7 最終回 アミーゴ


ロスでの友人との待ち合わせを明日に控えていたその日、俺はメキシコ、マヤ文明の象徴、ピラミッド ティオティワカンに向けて出発した。
メキシコシティ中心部のバスセンターからバスに乗り、約1時間でその巨大な物体が見えてくる。
今だに馬車が走っている、そんな郊外にデンとそびえたっているのである。
道中あるバス停で、2人組の若いギターひきがこのバスへと乗って来た。ガサガサとなにやら準備すると、いきなり歌いはじめた。「♪ ▲★●■☆…」何を歌っているのかさっぱり分からなかったが、そのメロディがメチャクチャ胸に突き刺さってくる。
「な、泣けるじゃねーか!バカヤロー!」
メキシコ版長渕、尾崎の夢のタッグは完全に俺の心を刺激した。さんざん歌ったあげく、お約束的に空き缶を差し出しながら回って来た。
余計な金など持ち合わせのない俺は「うまいんだけどねぇ、なにかこぉ~もう一つ…」と握手だけして近江俊朗になりすますことにした。
ティオティワカンに到着。
間近に見る2つのピラミッドはやはりとてつもなくデカイ。
入り口からまず見えるのが太陽のピラミッド。そして、その奥にあるのが月のピラミッドである。階段状にできた両ピラミッドは“登山”中の観光客でいっぱいである。遠めで見ると角砂糖に群がるアリ状態だ。
さっそく太陽のピラミッドから登る事にした。登ってみるとなかなか急だ。
「よく建てたよなぁ」「俺って日本人で何番めに登ってるんだろう?」などと考えながら登っていると、突然一人のメキシコ人の少年が「カラテマン?」などと訳のわからない質問を俺にしてきた。「たしかに。私は修行の身。だからこそこのピラミッドを登ってるんです」とは答えなかったものの、これを機にジェスチャーを交えながら、できる範囲の会話をしながらいっしょに登った。人なつこい奴だった。少年は他の友達や学校の先生も紹介してくれた。遠足か、社会教育の一環で来ていたのだろう。
“下山”後、写真もいっしょに撮った。これで帰ってしまう少年達は、これから月のピラミッドに登る俺に、ガラスでできたピラミッド型アクセサリーの付いたネックレスをプレゼントしてくれた。
物乞いも多く、貧富の差が大きいこのメキシコでは、この子達は金持ちの部類なのだろう。思い起こせば、俺よりこぎれいな格好をしていたのだから。
「親は中南米の金持ちだろうか?」
少年「パパ、この人、ティオティワカンで会った日本の人」
少年父「はじめまして。おーい、母さん、そこの王冠取ってくれないか!この方へプレゼントだ」
俺はまたよくない期待と瞑想を頭に抱き、とりあえず住所交換なんぞして別れることにした。
俺が月のピラミッドを登ろうとすると遠くの方から「アディオス!アミーゴ」の大合唱。
旅の途中は感傷的になりやすいが、このときばかりは、本当に感動してしまった。ありがとう!アミーゴ、アミーガたち!
こうして俺は翌日ロスへと向かった。
ロスまでは、またまた借金でアエロ・メヒコ航空である。
機内でスチュワーデスならぬ、スチュワートが信じられぬことに俺にたばこを要求。「ちゃんと働けよ」とは思いながらも一本だけあげることに。
その後コイツは上司に見つかり、怒られていた様がかわいくもあった。
着陸。かなりの衝撃。「やってしまったか…」そう思うぐらいの過激な運転。と突然アナウンス。「ビューティフルランニング…」
「ウソだろー。普段どんな運転してんだよ」と突っ込みを入れたくなるおちょくりぶりよう。メキシコは最後まで不思議な国だった。
しかし、この不思議さが面白く、俺は1年後社会人になっていたにもかかわらず、1週間休みを取りまたこのメキシコへ向かう事になる。


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