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勝手に最遊記Ⅱ
Separation―7
未だ、汗が額に浮かんではいるが―――――――――体の自由は奪われたままのようだ。
「てめっ・・・!」ギリギリと。音が聞こえてきそうな程、歯を喰いしばる悟浄。
確かに、桃花の体に乗り移っているのなら・・・分が悪い。
桃花が自分達に銃弾を撃ち込んでも、自分達が攻撃を仕掛けることなど・・・出来やしないのだから。
くっくっくっ・・・唐突に。マルボロを吸いながら笑い出す三蔵。
「三蔵?」桃花に乗り移った女はおろか、悟空達も戸惑いの色を隠せない。あまりにも場違いで。
苛立ちながら、「何、笑ってんのよっ!?自分の愛銃で殺されるって言うのにっ!」がなり立てた女に、
「・・・貴様もつくづく馬鹿だな。」ニヤリと、マルボロを投げ捨てた三蔵。
「その“バカ女”が、俺達を撃つと思うか?」口角をつり上げたまま、「その女は絶対、俺達を裏切らねぇ。命に代えてもな。」
その三蔵の言葉に反応するように――――――――「やっ・・・何っ!?」桃花が・・女が、顔色を変えた。
『そんなに欲しけりゃ、くれてやるわ。』精神世界から、響いてきた桃花の声。
・・・・・・・・・ガラガラと。崩れ落ちていく、心の壁。
抵抗を止めた桃花の心に、女が触手を伸ばす。いや、深層意識に辿り着く前に――――『っっ!?』
雪崩れ込む、桃花の過去。凄まじい勢いで女の精神を浸食していく。
「やっ・・嫌ああぁっ!!何・・コレ、何なのよぉ!?」叫び声を上げ、「こっこんなの嫌っ!!こんな体っ・・!」
身悶えする女の腕が――――「はっ・・!」自分に。桃花自身のこめかみに、あてられた。
「・・ひいぃっ!!」まるで一人芝居のように左手が右手首を掴み、こめかみから必死に銃口を外そうとする女。
顔面蒼白で目尻から涙が滲み、その場でクルクルと舞を舞うように暴れている。
「桃花っ・・!」八戒や悟浄が飛び出そうとするが、暴れている桃花には容易に近付けない。
「観自在菩薩・・・・皆空度一切・・・・般若心経・・・」そっと真言を唱える三蔵に、悟空が気づいた。
『三蔵?魔界天浄を使うつもりなのか?でも、今のままじゃ・・・。』
そう、桃花の体に女が乗り移っている以上―――――魂が完全に同化していないとは言え、魔界天浄を使えば・・
『桃花の魂ごと、消えちまう・・・。』
背中を向けていた桃花が、「くぅ・・っ・・嫌ああっ!!」ガクガクと震えながら、指が。
引き金を、引き絞るのが見えた。
【ガアァ―――――ッッン】
銃声が、響き
同時に、バサアッと 黒髪が靡(なび)くのが・・・まるでスローモーションのように・・・「桃花あぁっ!」
悟空が叫んだ。
――――――シュワッ・・・倒れていく桃花の体から、不穏な気配が出ていくのを・・「逃がす訳、無ぇだろうが。」
小声で三蔵が呟き、
「――――――――・・・魔界天浄っ!!」ズワアァッ・・・魔天経文が三蔵から放たれ、気配を包み込んだ。
「ギイィエエエェェッッ!!」おぞましい、悲鳴。
魔天経文に巻き付かれた“女”の姿が浮かび上がる。
漆黒のような黒い影。僅かに紫色に縁取られた女の顔―――――「・・あっ・・アンタ達っ・・!」
その姿に向けて、「ウゼェ・・・んだよっ!!」――シュパアアァンッ・・錫杖が弧を描き、影を切り裂く。
シュウシュウ・・・・・霧散していく、影。
残ったのは。 耳が痛いほどの静寂と、倒れたままの桃花。
「もっ・・・桃花・・・・・。」八戒が、ガックリと膝をつく。
悟浄も、悟空も。 その場から動けない。
シュボッ――――新しいマルボロを取り出した三蔵が、火をつけた。
そして徐(おもむろ)に歩き出し、桃花の元へ歩み寄る。
「・・おい。いつまでも寝てんじゃねぇよ。」【ゲシッ】と、桃花の脇腹へ蹴りを入れた。
「っつ・・酷ぇボ~ズ。」むくっと桃花が上半身を起こした。
「「桃花っ!!?」」悟空と悟浄が同時に叫んだ。八戒は固まったままである。
唖然としている三人に、「この女が簡単に死ぬと思うか?・・・銃には弾が入って無かったんだよ。」
「・・・弾が?そっか・・入って無かったんだ。」その言葉に。三蔵が「・・!てめっ・・知らなかったのか!!」
鬼のような形相を浮かべ、【スッパアァ――――ッン】ハリセンを喰らわせた。
「いいいい痛いっ!痛いよ~三蔵っ!!」「ケッ!後先考えずに行動しやがって!」キッと睨み付けたが、
「おい、八戒!いつまでも呆けてねぇで治癒してやれ!」固まったままの八戒に向けて怒鳴った。
空砲とはいえ―――――――至近距離からの発砲で、桃花のこめかみに火傷が出来ているのだ。
慌てて走り寄ってくる八戒や悟浄達を見ながら、
「・・・三蔵。 ありがとね。」笑顔で自分を見上げる桃花に、「何に礼を言ってんだか。バカか、てめぇは。」
相変わらずな三蔵。
・・・・・・・・・・・・・『絶対、俺達を裏切らねぇ。』その言葉が。
桃花に勇気と、力と。
そして
別れる決断をさせた事を――――――――――――――誰も、気付かなかった。
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