第14話

『第14話』  作:NASUBさん



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アストロンの指輪 の効果が切れたリザード万太郎にレイ持ちパラ・極道剣士が襲い掛かる。

「もうダメか!」と思われたその時、万太郎を助けたのは謎のブードゥー装備バルキリー、シティスだった・・・。



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もう動くことの無い極道剣士の骸(むくろ)。

俺の命を助けた純白の天使・シティスの左手には、大振りの短剣・スティリットが握られていた・・・。


「お前も、敵・・・!?」

「さぁ、どうかしらね。」


彼女の一振りが俺の身体に襲い掛かる・・・!



(やられ・・・る!)



キィィン!


金属のぶつかり合う音が坑道内に響く。

俺の足元に一本の弓矢が叩き落とされる。

誰かが俺をこいつで狙っていたのか。全く気が付かなかった・・・。


恐らく相当の手練(てだれ)が放ったであろうこの弓矢。

それを・・・シティスの短剣が弾いた?



「くそっ・・・!」
女の、シティスとは違う、別の女の悪態が耳に聞こえる。


「私と貴女では経験も才能も違いすぎるわ。文字通り一矢報いることすら出来ない。そうでしょ?」

シティスは余裕のある声色で俺の背後にいる誰かに話しかける。


「シティス!このことはあの方に伝えるぞ!貴様の勝手な行動にはもうウンザリだ!今度こそお前の最後だ!」

シティスとはうって変わって凄みのある、怒気のこもった声だ。

あの方?勝手な行動?話が見えないな・・・。

とにかく俺の後ろにいる女はかなり頭に血が上っているようだ。



「どうぞご自由に。命令違反をしたのは貴女達の方。私にはそう思えるけど?」

「ぐ・・・!」
「・・・・・・。」

シティスの指摘はどうやら的を射たものらしい。(といってもシティスは弓バルではない)

この指摘に反応したのは背後の女ともう一人、シティスを挟んで向こう側にいるプラネタ河伯だ。

言葉は漏らさないが、マエルとの戦いでダメージを負ったその身体は小刻みに震えていた。


「お、覚えときな!私はあんたのその自信をいつか後k・・・」

「これ、返すわね。」

ヒュッ


シティスがさりげない動作で拾い上げそしてダーツのように軽い動きで放った弓矢は、俺の髪をかすめて飛んでいった。

その弓矢を目で追うように、ようやく心身の緊張が解けた俺は後ろを振り向く。



パシッ


「・・・!こざかしい!」

「ふふ、さすがねニーダ。」


シティスの小さな拍手が聞こえる。


ニーダ、そう呼ばれた女は放たれた弓矢を指先だけで受け止めていた。

やはりかなりの猛者か。手で投げられた弓矢とは言え常人に出来る業では無い。

そして彼女の装備は・・・


(ぉぃおぃ勘弁してくれよ・・・。)


またもブードゥーだ。武器はホウ=イの弓。

先程絶命した極道剣士に、シティス、それにこのニーダといい、かつてピュリカにこれ程の強者達が集まったことなどあっただろうか?


あまりに非・現実的な状況に、俺は半ば呆れ始めていた。



「プラネタ!引き上げだ!」
「は、はい」

ニーダの呼び声に反応しビクッと跳ね上がるように立ち上がると、その聖騎士は俺とシティスの横を通りすぎニーダへと駆け寄った。


「二度と私の邪魔をするな!」


最後にもう一度シティスに悪態をつきながら、ニーダとその後を追う河伯は暗い闇へと姿を消したのだった・・・。



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「怪我はないわね?」


極道剣士の骸を俺たちが掘った穴の一つに埋めながら(先刻のやつの台詞が涙を誘うぜ・・・)シティスは俺に尋ねた。


「あ、ああ。おかげ様でな。」

「そう、よかった。そっちは?」

土竜、いやモグタンとマエルに向かってシティスは言った。


「マエルさんは少しダメージを負った様ですがもう大丈夫ですよ~。危ない所をどうも有り難うございます~。」
「・・・。」

言葉通りモグタンは平気そうだが、マエルの様子がおかしい。シティスを・・・警戒している?

そう、そうだよ!

シティスは何者なんだ?何故ここに・・・。


「シティス、あんたは何者なんだ?どうしてここに?」

俺は思ったままのことをシティスに問う。


「私は一応ニーダ達と同じ所属・・・仲間ね。」

「何!?」

「ふふ、別に警戒しなくてもいいのよ。私達は関係無い人を殺しちゃいけない。そうあの方から言われているわ。
 ただニーダ達だけではそのルール、破りそうだったのよね。今回は私の仕事じゃないけど邪魔しに来ちゃった♪
 ま、極道剣士とはちょっと相容れないところがあったから、私心が無かったとは言えば嘘になるわね^^」


そう言うとシティスはにっこり微笑んだ。

恐ろしいことを優しい顔で言う女だ。天使のような悪魔の笑顔とはこのことだろうか。


「でも、貴方は別よ。マエルさん。」

シティスはマエルを少し厳しい目で見ながら言う。


「貴方は始末されなければいけないの。それが世界のため。」

「お、おいおい」

俺とモグタンがさっと身構える。


「そこの貴方、バルキリーね。どいてくれる?さっきはなかなかの動きをしてたけど、私の攻撃は極道剣士とは違うわよ?とても今の貴方ではかわせないわ。貴方の才能をここで潰すのは惜しいわ。」

相変わらずの余裕ある声音でシティスはモグタンに警告する。


「え?いえ、何が何だか知りませんが、マエルさんを殺されると僕的にも困るんですよ・・・。穴掘るのまだ手伝って欲しいし。」

ってそこかよ!だが・・・


「俺もマエルの爺さんを殺させるわけにはいかない。ゲートが使えないなんてごめんだぜ。」


「ってそこか!ふん、まぁいいわぃ。」

マエルはやはり警戒したままこう続ける。


「シティスとやら。わしのやっていることはそんなに悪いことか?分身魔法と移動魔法の双方を駆使し、
 冒険者の移動を手伝ってやることがそんなにいかんことか?おぬし等に命をくれてやる覚えは無いぞ。」

「う~ん・・・。ふぅ、困ったわね。まぁ今日は私非番だし、見逃しても問題は無いんだけど・・・。」


よかった・・・どうやら検討の余地はあるらしい。シティスが話のわかる女で助かった。

シティスはしばらく黙考した後こう言った。



「・・・そうね、私もあの方の命令とはいえ貴方を『殺す』ってのは気が進まないわ。」

「じゃぁこの場は逃がしてくれるんですか?」


モグタンの期待を手で制しながらシティスは続けた。


「こうしましょう。とりあえずこれから私が貴方達をあの方、いえ、ヘガー様の所へ連れて行くわ。」

「ヘガーだと・・・!?大陸政府と少なかず関わりのある、ギルドセンターの所長が関係してるってのか!?」


なんてことだ!マエルを狙ってたのは大陸政府だったのか?じゃぁ、魔法を奪うとか、あの話は何なんだ?


「詳しいことは後で話されるでしょう。マエルさんの処分もそこで再検討されるわ。もう貴方達は関係者。ここまで知ってしまったんだもの。
 全員、来てもらうわよ?いいわね?」


「・・・行けば全てがわかる、ってことか。上等だ。行ってやる!」

「いいのか?わしは今すぐにでも移動呪文を使っておぬし等から逃げることが出来るんじゃぞ?」

「あら、その心配はないわ。」


!?

シティスの姿が俺の前から音も無く消えた。

一瞬でマエルのいる場所まで間合いを詰めたのだ。


「ほら、貴方はこれで当分魔法を使えないわ。」

「ぬぅ・・・。マホトーンの指輪か・・・。」


思わずマエルもうなり声を上げる。

なるほど確かに、先程のアストロンの指輪と似た指輪がマエルの指にはめられている。魔法を封じる指輪・・・?



「ご同行願います♪」

「ぬぬぅ、致し方無いわぃ・・・」

「では、これを使います。」


シティスは大きめの青い羊皮紙を広げる。
・・・ゲートスクロールか?色は違うが・・・。


「ローリンの作ったものでは無いな。集団移動用の魔法が掛けられておるわ。なかなか高価な代物じゃな。」

「手厚いおもてなしでしょ。」


そう言うとシティスはその特殊なゲートスクロールを広げ、呪文を唱え始めた。

俺、マエル、シティス、モグタン。

4人を青い光が包み込む・・・!


「ちょちょ、ちょっと待って下さいよ!せっかく皆さんに手伝ってもらって何か発掘できそうなのに・・・。」



『諦めなさい』
『諦めて下さい』
『観念するんじゃ』

「あぅ・・・」


異口同音。モグタンはすぐに引き下がった。


向かうはヘガーと、そしてこの事件の真相が待つであろう場所。



ついに、真実への移動魔法が発動した。



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4人が消え去った後、ピュリカには一人の女性がやって来ていた。


「ねぇプラネタさん、誰もいなかったよー・・・ってここも誰もいない-;;」

椿だ。今までずっと友人を探していたらしい。


「もう、狩りには飽き飽きだしぃ、遊び相手は逃げてっちゃうし・・・ん?これはさっきの・・・まだあったんだぁ^^」


先程掘った穴から姿を覗かせる人間の指先の骨を見つけたようだ。


「リザードさん達、掘り出しといて何もせずに消えちゃうなんて変だなぁ。」


そう言いながら彼女は骨を拾い上げる。どうやら指先以外の部分は無いようだ。


「あら!何かはめてる♪指輪・・・?ちょっと変な指輪だなぁ。あ、そうだ!クロノス城のハリスさんに鑑定してもらおうっと♪」


やっと暇つぶしが出来たと言わんばかりの軽い足取りで、彼女もまた坑道を後にするのであった・・・。




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