◆秋の花火◆
楽しみにしていたのに、本当に今日は楽しみにしていたのに。
何気ないことで最低な気持ちになった。
涙がぽろぽろぽろぽろ、後から後からぽろぽろぽろぽろ。
泣くな泣くな、ギュッと閉じるとじんわーりじんわり。
そしてまたぽろぽろぽろぽろ。
黙って家を飛び出した。
何も持たず、両手をポケットの中に突っ込んで。
外では季節外れの秋の花火大会。
夜空に花火の大輪が咲き乱れ、道沿いには、
人、人、人。車、車、車。
ひたすらに歩いた。花火を背にして、上を向く人を横目で見て
背筋を伸ばし、顎を引き、じっと前を見据えて。
どこかに行きたかったわけでもなく
何かをしたかったわけでもなく、ただひたすらに。
背に花火の音が響いた。激しいが虚ろに。
虚ろの中に哀しさを秘めているかのように、
季節外れの花火は響いた。
誰もいない路地を見つけて歩いた。
前面の家の窓に、お寺の御影石の石柱に、
後ろの花火が響いて映る。影の花火だ。
影の花火、それしか目にしたくない。
気がつくと誰もいないぽっかりと空いた空間に。
花火でけぶった、ダークグレーの空のスクリーンがあった。
そこで初めて正面から花火を見つめた。
手はポケットに、でも直立不動で。
長いような短いような、刹那の時を過ごした。
はじめて、そのときはじめて口の片端が軽く上がった。