ぴかろんの日常

ぴかろんの日常

(企画)ミンギ 映画撮影中 5

魔法の眼鏡  ぴかろん

閉店後・夜中の画廊二階シーン

「もうちょっとだ…」
「スヒョン…編み終わりそうなのになぜ手が震えだしたの?」
「もうちょっとなんだドンジュン」
「そう…焦らなくていい…期限までにはあと二日もある。貴方は凄いよ、こんなに早く編み上げるなんて」

そっとスヒョンの頬にてのひらを当てる潤んだ瞳のドンジュン
スヒョンの唇に自分の唇を寄せた時、目を瞑って怒鳴るスヒョン
「あの男を呼んで来て!僕にはとても出来ない。もう一度…もう一度あの男を…あああっ」

編み物を解けないようにそっとテーブルによけてから、おもいっきり突っ伏して泣くスヒョン

「ど…どうしたの?スヒョン…あの男って誰なの?」
「はぁはぁ…あの…あの男だよ…。回し蹴りで僕の編み物を蹴り上げ、そして編み目をゆっくりと解いていった鋭い瞳のあの…ああああっ」
「どうしてさ!あの男に惚れたの?!僕と違って大人だから?」
「ううう…」
「はっきり言ってよ…僕が必要ないなら…僕は…出ていく…」
「違うんだドンジュン!おまえがいなけりゃ僕は生きていけない…違うんだ…ああっくぅぅっ」

スヒョン、体をがたがたと震わせ、ドンジュンの腰にしがみつく
ドンジュン、様子のおかしいスヒョンの頭をそっと抱きしめ涙する…

「どうしちゃったの?スヒョン…」
「あ…ああ…もうすぐ編み終わってしまう…編み終わったらまた…ああああっいやだっもっと…もっと編みたい!編みたいんだ!ううっあの男なら、編み目をすうっと解いてくれる…ふふっふふふふっああああっ編み終わりたくないっ助けて…ドンジュン…僕を助けてっ…ううう」
「スヒョン!しっかりして!」
「あああっ編み物がっううっけほっ苦しいっくうう…」

そこへ来客を知らせるベルが鳴る

「なに?こんな夜遅くに…」

ドンジュン、階下に下りていき、覗き窓を見る
後ろを向いて、空に指で、1本の横線を引く男がいる

『誰だ?こないだのあの男?』

男、すうっと振り向く

「はうっ!」

ドンジュン、思わずドアにしがみつき、震えを押える

「どっ…どなたですか?画廊はもう終わりましたけど…」
「スヒョンに…会いたい」
「え…スヒョンに?!」


とっさにドアを開けるドンジュン

入ってくる渋い男
ドンジュンドキドキしている

「夜分に申し訳ない…」
『携帯カバー取りに来たのかな?でも期限はまだのはず…』「あの…」
「…スヒョンに…会わせてくれませんか?」
「…今ちょっと取り込み中で…」
「昼に電話しました。あまりにも長い間話中だったので、彼の声を聞いた途端、怒鳴りつけてしまった…。その事も謝りたいし…」
「…失礼ですが…どちら様ですか?」
「ああ…申し遅れました…僕は…」

そう言っておもむろに胸ポッケを探り、名刺をドンジュンに渡し、眼鏡を掛けて店内を見ながら歩き回る男

「いい店だ…流石はスヒョン…」
「ソ・イヌさん…カウンセラー?」

名刺を見てから、絵を見て歩き回っているイヌの後姿に声をかけるドンジュン

「ちょっと興味を持って勉強したら、カウンセラーになってしまってね…」

そう言いながらドンジュンの方を振り返る眼鏡姿のイヌ

「はうっあっ…」

その場に崩れ落ちるドンジュン

「どうしました?」

駆け寄り支えるイヌ

「あっ…近寄らないで…あっ見つめないで…ああっああ…」

つい、吸い寄せられてイヌの胸にしなだれかかるドンジュン

「ふ…。貴方は…スヒョンの恋人かな?」
「あ…」
「じゃあ今は貴方が彼を癒しているんだね…。僕は必要ないか…」
「あっ!いえっ!今…スヒョンはとても不安定で…。あの、イヌさんは以前にもスヒョンのカウンセリングをしたことがおありですか?」
「…どちらかというと…僕がスヒョンにカウンセリングしてもらったんですけどね…。どうやら恩返しできそうかな…」
「スヒョンは…二階で苦しんでる…」
「苦しんで?…まさか症状が出たのか?なぜ!」
「症状?」
「ACの症状だ…ここ数年治まっていたはずなのに…。えっと貴方のお名前は…」
「ドンジュン…」
「ドンジュンさん、彼はまさか…編み物をしてないでしょうね」
「…」
「しているのか?!なんてことだ!誰が彼に編み物セットを渡したんだ!」
「BHCって組織の人が」
「…組織?」
「スヒョンを治してくれるの?」
「難しいかもしれないがベストを尽くすよ…」
「ちょっと待って…」

二階へ行こうとするイヌを引き止めるドンジュン

「どうしました?」
「…もう少しだけ…こうしていたい…」

うっとりと目を閉じるドンジュン

ああああっううっドンジュンっドンジュンっ

スヒョンの叫び声に我に返るドンジュン

「スヒョン!」

階段を駆け上がるドンジュン
後に続くイヌ

床をのた打ち回るスヒョン

「助けてくれ…あと一段で出来上がってしまう…ああっ解いて…解いてくれないかっドンジュン!」
「スヒョン!しっかりして!ごめんなさい。別の人にクラクラしちゃって…。僕には貴方だけだよスヒョン!」
「…別の人にクラクラ?」
「スヒョン!なんてザマだ…あれほど苦しい思いをしたというのに!なぜまた編み物を!」
「…ソ・イヌ…来てくれたのか…」

スヒョンに駆け寄るイヌ
顔を両手で包み目を見つめる

「…まだ大丈夫だ!直ちに編み物をやめるんだ!」
「そんな!そんな!耐えられないっ。あの甘い喜びを僕はまた味わってしまったんだ!いやだ!もう少しだけ編ませて…」
「…この携帯カバー…依頼主は誰なんだ?」
「…子供が…」
「ばかっ!」

パシィン☆(殴るふり)

「まだイ系のミソチョノーレと続いてるのか?!」
「…ちがう…この間久しぶりに…彼の悩みを聞いてあげただけだ…」
「まさかミソチョノーレも症状が出ている?」
「…しらない…」
「全く…君のACはミソチョノーレとの逢瀬と時期が重なるんだ…」
「…助けてくれイヌ」
「とにかく…あと一段だけは編ませてやる。さあ、編め」
「いやだ!編み上げてしまったらもう編めなくなる…編めなく…あああああ…」
「だからレース編みに転向しろと言ったのに!」
「レース編みではマフラーは作れない!僕はマフラーが一番得意なんだ!あのバリエーションの多さ、色使いの自由さ…ああ…甘い夢…僕は…僕はドンジュンに究極のマフラーを編みたいんだっ!」
「…そのマフラー編みたい症候群を、キミは昔グローバルグループの社長に利用されたじゃないか!キミが考えたコンセプトをすっかり横取りされて…」
「…」
「毎日毎日編み物ばかりして、お金は入ってこないし…。やっと立ち直ったというのになぜだ!ミソチョノーレのせいか!また惑わされたのか!」
「…あの…ミソチョノーレって?惑わされたって?…なにさ…スヒョン、誰かとなにかしてたっての?」
「けほっこほっ…」

スヒョン急に大人しくなり、携帯ケースの最後の一段を編み上げ、始末し、作品を完成させる

「ドンジュン、これをシェラトン・グランデ・ウォーカーヒルの最上階スウィートルームにいるミソチョノーレ…或いはミンチョルに届けて…」
「ミソチョノーレかミンチョル?」
「そこで全て聞くといい…ただし、話してくれるかどうか…」
「ねぇっスヒョン!この携帯カバーは犯罪組織と関係あるんじゃなかったの?!あのコワモテの人や、あのエロコンビが聞き込みにきたのはなんなの?
なぜ紙袋をエロコンビが貴方に?」
「とにかく、携帯カバーの依頼主はどうしてもスヒョンにその紙袋を渡したかったんだ。それはスヒョンをACに引き戻すため」
「ACって?」
「…」
「なんなのさ?まさかベタに『編み物中毒』っていうんじゃないだろうね!」
「…」
「イヌさんっ!」
「ぴ・ピンポーン…」
「…」
「イヌ…。ジョークが言えるようになったのか…」
「ああスヒョン…愛のお陰でね…。キミにもこんなかわいい恋人がいるってのに…。さあ、もう編み棒を折りたまえ。二度と編み物に手を染めるな…。でないとキミは…」
「イヌ…イヌっそんな…そんなっ!」
「ほらっ!可愛い恋人の前でこれを折ってしまうんだ!僕も手伝ってやる!」
「あうっ…あああっ」

スヒョンに編み棒を握らせ、後ろから抱きかかえるようにスヒョンの手に自分の手を重ねるイヌ
ばきぃぃ☆
編み棒を折るスヒョン、折った瞬間『喉の奥から声を出し、仰け反って、次に後ろにいるイヌ先生の方に脱力して倒れこむ』こと!苦悩と恍惚の表情で!
スヒョンを抱きかかえたイヌ、その耳元で呟く

「今度こそレース編みに転向しろ…。作品は小さくても売れるぞ」
「…イヌ…」

2人の様子を震えながら見ていたドンジュン

「何のためにスヒョンを…許せない!僕今から届けてくる!」

涙ぐみながら携帯カバーを手にし、危険な夜の街に走り出ていく

「ドンジュンさん!」
「イヌ…あいつは走り出したら止まらない…。気の済むようにさせてやって。それより暫く抱きしめていてくれないか…」
「…スヒョン…」
「昔に…戻ったみたいだな…」
「…いけないよ…スヒョン」
「イヌ…」

がっつり抱き合う2人


「カーット。さあ、ドンジュンさん、核心に迫れるかなぁ」
「ちょっと待ってよミンギ!」
「なんですウシクさん」
「どうして先生が眼鏡かけなきゃいけないの?どうしてドンジュンが先生に甘えるの?どうしてスヒョンさんと抱き合うの?!あのセリフなにさ!昔に戻ったみたいってどういう事さ!」
「泣かなくても…。台本上の関係なんだから…」
「そうだよウシク、これは演技なんだから…」
「先生なんか嬉しそう!!もうカットかかってるんだからスヒョンさんと離れてよ!」
「あ…はいはい…」

「ミンギ君…どう考えてもこのシーン必要ないだろ?」
「いえ!」
「編み物中毒なんてかっこ悪すぎる…」
「そんなことないです」
「それに…ドンジュンのセリフが一々リアルすぎて気になる」
「リアルに演じてくれて僕、嬉しいっす」
「それに…この設定だとイヌ先生とも付き合ってたってことでしょ?ミンチョルの昔の恋人でもあるし…。僕っていったい幾つの設定?」
「年なんかどうでもいいじゃない!どうせなら浮気者ってレッテル貼られてるみたいだって怒れよスヒョンのばかっ」
「いずれにせよジホ監督のアイディアですからへへへっ、さ。次はええっと…テソンさんとギョンビンさんのシーンでもとりますかぁ監督う」

「ああ…惜しいなぁ…イヌさんなんで2人とキスしなかったんだろ…。僕だったら絶対チャンスは逃さないのになぁ…」
「監督!何いってんですか!だんだん苦情が増えてきてますよ!どうするんですか!」
「おまえの映画なんだからおまえがなんとかしなさいよ、それよりチョンマンどうした?」
「…さっきスーツケースもって現場に来ましたけど」
「えっ…あいつ本気でアメリカに行くのか?!」

顔色の変わるジホ

「…監督ぅ…まさかチョンマンさんの事気に入ったの?」
「いや、ラストシーンの部屋をバタンバタンしていく濡れ場てんこ盛りのとこでさ、あいつも出してやりたくてさ…」
「…一人で?」

ジホ、黙って自分を指さす
ミンギ、その指を思いっきり手の甲側に押さえつける

「いてててっいててててっ」
「何考えてるんですかっ!」
「いや、あいつは絶対そっち系だって!絶対いててててっ」
「好き勝手するのもいい加減にしてくださいっ!」


現場混乱   ぴかろん

「監督」
「なんだ監督」
「監督に撒かれた結果」
「僕はミンギは巻いてないよ」
「とにかく!その結果、えらい苦情っていうか、激しい突っ込みが来てます」
「誰が誰に突っ込んでるって?(@_@;)カメラ回せ!」
「…監督ぅぅ…(;_;)真剣に聞いてくださいよぉぉええんええん」
「なんだよ、泣くなよ。抱きしめてやろうか?」

ぺしん☆

睨みつけるミンギにジホニヤニヤ笑いで対抗

「で?何?」
「ここんとこです。スヒョンさん、ミンチョルさん、ギョンビンさん、イヌさん、テソンさん、そしてソクさんとギョンジンさんまでもが指摘を…」
「…なにさ…」

『質問状・疑問あり
 誰がスヒョンに毛糸の入った紙袋を渡したのか?
スヒョン・ミンチョル・ギョンビン・イヌ・テソン・ソク・ギョンジンより』

「ん?」
「だって最初の僕の構想では…チェミさんがギョンジンさんとラブちゃんに紙袋を渡して、それを持って画廊に行って、スヒョンさんから情報貰うって設定だったんですよ」
「うん」
「それが『子供がドンジュンさんに渡した』とか『子供はへんな顔をした犯人らしきヤツから貰った』とかぐちゃぐちゃになってきて」
「…あん」
「んでイヌさんが画廊に行った時には『BHCの人から貰った』って戻ってて…」
「おん…」
「どうなってるのかと…」
「ふーん」
「ふーんじゃないです!監督ぅ…どう辻褄合わせるんですか」
「…うるせぇなぁ…」
「説明しろってみんな集まってます。納得がいかないって。とくに『なぜなぜタイプ』の人たちが…」
「…ソクさんやギョンジン君まで?」
「あの人たちは、みんなが集まってたんで面白そうだって顔突っ込んだだけみたいですけど…」
「…チョンマンは?」
「なんでチョンマンさん…」
「…チョンマンは気づかなかった?」
「とっくにおかしいと思ってたそうです。一応みなさんの質問に答えてますよ、なぜか…」

ジホ、ちょっと頬を緩めてクフっと笑う

「何喜んでるんですか!」
「いやぁ…やっぱり映画人だなぁって思ってさ…くふん…どおれ、チョンマンが困ってる顔、見に行こぉっと…」
「あ…監督ったらっ何考えてるんですかっ!もうっ」


「だからね?脚本の変更とかよくあるわけですよ」
「そんな事は事前に言ってもらわないと演技する方は気持ちを作って演技に入ってるわけだから」
「すみませんミンチョルさん…でも…僕が本を書いたわけじゃないんで…」
「やあやあ皆さん、どうしました?ん?チョンマン、どうした、涙目で…」
「ジホ監督ぅ」

思わずジホの胸に縋るチョンマン
ジホ、ニヤリと笑う

「あー、チョンマンを苛めないように。誰が画廊オーナースヒョンさんに毛糸の紙袋を渡したかが議論の的になってるようだけど…」
「そうですよ!こんないい加減な話ないっすよねぇギョンジン君」
「そうですよねえソクさん」
「あー…映画と言うものはぁ色んなコンセプトにもとづきぃいろんな場面を撮り溜めてぇその中からいいものをつなぎ合わせてぇ」
「元々の本がしっかりしてないんじゃないですか?」
「ああ…ミンチョルさん…痛いとこを…。うー…けほ…本を書いているのはミンギだからねえけほん…新人だし…ごほん」
「あれっ?ジホ監督との共同作業とか聞きましたけど…特にミソチョノーレ君の出る場面とかはジホ監督にこう言えって言われたって…青い瞳でクフン…僕の胸の中でくふん…」
「兄さん!いつミソチョノーレに会ったの?撮影終わった後あの子は消えたんでしょ?!」
「だって、会いに来てくれたんだもん、だからクリームパンとチョコレートパンと…」
「まさか渡したの?!いくつ?!」
「い…一個ずつだよ…」
「一個か…まあいい…」ミンチョルの方を睨みつけるギョンビン
知らん顔のミンチョル
「パンは一個ずつだけどあと、シュークリームとチョコレートケーキとチーズケーキと…」

「なんだって?!…ちょっと…あっ逃げちゃだめ!ちょっと来て!」
「はうっ僕は何も…はうっ痛いっ脇腹を引っ張らないでっ」
「…こ…こんなに…貴方って人はっ!」
「あうっ」
ズリズリズリ…ミンチョルとギョンビン退場

『ふ…なんだか解らんがうるさい二人が消えた…』「あー…それはですね、今からもう少し煮詰めていって…『嘘つき子供説』『子供脅され説』『嘘つきBHCボス説』『紙袋2つ説』のうちのどれかに絞っていこうかと…ねっチョンマン」
「えっ?あっいっ…」
「キミも映画人を目指しているから協力してくれてるんだよねっチョンマン」
「えっあっ…」
「いつアメリカに発つの?」チョンマンにだけ聞こえるように囁くジホ
「あぅっ…今日の夕方の便で…」
「チケット見せて…」
「あっ…こっこれ…」
「ふぅん…まだ間に合うな…。ソヌ君!これ、払い戻してきて!」
「かっ監督っ!それはっ」

ソヌ、近寄ってきてチケットを受け取る

「ジホさん、いじめ?」
「ちがうよぉソヌ君、今チョンマン君がいなくなるとミンギがとっても困るだろぉ?」
「…ミンギが困るの?」
「そう!あいつの映画だしね」
「…チョンマン君はアメリカに行けないの?」
「いや、もうちょっと撮影が進んでからさ…ふふん」
「…ミンギが困るのかぁ…」

とソヌ、チケットを胸にしまい、カツカツと出て行く

「あ…ああ…ソヌさ…ああっチニさん…あああっあああんあああんえええんええん」
「チョンマン…泣くな!映画人にはよくあることだ。こんな事に耐えられないでどうする!ん?僕が側にいてやる」はぐうううう
「あああんあああんチニしゃあああんうえええん」
「可哀相になぁ…あとでヨシヨシしてやるからここにいなさい!あーそれでですね、とにかくこのまま撮影続行しますんでよろしく」

「答えになってないんじゃないですか?」
「あー、今後その矛盾には、テソン君、キミが気づくという場面を入れます、mayo君と一緒にその矛盾に気づき、そして…くふふん…しっとりと」
「え…」
「しっとりとしたシーンも入れる予定です!」
「…mayoと…え…」目を泳がせるテソン
「ですので、皆さんは筋が多少おかしくても、演じ続けてくださいっそれが役者と言うものです!以上!…さ、チョンマン、こっちへおいで…」
「あうっあうっ…ぐすっぐすっ…」


離れて聞いていたドンヒとホンピョ

「なるほどぉ映画っていろいろな撮り方があるんだなぁ…なぁホンピョ」
「あ…うん…」
「どうした?元気ないな…また足ツボマッサージしてやろうか?」
「…うん…いい…」
「ホンピョ?」

ホンピョぼんやりとジホとチョンマンの後姿を見送る

「先生!」
「わぁっウシク…なんだい?」
「立ってるだけで一番かっこよかった」
「…何も発言できなかったけど…」
「ううん…とっても…セクシーだったもん…」
「こら…ここではダメだよ」
「…だって昨日の夜も撮影だったんだもんっ!ずっと甘えてないもんっ!ぐすん」
「…解った解った…じゃ、今夜ね」
「…くふん…」

ハグしあうウシクとイヌ

「あんたさあ、何しに行ってたの?意味解ってたの?」
「ああんラブぅ、僕発言しただろ?」
「…ミソチョノーレと会ってた?胸でなんとかって?何よそれ!」
「あうっ…それはあの子が弟に苛められてて…」
「ばかっ!」
「ああんラブゥ」

「ソクさんも何しに行ってたんですか?」
「あ…いや、人が集まってたからさ…」
「あんまりみっともない事しないでくださいね」
「僕はみんなの発言の口火を切ったんだよ!みっともないなんて!酷いよスヒョク!いくらおまえでも許せないっぷんっ」
「あっ…ソクさん…ソクさんって…」
「ふんっ!」
「そ…」
「しらないっ!」
「…ソクさ…ぐすっぐすっ…えええっええっええっソクさんは俺が嫌いになったんですねっ!ううっええええっ」
「…へ?」
「さようならっうわあああん…」バタバタバタ…
「あっスヒョクっスヒョクぅぅぅ」バタバタバタ…


「監督うぅぅ!なんで開けてくんないんですかぁぁぁっ!どうするんですかぁぁっ!辻褄どうやって合わせるんですかぁぁっ!」バンバンバン

「…ん…んん…んむっ…。っるせぇな…ちょっとまっててね…。ミンギ!今チョンマン君と相談中だから!」

「なんでチョンマンさんと2人で相談なんですかぁぁっ(;_;)」

「もうすぐ終わるからあっち行ってて待ってて!…ごめんごめん…続きを…んむむ…んん…」
「…ん…あ…あむ…」

ジホの背中に食い込むチョンマンの手…

「んもうっ!チョンマンさん食べちゃう気ですかっ!知りませんよ!もうっ!ああっどうしよううううっきいいっ」


誘拐再び  足バンさん

シェラトン・グランデ・ウォーカーヒルに向かうドンジュン。
手にはスヒョンが仕上げた携帯カバー。
ホテルが目の前に見えてきた時
黒い影がドンジュンの口を塞ぎ腹に衝撃がはしる。

黒い影に倒れ込むドンジュン。
横付けされる黒いベンツ、クラスE。

画廊。
テーブルの横に座り込みイヌの腕に抱きかかえられ目を閉じているスヒョン。
手には折れた編み棒。

「もう行けよ、イヌ、待ってる人がいるんだろう」
「でも…こんなACなおまえを置いていけない」
「頼む…帰ってくれ…でないと僕は…」
「スヒョン…それ以上言わないで…」

スヒョンの潤んだ目がイヌの目と絡み合う。
そろりとイヌの首に伸ばされるスヒョンの腕。
ふたりの唇がほんのわずか触れあった瞬間、
突如大きな音で開けられるドア。

走り込んできたウシクがふたりの間にダイブして割って入り
バランスを失ったスヒョンが転げる。

「ウシク!どうしたんだ!いきなり!」
「たたたったたたたたいへんですっっ!ドンジュンさんが誘拐されたっっっ!」
「痛ぇ…な、なに?ドンジュンが? あぅ…痛ぇ…」
「ウシク、何でおまえが?」
「そんなことどうでもいいでしょっ」
「で?彼はどこに?」
「車で連れ去られた!」
「い、行き先はっ?…あぁ痛つっ…」
「運転手に13番倉庫って指示してた!」
「13番倉庫?埠頭のっ?」
「よしっ!僕が行くっ!」
「ス、スヒョン…やめたほうがいい…」
「止めるなっ!」

画廊を出て車に乗り込み走り出すスヒョン。
そのすぐ後を追って急発進する車にはソヌとスヒョクの姿。

「ああ…行ってしまった…ばかなやつ…」
「先生、何かあるんですか?」
「あいつはACだけじゃないんだ」
「スヒョンさんのことじゃないですよ」
「え?」
「ふたりの関係です!何だかずいぶんいいムードだったじゃないっ」
「え、や、ウシク」
「そんなの聞いてませんからね!」
「や、これはその」

埠頭の13番倉庫の巨大な扉の前に呆然と佇むスヒョン。
そこに後ろから声をかけるソヌ。

「あなたは…」
「説明は後です。そこ、どいて」

倉庫の鍵部分を銃で吹き飛ばすソヌ。
重い扉を開けるスヒョク。
すかさず中に飛び入り…すぐに飛び出して来るスヒョン。

「どうしました?」
「いや…僕ちょっと…」
「さぁ行きましょう、スヒョク踏み込むぞ!」

冷凍倉庫の中を進む鋭い目のソヌとスヒョク。
青い顔をしてとぼとぼ後をついて行くスヒョン。

「どうしたんですかスヒョンさん顔色が悪い」
「申し訳ない…あぁ…僕は…」
「もしかしてあなた KZDS じゃないでしょうねっ!」
「ソヌさん、何ですか ケーズィーディエスって」
「寒冷地全然ダメ症候群」
「それってただの寒がりのことじゃないですか?」

「はーーーいっ!カァーーーット!オッケーっす!」

「ひぃぃぃんしゃむい~しゃむい~」
「だ、大丈夫っすかスヒョンさん、そんな気温下げてないっすよ」
「何で突然こういうことになるんだ!」
「や…何だか”冷凍”ってキーワードがいきなり出てきて」
「で、ミンギ君、僕っていったいどういう人間よ」
「スヒョンさんはミステリアスな」
「そういうレベル越えてない?」

「ミンギ君!何なのあのシーンはっ!」
「ウ、ウシクさん」
「イヌ先生に何させようっていうの!」
「だってジホ監督が…」
「まったく油断できない!」
「で、でもウシクさん、あそこで飛び込んで来るのはスヒョクさんのはず…」
「スヒョクに任せておけるわけないでしょ!」
「ウシク~さっきマジで腰打っちゃったよ」
「ウシク、まぁまぁ」
「先生もスヒョンさんも!ちょっと唇触れたでしょ!」
「僕そこまで指示してないっすよ~ハグだけっすよ~」
「じゃアドリブっ?」ジロリ
「「あぅ…」」

「ミンギ君、KZDS の発音悪くなかった?」
「い、いや、よかったっす」
「どうも納得いかないな、ズィーの部分、撮り直さない?」
「いや、もう次行きたいんっす」
「スヒョク君も、ね、納得できないでしょ?」
「どっちかっていうと僕は銃の音が気になって」
「スヒョクさんまでぇ~」
「本物用意できないの?銃」
「むむむ無理っすよぉ~ひぃん~」

その撮影の様子をモニターで見ているギョンビン。
横でパン屋のシーンのために用意された
フェイクのクリームパンをじっと見つめているミンチョル。

「ちらり」
「な、何?今回は叱られることしてないよ」
「スヒョンさんとイヌ先生のシーンでちょっとムッとしましたね」
「あぅ…」


リハーサル  ぴかろん

本編埠頭の13番倉庫シーンを撮っているミンギをよそに、チョンマンの腕を掴んで何事か説得しているジホ
通りかかったドンヒとホンピョ
ホンピョ立ち止まってじっと2人を見、つかつかと歩み寄る

「ジホさん…」
「んあっ?やあワラシ君、何?」
「…何してるんすか…」

挑むような目で二人を交互に見るホンピョ

「何って…ラストちかくの濡れ場の打ち合わせ」
「…濡れ場?」
「そ。チョンマン君と僕の」
「え…」
「それが何か?」
「…いつの間に…そんな仲に…」
「ちょっとホンピョ君、僕と監督はそんな仲じゃないし、僕は今お断りしてるんだしっ」
「…断る?なんで?いいチャンスなのに」
「おおワラシ君もそう思うだろ?」
「俺だったら覚悟を決めて全てを任せる」
「…ホンピョ君…」
「あんた、いやなら俺が…」
「ワラシ君、ワラシ君もやりたいの?濡れ場…」
「…やりたいわけじゃねぇ!」
「んーじゃ、2人相手にしよっかなぁ」
「「はぁ?!」」
「それいいなぁ、最初にワラシ君と絡んでて、スパイ達が入ってくる、見つかる、騒ぐ、スパイ達出て行く、次の部屋に行く、いくつか後の部屋でまたチョンマン君と僕が絡んでる、スパイ達入ってくる、「あんた…さっきあっちにいたじゃん、スパコーン☆」いいなぁ!それいい!頂こう!よしっワラシ君。君も濡れ場に…」
「俺、スパイの役ですけど…」
「あっそうだった…んーじゃあぁ、僕と絡んでて、踏み込まれて『おまえ何してんだっ!捜査に加われ』って連れて行かれるの…どう?」
「…」
「よしっ決まり!」
「監督、僕はいやですから!」
「何行ってんだよ、濡れ場シーンの一つや二つ、経験しないでアメリカ行く気?そんなんで彼女を落とせると思ってんの?!」
「…だって…」
「…だって何…」
「…監督のキス…濃いもん…」
「そうだ!ジホさんのキス、濃くておいしい…」
「ワラシ君!君はかわいいねぇイイコイイコ」

真っ赤になるホンピョ

「チョンマン君もワラシ君を見習うべきだな」
「…」
「よし、リハーサルしよう。逃げるなよチョンマン君」
「…」
「逃げたらスーツケースの隠し場所もチケットのありかも教えない…」
「ひどい!」
「じゃ、ワラシ君はこの部屋にいて。チョンマン君は隣の部屋だ」

ホンピョ、セットのベッドに座る
ドアを開けてジホが入ってくる

「ジホさん、俺…あむっ…」

いきなり濃厚なキスをかまされ、うっとりするホンピョ

「どこまで進んでる?」
「は…へ?」
「君の彼とはどこまで?」
「は…か…かれ?」
「いつもいっしょにいるじゃない…妬けちゃうな…」
「は…はふ…」

ジホ、ホンピョの首筋にキスしながらホンピョのシャツの下から手を入れる

「あ…やだ…やっドンヒっあ…んむっ…」

唇を塞がれるホンピョ


バタン☆

「お前何やってんだっスパコーン☆」

ドンヒ飛び込んできてホンピョの頭を殴る

「いてぇっ!何すんだよっ!」
「僕の名を呼んだろ?!」

2人が言い争っているうちに素早く隣の部屋に行くジホ

「なんであんな危ないおっさんに近づくんだよ!」
「…だって…」
「だってじゃない!何された!」
「…別に…」
「ホンピョ!」
「…リハーサルしてただけだよ…るせぇなぁ…」

ちょっと気まずい2人

その頃隣では…

「…ん…んむんむ…」
「…やめっ…あん…」

シャツのボタン全開のチョンマン、ジホに組み敷かれている

「んでこうやって見詰め合って」
「ちょっとやめてくださ…あ…」
「首筋でしょ?鎖骨、肩、腕…それから…」
「あ…ああっあっ…」
「んで…脇腹とか…おへそなんかも行って…もう一度唇に戻って…ん…」
「…んぁ…」
「…気持ちいい?」

泣いているチョンマン

「あれ…やりすぎた?ここらへんでスパイが入ってくる予定なんだけど…ん…んむむ…」
「ぐしゅっ…ん…」

ばたーん☆

「かんとくっ!勝手なことしないでくださいっ!」
「ありゃぁミンギかぁ…ワラシ君に入ってくるように言ってあったのにぃ…」
「ホンピョさんならドンヒさんと揉めてます!マジで!監督のせいですよ…ああっチョンマンさんっ…大丈夫ですか?」
「ううっううっ…」
「泣いちゃった?くふん…かわいいなぁ…うーん惜しいなぁワラシ君の驚いて嫉妬する顔も見たかったなぁ…ふふん」
「…ちょっと監督…」
「なに?」
「ちょっとこっちへ…」
「なんだよミンギ君」
「えいっ!」
「わあああっ!」

腰にピンクのゴムを取り付けられるジホ

「あうっやめてよ!ミンギくんっ」
「しばらくそこで大人しくしててください」
「あうっミンギぃぃっ」

縛られているジホを見つけたホンピョ、駆け寄ってジホの頭をなでなでする
チョンマンそれを見てジホの胸の前に手を出す

「何?チョンマン君…」
「…お手…」
「…」
「お手!」
「…ぅ…わん…」

お手をするジホ
満足げなチョンマン

「おかわり!」

真似して命令するホンピョ

「…わんっ…」

ホンピョの手のひらに手を乗せるジホ
満足げなホンピョ

三人なんだか満足そうに笑う…

「カーット!ちょっと…監督…このシーンは何のため?」
「コレクターズボックスの特典映像だよ!」
「俺もういいっすか?アメリカ行ってもいいっすか?」
「だめっ!本編の濡れ場が残ってる!」
「俺ももう、『切なそうにジホさんを見る』ってのやめてもいいっすか?ドンヒが落ち込んでて」
「だめっ!映画撮り終えるまでは役から抜けちゃダメッ!」
「「どーゆう役なんすかっ!もうっ!」」
「ふふん…僕がとってもモテモテの役…」
「監督ぅ…」
「なぁに?」
「我儘言ってると、ソヌ先輩みたいに吊るしますよ!」
「はふん…へへん…」

ちょっと嬉しそうなジホ
三人、ジホを睨みつけて

「「「お預け!」」」
「ひひん…」


ケンカ別れ  れいんさん

ホテルの一室
僕達二人だけが、その部屋に取り残されている


「さっきのあれはどういう事だ」
「だから、あれはただのリハーサルだって言ってんだろ」
「お前、自分からあのおっさんの相手役に志願しただろ?」
「るせえなっ!だったらどーだってんだよ」

「どういうつもりなんだ?」
「だーかーらー・・ただ成り行きでああなって・・」
「あのおっさんに何された?」
「んっと・・キスされた・・首筋とかも・・んで、シャツの中に手入れられた」
「そんな事までっ?・・おまえジホ監督が好きなのか?」
「なんだよ、たかが映画の中のワンシーンだろ?」

「そんな事されて、おまえ嫌じゃないのか?平気なのか?」
「・・・」
「なぜその時、僕の名前を呼んだ?」
「・・・」
「答えろよっ!僕はもうお前の事がわからないよっ」
「るせえなっ!ああ!そうだよ!俺はジホ監督にキスされてうっとりしたんだよっ!
大人ですっごく濃いキスだからなっ。誰かと違ってよ!」

「・・・だったら行けよ」
「え・・」
「とっととジホ監督のところに行けよ!」
「あ・・」
「寂しい時や困った時だけ僕を頼るのはもうやめろ!」
「ドンヒ・・」
「次からは慰めてもらうのは、ジホ監督にやってもらえ」
「あ・・ちが・・」
「二度と僕のところには戻って来るな!」
「ドンヒ・・」


「はい!カーーーット!お疲れさん!いいねぇいいねぇ、二人とも迫真の演技だったよ。モニターチェックする?
おお~涙目で、まだ役から抜けてない?いやいやいや~なかなかよかったよ!」
「あのぉ・・監督、これ、映画の本筋とは関係ないと思うんですけど、こんなシーンまで撮る必要が?」

「ん?とりあえず、撮っておくの。使わなきゃ、使わないで、カット集とかMVとか、色々売り出す方法はあるから」
「ったく、抜け目がねえおっさんだぜ」


「監督っ!何してんすか!こんな所で!」
「あっミンギ君・・」
「まったく!ゴムで縛られたまんま、隣の部屋からこっちまで来たんすか?」
「あははは。だってこれ、解いてくれないからさぁ・・
お腹に力入れて踏ん張って、前かがみに歩いて、こっちの部屋まできちゃったよ~結構体力つかっちゃった」

「大人しくしてて下さいってあれ程言っておいたのに!」
「そんな怖い顔で見ないでよミンギ君。・・あっ!わらし君っ!何するのっ!耳に息吹きかけないで~
お腹の力が抜けちゃよぉ~うわぁぁ~あーーーれーーーっ」


引っ張ってきたゴムの反動で、思いっきり隣の部屋まで引き戻されるジホ監督
それを見送る三人・・


「あ・・ジホ監督のサンダル、片方落ちてる・・。これ持って行きます・・じゃ、お疲れさまっす」


サンダルを、まるで汚物の様に指でつまんで、去って行くミンギ



「・・俺達も行こうぜ」
「うん。・・お前さ、さっきのシーン真に迫っててよかったぞ」
「そうか?おめえも涙なんか溜めてよお、ちょっとグっときたぜ」
「えへへ、そう?・・つい入り込んじゃってさ・・でもお前、あのセリフもしかして本気?」
「えっと・・何いってんだ・・にゃははは・・ほれ行くぞ」


くっついたり離れたりしながら、隣の部屋まで足早に歩く二人
そして隣の部屋でゴムに繋がれた監督に「お手」をするシーンへと続く・・


疑惑  ぴかろん

(通信室のシーン)

「へぇ…テソンさんって意外と忙しいんだ」
「何だよ、ぼけっとしてるとでも思った?」
「こんなにくだらない情報も受けなきゃいけないの?『猫がN字型に飛び跳ねた…何かあるんじゃないか』…誰ですかこの情報…」
「ああそれは…新人…」
「小汚いほう?」
「幅広ネクタイの方」
「へぇっそうなんですか…」
「彼はどんな小さなことも見逃すまいと頑張ってる。ただ…そのせいで大きな事を見逃しがちなんだ…」
「…ほほぉ…で。小汚い方は?」
「今ちょっとなぁ…」
「ん?」
「呆けてる…」
「へぇ?どうしてですか?」
「恋」

どきっとするギョンビン

「わずらいかもね…」

表情を見逃さないテソン

「ふ…ふぅん…」
「ところでギョンビン」
「はははい」
「どうして君はあの情報を得たの?どうして画廊のオーナーに単独で会いに行ったの?」
「…だから…さっき言ったとおり…」
「君とミソチョノーレ君との関係は?」
「…ただのお友達ですよ…」
「…小さい子供とお友達なんだ…」
「…え…ええ…子供好きなんです…」
「ふうん…」

そわそわしているギョンビン

『エロミンからストーカーへ、エロミンからストーカーへ、応答願います』
「こちら本部、ギョンジン、その『ストーカー』ってコードネーム、やめてくれない?」
『どうでもいいでしょ?それより大変です。たった今『銀狐』と接触しました』
「なに? 『銀狐』と?『イ系』ではなく?」
『はい…すみません、テソンさんの他にどなたかいますか?』
「いるよ、兄さん。『銀狐』ってなにさ…気になる…」
『おおっスーパーエロミンじゃないかっ!』
「…にいさん…」
『まずいな…』
「何がまずいの?まさか『銀狐』って僕の彼じゃ…」
『おおおっお前の彼氏は『金狐』でしょっ!僕の言ってるのはっ『銀狐』ですっ!』
「…怪しいな…」
『とととにかく…『銀狐』は犯人らしき人物を知っているかもしれないふしがあるようなないような…』
「あやふやだな、ギョンジン。もう少し調べてくれ」
『ラジャ』ちっ

「テソンさん…、兄さんは外に出てるんですか?」
「…。ボスからの命令だろうな…」『馬鹿なんだからっ!ギョンビンがここにいる事解ってるだろうに!ほんっと抜けてる野郎だよ!』
「なんか隠してませんか?」
「隠してる?それなら君の方も何か隠してないか?ん?」
「…僕は…何も…」
『『あやしい』』

「ともかく、そのうち君にも出動命令が下ると思うから、勝手な単独行動は控えるようにね…。今回の事件は複雑なようだ…。仲間うちにスパイがいるかもしれないって噂がある…。一人で派手に動くと…君、ヤバイよ」
「テソンさん!そんな!」

ピリピリしたムードが漂う通信室

奥からインカムをつけた闇夜がやって来る

「ん?何?mayo」
「…」
「んなこと自分で言えばいいのに…」

首をブンブン横にふる闇夜
くすっと笑い、こっそり闇夜の小指を握るテソン
ギョンビン、しっかりそれを見ている

「ギョンビン、出動してくれ。○×通りでシェラトン・クランデ・ウォーカーズヒルを張り込んでいるギョンジンと合流して『銀狐』の知っている情報を吐かせろ」
「え…にいさんと?」
「そ…。懐かしいだろ?2人で組んでくれ」
「…わかりました。『銀狐』は気になるキーワードですからね…」

立ち上がるギョンビン
見つめるテソンと闇夜
得体の知れない空気が通信室を取り巻く…


「カーット!いいなぁ…ゾクゾクしちゃう。素敵でしたよギョンビンさん」
「ねぇ…ほんとに兄さんと張り込むシーンとか撮るの?」
「はい」
「『銀狐』って彼の事でしょ?」
「はい」
「…兄さんと僕が彼を取り調べるの?」
「そうですよ」
「…なんか…やだな…」
「ギョンビ~ン…くふんっ次のシーン楽しみだねっ(^o^)」
「…僕は別に…」
「なぁんでさぁ…懐かしいな、二人で並んで街を歩くの…。女の子たちがキャーキャー言ってたあの頃を思い出すなあくふん」
「…僕はもう女の子なんて…」
「ああん僕だってぇん、ラブがいればなぁんにもいらないっくふっ」
「…にいさん…」
「なぁにぃ?」
「…顔、緩みきってる」
「そぉお?くふふん。だって幸せなんだもーーん」
「…」
「…。はいっ次のシーン、かっこよくお願いしますよっ…はぁ…」


誘拐その3   ぴかろん

「エロミン、応答せよ」
『なんですか?キャンドル』
「キャンドル?」
『蝋燭好きでしょ?』
「…好きに呼んでくれ。それより『厳格王』がそちらに向かった。二十分ほどで君と合流予定だ。よろしく」
『厳格王…ああ、弟ね。えっ。こっちに来るの?!大変だっラジャ』ちっ
「何が大変なのさ…」
「…銀狐と金狐…」
「…いいじゃない別に、同じ人なんでしょ?」
「…銀狐の秘密が…」
「あっ!mayoったらエロミンにマイク仕掛けた?」
「基本でしょうが!」
「…2人になるとなんでそんなイキイキするのさ…」
「…」

「もしもし?僕、そう。兄。ん、銀狐でカクカクしかじかで弟が来るって。会いたい?え?まずい?なんで…。いいじゃんもうばらしちゃえば…ね?でも最初に銀になっててよ。じゃ、後でね。うん、ご褒美にくりいむぱんとちょこぱんあげるから。ちゅっ」

「…ぺっぺっ…ちゅっなんてミン以外の男と…くうっ…。それにしてもミンが来るなんて…どうしよう…。ああ僕の秘密を…。それに銀…。銀…」

悩むミンチョル

トントン

ノックの音

「早くないか?!ドキドキ」

カチャ

「よう」
「イ…イナっ」
「下でお前のメッシュの髪を見つけたんでな。どうせ最上階スウィートだと目星つけてやってきたらドンピシャ…」
「…なんの用だよ…」
「…フフン。これ…差し入れ」
「え…」
「好きだったろ?ニューヨーク・チーズケーキ」
「イッイナッ」はぐううう
「みみみミンチョル…なんだよいきなりっ」
「…有難う…今コレが必要だったんだ」

そう言ってニューヨーク・チーズケーキのホールを貪り食うミンチョル

「馬鹿!そんな風に食うとお前…」
「いいんだ…銀髪になんなきゃいけないんら…。あとは」

ガサゴソ
引き出しからチョコを取り出し貪り食うミンチョル

「お前っ!やめろっミンチョル!」
「いいんら…必要なんら…あとは…」

鏡の前で髪のわけ目を変えるミンチョル

鏡に映ったその姿は、銀髪で青い瞳…

「あーあ、第二段階まで変身しちゃって…」
「助かった…イナ…じゃ…帰ってくれ」
「ななななんだよっ何で追い出すあっ…ミンチョル!ミンチョルぅ」

追い出されるイナ

食い散らかしたチョコとチーズケーキの残りを、名残惜しそうに見つめるミンチョル



エレベーターの中のミン兄弟
「銀狐って僕の彼じゃないの?」
「ちちちがうよ、銀髪で青い目なんだっ」
「…銀髪?」
「そそそう」
「…大人?」
「…のはずだよっ」
「怪しいな…何か隠してるだろ、兄さん」
「かか隠してなんか…。そそそういうお前こそ、何か隠してるんじゃないのか?」
「…」
「ギョンビン…僕にならいえるだろ?兄弟じゃないか」
「…兄さんのような色ボケには何も言えない、いや、言わない!」
「…ギョンビン…それは言いすぎだろう?」
「確かに兄さんはかつて優秀だったさ。エロいだけじゃなく、ちゃんと任務もこなしてた。僕の憧れだった。でも今は…」
「僕の幸せを喜んでくれたじゃないか!」
「…そう。喜んだよ。兄さんの恋人をBHCに迎える事にも賛成した。なのに兄さんは僕の彼を迎える事には反対したじゃない!」
「だってお前の彼、向いてなさそうなんだもん…」
「…そんなことないさ!彼は…いろいろと…有能なんだ…」
「有能だろうけど、でもスパイ向きじゃないさ!」
「兄さんは知らないだけなんだ!彼は…」
「…甘いものに弱いんじゃないのか?」
「うっ…どうしてそれを…」
「お前が厳しすぎるから彼は…。いや、よそう…」
「なんだよ!何を知ってるんだよ兄さんっ!」
「彼は」

ガクン
エレベーターが突然止まる

「なんだ?」
「故障かな…」
「まずいな…。銀狐が危ないかもしれない」
「えっ…」


緊迫した空気が流れるエレベーター内



ピンポーン

「来た…」

銀髪、青い目のミンチョル、無防備にドアを開ける

「いらっしゃ」ドスッ☆

脇腹を殴られ気絶するミンチョル
どこかへ連れ去られる…

「カーット。いいっすねぇミンチョルさん、かっこいい銀髪ですっ」
「ねぇ、貪り食い方、少なくない?ホール全部食べた方がすっきりしない?中途半端だよ、五分の三食べたら銀髪になるなんていう設定…」
「おれもたべたかったのに…」
「だめっ!後で紅茶と一緒に食べるんだから…」
「何言ってるんですかっ!冗談じゃない!一体どれだけ甘いものを食べさせる気だよミンギ君!」
「あ…しかたないですねぇ役者だもの…。それより少し悪役っぽいギョンビンさん、かっこいいです」
「うん、かっくいーミン」
「ギョンジンはかっくわりぃな」
「なんだよっ今からのシーンが兄弟対決でかっくいーんだよっラブゥ見ててねぇっ」
「ねぇミンギ、mayoと僕のしっとりって…あれだけ?」
「はい」
「ええええっ!そんなのってぇっ」
「…これ以上やるとヌナが怖いんで(^^;;)」
「ちぇぇぇっ!」
「でもテソンさんかっくいいっすよ。はいっ次のシーンいきまぁぁす」


愛ゆえに… ぴかろん

(通信室のテソン、闇夜、そしてチェミボス)
「だからなんだって?」
「ボスがラブとギョンジンに渡した紙袋の中身…糸の太さはどんなのでしたか?」
「…そうだな…太かった。かなり…」
「極太…。ソヌとスヒョクが乗り込んだとき、編んでいた糸は極細…」
「ッてことは紙袋は2つ?」
「…ボスに紙袋を渡したのは誰ですか?」
「…始めにいつも物欲しげにくりいむぱんをみつめているあの、ミンの彼氏にそっくりな子が来て、指をくわえてくりいむぱんを見つめていた。
それはもう怖いぐらいに…。そこに画廊オーナーの愛人、もしくは鷹、もしくは悪魔が来て、その子は紙袋を愛人に渡した。愛人は困った顔をして俺のところに来て、『僕は今から行かなきゃいけないとこがあるので、これ画廊に届けて』と言ったんだ。
そして子供がくりいむばんとちょこれーとぱんを十個ずつトレイに載せて、ヴィトンの財布からお金を出し、背伸びして俺にこう言った。
『みすたーえぬのひみちゅがわかるんらって』と…」
「…。愛人もグルか?」
「いや、愛人の後をテ…けほっ…街のチンピラにつけさせたが、車のパーツを買いに行って熱心に2時間、ホイール売り場から動かなかったそうだ。その後画廊に帰っている」
「…。極細の毛糸は…子供…ミソチョノーレが画廊の戸口に置いたのかな…。その、変な顔の野郎に脅されて…」
「『秘密をミンにばらされたくなかったら…』とか?」
「…プライドの高い子供…いや、彼氏らしいからな…」
「ミンはスパイではない?」
「多分違うでしょう…ただ…」
「ただ?」
「愛しすぎている…」



「カーット!いいっすねぇ。ビンビンスパイらしさが伝わります。続けてエレベーターシーンいきましょう」
「ちょっとミンギ君、彼がパンを十個ずつ買ったっての、それは」
「ああそれはセリフだけっすから。食べさせてませんし。ちゃんとギョンビンさんの指示どおり、フェイクにしてます」
「お願いだよ。今日はもうチーズケーキ半分以上も食べてるんだから!」
「…わかってます。その分ミンチョルさんのお弁当はナシにしましたから」
「ああ…栄養のバランスが…」











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