カルビ家の日常

カルビ家の日常

その3



2日目のディナーは、パトン地区にある“バーンリンパ”というタイ料理のレストラン。
よくガイドブックにも載っている店だが、田中さんがオススメしてくれたので決めた。
彼は私達のために、予約まで入れておいてくれるという親切ぶりだった。


パトン地区で緑の軽トラに別れを告げ、一行は街歩きを楽しみながらレストランへと向かった。

パトン地区は賑やかだ。
観光客向けの店が軒を連ね、老若男女さまざまな人種の観光客が歩いている。
海岸沿いの賑やかなタウィーウォン通りを北へ向かって歩くと、バーンリンパが建っている。


従業員の案内で、席へ着く。
店内は客でいっぱいだが、私達のためにシービューの特等席が空けてあった。

このレストランは岩場に建っている。
下を見るとすぐ海で、ザブンザブンと激しい波が打ち寄せていた。

「なんか、“東映”って感じだね」
と、マールが言った。

バーンリンパからの眺め“東映”って感じの眺め。


私には、この店に来たら絶対に食べようと思っていたメニューがあった。

それは、エビに細麺をグルグル巻き付けて揚げてある。
エビフライの衣が細麺になっているような感じだ。
その写真を見たとき、私はそれに心を奪われた。

念願のそれがテーブルに運ばれてきた。
想像よりは若干小ぶりだったものの、姿形は確かにそれだった。

食感は…エビフライの衣が、バリ焼きそばの麺になっているといえば的確な表現になるだろう。(そのまんま)

“さちが旅行前から楽しみにしていたメニューだから。”
ということで、私だけ特別に2つ食べてよいとの許可が出た。
みんなの優しさに感謝し、見守られながら2つ目を口に運んだ。
私は、満たされた。


さて、食事の後はサイモンキャバレーを予定していた。
いわゆる、タイ名物“オカマショウ”である。

田中旅行店のガイドが
バーンリンパ → サイモンキャバレー → ホテル
と、連れて行ってくれる手はずになっていた。
今度は日本人のガイドだと聞いていたので、田中さんの部下なら、きっとイケメンなんだろうなぁ…と少し期待した。
ほんの少し。


* * * * * * * *

停電でレジがストップしたらしく、予定より遅れて店を出る。

「あ、さちさんですか?」
背の高い男性に声を掛けられた。


「はい…」
と答えると、
その男性は爽やかに微笑んで、自分は田中旅行店の者だと言った。

彼は、田中旅行店のチラシを見せながら
「僕は佐々木といいます。
 今からサイモンキャバレーですよね?さぁ、乗って下さい!」
と、私達をワンボックスカーに誘導した。


後ろでマールの呟きが聞こえた。

「ププ…朝青龍みたい…」


* * * * * * * *


ヨロヨロと車に乗り込むと、すぐに車は発進した。

巨漢のガイド、朝青龍(佐々木氏)から今日の行程の説明があった。
が、聞く気にもなれなかった。

車中では、みんな無口だった。

そんな中、朝青龍が申し訳なさそうに言った。

「あの、申し訳ないんですが…
 サイモンキャバレーの後に一旦オフィスに戻って、車を乗り換えなくてはならなくなってしまって。」

朝青龍の話では、
サイモンキャバレーの後、ここからそう遠くない田中旅行店の事務所へ寄り、車を乗り換えてホテルへ向かうとのことだった。


(田中さんに会える!)


マールやTちゃん、M子ちゃんは
「ふーん…」
といった反応であったが、
私は急にムクムクと気力が漲ってきたように感じた。


そこからは、朝青龍にも色々と言葉をかけ、車中を盛り上げようと頑張った。

* * * * * * *


「私はここで待っていますから、どうぞ楽しんできてください」

朝青龍のツルリンとした笑顔に送り出され、サイモンキャバレーへと足を踏み入れる一行。

渡されたチケットは、VIP席の最前列、ど真ん中。
これも田中旅行店で用意してもらった。

「いやー、いい席が取れて良かったですね」

汗を拭き拭き微笑む朝青龍を思い出し、心から感謝した。
外見で判断して、ごめんね。
反省したりもした。


サイモンキャバレーは、想像したよりも立派なシアターだった。
内部は日本の映画館のようで、とにかく儲かっていそうだった。


ショウの開演を告げるチャイムが鳴り、場内の照明が落ちる。

数秒後、私は声も出ないぐらいの衝撃を受けた。


オカマショウ


美しい「女性」たちが、目の前でしなやかに舞っている。

本当に男性なの??
女性の私が見とれる程の美しさ。


私達一行は、キーキーと奇声を発しながら終始ノリノリであった。
途中にはコミカルな場面もあり、本当に楽しいショウだった。


ショウが終わると、出演者全員が外に並び記念撮影ができる。
キレイな娘の周りには、わんさか人が集まっていた。
みんな、お目当ての娘と一緒に写真を撮りたいのだ。

私達もそれぞれ目を付けていた娘と写真を撮るうちに、我を忘れ、踊り子に群がるオヤジ達と化していた。


興奮冷めやらぬ一行は、名残惜しげにサイモンキャバレーを後にする。


* * * * * * *

さぁ、田中さんが待っている!!
日本に置き去りにした愛する夫を忘れ、私は内心ウキウキだった。

田中さんは、サーフィンが上手かったりするのかしら。
ワイルドな感じなのかなぁ。
でも、真木蔵人系は苦手だなぁ。

なんてことを1人で真剣に考えていた。

朝青龍は自分の経歴を喋っていた。
ここプーケットでは、言葉が喋れなくてもタイ語で数字が言えればOKだとか言っていたような気がする。
あまり覚えていない。


朝青龍号は繁華街にある大型ホテル前で止まった。

朝青龍「会社ここなんスけど、少し寄っていきます?」

もちろんだとも!!


田中旅行店では、夜だというのにタイ人の従業員が数名働いていた。
客がインターネットを使えるようにパソコンが数台おいてあり、思ったよりきちんとした会社構えだった。

客用のソファーに座り、少しだれていると、事務所の奥から男性の声が聞こえた。

(田中さんだ!!)

奥から誰か出てきた!

「あ~、皆さんお疲れ様でした。」

落ち着け、さち!

「えぇと、さちさんは…
 あぁ、あなたがさちさんですか。始めまして。」


私の目の前には、
芸能人でいうと、そう。

“竹野内豊”似の男性が笑顔で立って



* * * * * * * *

帰りの車中。
田中旅行店からホテルまでは、タイ人の運転手だった。

旅の疲れか、
今にも眠りに落ちそうな私の耳に入ってきた会話。


「なんかさ、田中さんって、キャイ~ンの天野に似てなかった?」

「あ~分かるぅぅ!!」



2日目、完。




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