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ギャンブラー、海兵隊、証券アナリストを経て先物デイトレーダーになって大金持ちになったマーティン・シュワルツの自伝。含み益を確定させるべし、自分の性格にあった手法を見つけるべし、取引ルールを守るべし、エゴを捨てて損切りすべし、最悪の事態を想定して計画をたてるべし、などの教訓は他の株の本でも見れるので特に目新しさはないものの、それだけどのトレーダーにとっても重要事項なのだろう。シュワルツの実体験の失敗から学んだこととして書かれているので説得力がある。ギャンブルや海兵隊での経験を総動員して、失敗を重ねつつ相場に挑むあたりが泥臭くてよい。お金を失っても自分自身という財産を失うことはない、自分のための仕事をするべきと言った奥さんがいたのも成功の鍵だろう。この伝記からは投資家の孤独だの苦悩だのという暗さがなく、莫大な損を出した失敗を笑えるドジ話みたいに書くあたりが物語として読みやすい。この本で面白いのはNYSEとCMEの売買方式の違いとか、1980年代の立会い取引の様子が書かれている点。NYSEではブローカーに口頭で注文するのに対して、CMEでは手信号を使って売買していたという。CMEではブローカーが客の注文を食って仲間内で利益を上げたり、仲間が損しそうになると取引をなかったことにするのがまかり通っていたらしい。シュワルツはニューヨークで取引されてなかった先物の売買のためにシカゴで取引を始めたらしいけど、シカゴのアンフェアなやり方に対してはかなり愚痴っている。今でもアメリカは暴落したらHFTのせいにして取引を全部取り消ししたりするけど、偉い人が損しそうになると取引をなかったことにするのは昨日今日始まったことじゃないのだった。1980年代に株取引がどの程度近代化していたのかというと、取引所の株価表示に電光掲示板が使われていて、ティッカーテープは70年代ころにはもう使われなくなっていたらしい。シュワルツはメトリプレックスという情報端末やページャーで株価データを表示して、モニタにはチャートが表示され、巨大な箱型携帯電話も当時の新製品でさっそく使っていた。当時すでにプログラム売買もあったらしい。注文に電話を使う以外は現代のデイトレードに近い生活ができていたようだ。そのほかにはサザビーズでの絵画オークションの様子や、1987年のブラックマンデーの様子や、自身のファンドを立ち上げけど病気になってやめた苦労話が書いてあるけれども、ジェシー・リバモアとかに比べて波乱万丈の人生というわけでもなく、中盤以降は同じ調子で成功譚が続いてだれる。投資家の自伝に書いてあることは似たり寄ったりで、買った売った儲けた損したの話が中心で、投資に興味がない人には面白くないだろう。投資に興味がある人にとっても時代遅れな話なので面白くないかもしれない。80年代のアメリカの証券業界を知りたい人には面白いかもしれない。★★★☆☆【送料無料】ピット・ブル [ マ-ティン・シュワルツ ]価格:1,890円(税込、送料込)
2013.08.20
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イギリスのフィデリティのカリスマファンドマネージャーのアンソニー・ボルトンの人物像と彼が運用するスペシャル・シチュエーション・ファンドについて書いた本。スペシャル・シチュエーション・ファンドというのはバリュー投資と似ていて、本来の価値より安い株を買って、適正株価になったら売るという手法のファンドで、銘柄選別が一番重要になる。そんでボルトンは様々な情報からアイデアを出して、テクニカルを駆使しつつ銘柄を選別して、本来の価値より安いまま見過ごされている銘柄を見抜く才能があり、なおかつファンド全体を危機に晒さないようにセクターごとの保有率を上回らないように買っていてリスク管理もうまくできているのだという。ボルトンの教訓のまとめ。・事業分野とその質を理解する。キャッシュフローを継続的に生み出して、他者より優位なビジネスモデルがある事業が理想。・ビジネスを動かす変動要因を理解する。企業の業績に影響を与える要素の中でも企業自体がコントロールできない為替レート、金利、税制変更を見極める。理想的なビジネスはほとんど自身でコントロールできるビジネス。・複雑なビジネスよりは単純なビジネスを好む。ビジネスが複雑だと持続性のある事業分野かどうかの判断が難しい。・経営陣から直接話を聞く。プラスとマイナスを率直に言うバランスのとれた意見を重視。すばらしい経営陣が月並みな業績を収めるよりも平均的な経営陣が良好な成績を収めるのが好み。・「危険を伴う」経営者は絶対避ける。不誠実な経営陣や法律や道徳違反すれすれのことをする企業には近づかない。やつらは投資家もだます。・群集の二手先を考え、試してみる。今は無視されているものの将来人の興味を引く可能性があるような銘柄を探し出す。・賃借対照表上のリスクを理解する。ほとんどのアナリストは賃借対象表上のリスクの評価ができていない。・アイディアを広範に求める。よく知られている情報源が一番良いとは限らない。情報が多いほど勝者を見つけるチャンスが増える。・企業内部者の公開取引情報に注目する。購入は売却より役立つ情報。・定期的に投資テーマを再確認する。新しい情報が入ったら再確認して、状況が変わったら見方を変える。・株式の購入価格を忘れる。購入価格には意味がなく、感情的に重要なだけ。・過去の運用成績の要因分析は時間の無駄。要因分析は将来のことは教えてくれない。・絶対バリュエーションに注意を払う。銘柄同士を比較する相対バリュエーションばかりに気をとられると道を見失う。・マーケット・タイミング戦略とマクロ情報だけによる投資を避ける。自分に競争優位性があると信じている分野で投資する。・逆張り投資家になる。投資に違和感がないと感じるときはもう機会を逃しているかもしれない。始終ボルトン上げでファンドの宣伝みたいになっていて、読み物としてはつまらない。ファンドマネージャーには参考になるかもしれないものの、個人投資家にはあまり参考にならないかもしれない。★★★☆☆【送料無料】カリスマ・ファンド・マネージャーの投資極意 [ アンソニー・ボルトン ]価格:1,785円(税込、送料込)
2013.08.20
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鍛冶屋で育った田舎者のピップが謎の人物の遺産を相続することになり、都会の紳士になって片思いの美女エステラと結婚したかったけど、失恋したうえに遺産を失って独身のまま平凡に暮らす話。一人称で、主人公ピップが自分の物語を回想する形式。翻訳が原文の冗談や皮肉の意味を拾いきれなくて本文中に()で説明するのは若干読みづらい。上巻:20歳年上の姉に虐待され、姉の夫の鍛冶屋のジョウに同情されて育てられている少年時代のピップが逃亡した囚人を助けてやったり、恋人に捨てられて狂った富豪の老女ミス・ハヴィサムの遊び相手に選ばれて、ミス・ハヴィサムが溺愛する養女のエステラにいじめられたり、姉が何者かに殴られたりする話。上巻感想:ピップが始終酷い目に合いっぱなしでいろいろ事件が起きるので、ピップに同情しつつ面白く読める。キャラ立ちしていて登場人物の特徴がわかりやすいのもよい。逃亡した囚人の素性とか、ミス・ハヴィサムがピップを屋敷に呼んだ理由とか、ピップの姉を襲撃した犯人とか、ピップに遺産をあげた人物とか、多くの謎が残されたままで好奇心をそそり、長編小説の冒頭部分としてはよい。ミステリーやサスペンス的な面白さがある。中巻:ピップが謎の人物の遺産を相続することになり、後見人の弁護士ジャガードの指示でロンドンの家庭教師ミスター・ポケットのバーナード旅館に住みながら紳士になるべく教育を受けつつ、ミスター・ポケットの息子のハーバードと浪費したり、エステラに恋したりしてリア充な20代を満喫していると、ピップのもとに少年の頃に助けた囚人プロヴィス(マグウィッチ)が現れて、ピップに遺産をあげた人物はミス・ハヴィサムではなくてプロヴィスだったということが判明する話。中巻感想:上巻でのピップの情けなさと比べて、青年になったピップは無駄遣いして遊んでるだけで、これのどこが紳士なんだというくらい嫌な奴になっていて、主人公がまったく魅力的でなくなっている。敏腕弁護士ジャガードやクソ野郎のベントリー・ドラムルといったキャラ立ちしている登場人物が物語を締めるものの、主人公自身に魅力がないのではどうしようもない。上巻で展開した囚人絡みのプロットやエステラとの恋愛はあまり発展せず、サスペンス要素が薄れて緊張感がなくなる一方で、登場人物が無駄に多くなり、誰かと晩餐をとっただの劇を見ただの下男の復讐小僧を雇っただのという面白くもない脱線気味のエピソードが続いて中だるみする。ジャガードが家政婦の腕をつかんで力自慢だと言うあたりとか、下巻でこういう些細なエピソードはプロットの下準備だとわかるものの、いかにもプロットですよという感じの仕込みで不自然で、物語から浮いている。下巻:プロヴィスが恨んでいる男がミス・ハヴィサムを振ったコンピスンだと判明する。ピップがハーバードと共にプロヴィスを国外に逃がす計画を立てていると、エステラがクソ野郎のベントリー・ドラムルと結婚して、ピップは失恋する。その後ピップの調査でエステラの母親がジャガードの家政婦の女で、父親がプロヴィスだということが判明し、ミス・ハヴィサムは男に復讐するようにエステラを育てたことを後悔して死ぬ。プロヴィスを国外逃亡させようとするとオーリックがピップに復讐しようとするもののハーバードに助けられ、その後コンピスンによって逃亡が邪魔されてプロヴィスは捕らえられ、負傷したプロヴィスはピップに娘のエステラが健在だと知らされて死を迎える。プロヴィスの遺産相続をしそこねたピップはジョウに負債を払ってもらったのち、エステラがだめならビディと結婚しようかと思ってたらビディはジョウと結婚してしまい、ピップはハーバードと順調に事業をこなして独身のまま三十代になり、ある日ドラムルに虐待されて落ちぶれてやさしくなったエステラと再会してずっと友達でいようということで終わり。下巻感想:上巻・中巻にちりばめられたプロットが下巻で一気に回収され、物語は急展開するもののプロットを優先したためリアリティを損なっている。リアリズム以前の作家なのでしょうがないとはいえ、やりすぎ。エステラの父親がプロヴィスだと判明するくだりは登場人物の中で全てのプロットの因果関係を説明しようとするご都合主義的展開なうえに、それがたいして物語の面白さにつながっておらず蛇足気味。とはいえ悪人であったはずのプロヴィスがピップへの恩返しに献身的だったり、男への復讐に燃えていたミス・ハヴィサムが自らの過ちに気づいてピップに許しを求めたり、ピップがジョウへの忘恩の許しを求めたり、冷淡なエステラがやさしさを取り戻したりして、金を捨てて人間的愛情を取り戻していくというディケンズ的ヒューマニズムが次々に展開していく勧善懲悪的な終わり方のカタルシスが演出してあって、読後感は悪くない。しかし落ちぶれたエステラを最後にもってきて友達エンドというあたりはいまいち。ピップとドラムルが何度か口論する場面があったものの、結局ピップはドラムルと決闘もしないでエステラに振られてあきらめたヘタレのまま物語が終わってしまった。遺産相続をめぐるサスペンスとしては面白いものの、恋愛小説としてはエピソードも心理描写も端折られていてつまらない。文庫本の裏表紙の宣伝によるとこれがディケンズの最高傑作らしいけれど、無駄なエピソードや伏線を削ってエステラとの恋愛を掘り下げていったらもっと面白くなりえたんじゃなかろうかと思う。例えばドラムルがコンピスンの子孫ということにして、コンピスン、ドラムル対ミス・ハヴィサム、プロヴィス、ピップという対決構図にして、親の敵と結婚したエステラを奪還してハッピーエンドのほうが面白かったかもしれない。★★★★☆【送料無料】大いなる遺産(上巻)65刷改版 [ チャ-ルズ・ディケンズ ]価格:620円(税込、送料込)
2013.08.15
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笑いと忘却をテーマにした短編が書かれていて、全体としては一つの小説になっている書。作者の視点で作者が登場人物について推測したり考察したりする文体。作者が登場人物の創造者として物事を断定せず、あたかも同時代の実在の人物について推測するかのように書くやり方は古典小説でよくあるひとつの定型なのでそれ自体は目新しくないものの、物語の中に自分のエッセイや哲学的考察まで盛り込んで、フィクションと実話の境目をつなげて物語世界の広がりに幅を持たせて、リアリティのある政治的な話からファンタジックな空想まで読者を連れまわすあたりはクンデラらしい独創があってよい。昔ブスに送った恥ずかしいラブレターを必死に取り返そうとする男の話、妻と愛人と3Pする男の家にぼけかけた母親が来る話など、生々しい恋愛の失敗談はクンデラらしい着眼点でリアリティがあってよい。男女の情熱が失望へと変わっていく心理、凡庸な魂の物悲しさがよく描けている。これは短篇集ではなくて全体としてひとつの小説とみなすのがクンデラの意図らしいけど、その意図がいまいちよくわからない。訳者のあとがきの解説を読むと、クビェトスラフ・フバチークによると語と事物の統一性が失われたことへのなげきであって偉大な芸術だけが語と物の統一性を回復しているのだとか、エヴァ・ル・グランによると夢、分析、物語、語源論や自伝などの様々な角度から特定の人間の諸状況を検討することにより総合的な瞑想として作動するエイドス的探求で、意味と無意味を隔てる境界の探求ともなるのだとか、そんなふうに解釈されているらしい。そういわれてみるとなるほどそうだ、そうに違いない、という気がする。これはエイドス的探求なのだ。しかしその探求の結果、笑いや忘却の境界はどこだったのか、いまいちよくわからない。この小説で取り上げられている3Pだの子供にレイプされるだのという諸状況が普段日本で目にすることがない特殊な状況なのに加えて(チェコでも3Pは普通でないのかもしれないが)、物事の不条理を意味する悪魔的笑いと、万事が整序されて賢明に構築されていることを喜ぶ天使的笑いに分析されても作中での登場人物の笑いがどっち側の笑いなのかよくわからない。たぶんキリスト教圏のヨーロッパと非キリスト教圏の日本とでは意味と無意味の境界も違っていて、それゆえに非キリスト教徒のいち日本人読者としてこの小説を読んでも自分の日常と乖離しすぎていてこの小説で提示された境界がよくわからなかったのかもしれない。政治色が強く、エロく、クセが強くて素直に楽しめない小説だけれど、技巧のユニークさは評価したい。「おっぱい!おっぱい!」という滑稽な叫びを2チャンネル以外で、よりにもよってクンデラの小説の中で目にするとは思わなかったので、その点は個人的に面白いと思った。★★★★☆
2013.08.15
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