地中海





バスを乗ってしばらく行くと、停留所で、旅立つ若者の見送りの場面があった。20人くらいの男たち(男だけである)と次々に肩を抱きあい、両頬を交互にあわせる。若者の目からは涙が溢れ、バスに乗るときには、眼は真っ赤になっていた。徴兵なのだろうか。若者を乗せたバスは、またかなり揺れながら走り出した。次に別の見送りがあった。前回とほぼ同様のやりとり。バスが発車すると、若者達(今回は2人いた)は立ち上がって、いつまでも手をふっている。ちょっと感動させるものがある。しばらくすると、バスの中でポリエチレンみたいなものが燃える匂いがした。バスは一旦とまったが、すごい匂いである。私のすぐ横。換気のために窓が開けられて発車した。



今まで「寒かった」のが、「ものすごく寒い」、に変わる。



バスは進む。先ほど感動的な別れをした若者2人は最後尾の席に移動して、タバコを吸い始めた。とんでもないほどのチェーンスモーカーである。もう別れのことは忘れたらしい。さばさばした顔をして冗談をいいあっている。

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やっと、メルシンに着いた。暖かい。セーターを脱いだ。昼間だったら上着1枚で充分かもしれない。ここからキプロス島に向かう。ところがキプロス行きの船は月、水、金の夜出発で、きょうは木曜日。一日待たねばならないらしい。やれやれ、と思ってインフォメーションに行くと、近くの(バスで1時間くらい?)タシュジュというところから今日、船が出るらしい。出発は23時過ぎ。まだ間に合うというので、すぐ旅行社に行って、タシュジュ行きのバスとセットで船のチケットを予約する。往復で2500円程だったか。



それまで、地中海沿いの公園でのんびりする。屋台も出ている。なにより、「暖かい」。向こうの広場ではサッカーで遊んでいる子供達の姿がある。夜6時にバス停に向かった。



ところが、ここからタシュジュに行く間に天気が怪しくなってきた。


もの凄い雨が降り出し、雷もなっている。

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バスから降り、イミグレーションみたいなところを通ったが、わかりにくかった。バスに乗るとき一緒だったトルコ人のおじさん(口ひげを生やして、ロシア人の帽子みたいのをかぶっていた)が、親切に、俺についてこい、といってくれた。英語はしゃべれないらしいが、身振りでわかる。長い一列になってイミグレーションを通り、やっと船に乗り込めた。ここでもさっきのおじさんが席を確保してくれた。船は満員で明日の朝、キプロスに着くことになる。出航まではまだ時間がある。おじさんは、兵役に行く2人連れの兵士を通訳にして、いろいろ教えてくれた。船内は薄暗い。席も埋まって来たので、じっと待っていた。天気はさらに悪くなりつつある。



出航して、船の揺れが大きいことがわかった。遠くで誰かが吐く音が聞こえる。おそらく、半分ほどの人は吐いていたのではないか。揺れと寒さでなかなか眠れない。半端じゃなく寒かった。全ての着れるものを体に巻きつけるが、効果はあまりない。寝袋を持ってこなかったことが悔やまれる。船内には騒音も聞こえ出した。トーッ・トッ・トッ・トッ、トーッ・トッ・トッ・トッというキシミ音だろうか、一晩中聞こえていた。



寒さと揺れと不気味な音。夜中に夢を見た。この船が揺れでひっくりかえるかどうか、ギリシャ神話の神様が賭けで楽しんでいる夢。大きな揺れが来るたびに、「アッ、ソーレ!」という掛け声がかかり、セーフだと、「フ~ッ」と安堵の声が聞こえる。周りでみんながそれを楽しんでいる、そんな夢。私にとっては「悪夢」・・・

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