重症筋無力症とは…。
“筋無力症”と言う言葉は、生理的範囲を超えて“疲れやすい”“筋肉の力がひどく弱い”
事を意味するラテン語を日本語読みにしたものである。
つまり、自分の意思で動かしうる筋肉の力が全体または部分的に弱くなる疾患である。
原因は末梢神経の接合部分で。神経の刺激が筋肉へ伝達される過程に欠陥があるために起こる。
この部分を“神経筋接合部”と言う。
正常では、筋肉への神経が刺激されると、化学的伝達物質(アセチルコリン)が
神経末端部に放出され、筋肉は収縮して生理機能を果たしている。
この“接合部”にはアセチルコリンを分解する酵素コリンエステラーゼがあり、
アセチルコリンとコリンエステレラーゼのバランスが何かの原因で崩れると発病する。
重症筋無力症の神経筋伝達機能障害は、神経の伝達を妨害する接合部(アセチルコリン受容体)の
形態異常や免疫抗体生鮮による障害で説明されるようになった。
重症筋無力症には、胸腺の異常やリンパ球の異常が見られ、各種の免疫抗体が証明され
他の自己免疫疾患(エリテマトーデス、橋本病、筋炎、シエグレン症候群、リウマチ、強皮症)の合併が見られること
免疫抑制剤が有効な場合が多いことから、自己免疫疾患としても研究され、これと神経筋接合部の伝達障害との関係が
明らかである。
重症筋無力症について
重症筋無力症の徴候・症状
●眼球が動きにくく、外斜視になりやすい
●物が二重に見える(複視)
●顔の表情がなくなる(笑っても泣顔になってしまう)
●顔面の筋肉を動かすのが困難になる
●瞼が下がる(眼瞼下垂)
●咬んだり、飲み込んだりするのが難しくなる(むせる)
(咀嚼困難、嚥下障害)
●声が不明瞭で、しゃべりにくくなる(長い時間はなせない、声が鼻に抜ける)
●呼吸困難がある(息苦しい。クリーゼ)
●首がすぐ下がってしまう
●腕や手の力が弱くなる(バンザイが出来ない)
●指を広げるのが困難である(握力が落ちる)
●足の力が弱まり、立ったり座ったりすることが出来なくなる
このうち、眼の症状で始まることが多い。
また同じ患者でも、ときによってその症状の程度と部位がかなり
変わることが多い(症状の変動)
症状を悪化させる因子
筋肉の脱力は、過労、運動のしすぎ、感情の乱れ、ストレス、寝不足
風邪等の呼吸器感染症、女性では月経前期にひどくなる。
抗生物質の服用、精神安定剤や筋弛緩剤の飲みすぎでも悪化する。
しかし、これらの症状や脱力の増加は、一般に一時的なことが多いので
必ず医師に相談し適切な指示を受けることが出来る。
筋無力症の治療
まず第一に抗コリンエステラーゼ剤による療法が行われるが
最近では胸腺に異常があったり、その他の免疫学的異常があったり、
重症では抗コリンエステラーゼ剤無効の場合には、プレドニンゾロン
(副腎皮質モルモン)やACTH(下垂体ホルモン)による療法が効果的で
あり、さらに拡大胸腺剔出術の有効率は高く、胸腺コバルト照射も
行われる。さらに難冶例には血漿交換法が有効である。
重症筋無力症と胸腺
胸腺は胸骨の裏側にある内分泌腺である。胸腺は小児期には発育に関係し
外部からの進入物質に対抗する免疫の役割割を果たす。また、感染症に
対し抗体を作って防衛すると言う意味でも重要である。成人になると
胸腺は萎縮、消失し脂肪に変わるが、成人の筋無力症患者では、しばしば
胸腺に腫瘍や過形成(肥大)を生じる。この結果、自己の組織に対する抗体
(自己抗体)を作ることもあり、前に述べたアセチルコリン受容体に作用して
神経筋の伝達を妨げる、つまり自己免疫疾患としての重症筋無力症を
発症することになる。
胸腺剔出術・コバルト照射法
胸腺摘出術は術式の進歩(拡大胸腺摘出)によって、年齢の如何を問わず
良い結果を見ることが多い。一般には胸腺は腫瘍化した場合より過形成の
方が手術結果が良い。エックス線による胸腺の異常の発見は、CTスキャン、気縦隔撮影法で
意味ごとに区別できるようになった。手術は積極的に行われ予後も非常に良くなった。
術後に徹底を期するためコバルト照射を行う場合もある。
血漿交換法
薬剤に抵抗する場合、クリーゼを反復する場合、免疫抗体を除去を要する場合などに
血漿交換を行うと、劇的に効果を示すことがある。血漿交換には超遠心法、膜分離法の他
最近では吸着カラム法により、必要な部分だけを交換できるようになった。
筋無力症の治療薬
抗コリンエスレラーゼ剤としては、プリドスチグミン(メスチノン)
アンペノニウム(マイテラーゼ)、ジスチグミン(ウブレッチド)
プロスチグミン(ワゴスチグミン)などが使用されている。
副腎皮質ステロイドホルモン(漸増法、漸減法があり、急性増悪期には
メチルプレドニンゾロンによるパルス療法も効果を挙げる)やACTH
葉前述の場合に用いられ、その他の免疫抑制剤としてエンドキサン、
イムラン、6-MPなども補助的に用いられる。
また塩化カリウム、抗アルドステロン剤、エフェドリンが用いられることもある。
この病気の発病が38年と言う長い闘病生活の始まりでした。