のんびり生きる。

のんびり生きる。

思うように彩られなかった過去と



深い雪を夢心地で押し進み

凍る岸壁に根気よく足場を作り

力学的に曖昧を許さぬ登行を続けて

やっと辿り着いた岩峰は

息もつけない横なぐりの風だ

私たちは互いに綱をたぐり寄せたが

怖い顔して交わす言葉もなく

力いっぱい踏張っているだけだ

私たちの努力はたたかいでもなく

征服でもなかったことを頻りに考える

思うように彩られなかった過去と

遠く続く雪原のような

ただ純白な起伏である未来との間に立って

孤独な洗礼をめいめい経験しながら

壮麗な殿堂を心の中に築いている

            串田孫一著『山歩きの愉しみ』 詩篇二七七頁


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