mY HEART DRAWS A DREAM

序笑


 三流ホラー小説のような台詞を、まさかこの口から言う事になるとは、この街に来るほんの数時間前までは考えもしなかった。
 この街に取材にきた、藤平 敦史は、そう思った。
 夜霧島。
 数年前までは、有名なリゾート地として、観光客で賑わっていた街。しかし、ある奇妙な事件が何度も繰り返されるようになってからは、寂れてしまい、今ではもう、人影がほとんどない街になってしまった。
 人影?一応はあるが・・・
 編集長から、その奇妙な事件について取材してこいと言われて来たのに、まさかこんな事になるとは・・・。
 「軽く取材して、すぐにこんな薄気味の悪いところからはすぐにでていく予定だったのに、一体何処で狂った?」
 藤平は、自嘲的な笑いを漏らしながらいった。
 汗ばんだ手には、金属バットを握りしめている。
 ム奇妙な事件。それは、事件と呼べるものなのか。いや、もっと酷い。事の始まりは、ある家で起きた。
 狂ったような笑い声。それしか聞こえなかった。と、当時の目撃者は口を揃えて証言する。
 一人の男がドアを破って、その家に入ると、凄惨な光景が広がったという。
 血、血、血。壁にべたりと張り付いた血糊。それ以外には・・・。
 何も無かった。
 まるで、この家の中には、何もいなかったとでも主張するように。ただ、血の染みだけ広がっていた。
 それから、同じような事件が夜霧町で何度も起きた。
 事件には、共通する点があった。
・・・狂ったような笑い声。それだけが聞こえる。そして、血だけが残った。ム
 事件について考えていたとき、後ろで物音がした。・・・そして、笑い声。
 ケラケラケラケラ。ケラケラケラケラ。
 妙に高い、その声は、確実に背後に迫っている。
 藤平は声にならない悲鳴をあげ、無我夢中にその場を走り去る。ケラケラケラケラケラ。笑い声が追いかけてくる。
「もういい!」
 諦めたように振り向き、バットを構える。
 そこには、藤平はもう何回も見てしまった、異形の者がいた。
 形だけは人だった。だが、人ではありえない。
 顔の部分には、無気味な笑みを浮かべた口。しかし、目があるはずの所には、あるべき物がない。眼球が無いのだ。そして、そこからは、どす黒い血がどくどくと溢れている。身体の関節はあらぬ方向へとねじ曲がっており、どうやって動いているのかはわからない。
 「はぁ・・・。ありえないだろ!」
 そう呟きながら、藤平はバットを振りかざした。
 ガッ!バキ!
 「ぁあああ!」奇声をあげつつ、藤平がバットで、それを殴る。
 怖い、怖い、怖い、怖い、怖いぃ!
 ガッ!ガッ!
 それを殴りながら、藤平はいつしか、笑い声をあげているのに気が付いた。それも、あの奇妙な笑い声を。
 藤平は急に殴るのをやめて、バットを持った手の力を抜いた。
 振り向いた藤平の顔には笑みが浮かんでいた。そして・・・、眼が地面にポトリと落ちた。ケラケラケラケラ・・・。藤平の口からは、笑い声が途切れることなくもれていた。


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