のんびり生きる。

のんびり生きる。

それは原則の問題だと



 母はそれを遠回しに言った。「ラジオがひとつすごく欲しいんだけどさ、なかなか買えなくてねえ。まあ誕生日まで待たなくちゃならないとは思うんだよ。これまで持っていた小さなラジオだけどさ、あれ落っことして壊れちゃったんだ。ラジオがないと寂しくてねえ」ラジオがないと寂しくてねえ。電話で話しているときに、彼女はそう言ったのだ。手紙のなかでも母はそれを持ち出していた。

 とうとう最後に僕はーなんて言ったっけな? 僕にもラジオなんてものを買う余裕なんてないんだと言った。手紙にもそう書いた。僕の言い分がはっきりと正確に理解できるように。(省略)

 でもそれは嘘だった! その気になれば、僕はもっと金を渡すことができたのだ。できないなんて口先だけのことだった。(省略)


 いずれにせよそれくらい何とかすることはできたのだ。だってたかが四十ドルじゃないか。でも僕はそうしなかった。僕は金なんか出すまいと思った。それは原則の問題だと僕は思ったのだ。とにかく僕は自分にそう言いきかせた―これは原則の問題なんだと。
 立派なもんだ。
 それでどうなったか? 母は死んでしまった。死んでしまったのだ。(省略)


                    「メヌード」223頁


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