丸ゴリ婦人の新婚劇場

丸ゴリ婦人の新婚劇場

終わりの日。



※なお、全てが事後報告のため、これと言って展開もありません。すんません。










「これとこれ、どっちがいいと思う?」


いつもの如く、前日夜から一緒に過ごした私たちは
少し車を走らせて近くの雑貨屋さんに来ていた。



前夜、くっついて眠るが故に発情してしまったのか今朝になって
「あかん・・筋肉痛や。昨日たちっぱなしだったから」と裕が笑っていた。
(その日にマグワイアをしなかったことが離別の要因のような気がする最近。)



裕はガテン系の見かけと不似合いに、ディズニーが大好きで。
丸ゴリはディズニーキャラにはそれほど愛着はないけど、
雑貨屋自体が大好きだったので、こういうお店に来ると2人ともテンションが上った。


地元の友達の誕生日が近いので、
裕とのお出かけついでに私はプレゼントを探していた。

めぼしを付けたのはティーポットと、カップのセット。
イチゴの模様と、顔の書いてあるタイプ、どちらにしようか迷っていた。


「んー・・じゃあこっち」

裕はイチゴのほうを選んだけど
「・・イチゴも捨てがたいけど・・この顔似てるし」という理由で
結局私は顔の付いているセットの方を選んだ。


私がレジでラッピングを待つ間、裕はマグカップをずっと見ていた。

「ゴリ、」と呼びかけられて近くへ行く。

裕はとぼけた表情のクマのイラストが描かれているマグカップを2つ持っていた。
「こっちとこっち、どっちがいい?」

さっきの私を真似るように、聞いた。


「うーん・・こっちかな?」


「じゃあ、こっちはゴリのな。これはオレのにするから。」


そう言って裕は2つのカップをレジに持っていった。



「・・・?くれるの??」
イマイチ空気が理解できない私の質問に

「ん。灰皿のお礼。プレゼントや。」と裕は少し照れ笑いしていた。



丸ゴリのプレゼントのラッピングが済んで、お店を出た。

車の中で、裕はさっき買ったばっかりのマグカップを取り出す。
「はい、こっちが、ゴリの。」


「ありがとう!」
とぼけた表情のクマが、急に100倍くらい愛しく見えた。


「毎日使うよ、これ。大事にする。」


「うん、おれも、毎日使う。」

こっちを見ている裕の目は、いつもと同じで優しく笑っていた。
嬉しいのと照れくさいのと幸せで、少し緊張した空気が流れる。



「またその辺、散歩行ってみよか」そう言って裕は車を出した。



30分ほど走ったところに、国営の広い公園がある。
花が咲く季節には、いろんな花が公園中を彩って、噴水もあったりして
散歩にはもってこいの場所だった。

2月を過ぎたばかりの公園は、曇り空の下、木の緑もまばらで、
噴水のあがる池も水はなく、むきだしのコンクリートの底に枯葉や枯れ枝が溜まっていた。

まだ若葉がところどころにしか見えない湿った芝生の上でも、
小さい子供は走り回って遊んでいた。



芝生で覆われた緩やかな長い坂。
登った上に、展望台みたいな建物が見えた。


「あそこまで、登ってみようか」


最初はなんとか登りきれそうな距離だと見ていたけど、
いざ歩いてみると、緩やかにみえていた坂は結構キツく、
徐々に2人とも息があがって途中で足を止めながら歩いた。


真正面から吹き付ける冷たい風に、ほっぺたや耳がピリピリと痛む。

開けていたジャケットのボタンを閉じた。


風をよけようと、わざと裕のすぐ後ろを歩いてみたけど
「あ、おれを盾にしてるやろ!」とスグに気が付かれてしまった。





息を切らしながら登り続けていると、丘の頂上が見えてきた。
休みながら歩いているだけでも斜面は運動不足の身体を徐々に重たくした。

疲れて息があがるほどに2人とも口数が減っていった。
「あとちょっと!」「もう30歩くらい!」「しんど!笑」

風除け代わりにしていた裕の大きい背中を、後ろから両手で押しながら歩く。



「ふぅーッ!」

と2人で大きく息を吐いて、ようやく辿り着いた頂上。
広く、かなり向こうまで見渡せる景色だった。


「ちょっと、散策してみよか。」

「うん。」


公園自体も、ひと気があまりなかったけど
頂上は下の広場よりさらに閑散として、私たち以外に人はいなかった。


少し錆び付いた展望台。裏に回ると
鉄板(?)とガラスの板でできた無機質なオブジェがあった。


雨水がガラスの皿に溜まって、それがポチャンと落ちるときに鉄板に当る仕組み。

その雨水が当る音が「ぽぉん」と、柔らかい鉄琴のような音になるというものだった。
サイズの違う鉄板がいくつか並んでいて、音階になっているらしい。




この日は晴れていたけど、強い風が吹くたび、
皿に溜まってた枯葉まじりの雨水が滴り落ちて ささやくような小さな音を奏でた。


「ほとんど、音聞こえないね。」


「せやな。やっぱり、雨が落ちてくる音じゃないとアカンのやろな。
 けど、雨の日にわざわざこんなとこ来るヤツおるんかな・・笑」



裕は鉄製のオブジェをわざと揺らして、
溜まった雨水をポタポタ落とそうとした。


「そんなことしたら壊れるよ!」と私が笑って止めると
裕も笑って「じゃあやめた!」と手を離した。


天気は相変わらずダルそうな曇り空で、ときおり吹く冷たい風が髪を乱した。
まるで何ヶ月もひと気のないような出で立ちの展望台に入る。


狭いホールのなかは、片付けた後みたいに何もなくて
冷えたコンクリートの床に大きな木を切り出して作った、
テーブルとイスが静かに置かれているだけだった。

片付けた後、というよりも
もう使われなくなった場所、に近い雰囲気だった。



壁にある電気のスイッチを押してみても、ホールの電気は付かなかった。
奥にあったトイレは、ちゃんと電気がついたけど。


「ここ、普段は何に使ってんねやろな。」

そういって、私の横でタバコに火をつけようとした裕は「あっ」と思い出して
「タバコ吸うてくる」と気を使ってトイレに消えていった。

私は1人でイスに座って、ホコリっぽい大きな窓ガラスから外を眺めていた。
ときおり、風の音と一緒に木々が揺れていた。



タバコを吸い終えて裕が戻ってくる。


「天気、回復しないね。昼間なのにこんなに暗い。」


「うん。けど、まぁええんちゃう。

 次は、晴れた日にきたらええやん。
 その次は、雨の日に来たら、さっきのへんなヤツの音聞けるし。」


ジャケットを着直しながら、裕はそんなことを言った。
本人からしたら何気ないひと言だったんだろうけど、私は言葉に詰った。


次回があることを、相手も当たり前に受け止めていることの嬉しさ。


「下るか!」

出口を振り返った裕に合わせて私も「うん」とイスから立った。


建物から出ると、早速風が吹いた。

「やっぱり外の方が寒いねんな!」

「そうだね。中は、風よけられるもんね」

2人して寒さに鼻をすすりながら、さっきの坂道を下る。
どちらから、ともなく片手を繋ぐ。



身長の差が、そのまま歩幅になる。
180センチの裕の1歩は、そのまま私の半歩先を歩く。

離れまいと早足で歩くと、坂道で膝がカタカタと笑いそうになる。



「裕、歩くのもうちょいゆっくり!膝がかっくんかっくんなりそうになるー!笑」


「ここ、走ったらたぶんめっちゃ早く走れるで!笑」


「ていうか止まれなくなるでしょ・・笑」


裕は笑いながら、手を繋いだままふざけて少し小走りをした。
危ない、あぶない!と笑いながら手を引っ張られるまま、私も走る。


坂道が、このままずっと続いていたらいいのにと思った。







夕暮れも近付くころ、いつものように駅まで車で送ってもらう。


助手席から見える景色は
なんどとなく見た、駅前の混雑した交差点。

ハザードをつけて、路肩に車を停める。


「じゃあ、またな。」



「うん。ありがとう。コップも。」


「ああ、大事に使ってな。」



「うん。大事にするよ。ありがとう。」


祐の目は、別れ際も会ったときも同じで
優しく笑ったような、リスみたいな目。




あともう少しだけ、電車の時間がくるまで

あと5分だけ、

もう少しだけ、

一緒にいてもいいかな。



そうしてどんどん、離れられなくなっていくのは知っていた。

祐が駅のホームまで俺も行こうか?と気を使ってくれる前に


「じゃあ、またね。気をつけて帰ってね。」と車を降りた。




横断歩道を渡る私の横を、祐の車が通り抜ける。
運転席の祐と目があって、「バイバイ」と口だけ動いてお互い手を振る。




祐の手の平の余韻と、優しい目と

カバンの中の、もらったコップ。




そのどれもが切なさと幸せで私を埋めていたから
一瞬の悲しさや寂しさが入り込む隙間もなかった。
私は安心しきっていた。






そしてその日を最後に、祐からは一切連絡が来なくなった。







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