山田維史の遊卵画廊

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☆Tadami Yamada's Works: ブック・カヴァー選集



それではご紹介いたします♪

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《花輪莞爾著作本》

 花輪氏のブック・カバーは、『悪夢「名画」劇場』が一等最初である。行人社の淺沼伊和男氏(現・工房ヌマ主宰)が花輪氏と私を結び付けてくれた。以来、花輪夫妻とは25年のおつきあいをさせていただいている。
 花輪氏関連の仕事は国際的評価も得ている。「悪夢---」はスイスの“graphis annual 83-84”が1983年度秀作として選定収録し、カナダの“Studio Magazine”からも受賞した。「悪夢2」も1992年にニューヨークのArt Horizonsから褒賞をもらった。また、「猫鏡」はブルノ・グラフィック・ビエンナレで選定展示され、同展カタログの中に1頁大で掲載されている。
 「石原完爾独走す」は、新潮社装幀室とのコラボレーション。花輪氏は雑誌連載原稿を毎回送ってくださっていたので、私は装丁とはかかわりなく早くから沸き上がるイメージを試作していた。使用原画はその試作品にあらためて手をいれたもの。半立体(レリーフ)である。鉛で作ったコンパスを砂に埋めてアクリル樹脂で固め、油彩をほどこした。デザインをしてくれた新潮社装幀室の仕事は、たとえば、タイトルの漢字のヒゲ部分をサブタイトルのカコミの中にほんの少し入れ込み、両者の一体感を出すなど、神経のいきとどいた仕事だ。こういうコラボレーションは本当にうれしい。
 「坂本龍馬とその時代」は、本の判型と絵の四角、絵のなかの龍馬の写真の四角がほぼ相似形で、全体として龍馬に収斂してゆくというアイデア。絵のなかの茶碗は、龍馬の遺品を写した。椿を一輪挿した。椿は花冠がポロリと落下し、斬首を連想するので武士が嫌ったといわれる。私は、龍馬の死を暗示するとともに、手向けとして添えた。彼の視線は世界に向いている。


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《折原一著作本》

 折原氏のブック・カバーは「七つの棺」が最初。ミステリ・ファンは先刻ご承知のように、折原氏はディクスン・カーの名うての読み手でもあり、「七つの棺」はカーの「三つの棺」へのオマージュでもある。そんな前提で、この装幀は東京創元社の刊行であるが早川書房版の「三つの棺」のカバーの自己模倣だ。これは私の意志ではない。たしか東京創元社の戸川氏を通じて、折原氏の依頼ではなかっただろうか。
 次の「模倣密室」。ウ~ン、密室を描けというのは絵かきに対する挑戦だ。なぜなら、密室というのは内部から閉鎖されているのであって、外部からいくら頑丈に錠を掛けても、密室とは言わない。ブック・カバーは読者に向けて外に開いているものでしょう? いくら描いても密室にならないのです。
 それで私はどうしたか。読者を密室に閉じ込めることにしました。無限の広がりの部屋にいる読者ですね。まず鉄板をはりめぐらしたドアに鎖錠を掛け、本を表裏ともにぐるりと囲みました。そして鉄格子の小窓をうがち、青空を見せました。これで密室の完成。おわかりですか? 本の内部に青空を頂く外部があるのです。ね? あなたは(ごめんなさい、当然死体としてですよ)、密室に閉じ込められているのです。
 書店で実物をご覧ください。オモテ表紙もウラ表紙もぐるりと鉄板で取り囲んであります。ついでながら、この厚い鉄板をはりつけたドアですが、私がニューヨークで見たアパートのドアがヒントなんです。


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《篠田真由美著作本》

 新宿の喫茶店で東京創元社戸川氏と篠田氏にお会いしたとき、篠田氏は東京創元社がスポンサーの鮎川賞を受賞したばかりで、まだある会社の社員としていわば二足のワラジをはいていた。お話をうかがって、篠田氏が海外見聞をもとに西洋城館建築や庭園について豊富な知識をもっていることが分った。私もまたそういう方面にそぞろ胸騒ぎを感じるほうで、いつもながら戸川氏の触覚の鋭さには本当に感心してしまう。
 そのときカバーを依頼されたのが「琥珀の城の殺人」。〆きりは7月半ばで、それまでには2ヵ月ほどあった。ところが私は6月半ばからニューヨークの展覧会に出品していて、渡米することになった。その滞在が1ヵ月におよび、ある日、ニューヨークのホテルに家人から電話がはいった。「戸川さんが早く帰って来てと言っている」とのこと。私はもうぎりぎりだという日にホテルを引き払い帰国、文字どうり旅の荷も解かずに篠田氏のカバーに取りかかった。構想はできていたので迷いはなかったが、青いトーンで雪を表現するのにちょっと下地の準備が必要だった。2日後に、赤坂で戸川さんに会って原稿をおわたしした。


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《二階堂黎人著作本》

 二階堂氏もディクスン・カー読みを誇ってはばからないことは、知る人ぞ知る。折原氏とはなかよしだから、折原氏のカー好きを紹介して二階堂氏のことを紹介しないでは、つむじを曲げられるかもしれない。なにしろ、折原氏が東京創元社版に使用した『皇帝の嗅ぎ煙草入れ』の原画を購入してくださり、それを聞き付けた二階堂氏が憤慨したそうなので、ここはくれぐれも平等に----。
 というわけで、原書房の『増加博士と目減卿』のタイトルは、もちろんカーのつくり出した名探偵のパロディー。編集者の石毛力哉氏から、カバーもパロディーで、と依頼された。それでこれも自己模倣となった。
 講談社文庫のほうは、それまで二階堂氏のブック・カバーを担当されていた辰巳四郎氏が亡くなられ、私が代りをつとめることになった。しかし、じつはこの依頼、私のほうに受取り方の勘違いがあった。『悪魔のラビリンス』1册きりの代打だと思ったのだ。ところが入稿後に、二階堂氏のホーム・ページで、氏は蘭子(探偵)シリーズ全部をオファーしたのだということを知った。これにはびっくりした。エッ、そうなの!!??
 まァ、こういうときは大抵口にはださないものだが、「二階堂さんごめんなさい。勘違いしてました」

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 以下、サンリオSF文庫や早川書房イギリスミステリ傑作選シリーズ、泡坂妻夫氏の本、私の仕事では異色な宇能鴻一郎氏の初期短編集『花魁小桜の足』など、月に一度くらいのペースで順次入れ替えてゆきます。どうぞお楽しみに。


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