彩工房 彩花

彩工房 彩花

  *


美しきものとの出会い


仏像とか 庭とか 茶室とか

そうしたものとの出会いは 人間との出会いに似ている

気に入ったり 感心したりすると

それらとのつきあいは 一生に及んでしまう

相手が人間であると

途中で嫌いになったり 仲違いしたりすることもあるが

仏像や建物の場合は

まあ そうしたことはなさそうだ

一生惚れこむと 一生惚れこんでしまう

惚れこみかたが

感動という純度の高い形をとり

多かれ少なかれ 魂を相手に

売り渡してしまうところが あるからであろう 





龍安寺の石庭


むかし

白い砂の上に 十四個の石を運び

きびしい布告を考えた人間があった

老人か 若い庭師か

その人の生活も 人となりも知らない

だが 草を 木を 苔を否定し

冷たい石のおもてばかり見つめて立った

ああ その落莫たる精神

ここ龍安寺の庭を美しいとは

そも誰が言い始めたのであろう

ひとはいつもここに来て

ただ自己の苦悩のあまりにも小さきを思わされ

慰められ 暖められ

そして美しいと錯覚して帰るだけだ


井上 靖


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: