「源義経黄金伝説」 飛鳥京香・山田企画事務所           (山田企画事務所)

義経黄金伝説■第18回


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第3章 西行の思い出  一一三八年(長暦2年)から
■■6一一七八年 京都・鞍馬

弁慶はわけを鬼一から話され、守り役に徹している。牛若がいう。
「弁慶、ワシの味方になりたいか」
「いや、それはもう、、」弁慶の答えは微妙である。
「先刻の五条の橋で暴言をはかなったか。いや、で、ものは相談。お主が味
方かどうか、こころたい。俺のゆうことを聞いてくれるかな」
「それは、もう」
「弁慶、俺は奥州へ行くにあたって、鞍馬から土産を持って行きたいのじゃ」
「若、一体、何を。いたずらはもう、いい加減になされませ」
 弁慶は牛若を若と読んでいる、この男なりの諧謔である。
「いたづかではない。俺が源氏の生まれで在る事を証明したいのだ。俺はの
う、鞍馬に伝わる太刀を持って行こうと思うのじゃ。そうすれば、あの奥州
の者共、俺の力にびっくりするぞ。いや、敬服する!」
牛若はもう心を決めている。あの埒外の地にいき、自分の存在をアピールす
るのはそれに限るのだ。
「まさか、若様。あれを…」
 弁慶は冷や汗を流している。
「そうじゃ。坂上田村磨呂の太刀じゃ」
 坂上田村磨呂、最初の征夷大将軍である。東北人との争いで、始めて大和朝
廷の力に屈せしめた大将軍である。その太刀が、この鞍馬の秘刀として、鞍馬
に保存されているのである。

 鞍馬山の火祭りの夜のことである。
「誰か、火が。火が宝殿から出ておるぞ」
 凄まじい叫び声が、鞍馬山から木霊している。漆黒の闇の中、炎が宝殿をな
め尽くそうとしていた。
「早く、早く、中の仏典、宝物を、、、」
 僧坊の僧たちがてんでに、宝物を持ち、宝殿から助け出そうとしている。そ
の中に無論、牛若と弁慶も混じっている。
「若、これは泥棒ではないか」
「いや、何、火を持ってする戦法だ」牛若の顔が笑っているように弁慶には見
える。
 疾風のように、二人は京都の奥州の大使館にあたる平泉第まで駆け抜け
ている。その場所には猪首の巨漢が体を振るわして待っていた。
「さあて、吉次、準備は調うたぞ。出発いたそう」
牛若が鋸やかに言う。うやうやしく吉次は答える。
「わかり申した。牛若さまの本当の旅立ちでございますな」
 吉次はこのとき三十才。若い盛りであった。
 吉次は、奥州の金を京都の平家に届けている。清盛はその金を宋にに輸出
し、宋の銭を得ていた。日本の経済決済に 宋銭を利用し、経済革命を起こそ
うとしている、その一翼を吉次がになう。奥州と平家はこのように結び合って
いた。

■■7一一七八年  平泉
 平泉に、東西の軍書を読んでいる牛若はいた。
 その顔は真っ黒にやけ、元気そうに見える。基本的体力は、鞍馬山にて鍛え
られ、この奥州の地でその体力がぐんぐんと伸びていた。また馬も、この地の
馬にすぐ慣れ、新しい馬術を学んでいる。
「牛若殿、ご勉強、精が出ますな」
 奥州平泉の帝王、秀衡であった。
「これは秀衡様」
 牛若は姿勢を正し、挨拶をした。
「いやいや、そう堅苦しくせずともよい。よろしいですか、牛若様。我が郎党
ども、感嘆の声をあげておりますのじゃ」
 にこやかに秀衡は言う。本当にうれしそうなのだ。
「いや、一体」
 牛若には、この秀衡が、なぜ機嫌がいいのか、わからぬのだ。
「腕がよい。教えがいがあると、申しますのじゃ。教える者は、京の軟弱な子
供かと考えていたようでございますよ。はは」
「これはしたり。こう見えても私は、源氏の氏長者の息子でございます。そう
はずかしい仕業を見せる訳には行かぬのです」

 若い牛若は、本気で怒っているのである。彼には、大きなプライドがある。
たとえ、母親が白拍子であろうと、父親は歴とした源義朝。由緒正しいのであ
る。逆に言えば、牛若の売り所はそれしかないのである。その一点にウシ若は
かけていた。
「それで、元気のよい牛若様。一つ留学をなさって見る気になりませぬか」
「留学ですと。私は僧になるつもりはありませぬぞ」
意外な 言葉に、牛若は怪訝な顔をする。
「いや、別に僧になり、仏教を勉強していただこうという訳ではありません。
我が平泉には僧は足りておりまする」
「では、何のために」

一瞬、秀衡は牛若の顔をのぞき込んでいる。
「武術でございます」ゆっくりと秀衡は告げた。
「武術ですと。、、」牛若も詰まった。
「それは面白い。中国の武術、実際に見て見たかった」
「いや、牛若殿。中国、宋へ渡る訳ではないのです」
「我々、平泉王国は、近くは蝦夷、遠くは黒竜江まで、貿易をしておること
はご存じでしょう」
「まさか、その黒竜江を越えて」
「さようです。丁度便船を、津軽十三湊(とさみなと)から出す予定がある
のです。従者を付けましょう」
十三湊は奥州平泉の支配下にあり、外国との貿易でにぎわっていた。

「従者、それは」
「吉次です」
「吉次。あの者が、なぜ」
「吉次は、京都、平泉第にいた隠密の一人ですが、もともとあの男は播州
(ばんしゅう・兵庫県姫路のあたり)の鋳物師の息子。冶金については、
一通りの技術を持っているのでございます。吉次には、かの地の新しい技
術を持ってこよと」
 牛若は、少しばかり考えにひたっている。

 この機会、かなり面白いかもしれぬ。牛若は本で読み、体得した技を使
って見たくて仕方がなかった。秀衡の部下相手の模擬戦には、少しばかり
飽いて来ていたのだ。実戦を経験したかったのである。
「宋を北方から狙っている、女真族の一団があります。すでにこちらの手
配は済んでおります。後は牛若様の決断次第。よろしいですか。私はあな
たを実の息子のように、いや息子以上に思っております。これは何も西行
殿に頼まれた訳ではない」
「わかりました。外国へ行かせていただきます」
「おお、さすがは牛若様じゃ」

■■7一一七八年 中国沿海州・女真族の国
「日本のこわっぱ、このようなことができるか」
義経の前を一陣の風がまった。
いや、風でなかった、人馬一体となった戦士が、的を次々に射抜ているの
だ。神業であった。歓迎の印として女真族の若者が見事な射術を見せてい
るのだ。
 平泉をでて2ヶ月の時間を経て、牛若は中国、女真族の国にたどり着い
ている。
彼らは裸馬に乗り、あぶみ、両手を離し、後ろ向きに弓矢を打つのである。
おまけに、その矢は、すべて中心に打ち込んでいる。
日本の流鏑馬の巧者でもあそこまでは打てまい。義経は感心している。
また、自分を送り出した秀衡の頭のさえにも。秀衡は牛若をこの地に派遣
し武術を学ばせ、牛若を平泉の武将とし西国王朝の備えにしょうとしてい
るのだ。

「弁慶、どうじゃ、あの若者は」
 義経は傍らにいる弁慶に尋ねた。弁慶は付き従ってきた。元々弁慶は
紀州熊野水軍の流れをひく。この国の水軍の武術に興味があるのだ。
「恐るべき術にございます。日本の武者では、あのような真似はできま
すまい。若、やはり世界はひろうございます。我々の預かり知らぬ
術を持つ人間が多うこざいます」

先年まで、京都の鞍馬という山にいて、自分の存在の不遇を嘆いたおと
こが蛮地、奥州平泉にあり、そこから先、日本の毛外のち、にいるのだ、
新しい運命!、それをあの僧形の男が与えてくれたのだ。
あの男は何故に。ウシ若の心に疑問が浮かんだ。
 この女真族の国で、牛若は戦術を学んだ。それが財産となる。
(続く)
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