―――――私の事なんか何も判らないくせに
             隠してるのに気づいて欲しい
                     何だろうこの気持ち
                               苦しい





002・人を殺すコト




「―――――ですかっ?大丈夫ですかっ?」



「うぅぅん・・・・・?」



チアキはうっすらと瞼を開く。


其処に映ったのは優しげな男の顔。


「よかったぁぁぁ」


その男はチアキが目を開けたのを確認するとへにゃっと顔を崩した。


「えっと・・・・・貴方は・・・?」


まだ状況が飲みこめていないチアキは戸惑いがちに目の前の男に問う。


「あっ、私は海野イルカと申します」


その男―――イルカはにっこり笑った。


全く、良い人の見本のような笑顔だった。


「ウッウミノさん・・・・?」


「イルカで結構ですよ」


そこでチアキは妙な感覚を覚えた。


「えっ?イルカが名前ですか?」


「・・・・・?そうですけど?」


「・・・・・?」



段々覚醒してきたチアキの脳裏に嫌な予感がよぎり辺りを見まわした。


其処は小さな森のようなところで自分が先程までいた部屋では当たり前だが、違う。



「・・・・・・・・すいません、ここは何処ですか?」


「ここですか?木の葉隠れの里ですけど・・・?」


「・・・・コノハガクレ・・・?」


「・・・・?どうかしましたか?」


自分が言った言葉をオウム返しに口にする少女にイルカは問う。


しかしチアキは其の質問には答えずに新たな質問を発した。


「・・・・・ではセントラルという都市の名前、聞いた事有りますか?」


「・・・・せんとらる・・・・?」


チアキとイルカの会話に確実な食い違いが生まれる。


最悪なことに先程自分が感じた予感は当たっているようだった。



つまりだ。

結論から言ってここは自分さっきまで居た場所とは愚か、私が暮らしていた世界とも別の処のようだ。



とりあえず・・・・・


とチアキは思う。


この目の前に居る男は信用できそうだ。


「イルカさん」


「――!はい?」


先程まで黙りこくって何かを考えていた少女がいきなり自分の名前を呼んだことに少し驚いているのがその声色から読み取れた。


「ここで一番の権力を持つ者は?」


「・・・・・火影様の事ですか?」


「火影・・・ですね?その方は信用に値しますか?」


「っ、勿論ですよ!」


イルカはそう答えながらいきなりこんなことを訊いてきたチアキを怪しむようにに見る。


その疑いの眼差しにチアキはにこっと笑ってみせ、それからイルカを見据えていった。


「判りました。御願いがあります。その方の元へ連れていってくれませんか?」







+++







まさか火影様がお許しになるなんて・・・・・・・・



イルカは心の中でそう呟いた。


いくら少女とは言え、里に無断で入ってきた侵入者だ。


怪しすぎる。


イルカは火影の意図が掴めずにいた。




「火影様こんにちは。私はチアキ・リュウスです」


火影と呼ばれる人物は結構な年の老人だった。


そこから発せられる威厳はチアキの知る上で一番の地位である大総統に勝るとも劣らないほどでチアキは口調を改める。


「・・・・・・リュウス?」


「チアキが名前です」


「・・・・・・・・ほぉ」


チアキの言葉に火影はおもしろそうに目を細めた。




「信じるか信じないかは任せます。私は異世界からきました」


チアキは単刀直入に切り出した。


「・・・・・・異世界と?」


火影は僅かに眉を顰める。



「その証拠に私は貴方達とは服も違います。名前の順番も逆でしょう?」


「そのようなことはありえるのかね?」


火影はまだ此方を怪しんでいるようだった。


当然といえば当然だが。


「私の国では錬金術が盛んでした」


チアキはそんな火影の問いには答えず話し出した。


「・・・・・・なんじゃ?」


「錬金術とは1のものから1のものを作り出す科学です。簡単に言えば机を分解してそれと同じ大きさの椅子を作り出すのです」


ここには錬金術はないんだなと新たな発見に心の中で少し驚いて、チアキは簡単に説明した。


「・・・・・・・ほう」


それからチアキはここに来るまでに考えたことを口にした。


「空間の練成と呼ばれるものがあります。私もよく知りませんがおそらく空間を分解して再構築することによって異空間の行き来を可能にする錬金術です」


チアキの言葉に火影はふむと髭を触って言う。


「成る程。それによってこちらに来たという事にすれば確かに利に適うな」


「そうです。でも私には空間の練成が出来ません。向こうで私のいないことに気づいた錬金術師が助けに来るのを待つしか有りません。それまでこの世界に住まわせてもらえないでしょうか?」


チアキは一息でそこまで言い終えた。


その言葉は意外だったのか、火影は少し目を開いた。


「・・・・・・・・本気か?」


「本気です」


チアキは火影を見据えた。


その目には不思議な色が宿っていた。


奥深くて、意思の強そうな目。


だけど、脆くて壊れそうな・・・・・・・・。


「・・・・・・・よかろう」


「本当ですか!?」


チアキの顔が輝いた。


それと同時に先程まで目に宿っていた不思議な色も消えた。


「しかし条件がある」


そんなチアキの表情を知ってか知らずか火影は付け足した。


「条件?」




「忍者になれ」


火影の唇が薄く捲れてその顔に笑みが浮かんだ。





「・・・・・・・は?」


少しの静寂の後、チアキは間の抜けた声を出した。


「我々の世界には里を守る忍者が居る」


今度は火影が説明する番だ。


「忍者とは?」


「忍術等を使うもの達のことじゃ」


「・・・・・・・・忍術?」


「忍術とは自分の体内にある力を使う技のことじゃ」


火影が幾分省いた説明をする。


「私はそんなこと出来ないと思いますが・・・・・」


チアキは苦笑しながら言う。


しかし火影はそれに構うことなく言葉の調子を崩さない。


「それはわかっておる。しかしじゃ、体術の経験はあるじゃろう?」


「・・・・・・・・経験と言うほどのものではないですが・・・」


「それからその錬金術と呼ばれるものもある。それなら下忍程度なら大丈夫じゃろう」


「下忍?」


「一番位の低い忍者じゃ」


「・・・・・どうしてもと?」


チアキが火影を伺う。


「ここに住みたいのならな」


「判りました。要は里を守るのでしょう?やります」


ぐいっと前を見て笑みを作る。


そして一つ付け足すように言った。


「でも、どうして私の力をそこまで信用するのですか?火影様は錬金術を見た事が無いのでしょう?」


火影はその言葉に一度目線を落として。


そのまま答えた。


「信じてみたくなったからだよ。それじゃあ不満か?」


「いいえ。光栄ですわ」


チアキは口角を少し上げてわざとらしい笑みを作った。


其れに火影も負けじと笑みを浮かべる。



それから少しの沈黙が辺りを包んだ。


しかし其れは部屋に充満することなく火影の声で破られる。


「では問う」


火影は先程までの何かを試すような視線から真剣な眼差しに変わる。


「忍者は時に人を殺す。その覚悟があるのか?」


その言葉にチアキも目つきを険しくする。


「・・・・・・私をなめないで下さい」


「うん?」


「私は最年少で軍の狗になりました」


「軍の狗?」


「軍――国のために戦うものです。忍者のように。軍の命令で人を殺します。戦争に参加します。12歳の時にその世界に入りました。色々経験したつもりです。私を只のあまり甘っちょろい餓鬼と思うと痛い目に遭いますよ?」


チアキは最後で少し笑った。


自嘲――とは少し違う。


もっと純粋で


でも悲しそうな笑み。



火影はそれを見てふっと笑う。






「・・・・・いいじゃろう。この三代目火影の名を持ってお前を忍者に推薦する」




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