消失を彷徨う空中庭園

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第十一章 ワイズマン


 サラが採取した花に関する分析と、アメリカでのデータの比較などのほとんどを全員に渡したのだ。
 それについての田島の考えはまだ一切言っていない。田島は、この数値を見た人間が他の発想をしうるかどうか知りたかったのかも知れない。もっと、合理的な結論を欲していたのかも知れなかった。
 田島は、詳しい鑑定はほぼ全てをそのまま公開した。
 所員達は、一度に多くの事実を知らされて皆刺激を受けていた。田島はそれぞれが己の所見をまとめて、討論する機会を設けた。
 所員達が最も深く興味を示したのは防衛本能についてだった。
「田島さん、この神経毒や酸など、個体ごとにかなり個性がありますよね」
「ふむ。そうだね」
「個性があるということは、集団の中に役割があるのでしょうか」
「それも考えられるかもしれない」

 その頃、サラは一人で自分の部屋にいた。
 アメリカの研究者と通信で話をしていた。
「ワイズマン、昨日のでこっちの情報は全部よ」
「ありがとう。おかげで俺達も助かっている」
「お互い様よ。だけど、内緒ね」
「だが、こっちとでは随分見解が違っているようだ。うちではオアシスフラワーは植物でないと、考えている」
「どうして。どう考えても植物の特徴のほとんどを持っているのに?」
「だが、種子に当たるものがない」
「こっちでは種子のようなものは見つかっているけれど」
「よく調べてみてくれ。機能的には植物の本能はほとんど退化しているはずだ」
「本当? だったら、どうやって繁殖しているのかしら」
「まだそこまでは未確認だ。しかし、筋肉があって動き回る以上既に動物だろう」
「そうかしら。花を咲かせる動物の方が、イメージ的にしっくり来ないわね」
「サラ。アメリカに来ないか?」
「あら。何の冗談かしら」
「オアシスフラワーの真相に一番近いのは、こっちかもしれないぜ」
「どういうこと?」
「俺達はおそらく、もうすぐ真相を解明する」
「あなた、何を掴んだの?」
「カードは揃った。真実を手に入れる瞬間、お前はいなくていいのか?」
「光栄だけど、本当かしら」
「どっちにしろ、お前には一番に教えるよ」


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