☆リキ☆



長い旅だった
大きな旅だったなあ

世話かけたなあ、かあちゃんには(/_;)
ありがとう、かあちゃん、ととさん

モモが死んだときは、まさか自分が最後はこんな身体になるんだなんて思ってなかった
だから、モモが
「リキ、あなたがママを守るのよ」
って言ったとき、自信満々で
「おお、まかせとけ!」
なんて偉そうなこと言ったっけ

だけど、その後のおいらはかあちゃんを守るどころか、毎日毎日朝昼晩かあちゃんに甘えっぱなしだったなあ
ごめんよ、かあちゃんm(_ _)m

いつの間にか、立てなくなり、耳は聞こえなくなり、目は見えなくなって、シーもウンもかあちゃんの助けがなければ何も出来なくなった

ここ数日は、だんだん力が抜けてきて
…ああ、とうとうモモの所へいくんだな
って分かった

きっとかあちゃんも最期の時が近付いていることは分かっていたんだと思う
クリスマスにはサンタの格好させて、お正月用にはウシの着ぐるみ着せて写真を撮ってくれた

そう、今度のお正月にはウシになった僕の最後の写真入りの年賀状がみんなの所に届くんだ
ありがとう、かあちゃん、これで新しい年もみんなに僕のことを思い出してもらえるね

そう思っていると何だか自分の身体がふわっと軽くなるのが分かった
「リキ…」
かあちゃんは、そうひとこと言って僕の首の後ろから背中をゆっくり撫でながら耳の辺りに顔をすりつけてくれた
「リキ、よく頑張ったね。お疲れさんだったね…」
…かあちゃん…
「もう苦しまなくてもいいんだよ、リキ…」
…うん、…うん、そうだね…とうとうお別れが来たんだね…

かあちゃんとととさんに撫でてもらいながら、おいらは今までのことを思い出していた



もう2年近く前になる
おいら歳喰ってボケボケになってきて、今から思えば自分が何しているかよく分かってなかったんだなあ

歳喰ってるだけならまだ良かったのに、おいら「石」喰っちゃったんだよ
喰ったこと?そんなの憶えてないよぉ

「なんですって?大きな石が胃の中に?腸の中は小石だらけぇ?」
先生の話を聞いたかあちゃんの大きな声
「腸の中の医師は肛門から掻き出せます。胃の中は手術で取るしか方法がありません」

その時は何にも分からなかったけど、今は撫でてもらっているかあちゃんの手を通じてその時のかあちゃんの気持ちが伝わってくる
(もし、リキの体力が持たなくて手術の途中で死んでしまったとしても、何もしないで苦しむのを見ているわけには行かない。リキ、何とか頑張って戻ってきて!)

僕は麻酔で眠らされ、手術が始まった
「リキ!リキ!起きて!」
目を覚ますと、おいらの目の前には何と懐かしいモモが笑っていた

「モモじゃないか?お前がそこにいるってことはおいらは死んでしまったのかい?」
「ううん、そうじゃないの。あなたは今、かくかくしかじかなの…」

「何だって?おいらがボケて石ころ食べて死にかかって、今お腹を開いて取りだしてるんだって?」
「それだけじゃないの。あなたの頭は歳のせいでぼけ始めている、それに身体もあちこち具合の悪いところが出てきていて、二度と昔のように戻ることはないの」

モモの話では、手術がうまくいっても、これからは身体が動かなくなり、ママのお世話がなければ食べることも寝ることも、ウンすることも出来なくなるし、そんなに長くは生きられないということだった。
そして、ここでおいらには2つの選択肢があると言われた。

一つは、このままモモと一緒に虹の橋を渡り、つまり死んでしまってのんびり暮らすこと
もう一つは、もう一度かあちゃんの所に戻り、世話をかけながら動かない不自由な身体で苦しみながら数年生きること…

「さあ!リキのご注文はどっち!?」
「お前、よくもそんなに楽しそうに言えるなあ」
「だってこんな深刻な問題、軽く言わないと怖いでしょ?」
「…」

モモはそばにあるスクリーンを指差して
「あそこにママが映っているでしょ(^^)ママに触ってご覧なさいよ」

おいらはスクリーンの中のかあちゃんに触ってみた
すると、かあちゃんの気持ちが心の中に伝わってきた

(リキ、どうかもう一度戻ってきて!モモの時みたいに突然行かないで!あなたが帰って来るならこのヒロママ何だってするわ!)

「モモ、お前はどう思う?」
「私?私はね。十分ママに可愛がってもらったからこっちに来たことは満足しているの。でもね。ママにさよならを言わないで来たことはちょっと申し訳なかったかなと反省してるのよ」

「おいら、もう一度かあちゃんの所へ戻る。苦しくてももう一度頑張ってくる」
「やっぱりリキはそう言うと思ってたわ。さすがは私のダーリンね CHU!!!」

そしておいらはもう一度リキの身体に戻り、今日までかあちゃんに大事に大事にしてもらって生きてきたんだ

それから今まで、色んなことがあった
かあちゃんには、寝不足にさせてごめんよぅ


「リキ、よく頑張ったね。お疲れさんだったね…」
…かあちゃん…
「もう苦しまなくてもいいんだよ、リキ…」

おいらは、おそるおそる立ち上がって見た
立てた!!

歩いてみた
楽に歩ける…走ってみる 走れる走れる(^^)/

と、後ろを振り返るとかあちゃんとととさんが、今さっきまでおいらだった身体を撫でてくれていた

そうなんだ…おいら、死んだんだ
かあちゃん、ととさん、おいらもうその身体には戻れないんだね

ありがとう、これからモモの所へ行くね

おいらは家の芝生の庭に出てみた
するとそこには、数え切れないくらいの星が降りてきていて、そこから空に向かって夜中だというのに大きな七色のアーチがかかっていた
おいらは知ってる

モモもこの虹の橋を渡ったんだ
僕は橋を上り始めた

無数に見える家の光、その中でおいらが育った家だけが他のどの家よりもきれいで、他のどの家よりも温かく、他のどの家よりも明るく光っている

おいらは走った
走りに走った
途中で止まると、二度とこの橋を渡ることは出来ないと感じたから…


アッという間に橋を渡りきった

「モモ!!」
「リキ、まだだよ。先に光さんの所へ行ってこなくっちゃ」

…リキ、リキ!お帰りなさい(*^_^*)
「光さん」
…満足のいく人生でしたか?
「はい光さん、…んぐっ、ううっぐぉっ(T_T)」

今までこらえていた涙があふれて来た
「おいら…おいらかあちゃんに……。ととさんに…ううっっ」

…あなたは、手術をしたとき自分で選べば、あの時にこちらへ来ることが出来ました
でもあなたは、モモの気持ちとかあさんの気持ちに応えて苦しみが待っていることを分かっていながら元の世界に戻り、精一杯生きました
…立派でしたよ
「……(T_T)」

…後はこちらでモモやあなたの子どもたち、先にこちらへ来た仲間と幸せに暮らしなさい

光さんは、そういうと大きな扉を開けました
するとそこには、モモが白無垢姿で立っていました

「さあ、三三九度の杯やで~っ(^^)」
あっ、あれは噂に聞いたことがある飲んべえのめいちゃん

めいちゃんの持ってきた杯は、なんと土鍋のフタ
「はい、リキ君はフタの穴を指でふさいでおくれやすぅ」
めいちゃんは僕に有無を言わせず、土鍋のフタの杯にお酒をなみなみと注いだ

モモは隣で普通の杯

「ほうら、早う一杯目、しっかり飲むんやでぇ~」
ええ~っ?これ飲むの?
ごくんごくん、うっん、うっん、ごっくん

プハー~っ
「ほなリキはん、2杯目行くえ~っ」
「もうダメ、勘弁して」

「何言うてはりますのん?お酒の一つしっかりよう飲まんような男はんは、誰もお嫁はん来てくれしませんえ」
「あのぅ、お嫁さんは隣にいるんですけど」

「四の五の言わんと早よう飲みよし!駆けつけ三杯っ!」
周りでは、みんな必死で笑いをかみ殺している

三杯飲み終えたおいらは、恥ずかしながらつぶれてしまいました

無事に結婚式が終わった僕は、お酒が回って動けません
カターン、カターンという大きな音が聞こえてきました
見ると、トロッコがこっちに近付いてきます
「お父さん!」
「ふぉー、ふぁる、はら、はふらとふぅひゃへえは?(おお、春、花、桜とふぅじゃねえか?)」

「リキ、寝てちゃダメじゃない。ママとととさんの所にお礼に行かないと…」
「ふぉふぉ(モモ)」

すると、黒パグのぷぅちゃんがやって来ておいらの耳を引っ張ってくれた
すると、プシューっていう音と共にお酒が抜けて、正気に戻った

おいらと家族はトロッコに乗った
トロッコは何もしないのにゆっくり滑り出し、僕らが過ごした家の真上に着いた

かあちゃんは、ブログにおいらのことを書き、仲間が書いてくれたコメントを読んでは涙ぐんでいる

かあちゃん、苦労かけたね
ごめんよ、ごめんよかあちゃん

かあちゃん、嫌な顔ひとつしないでいつもシーウンの世話に食事に話し相手
本当にありがとう

「ママ、あたしからもお礼を言わせてくださいね。リキを最期までお世話して下さって本当にありがとう。後はあたしが、責任持って幸せにするからまかせてね(^_-)」

かあちゃん、おいらがいなくなって、夜はしっかり眠れるね
身体大事にしてよね

ととさんと2人で、おいらとモモのように幸せに元気で暮らして下さい

長いこと、長いこと、本当にありがとう
みんなにどうかいつまでも幸せが続きますようにと祈ってます

ありがとう、ありがとう…、さようなら(^^)/~~~


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