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丸ゴリ婦人の新婚劇場
丸ゴリ思い出話【ヒーロー編】
運ちゃんとの日常が平穏(安定とは言いがたい)なものになりつつあるので
反省も兼ねて、昔の話を思い出して綴ってみることにしました。
(姉さま方に習って私も過去話デビューしまっせーヽ(´∀`)ノ)
まぁ・・・結局昔からダメダメな体質は変わってないんですけど。
ヒマなときにでもチラ見してみて下さいまし。
私が裕とメールをするようになったのは2006年の11月くらいだった。
きっかけも馴れ初めもあったもんじゃない、出会い系だった。
当時、好意をよせていて時折関係を持つこともあった相手がいたが
「遠いから会うのが面倒くさい」と言われてしまい、
自分勝手にフラれたと落胆した私は、誰かに優しくされたかったのだ。
誰でも良かった。ただ空いた予定と気持ちの隙間を埋めたかった。
きっと、裕も最初は同じような気持ちだったんだろう。
そして裕はきっと、最後まで始まりと同じ気持ちだったのに
私だけが本気になってしまったんだろう。
・・・・・・・・・・・・・・
11月から始まったメールのやり取りは、途切れることなくほぼ毎日続いた。
出身地の方言を喋ったままの裕のメールは、妙に人懐こさを感じさせた。
年が明けた1月23日。私たちは会う約束をした。
待ち合わせ場所は2人の街からちょうど真ん中。
当時、私はまだ車で遠出するのが怖くて、もっぱら移動の足は電車だった。
夜の10時。
冬の駅通りは、クリスマスのイルミネーションの名残みたいに
並木はまだ電飾でキラキラと飾られていた。
車が走り抜けるたびに、冷たい風が伸ばしかけの髪の毛を乱す。
私はコートのポッケに手を入れて、マフラーに首を埋めるようにして裕の連絡を待った。
10分程して、電話が掛かってきた。この日、これが初めての電話だった。
「着いたで!ていうかオレこの駅初めてやから、どこに車止めたら・・・」
裕の声の背景に、車が流れている音・ナビの音が混じる。
「今どのあたり?」
「えーとな、信号なんけどな・・・左側に“美容室アキ”てあるよ!」
裕はもう、すぐ目の前の通りの信号まで来ていた。
夜の道路は、信号待ちで停まっている車が列をなしていた。
「じゃあその信号を左折して。ちょっと走ったところで停車できるから」
「わかったー」
指示した辺りへ、私も歩いて移動した。
信号を曲がって20メートルくらいのところ、
ちょうど駐車禁止の標識の前に、黒いステップワゴン。
ここまで来て今更だけど、少し不安もよぎった。大丈夫かな・・
わざとどの車かわからないふりをして、ウロウロしていると電話がきた。
「いまどこなん?」
「たぶん近くだと思うんだけど、どれ?黒い車?」
電話しながらウロウロしていたので、裕も私を見つけたらしく
「あ、わかった、見つけたで。ホラ、今すぐ前の車。」
私は電話を切って、助手席の方へ回った。
暗い車内はメーターやステレオのランプだけが浮き上がって見えた。
「こんばんはー!」
つとめて明るく挨拶をして助手席に乗り込む。
初対面で2人っきりなんて、気まずいのは当たり前で、わかっている。
馴れ初めがサイトなんて、世間的に後ろめたいのも当たり前で、わかっている。
だから極力明るく、楽しそうに振舞う。人見知りとは正反対に振舞う。
初対面での演技はもう、演技ではなくて条件反射になっていた。
裕はちょっとだけ私と目を合わせたけど
「こんばんわ」と少し恥ずかしそうに笑って、すぐ目をそらした。
そのまま車を走らせ始めた。
私は沈黙が訪れないように、思いついた話題をぽんぽんとふった。
空気が和らぐまで、沈黙は良くない。気まずさが加速してしまう。
後にわかったことだけど、
初対面で頑張りすぎるせいで、後日徐々にもとのテンションに戻すと
「こんなにネガティブだったの!?」と落胆されてしまうことがあったようだ。
飾りすぎると剥がした時がみすぼらしいのは、外も中も一緒なんだと学んだ。
話は途切れることなく、だけど落ち着いたテンポで続いていた。
空気はだいぶ柔らかいものになっていて、
1つの話題が終わったときの静けさも、違和感を感じることはなくなっていた。
メールと同じ方言が、時折ポロッと混じるのが可笑しかった。
ふと「・・・で、今日どこ行こうか」 裕が聞いた。
気が付けば、窓の外の景色は見慣れないものになっていて
お互い地元じゃないから「ここどこだろうね・・」と言って笑っていた。
カーナビだけが頼りだったけど、目的もなく走っていたから
ナビもただ画面に地図を映しているだけだった。
そして、私も裕も方向音痴だった。
今日は飲もうねという話で、会ったのだった。
私は終電がなくなることも承知で、裕は運転して帰れないことを承知で。
だけどお泊りしようか、なんてサスガに言うわけにも行かず、
2人とも まぁ・・・その時に考えるか、というようなかんじだった。
「ここどこや~!まじで迷ったなぁ・・・笑」
「ナビあるのにね・・笑」
「とりあえず、駅の方戻ろか!飲み屋もあった気がするし。いい?」
「うん。」
駅まで引き返して、コインパーキングに車を停めた。
「ちょっと歩いて探してみよか。」
私たちは車から降りて、目ぼしい居酒屋を探して駅の通りを歩いた。
横に並んで歩いたけど、私と裕の間には20センチくらいの距離があって
その距離感がまた、関係そのものみたいだなぁと思ながら歩いた。
黒いダウンジャケットのポッケに手を入れて歩く裕。
私が想像していたよりもずっと背が高かった。183くらいって言ってたかな。
足のサイズも歩幅も大きくて、裕の1歩は私の1.5歩くらいだ。
「ここは?」
雑居ビルの前で立ち止まった。
1~2階がカラオケ屋で、3階が居酒屋。4階はちょっと高そうな飲み屋さんだった。
3階の居酒屋へ入ることにした。
銭湯みたいな木の下駄箱がたくさんある玄関口を進むと、
店内は暖房が効いていて暖かかった。
和室みたいな区切りになっていて、その1画に通された。
私たちは小さな木のテーブルを囲んで、
向かい合わせに座った。
真正面から人と目を合わせるのが苦手な私は、
なんとなく目のやり場に困って、自然と視界が泳いだ。
置かれた温かいおしぼりを、クルクルと巻いてみたり、畳んだりしていた。
「何飲むー?おれ生。」
裕はメニューを見ずに決定して、そのままメニューを開いて渡した。
「うーん・・私ビール苦いから飲めないんだよなー」
「もったいない!仕事した後とか、風呂上りとか最高やのになぁ!」
「決めた!巨峰サワー!」
「そんなんジュースやん!」
「いいの!」
裕がこっちを見てないときに、私は裕をまじまじと見てみた。
茶色っぽい瞳。キレイな二重まぶたをしていた。
「吸っていい?」と言って、ポケットからタバコを取り出した。ラッキーストライク。
フチの太い、わざとらしいようなメガネをしていたけど、
居酒屋に入ってから外した。メガネのない方がかっこいいな、と思った。
生ビールと巨峰サワーが運ばれてきて、
「じゃあ、とりあえず・・かんぱーい」と言ってグラスをコツンと合わせた。
何にカンパイなんだろなぁ・・と2人で笑いながら飲んだ。
「裕、目悪いの?」
「ん?悪くないよ。1.5あるし。」
「ダテメガネしてたのかぁ」
「うん。メガネしてると賢そうに見えんねんもん。」
「そうかぁ!?」
「絶対そう!だから目が悪い人が羨ましかってん!
で、暗がりで本読んだりして目悪くしようとしたんけどなぁ・・ならんかった。」
「ははは!視力なんて良い方が良いに決まってるのに!ばかだなぁ・・笑」
「そう、ばかだった・・笑
でなぁ、メガネ作りに行ったとき、店でも視力検査ってするやん?
でも悪くないから、検査する人も困ってた。“あれ?コイツ見えとるやん!”て。
だからわざと間違えたり、見えてないふりした・・笑」
「それじゃ、そのメガネ度があってないんじゃないの!?」
「うん。一番軽い度にしてもろてんけど・・ちょっと歪んで見える。」
「度ナシで作ってもらえばよかったのに・・・目に悪いよそんなの。」
私たちはメガネ談義で妙に盛り上がった。
「あ、そういえば・・ゴリ、あれほんとに作ってくれたん?」
私は何かと小細工をすることが好きで、
その頃シルバーアクセサリーなんかも趣味で作ったりしていた。
それを話したとき、案の定「じゃあおれになんか作ってやぁ♪」と裕も言った。
その言葉に深い意味はもとより、本気ではないだろうと思っていたけど
数ヶ月前に作ったリングがあったので、それをあげようと考えていた。
サイズを失敗してしまったそのリングは、私の指には親指にすら大きかった。
そのリングを一応持ってきてはいたけど、話題が出なければ渡さないつもりだった。
初対面のメル友から指輪なんて、いくらなんでもダメでしょって思ったから。
「覚えてたの!?」
「そりゃ覚えてますよ!何気に楽しみにしててん!」
“楽しみにしてた”
その言葉が妙に嬉しくて、私はカバンをあさった。
「じゃーん!サイズは合うか怪しいけど・・」
裕の前にリングを置いた。
「すげー!ピカピカやん!自分で作れるん、こんなん!」
裕が驚きながら、物珍しそうに眺めているのが楽しかった。
1本1本、それぞれの指にはめようとしてみていたけど
入ったのは結局小指だけだった。
左手の小指に付けると、「ここがピッタリ♪」と言ってニカっと笑った。
「一応、世界で1個だけだからさ!」と私も笑った。
「ありがとう!コレ、宝物にするよ。」
たからもの。そんな言葉、もう何年も聞いてないし使ってない。
どんなに高価なものを買ったって、貰ったって、宝物とは呼ばなかった。
その単語がひどく純粋に聞こえて、私は失敗作なんかじゃなくて、
ちゃんとサイズを聞いて裕のために作ればよかったと少し申し訳なく思った。
「そういってもらえると、私も嬉しいよ。」と言って笑うのが精一杯だった。
「今まではなぁ・・・なんか、彼女とかおるとやっぱり持ちたがるやん、
そういうペアリングとかって。でもおれめんどくさがって付けなかった。
でも最近になって思うんだよな、付けてあげればよかったなぁて。」
ペアリングはおろか、ペアなものなんて何一つとして貰ったことも、
贈ったこともない私には、ただ漠然と「もったいないね」としか浮かんでこなかった。
それから2時間くらい話しながら飲んで、私たちは店を出た。
久しぶりのアルコールで、頭のなかがグルグルと揺れるようだった。
裕もそれほど強くない割りに、とにかく好きらしくて私の倍は飲んでいた。
もと来た道をコインパーキングまで歩いて、車へ乗り込んだものの
運転するわけにも行かず、車内で「どうしよっか。。。」とお互い黙り込んだ。
こうなることを承知で飲んだ、にも関わらず
なんだか「どうするか」の後の選択肢を言い出すことが拒まれる空気。
「・・・とりあえず・・・宿、さがそか!」
そう言い出してくれるのを内心私も待ち望んでいた。
「うん、そうだね、空いてるかな・・」と言いながら、また車を降りた。
幸い、駅の近くということもあって、ビジネスホテルが数件あった。
少し奥まったところにあったビジネスホテルに入った。
「こんな時間に入ったら、なんや怪しまれるかもなぁ・・
ビジネスしてたわけやないし・・笑」
「そうだね・・笑 じゃあ裕は部長てことにしとけば!」
「せやな!遅くまで仕事お疲れさ~ん!」
私たちは酔っていたこともあって、意味のわからない話でも笑い合っていた。
ツインの狭い部屋に入ると、私たちは上着と荷物を降ろし、それぞれベッドに座った。
「エレベーター出たとこ、自販機あったよなぁ?」
「うん、たしかあったね。」
「もう1本だけ飲んでもいい?」
「は!?もうさんざんのんだじゃん!」
「お願い!もう1本だけー!明日からガマンするから!」
「・・・。アル中なっても知らんよ。」
「大丈夫!1本だけにしとくから!」
裕は笑って、ビールを買いに部屋を出て行った。
部屋に1人になった隙に、鏡で自分の顔をを覘いて見た。
こりゃ誰が見ても酔ってるってわかるわなぁ・・・
顔は赤くなって、頬と唇の血色が妙に良くなっている。
コンタクトの入った目は、やけに潤んでいて目薬いらずだ。
裕は部屋に戻って来ると、ベッドに腰掛けて飲み始めた。
その顔は笑顔で、酔ってるだけなのか知らないけどゴキゲンな様子だった。
「どんなヤツがタイプなん?」
酒のつまみにでもするように、話しかけてきた。
「タイプなぁ・・・わかんない。好きになったらそれが好き。裕は?」
「おれな、絶対浮気しない子!
自分が好きになったら、その子しか見えなくなるからさぁ、
ウソついたり、裏切ったりされたくないねんな!」
「そりゃそうだ。」
少しの間、恋愛談義をしていたけど、沈黙が訪れた。
時間はもう、夜中の2時を回っていた。
私は眠かった。裕も眠そうだった。
「眠いなら、寝れば?」そう私が聞いても
「まだ、寝ない。もったいないもん」と答えるばかりだった。
少しの沈黙があって、裕はボソリと言った。
「・・・あのさ・・。・・・いや、やっぱりなんでもない。」
「なに?気になるなぁ!なんか。」
「いや・・・やっぱり言わん。」
「・・・そか。」
静かな沈黙が流れた。
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