丸ゴリ婦人の新婚劇場

丸ゴリ婦人の新婚劇場

対面の翌日


のめりこんで忘れられなかった人とのお話です。(もう乗り越えましたが)






いつの間に眠ってたコタツで、目を覚ましたのはもう日が傾いた夕方でした。
冬の日暮れは早い。
4時半にはもうあたりは濃い青に包まれ、夜の手前だった。

覚めきらない頭をふらふらさせながら、
脱ぎ捨ててあったコートを抱えて自分の部屋へ。

コタツで眠ったせいか、昨日の出来事のせいか、
まるで微熱をわずらった時みたいに、私はどこかうわついた気分だった。

いつもどおり、夜の7時半には家族と夕食を食べて
それからいつもどおりに入浴、また部屋へ戻ってきた。

帰ってきてから、裕にはまだ1度もメールを入れていない。

ご飯食べてるときも、お風呂に入っているときも、本当は
なんて送ろうか、どう送ったらいいか考えていた。

今までみたいに、他愛もない話を送ればそれで良いのでしょうが
「昨日は楽しかったよ」なんて言ったら恥ずかしいよなぁとか思っていた。

「今度いつ会える?」なんて、
つい昨日会ったばかりなのに、聞くなんてダメだよなぁなんて考えて
ケータイを開けたり閉めたりしていた。向こうからこないかなって、
淡い期待をしていた。


ありきたりに手持ち無沙汰になって、鏡をのぞく。
自分の顔の、眉毛が気になりだして、余分な眉毛を抜き出した。

た、楽しい・・・orz

一心不乱に没頭することが好きな丸ゴリは、
鏡を食い入るように見つめながら眉毛を一本一本抜きました。
(あ、もちろん本線じゃないところ。まぶたとかに生えてる余計な毛。)

眉毛と戦っていると、不意に電話がなった。
私は毛抜きを机に置いて、ポケットの携帯電話を出した。


裕だ!

嬉しい気持ちと、ちょっと緊張する気持ちで受話ボタンを押す。

「もしもし」


「もしもし?ごめんないきなり電話かけて」


「ううん、大丈夫!」


「ちょっとさ、いや、用事はないんだけど・・・」


「うん、」


「・・声聞きたくなって。」


かーっとなにかが頭に登りつめるような気持ちになった。
さっきまで毛抜きに集中していた顔が、鏡に映る。
にやけている。鏡を伏せた。


「へへ・・そっか・・ありがとっス!」

「なんや、ありがとうって・・笑」


「ふふ!あのさ、次、いつ休めるの?」
こういう風に、勢いがあるときでないと言い出せない。

「週末、休み取れるとおもう。ゴリは?」

「私は日曜日はいつも休みだよ!」

「じゃあ、土曜の夜、おれ仕事終わってからだけど、会える?」

私のにやけは頂点に達した。声が自然にワントーン高くなる。

「うん!!」


「時間、また近くなったら連絡するなぁ。」


「うん!!やったー!笑」

「良かった!笑」


ふと、私はあの場で言えなかったことを口に出した。


「・・あのさ、裕、今日駅で帰るときにさ、本当は時間すっげーあったんだ。
 まだ40分くらい。で、本当は・・ぎりぎりまで一緒に居たかったんだ。」


「そうなん・・おれも、本当はもうちょっと居たかった。でもゴリが
 “じゃあ行くわ~”とか言うから、なんやもう帰るんか思て・・・笑」

「うん・・笑 いや、裕はまた駐車場まで歩いて戻らないかんしなーって、
 ちょっと気ぃ使ってそう言ったんだよ~!笑」


ははは。と受話器の向こうとこっちで、同じ時間を思い出して笑った。
実にくだらないことだけど、
それだけでなんだか幸せっぽい空気に浸っていた。

1時間ほどして、
「じゃあね、おやすみ」「まだ寝ないけどね、おやすみ」と話を終えた。

電話を切った後も、笑った余韻と耳に残った裕の声でにやけていた。
それが収まって消えてしまう前に、私は布団にもぐって眠った。
それがまだ記憶に新しいうちなら、
夢で再現できそうな気がしてすぐに眠った。



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