「教会の卵」(The Egg of the Church)と題されたアンドレ・ブルトンのフォト・モンタージュは、画面のどこにも卵の形象が見えない(図20)。 中央奥に司祭帽をかぶった顔、その前に女がひとり、挑発的な姿態を誇示して、あたかも捧げ物のごとく、半ばよこたわっている。女がよりかかっているのは司祭の儀杖である。 この題名の由来は何であろう。 「純潔な魂を持った処女は、キリストの婚約者となることができる」と言ったのは、4世紀の聖メトディクスだが、この言葉を支えているのは、女性は色欲の誘惑によって悪徳を具現し、信仰否認の手先として悪魔に近い存在である、という信念だ。公会議では女性を「サソリの毒」「悪意ある性」等々と呼ばわり、残虐な拷問を科した。つまり教会にとって女性は「魔女の卵」だったのだ。 ブルトンは、副題にLE SERPENT(蛇)と書き入れている。蛇はエデンの園の誘惑者であるが、この仏語(英語も同じスペリング)は、悪魔と同義でもある。彼はこの作品で、エロティシズムとは、禁止と侵犯との親密な関係により保証されていることを示しているのである。