、アンタ…
痛い時は痛いって、どうして素直に言えないの?
アンタがそんなだから俺は…
獲物を追い込んで、呑み込もうとしている男をチラリと見た
暗くてよく見えないのに、獲物の眉がピクリと動いているのを感じる
俺の髪に頬擦りしているバカを掴まえてキスをしてみた
笑いながら応えてくれるそのバカの、心は別の事で一杯なのだ…
*****
壁に押し付けてキスしながら、もう一度イナの腰を掴んだ
痩せて色っぽくなった…恋煩いか?いい気なもんだ
どうしよう
この先ずっとこの男を受け止められるのか?
焦らないでのんびりとゆったりと構えていれば大丈夫だと、そう思うときもあるのに…
今はダメだ。口を開けば傷つけてしまいそうだ…
心が安定しない…
唇の隙間から漏れる声も聞きたくない
甦ってくる
祭でソクやギョンジンとよろしくやっていた頃のコイツを…
キスが好きなんだよな。可愛い奴…
甦ってくる…
ヨンナムに向かうイナの気持ちを見てしまった時を…
僕は苦しんだ
苦しんで辛くてたまらなかった
今だって時々苦しくなる
ずっと幸せでいられたらいいのに…
お前がよそ見ばかりするから…だから…だから…
噛むように唇を離すと、舌を覗かせた唇からぞくりとする吐息が漏れる
その男の頬を抓ってカウンターに戻ろうと誘う
くちづけに酔っていた瞳がそこらを彷徨ってから、俺、もうちょっと踊ると僕に逆らう
勝手にすればいい
お前はいつだってそうだ
そんなお前に惚れているのは僕だ
仕方ない
理屈もなにもない
好きでたまらない
だから…憎いと思う…
お前も身勝手だけど、僕はもっと身勝手だ
カウンターに向かって歩き出した僕に、甘い視線が絡みついた
細長い闇6 あしばんさん
迷いに迷った挙げ句
その夜、撮影所に行った
その日の撮影が終わったら明日は休みだからって
遅くなるかもしれないけど嫌じゃなかったら来いって
僕へのジホのおっさんの誘いは、いつも以上にしつこかった
その提案に控え目に抵抗してたチョンマンが、結局折れたのは
口じゃどうでもいいって言ってる僕の目が
未練がましくウロついてたからなのかもしれない
レコーディングは、甘くはなかった
株主総会の100倍は疲れた
僕にしてみれば、あの緊張感は普通じゃない
ガラスの部屋に閉じこもって、自分の中にも閉じこもって
ひたすら想いを絞り出すなんて
歌手って仕事を続けてる人を、今日ほど尊敬したことはない
助かったのは、今日の店にはイナさんのお客さんが大勢来たこと
おもろいジャンスのおっちゃんまで来たから
店はめちゃめちゃ盛り上がった
お陰で、僕は予約のお客さんのテーブルで
ただおしゃべりしてればよかったし
応えなくちゃなんない余計なリクエストもなかった
あと…そう…
ミンチョルさんは「今日はお疲れさま」と言ったきり
それ以上レコーディングの件には触れなかった
ギョンビンとも「おう」と声を掛けただけだった
もし店でそんな話題が広がっても、どうってことないとは思う
でも、どっか自分の痛いとこ…例えば…
何考えて歌ってた?とか
やっぱ感情移入ってするわけ?とか
僕のカッターの刃先みたいな部分に
罪もない誰かの不用意な指が触れるのは嫌だ
無視なんかできないし
答えたくもない
答えない理由を考えるのも…面倒過ぎる
意識してたにせよ、してないにせよ
僕はその日のレコーディングの余波をやり過ごしたつもりだった
ふたりとも上出来だった、ありがとうって…
肩に手を掛けられた時のあの人の香りだけは、ずっと消えることなくて
ロウソクの燃え残りみたいに
喉元の辺りにドロリと固まったままだったけど
スタジオは、相変わらず昼だか夜だか
まるで関係ないって調子で人がうごめいてる
新しいセットが組まれてて…
後半の、ウナっちのシーンなんかの分も作ってるんだろうけど
前回来た時とずいぶん様子が変わってた
せっかく来たっていうのに
今は、仕切られたこちら側の現場確認用モニターでしか見られないって言う
どして?ってチョンマンに聞いても肩をすくめるばかり
でも、直ぐにその理由がわかった
チョンマンが、僕がここに来ることに抵抗したわけもわかった
スヒョンは、裸で女と抱き合ってた
ホテルのシーンだろうか
クレーンの黒い影の向こう側
柔らかそうなシーツの中で、肌が絡み合ってる
指に、とても長い茶色い髪を絡ませた男が
女の耳元にキスを落とす
モニターってのは、映画だのTVだのの画面と違って
何だか色も、生っぽい
メイクのせいもあるんだろうけど
スヒョンのちょっと痩けた顔のラインは、少し怖ささえ感じさせる
遠目にもわかる、しっとりと汗ばんだ額
ゆっくりと動き続ける肩と背
きっとその向こうには、冷めた目があるんだろう
ヒョンジュへの想いに溺れて、女を抱いてる
ここは、僕の嫌いなシーンだ
他の身体で気を紛らわすなんて共感できないって
いつだったかスヒョンにブー垂れたことがあった
あれは雨の日だったかな
スヒョンは、ちょっと庭に目をやって
また台本に目を落とし、僕の言葉には何も答えなかった
じっとモニターに見入ってる僕の横で、チョンマンは居心地悪そう
「おいドンジュン、行こうぜ」
「何でよ」
「何でって…」
「こんな機会めったにないじゃん」
「き…機会ってさ…」
「ジホのおっさんは、これ見せたかったんでしょ」
「知らないよ、そんなこと」
「客観的ってのは、こういうことだよね」
「ああ、もうっ…変な奴ばっかでイヤになる」
「僕に気ぃ遣わなくていいよ」
「…じゃ…ここにいるか?」
「ああ、おまえはちゃんとお仕事して」
「勝手に帰るなよ、ジホ監督に怒られるのはこっちだから」
後ろの方のあったパイプ椅子に深く腰掛けて
遠くからその小さな画面を見てた
シーン打ち合わせの度に聞こえるスヒョンの声は
BHCでミーティングする時と変わらない
画面に映ってなくても、その声はわかる
僕が今、一番大事に思ってる声
一番聞いていたい声
そして…
もうこれ以上、好きになりたくない声
I I …
I wanna say these words to you
I … I love you
I wanna say …
僕の小さな歌声は
忙しく行き交ったり、立ち止まったりするスタッフには聞こえない
目を閉じて壁に寄りかかって
ずっと繰返してると
また頭の奥のどっかがジワリと潤むような気がする
いつの間にか、僕は眠ってた
朝まで続くんじゃないかと思った撮影は
夜半を過ぎた頃に終わった
僕の目が覚めたのと、
部屋の隅っこで、尻に根が生えたみたいだった僕を
スヒョンが見つけたのは、同じ理由だった
直ぐ前に立ってた若い男が「お疲れさまです!」と声をかけたためだ
バスローブを羽織ったスヒョンが
他のスタッフから水を受けとりながら、そいつに笑いかけた
「何だ、まだいたの?」
「一応、スヒョンさんにご挨拶をしてからと思って」
「僕はいいよ、それよりシン監督にちゃんと…」
男の肩越しに、スヒョンの目が僕を捕らえた
その時の表情が、嬉しそうだったのか哀しそうだったのかは
寝起きでぼぅっとしてたためか、よくわからなかったけど
グラグラしながら僕が立ち上がるより先に、男が振り向いた
半歩下がった男のお陰で
黒いバスローブのスヒョンの全身が見える
撮影で上気した懐かしい顔に
汗だか水だかで濡れた黒い髪がかかって
うす桃の唇の端が、いつもみたいにちょっと上がってる
その瞬間
その日喉が嗄れるほど歌った歌が僕の全身に溢れて
思いっきり泣き出したいような気分になったけど
そのまま突進して抱きつきたかったけど
渾身の力で思い留めた
「来てたのか」
「うん…おっさんが変な気利かせちゃってさ」
「スヒョンさん…BHCの方ですか?」
スヒョンがふたりの紹介をし
僕らは、何となくぎこちなくぺこりと頭を下げた
ってか、僕は彼を観察するような余裕はなかったから
スヒョンが僕の背中を押して控え室に向かおうとした時の
そのイルスって男の視線にはあまり頓着はしなかった
もうちょっと頓着すべきだったと思うのは
この先、そんな情景をすっかり忘れた頃だ
控え室に入ったら
ーレコーディング、終わったよ
真っ先に、その話をするつもりだった
ーあなたのために歌ったよ
そんなことは、口が曲がっても言うつもりなかったけど
今までどうしてもこの件には触れたくなかった僕
シャワー室にスヒョンが消える前に
無事に終わったことだけは言わなくちゃと
なぜか…そう、ちょっと挑むような気持ちだった
でも、ドアを閉めて部屋の真ん中まで進んだスヒョンは
腕を組んだまま、ちょっと勿体ぶった感じで振り向いて
一回ため息をついた後
まだドアの前に立ったままの僕に向かって言った
「今日は…お疲れさま」
「…」
「今夜…電話しようと思ってた」
思いがけず先手を打たれて
途端に、全身の力が抜けそうになった
見慣れないバスローブのスヒョンがぼやけて、喉元が熱くなって
さっきやっとのことで我慢したものがせり上がってきた
どうしてこいつは
こんなに僕の気持ちを揺さぶるのが得意なんだろ
いつだって予定通りにも、思い通りにもなったためしがない
何も言えずに突っ立ってると
スヒョンの方がゆっくり近づいて
ほんの少しだけ動きを止めて
そして雲を包むみたいに僕を抱きしめた
その背中に腕を回して顔を埋めれば
少しだけ、自分の場所を思い出す
「ミンチョルさんに聞いたの?」
「いや、監督から」
「そか…」
「大変だっただろ?」
「もう2度とごめんだね」
「そうか…」
「でも…最後にセンセが褒めてくれた」
「ん」
「ギョンビンのやつもすごく頑張った」
「ああ、わかってる」
「あの人…」
「ん?」
「あの人も一生懸命だった…やっぱ…その…有能な人だ…カッコよかったよ」
「…」
自分で言った言葉に焦れて、身体を離そうとした瞬間
肩に埋め込んでた顎をすくわれて
そのままスヒョンの唇が重なった
長いキスの後
鼻先がつくほど間近で目を合わせる
「何だか…やつれちゃったね」
「そう?」
「チョンマンに聞いたよ、ろくにご飯食べてないって」
「役のためだよ、心配ない」
「嘘ばっか」
「嘘じゃない」
次に会ったら、いろんなこと話そうって思ってたのに
もう全部、気に入らないこともぶちまけてやろうって思ったのに
こうしてると何も思い出せない
例え、スヒョンの無意識の罪悪感によるものだとしても
こんな風に拘束できる時間は嬉しい
「女の匂いがする」
「おまえ…ずっと見てたの?撮影」
「途中で居眠りした」
「あんなシーンの最中に?」
「…ごめん」
くすりと笑ったような小さな息が頭の上に聞こえて
僕は、尚強い力で抱きしめられた
「今晩、おいで」
「ん?」
「ホテル」
「…」
「早朝の仕事は入ってる?」
「…ううん…ない…けど…」
「じゃあ、おいで」
Linkage Homecominng オリーさん
そのメールが届いたのは3日前
昔の友人からのメール
読み進めるうちに
その友人の顔がはっきりと思い出された
相変わらずなのだろうか…
『やあ、エリック
久しぶりだな
ロンドンで偶然に出会って以来だろう
イギリスの不味い飯を食べ続けているのかと思っていたら
今はアジアにいるんだって?
そちらでは何かいい事でもあるのかい?
僕は相変わらずだ
先日、ひとついい結果が出て祝杯をあげたところだ
もちろん、それに見合う犠牲も払っているわけで
二度目の同居生活も無事終了した
そんなわけで身軽になった
急な話だが、こっちに来ないか?
顔が見たくなった
ケンブリッヂでホームカミングといきたいところだが
僕は仕事をほおって遠出はできない
だから、君がこっちへ来い
ずっと気になっていたのだが、
借りっぱなしになっている物も
そろそろ返しておきたい
そっちから来てくれるなら
一晩くらい何とか空けよう
連絡を待ってる
クリス』
クリス…
寝起きのクリス
私たちはそう呼んでいた
なぜかと言えば
いつも今起きたかのような鳥の巣を思わせる頭だったから
本名はクリストファー・クンツ
寮で隣部屋だった
同期の中でノーベル賞を取る者がいたら、
彼が最初だろうという噂は学内で絶えず囁かれていた
その噂の本人が隣の部屋の住人だと知ったのは
かなり経ってからだった
ある夜、突然私の部屋に現われ
何か食べるものはないかと聞かれた
小柄でくちゃくちゃの髪に丸い眼鏡をかけたその姿は
いかにも漫画チックだった
聞けば、昨夜から何も食べていないという
その姿にどこか動かされてピザを取ってやると
彼はそれを黙々と食べ始めた
それが最初だった
あきれた奴だ
その場に居合わせたサラがそう呟いたのを
私はどこかおかしく聞いていた
確かに規格外という感じがした
そして食べながら話を聞いているうちに、
彼が噂のクリストファーだとわかったのだった
「昨日の夜から何してた?」
「うん、面白い論文があってね」
「ずっとそれを読んでたのか?」
「ああ」
「今までか?」
「ああ」
「授業は?」
「授業?ああ、そうだね」
「そうだねって、さぼったのか?」
「そういう言い方はやめてほしいな」
彼はソーセージのピザを口に押し込んでから
コークでそれを流し込み、ソースで汚れた指をぺろりとなめた
「たとえば、そうだな…君の眼の前に肉汁の滴るステーキと
マクドナルドのハンバーガーを置かれたら、どちらを食べる?」
「それは…ステーキだろ」
「要はそういうことだ」
「授業がハンバーガーで、君が見つけた論文がステーキってことか」
クリスは答えずにただにっと笑った
その顔はまるで子供のように無邪気だった
それからクリスは時折ふらりと私の部屋にやってくるようになった
祖父の行きつけのレストランに誘ったこともある
この時は、いつまで経っても部屋からでてこないクリスを
無理やり引っ張り出して栄養補給してやったのだ
本当に肉汁の滴るステーキを
「今日はエリックの、いや正確に言うと、
エリックのリッチなお祖父さんのおごりだから遠慮しなくていい」
サラが笑いながらクリスに言った
「本当に?いいのか?」
「いいんだ、こいつのお祖父様は資本主義社会の頂点にいらっしゃる。
時々こうやって下々の者に施しをしないと寝ざめが悪いそうだ」
「サラ、よけいな事を言うな」
むっとした私を、クリスはまじまじと見つめて言った
「そうなのか。じゃあ提案させてもらうが、
この会食は月に一度の定例会にしてはどうだろう?」
これにはサラも私も苦笑するしかなかった
月に一度ではなかったが
結局そのレストランには何度か世話になった
なぜそうなったのか忘れたが
フェンウェイに野球を見にいったこともあった
カードはレッドソックス対ヤンキース戦
クリスがNY出身だと知ったのはその時だ
「バンビーノの呪いはまだ解けてないのかな?」
「驚いたな。科学を志す者が呪いなど前時代的な事を信じるとは」
「呪いは一見非科学的に見えて実は非常に科学的だ」
「ほお、新しいセオリーの発見かい?」
「古代から呪術とされてきたものには、
科学の裏打ちがあるものが多いのを知らないのか」
「それが、バンビーノの呪いと関係があるのか?」
「レッドソックスは常に負の意識につきまとわれている。
プレッシャーというやつだ、これが有形無形に作用する」
「バカバカしい。まだリーグは始まったばかりだ」
「予言しよう。今年もヤンキースには勝てないね」
「呪いの次は予言か?」
生粋のボストニアンでない私は
熱狂的なレッドソックスのファンとは言い難かったが
クラウスの落ち着き払った顔を見ると癪にさわり
生まれる前からレッドソックスを応援していたような態度を取った
こんな言い争いが試合中延々と続き、
野球に関心のないサラは
その言い争いにうんざりしながら私とクリスの間に坐っていた
あの時のサラの顔はおかしかった…
途方にくれたような、呆れたようなあの顔…
サラがあんな顔をすることは、めったになかった
今、気がついた
フェンウェイにはあの後、一度行ったきりだ
そしてサラが急に姿を消してからは
一度も行っていない…
クリスには、何年か前にロンドンのホテルでばったり会った
ロンドン大学主催の学会に参加するのだと言っていた
学生時代と変わらないくちゃくちゃの髪と
小柄でスリムな体型はほぼ変わらず
顔にやや皺が目立つ程度…
天才は年を取るのも遅いのだろうか
それとも早熟だったのか
さすがによれたスウェットは卒業したらしく
代わりにシックなブレザーを羽織っていた
お互い時間がなかったので、
ホテルのバーで一杯だけ飲んで、近況を伝えあった
天才児はハーバードからスタンフォードに移り
その後マックス・プランク研究所に落ち着いたという話はその時聞いた
ノーベル賞受賞にはまだ至っていないようだったが
クリスを思いだす時は
なぜかその時のこざっぱりした姿ではなく
ボサボサ頭をかきながら私の部屋にいきなり入ってきた
あの学生時代の姿を思い浮かべてしまう
いくら立派になろうとも
寝起きのクリスはいつまでも寝起きのクリスなのだ
あの頃は…
何もかもが光っていた
いい事だけでなく惨めな事ですら
未来という名のもとに、輝いていた
そして
傲慢にも、世界が自分の手で変えられると思っていた…
私はすぐにチケットの手配をして
そちらに行くとの返事を送った
大学にはさらに1週間ほど休みをもらうつもりだったが
その必要もなくなった
こちらも身軽になった…
クリスからは折り返し返事がきていた
『エリック
さっそく返事がくるとは思わなかった
大学の先生というのは随分ひまらしいな
それとも君のゼミには学生が集まらなかったのか?
だが会えるのは嬉しい
あいにく迎えには出られない
着いたら研究室まで来てくれ
迷ったらご一報を
フェンウェイの宿敵、クリス』
記憶力抜群のクリスは
野球を見に行ったことを忘れていないようだ
こちらはひまどころか、失業したのだと言ったら
あの天才はどんな顔をするだろう
楽しみはとっておいてやろう
だが…それ以上に
早いうちにクリスに会わなくてはと
心のどこかで鐘が鳴り始めている
大学を切られたのは幸いだったかもしれない
クリスの最初のメールをもう一度読んだ
彼はどこか世ばなれしているが
記憶力は、けた違いだった
彼の頭の中では、記憶は情報として常に正確に整理されていた
それなのになぜ…
私はクリスに何も貸してはいない
返して貰うものなどないのだ
私が憶えていないだけだろうか
それと
クリスは、ホームカミングを好むタイプではない
彼にとってハーバードは通過点のひとつ
思い出して懐かしがるようなものではないはずだった
私に何を返してくれるというのだ…
クリスはサラと私の数少ない共通の友人
考えすぎか…
昼間のロジャース君の訪問で
クリスとの再会がより意味のあるものに思えてきた
もやに包まれた何かが
徐々にその輪郭を映し出し、形を露にするのか
何かあるのだろうか…
もやのイメージの中に
あの少年を美しい瞳が浮かんだ
私がクビになって、彼は目的を達成したのだろうか
それが本当に彼の望みだったのかは不明だが
抱いてほしいと言ったのは本心ではないだろう
触れれば触れた者を傷つけずにはおかない
体中に茨を巻きつけたようなあの少年
これで彼は気がすんだのだろうか…
あの少年から受ける違和感は何だったのだろう
彼は私に好意を持っていないことは
あの瞳を見ればわかる
ただ、彼のあの瞳の中には憎しみと同じくらい
いや、それ以上の哀しみが映っていたような…
気のせいだろうか
とにかく、二度と彼に会うことはないだろう
私はもう大学へ戻る事はないのだから
「後悔するよ、こんな風に僕を無視したこと。きっと後悔するから・・」
そう言って去って行った後ろ姿が
ふとサラの姿とたぶった
「僕がいなくなった後で、すべてが動くようにしてある」
サラの手紙の一文が頭に浮かんだ
何が動く
何を言いたい
サラ…
何がしたかった…
最後に姿を見せたお前を
私は…
クリスに会って確かめなくては…
あの天才が
単に昔の友人を懐かしむような普通の男になったのか
それとも…
さまざまな思いに捉われ、
軽い疲労感を自覚した時、携帯が振動した
フリップを開き、耳に当てると
聞き慣れた声がした
「先生…僕です」
甘えられるのは… 4 ぴかろん
*****
「テジュンが戻ってきたよ」
「…」
バカは上の空
何を考えてるの?
髪に預けた頬を僅かに動かしながら、ギョンジンは飲み続けている
俺達が陣取ったカウンターは形だけのモノで、普通のバーなんかにあるカウンターじゃない
当然ソクさんのようなバーテンダーもいない
ウエイターが運んできた飲み物を勝手に飲んでいる
飲み干したらそこら辺をうろついているウエイターをとっ捕まえてまた注文するって具合
目の前にはテキーラのボトルとソーダとミネラルウォーターとライムと塩が置かれている
祭の打ち上げん時を思い出してちょっと懐かしくなったりして…
アンタは懐かしくないのかな…
目がどっか行っちゃってるよ…
そんな俺達のところへテジュンは微笑みながらやってきた
「お邪魔かな?」
「全然!むしろ大歓迎~」
俺はバカの体から飛び離れてテジュンに両手を広げる
ふっと緩んだ紅い口元から白い歯がチラリと見える
獲物の血は美味しくなかった?
俺の血をあげようか?
ばかだな、貴方を見るとついそんな事考えてしまう…
テジュンはスツールに座ると注いであったテキーラを一気に飲み干した
「…ライムは?」
「…」
返事もせずにテキーラの瓶を掴み、ショットグラスに液体を注ぐ
それも一気に飲み干し、また瓶を傾ける
立て続けに四、五杯強い酒を流し込むその人を、俺は見つめていた
長い指が再び瓶の首を掴んだとき、俺は彼の腕に手をかけた
「やめなよ…ヤバいよ」
「酔いたいんだ。音が煩いから」
「じゃ、なんかで割ろう」
「いいよ、まだるっこしいから」
面倒くさそうに言い放つ無表情な睫毛
さっきまで優しく微笑んでいたのにどうして?獲物の『心』が掴めなかったから?
俺だってそうだよ、掴めないんだ、コイツ…
そっとギョンジンを振り返るとタバコを持った手でグラスを掴み、テキーラのソーダ割りを無表情に舐めていた
「…灰。落ちるよ」
「…」
こっちも返事無し。ジジイ達はお悩み中…
ギョンジンはグラスをカツンと無造作に置いて、深い溜息とともに白い煙を吐き出した
「ギョンジン。タバコ、くれないか?」
「…」
「ギョンジン?」
「…え?あ…テジュンさん…いたの?何?」
「タバコくれないか?」
「あ…はい…どうぞ…」
短くなった自分のタバコを口に咥え、ギョンジンはテジュンに新しいタバコを渡した
カウンターにあったマッチで火をつけ、深く吸い込んで吐き出すテジュン
貴方の煙にも『溜息』が混じってるのかな…
がたん
横で音がした
ギョンジンが新しいタバコをふかしながら立ち上がった
「…どうしたの?」
「…トイレ…」
「そ」
普段なら、テジュンと俺が二人きりになるシチュエーションになんて絶対しないのに…
ギョンジンは店の端にある化粧室に向かって真っ直ぐに歩いて行った
*****
腹の底に響く音に乗せて目を閉じたままからだを揺らしていた
頭から床に倒れこみそうな危うさが今の俺には気持ちいい
綱渡りするってこんな感じか?
渡った先に何があるんだろう
足を踏み外せば真っ逆さまに落っこちる
まだ一杯しか飲んでいないテキーラが、音と暗闇と振動を味方につけて、俺を別世界に連れて行こうとしてるみたいだ
ゆらりぐらりと漂う頭。いろんなものが押し寄せては消えて行く
ふいに誰かにそっと包まれ、俺は驚いて顔を上げた
目を開ける前に鼻腔をくすぐる香りでそれがギョンジンだとわかった
「どうしたの?」
「踊りたくて…」
「…チークタイムなんてないぞ」
「…」
「…。ギョンジン?」
「頼むから…」
静かだが強く、ギョンジンはそう言って、それきり黙りこんだ
まあいいかと奴の肩に頭を乗せてみた
ヨンナムさんともテジュンとも違う…
こいつは俺にとって、どういう奴なんだろう…
およそ似合わない音楽にあわせて、俺達は不思議なチークタイムを過ごした
チョンエはスヨンと一緒に予約したホテルに泊まる
ヨンナムさんはジャンスさんとどうしているだろう…
…済州島での仕事の話、できるんだろうか、あんなジャンスさんと…
『ああ見えてやり手なんだぞ、先輩は』
『信じられねぇ!面白がりのオッサンにしか見えないし』
『それは…そうなんだが…仕事になると凄いんだ』
『信じられねぇもん!仕事してるとこ見たことないし』
『僕も最近は見てないなぁ…』
いつだったかテジュンと交わした会話を思い出し、俺はこっそり笑ってギョンジンに凭れた
「僕達…」
「んぁ?何?」
「…一度…」
次の言葉を待っていたが、ギョンジンはまた黙り込んだ
「…何だよ、変だぞ、なんかあったのか?」
「…え…」
ビクリとギョンジンの体が揺れた
「言いたいことがあるなら聞くけど」
「…」
ぎゅうと、ギョンジンの腕が俺の体を締め付けた
しがみつくように抱きしめられ、俺は苦しくなった
「僕達…」
「うん」
「…一度…」
「うん」
「…寝ないか…」
耳を疑った
ギョンジンの言葉の意味が理解できなかった
何を言い出すんだ、唐突に…
「…ギョンジン?」
「寝よう。ラブとテジュンさんなんて何度も寝てるんだ。僕達も一度ぐらい寝たって構わないだろう?」
抱きしめられたまま、音に合わないチークを踊る俺達
ゆっくりと拡がる薄暗いフロア
人工的な光が刺激的に刻み込まれる
ギョンジンと俺は適当なステップを踏みながら、少しずつ位置をずらしていく
何故ギョンジンがそんな事を言ったのか、目に入ってきた光景を見て納得した
向こうのカウンターで、ラブとテジュンが抱き合っている…
ラブは天女のような顔をしてテジュンの頭を撫でている
穏やかなその表情に、俺の心は不思議と凪いでいた
これか?いつもの事なのに…。今日は許せないの?
ギョンジン、お前でもそうなのか?いつもラブの全てを受け入れてるんだと思ってたのに…
「愛の塊のオトコが何言い出すんだよ…」
「…僕達だって寝てもいい」
「愛もないのにか?お前は『常に愛する男』なんだろ?俺を愛してるの?」
「…。愛してる…」
「…。呆れた奴…」
奴の肩を小突いてクスクス笑うと、また強く抱きしめられた
「…苦しいよ…ラブに叱られるぞ」
「イナ…」
「ん?」
「…」
ギョンジンの体が小刻みに震えていた
背中を撫でてやると俺を縛っていた腕を緩める
「お前は揺るがない人だと思ってたけど、違うんだ…。テジュンはお前のようになりたいって言ってるんだぞ」
「…僕は…そんな風に思ってもらえるような男じゃない…」
「ふ」
「…僕は…何も成し遂げることができない男なんだ…」
「馬鹿いうな。お前は十分すぎるほどやり遂げてるよ」
「違う!何一つうまくいった例なんか無い」
自分を殴るような声色で、またギョンジンがしがみついた
俺は静かに息を吐き、テジュンが天女の掌で癒されるシーンを見ていた
「…お前が…こんなに揺れるのは…ラブのせいなんだろ?ラブが揺れるのはテジュンのせい…テジュンが揺れるのは俺のせいだ。ごめん…」
ギョンジンは無言のまま俺の肩で首を横に振った
「でも、だからって俺と寝ようなんて唐突過ぎるぜ。俺、そんな気ないからな」
「…」
「そんなことしたらまたあいつら喜んでヤっちゃうよ…」
和ませようと言った言葉に奴は全く反応しなかった
「僕は…僕は…だめな男なんだ…」
震えながらギョンジンが呟いた
泣いているような声だった
俺はラブとテジュンから視線を外し、ギョンジンの頬に自分の頬を摺り合わせ、唇で奴の唇を探り出した
触れた唇をそっと噛み、それから包み込んだ。数秒して、ギョンジンは顔を背けた
「ぁんだよ…寝るんじゃなかったのか?」
冗談めかした俺の肩に頭を擦り付けている。それ程までに衝撃的なシーンだろうか?
「僕は…だめなんだ…」
おちゃらけたギョンジンは影を潜め、まだ『ミン・ギョンビン』だった頃の奴が姿を見せる
何だってこなせるのに、いつも自信がなくて弟を守る事ばかり考えていて…
ギョンビンか?
ふいに、店での二人の様子を思い出した
何かあったんだ…やっぱり…
それで『俺』なのか…
そっか…
ふ…
変な奴らだな、俺達は…
どうしてお互いのパートナーに甘えられないんだ?
テジュンは俺じゃなくてラブに…
お前はラブじゃなくて俺に…
ラブはお前じゃなくてテジュンに…
そして俺は…
俺は…
「何があったか知らないけどラブに言えよ。ラブはテジュンよりお前を慰めたがってるんだぜ。俺だってお前じゃなくて…」
テジュンを…
ううん…
テジュンじゃなくて…
言い淀んだまま、俺はギョンジンの肩に唇を押し付けた
視線を上げると、テジュンを抱きしめながら俺を真っ直ぐに見ているラブと目が合った
睨み合うと言うより、ただお互いを見ていた
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