放浪の達人ブログ

エアバッグ

【エアバッグ】

必要にかられて車を買った。車体価格が36万円というS社の軽自動車の中古である。
以前は地面を這うようなペタペタのスポーツカーに22年間乗って気に入っていたのだが、
今度はあえてダサいデザインの不人気軽自動車を買ったのである。
その不格好のデザインとは裏腹に実は軽最強レベルのエンジンを載せているのに惹かれたのだ。

さて、俺は18歳の時から約10年間、某自動車メーカーの車両検査官をやっていた経歴があり
中古車をチェックする際には修復痕や傷、へこみなんかの悪い個所を調べてしまうクセがある。
中古車屋の営業マンがこちらを見ていない隙に下を覗いてシャーシが曲がってないかだとか
ドアを塗り直してないかだとか「良い所ではなく悪い所」を調べてしまうのだ。
こんなことは相手が中古車だからいいものの友人や恋人に対してやったら大ヒンシュクであろう。

そうそう、今回買った車は軽のくせにパワステ、パワーウインドーはもちろんのこと、
ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)なんてものも標準装備されている。
おまけにエアバッグなんぞもついておる。(今の車じゃそれが当たり前か)
前に乗っていた1982年式のスポーツカーにはそんなものは何1つ装備されてなかったので、
俺にとってはそれらは邪道そのもの、何だか不要な物を押しつけられて買わされている気分になる。
軽にパワステなんか必要か?ABSなんてなくったってブレーキを何度も強く踏めばええんじゃ。

エアバッグで思い出した。俺が自動車メーカーで検査官をやってた時に車両移動係として
大学生の谷本(あ、実名書いちゃった)という奴がバイトで働いていた。
船降ろしされた新車を検査官がライトが点くかとかボディーにキズがないかとか検査した後に、
彼が合格車両を運転して指定の場所に停めに走らせるのである。
ある時、谷本が乗ったのは発表展示会という晴れ舞台に搬送予定の新型スポーツカー。
発表前の最新車に乗れるのはその職場の特権である。しかもすげえ性能のスポーツカーだ。
谷本はタイヤを滑らせて発進し、約10秒後に大音響を轟かせてくれたのである。
あまりのハイパワーエンジンを扱い切れず別棟の工場のシャッターに突っ込んでしまったのだった。

その後の彼の行動が良かった。なぜだか割れたウインカーレンズの破片を手に持ちながら
「サイトーさん、エアバッグ作動OKです!」と真っ先に検査官の俺に報告に来たのである。(笑)
谷本のその報告に俺は「うむ、ご苦労」とだけ返事をしたのだった。
その後、彼はどんな処分を受けるのかその時点では分からなかったのだが、
翌日も「サイトーさん、おはようございます!」と元気に仕事をしていたところを見ると
クビにはならなかったようだ。いや~、マツダ自動車、心が広い。(あ、企業名書いちゃった)


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