のんびり生きる。

のんびり生きる。

人の言葉はもう額面どおりには受け取れない


「ああ。あの女を図書館に連れこんでぶん殴りながら、ひとつも痕跡を残してないんだからな。とにかく―」マットはアイスティーをすすった。「―計画性があることはまちがいない。だいいちあのベータのやつが、愛欲のはての衝動殺人で犠牲になるなんてありえないだろ?」マットはさも愉快そうに脚をぴしゃりとたたいた。
「ぼくはいつも、この町じゃきみは相当頭の切れる人間のなかに入ると思ってるんだ」そういうってぼくはかすかに笑い、すぐにつけ加えた。「きみがやったのかもしれない」
 そういわれて、マットはじっくり考えこんでから答えた。
「ああ、たしかにやっても不思議じゃないな。だがあの女は一撃で殺されたそうじゃないか。おれにはそこまで速くバットは振れないぜ。一撃じゃとても無理だ」
 ということは、人が何度も殴られて殺されるところを、前にも見たことがあるのだろうか。


                       「図書館の死体」109頁




「そんなことばかりいってると自分の首を絞めることになるわよ」ユーラ・メイは諭すようにいった。「自分の無実を証明しようと動きまわる人間ほど、怪しい者はいないんだから」

「今日はとんでもない朝だったわね。知り合いの死体を、自分の職場で発見したんですもの。ショックも大きかったでしょう。よく耐えたと思うわ。だけど、自分で犯人を見つけないと、じきに自分が逮捕されてしまうなんて考えちゃだめ。そこまで気に病んでたら、体によくないわ」
                         「図書館の死体」135頁




「ちゃんと帰ってきてよね」とマークはいった。
「心配するなよ。女の人の家に泊まるわけじゃないから」
「そんな意味でいったんじゃないよ、ジョーディ叔父さん。逮捕されないようにってことさ」
                         「図書館の死体」150頁



 けれども、なんやかやいっても、やっぱりミラボーはぼくの故郷である。少年が故郷を出ていくことはあっても、少年の心から故郷が出ていくことはない。
                         「図書館の死体」156頁


「だから、だいじょうぶって声をかけてみたの。最初は答えてもくれなかったけど、しばらくして、ああ、だいじょうぶだ、っていうから、わたしもだいじょうぶだろうと思って、帰ってきたのよ。でも、なんだか妙な気分だったわ。病院で仕事をしてると、ときどきあんな顔を見るの。愛する人が死んだとか、もう手遅れだとかって聞かされた人の顔よ」
                         「図書館の死体」165頁


しかし、母さんは質問されるのが好きじゃなかった。答えられない挫折感を味わうことが多いからだ。
                         「図書館の死体」172頁



・・・・・・・・・・・・・・・ボストンでぼくが働いていた出版社ブルックス・ジェリコーの友だちからも何度か電話があって、そのたびに、気が変わってないかと訊かれる。さりげなく母さんの具合を確かめ、ボストンに戻る気はないか、というのだ。彼らだって、いつまでも電話をかけてきてくれるとはかぎらない。母さんが亡くなったら、その先ぼくはいったい、なにをするんだろう? もしかしたら来週にもそんな状況が来るかもしれないし、あるいは二十年先のことかもしれない。だがぼくの出版人としての生命は、二十年先にはもうないだろう。病気の親の面倒を見る決意をするというのは、そういうことなのだ。自分自身から自分という人間をはぎとり、かわりに自分が生活をなげうって尽くす病人の、ゆがんだ鑑に映ったイメージを、この身にまとうことになるのだ。ぼくもいつか鏡を見て、そこに自分ではなく母さんが映っているのを見ることになるだろう。
                        「図書館の死体」176頁



 ぼくはペンで紙をとんとんたたいた。最後の疑問点は、ふたつとも目のつけ所がいいものだった。
                       「図書館の死体」181頁




 ぼくはコーヒーを飲み終えた。たしかにチェルシー・ハートは、不細工かもしれない。けれども自分をしっかり持っている。そのことがいつか彼女に、ただの美人よりもはるかにプラスに働いてくるはずだ。
                       「図書館の死体」213頁




 ぼくはある疑念を確かめるため、裏づけを取ってみることにした。人の言葉は、もう額面どおりには受け取れない。
                       「図書館の死体」226頁


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