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ぴかろんの日常
リレー企画 307 シャッフル3
シャッフル 3 ぴかろん
*****
ホンピョがココアと紅茶を持って帰ってきた。コーヒーはドンヒが淹れてるから、あいつの淹れるコーヒー、うまいから…なんてホンピョらしからぬ言葉を付け加えた
「おっと、もうこんな時間か。早く飲まなきゃな、ドンヒくぅん、いただきまぁす。よし、ホンピョ、できる限り急いで飲め」
「はい、兄貴」
なるほどヨンナムさんにはとっても素直だ
「お前、自分のココア、自分で作ったの?」
「そうだけどなにか?」
「…」
俺に対しては挑戦的。『はい』の一言で済むじゃん、『そうだけどなにか』って何よ!
ムッとした俺の顔を見たヨンナムさんが、声を出さずに『まあまあ』と言った。甘い!甘すぎる!兄貴だっつーならバカ弟をきっちりしつけろよな!
絶対チョンエに告げ口してやる!
「兄貴、飲んだよ」
「よし。じゃあ行くか」
「はい」
ヨンナムさんとホンピョはカップを持ってすっくと立ち上がり、小走りでキッチンに行った
…ドンヒ君ありがとう、ラーメンも紅茶も美味しかった。急に邪魔して申し訳なかったね、今度僕んち来た時はいっぱいご馳走するからね
…いえ、僕の方こそいつもお世話かけてるんで、またいつでも来てくださいね
…ありがとう、じゃあ仕事があるんで…
バタバタバタバタ
礼を言ったのはヨンナムさんでホンピョはヨンナムさんの後にくっついているだけ。腹の立つ野郎だ。後でドンヒと思いっきりけなし倒してやる!
二人の後をドンヒが追う。俺は座ったまま、いってらっしゃい気をつけてと送り出す。慌しいったらありゃしない
*****
二人が出て行くのを玄関で見送った。ヨンナムさんは爽やかに、じゃあねとドアを出た。ホンピョは靴を履くのに手間取り焦っている
ようやく靴が履け立ち上がってドアに向かった時、ヨンナムさんがヒョイと顔を出したので、ホンピョはヨンナムさんの肩にぶつかり、抱きかかえられるような格好になった
「あは。ドンヒ君、見送りありがと、じゃ、行ってくるね」
「気をつけて」
にっこり微笑んでヨンナムさんに手を振った。ホンピョは、ヨンナムさんの腕の陰からチラリと僕を見た
もの言いたげなその瞳が僕の心に突き刺さった。薄く開いた唇が素早く動いた
ホンピョはヨンナムさんに連れ去られ、僕はその唇を読み取れなかった
パタンと閉まったドアを数秒見つめた後、もやもやを振り払うために僕はふっと笑った
コーヒー…
そうだ、コーヒー淹れてる途中だったんだ…やっとイナさんと二人っきりでくつろげる…
そうだ…コーヒー…
リビングを通ってキッチンに向かうと、イナさんがコーヒーを持ってやってきた
「おう、お疲れさん、座れよ」
イナさんの微笑みに縋り付きたくなる
やっとゆっくりできるな、としゃがみこんだイナさんの隣に僕はペタンと座った
「すみません、イナさんにコーヒー淹れさせちゃって…」
「カップに注いだだけだぞ」
「でも…」
「飲もう」
「はい」
イナさんの横顔を見ながらコーヒーを口に含んだ。一口、二口、三口…。イナさんも僕も押し黙ったまま
何か話題はないだろうか…。あれこれ思いつきはするのだが、口に出すのがわざとらしいような気もする
数秒が数十分に感じ、僕は焦った
「なぁ」
「はははいっ」
突然イナさんが口を開いた
「洗い物、しようと思ってたのに片付けちゃったんだな、ごめん、世話かけて」
「いえあれはその、ホンピョが…」
「えっ?ホンピョが?!」
「はい」
「あいつ、そんなことができる奴だったのか」
「ふ」
そうだよね。『できる奴』なんだから『いつだってしてくれればいい』のに…
「なぁ」
「はい」
「ホンピョってのはどういう奴なんだ?」
「どういう奴って…わがままで自分勝手で人を人とも思わないような」
「でも洗い物はする」
「…。それは僕も驚きました。ヨンナムさんに言われたからなんでしょうけど…。きっと明日、雨が降りますよ」
「あいつ、俺にはすっごく失礼なんだけど。ヨンナムさんにはへーこらしててさ、腹が立つよな」
「あいつって甘え上手なんすよ。甘えのテクニック持ってるんです」
「甘えのテクニック?!」
「生まれ持った素質かもしれません」
「素質?」
「なんか断れないんです、断ったらこいつどうなっちゃうんだろうって思わせるような、なんていうのか捨てられた子犬みたいな、そういう目をするんです」
「ふぅん。俺には甘えてこないな」
「あは。イナさんのことライバルだと思ってるんじゃないかな」
「ライバルぅ?!…ムショ仲間だからか?」
「甘え上手だから、イナさん」
「けほっ。…知ってるのかよ、俺が甘え上手かどうか…」
「そういう噂は聞きますけどね~」
「いや、下手だよ俺は…」
「そぉですか?テジュンさんにとっぷり甘えてるじゃないですか」
「あれは~その~、演技だよ演技」
イナさんは照れくさそうに笑って俯いた。それから小さい声で、テジュンに気ぃ遣いながら甘えたフリしてるだけだ…なんて呟いた
「…ホンピョの甘えテクってどんな風なの?」
「えと…そうですね、上目遣い」
「…。よくあるじゃん。そんなのでクラッとくるのか?」
「僕はクラッとはきませんけど、頼みごときいてやんないとって思っちゃう…」
「ドンヒ、ちょっと再現してみろよ」
「ええっ。僕、できるかなぁ…」
「雰囲気だけでいいからさ」
「…なんでですか?」
「ん?もしアイツが俺に甘えてきたら突き飛ばしてやろうと思って」
「ひど…」
「くふふ。再現してみて」
「酷いなぁイナさん…。えーっと…どんな風だったかな…こんな…こんな感じかなぁ」
僕はホンピョの甘えた顔を思い出し、イナさんの肩にもたれ掛かりながら上目でイナさんの顔を覗きこみ、なおかつ口をへの字にした
イナさんは僕の顔をじぃっと見つめた。笑い出すかなと思ったのに、イナさんの瞳がうるうるしてきた
「…やば…」
「…え?」
イナさんの顔が僕の顔に近づいてきた。イナさんはゆっくり目を閉じて僕の唇に自分の唇を重ねようとした。え?え…これって…この状況って…キ…
*****
皆が俺に気を遣ってくれているのがビシビシ伝わってくる。俺って幸せ者だと思う。でも…昨日の夜から俺にべっとりくっついているスヒョクは…
迷惑だとか嫌だとかいうんじゃない。スヒョクの事は大好きだもの。でも…いいのかな…スヒョクはソクさんの横にいるべきなのに…
イナさんだってテジュンと一緒に居たいだろうに
俺、平気なのにな。何度も大丈夫だからってスヒョクに言おうとしたんだけど、スヒョクは一生懸命俺の世話をやき、俺がソクさんの「ソ」の字を口に出すと即座に俺の唇を摘んだ
ソクさんはソクさんで全く冷静に、というよりむしろ、なんだか可愛いテジュンの相手を楽しんでいるように見えた
イナさんは少しばかりテジュンを気にかけていたけど、それでもドンヒと随分仲良くしてたし、ヨンナムさんとホンピョは前々からああだし…
いいのかな…悪いよな…けどでも…
頭の中で申し訳なさとそれから、俺はひとりでも平気なのにこんなに気配りされて、かえってこっちが気を遣うじゃんかというちょっとした苛立ちを感じながら夜を過ごした
夜中、いろんな人がトイレに立った。すぐに帰ってくる人もいれば長い事帰ってこない人もいた。実は俺も外に出たかったのだが、俺のからだにはスヒョクがまとわりついていて、それを振り払うことができず、よく眠れなかった
スヒョクは時々俺の顔を覗きこんで頬にキスしたり首筋に頭を擦り付けたりした
テジュンとイナさんとソクさんとドンヒがトイレに行って、ソクさんとテジュンが帰って来てイナさんとドンヒがなかなか帰ってこなかった時には、目を潤ませて俺の唇にディープなキスをしかけてきたりした
隣で寝ているホンピョはもとより、さっき帰ってきたばかりのソクさんに気づかれないだろうかと心配になった
下手に動けないのでされるがままだった…
いや、だから、迷惑だとか嫌だとかそういうんじゃない。けどでも…
ふぅ…。スヒョク、スキンシップを求めるなら…ふぅ…ソクさんに求めれば…ああ…でも…ふぅ…
そんな事もあって、俺は朝からスヒョクを牽制した。そうしないと、スヒョクはソクさんより俺を優先しそうだったから
ギンちゃんとの時計の仕事の打ち合わせは本当だった。ギンちゃんは昼から授業があったから打ち合わせは午前中で終わったんだけどね
一人で昼ご飯を食べながら、ミンチョルさんたちの見舞いに行こうと思い立った。
…ミンチョルさんとギョンビンには花を買って、アイツには、そうだな、疲れてるかもしれないからスウィーツか
あ、でもスウィーツだとミンチョルさんが食べちゃうかもしれない、するとギョンビンが怒って、アイツがおろおろして…
いや、昨日怪我して入院してるんだから食べたりしないか…じゃ、いいか、そうしよう
あれ、でも待てよ、ミンチョルさん達、どこに入院してるんだっけ…
昨日、入院先を聞き逃したのかと思い、イヌ先生に電話してみた。先生は、僕は知らないけどオーナーなら知ってるかもしれないよと言った
オーナーに電話したが出ない。何回かかけなおしたが出ない。ギョンジンの電話もギョンビンの電話も繋がらない。埒があかない
どいつもこいつも何のために携帯電話を携帯してるんだ!はぁぁ
事件に巻き込まれたらしいという事は、ピーちゃん絡みかもしれないと気づき、ピーちゃんにも電話した。が、出ない
仕事中かな。俺が教えてもらった番号はプライベート用だって言ってたから…。誰かピーちゃんの仕事用電話番号知らないかな
*****
RRRRR
携帯電話が鳴り、イナさんはハッとして僕から離れた
「ヨボセヨ!え?…怒ってないけど、何?…え?…病院?ミンチョルの?…ちょっと待って。ドンヒ、お前ミンチョルたちが入院してる病院、知ってる?」
「えと…。知りません、聞かなかったな…」
「もしもし、ドンヒも知らないって。え?そう。ドンヒと二人だけど?え?浮気?!浮気なんかしてないよバカ!それより病院の事はイヌ先生に聞けば?もう聞いたの?知らないって?!じゃオーナーは?…電話出ない?ったく、居留守じゃないのかぁ。…じゃ、あれは?ポーちゃんじゃなくて…そうそう、ピーちゃん。事件に巻き込まれたならピーちゃんが関係してるかもしれない…え?ピーちゃんも出ない?!ピーちゃんの仕事の電話番号?いや、俺、知らないし。見舞い?そっか。…うん、うん、そか…うん、ごめん、役に立たなくて…」
イナさんは電話を切るとフーッとため息をついた
「…ラブさん?」
「うん。見舞いに行きたいらしいんだ、ミンチョルたちの」
「…ギョンジンさんかギョンビンさんに電話すればいいのに」
「繋がらないらしい」
「ありゃ~」
「ピーちゃんなぁ…」
イナさんは携帯電話を開き、ポールさんにメールを打っている
ラブさん、ギョンジンさんに会いたいんだろうな…。僕になにかできる事、ないかなぁ…
「ピーちゃんの仕事用の携帯番号でもわかればなぁ…」
*****
ピーちゃんにメールしながら呟いた俺の言葉を聞いて、ドンヒは「あっ」と声を上げ、どこかに電話をかけた
誰にかけてるんだろう。ピーちゃん関連の人間を知ってるのか?それともミンチョルの入院先を知る人を知ってるのか?
メールを送信して、電話しているドンヒの方を見た
「はい…すみません。できればで結構ですので、はい。ありがとうございます。失礼します」
ドンヒは電話の相手に丁寧に話し、丁寧にフリップを閉じた
「誰?」
「ソヌさん」
「そ…そぬさん?!なんで?!」
「ポールさんの電話番号知ってるような気がして…」
「…なんで?」
「だってソヌさんの情報網、すごいから…」
「なんでドンヒがそんな事知ってるんだ?」
「えと…シミュレーターの相談に乗ってもらった時にいろいろ話聞いて」
「シミュレーター?」
「あ、はい。店に置くドライブ・シミュレーターのソフトの…」
「ああ、あれ…。そういえばあれはどうなってるの?」
「すみません、大体はできあがってるんですけど、細かなシチュエーションが…。あとほんの少し…」
「で、その相談をソヌさんにもちかけたの?」
「はい。ソヌさんのチェック、確実ですから」
「…。怖くなかった?」
「全然」
「俺、ソヌさんと話すなんてコワくてできない」
「うそ」
「ピーちゃんだってビビッてたじゃん」
「ふふ。ポールさんね、癇に障るそうです」
「…。じゃ、ソヌさんがピーちゃんの電話番号なんか知ってるわけないんじゃないの?」
「前に店でポールさんが理事からのアクセサリー渡してくれたことあったでしょ?あの時、厨房でポールさんを締め上げて携帯番号の交換したとか言ってたんで…」
「…癇に障る奴なのに?」
「うん。非常時には役に立つだろうからって」
「そーゆー話する時、ソヌさんどんな風?」
「穏やかです」
「おだやかなんだ…ふぅん…。で、番号教えてくれた?」
「ソヌさんからポールさんに電話してラブさんに連絡するように言うって。多分わざと出なかったんだろうって」
「へ?なんで?」
「気後れしてるって断言してました」
「へぇ…」
「ボクが彼にピシッと言うょって。声がワントーン上がってました。なんか嬉しそうでしたよ」
「…。ドンヒ」
「はい」
「お前って、すごいな」
「え?」
ドンヒはキョトンとした。口が半分開いていてぽんやりと可愛らしく、今朝見たテジュンの顔とさっきのドンヒの『甘えた上目遣い』とがその顔に重なった
俺の胸はざわめきだし、再びドンヒの唇に吸い寄せられそうになった。い…いかん!いかんいかん!テジュンとドンヒをごちゃごちゃにしちゃいかん!
ドンヒは可愛い後輩なんだぞ!いかんいかんいかんっあああ。きっと俺は欲求不満なんだ。昨日ソクがテジュンを独占してたから!今朝ちっと濃い目のチュウをしちまったから!ああううう。血迷うな、俺
「あのあのあのさ」
「はい?」
「シシシ…シミュレーターがどうのこうのってあれさ」
「ああ、はいはい」
「そそそ、その話、聞かせてよ」
そう!普通の話をしていればいいんだ!
「シミュレーターですか?あ、そうだ。ちょっと待ってくださいね」
ドンヒはノートパソコンをテーブルに置いて起動させ、画面が出るまでの間、シミュレーターの構想について嬉々として説明し出した
映像はドラマや映画関係のものを参考にドンヒが加工、編集したとか…。大変な作業だったらしいけど、チンプンカンプンの言葉の羅列に、俺はただウンウンと愛想笑いしながら頷くしかなかった
血迷っていた頭がスウッと冷えていった
シミュレーターに映像を組み込むと、誰のどのシチュエーションかを選ぶことができ、その情景がスクリーンに映るらしい
運転席のハンドルと画面とが連動して動くようにするんだとか…
お客様のご希望のホ○トとご希望のシチュエーションでドライブしている気分になれる、夢のような装置なのだそうだ
「ちょっと画面小さいけど、映像はこんな感じです。例えば『スヒョンさんの目隠し浜辺ドライブ』は…と…」
パソコンの画面に白い砂浜と青い海が広がっている。その浜辺を車に乗って走っているような映像だ
うん。見た事あるぞ、スヒョンが三姉妹の三女と海辺のホテルにしけこむ前のイチャつき場面。あれの再現か?
「なぁ。このシチュエーションだと、お客様があの三女役ってわけだよな?」
「そうです」
「とすると、お客様、目隠ししてるんだよな?せっかくの景色が見えないじゃん。いいの?」
「…あ…そうか…」
ドンヒはものすごくわかりやすく落ち込んだ
「あ、でもあれだな、お客様、別に目隠ししなくてもいいんだし、なっ」
「…せっかく苦労して砂浜の場面作ったのに…」
「だから目隠ししなくても」
「あの場面では目隠し必須ですよ!でなきゃスヒョンさんと浜辺ドライブの意味がない」
「…そぉ?」
「まぁいいや。再考案件と…。他のも見てください、ドンジュンさんの雪道と砂漠でしょ、テジンさんのレーシングコースでしょ、イナさんの済州島ドライブとアメリカ西海岸ロマンチックドライブデートでしょ」
「ちっと待て。それってスヨンとの?」
「もちろんです。ダメですか?」
「…いや…」
そりゃ今はスヨンとはいい友達になれたよ。だけど、あの頃を思い出すとスヨンとは関係なく胸が痛むんだよな~。条件反射みたいなもん?
「それからミンチョルさんの三斜線斜め横断運転、ヨイドの桜並木前に駆けつける場面、坂道バック運転、オープンルーフでパダダ~」
ミンチョル、痛いぞ…
「あとはじゅの君のテストドライビングシーン、ジュンホさんの運転免許教習所シーン、ウシクさんの遠い路ドライブシーン、テソンさんの市場までドライブシーン、ソヌさんの尾行シーンとヘアピンUターン。こんなところかな、どうですか?何か意見してください」
「…。えっと…ソヌさんは何て?」
「とってもいいょってくふっと笑ってました」
「くふっと?」
「はい」
「…。んと、これって、ホ○ト本人達にとっては、結構ツラいっていうかキツいっていうか…そういうシーンが多いよね」
「はい。でもお客様にとっては、思い出に残るシーンだょねってソヌさんがおっしゃってました」
「あ…そか…うん…」
シミュレーターは俺達じゃなくてお客様のための装置なんだ…そか…ホ○トとしての基本を忘れていた…
「えと、テプンとかシチュンとかチョンマンとかの場面は無いの?」
「基本的に車に乗らない方はバス目線とバイク目線、それから後部座席バージョン、お客様が運転手バージョンってのを用意してます」
「あそ」
「もっと捻ったほうがいいですか?」
「んー、そだな、例えばミンチョルだったら、砂浜を手を繋いで爆走するシーンとか、ドンヒも街中を逃走するシーンとかあるじゃん?そういうのも入れたら?その方がお客様、もっと喜ぶんじゃない?」
「でも基本的に『車のシミュレーター』なので」
「あ…そか…なるほど。とすると車運転する奴としない奴で使用頻度が違ってくる?」
「うーん、それは仕方が無いかも…」
「ね、車の横にルームランナーみたいなものを置いてさ、走るタイプの奴らはそっちで…ってのどう?」
「はーん、それ、面白いかもしれませんね。ただ、場所的にどうなのかなぁ…、ちょっと考えてみます」
ドンヒは棚からノートを取り出し、素早くなにやら書き込んだ。その真剣な眼差しを見ていると奴の昔の仕事ぶりがうかがえる。とてつもなく仕事の出来た男だったろう
「イナさん、ちょっとテレビでもう一度映像見てもいいですか?」
「え?」
「映像としてどうなのかソヌさんのチェックは受けたけど他の方にも見てほしくて…」
「あ…うん…俺でいいのかな…」
「是非お願いします」
ドンヒは同じ映像をテレビの画面に流した。確かにパソコンの画面よりも見やすくて臨場感に溢れている
とてもいい気分になれるし環境ビデオとしてもイケるかもしれない
「このままで流してもいいんじゃない?」
「へ?」
「だから…ちょっとお前こっちに来てみ」
ドンヒを俺の隣の呼び、俺と同じようにソファに背をもたれさせて見るように勧めた
「つまりさ、この映像のみでもイケると思うんだよ、俺」
「はぁ…」
「店にスクリーンとか作って流してもいいんじゃない?」
「なるほど、二次利用できるってことですね?」
ドンヒはまたメモを書き付けた
「イナさん、直すべきところないですか?不自然に思うところとか」
「え、俺に聞くの?」
「はい」
「俺、自信ないぞ。一緒に見つけようや」
「え?は、はい」
というわけで俺達は真剣にテレビの画面に見入った
*****
ミンチョルさん達の入院先がわからない。どうしようもない。かといってこのまま引き下がるわけにはいかない
俺の中の『見舞い魂』が燃え盛っている。おさまらない。俺は玉水洞の駅近くまでぷらぷら歩き、駅のロータリーにたむろしているタクシーを見渡した
あ!いた!
運転手仲間とにこやかに談笑しているあのおっちゃん目がけて、俺は足早に歩いた
近づいていくとおっちゃんは俺に気づき、ラブちゃんじゃないか、どうしたの?と声をかけてくれた
いつもBHCにお客さんを運んでくれる自称BHC専属タクシー運転手のおっちゃんは、相好を崩して運転手仲間に、息子みたいなもんだよぉと俺を紹介した
「おっちゃん、頼みがあるんだけど」
「なんだい?ラブちゃんの頼みごとなら何でもきくよ」
俺はおっちゃんに、知人が入院したのだが入院先がわからない、病院探しをしたいのだが付き合ってくれるかと頼んだ
代金二倍でどう?と持ちかけると、ラブちゃんから代金は取れない、タダで協力してあげると言う
だったら頼まないと言うと、じゃあ通常料金でいいから協力させてくれ、俺のタクシーに乗ってくれと逆に頼み込まれた
「ほんとに料金取ってよ。でないとおっちゃんと二度と喋らないんだから」
「わかったよう、心苦しいけどしょうがねぇなぁ」
「取ってくんなきゃ俺の方が心苦しいじゃんかぁ。頼み事引き受けてくれるだけで嬉しいのに」
「そうか、そうだな…わかったわかった。じゃあおっちゃん、ラブちゃんのために全力尽くすよ。んじゃ、みんな、行ってくるわ」
仲間のおっちゃん達にニコニコ挨拶し、おっちゃんは運転席に座った。俺は助手席に乗り込み、俺の知りうる限りの情報を伝えた
「事件絡み?怪我はひどいの?」
「命に別状はないって言ってたけど軽傷じゃないみたい」
「ってことは警察関係か軍関係か…。だけど一般人の治療ってしてくれっかなぁ…。救急病院しらみつぶしにあたるかそれとも警察とか軍の関係あたるか、どうするね」
「どっちがいいかなぁ。市内かどうかもよくわかんないんだよね」
「そうなの?!んじゃおっちゃん、ラブちゃんと韓国一周の旅に出なきゃいけないか?」
「おっちゃーん、それじゃ俺、お金稼げないよぉ。店が始まる時間には戻らなきゃいけないしさぁ」
「だよなぁ、ラブちゃんが休んだらBHCの売り上げがた落ちだもんなぁははは。んじゃとりあえず市内とその周辺行きますか」
「うん。お願いします」
「ラブちゃんとおっちゃんの勘を働かせて、その病院を見つけ出そうや」
「頼もしい~」
おっちゃんと俺は、警察と軍と救急関係の病院をかたっぱしからあたることにした
*****
ドンヒの作った映像は、店内で流すにもいい具合の綺麗なものだった。ドンヒは細かなことをあれこれ説明している。楽しそうだ
「なぁ」
「はい。何かわからないことがありましたか?」
わかんねえことだらけだよ…
「んと。お前って、この仕事、すっごく好きだったんだろ?」
「へ?はい。好きでしたよ。楽しかったし」
「…。戻りたい?」
「え?」
「昔の仕事に」
「…。どうしてそんな事聞くんですか?」
「いや、お前、イキイキしてるから…」
俺がそう言うとドンヒは唇をキュッと噛んだ
「…僕は…BHCでは役に立ってませんか?」
「へ?」
「ホ○ト、向いてないですか、僕」
「いや」
「確かに僕、華がないし、甘え上手でもないし口ベタだし…ホ○トとしてダメだってわかってます」
「いや、ドンヒ。そんなこと言ってない…」
「人と話すよりパソコンいじくってる方が楽しいです!」
ドンヒはプイと横を向いた
「い…いやいや、ドンヒはホ○ト向きだよ。紳士的だし控えめだしハンサムだし」
「目立たないだけです」
「そんなこと無いって。ドンヒは…その…」
「いいです、もう…」
あれ?さっきまでのドンヒは、しっかりしてて穏やかで大人でかっこよかったのに…
なんだかドンヒらしくなくて可笑しかった
「もしかして拗ねてるの?」
「…え…」
『拗ねてなんかいません!』とプリプリ怒るかと思ってたのに、ドンヒの反応は違っていた
不思議そうな顔で俺を見て、それからあちこちに目を泳がせた
口を半開きにしてしばらく固まった後、俯いてフッと笑った
「どうしたのさ、何笑ってるんだよドンヒ」
「え…」
また不思議そうな顔をして俺の方を見ると、ドンヒはゆっくり瞬きしながら視線を落とした
何かに戸惑っているようだけど、どうしちゃったんだろう
「ドンヒ?」
奴は押し黙ったまま、また固まった。それから急に俺の方を振り向いて何か言おうとした
「なに?」
微笑んで聞いてみたが答えはない。そのかわり奴はゆっくりと首を傾げて俺の肩に頭を乗せた
「…なによ…どうしたの?」
少しドキリとしたが平静を装った。奴はパッと身を起こし、真っ直ぐ前を向いた後、また俺を見た
「…どしたんだよ」
「…ぼく…拗ねてたんですね…」
「へ?」
「拗ねてたんです」
そう呟いてもう一度ゆっくりと俺の肩に頭を乗せた
なんだこれ。なんなんだこいつは…
俺は焦った。心臓がドキドキしている。どういうことだ、これは…ドンヒはどういうつもりで俺にもたれかかってるんだ?
えっと…
拗ねてたんだから…
えっと…
…甘えてる?…のかな?…
なんで急に…
でも甘えてるのだとしたら、肩を抱いてやったほうがいいのかもしれない…
俺はドンヒの肩に腕を回そうとした
「あっそうだ!ね、イナさん、一度運転シュミレーションやってみませんか?」
「はい?」
ドンヒはひらりと身を起こし、屈託の無い笑顔で言った
「ちょっと待っててくださいね。準備します」
「はい?」
なんだこれ!なんなんだこいつは!
…ドンヒ…お前って一体…
*****
「ふぅ…。そう簡単には見つからないか…」
三軒目の病院を出て、俺はため息とともに呟いた。頬を軽く叩いて気合を入れなおす
「ここじゃなかった?」
「あ…おっちゃん…車で待っててっちったのに」
「はは。気になっちゃって…」
「次、行こ」
「そうだね」
俺はおっちゃんと肩組みして車まで歩いた。助手席に乗り込んだ時、携帯が鳴った
「もしもし」
『ラブちゃん?ごめん…』
「ぴーちゃん?」
『うん、あの…ミン・ギョンジンのことだけど』
「ぴーちゃん、ミンチョルさん達が入院してる病院知ってる?」
『…ごめんね、奴を巻き込むつもりは無かったんだけど…』
「え?あ…うん。病院、知ってるよね?どこに入院してるの?」
『まさかこんな事になるなんて…』
「うんうん。で、どこかな、病院」
『ミン・ギョンジンは大活躍してくれて、ミンチョルさんもギョンビン君も…無事…とはいかなかったけど…その…』
「うん。そうだね。どこなの?病院」
『本当にすまなかった。君からの電話、出れなくて…』
「忙しかったんでしょ?いいよ、今電話くれてるんだから。で、病院はどこかな?」
『ごめんね…君の声を聞くのが辛かったんだ…君が不安がってるだろうなって…』
「え?ああうんうん、そんなことはもういいよ。それより病院を教えてほしいんだけどな、俺」
『本当に申し訳ない…』
「ねえ」
『うん』
「俺の声、聞こえてる?」
『うん。ほんとにほんとにごめんねラブちゃん…』
「もういいって言ってるでしょ?」
『え?』
「もう謝ンなくていいからさ、ミンチョルさん達が入院してる病院、どこのなんていう病院か、教えて」
『あ…え…っと…あの…』
「まさかわかんないの?!」
『あ、いや…えっとね…ちょっと待って…』
ぴーちゃんは、電話の向こうでガサゴソドタバタ音を立ててどこかに移動し、誰かに何か尋ねているようだった
「ラブちゃん、病院わかりそう?」
「…あやしいカンジ。当事者なのに…。とりあえず、次の病院に向かいかけてよ」
「ラジャ」
ぴーちゃんがアテにならないので、おっちゃんに車を出してもらった。しばらくして携帯から『ハアハア、わかったわかった』と喚く声が聞こえた
『市内のね、陸…陸軍病院だって』
「市内の陸軍病院?ぴーちゃん、ちょっと待ってね。おっちゃん」
「了解。そっちに向かうよ」
「よろしく。…ぴーちゃん、ありがと。助かった」
『ラブちゃん本当にすまないことをし…』
「いいよもう。謝らないでよ。じゃあね」
『でもそれじゃ僕の気がすまない。今度ごちそうするよラブちゃん』
「あそ。楽しみにしてる。じゃ、俺、急ぐから。ばいばい」
『あっ。ラブちゃ』
ぴーちゃんはBHCのみんなを巻き込んだってこと気にしてるらしいけど…ほんとかな…本気で謝ってるのかな…
ま、いいや。とにかく…
「おっちゃん、陸軍病院って近い?」
「遠い」
「へ?!市内だろ?」
「市内。中心地から外れてる」
「…」
「ここもハジッコだから…小一時間かかるかなぁ…」
「ふわぁ…。店からも遠い?」
「うーん…どぉかなぁ…。とにかく行ってみようね」
「お願いします」
時計は二時半を過ぎたばかりだ。行って、会って、帰ってきて五時…ってとこかな?
大丈夫。大丈夫だ…よね…
少し心配になって俺はおっちゃんに尋ねた
「開店時刻に間に合うよね」
「大丈夫だと思うけど…時間帯によっちゃあ、道が混むかも」
「ええん…大丈夫だって言ってよぉ」
「ラブちゃあん、おっちゃんにそんなコト言われてもぉ」
「ああん、おっちゃぁん」
「いいん、ラブちゃぁん」
ふざけながらも少しばかり不安
でも、とにかく行ってみなきゃ始まらない
おっちゃんのタクシーは、市内…とは言え、ハジっこにある…陸軍病院目指して走り出した
*****
「あっ!くっ!う…あ…おお…」
「イナさんっ、あっ、下手糞!ちがうっ!だめっ!あっああっ」
「おおおおお」
「あああああ」
がしゃーん☆
「あ~あ…」
「…まただぁ…」
「ドンヒが怪しげな声出すから…」
「どっちがですか」
「だってさぁ、こんなパソコンのキー操るなんてさぁ…俺、できないよぉ」
俺は『テジンのレーシングコース』で遊んでいた
パソコンのキーを使って操作するんだけど、とぉってもやりにくい
どうしても後続車に追突されたり、ガードレールを突っ切ったりしてしまう
ぶんむくれて文句を言うと、ドンヒは涼しい顔でこう言った
「僕はできるけどな」
「お前は…だって…こういうの得意じゃんか…」
「うふふ」
「…ハンドルなら…もうちょっとうまくできる…」
「あ…そだ、こっちならどうかな…」
ドンヒはガサゴソと何かを接続し、再びテレビの画面にシミュレーターの映像を流した
「これでやってみて」
「ん?ゲーム機のコントローラー?」
「パソコンよりは、やりやすいと思います」
これがアクセルでこうすると曲がります、とドンヒがやり方を教えてくれたが、やっぱりハンドルほどうまく捌けない
「うーん…こんなんじゃお客様、がっかりしますよぉ」
「店のはハンドルついてるんだろ?!」
「ハンドルなら大丈夫なんですか?」
「ああ!…多分…」
くふくふ笑っているドンヒを見返したくて、俺は真剣にコントローラーを弄くった。段々うまくなってきた
画面の映像は三車線斜めぶっちぎり運転用のものだ
これ、結構難しい
後ろから来る車を避けてきれいに斜めにぶっちぎらなくちゃいけない
「こんなさあ!ミンチョルコースにまで他の車、走らせるな…よっとぉ!」
「より本物に近づけた方がいいでしょ?」
「あーうー…、これ、あいつ、運転できるのか?」
「ミンチョルさん?涙目で三車線をぶっちぎりますよ。楽勝です」
「…もういい…スヒョンの海岸にする」
映像をスヒョン用の海岸に変える。遮るものは何もない。だが運転は結構難しい
「なぁ、なんだってここに来るとあんまりスピード出ないんだ?」
「だって砂浜だもん」
「…」
「スヒョンさんなら軽々加速しますよ」
「うー」
ドンヒはウフフと笑うと俺の肩に頭を乗せた
「なっ…なっ…何よっ、急に」
俺は突飛な行動をするドンヒに戸惑った。動きづらいしそれに…ドキドキする…
「彼女の役やってるんです」
「なにっ?」
「スヒョンさんが片手運転しながらキスする助手席の彼女役…」
「おっ…俺は…そんな器用なことできないからっ」
「でもくねくね道を運転しながらネクタイ外してましたよね」
「あお?」
「くっくっくっ」
ドンヒがまた笑い出した
「おまえっ、俺をからかってるのか?」
「くふふ。じゃ、このシーンに行ってみましょうか…」
シーンが変わって、ラスベガスへのドライブになった。そしてドンヒは俺の体にもっと深く凭れ掛かってきた
「うぉいっ!運転できねぇよそんな…」
「してたじゃないですか、思いっきりいちゃつきながら…」
「…過去の話はよせ」
「ふふ…ふふふ」
ドンヒは俺の顔を覗きこんで悪戯っぽく笑うと、画面を遮るように動き始めた
「このっ…ええい邪魔だ!ベガスの灯りが見えねぇ!」
「灯りならここに映ってるでしょ?」
「あん?」
「僕の瞳の中に…うふふ」
なんだよコイツは…。えらくハイになってるぞ
ドンヒは俺の首に両腕を巻きつけてふざけ始めた
こいつ本当にドンヒなのか?俺の知ってるドンヒはこんな奴じゃないぞ
いや、俺が知らなかっただけで、ドンヒは元々こういうノリの軽い奴だったんだろうか?
非常に戸惑ったものの、俺は平静を装い続け、邪魔だってばどけってばと文句を言いながら画面を覗いた
正面に海が出現した
え?え?
「海に入っちゃう~」
「危な~いっ」
ドンヒは俺をなぎ倒した
「な…なにするんだよお前…」
床に転がった俺を押さえつけ、ドンヒは口元に笑みを浮かべて言った
「キスしよっか、イナさん」
「え?!は?!」
ドンヒの顔が近づいてくる
これはきっと夢だ。夢に違いない
だって
俺の知ってるドンヒはとっても堅物で…
ああでも
俺の知らないドンヒは…
そういえば速攻王って言われてたっけ…
こういう速攻?じゃ、カタブツじゃないじゃん!
でも…でもでも昨日からずっと一緒にいたドンヒは、控えめでキチンとしてて、こんな事する奴じゃ…
RRRRR
「電話だっ!」
ちい!
え?『ちい?』
…ドンヒが…
あのドンヒが『ちい?』
すんでのところで電話が鳴り、身を捩って電話に出た後に聞こえたその舌打ちに、俺の頭はますます混乱した
*****
「イナさん?」
『…』
「もしもし?もしもーし、あれ…おかしいな、繋がってないのかな」
『つつつつつながってりゅ』
「イナさん?」
『あい…!』
コール音が鳴ってすぐに出たらしいイナさんは、随分慌てている
さっきはふてくされた雰囲気で出たし…
ドンヒと二人とか言ってたけど…大丈夫かな、ドンヒ…
「イナさん、ありがと。ぴーちゃんと連絡取ってくれたんだね」
『え?あ・あ・ひっ…』ガサゴソバタタ
「もしもし?イナさん?どうしたの?お取り込み中?」
『ととと取り込み中ってなんだよ!何もしてねぇよっ!』
取り乱してる。…ほんとに取り込み中だったのかも…
「とにかく…ありがと。ぴーちゃん、電話くれたんだ。病院がわかったからこれから向かうの」
『そそ…そか。…ふぅ…よかったな』
「ん。イナさんのおかげだよ」
『…俺…じゃないよ』
「え?」
『…んと…ドンヒがソヌさんに電話して、ソヌさんがぴーちゃんを脅したんだ』
「ソヌさんが?脅したって?」
『多分ね。ソヌさんに連絡したのは俺じゃなくてドンヒだ』
「…。ドンヒ、そこにいるの?」
『んぁ?…ああ…いるけど…』
「んじゃ、ドンヒに代わってくれる?」
『んぁ…あ…うん…ちょっと待ってね…ドンヒ…』
…ドンヒと…お取り込み中…イナさんとドンヒ…うーむうーむ…想像がつかない…
ガサゴソバタバタ
『もしもし』
「ん?ドンヒ?」
『イナだ』
「ドンヒは?」
『電話中…』
「…。じゃ、イナさんからラブが礼を言ってたって伝えてよ」
『…ぅえ?お…俺が?』
「店で改めてお礼言うけどさ、とりあえずね。ところでイナさん」
『ん?』
「…。ドンヒに何したの?」
『ななな…なにもしてねぇよ!』
「ふーん、じゃ、何かされたのかな~っと。お取り込み中失礼いたしました~じゃね」
『あ、おい、ラブ、誤解すんなよ。俺は…』
「バイバイ」☆
あやしい…
いつものイナさんじゃない…
まさか本当にドンヒと何かやらかしたんじゃ(もしくは何かされたんじゃ)…
ったくぅ、祭ん時のイナさんが甦るぜ。それってヤバくない?俺、知ーらないっと
それよりソヌさんに電話しなきゃ…
ソヌさんの番号を拾い出し電話をかける
つーつーつー
話中だ…
ま、いいや、お見舞いしてから報告がてら電話したほうがいい
「おっちゃん」
「なんだいラブちゃん」
「帰りにね、ソヌさんに電話したかって聞いてくれる?」
「え?」
「忘れないでよ」
「え?おっちゃんが覚えてなきゃなんないの?」
「だぁってぇ、俺、忘れんぼさんだからぁ~。ねっ、お願いねっ」
「おっちゃんのが忘れんぼさんだと思うけどなぁ」
「ああん、おっちゃぁぁん」
「…。しょうがねぇなぁ、もう~」
「おっちゃん、大好きぃ」
「…。ふぅ…、ギョンジンちゃんの気持ちがよっくわかるよ…」
おっちゃんはそう呟き、信号待ちの間にメモ用紙を取り出して、『ソヌさん電話!』と書き付けた
*****
「…。はい。はい。そうなんですはい。ありがとうございました。お忙しいところ本当にお手数をおかけしました。じゃあ店で…」
ドンヒはふぅっとため息をついて電話を切った。んふふ…と笑って、よかった…と呟いた
「…ソヌさんに電話してた?」
「はい。お礼言っておきました」
「…あの…こっちは…ありがと…ってラブが…」
「よかったですね、病院みつかって」
「…お前、行動が早いね」
切り替えが早いって言うべきかな…
「速攻王ですから」
そういう意味の『速攻王』でもあるのか?
「ふふ」
明るい顔で振り向いたドンヒは俺の知らないドンヒだ。堅物ドンヒとのギャップが激しい
俺の様子があまりによそよそしかったからなのか、笑っていたドンヒの瞳が徐々に沈んでいった
「…。僕…僕…酔っちゃった」
「へ?」
「…。イナさんに酔っちゃったんですね、きっと」
酔う?俺に?
「どどど…どゆこと?それって俺を口説いてンの?」
「…そんな…」
ドンヒは唇を軽く噛んで俯いた
「…すみません…僕、なんだか浮かれてたみたいです…ごめんなさい」
「いや…あの…」
一気に気まずくなっちまった…
「あの…シミュレーターで遊んでてください。僕カップ片付けてきます」
「あああ、俺が片付けるよ」
「大丈夫。僕、やりますから」
カチャカチャと音を立ててカップを片すドンヒは、硬い顔で笑った
*****
カチャンとカップを流しに置く。水切りかごにはホンピョが洗っていった食器が無造作に重ねられている
あいつ、何を言おうとしたのかな…
今日の僕は晴れたり曇ったり
さっきまですっきり晴れてたのに今はどんよりしてる
はぁ
キッチンの戸棚から買い置きの煙草を取り出す
ガスの炎で火を点け、換気扇の下に行ってふうっと煙を吐く
『ホンピョってどういう奴なんだ?』
僕ってどういう奴なんだ?
僕は…
僕は…
どうして今曇ってるのか、あれこれ辿って行けば分析できる
でも言葉にしたくない
有耶無耶にして流してしまおう…
煙草を咥えたまま蛇口を捻る
水が流れて行く
今日の僕を一緒に流す
吸っていた煙草を水に浸ける
ジュッ
僕は目を閉じる
リセット完了
深呼吸一つ
目を開けて動き出す
いつもの僕だ
いつもの?
*****
キッチンに引っ込んでたドンヒがリビングに戻ってきて、ちょっと早いですけどそろそろ店に行きますか?と言った
俺の知っているドンヒだ。なんだかホッとして、えへへと笑った。んふふとドンヒも笑った
気のせいだろうか、奴の顔が一瞬寂しげに見えた。奴は笑いながら俯いた
いつものドンヒなのに違和感がある。どうしてだろう…
靴を履いて外に出る。ドンヒは部屋を出てから一言も喋らず俺の後ろを歩いている。気になって振り返るとニコッと笑う。俺もつられてニッコリする
「ドンヒ」
「はい」
「なんで後ろにくっついてるの?」
「え?」
「横に並べよ」
「…あは…」
「お前って、人の後ろにくっついて歩くイメージがあるよな」
「…。癖になっちゃって…」
「癖?」
「最近はやんないけど、ここに来た頃のホンピョってそこら中にツバ吐いたりガムくっ付けたりしてたでしょ?僕、後始末しながら歩いてたから…」
「お前って…面倒見がいいな…」
「きれい好きなだけです」
「今もホンピョと歩く時、後ろにくっついてんの?」
「…そうですね…やっぱ、癖になってて…」
「並んで歩けよ」
「…。そうですよね…そうします…」
ドンヒは俯き加減で微笑んでいる。その顔を横目で見ながら、俺はなんだか居心地が悪かった
「俺ってお前のこと何も知らないのな」
「え?」
「ホンピョのこともお前のことも、よく知らない」
「イナさんとじっくり話したのって昨日が初めてですから…」
ドンヒは爽やかな笑顔で俺を見た。『俺の知ってるいつものドンヒ』の顔だ
昨日から今日にかけてずっと一緒にいた。堅い雰囲気が少しずつ和らいできて、ふざけたり甘えたり悪戯したり戸惑ったり、そんな顔を見せるようになった
それは俺にとっては、『想定内』とでも言うのかな…『予測できる範囲内の新しいドンヒ』だったように思う
シミュレーターの話になって、『俺の知らないドンヒ』が一気に噴き出してきた
拗ねていじけたドンヒ、調子に乗ってはしゃぐドンヒ、色っぽく迫るドンヒ…
ドンヒがどこへ向かってるのかわからなくて慌てた俺
もしかしたらチャンスを逃しちゃった?こいつを掴むチャンスを…
テジュンがここんとこ可愛らしいからといって俺自身が大人になったわけじゃない
俺は勘違いしてたのかな…あらゆる物事を受け入れられる…とかなんとか…
店の近くにある公園の横を通りかかった
俺はドンヒを誘って公園の中に入った
お昼ご飯作ってくれたお礼にソフトクリームを奢ることにした
ドンヒは一度断ったが、俺がしつこく勧めると、じゃあいただきます、と微笑んだ
俺は公園にある屋台の前に立ち、ドンヒを振り返ってもう一度聞いた
「ソフトクリームでいいのか?」
「え?あ…はい…」
「他のものでもいいんだぞ」
ガキの機嫌をとってるみたいだ
「イナさんソフトクリームなんでしょ?」
「うん」
「じゃあ僕も同じので」
「わかった。おばちゃん、ソフトクリーム二つ」
注文してからドンヒを見ると、俺の視線に気づいて微笑む
「ほんとにいいのか?ソフトクリームで」
「へ?」
「いや、ジュースとかいろいろあるし…」
「…」
「お前の好きなもの、頼んでいいんだぞ」
我ながらしつこいと思う。じっとドンヒを見ていたら、店のおばちゃんがドンヒにソフトクリームを二つ渡した
俺は慌てて代金を払い、ドンヒから一つクリームを貰った
「な、いいのか?それでいいのか?」
「もう貰っちゃったじゃないですか」
「俺が食ってやるからお前好きなもの頼めよ」
「いいですよ」
ドンヒはくすくす笑ってソフトクリームのてっぺんに食いつき、歩き出した
「歩きながら食べるのって楽しいですね」
「ん。美味しいし」
「…。ミンチョルさん、昔やってませんでしたっけ…」
「…お前さ…そういう痛いこと、ミンチョルの前で言うなよ」
「言いませんよ、本人の前では」
「よし」
フラフラ歩きながら噴水の近くに来た。テジュンとこの辺りのベンチに座ってソフトクリームを食べたことがあった
あの時、確かイヌ先生とウシクが…
「あれっイヌ先生だ!」
ドンヒが声を上げた。やっぱり来たか…
「この公園通り抜けて店に行くんですかね」
「ああ、そうなんじゃない?」
「ウシクさんがいませんね…あ、来た!」
「走ってきた」
「うはっ。ソフトクリーム持ってる!」
「ほんとだ。俺達の後に行ったのかな、あの屋台」
「あれ…一つしか持ってない」
「前にも二人で一つだったよ」
「分け合って食べるのかぁ。仲いいですね」
「ウシクのダイエットのためもあると思う」
「そうかなぁ、大した差は無いと思うけど」
「だって半分になるんだぜ、カロリー」
「ダイエットのためなら食べなきゃいいんですよ」
「…そりゃそうだけどさぁ…」
「イヌ先生、優しい顔だな。ウシクさんも嬉しそうだ。いいですね、ほのぼのしてて」
「うん。今んとこ一番安定してるカップルだよね」
「あれ?イナさんとテジュンさんが一番じゃないんですか?」
「いやぁ、ウシク達には勝てないかな、今ンとこだけど…」
「へえ、謙虚なんですねイナさん。あ!イヌセンセがウシクさんのソフトクリームにかぶりついた!」
「お?」
「ひ…一口でいっちゃった…大丈夫かな」
「ふははは。ウシク、怒ってる」
「あ…イヌセンセ、うずくまりましたよ、こめかみ押さえてる」
「冷たいモン急激に大量摂取するからだ、トッショリなのに」
「ウシクさん、すっごぉく怒ってますね」
「食い物の恨みは恐ろしいからな」
「あ、ウシクさん、しゃがみこんだ。心配してるのかな」
「いや、顔が怒ってる。文句言ってるんじゃない?」
「あ!」
「ん?」
「イヌセンセ、ウシクさんにキス迫ったのに…」
「ウシク、顔そむけたな」
「珍しい光景ですね」
「ふふふ」
「今度はイヌセンセが怒り出した。これまた珍しい光景ですね」
「ウシク、知らん顔してるね」
「うわぁ、イヌセンセ、噴水のフチまで走ってって突っ伏しましたよ、滅多に見れない姿っすねぇ」
「ウシク、クールだ」
「…普段のイヌ先生たちって、こんな風なのかな」
「こんな時もあるってコトだろうね」
「どうしよう、今日、店でイヌ先生の顔見たら吹きだしちゃう」
「吹いてやれよ」
「あはは、そうですね」
あははそうですねだと?なんて当たり障りの無い答え方なんだ。先ほどから感じていた違和感がむくむくと膨れ上がる
俺はベンチに腰掛け、ドンヒを呼んだ
ドンヒは俺の横にすとんと座った
爽やかな微笑みを浮かべているドンヒに俺は訊ねた
「なあ」
「はい?」
「ほんとにそれでよかったのか?」
「え?何が?」
「ソフトクリーム」
「…まだ言ってる…。もう三分の一食っちゃいましたよ」
「でもさぁ…俺はお前の好きなモン、奢ってやりたかったんだよ」
「だからこれでいいんですよ」
「けどさ」
「イナさん」
「ん?」
「しつこいです」
「…うん…俺もそう思う」
「じゃ、もういいでしょ?僕、ちゃんと食べてるし美味しいって言ってるし」
「けど」
「もうっ!」
ドンヒはイライラして俺の方に振り向いた
その瞬間、奴のソフトクリームの上の部分、すなわちクリーム部分がボタッと地面に落ちた…
「…」
「…あー…」
「…」
「…あの、ソフトクリームもう一個買ってこようか?それとも違うもののほうがいいか?」
「…。いいですよ別に。どっちでもよかったんだから」
「…どっちでもよかった?」
「食べても食べなくても」
「…。じゃ、なんでいらないって言わなかったの?」
「イナさんがしつこかったじゃないですか!」
「いらないならいらないってハッキリ言えばいいじゃんか」
「僕が悪いんですか?!」
「いや…悪いとは言ってないけど…」
「普通上司が奢ってやるって言ったら、部下はありがたく頂戴するもんでしょ?!それが円滑な職場関係を築くコツでしょ?!」
ドンヒのイライラは頂点に達したようだ。俺は黙って奴を見つめた
「…すみません…言葉、キツくなっちゃいました…」
「俺はお前の同僚だよ。上司じゃない。俺の言うことを聞かなきゃなんないなんてことないんだぞ」
「…でも先輩ですから…」
「そりゃBHCに入ったのは俺の方が先だけど、入った時期の後先なんて関係なく俺達は『仲間』だろ?」
「…」
「遠慮してほしくない」
「…」
「お前には、もっと自分を出してほしいと思ってる」
「…さっき…」
「ん?」
「さっき僕の部屋で僕を拒否したじゃありませんか」
「え?」
「…思いがけず昔の僕が顔を出しちゃって僕自身も驚いたけど、イナさんが今言ったように自分を出してもいいんだと思ってはっちゃけたら、そしたらイナさんの態度が変わった…」
あー、戸惑ったのまずかったんだやっぱり…
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