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捕虜になった日本人部隊の中で竪琴を弾く水島がビルマの僧になってビルマに残るという童話。兵隊の視点の一人称でですます調の文体。捕虜になるまでの話、捕虜になった後に水島がいなくなる話、水島の手紙でビルマに残る理由が明かされるという構成。文章が単純なのは童話なのでそれでよいとして、あとがきによると作者はビルマにいったことがなく資料も乏しいままに書いたらしく、音楽で敵と和解したとか首狩族の土人につかまったとかいういかにもフィクションめいた筋書きでリアリティが減じられているのがよくない。音楽を異化の道具としてよく使っている点はよいものの、リアリティとの整合性がとれていない。物語の焦点は水島がなぜ日本兵と一緒に帰らずにビルマに残ることにしたかという点で、そこは手紙形式にしたことで他の部分よりも水島の心情がよく書けていたものの、なぜ骨を拾わないといけないのかという動機の追及が弱い。大岡昇平の小説に比べると、戦地に行っていない人間の理想を書いただけで兵士個々人の人間性が追求できていない。死体は出てくるものの、日本兵が直接敵を殺す場面がないのが不自然。水島も首狩族に一人も殺していないといって族長の娘との結婚を逃れたのは筋書きを優先しすぎたように見える。行ったこともない外国を題材にして書いた割にはよくやったほうだと思うものの、最終的には戦争を題材にしておきながら細部のリアリティがないことと、語り手が語り手の役割にとどまりいち兵士としての自省がないという点で全体的な物足りなさを感じる。語り手が淡々としていて絶望を書ききれていない。これは小説じゃなくて童話なのだからこれでいいのだ、と思えばそれまでの話なのだけれども。★★★☆☆【送料無料】ビルマの竪琴改版価格:420円(税込、送料別)
2012.02.20
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高原リンというきちがいじみた小説家が自伝的なフィクションを書く話。主人公の一人称で章ごとに過去にさかのぼっていく構造で、22歳ですでに結婚していて作家になっていて、18歳でDJと同棲、16歳でスロプーと同棲、15歳で妊娠中絶という内容。夫のシンのトランクの秘密というのも意味ありげに書いた割には伏線というわけでもなく、登場人物の掘り下げがないまま中途半端に放置されている。文章量は多いものの空疎な冗談が多くて中身がなく、きちがいじみた主人公の思考を追うのもめんどくさく、そのうえ下品。物語のプロットが面白くなく主人公に魅力もないので読むのがつらい。文体に関しては、ある言語でしか表現できない思想、ある文体でしか表現できない思想があり、それを表現するのが作家の技量である。しかしこの下品な文章でしか表現し得ない思想があるかというと、主人公の下品な感情は書いたものの、思想を書くまでには至っていない。主人公はその時々の散発的な感情を書き連ねるだけで内省に徹していない上に、主人公の思考も同時代同世代を見る視点の軸として機能していない。思想らしきものとして子宮至上主義みたいなものは散見するものの、それが物語に十分に関連付けらておらず、主人公は同棲している男につき合わされているだけでなんら自発的行動を起こしていない。ただ男性遍歴を書いただけで自伝的小説を書いたつもりになっているのはあまりに安直だろう。「私はきっと、自分自身で自分自身を変化させていく事ができるだろう」という最後の一文には、変化してないじゃん、付き合う男を変えただけじゃん、と突っ込みたくなる。これは「バクマン。」でいうところのシリアスな笑いを目指したギャグ小説なのか?構造に関しては、クンデラの『不滅』のようなフィクションが現実に干渉するような現代純文学的な仕掛けがあるのかと期待したがそうでもなく、なんのひねりもない。じゃあ金原ひとみをモデルにした高原リンが自伝的小説を書くというややこしい構造にすることに何の意図があったのかよくわからない。何かの意図があって実験して失敗するのは意義があるが、これではただ実験小説を装って私小説のリアリズムから逃げたという印象。章が進むごとに過去にさかのぼる構成にしても、エピソードがぶつ切りになっているうえに、幼少期と18歳から22歳の間も空白になっていて自伝的フィクションとしても不完全で、この構造はうまく機能していない。オートフィクションというタイトルと構造にどういう意図があったにせよ、この小説は失敗作である。★★★☆☆【送料無料】オートフィクション価格:1,365円(税込、送料別)
2012.02.05
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