ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

BHC サイドストーリー 27

(サイド) BHC学園 こぼれ話 輪読会 オリーさん


「ではそろそろ始めようか」
「先生…」
「何か?」
「輪読会と聞いていましたが、他に参加する生徒はいないのですか?」
「ああ、このところ都合のつかない生徒が多くてね」
「はあ…」
「あんじぇりーなは欠席届を受け取っている。この3日間、つまりステディがいない間なんだが、羽を伸ばしまくろうぜベイビーということらしくてね。夜はファンキーにクールにグルーヴィに過ごすらしい。
はーとねっと君はこのところ落ち込んでいてなかなか顔をださない。私は探偵のバイトなどやめろと忠告はしたのだが。
りちゃーどはペットの犬の世話が忙しいようだし、きゃめろんは新作のプロモーションであちこち飛び回っている。輪読会もなかなかメンバーが安定しないんだよ」
「生徒さんも色々と大変ですね」
「ということで、今夜は君ひとりになってしまった、単なる偶然だがね。こほっ」
「そうですか」
「心配しなくても、プライベートレッスンは私の得意中の得意だから」
「はい…」

「では始めよう」
「シェークスピアですか?」
「いや、今夜は詩を用意してきたんだ。君がこの学園にいる時間は限られているからね」
「詩…ですか」
「苦手かな?」
「あまり接する機会がありません」
「うむ、そう思って有名な物を用意してきた。エミリー・ブロンテだ」
「嵐が丘の?」
「そう、そのエミリーだ。有名なLast Lines、絶唱だ。まず私が一度読んでみよう」

Last Lines

No coward soul is mine,
No trembler in the world`s storm - troubled sphere:
I see Heaven`s glories shine,
And faith shines equal, arming me from fear.

O God within my breast,
Almighty, ever - present Deity!
Life - that in me has rest,
As I - undying Life - have power in Thee!

Vain are the thousand creeds
That move men`s hearts: unutterably vain;
Worthless as wither`d weeds,
Or idlest froth amid the boundless main,

To waken doubt in one
Holding so fast by Thine infinity;
So surely anchor`d on
The steadfast rock of immortality.

With wide - embracing love
Thy Spirit animates eternal years,
Pervades and broods above,
Changes, sustains, dissolves, creates, and rears.

Though earth and man were gone,
And suns and universes cease to be,
And Thou were left alone,
Every existence would exist in Thee.

There is not room for Death,
Nor atom that his might could render void:
Thou - Thou art Being and Breath,
And what Thou art may never be destroyed.


「どうかね」
「先生の朗読を聞いただけで感激です」
「この朗読の価値がわかるとは、君は素質がある」
「ありがとうございます」
「これは、万象の源である神に対する透徹した信念を格調高く謳い上げた傑作だ」
「たとえ宇宙や太陽などすべての物が消え去っても、神が在りさえすればすべては存在し続ける。強烈な信仰心ですね」
「最初の一節が特に印象的だ」

私の魂は怯懦ではない
この世界が嵐に悩むんだとしても、
私の心は震えおののくものではない
わたしには天の栄光が輝くのが見える
そして、信仰もまた恐怖から私を護って輝く

「僕は最後の一節も好きです」

そこには死などが入るこむ余地はない、
死の力が破壊しうるものはひとかけらもない。
神よ、あなたは存在そのもの、そして息吹、
あなたの存在は永久に不滅である


「ミン君、なかなか素晴らしい訳だ」
「ありがとうございます。ただ…」
「ただ?」
「ここまで徹底した信仰心を、実感としてよく理解できません」
「信仰を理解するのが難しいようならば、別の解釈をしてもいいんだよ」
「別の解釈ですか?」
「神はすべての源、存在を超えた存在だ。誰かを愛したことがあれば、その人は君にとって神のような存在ではないかね?」
「あ…」
「すでに君には特定の相手がいるのかね?」
「…」
「返事はいい。その赤面の仕方で返事になっている。そうか、すでに相手が…」
「先生」
「何かね?」
「僕はたった今わかりました」
「ほお」
「神だと思えばいいんですね、きつねでなく…」
「きつね?」
「そう思えば、どんな理不尽な要求や仕打ちにも応えられる」
「何だって?」
「並外れた我儘も許せる」
「君…」
「気まぐれで無自覚な痴れ者でも、それが神なら…耐えられる」
「一体君の相手というのは…」
「たとえ借金を背負っていても、体が硬くても、運転が乱暴でも、それが僕にとっての神なら…」
「君の相手は性格破綻者か!」
「いえ先生、神です」
「なんと…」

「先生、僕の中に詩ができました」
「ほお」
「詠んでもいいでしょうか」
「聞きたいね」

神よ
唯一無二の存在である神よ
その視線が絶えず彷徨い、僕を見つめることがなくても
僕の内なる炎は消えない

たとえよこしまな天使が僕らの間に割って入っても
いつかあなたの視線が、天使の羽を通り越し
地上のちっぽけな一匹の犬の元へ届くことを信じよう

「ちょっと失礼。確認したいのだが、犬と僕は同一だね?」
「はい」
「犬が君を象徴しているわけだね?」
「そうです。僕の前世は猟犬です」
「なるほど。グレイハウンドはいい。優雅なサルーキも君のイメージだ」
「ども」
「続けたまえ」


なぜなら
あなたは僕の神であるから
この胸に宿った信念は、誰のものでもなく
ただあなたのものであるから

たとえおせっかいな天使があなたのまわりを跳び回ろうとも
邪悪な天使が僕の存在を退けようとしても
真実はいつか明らかになる


「ミン君、ちょっといいかな?」
「何でしょう?」
「やたらと天使に形容詞が多いが、天使は複数かね?」
「天使はひとりです。その一人がよこしまでおせっかいで邪悪なんです」
「随分と否定的な感じを受けるが」
「いえ、足りないくらいです。僕に表現力がないのが悔しいです。もっと悪い表現はないでしょうか?」
「そのような存在は天使と言うよりむしろ悪魔の方がふさわしいと思うが」
「そうなんです!そこが問題です!でも天使なんです!」
「若干不可解だが、複雑な事情があるようだね」
「はい」
「天使の件はまあよしとしよう」
「…」
「ミン君!もういいから唇を噛むのはやめなさい!」
「す、すみません。つい…」
「いいんだ。ただそれ以上噛むと…出血する」
「やめます。詩の方を続けてもいいでしょうか」
「続けたまえ」


神よ
この思いはいつかあなたの元へ届くであろう
あなたは森羅万象を束ねる者であるから
存在を超えた存在であるから

そして
よこしまな天使もいつか気づくであろう
大海の奥深くから
天使を見つめる純真な河豚がいることを
その河豚の真摯な思いが大海を突き抜け天空にまで届いた時
天使は大海へと降りてくることとなろう

もし
よこしまな天使が河豚の存在を退けるなら
その羽は燃え尽き
天空から紅蓮の炎に包まれ焼け落ちるであろう
ははは!(けほっ!)

「ミン君、たびたびすまないが、何で河豚が出てくるのだ?」
「比喩です!」
「もちろんそうだろうが、他の表現はないのかね、もっとこう美しい…何か」
「しかたないんです。河豚は河豚です!」
「大海であるなら、たとえば小舟とか、真珠とか」
「いえ、ここは河豚でなくてはいけないのです!」
「そうか、こちらも事情があるのだろうね」
「はい」


河豚も犬も
今はただ
信じて待つのみ

神よ
気まぐれで無垢な神よ
無自覚は時に罪になることを知れ
そして
神と天使は永久に相容れないことも知れ

神よ
輝き続ける僕の神よ


「以上です、ゼロゼロ・・・」
「やれやれ。なかなかの力作だ。Aマイナスをあげよう」
「ありがとうございます。でもどこがマイナスでしょうか?」
「もう少し語彙を増やした方がいい。豊かな比喩が考えられて表現力が増すだろう」
「わかりました。ご指摘ありがとうございます」
「それともうひとつよけいな忠告するならば、君の神はあまり君にふさわしくないようだが」
「いえ、そんなことはありません!愚図でドジでのろまな神ですが、僕のすべてです!」
「どうも情報が氾濫しすぎていて想像がつかないのだが」
「複雑な神ですから」
「なるほど…神の定義はまた別の機会もあるだろう。さて、今夜はとても有意義な時間が過ごせた」
「先生のおかげです」
「それでは、私も君にひとつ詩を進呈しよう」
「本当ですか?」

若者よ 自由であれ
その前途に立ちふさがるすべての困難も
自由な心があれば乗り切れるだろう
常に心を解き放ち
自由であれ

神は唯一無二ではなく
絶対的な存在にもあらず
実はいつでも交換可能な存在である

神に縛られることなく、
長い道のりの途中で経験豊かな愛の手が広げられたら
それを退けてはならぬ
その慈悲深い胸に
躊躇いなく飛び込む勇気を持て

愛すべき若者よ
自由な犬よ
心するがよい
キツネ狩りばかりに溺れてはならぬ


「どうかな?」
「素晴らしいです!」
「それでは今日の講義は終わりだ」
「ありがとうございました」
「ではまた明日の夜」
「とても楽しみです」
「私もだ」
「それでは失礼します」
「おやすみ」


******

「私の魂は怯懦ではない!ああ、何て素晴らしい!神だと思えば腹も立たない…そうなんだ。
そうだ、兄さんもワンランクいやツーランク、いやスリーランク下の愚神だと思えばいいんだ。そうすれば我慢できるぞっ!いえすっ!」

******

「意外な展開であった。それにしても…
まっすぐ実直ですっきり爽やかでがっつり強気でほんのりセクシーな青年は、一体どんな悪党に騙されているというのだっ!」


(サイド?)新年のご挨拶 あしばんさん

「あけおめれしゅ!」
「これはこれは、ミソさま、おめでとうございます」
「や、しょの声はフェルデ爺でしゅね!」
「さようにございます。本年も何卒よろしくおね…」
「いいから!もう、てんしを出してくらしゃい!」
「ミソさま…酔っておいでですか?」
「うっっしゃい!ちょっとオソトを呑んだだけれしゅ!」
「オソ…あ…おとそでございますか?」
「いいから!てんしをだしぇーっ!」
「は、はいはい、お待ちを…」

「はい、お電話代わりました」
「あ!てんし!この、この、ぶぁかっっ!」
「おや、お正月からご機嫌ナナメだね…ハニーなきつねがどうかしたの?」
「きちゅねはダイジョブでしゅ!ふぐのことでしゅっっ!」
「ん?どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないでしゅ!男の匂いでしゅ!」
「ああ…うん…わかってるよ」
「わかってないでしゅ!もう何ヶ月放っておくんでしゅか!
 ふぐがエグゼクテブにココロをヤラレそうになって早ンヶ月でしゅよ!」
「うん…でも…」
「でもぢゃないでしゅ!!もう、放っておくと新年早々持ってかれましゅよ!
 ハートをズキュンで、ヒ~で、アアンで、トットコトットットーでしゅよ!」
「わかってるけど、今は…その、忘れてるから…」
「忘れてるわけないでしゅ!数ヶ月作者が怠けてるからって、忘れるもんでしゅか!」
「うん…でもね」


(こら、スヒョン、誰と電話してるのさ!)
(いや、誰でもない、ご近所の方)
(何で近所の人とコソコソ話さなくちゃなんないのよ!)
(いや、だから…)
(こら、フェルデナンド、誰からの電話?)
(ええ…と…ドンさま…あの…)
「ちょっと!そこにフグもいるんでしゅか!」
「あ、うん…でも、あいつは今…」
「代わってくらしゃい!!代われえええ~!」

「はい!こちらNSSのドンジュンであります!なんちゃって~きゃはは」
「あ、フグでしゅね!あけおめでしゅ!」
「何だ、ミソチョルじゃないの?ことよろ~!」
「酔ってましゅか?」
「ワイン2本とウォッカ1本空けただけだよおおお~ん」
「ミソといい勝負でしゅね!」
「で、何でスヒョンとコソコソやってたのさ」
「あ、それでしゅ!フグがエグゼクテブと浮気しゅるんじゃないかと
 ココ数ヶ月ずっと気になってて、新年早々てんしに忠告しておこうと思ったんでしゅ」
「きゃははは、えぐぜくでぶ?…何だそれ」
「でぶじゃないでしゅ!この酔っぱらいフグ!」
「ひっどおおーい!さて、ふぐは酔うと何になるでしょう?」
「 "良い"フグ!」
「ピンポンピンポン!」
「「きゃはははは~!」」
「で?その良いフグが何だって?」
「だから、てんし以外の人とデキて悪いフグになったら…」
「てんし以外って誰だ?」

(あ、ドンジュン、ほらこぼして!もう瓶を放しなさい)
(うっせー!良いフグ様だぞ~!)
「あ、ミソさま」
「何だ、フェルデ爺、何騒いでましゅか」
「その…本日新年会で酔われたドン様が、いっこうに話が進まない!僕はどうなる!と暴れられて、
 天様がいろいろケアされてようやくご機嫌が直ったところでして…」
「それはダメでしゅ!まやかしでしゅ!」
「ですが、ミソさま…」
「こら!フェルデ!何またコソコソやってるんだあ!もしもし!」
「あ、フグ!騙されちゃいけましぇんよ!ウソクしゃんのこと!」
「え…うそく…?」
「そうでしゅ!あのウソクしゃんの件は早急に…」
「えと…僕は…あんっ」
「どっどうしたでしゅか!フグ!大丈夫でしゅか!」

「あ…あの…ミソさま、おふたりはちょっとお取り込みになられるようなので…」
「また、てんしのお取り込み作戦で誤摩化すつもりでしゅか!」
(やん、スヒョンってば、きゃはは、やーん、ああん)
「で、では、ミソさま、失礼します」
 カチャ
「むきい~っっ!ホントに失礼でしゅ!こんなに心配してましゅのに!」
「どないしたんや」
「どうもこうもないでしゅ!もう1杯くだしゃい!」
「いつの間にこんなに呑んだんや…呑み過ぎたらあかんで」

つぎの日の昼に目覚めたミソチョルとドンジュンは
このときの会話に関しての一切の記憶がなかった


……

今年もよろしくお願いしましゅー(_ _;)


BHC学園 緊急会議  ぴかろん

深夜のBHC学園寮内。ハリウッド学園との学生交換交流最終日の前夜
その棟はまるで時が止まったように静まり返っている。時計が時を刻む音さえ聞こえない

廊下を歩く一人の男、チェ・スヒョン
寮内にあるミーティング・ルームへ入っていく
やや遅れて同じドアの中へと消えた人物、ソ・イヌ
ドアが静かに閉まる

「スヒョン?いるのか?」

低い声で囁きながら、ソ・イヌは部屋の灯りのスイッチに手を伸ばした
その指先がスイッチに届く前に、ソ・イヌは壁に押し付けられ、口を塞がれた

「…。…。は…。む…」

時折漏らされるソ・イヌの吐息と、湿り気を帯びた密着音がミーティング・ルームに響いている
飽くことなく続く無言の時間。塞がれていた口が解放され、ソ・イヌの唇からすすり泣くような喘ぎが零れる

「あ…は…やめ…すひょ…ん…」
「ん?やめてもいいの?」
「ひ…とがく…」
「誰も来ないよ」
「…ぅそだ…き…きんきゅ…かいぎってはっ」
「ん…一時間後にね」
「い…一時間?…ぼく…じか…まちがえ…」
「間違えてない。あなたは時間通り…来てくれた」
「かいぎ…かい…ぎ…ん…はむ」

再び塞がれる唇。ソ・イヌは年下のチェ・スヒョンのなすがままになっていた

「…んふ…かわいい…」
「なっ!」

その言葉を聞いた瞬間、我に返ったソ・イヌは、チェ・スヒョンの体を押しのけ、素早く部屋の灯りを点けた

「スヒョン!いい加減にしないか!」
「ふふ。髪が乱れちゃったね」
「スヒョン!」
「夜中なのに随分きっちりした格好してるんだ、あなた」
「当たり前だ!緊急会議だって言うから…」
「どうりで」

手が入らなかったわけだ…とソ・イヌの耳に囁き、彼のズボンのベルトを軽く叩くチェ・スヒョン
くすぐったそうに身を竦め、顔を赤らめるソ・イヌ

「んふふ、ほんとに可愛いんだから」
「か…可愛いって言うな、年下のくせに!…こんな事してドンジュンに見つかったらどうする気だ!」
「大丈夫。ドンジュンもウシクもぐっすり眠ってる。ついでに言うと他のヒトの時は止まってる」
「は?どういう事だ?」
「起きてるのは、会議に出席する者のみ」
「…僕達だけってこと?」
「いや、あと2人いるよ」
「何て奴!その2人に見つかったらどうするつもりだったんだ!」
「明るくなった途端センセーになるんだもんな、あなたって」
「スヒョン!」
「電気、消そう」
「だめだ!またあんなこと…」
「あれは、あなたの求めに応じたんだけど?」
「そっ…それは…だから…ダメな事だろう!」
「くっくっくっ。たまんない。可愛すぎるよ、あなた」
「可愛いって言うな!くっつくな!あと2人来るんだろう!なんて危うい事仕掛けるんだお前は!」
「…なぁんて言いながら、もっとくっつきたがってるのは、あ・な・た」
「スヒョン!いい加減に…む」

灯りの点いたミーティング・ルームでソ・イヌを抱きしめ、唇を奪うチェ・スヒョン
抵抗していたソ・イヌだが、やがて力を抜き、チェ・スヒョンに身を任せた

「いい子だ…可愛いよ、イヌ」
「呼び捨てにするな…僕は年上で先生だぞ…」
「年齢も地位も僕には関係ないって言っただろ?」
「…そうだけど…。…それより会議が…。あとの2人が…」
「あと一時間…いや、40分ぐらいかな?時間はある。あなただけ先に来てもらったんだ。こんな時ぐらいしか2人きりになれないでしょ?」
「…」
「なんだよ、後ろめたい?」
「君は後ろめたくないの?」
「しょうがないよ、性分だもの、ふふ」
「君って奴は…」

ソ・イヌはクスッと笑うと、自分からチェ・スヒョンの唇に吸い付いた。2人は何度もくちづけを交わし、時折くすくすと笑った
チェ・スヒョンはソ・イヌのベルトに手をかけ、ソ・イヌはチェ・スヒョンのシャツのボタンを外し始めた
2人の瞳が熱を帯び、唇がお互いを求めて彷徨い、

バタン、ガタン!

「遅なってスマン!」
「まったくボス先輩が部屋を間違えるからっ!」

ジタバタドタドタ…あ…いやこれはその…

「いやいやソクはん、すまんすまん、3階かと思いこんでたんや、ドア開けたらウシ君とフグ君が絡みついとったからびっくらこいたわ~ハハハ」
「ほんとにあれはいい光景でしたねぇ、ウシク君とドンジュン君って脱ぐとあんまり体型変わらないなんて、知らなかったなぁハハハ」
「目の保養になったやろ、スヒョクはんはカタいから」
「アハハハハ。僕もカタいから」
「…。アハハハハ」

「「ちょっと待ってくれ!ウシクとドンジュンが、なな、なんだって?!」」

ベルトを締めなおしているソ・イヌとボタンを留めているチェ・スヒョンが、時間より早く部屋に入ってきたパディのボスとユン・ソクに向かって叫んだ

「「…」」
「脱ぐってどういうことだ!」
「絡みついてたってそれはまさか…」
「スヒョンはんとイヌセンセ、何してましたん?えらい顔がほてってはりますなぁ」
「おや?着替えの最中でしたか?」
「明日の新体操の技でも練習してたんやろ、この2人はジーさんやから」
「ジーさん具合なら僕だって負けませんよ、ボス先輩」
「それは自慢にならへんやろ、ソクはん」
「「アハハハハハ」」
「あああああケホっ…じ…実はその事でみんなに集まってもらったんだがケホン」
「「「その事?」」」
「そそそう。新体操だ。とにかく席に着こう」

チェ・スヒョンは衣服を整え、ホワイトボードの前の席に座った
あとの3人はチェ・スヒョンの向かい側に並んだ

「それにしてもボス先輩もソク君も、どうしてこんなに早くにここへ来たのかな?」
「あれ?早かったかい、スヒョン君」
「早いよ、深夜2時にって伝えたはずだよ」
「ん?何かとげとげしい口調に聞こえるな…」
「確かに2時って聞いたで」
「ならなんでこんな早くに」
「何ゆうてンねん!遅くとも30分前には約束の場所に集合、これ基本やろが!なぁソクはん」
「そうですよ、何があるかわかりませんからね」
「何もないよ!全く…チャンスだったのに…」
「え?何かゆうたか、スヒョン」
「いいえ別に!」
「な~に怒ってンねん。変な天使やなぁ」
「でもスヒョン君、会議は2時からなのにイヌ先生は僕達よりもっと早くに着いてたんじゃないの?」
「それは…ケホン…事前に打ち合わせするためだよ、ソク君」
「ふ~ん」
「なにか色っぽい打ち合わせやったような」
「げほっ!ボス君!何がどう色っぽいと言うのだね?」
「いやぁ、イヌ先生はどうしたって色気があるって事ですよ、ね、ボス先輩」
「そやそや。イヌ先生もスヒョンはんも色っぽいから危険やなぁってこっちゃ」
「どど、どう危険だと」
「イヌセンセ、気持ちを惑わされてしまうってことですよ。現に僕も今、フラフラしちゃいそうだったし」

先ほどのアバンチュールを何とか誤魔化そうとするチェ・スヒョンである

「スヒョンはんでもクラッとするんか?やっぱりイヌ先生の魅力は底なし沼やなぁ、アハハハ」
「アハハハ。スヒョン君、もうキメちゃってたんじゃないのぉ?アハハハ」
「アハハハハいやだなソク君。ソク君じゃあるまいし。僕はじっくりしっとり派だよアハハハハ。ふぅ。本題に入ろう。会議を始めます。イヌ先生、いいですね?」
「…」
「イヌ先生?」
「…。…え?あ、うん。いや、はい」
「どないしたんやイヌ先生」
「あ…ちょっと考え事…」
「なんや?ウシクはんとドンジュンはんの絡み合いが気になるんか?」
「そう言えばそれは一体どういうコトなんですか、先輩」
「間違えて個人の部屋開けたら、あの子等、ベッドくっつけあって、ついでに自分らもくっつき合って寝とったぞ」
「なぜかパジャマがはだけてましたよね、先輩」
「はだけるっちゅーより、脱ぎ捨てられとったがな」
「そうそう。上半身ハダカでがっぷり四つでしたねぇアハハハ」
「夢の中で相撲取っとるな、あれは。アハハハハハ」
「…。イヌ先生、相撲して疲れたんですよきっと」
「そうかなぁ…」

チェ・スヒョンは、ぼんやりしているソ・イヌのところに行き、耳元で、

「もういいじゃない、眠ってるんだし、それより…会議が終わったら…ね?」

と囁いた
ソ・イヌはチェ・スヒョンを見上げてコクリと頷いた

「会議終わったら何するんですか、先生」
「しまった!ソク君は耳がいいんだった…」
「あやしいなぁ」
「けほん…何でもないよ、ソク君。会議を始めよう!」

チェ・スヒョンは席に戻り、皆を見渡した

「新体操について話す前に、『時』の事を説明したい」
「『時』?」
「そう。みんな『BHC時間』の事は知ってるね?」
「ああ。一般世界とは違う時の流れ方をしているっていうあれ?それが?」
「うん。『BHCワールドにおける一時間は、一般世界における三ヶ月にあたる』っていう…」
「三ヶ月どころとちゃうやろ、最近は」
「あは。まあ、そうとも言えますね、ボス先輩。その『BHC時間』と同様の『BHC学園時間』ってものもあるんだ」
「なんや、一時間が一年間とかか?」
「というより、『BHC学園時間』は時の流れ方が自由なんだよ」
「どういう事だスヒョン」
「手っ取り早く言えば、何でもアリ」
「…。身もふたもない言い方やなぁ。で、それが?」
「だから皆さん気づいてらっしゃると思うけど、学生交換2日目が過ぎた後の3日目がなかなかやってこない」
「うん、そうだね、どうなっちゃったのかって気になってた」
「だよねソクさん。楽しそうな男子新体操団体競技はどうなるのか、ハリウッド学園との勝負はどうなったか…って気になるよね。どうして3日目が来ないのか…。実は…理事サイドから依頼があったんだ」
「理事サイド?」
「イヌ先生はご存知ですよね、学園の理事がどなたなのか…」
「ああ。BHCの理事と同じ方だね」
「そう。その種目について、理事の側近から異議申し立てがあったんだ」
「スヒョンに?どうしてスヒョンに」
「イヌ先生、ご存知のはずでしょ?僕が何者なのかって」
「…知ってるけど…。じゃあ君のお父様が何か…」
「うん、父を通じて連絡が入った。『新体操』といえば、理事にとって、ちょっとばかりイタい思い出があるだろ?それで何とかならないものだろうかって」
「ふーむ。理事の苦悩は我々の苦悩でもあるからなぁ」
「俺は別に苦しくないけどなぁ」
「僕も悩まないけど」
「まぁまぁボス先輩もソクさんも、BHC顔とは浅からぬ縁があるじゃないですか」
「そりゃそやけども…」
「で?理事の苦悩を避けるためにどうするんですか?」
「種目を変更するんだ」
「ええっ?だってもう日付変わってるんだよ、つまり今日じゃん!皆、はりきって練習してたしハリウッド学園の方も準備万端なんじゃないの?無理だよスヒョン君」
「さっき言ったでしょう?『BHC学園時間は時の流れが自由だ』って」
「…じゃ、2日目をやり直すっての?」
「いや、そんなめんどくさい事はしない。ただ、かいつまんで記憶を塗り替える」
「「「えっ?」」」
「父にも協力を仰いだからその点は大丈夫。だけど、新しい種目を考えなきゃなんないんだ」
「「「新しい種目?」」」
「時間はたっぷりある。いい案はないかな?」
「たっぷりったって、もうすぐ2時だぞ。朝までわずかしかない」
「大丈夫。時の流れを止めている」
「止めてって…スヒョン、僕達は動いてるじゃないか」
「そう。僕達4人はね」
「「「どういう事?」」」
「つまり、BHC学園では僕達4人以外の先生や生徒達の時は止まってるってこと」
「それがわからん」
「僕達4人は時を超えられるだろ?」
「「「え?」」」
「まずボス先輩はぬいぐるみだから時はあまり関係ない。ソク君は未来からやって来た。イヌ先生は輪廻転生人生だ」
「…なんだよそれ…」
「そういうふれこみじゃないか、先生は」
「…そうだけど…」
「そして僕は天使。4人は時を超えられる」
「テジンセンセは?テジンセンセかて時超えられるんちゃうんか?」
「テジン先生は憑依人生だ。それも演技の憑依。時は超えられないね」
「あ、そうか」
「スヒョン君、それじゃ3年N組の皆さんは?皆さん、ボス先輩と同じくぬいぐるみだろう?」
「3-Nの皆さん全員呼ぶと収拾がつかなくなるからボス先輩をクラスの代表として呼んだんだ」
「ふーん、なんかええ加減っぽい気もするけどまぁええわ」
「スヒョン。ハリウッド学園の方はどうするんだ?」
「ハリウッド学園には時を超えられる人間がわんさかいる。厳密に言うと新しい理事キャラ、つまり新しいBHキャラ仲間の中にも時を超えられる人間は何人かいる。ストーム君とかW君とかね。しかし残念ながら彼らはワールドワイドに活躍してて忙しい上にBHC学園に所属していないので協力は仰げない。だから僕達4人で話し合う。そして種目が決まったらハリウッド学園に連絡する事になってるんだ。もちろんハリウッド学園の学生達の記憶も塗り替える」
「新しい理事キャラがしゃしゃり出てくるとややこしなるもんなぁ」
「そうなんです、ボス先輩。とにかく既存のキャラだけでなんとかしなきゃなんないんです」
「スヒョン、記憶を塗り替えるなんて道徳的にどうかと思うが、そういった事、お父様は承知されたのか?」
「理事のためとあらば動かざるを得ないなって」
「機転のきくおやっさんやなぁ」
「おやっさんっていうかカミサマ?」
「まぁとにかくそういうわけだから、新しい種目を提案してほしいんだけど」
「そう言われてもなぁ」

スヒョンの議案に頭を悩ませる3人であった



黙りこくった3人を見つめ、スヒョンが言葉を発する

「イヌ先生、昼間の会議で挙がってた種目、なんだっけ?」
「君も出てたじゃないか、覚えてないの?」
「言ったでしょ?ある人に見惚れてた…」

ソ・イヌをじっと見つめるチェ・スヒョン。恥ずかしそうに俯くソ・イヌ

「絶対アヤシイ、スヒョン君と先生って」
「げほ。ソク君、何かいい種目があったら提案してくれたまえ」
「え~?わかんないよぉ」
「えっと、会議で挙がってた種目は確か…障害物二人三脚リレー、借り物二人三脚リレー、二人三脚駅伝…」
「なんで二人三脚ばっかしなんや!」
「あいや、他にもあったけど…」
「それ先生が提案したものでしょう?イヌ先生は二人三脚に思い入れがあるんだね」
「あ…うん…」

遠い目をするソ・イヌ。彼を見つめるチェ・スヒョンの瞳に小さな炎が灯る

「まったく…可愛いんだから」
「え?俺の事かスヒョンはん?」
「え?あ、そうそう。ボス先輩はとっても可愛いなと思って」
「当たり前の事言われても嬉しないなぁ」
「げほん。イヌ先生、もっと他になかったっけ?」
「…バスケット…。かつての僕の可愛い生徒が得意だったな…」

涙目になるソ・イヌ

「イヌ先生、他の種目、もっとあったでしょ?」

チェ・スヒョンがイラついた声でソ・イヌの思い出を遮る

「えっと…野球、バレーボール、サッカー、柔道、ボクシング…それから、各種スポーツを統合したスーパーマッチ」
「「スーパーマッチ?」」
「うん、大きなコートの中に、各種スポーツの格好をした選手を一名ずつ入れて、ドッジボールを使って勝負するんだ。野球のユニフォームを着てる子は、グラブでボールをキャッチして投げる事ができるとか、ボクシングの子はパンチやフックで返すとか、サッカーの子は手は使えないけどキックできるとか、バスケットの子はドリブルが使えるとか。とにかく各種スポーツの特性は一部活かされてる。こちらのチームが相手チームに向けて投げる、あるいは打つ等したボールが相手チームの人員に当たって地面に落ちればポイントとなる…そのあたりはドッジボールと一緒だよ。ね、スヒョン」
「そうだっけ?説明は聞いてなかったからなぁ僕」
「頼りになんない大会委員長だな」
「でもイヌ先生、柔道とか相撲とかの子はどうするんですか?」
「そういった種目の子たちは、相手チームのコートに突撃していって、レシーブの邪魔をすることができる『鉄砲玉』となれる。ただし、『鉄砲玉』は味方の攻撃の時のみ動くことができ、ボールが相手側に入ったら、ただちに自分のコートに戻らなくてはいけない。また、複数の『鉄砲玉』がいる場合、一攻撃中一人のみ突撃できる」
「…イヌ先生、詳しいなぁ」
「だって僕が提案したんだもん、二人三脚絡みの競技、全部却下されたから必死で考えて…。二人三脚を却下したのは君だろう、スヒョン」
「二人三脚なんて組み合わせで揉めるに決まってるでしょ?」
「…そうだけど…。…だから統合スーパーマッチを提案したのに、その時スヒョン、上の空だったんだね」
「それは…だから、先生に見惚れてたからだってば」
「なんやなんや、スヒョンはん、浮気かいな」
「浮気じゃなくて本気だったりして~」
「やだなぁソク君、イヌ先生は全生徒の憧れの的でしょ?僕も憧れの先生に見惚れたってだけだよ」
「それにしても今夜のイヌ先生は、えらい可愛らしいなぁ、なあソクはん?」
「そりゃ側に気になる生徒がいるからでしょう」
「それは俺の事か?なんちってな。フハハハハハ」
「フハハハハハハ」
「あーけほん。話を戻そう。他にいい種目ありますか、ボス先輩」
「なんでそんなおもろそうな種目が出てたのに新体操になったかわからん!」
「え?」
「各種スポーツが入っとってルールも分かりやすいやないか。俺はイヌ先生の提案したそのなんたらマッチがええと思う」
「ボス先輩、考えるのが面倒なんでしょ」
「そんな事ないがな、そういうソクはんは何かあるんか?」
「いや、僕もイヌ先生の提案したなんたらマッチでいいと思います」
「ほんならごちゃごちゃ言わんとき!どやろな、スヒョンはん。俺等は先生の案でええと思うけど」
「じゃ、それにしますか」
「えろう簡単やな」
「だって他に思いつかないもの」
「とか言ってスヒョン君も考えるのが面倒なんだろ?」
「…。まあね」
「なんだって?スヒョン!そんな不真面目な態度でいいと思ってるのか!」
「先生の案が最高だって言ってるんですよ」
「だったら最初の会議の時に賛成してくれればいいじゃないか!あの時みんなに馬鹿にされて、僕、とても悲しかったんだ。君の加勢を頼りにしてたのに!」
「ごめんね、先生」
「ふん」
「あー、拗ねはったで~。どうする?ウシクはん揺り起こすか?」
「そんな事しなくていいよボス先輩」
「お?なんでやスヒョンはん」
「ウシクはドンジュンと絡み合ってるんだろ?絡ませておけばいい!ね、イヌ先生」
「…眠ってるんだよね?」
「そうだよ、心配ない」
「…じゃ、いい」
「というわけですボス先輩。それに彼等を起こしたらややこしくなる。今から父に記憶を塗り替えてもらわなきゃなんないんだし」
「ふーん。そぉかぁ」
「それじゃ緊急会議を終わります。ルール等は僕とイヌ先生がもう少し詰めますから、ソク君とボス先輩は部屋に戻って寝てください。お疲れ様でした」
「…。俺等も手伝わんでええんか?準備なんかもあるんちゃうん?」
「いえ、2人で十分です。ね?イヌ先生?」
「手伝ってもらった方が早く済むんじゃ…」
「ボス先輩、ソク君、ありがとう。おやすみなさい」

立ち上がってパディのボスとユン・ソクをミーティングルームから追い出すチェ・スヒョン
訝りながらも、まぁええか、眠いし、と呟いて部屋に戻っていくボスとソク
2人の足音が聞こえなくなったのを確認し、チェ・スヒョンはぼんやりしているソ・イヌを背中から抱きしめた

「やっと2人になれたね…」

チェ・スヒョンはソ・イヌのシャツのボタンを外し、そっと手を忍ばせた

「…ウシクとドンジュン、何してたんだろう…。あの子達、同じ部屋じゃないはずじゃ…」
「相撲取ってたんだよ、じゃなきゃ柔道だ」

ソ・イヌの首筋に軽くくちづけし、ベルトを外しにかかるチェ・スヒョン
その手を掴み、振り向くソ・イヌ

「きっと何か感づいたんだよ、僕達の事…。昼間もドンジュン、きつい顔して睨んでた」
「あれはあなたを睨んだんじゃないよ、ミン…」
「ミン?」
「ミ…ミンミンゼミが鳴いてたろ?気づかなかった?」

ほんの少し目を泳がせるチェ・スヒョン。それを見逃さないソ・イヌ

「ミンミンゼミねぇ…そういえば鳴いていたかな、君の隣で」
「僕の隣?あは、僕の肩にとまってたのかな?」
「うん。僕は見た。随分ふとっちょのセミだったよ。なんだか前髪がうるさそうなセミでね、一目で難しそうな性格してるなぁってわかるセミだった」
「…セミに前髪だなんて…面白い冗談を言えるようになったんだね、あなた…」

ひきつった笑みを浮かべながら、イヌのシャツの中に忍ばせた手をせわしなく動かすチェ・スヒョン

「スヒョン。痛い」
「え?」
「いつもよりぎこちない手つきだ」
「な…何が?」
「いつもならもっと…む」

慌ててソ・イヌの唇を塞ぐチェ・スヒョン。そのまま深いくちづけへと進み、ソ・イヌのベルトを外そうとするが、ソ・イヌはチェ・スヒョンの腕を掴み、チェ・スヒョンから顔を背けた

「どどどうしたのさイヌ先生」
「間違ってた」
「え?何が?」
「君の隣で鳴いてたのはセミじゃない。皮肉屋で意地っ張りで強情っ張りのふとっちょなキツネだ」
「えっ?!」
「ドンジュンが睨んでいたのは僕じゃなくて前髪がうるさいミンチョルだったんだね」
「は、ま、ましゃかっ」
「らりるれった!珍しいね、余程のことがない限り、君がらりるれることはないのに…。思ったとおり、僕は二番手ってわけか」
「いや、違う、あなたは…」

ドンジュンを入れれば三番手だ、と言いそうになり唇を噛み締めるチェ・スヒョン
そんなスヒョンを横目で見ながら、ソ・イヌはフッと笑った

「ふふ…ははは。バカだな、僕は…」
「イ…イヌ先生、あなたは二番手なんかじゃない!僕にとってはあなたが一番なんだ!」

ソ・イヌを抱きしめるチェ・スヒョン

「ふ…わかってるさスヒョン」
「そ、そうだよね、わかってくれてるよね、僕の一番はあなただって…イヌ…」

もう一度、ソ・イヌに唇を寄せるチェ・スヒョン

「うふふ…うふふふ、わかってるとも、僕は君の『一番年上の遊び相手』だって」
「う」
「図星だろう」
「あ…いや…ちがっ…遊びだなんてそんな…」
「いいんだスヒョン。君にはドンジュンが、そして僕にはウシクがいる。更に君にはあの威張りんぼで怒りんぼな高慢ちきのふとっちょきつねもいる」
「…そ…それは言いすぎじゃぁ…」
「ほぅら庇った!」
「あ…いや…べ…別に僕とミンチョルはそんな…あなたとのような仲じゃ…」
「真剣だって言いたいの?」
「いやだから…親友というか…親友より少し親しい仲というか…」
「焦ってる」
「いや、だから違うってば…僕はあなたが…」
「いいんだ、かまわない、僕は大人だから」
「…イヌ先生…」
「さ、部屋に帰りなさい、悪さはしないで。僕も良心が咎める。彼に悪い」
「…」
「スヒョン。いい加減あちこち羽根(手)を出すのはやめたらどうだい?」
「…センセ…」
「僕は部屋に戻るよ、彼が待ってるから」
「…。ん?」
「ん?」
「彼って…ドンジュンと同じ部屋にいるんだろ?」
「え?」
「彼ってウシクの事でしょ?」
「え?あ…ああ」

少し焦るソ・イヌ。それを見逃さないチェ・スヒョン

「…違うんだ…驚いた…へぇ~僕ばかり責めてるけど、あなたにとって僕も一番手じゃないんだ」
「お…お互い様だろう?」
「ふぅん、流石は大人だ、開き直るなんてね」

横目でお互いを見るソ・イヌとチェ・スヒョン

「彼って誰よ」
「彼は…彼だよ」
「その彼って可哀想だね、あなたにはウシク以外に僕がいるなんて知りもしないだろう」
「大丈夫だ、彼にとって僕はその他大勢だから」
「…。ちょっと待ってよ、あなたほどの人を他人と十把一からげにするような奴って誰なんだよ!」
「なんで怒る?」
「言っとくけどセンセ、僕はあなたを大切に思ってるんだ。あなたはたった一人のあなたなんだ、その他大勢なんて扱いにしたりしない!」
「おや、光栄だな」
「先生!ふざけるなよ!」

ソ・イヌの肩に両手を置き、真剣な瞳で彼を見つめるチェ・スヒョン

「僕はいろんな人に愛を与えてしまう男だ。ドンジュンやあなたの他にミンチョルにも惹かれてる。でも一人一人に対する僕の想いは真剣なんだ!わかってる?」
「…スヒョン…」
「どうせそいつの時は止まってるんだ。慌てて帰る必要なんてない!」
「気持ちいいな、妬いてくれてるんだ」
「当たり前だろう?誰なんだよそいつ」
「君と違って可愛い子だよ」
「僕は可愛くないってぇの?」
「君は…素敵だ…」
「…センセ…」

チェ・スヒョンの唇にソ・イヌの唇が重なり、2人はミーティングルームの床に倒れこむ




「じゃあみんなの記憶の件、お父様によろしくお願いしておいてね」

衣服を整えながらチェ・スヒョンに声をかけるソ・イヌ
シャツの前をはだけたスヒョンは口元に微笑みを浮かべる

「部屋に戻るよ…」
「…またね…」
「ふ」
「あ、センセ」
「ん?」
「素敵だったよ」

微笑み、部屋から出て行くソ・イヌ
シャツのボタンを留めながら、記憶を塗り替える部分を思い起こすチェ・スヒョン
皆の頭の中の『男子新体操』という競技を『〇〇』という種目に…



「なんだっけ…」

競技の内容は理解したものの競技名がわからない
そもそも競技名を付けていなかったのではないか…
しまった、どうしよう…
いろいろなスポーツを統合した、ドッジボールのようなものだろ?
ええっとボス先輩が何かほざいてたな…『なんたらマッチ』とか…
ああもう、『なんたら』なんてセンスがない!どうしよう…どうしたらいいんだ…
それにすっかり忘れてたけど、その『なんたらマッチ』の詳しいルールはどうなってるんだっけ…
ヤバい!どうしよう、僕達で詰めるって言ったのに何も決めてないじゃん!
やはりここは…イヌ先生に相談だ…

チェ・スヒョンは今しがた出て行ったソ・イヌの後を追った
しかし既にソ・イヌの姿はない。部屋に戻ったのか…
ならば『彼』とやらの待っているソ・イヌの部屋に押し入ってやろう
『競技名とそのルールの相談』という正当な理由とともに『彼』の正体もわかる
チェ・スヒョンはフフッと笑ってソ・イヌの部屋に向かった

コツコツ☆

「先生、先生、ちょっと競技の事で不明な点があって…入るよ」

返事を待たずにドアを開けるスヒョン

「な…なんだスヒョン!」

慌ててドアの前に立ちはだかるソ・イヌ

「先生、実はかくかくしかじかで、競技の名前とルールを決めないと塗り替えができないんだ。ね、部屋の中で話し合おう、落ち着かない」

事情を話しながら、無理やり部屋に入ろうとするスヒョン

「だめ!」
「どうしてさ」
「競技の名前は決まってるんだよ、あのね、えっと…あの…」
「嘘だ」
「嘘じゃない、えっとね、えーっと…、あ、そうそう、『BHCドッジ』」
「へ?」
「BHC学園独自のドッジボールだから」
「じゃ、ルールは?」
「各種スポーツの格好をした選手をそれぞれ25名ずつコートに入れる。『鉄砲玉』の数は5名以内とし、一攻撃中1名のみ、『鉄砲玉』となれる。
『鉄砲玉』は、それとわかるように赤もしくは青のゼッケンをつける。他の者のゼッケンは白もしくは黄色とする。
各々のスポーツの特性を活かした防御及び攻撃ができる。あとはドッジボールのルールに準ずる、以上。
じゃ、僕、眠るから。僕最低6時間は眠らないとお肌の調子が悪くなるから。じゃ」
「あ…センセ」

バタン★
無情にも締め出されたチェ・スヒョンだが、ソ・イヌのベッドにいた人物は確認していた

「…あいつだったのか…。仕方ない、オヤジ殺しだもんな。センセ、完全に弄ばれてるな…思わせぶりな事言われてはぐらかされてるに違いない。
 しかし…あいつ、一体何人にコナかければ気が済むんだ。早いトコあの騒々しい男に帰ってきてもらわないと…」

そう呟いてフッと笑い、自室に戻っていくチェ・スヒョン

翌日、学生交換3日目の朝、BHC学園の学生もハリウッド学園の学生も対抗試合に闘志を燃やしていた

「絶対勝つぞ~」
「「「「「おー」」」」」
「BHCドッジ、俺たちが貰ったぞ~」
「「「「「おー」」」」」

いよいよ競技開始ではあるが、いつまた『BHC学園時間』が作動するか、それは誰も知らない…





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